いつわりでもうるおいみちるならそれはまことです。(かたせ梨乃)
時間が夢を裏切らないとか夢が時間を裏切らないとかで巨匠とアーティストがもめているわけだが。
時間にも夢にも罪はないし、夢と時間がどんな約束をしたのか、キッドは知らない。
夢(のぞみ)を見て、それを現(うつつ)とするのに人は時(くらし)を費やす。おいしいラーメンを食べようとして、湯をわかし、麺をゆで、スープを作り、具材を整える。そして食べる。すべての夢を叶えるために人は時間を過ごしていくのだな。
その時間の経過は人それぞれで、希望を素早く叶える人もいれば、全く叶わない人もいる。そしてゆっくりと少しずつ叶える人もいる。様々な人々の様々な願い。その移ろい。そうしたことを考えると涙が止まらない時がある。巨匠とアーチストはもう少し考えて夢を壊さないようにしてもらいたいよ。
で、『慶次郎縁側日記3・第二回・空蝉』(NHK総合061019PM8~)原作・北原亜以子、脚本・宮村優子、演出・吉村芳之を見た。脚本は『春よ、来い』や『六番目の小夜子』の人だが、ある意味湿度の高い原作をしっとりと仕上げている。構成が複雑な部分もあるが、とにかくしっとりなのである。一線を退いた元同心の高橋英樹、その養子の比留間由哲、嫁の安達祐実、料理屋の女将のかたせ梨乃、老友の石橋蓮司、蝮と異名をとる奥田瑛二、遠藤憲一と邑野みあの夫婦、それぞれが哀愁ただよう過去を背負い絡み合って物語を紡いでいく。
今回の主人公はかたせ梨乃の演じる料理屋花ごろもの女将お登世。慶次郎とはつかずはなれずの仲なのだが、慶次郎は前回負傷して店から足が遠のいている。そこへ現れたのが津田寛治と加地千尋(新キッズ・ウォーの花ちゃんです)の占い師親子。津田は元は武士で暗い影を宿している。今は霊感が強いというふれこみで娘にお告げをさせて暮らしているのだが、民を惑わせて嘲る風があるのだ。しかし、お登世は津田にひかれ、ひとときの恋に揺れるのである。
梅雨の雨に打たれる二人に情念の炎が燃え上がる。まさに湿度高い状態。
やがて、娘・弥生の占いが当たらなくなる。そこへ邪な一団が現れ、水難のお告げの後、船を襲い積み荷を盗むという悪事をもちかける。父は断るのだが娘は独断で受けてしまう。事はもつれて、父娘は身を隠さざるを得なくなる。
お登世と男の愁嘆場。「己を捨てる様が美しいと言ってくれた・・・胸にささりました」とお登世。男は「すべていつわりだ。まがいごとだ」「・・・いつわりでもまがいごとでもうるおったのでございます」「なぜ、いつわりにまことを見ようとするのだ」「道連れと・・・同じ雨に打たれたではございませんかぁ」「・・・打たれた・・・」「稲妻が白い光がみえました」「俺は暗い雨を見ていたのだ・・・」・・・ああ、しっとり。
やがて、男は刺され、堀に浮かぶ。男を捜し彷徨うお登世。しかし、残されたのは空蝉だけだった。久しぶりにお登世の元へ訪れる慶次郎(今回ほとんど存在感のない主役です)は「何事もなかったか?」「ございませんでした」のやりとりのあと、お登世の落とした空蝉を一息に踏み潰す。ああ、思わせぶり。そしてしっとりとした恋の終わりに乾いた音を響かせるのである。
もう、そうでない人にはなんじゃそりゃあでしょうが、好きな人にはたまらない世界が展開されます。次回は石橋さんが主役の模様。
今回、昔なじみの女優・九里美保さんがクレジットに登場する。クレジットはお名前だけだったが台本上の役名は「叫ぶ女」だったそうだ。「弥生様がおっしゃったのですーっ」と暴れて恋する二人を踏んだり蹴ったりしていたのである。九里さんが舞台を中心に活動してもう長い。彼女が女優を志したのは十代の頃だったから。ひたむきに夢を紡ぐ日々。そして、今、小さな役を演ずる。彼女は確実に江戸時代という夢の世界の住人になり、そして現実にモニターに姿を見せる。それもまた・・・くらしである。興味のある方は向かって左サイドの「女優・九里美保のオフィシャルサイト」を覘いてみてくださいませ。
土曜日に見る予定のテレビ『たったひとつの恋』(日本テレビ)えーッ、また見るの。
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