貧乏人は早く死ねというのと同じこと。(老テーラー)
NHKスペシャルが時々お届けする格差社会シリーズ(ただしNHK職員と受信料徴収人の格差は除く)である。由緒正しいドキュメンタリーなので特定個人へのインタビューを中心に展開していく。結論は「今、まさに貧乏人はさらに貧乏になっています。貧乏人は死んだ方がましだと思います」である。さすがNHK救いようのないバカだな。もちろん、バカの言うことだからのほほんと聞いていると本当に面白いのだ。
格差社会の到来はすでに10年ほど前から予言されていた。それは東大卒の子供の東大生と東大卒以外の子供の東大生の比率という非常にシンプルな統計が論拠だった。東大卒の子供でなければ東大生にはなりにくい方向に大きく針がふれ始め、10年前には統計論的に機会の平等があるとは言えないレベルに達していたのである。だからそれ以後の競争社会とは東大生と東大生の競争だったり、高卒と高卒の競争だったり、ホームレスとホームレスの競争だったりが繰り広げられる社会を指していたのである。
お金というフィクションの獲得競争において人間というフィクションは微妙な存在だ。たとえば短期的な利益を得るための人員整理(リストラ)ではお金の確保において人間=無駄という等式が成り立つ。この場合、整理する方もされる方も人間なので、人間の尊厳は破壊される。する方はお金の亡者となり、される方は自殺するのである。年間3万人の自殺は妥当な数値と言っていいだろう。100年で300万人である。こりゃ、たまらんと半分が殺しても生き残る道を選択すれば、自殺150万、殺人150万の社会となり、国家というフィクションとしては荒廃した領域に入る。そういう例え話をリアルっぽく語るNHKスペシャル。ああ、面白い。
で、『NHKスペシャル・ワーキングプア~働いても働いても豊かになれない~』(NHK総合060723PM9~)取材・加藤洋(他)、ディレクター・板垣淑子(他)を見た。日本における統計学や統計力はかなりの水準に達していると考え、番組内でとりあげた数値をうのみにすると生活保護水準以下の暮らしをしている日本の世帯は400万以上。日本全世帯の10分の1ということになる。生活保護=極めて貧乏と考えると、10人に1人が極貧なのである。これを学校で考えるとクラスに三人は極貧がいてもおかしくないということで、少なくともすんげえ貧乏一人ぼっちじゃなくて良かったな。ということになる。
しかし、その組合せによっては大変に危ない状況も想像できる。理想は頭のいい男の子、力の強い男の子、美少女の三人が極貧で、担任にも恵まれクラスが彼らをめぐってさわやかに助け合ったり慰めあったりする青春ドラマが展開していくことである。逆に、三人がそこそこ頭も良く、そこそこ力が強く、しかも欲望ギラギラの男の子三人だったとしよう。彼らは徒党を組み、男子からはカツアゲ等で金品をまきあげ、女子はかわいい順にレイプして輪姦してシャブヅケにして援助交際を強要するのである。身の毛もよだつモラルハザードである。ざっと計算してみると全国で2500ほどのクラスが現実にそうなっている可能性が高い。ちなみにどういう計算なのかは企業秘密なので教えられない。
かって直木賞作家の胡桃沢耕史先生に出身地を問われ答えると「うーん、スケソウダラと並ぶ貧乏の代名詞だね」とシュールな感想をいただいたことがある土地(ヒント:北千住の南)の生れであるキッドは貧しさというのをある程度理解しているつもりだ。夏になれば、赤痢とかも発生する。クラスメートが夜逃げで突然いなくなったりする。進学率が周囲の平均値を下回る。しかし、キッドたちの世代は明るく楽しく生きてきた。そういう時代だったのである。しかし、今の貧乏は底が知れない恐ろしさを持っているようだ。それは情報の質量の変化と無関係ではないだろう。
生活に必要なものを100円で買う。100円から儲けを生むために生産者からどれだけ搾取すればいいのか想像もできない。5円も払えば納品できるといった世界ではないのか。そして、それでもやっていく世界60億人のサバイバルレースなのである。下手をすれば1000円でまずまずのスーツが買える流通機構がある。そこにかっては年間200着を仕立てた老テーラーが登場する。仕立て直しが1000円である。太刀打ちできねえよ。かくて年収が月の生活費を上回る金額になる。病院にはアルツハイマーの老妻がいて、介護保険料の倍額増、医療費負担増が追い討ちをかける。あげく生活保護を受けるためには100万円の貯金(妻の葬儀費用預金)を解約しなければならない。そしてタイトルのセリフになるのだが。そうですよ。死ねばぁと言っているみたいですよ。世の中は。
この他、顔出しで登場するのは東北の10人家族の農家、長男が現金収入確保のために建設業で働いているが、最近仕事がなく、納税できない。高卒就職でリストラされてホームレスとなり、住所不定のために仕事の面接に行く資格もない男性、経験のある警備会社勤務を希望するが求職なし、そりゃ住所不定の警備員は成立しないわな、建設現場の職があれども現場までの交通費がないという涙。さらにホームレスでは崩壊家庭の子供がそのまま放浪し雑誌拾いで小銭稼ぎ、コンビニで焼きそば食うの悲惨。子供を二人持ち、妻病死、リストラされてアルバイト三昧、子供を塾に行かせる費用もない男性の苦悩。そして顔を見せない養護施設にはお先真っ暗の親なし子供の群れ。
これが人間社会なのか。いや、野性の王国です。そして、番組は格差社会の上位に位置すると思われる大学教授ら知識人によってしめくくられる。曰く「10パーセント沈殿社会です」「もはやこの社会は荒廃している」そして「トライして負けたのならしょうがないが、トライもできないというのはまずい」である。あはははは。お前らが言うな。キッドは教育者として専門学校生に「君たちは社会的にはすでに敗者寸前、死にもの狂いになってがんばっても生き残れるかどうか分からないポジションにいる」と言い続けて10年。多くの若者の心を傷つけてきましたが、間違っていなかったと考えます。
しかし、絶望は愚か者の結論だ。楽しく生きていく方法はいくらでもあるはずだ。生活保護を受ければ憲法25条の保障する最低限の生活を楽しむことができるのであり、少子化などという納税額や奴隷の数が維持できない問題を心配する役人をあざ笑えばいいのであり、極貧を逃れたくば海を越えてやってくる凶悪なアジアの犯罪者を見習えばいいのであり、地獄も住めば都と思えばいいのである。つまり、そうとでも思わなきゃやってられない人がいるんだなぁということです。
火曜日に見る予定のテレビ『学校の怪談2』(テレビ東京)
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コメント
古い記事にTBどうも♪
ドラマ記事の端々に社会的視線を感じてましたが、
やはり勘違いじゃなかったようですネ。
絶望は愚か者の結論かも知れませんが、絶望を
抜け出すのは現実的に相当困難なことでしょう。。
僕は上位の人間が言っていいと思いますよ。
認識にも発言にも優位な立場なんだから、
それを上手く活かして欲しいと思います。
投稿: テンメイ | 2006年10月16日 (月) 01時03分
テンメイ様、いらっしゃいませ。
滅多に人の通らない路地裏に
来てしまいましたね。
メディアリテラシーの問題が
すべての基本にあるわけです。
いわゆる「読み書き」ですよね。
今、テレビの舞台裏では
当然、電脳テクノロジーは必携です。
ところがこれには格差がもろに波及する。
キッドが作家の卵になったころには
「何にもなくても紙と鉛筆があれば
できるビジネス」だった稼業が
インターネット環境を持っている必要に
迫られるわけです。
そういう環境にない人を前に
それを教える教壇に立つやるせなさが
つい悪態をつかせるのです。
ま、バイトして買えって言うだけのことなのですが。
そして学者の先生方には
そういうこと分かっていて
発言してるのかよっ。
という気持ちが頭をもたげるわけで。
ま、どんな逆境でも、
やるやつはやるんですけどね。
また、路地裏でも会えるといいですね。
投稿: キッド | 2006年10月16日 (月) 07時26分