哀しい男の詩です。(忌野清志郎)
咽喉ガンには咽頭ガンと喉頭ガンがあり、清志郎さんのガンは比較的生存率が高い方だと聞いた。少し、ホットとする。それがどうしたのだとも思うのだが、そういう時期に滅多に見ることのできない清志郎準主役のドラマである。主役は市原悦子(俳優座養成所出身)さんである。かってお嫁さんにしたいタレントNo.1と呼ばれた市毛良枝(文学座研修生出身)さんを見ようとしてつい市原悦子さんを見てしまいガッカリした経験がある。市毛さんは最近はまる子のおばあちゃんをやったり、富豪刑事の秘書をやったり、すっかり年配なのだが、市原さんはずーっとおばちゃんだったような気がする。
しかし、市原さんは東映動画『太陽の王子ホルスの大冒険』(1968)のヒロイン悪魔の妹ヒルダの声優なのであってキッドを萌えさせた人なのである。とにかく、声はね。その市原さんと清志郎さんの老いらくの恋の物語なのだった。まあ、これは変態だわ。いや、大変なのだった。タマゴ一個で三人の大人(市原と清志郎と清志郎の不倫の恋人羽田美智子)がごはんを食べるシーンがある。三等分するのにつるっといかないよう白身と黄身をよくかきまぜなければならない。ぐるぐる。ぐるぐる。ぐるぐる。清志郎が市原に「あんた変だ」というのだが、納得の名場面だ。
恋の舞台は江ノ島である。銭洗弁天でマネーロンダリングをするのだが、だから弁天様は嫉妬深いので恋人同士でいっちゃダメだってばさ。やっぱり都民にとって江ノ島は手軽な恋の聖地なのだった。しかし、季節にもよると思うが白昼堂々、江ノ島で投身自殺とか、身投げ心中とか、そりゃ無理があるって。するとどこからともなく、呪文が聞こえてくる。メルヘンですから~。そうか、またもやメルヘンなのか~。
で、『DRAMA COMPLEX雨やどりの恋~うさぎと亀より~』(日本テレビ060718PM9~)脚本・石原武龍、演出・雨宮望を見た。未公開株式の売買、投資失敗による自殺、遺児の復讐、会社倒産、人妻部下との不倫、闇金融の取立て、証券がらみの詐欺とドロドロの清志郎(十億円を取引した男)とアゲパン得意の一人暮らし給食のおばさん(年金給付月6万円の女)が出会い、女が一方的に(おそらく)恋に墜ちるという筋立てである。ああ、セクシーのかけらもないぞ。
しかし、目を閉じるとこれがそうでもないのだな。雨宿りの清志郎を拾った市原が上着を脱がしつつ、「わぁぁ、びちょびちょ。いゃぁ、すごい」である。にわか雨でせんたくものをとりこみつつ「まぁ、いけない」である。急いで走らなければならない事態で「はやくきて、はやく」である。素敵な景色を見て「すごい、すごい、こんなのはじめて」である。市原さん。セクシーだよ。とにかく声だけは。そんなこんなで女に母を求める男と、男に恋人をもとめる女のすれ違いの話は展開していくのであった。
清志郎は海を見つめて「このまま潮に乗ってどこまでも流されていったら楽だろうな」とか、「哀れ秋風よさんま苦いかしょっぱいか」などと哀しい男の詩を連発する。そんな清志郎をめぐり市原が恋のライバル(娘のような)羽田に「どんないい人でもダメはダメ、イヤな人でもスキはスキなのよね」と言うのだが、ちょっとひっかかる。辻褄が合わない。ここは「どんないい人でもイヤはイヤ、ダメな人でもスキはスキなのね」という台詞であるべきだと感じる。この後で恋の応援者(孫のような)小西美帆に「あんな泣き虫でウソツキで(ダメな)男を好きになるなんて」と告白するのでよけいにそう思う。脚本が・・・とも思うのだが、最後の最後で市原が失恋の詩として『ゴンドラの歌』を「命短し恋せよ乙女」と歌うのだが「熱き唇あせぬまに」と続けるのである。「赤き」だろうと思わずツッコミました。この後が「熱き血潮の冷えぬまに」だから目立つ。これは市原さん、ボケてきたのか。誰も間違いが指摘できないくらいに・・・。とちょっと心配になったキッドでした。
細かい男は嫌われるのだが、こういう繊細なストーリーでのほほんと見せるドラマを作る場合、こういう迂闊なことは許されないとキッドは思うのです。これはキバナコスモス、これはヒメジオン、あれはマリーゴールド、ムラサキシキブ、ティゴノハナは匂わないという乙女チックな台詞が台無しじゃありませんか。メルヘンなのか、ボケ老女の話なのか。・・・あ、それは同じ意味なのか。
木曜日に見る予定のテレビしつこく『彼女が死んじゃった(再)』(日本テレビ)あるいは『不信のとき』(フジテレビ)しつこい男も嫌われるのだが。
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