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2006年10月26日 (木)

「ちょっと考えさせて・・・やっぱ無理」と志田未来は言われた。

「私はあなたが好き」「・・・嫌いじゃない」「嫌いじゃないけど好きでもないってこと」「・・・いや」「嫌いじゃないイコール好きってこと」「・・・イコールかな」・・・まさにチェス・プレーヤーのような追い込み方である。一つ年上の男(中三だけど)を確実に追い込んでいく。必死だから。そして「おどろかないでね、赤ちゃんができたの。私、生みたいの」チェックメイトだ。キッドが中三の男子だったら・・・「本当に俺の子なのかな~?」なんて言ってその場で刺される可能性大である。

しかし、主人公が真剣に愛した「好きな人」が即座にそんなこと言ったら台無しなので「間」を置くのである。これは困難に直面した人間の常套手段だし、物語の「手」としても、その間に問題の深さを展開させることができるし、気をもたせることもできる。キッドはこれを使われるのは大嫌いだが、ま、困ったら使うテクニックとしては必携でもあります。

彼が一晩待たせることで親は妊娠中絶を娘に説明することができ、娘は結論を先延ばしにして学校で友人に妊娠を報告することができ、彼自身は真剣に考えることができるし、そして胎児は一日生き延びることができる。ま、人類は結論を先延ばしにしながらなんとかやっていくのが基本といえば基本なのです。

で、『14才の母・愛するために生れてきた・第三話さよなら・・・私の赤ちゃん』(日本テレビ061025PM10~)脚本・井上由美子、演出・佐藤東弥を見た。親が子供に教えるべき「大切なこと」には様々な矛盾を含んでいる。結論から言えば「世の中は矛盾している」ということを教えることが「教育」なのだとも言える。「少子化」が対策の叫ばれるほどの問題でありながら、代理出産が認められない、そして14才の女の子が妊娠するのは困ったことなのである。そういう意味では本質にせまるドラマになりつつある。

娘を愛しく思う父親、しかし、彼には柔らかな感性を思いやる能力はない。日常のあらゆる局面で不用意な発言を重ねてきた。そういう積み重ねが娘に「なんとなく嫌悪」を抱かせるのである。その典型的な例が娘を中絶させるための車内で暴露される。外は雨。「お前が生れた時、お父さんは知らせを聞いて、自転車で病院に向かった。その日はとても晴れていて、うれしくて、お父さんは叫んだ。やったぜベイビー」・・・これから、子供を堕胎する女に言う言葉ではない。

血もしたたるステーキが大好きなキッドは早くから肉食の罪についての仕方なさを受け入れたものだが、「命」についてある程度の洗脳が進めば、それさえも「越えられない壁」になってしまう人もいる。しかし、血を分けたわが子とはいえ、所詮は他人事である。娘はもちろん幼い感性ではあるが、直感的にそれを悟り、母親に怒りをぶつける。「彼に無理だと言われたの。お父さんに無理だと言われるよりショックだった」のである。この賢さが妊娠しない方法についての考察に向かわないところが愚かである人間の本質なのだな。

母親もまた傷心の途中であり、さらなる傷心へと向かう娘を前に、なんとかなだめたい一心で「世界であなたが一番大切だから」と言うのだが、「自分の一番大切なものを殺そうとしている」少女にはなんの慰めにもならないことに発言した後も気がつかない。

みんなうろたえているのである。父は母よりもうろたえ、母は娘よりもうろたえている。その中で一番シビアなのは娘であり、女医が伝える様々な知識「たとえば、成長期の出産のもたらす母体の危険性」を受け取りながらも、自分の欲望に忠実であるための闘争経路を模索し続ける。人間と動物との葛藤が静かに展開していく。

「自分を悪だと認めることの困難」が彼女を聖なる存在に昇華させ始める。敏感な弟はなにやら危険な匂いを感じ「悪いことをしたなら警察に自首しろ」と挑発するのだが、実際には万引きしているにもかかわらず、そんな法律で縛られた罪ではない罪を背負う予感に「私は悪いことなんかしていない」と嘯く。もはや、彼女は聖なるアウトローを自覚しているのだ。彼女は確信に満ちている。それは狂気であるが、狂気が間違っているとは限らない。現に自分の娘を傷つける父親がいて、それが親として実在する以上、彼女が親になってはいけないという理屈はどこにもないのである。母親が理屈抜きで愛しているという理屈で子供を懐柔しようとするよりも、さらに高度な認識が娘に宿り、物語を面白い方向に引っ張っていく。

もはや彼女は「正論で周囲を困惑させる湾岸署の青島刑事の道」を歩み始める。父も母も弟も、胎児の父親もその母も、タリラリ好きの日常ならば親友も、敗北した先行者も、面倒なことをさけたい担任教師も、体面を重んじる学校も、舌なめずりするマスコミも、「来るなら来いやーっ」の彼女の前進にあわて、うろたえ、引きずり回されることは必至なのである。まさに「母は強し」作戦が展開される模様。

だから、今回のサブタイトルは「さよなら・・・わたしの赤ちゃんを殺そうとする世界のすべての人々よ」の後半が省略されていることをネタバレそのものでお伝えしておきます。

もちろん、「すききらいはだめ」という社会に「きらいなものを無理して食べることはない」という社会が混入し、限度を越えて介護の必要な障害者を殺した家族が罪に問われ、心のケアが叫ばれ、自殺も安楽死も建前としては否定し、昔だったら死んでいる人間が生きる現代では「望まれぬ胎児」を闇に葬った記憶のフラッシュバックに悩むものが、何を今さらと拒絶したりするにも関わらず、エンターティメンナーとして志田未来が面白さを巻き起こすことはもはや確定的だ。

あんなふくらみかけた胸で授乳する少女を想像することがもはや罪になるような現代日本であるが、キッドは勇気を出して想像し、そして涙がとまらない。

などという記述の後になんなのだが、『はねるのトびら』にはさくらももこ(森迫永依)と穂波たまえ(美山加恋)が「回転SUSHI」に来店。「大人がダメだから食べられない」「回転するのは楽しいだけ」と企画を根底から覆すような発言を連発。もちろん発言はまる子中心でたまちゃんは控え目にたたずみ、まさに子役根性恐るべしである。月末は月曜、のだめ、火曜、まる子とそっくりドラマの連発である。役者魂としては視聴率回復のチャンスなのでフタケタに復帰できるといいのだが。

日本シリーズはそこはかとなく神な展開。やはりSHINJOのように神に愛された人間というものを感じないわけにはいかない。日ハムはピンチピンチピンチの連続。中日はチャンスチャンスチャンスの連続だが、終ってみれば日ハムの楽勝スコア。キッドとしては久しぶりに岡島に「どこ見てなげてんだ~」とツッコメて、和みました~。こうなったら札幌でさっさと決めて、録画スケジュールをたてやすくしてもらいたいものだ。

関連するキッドのブログ『第二話』⇔『第四話

金曜日に見る予定のテレビ『デスノート・前編』(日本テレビ)VS『家族』(テレビ朝日)『セーラー服と機関銃』(TBSテレビ)連合軍、ああ、大変。

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コメント

こんばんは!

意外なことだらけでしたね。智志が未希を好きだったなんて露ほどにも感じられなかったのであの母の子だと思う部分があったりして。そのあと誠意があるようにみせかけて結局未希の前に現れなかった。やはりそっちのタイプなのかと思ったり。
信じたい恋する少女には辛い試練ばかりが襲ってくるけれど一旦、母と自覚した日から大きく変わっていきそうですね。

>まさに「母は強し」作戦が展開される模様

うむ、予想通りで小気味良いくらいですね。
そのうち矢でも鉄砲でも飛んで来いと叫びだしそうです。

投稿: かりん | 2006年10月26日 (木) 21時12分

✿❀✿❀✿かりん様、いらっしゃいませ✿❀✿❀✿

智志(三浦春馬)くんの気持ちは分かりにくいですよね。
でも犬を助けたり、
母親にお金を与えられてうれしくなさそうだったり、
母親に他人の前で逆らったりと、
何かやりきれない気持ちを持っている少年であることは
示されています。

二人が結ばれたのも好奇心や欲望もあるでしょうが
未希が智志の中のそういう部分を
癒してあげたいという幼い情があり、
智志にも癒されたいという情があったように感じます。

一部の学説では栄養が充分にとられるために先進国の
子供の身体的成長は早熟の傾向があると言われています。
同時に密度の高い情報社会ですから
知識も(バランスがとれていないまま)豊富にある。
体も心も早く大人になる傾向にあるのです。
しかし、それは見せかけで
大人になるために必要なものが欠けている。
それは経験です。

たとえば、未希は学校の勉強は嫌い。放送部の仕事は好き。
という好き嫌いの激しい性格です。そして勉強の成績は悪く、なかなか達者なディスクジョッキーです。つまり、好き嫌いと出来不出来がリンクしているわけです。
これを未熟であると考える経験が不足しているのです。
そして社会全体にその傾向があるこどもの国では
これを危惧する監視者も矯正者もいない。

だから未希の情の中には不純なものもまじっています。
智志は勉強もでき、経済的に恵まれているのですから。
つまり、補完です。
まあ、それも自然といえば自然なのですが、
そのないものねだりには気がつかない。

現在、未希は好きな人の裏切り、つまり自分のあやまちに
気がつくという経験をしています。

未希は経験から学ぶという大人になるための階段を
のぼり始めたのです。
・・・幼い恋人たちの妊娠というと
キッドの頭には映画「フレンズ/ポールとミシェル」(1970米・英合作)が思い浮かびます。15才の男の子と14才の女の子のかけおち・妊娠・出産というストーリーでした。
女の子の方が早熟という平均値は今も昔も変わらないようです。
智志がパートナーとして未希の成長を追いかけるのかどうか。
21世紀の日本の物語の行方が楽しみです。

投稿: キッド | 2006年10月27日 (金) 01時33分

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