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2006年12月 2日 (土)

初めてシュークリームを見た私は腐っていると注意されたのに我慢できずに食べてしまい激しく嘔吐した。(堀北真希)

1950年代の終わり頃の日本(主に東京の下町)を描いた1970年代のコミックの2005年の映画化である。ノスタルジーのノスタルジーなのであった。あれから1年。一番、ノスタルジーなのはまきまきこと堀北真希だなぁー。もう、可愛さ爆発である。「アカネ」だって可愛いが、作品として・・・、う、撃たないで~。

原作では「六ちゃん」は男の子だが、映画では少女に設定変更されている。原作の「六ちゃん」にはさくらという妹がいるのだが、いわば、二人が融合してしまったようなキャラ設定だ。東北から集団就職でやってきた少女。これは泣ける。

そういう日本はいつ終ったのだろうか。キッドは東京タワーが出来てから20年後に剣の師匠を訪ねて秋田を訪れたことがある。それは春休みのある日だったのだが、帰りの列車でそういう現場を目撃した。上野へ向かう列車。ホームに見送りの人々。そして車内には制服の少女たち。みんなわんわん泣いていた。みんな涙を流していた。まだまだ若かったキッドは非常にいたたまれない気分だった。あの少女たちはどうしているのであろうか。あの日からまもなく、そういう物悲しく甘美な日本は終ってしまったような気がするのだが。

で、『金曜ロードショー・ALWAYS 三丁目の夕日』(日本テレビ061201PM9~)原作・西岸良平、監督・脚本・VFX・山崎貴(脚本は他に古沢良太)を見た。監督は東京タワー完成から6年後の誕生なので、ある意味、架空のノスタルジーである。『ジュブナイル』『リターナー』とSFというよりはSFX的な世界を造形してきた監督であり、この作品もまたファンタジーの色彩が強いのである。

昭和33年、東京の下町に小さな自動車修理工場と駄菓子屋が向かい合っている。「鈴木オート」と「茶川商店」である。鈴木(堤真一)は太平洋戦争で南洋の島から帰還して、裸一貫から工場を築いた男。心根は優しいがキレるとこわい。90年代の中学生のような性格である。妻・トモエ(薬師丸ひろ子)と小学生の一平(小清水一揮)という家族持ち。ここに集団就職で六子(堀北)が加わる。一方、茶川竜之介(吉岡秀隆)は一人暮らし。文学者を目指しながら、大衆小説で食いつなぐ男。彼は飲み屋の女(小雪)から「縁も所縁もない」小学生(須賀健太)を押し付けられてしまう。

建設中の東京タワーの建設が進む風景や、上野駅、路面電車の走る街などノスタルジックな情景がこれでもかと再現される。その中で「神は与え奪う」という主題が淡々と進行していく。そのシンボルがアクマこと医師宅間(三浦友和)である。六子の食中毒や、一平の発熱の度にスクーターで往診する彼の妻子は空襲で死んだ。それから13年後の世界で彼が妻子に出会うのは酔いつぶれ、下町の影に潜むタヌキに化かされた時だけだ。

原作者は作品中にたくみにSF的設定を夢とも現実ともとれる形式で挿入する嗜好があるのだが、彼は少年の夢の中のサンタクロースを演じたりもして、一番、原作世界を体現している。サンタクロースがいないという虚構を人々が信じるのは多くの人々が「良い子」ではないからだが、「良い子」であるキッドには今もちゃんとクリスマスプレゼントが届く。本筋ではないがサンタは実在することだけは言っておかないとな。

さて、薬師丸ひろ子には別に婚約者がいたのだが、戦時中に生き別れとなり、堤と結婚したのである。堤は急成長する車社会の末端にいて、三種の神器と呼ばれたテレビ、電気冷蔵庫、電気洗濯機を周囲に先駆けて導入する。テレビはお約束ですぐに壊れ、冷蔵庫は氷屋の仕事を奪い、洗濯機は主婦の井戸端会議を奪った。「神は与え奪う」のである。

六子は憧れの東京で小さな工場に失望するのだが、それよりももっと幼い胸を痛めていた。自分が「口べらし」のために東京に追い出されたという思いである。彼女が得意なのは自動車修理ではなく自転車修理なのであるが、キッドはそこに大きな違いはないと思うので面白さが半減する。

さて堀北とともに萌えを担当する須賀健太は東京タワーを崩壊させるいたいけなさを連打するのである。鬼太郎・・・いや、茶川の鬱屈した心を解きほぐすのである。これはキッドにとって「長屋紳士録」のシチュエーションで作品の中でまだまだ戦後が続いていることを暗示している。幸福のすぐ前後にある不幸。神は与え奪うのだから。やがて、吉岡は身の程知らずにも小雪にプロポーズするのだが、彼女は親の病気治療の借金返済のため踊り子に戻る。松子ではないのでトル・・・特殊浴場には行かないのだな。そして健太にも実の父が現れる。神は与え、奪うのである。

堀北にはクリスマスプレゼントとして故郷へ向かう最終に乗れる切符が贈られるのだが、捨て子された想いの堀北は素直に喜べない。胸は怒りと悲しみに満ちている。しかし、薬師丸が母からの手紙を隠し持っていたことを告げる。里心がつかないようにと実母から願われ封印していたのだが、そろそろ時期もいい頃だと、経営者の妻的にも判断して、真相を明かすのである。実の父よりも育ての父を選んだ健太と同様に、神は悲しみを与え、そして奪っていく。それがハッピーエンドというものなのだ。もちろん、現実世界では神はさらに奪い続けるものなのだが。続編は2007年11月公開予定、神は新たなる作品を与え、チケット代を奪っていくのだ。

世紀末までは実在の下町にあるキッドの密林の窓から東京タワーが見れたのだが、21世紀になってついに視界を高層ビルが閉ざしてしまったのだ。ああ、人は今日も何かを与えられ、そして奪われながら生きていくのだなぁ。今年も人々が穏やかに故郷に帰り、東京の街がシンとするあの日が近付いてきた。うーんとシーンとしてもらいたい。それが東京の人間の故郷なのだから。それまでは楽しんでもらいたい。東京の年の瀬ってやつを。東京タワーのできるずっと前から、東京は世界一の大都市なのだから。

関連するキッドのブログ『鉄板少女アカネ』   『怪談新耳袋・劇場版              

日曜日に見る予定のテレビ『NHKスペシャル・もう医者にかかれない』(NHK総合)

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