こわれた樋口可南子とセラピー犬。
主婦と犬の物語といえば、篠田節子さんの小説『逃避行』が思い浮かぶ。自分>ペットの犬>人間の傑作だが、今回はペットの犬>自分の物語になりそう。
なにしろ樋口可南子さんは精神年齢12才くらいの幼い大人の役どころである。この壊れ加減が非常に素晴らしい。一歩間違えば、近所の子供を殺してしまうような危うい精神状態でありながら・・・もちろん、そういう描写はありません。あくまでキッドの妄想です・・・常識の殻が彼女をなんとか守っている。
この傷つきやすい大人、刺激的に言えばあまったれた成人女性が保健所で処理されそうになった捨て犬を拾うところから物語は始まる。
で、『土曜ドラマ・ディロン~運命の犬』(NHK総合060520PM9~)原案・井上こみち、脚本・寺田敏雄、演出・岡崎栄を見た。日常生活には支障はないが、深く心を病んでいる専業主婦の不安に満ちた精神世界を樋口可南子が繊細に演じている。これは素晴らしい。夫の何気ない一言。夫の母の存在そのものを恐怖と感じてしまう心の闇。痛々しい役どころを発狂ギリギリのところで踏みとどまり、狂気ではないようにみせて最後にやはりすこし狂ってるんだなあと完結させる第一夜である。っていうか、そう見なければ単にちょっと臆病な女性なんですが。
犬はゴールデンレトリバーである。人の心がわかる犬であるが、超能力犬ではない。だから、処分される檻の中で大人しくしている。まあ、つまり人に優しい犬なのである。動物に癒されるタイプの人にとっては人の心がわかる犬ということなのである。そういう犬が実在することについては動物の心がわかるキッドには特に不思議なことではない。
しかし、心の病んだ主人公にとってはまるで不思議の国から来た犬に感じられる。このあたりの主人公の独白的ナレーションはもしも樋口可南子さんでなかったら、かなりイタイ展開だったと思う。
主人公が自分の狂気に気がついていないように装いながら全開の異常行動を積み重ね、最後に破綻する第一回。甘えられることでエサがもらえるならディロン(オス4才・宮訓練所)もまあまあハッピーです。今後はこの犬が介助犬として成長していくらしい。
視聴率的には一桁の続く土曜ドラマの第4弾。『氷壁』はもうひとつだったが、『繫がれた明日』は傑作だったし、『マチベン』は江角を復活させた。今回、動物ものということで、スタッフが視聴率的に少しいやされたらいいなあと思うのである。
月曜日に見る予定のテレビ『美人マジシャン三姉妹お前ら魔女かよSP』(テレビ朝日)
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