身体の傷なら癒せるけれど心の痛手は・・・。
PTSDのPはポストのP。ポスト小泉のPであり、郵便ポストとは直接関係ない。小泉の後ということで「その後で」という意味だ。PTSDのTはトラウマのT。トラウマは虎や馬とは直接関係ない。「心の傷」という意味だ。失恋したりすれば誰でも経験できる。いじめられても経験できるし、お化け屋敷でも経験する人は経験するし、交通事故なんかでも交通事故の目撃でも経験できる。ニュース番組はトラウマの宝庫である。PTSDのSはストレスのS。森高千里-なっちで「ストレスが地球をダメにする」のである。この場合は精神的負担による「心の歪み」を意味する。PTSDのDはディソルダーのDである。馴染みのない英語なので「障害」と直訳しておく。
PTSDのPTは「トラウマその後で」ということで、SDは「シード・ディステニー」ではなく「ストレス障害」である。PTSDは「心の傷を負った後で心の歪みが障害になって現れる」という心の病気だ。日本語訳は「心的外傷後ストレス障害」である。おいおい、ストレスは日本語なのか。トラウマもストレスも理解している人には「はは~ん」な言葉なのだが、一般的にはなんとなく「こんなもんだろ」的に通じ合う言葉といえるだろう。病気なので重症もあれば軽傷もある。基本的にはトラウマが重症ならPTSDも重症になりうると考えられる。
目の前で愛娘が殺人プールに飲み込まれ無惨な死体になって発見された母親は相当なトラウマを負ったはずで、PTSDが心配されるのである。熱狂的な宮崎あおいファンが最近の出来事で負ったトラウマもPTSDを引き起こす可能性はあり、摂理で教祖に処女を捧げたことが間違いだったと気付いた女性のトラウマは確実にPTSDをもたらすだろう。この病気が病気であると認知されたのは1960年代である。ベトナム戦争が大量のPTSD患者を生み出し、研究が進んだのである。戦争はPTSD患者の大量発生源といえる。それはスーパーフリー(2003年に問題となった集団強姦サークル)と同じくらいの悪環境と思われる。
で、『ETV特集・被爆者 心の傷は癒えず ~原爆のトラウマ 1300人の調査から~』(NHK教育060805PM10~)取材・池座利之を見た。61年前に敗戦したあの戦争も当然、多くのPTSD患者を生み出したのだが、61年前にはPTSDそのものが病気として確立していないため、患者は全員放置されたのである。すごく笑える話なのだが笑えない。「心のケア」などは夢のまた夢だ。キッドの母親も悪夢でうなされることがある。横浜大空襲で小学生として逃げ惑い、全身が炎につつまれた老婆が気が狂い、笑い叫びながら追いかけてくるという経験のもたらすトラウマによるものだ。この国には都市部を中心にした空襲PTSDの輪が広がっているのである。「空襲対象にならなかった田舎の人間が戦争に対しそれほど感情的にならないのはこの輪から外れているためだ」と東京深川生まれのキッドの父は言う。そういう意味で輪の中心点の一つであるヒロシマは原爆PTSDと別格あつかいになるほどの拠点なのかもしれない。
被爆者の平均年齢は76歳になると言う。ゆっくりと寿命による消失という全快に向かっている。しかし被爆者へのアンケート調査の回答から直接のPTSD患者はおよそ1/3程度であるという。苦しみは今もなお続いているのだ。心の病なので情報を通じて伝染する。この番組も含めて、あるいはこのブログも含めて、被爆を語ることはPTSDの拡散に他ならない。戦争の悲惨を情報開示することは新たなトラウマを発生させる行為なのである。これはワクチン治療の一種と言えるだろう。弱められた悲惨により悲惨の免疫を作る行為である。それが戦争行為そのものの抑止につながるという発想もあるが、キッドはこれには懐疑的である。戦争のメカニズムはもう少し非情なものだと考える。
戦争は常に総力戦だ。無差別爆撃を非難する声があるが、たとえば、市民は兵器の生産に従事している可能性があり、立派な戦力単位なのである。情報戦ともなれば空爆によって殺された乳幼児さえもが戦力単位と考えられる。このような状態をさけたければ抑止のために消耗しなければならない。ジレンマはあるがそれが現実というフィクションなのである。そして今日もPTSDの患者は大量に発生する。心の傷から逃れるためにアルコールや薬物に依存するもの、宗教に依存するもの、自殺するもの。苦しみの連鎖は果てない。
だが、それでいいのだ。苦しむものがあれば同情し、なんとか癒してあげたいと考え、そのために自分もトラウマを負う。これが人間だ。そういう人間でなければこの世界はつまらない。鬼畜米英の生み出したジャズという文化でひととき、鬱屈を忘れる現代。録画しておいた映画『スウィングガールズ(2004公開)』(フジテレビ060805PM0950~)を見ながらそう思う。
最近、mihimaru GTというグループが『いつまでも響くこのmelody』というシングルを出したが、ここでサンプリングされて使われるメロディーはスウィングのあの名曲『イン・ザ・ムード』(1939グレン・ミラー)である。映画『スウィングガールズ』でも演奏されている。ちなみに『いつまでも・・・』は『怨み屋本舗』のオープニング主題歌だ。1939年、日本はまだ米国とは開戦していなかった。戦後、このメロディーは平和な日本に寄り添ってきたのだな。記憶は愛、そして苦痛。あるいは記憶は苦い、だが愛おしい。どちらも意味は同じだが。
関連するキッドのブログ『日本国国民であることの難しさ』
火曜日(月曜深夜)に見る予定のテレビ『アキハバラ@DEEP(最終回)』(TBSテレビ)
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