月はいつだって本当は満月だし。(沢尻エリカ)
XPの実際の症例と異なる点があります。・・・だったら架空の病気でもいいのではないかと思う。実在の病気によりかかり、リアルを得ようとするのなら、ギリギリまでXPに肉薄するのがドラマ魂というものではないだろうか。XPであり、紫外線という刺激に弱く、神経症を発し、声帯維持と呼吸器維持の二者択一を迫られる。このぐらいの症例は個性というもので充分、説得ができる。世界にはたった一人の患者しかいない名も知れぬ病が満ち溢れているのだから。
このドラマのあとのクレジットに感じるもどかしさが全編に渡ってちらりと顔をのぞかせ、ヒヤヒヤする作品だったが、なんとか感動の最終回にこぎつけた。それは原史奈が舌打ちするほどの脈絡のない感動だったが、とにかく、おしゃれな主題歌のクリップもとばし、松下奈緒のファーストライブもそこそこに、オケがギターのみに変わった「タイヨウのうた」を死せる歌姫が歌いあげると「ひまわりゆれる」本当にいい夏が去っていったのだな。
だけどさあ、もっともっと涙をしぼりとることのできるドラマにもなったよね。これ。後提供に回想シーンが入るんだけど・・・そこに入ってもいいんだけど・・・もっと入れる場所あったんじゃないかなあ。愛が記憶だっていう基本がおろそかにされている。回想シーン=陳腐の信者なのかもしれないが。それが5話あたりからずーっと気になった。2話の6.9%で動揺したのかな。思いつきがあふれているスタッフだってことは分かるんだけど、糸のない針で縫い物しているみたいなところがあるんだよなあ。たとえば、「もう少しでいけそうでいけなかった」沢尻を抱きしめた山田孝之の時間が止まるのだが、止まりすぎなのだよなあ。「俺は泣かないからな」泣く。ぐらいで終るようにこの場面以前で説明しておくべきだったと考えます。ま、好みの問題と言われればそれまでですが。っていうか、山田より沢尻がもっと見たかっただけだろ。キッド。
で、『タイヨウのうた(最終回)』(TBSテレビ060915PM10~)脚本・渡邉睦月、演出・山室大輔を見た。最終回はどこにでるかわからなかった難病の症状が呼吸器系の異常となって声帯喪失か、延命拒否かという選択を迫られた沢尻が延命拒否を選択。とんとん拍子でデビューライブが決まり、スカートを穿いて初めてのデートと月下のキス、そして出の直前に奈落で死亡。遺作が売れるという展開である。終わり行く夏の陽射しをあびて山田がギターを奏で幻影の沢尻が砂浜で歌う名場面でエンドである。
視聴率は微妙だが、沢尻エリカは充分に堪能できた。やはり設定しすぎ病で消化しきれなかった感は強いが、最終回はある愛の物語に仕上がったと思う。
しかし、たとえば竹中直人や江ノ島の警官は消えていたし、原史奈は1カットだったり、ある種の惨状は呈しているのである。山田の少年院仲間のレイプ魔はどうしたのか。小林麻央とベッキーは二人いる意味があったのか。・・・ま、いいか。山田他三人と女の子の人数合わせで殺人観覧車の回は成立するのだし、レイプ未遂があってピンクの保護服でこの山田知りませんかビラ配りはあるのだし、原史奈の陰謀あってこその沢尻炎天下爆走なのであって、山田への「愛」のために命を縮める沢尻が描かれているのだから。しかし、その辺のところ、視聴者に伝わっているのかなあ。
しつこいようだが、このドラマ回想シーンの使い方が不器用だ。最後の名場面が追憶であることを否定しないわけにはいかないだろう。ドラマ開始以前の回想も含めて、もっと思い出させてよ。と思うのである。
たとえば佐藤めぐみと沢尻の関係はもう少し掘り下げるべきだった。佐藤めぐみはものすごくいい女の子なのだ。沢尻に山田を引き合わせ、山田に沢尻の病気を教え、デートのときはスカートを貸してくれる。なぜ、それほどまでに沢尻に奉仕するのか。教えてもらいたい。少女時代に二人に絶対何かあったはずだ。
山田と松下の施設時代ももう少し丁寧に回想する必要があったし、三人組と山田の関係も同様だ。ついでに原と要潤の回想も欲しいくらいだった。複雑な過去を持つ山田と理解されにくい現在の沢尻。山田の過去の回想が1/5、沢尻の現在の説明が1/5、山田と沢尻の現在の回想が1/5、各回のメインイベント1/5、その他1/5くらいのペース配分で一回づつを処理すると良かったのだな。
歌姫の物語である。松下の「Wish」、沢尻の愛する山田に贈る「Stay With Me」と愛する山田に捧げる「タイヨウのうた」そして柴咲コウの主題歌「invitation」をもう少し有機的に結合する工夫があってもよかった。沢尻が絶唱しそこなう、つまり、臨終するシーンへと続くステップには松下のアンコールナンバーが断続的に挿入されるのだが、たとえば、ここで沢尻「Stay・・・」を松下が歌うという展開であるとかだ。
呼吸器系の神経麻痺発作といえば窒息死ということである。死の中でももっとも苦悶死すると言われる窒息死を選択したからには、視聴者が引くほどの苦しみもだえ、生よりも夢を選択した沢尻の激情を表現しつつ、奈落からの登場曲(主題歌のイントロダクション的な)、要がセリのエレベーターを停止、登場曲の停止と、沢尻の死の静寂。山田の嘆き。ざわめきとその他の人々。B.G.M.としての主題曲そして、沢尻はもう回想しない。死んだから。回想するのは残された人々。そういうテンションだったら良かったのになあ。『1リットルの涙』や『セカチュー』との差別化もできたしねえ。でも、いいか、どんな脚本と演出でも沢尻エリカはいつだって本当は沢尻エリカだし。
関連するキッドのブログ『第一回のレビュー』
テレ朝ほどではないけれど、夏ドラマの低視聴率特性、アナログテレビの退潮、ジブリなどに翻弄された『タイヨウのうた』ではある。番組は生き物だから、低視聴率攻撃は応えるものだ。オタオタするし、アタフタするし、あれやこれやしなければならない、そういう意味ではがんばったかな。バンドの成立過程のリアリティーのなさを抜きにすれば。たとえ、一曲限定にしろ、楽器の修練がひと夏で可能でないことは一般的常識だと思いますので。全員天才だったのか。全員過去にやっていたのか。そういう設定にしても本筋にそれほど影響しなかったのでは。
日曜日に見る予定のテレビ『スペシャルドラマ・僕たちの戦争』(TBSテレビ)うわっ、この時期にかよ。堤さん苦闘、二階健あぼーん、今井夏木ジリジリ、大丈夫か、しのげるのか、期待しちゃうぞ、最後の頼みの綱、金子文紀!
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コメント
このドラマ、残念ながら見てないんですが 主人公が難しい病気にかかっているという設定なんですね.
視聴率10パーセント以下だったんですか?
私がはまったドラマ 下北●●●-●もそんな感じだったようで
すが、最初から毎回見ていた自分はてっきり視聴率が高いと思ってました(笑)
投稿: sumi_0083 | 2006年9月17日 (日) 00時43分
sumi_0083様。
『タイヨウのうた』は1-9話までが
①13.8 ②6.9 ③8.4 ④11.1 ⑤9.5 ⑥11.3 ⑦9.4 ⑧11.4 ⑨10.8で
ここまで平均10.3%です。
ちなみに『下北サンデーズ』は全9話(1話短縮)
①11.4 ②8.1 ③6.3 ④7.5 ⑤6.9 ⑥7.2 ⑦5.8 ⑧6.4 ⑨6.3で
平均7.3%でした。ま、売る方は冷や汗タラタラの数字ですが
見ている方は自分が楽しいドラマがいいドラマでよろしいかと。
投稿: キッド | 2006年9月17日 (日) 01時58分
そうだったんですかぁ.
私はマニアなドラマファンだったということですなぁ(苦笑)
投稿: sumi_0083 | 2006年9月17日 (日) 09時44分
りおんです。
キッド様コメント&TB返しありがとうございますぅ
HPアクセスしました!なんだかすっごいですぅ
ゆっくり拝見させて頂こうと思います(^_-)-☆
投稿: パリスヒルトン的生活恋も仕事も思いのまま りおん | 2006年9月19日 (火) 12時25分
りおん様。
いらっしゃいませ。
どうぞ、ごゆっくりなさってくださいね。
プリンス・オブ・ウェールズでよろしいですか。
架空茶ですが。
~*☆*~どんな密林でも気持ちはゴージャスに~*☆*~
*・゜゚・*:.。..。.:*{☆}゚・*:.。.{☆}.。.:*・゜゚・*!
投稿: キッド | 2006年9月19日 (火) 13時00分