久しぶりのドラマ以外のレビューである。秋ドラマ開始以来、なんだか毎日ドラマのことばかりなのであるが連日上野志田蒼井長澤綾瀬堀北と並べられては仕方ないと思う。日曜日が駄作・・・撃たないで~・・・息抜きの日の夕刻に「軍事」の深夜に「外交」のドキュメントが放送されるのはまさに神の配剤なのだろう。
最初に言っておくが、日本では軍事と外交が一体のものであるという認識は極めて低いと考えられる。しかし、軍事と外交は切っても切り離せない一体のものであり、裏表であり、両手である。そういう認識を共有してもらいたい。軍事は外交手段であり、外交は軍事手段なのである。
たとえば「外国語を話すこと」は外交的なことだが、同時にそれは軍事的なことであり、「防衛予算を決めること」は極めて軍事的なことだが、同時に外交そのものでもある。
日本にはインテリジェンスを知識と訳すか情報と訳すか、インフォメーションを告知と訳すか情報と訳すかという問題があり、ジャパニーズネイビーは日本海軍の意味だが訳すと「海上自衛隊」になるという問題がある。そういうある意味でのごまかしが通用する時代はもはや過去になったと考える。
ミサイルを必要なときに必要な場所に撃つことも情報であり、ミサイルを撃つことが必要かどうかを判断するのも情報なのである。そういう認識がないと大変なことになるとキッドは考える。
で、『日高義樹のワシントン・リポート~太平洋艦隊はいつまで日本を守る』(テレビ東京061119PM4~)企画・制作・日高義樹、ディレクター・日高正乃を見た。不規則のオンエア、しかもテレ東系である。非常に視聴しにくい番組なのだが、これを見ると見ないとでは世界がまるで変わって見える番組だ。いわば、情報格差の典型と言えるだろう。もちろん、内容が米国の国際戦略の宣伝だとか、しかも共和党的だとか、軍事力の重視が過ぎるとかという偏向はある。しかし、世界一の軍事大国がどのように存在するのか、これからどうしようとしているのかという事実を知らずしては、どのような議論も無意味とも言えるのである。
もちろん、常連の視聴者の中には日高氏が今日は米国高官とのインタビューで何回Now ah~(さてとえーと)を言うのか楽しみだとか、日高氏が今日はどんな原子力潜水艦、あるいは原子力空母あるいは最新鋭のイージス艦あるいは最新鋭の戦闘機・・・に乗り込むのか楽しみだとか、まあ、本筋でない楽しみ方もあるわけだが、キッドは少なくとも、日本とアメリカは同盟し、現在は対テロ戦争(第四次世界大戦)を遂行中であり、次の段階では中国との冷戦(第五次世界大戦)が控えているという世界の現実に覚醒するひとときをたまには持つべきだと考える。
というわけで、まとめてみると、東大卒元NHK職員の日高氏が米国海軍長官ドナルド・ウインター氏とのインタビューを中心に美しい軍事艦艇を交えて次のような情報をお茶の間におとどけしたのです。
第1部、「中国は敵か味方か不明の態度でしかも確実に軍備を増強している。しかも北朝鮮は宣戦布告をしている。これは危険といってもいい状態なので太平洋の平和を守るために米軍は戦力を増強している。ミサイル防衛能力をあげるために最新鋭のイージス艦「シャイロ」を第七艦隊に配備したし、空母「ジョージ・ワシントン」の配備が決定。続いて空母「カール・ビンソン」も配備されることになるだろう」
第2部、「米国海軍の潜水艦はすべて原子力潜水艦に変更されているし、空母もまもなくすべてが原子力艦になる。巡洋艦や上陸支援艦などその他の艦艇の原子力化も検討中である。それらが軍事的に有効なのは明らかである。リスクはあるが、米軍は過去50年間、無事故という実績があり、問題はない」
第3部、「イージス(神話に登場する最強の盾)システムはまだ100%のミサイル撃墜能力はないが、その技術は向上しつつある。艦艇によって展開が可能であり、それはミサイル防衛手段としては現段階では最善の手段といえる。米海軍はその点に自信を持っている」
第4部、「沖縄では市街地と基地の隣接が問題となってきたので海兵隊(上陸戦闘拠点占拠能力のある部隊)の縮小は配慮されるべきである。同時にグァム基地に移転することで即時展開の能力向上も期待している。今後は上陸支援艦艇の増強が不可欠だ。移転完了には8年ほどかかるだろう」
第5部、「アメリカ太平洋艦隊は日米両国が存在が有益で必要だと考える限り、展開を続ける。現時点でその方針が変更される展望はない。公海はもちろんのこと、海峡や港湾などの安全を守るために各国と協力体制を強めていくだろう。それにあたって日本海軍が戦力を向上させるかどうかは、日本の人々が決定するべきだろう」
これはすべて絵空事ではなく、事実である。また論理は極めて正論だ。しかし、もちろん異論はあるはずである。それでもまず事実の認識からスタートするべきだと思う。次回は12月10日「アメリカの太平洋戦略が変わる」である。視聴可能な人は視聴することをお薦めする。
関連するキッドのブログ『格納庫のB-2爆撃機がかわいかった件。』
で、『ドキュメント'06・敗北外交~ある異端官僚の逆襲』(日本テレビ061120AM0050~)ディレクター・伊佐治健(他)、チーフプロデューサー・智片健二を見た。外交は官僚の手によって行われる。彼らは国益のために交渉を行うエキスパートである。しかし、彼らが本当に国益を守るために機能しているのかどうか、国民は監視する義務があるのである。しかし、実際には監視は至難の技だし、「国益」そのものの意味の共有も国民には難しい。
ざっとした感想で言うと90年代半ばから、21世紀に至るまで日本は不況におかれたのだが、その原因の一つに外交の敗北があったとされる。今回のターゲットは東大出身の現役・経済産業省キャリア官僚・前田充浩(44)である。彼は英国のシンクタンク王立国際問題研究所チャタムハウスに出向し、日本の外交政策の敗北の研究に取り組んだ。国内で実に困難な研究である。人は手柄を自慢するが失敗は隠すものである。官僚はそのエキスパートともいえる。
日本の外交的失敗はまったく驚きはしないが記録にさえ止められないという。すぐに破棄されてしまうのである。前田のチャレンジは困難を極めるものなのだ。しかし、人間は失敗から多くを学ぶ。おねしょをして始めておねしょをしなくなるのだ。その点、日本の外交はだだもれ状態といえるのである。
もちろん、外交に秘密はつきもので番組で語られることはオブラートにつつまれた内容であったが前田の研究の成果は要約すると次のようになる。1988年OECD(経済協力開発機構)の席で日本はトルコの第二ボスポラス橋のODA(政府開発援助)において主導的役割を果たすことに成功した。一兆円もの援助をする日本の国益とはその受注を国内企業によって為すことで達成される。これに批判を行うものもあるが、それは国際政治を理解していないものでもある。とにかく憤慨したのが英国の首相サッチャーだった。英国は第一橋を主導しており、当然、狙っていた。サッチャーは「飼い犬に手をかまれた」と言ったという。そしてジャパンバッシングが始まったのだ。日本に不利なように国際ルールは変更され、湾岸戦争に大金を投じても「金だけだして血を流さない」と悪役呼ばわりである。
前田の研究はその発端となった日本の外務官僚の発言に行き着く。ODAの金利をめぐり10%に固執した日本が欧州各国に攻められ「ま、これからは私を一割さんと呼んでください」というオヤジギャグでしのごうとした事実である。論拠のかけらもないこの発言から日本外交の敗北が始まったというのだ。・・・ホントかよ?
ま、ともかく、経済力の弱い国家が経済力の強い国家に「クリーンな協定」を結びましょうというときは手加減してお前が少し損をしろと言っているのは間違いないだろう。前田は「全体の利益を考えない国益は国益として成立しない」という結論に到達する。おいおい、そりゃ、単なる和の心だろうとも思うが、官僚がそういう境地に達し、国際会議成功法の理論化に取り組んだというのは、ま、前進といえば前進なのだろう。
しかし、結局は経済力は強いが軍事力の弱い国家が狼の餌食になることは歴史が証明している。日本が情報力という軍事力であり外交力である力の本質に到達するのはまだ先のことになるだろうとエリート官僚の語る日本語の拙さを聞きながらしみじみと考えた。
なにが最善なのか。それを決定するのも情報である。バブル崩壊から立ち直り、軌道にのりつつある日本経済の前には膨張中国が横たわっている。この巨大な獣が日本人なみに食べ、車に乗るようになると世界は破滅することになると思うのだが、そこにどういう和を注入していくのか。日本人のすべてが正念場にたたされている。沖縄で与党候補が当選したことが、良かったのか、悪かったのか、教育基本法の改正案が可決されたのがよかったのかどうか、野党はボイコットなどという戦術でよかったのかどうか。すべては情報である。日本人の情報軽視はお家芸のようなものだが、優秀な情報収集家と優秀な情報分析家そして優秀な情報選択家。その育成こそが最も重要な課題であると思う。もちろん、優秀な007も必要だとキッドは考える。少なくとも重要法案の審議→野党がボイコット→野党が重要な選挙で敗北という負けパターンぐらい野党は学ぶべきだと思う。
火曜日に見る予定のテレビ『ドキュメント72時間・六本木・一坪オフィスの夢』(NHK総合)
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