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2006年9月22日 (金)

心に焼き付ければいつでも見えるよ。(宮崎あおい)

原案の作者は小説家(太宰治)の娘の小説家(津島佑子)である。あくまで原案なので脚本家の嗜好も含まれるのだが、登場人物・杉冬吾(西島秀俊)は津軽出身の芸術家。作者が亡父を念頭に置いたことは想像にかたくない。亡父は娘が一歳の時に愛人と玉川上水で心中して果てた。常識的に考えると娘に父の生前の記憶はないわけだが、父の幻は娘の心にいつでも見えていたと想像する。

娘の兄はダウン症であり15才で肺炎のために死去している。杉冬吾の長男・亨はやがて視力を失う設定になっている。冬吾の義理の妹で今週から松井桜子になった宮崎あおいが「視力を失うことを恐れる幼い亨に道端の桔梗を手折って見つめさせ諭す言葉」をタイトルにしてみた。娘もまた失われた父の幻影を心に想起しながら作品を書いたであろう。そして、後継者としての言葉を天から与えられなかった兄を。

そんな妄想にかられるエピソードは実は第25週水曜日(147回)のものだ。この後、亨ちゃんは桜子を訪ねる途中で犬に吠えられ行方不明になる。しかし、木曜日には発見され、事なきを得るのだが、発見するのは桜子である。桜子の姉は寺島しのぶだが、時々、室井滋に見えるほど女として魅力がなく、洞察力がなく、どちらかといえば無能の人として描かれる。つまり娘の母(故人)が夫に浮気され放題だったことを、愛人に子供まで作らせたことを、別の愛人と心中させてしまったことを、複雑な想いで怨み罵り蔑んでいるのだな。

で、『純情きらり第25週「夢にみた演奏会」(148回)』(NHKテレビ060921AM0815~)脚本・浅野妙子を見た。演出クレジットはないので責任者として制作統括・銭谷雅義を上げておく。皆様からの苦情は民間の脚本家にということですかね。とにかく、夏の終わりとともにいろいろと問題のあった戦争も終り、戦後の物語になっている。昭和22年であり、原案者が生まれた年で、太宰治入水の1年前である。

ソクラテスの「無知の知」を持ち出すまでもなく、全知全能ではない人間はすべてを知っているわけではない。もちろん、全知全能の神のような人は「いえ知っています」と言うのだろうが、ま、ここは一般常識として。つまり、こういうことだ。ここまでの物語はすべて原案者の生まれる前の出来事で、すべて想像の産物なのである。いや、最初からフィクションだろうとか、それはさておき。だから、戦時中にあんな発言をする女はいないとか、戦死者が少なすぎるとか、実力者の跡取りは簡単に召集さけれないはずだとか、戦後すぐの結婚式にしては豪華すぎるとか、そんな批判は無意味なのである。すべては戦後生れの原案者と脚本家の妄想の産物なのですから。

もちろん、もう少しリアルであってほしいなぁという識者はあるだろうし、私たちの戦前や戦中はあんなではありませんという高齢者もあるだろう。しかし、人間の知識や記憶に深い疑いを抱くキッドはさあ、どうでしょうかねえと遠くを見る目になるのである。

キッドはたくさんの戦争体験者と会って来たが、結論としては最前線にいるものは銃後を知らないし、銃後を知るものは最前線を知らない。昭和十年に生れた人は昭和九年を知らないし、昭和九年に生れた人は昭和八年を知らないということが分かったのである。つまり、戦争は悲惨だという人は戦争は喜悦だということを知らないのではないかとも類推できるわけです。ま、日本が今、景気がよくなったと言われることと、中東で戦争による大量消費が行われていることが無関係ではないということが言いたいだけなんですけどね。

今週、「きらり」を取り上げたのは馬鹿げて空想的な戦争の描写が終り、連続テレビ小説として、しっとりとしてきたかなあと考えたからですが、太宰の娘であり、太宰の長男の妹でもある原案者の心を脚本家がくみとった(147回)がキラリだったので、ちょっとピンポイントではなかったのでした。もちろん、宮崎あおいが原案者の分身と考えるとファザコンでブラコンということで亨ちゃんを雨の中で発見し、抱きしめる(148回)はギラリなのですが、この後、初恋の人・劇団ひとりが登場するらしいので、おそらくクスリとするなぁと考えます。

宮崎あおいのスキャンダルが夏の初めに賑わい、恋人の若者が無教養ということで世間の非難をあびたりしたのですが、それもまたドラマの中とは別の物語。「欲情どろり」とか「愛情するり」とか「炎上ぽろり」とかそれはそれで面白かったのですが。

現在、邦画界は活況を呈していますが、それが少女スターたちの乱立と無関係ではないことは明らかです。『あの夏の日、とんでろじいちゃん』(1998)から8年、20才になった宮崎あおいがその先駆者の一人で、前衛者であるのは間違いのないところ。今回も寝顔の愛くるしさは抜群だった。顔立ちが倍賞千恵子-原田知世系なので少女の匂いを残したまま息の長いスターになるだろうと思われる。どうか、このまま精進してもらいたいなぁ。

津島一族といえば娘の義兄は津島派の津島雄二(入り婿)衆議院議員である。根っからの自民党議員旧橋本派であり、安倍晋三新総裁体制のもと、早くも物議を醸している。そういう現実からの照射もあり、なかなかに素直に楽しめないドラマなのだが、これからラストまでは残りわずか。時を越えて「生きたいように生きる人の純情な気持ち」をきらりきらりと輝かせながら終焉に向かって行く宮崎あおいを楽しみたいのであります。

土曜日に見る予定のテレビ『土曜プレミアム・電車男デラックス・最後の聖戦』(フジテレビ)(VS特命係長・只野仁スペシャルは彼岸の墓掃除の疲労度いかんで展開)

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