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2006年9月12日 (火)

本当にそれでいいの。(麻生久美子)

念を押す言葉である。麻生久美子は「友達が困っている時には何とかしたいと思う」働く女性。対する小雪は「高校生のときに死んでも一人だったらどうしようと思った」女子大学生。二人の接点となる加藤晴彦はどちらかといえば貧乏な大学生である。2000年としても経済学部の学生であるのにパソコンを操作できず、携帯電話を持っておらず、車を持っていない。格差社会の暗示がある。自殺がブームの社会である。

時代に何らかの危機感を持って加藤はパソコンを買う。ダイヤルアップ接続の懐かしい効果音。旧ウインドウズ的画面。それが五年ほど前であることを示している。日本公開は2001年だが、映画は2000年に完成している。もちろん、退色したような色合いの暗い画面は黒沢清監督っぽいものだが、当時の世相というものがものすごい閉塞感を伴っていた。不況のどん底で、現在の勝ち組負け組論以前の日本全体が負け組の様相を呈していたのである。

そこにが襲ってくる。つまり、これは「異世界からの侵略もの」なのである。は黒沢清的霊界のどこでもドアである。あの世が有限であり、死者の霊魂密度に耐えられなくなった霊魂が逆流してくるというホラー・コメディーなのだが、一般人が笑えるポイントはほとんどないといっていいだろう。日活ロマンポルノに否定された『ドレミファ娘の血は騒ぐ』(1985洞口依子と伊丹十三が変態セックスをします)以来、「オナニー映画で何が悪いのか俺のオナニーは最高なのだから」路線の黒沢清のひとつの頂点がとしてここにあるのです。

で、『月曜深夜・回路(2001)』(日本テレビ060912AM0129~)脚本・監督・黒沢清を見た。オンエアではほとんどカットされていたが主題歌はCocco『羽根~lay down my arms~』である。この後、Coccoは活動中止を宣言する。がこわかったのかもしれない。

黒沢清映画の魅力は映像美にある。『回路』の場合はまず「鉄塔から墜落する女性を目撃する麻生久美子」がある。鉄塔全体と麻生をひとつのフレームにおさめ、墜落する女性とともに地面にパンダウンさせるという構図はファンタスティックだ。次に「崩壊した都市の道路で横たわる死体を避けてドライブする麻生久美子」がある。歩道に並んだ黒い影がスリリングだ。最後に「墜落炎上する四発貨物軍用機を目撃する麻生久美子」がある。ゴージャスであり、この絵でこの作品を語る人も多いだろう。あえて言うが9・11同時テロは映画完成後であり、非常に予言的暗示的シーンであることは疑問の余地がない。

小雪は基本的に誰がどこをとっても絵画的になるのだが、この映画の場合は「死者の魂を抱擁し接吻する小雪」が印象的だ。俗物的には小雪は武田真治に恋をしていて、おそらく武田は霊界に葬られ、狂うのだが、このキスの相手が武田真治の霊であるとするとアングルがやや不自然な気もします。

美しくはないが「どこかに連れて行ってと言われてクルマのない加藤が電車に乗ってどこかに行こうとする哀愁ある場面で無賃乗車の幽霊電車が停止し加藤が離れた途端に脱兎の如く下車する小雪」も中々にせつなくコミカルであった。貧富の差が滲みだすシーンである。予兆とも永遠の人間関係とも言える。黒沢清の計算されつくしたオナニーと言えるだろう。

幽霊的な描写も数多くあるが「ひっそりと立ち前衛舞踏のようにころびかけながらすたすたと歩み寄り覗き込んで驚かすどうみても中谷美紀のような幽霊」がある。『沙粧妙子・帰還の挨拶』(1997フジテレビ)の中谷美紀を思い出してしまう。

侵略してきた幽霊、自殺した幽霊、生きたままの影と人間の関係がオナニー設定なので死後の世界を信じないキッドなどは「バカじゃねえの」と思いますが死後の世界を信じる方のキッドは「まあ、そういう、妄想もあるだろうね」と考えます。

ともかく、暗示的な映画なので、ふりかえると様々なシンクロが読み取れる。絶望的な島国を脱出する船。膨張する東アジア大陸国家。小泉総理大臣の登場。テロ戦争の本格的な開始。朝鮮半島の悪事の認識共有。すべては五年前の決断により出現した世界。麻生久美子は最後の友達に念を押す。「片思いの彼女の後追い自殺をするのか、ぬけがらになって生きるのか」と。加藤は「いけるところまでいきたい」と答える。どちらにしてもすべての人間は未来を失い現在を得るのであるけどな。ま、哲学的オナニーですが。

水曜日に見る予定のテレビ『夏の冒険ミステリー・カクレカラクリ』(TBSテレビ)富士急ハイランドの新しいアトラクションかと思ったぜ。・・・って木村佳乃とサトエリの最終回はパスですか。

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