朋江はその縁談をお受けしてしまいました。(宮沢りえ)
パーフェクトである。もはや、レビューの必要なし。以上・・・では終われないけれど、藤沢周平原作・山田洋次監督・真田広之主演で宮沢りえにこんなこと言われた日には何も言えません。
ま、「隠し剣 鬼の爪」(04)で永瀬正敏・松たか子が、「武士の一分」(06)で木村拓哉・壇れいと作品は続いていくのでこればかりをあまりパーフェクトというと問題があるのでどれもこれもパーフェクトだと言っておく。
そのぐらいパーフェクトである。
で、『金曜ロードショー・たそがれ清兵衛』(日本テレビ061222PM9~)原作・藤沢周平、脚本・朝間義隆(他)、監督・山田洋次を見た。原作は短編小説『たそがれ清兵衛』『竹光始末』『祝い人助八』の三篇。舞台は幕末の海坂藩(庄内藩をモデルとした藤沢作品御用達の架空の藩)であり、剣客ものと言える。
すでに故人である原作者の作品はほぼ読了しているキッドだが駄作にあたったことがない。非常に危険な作家である。今もこの映画を見てしまったために再読の欲望が疼き始めている。まず、「用心棒日月抄」から行ってみるかと誰かがささやくのである。まあ、一冊ぐらいならと手にとったら最後、続編、続々編、完結編と読んでしまい、蝉しぐれだの暗殺の年輪だの一茶だの止まらない汽車に1人飛び乗った状態になってしまう。
藤沢作品にはいくつか、パターンがあるが、まず、主人公が剣の達人であることが多い。そして、金に不自由している。つまり、貧乏な剣の達人なのである。そういう意味でたそがれ清兵衛は代表格と言っていいだろう。映画では真田広之と宮沢りえが男やもめと出戻り娘の恋を演じるのであるが、この恋がせつないのは主人公が貧乏であるという一点につきる。
米櫃をのぞくと米がないと分かる時の恐ろしさを語る敵役。勝負の前にお互いの貧乏自慢。まったく夢も希望もあったものではないのだが、なぜか、星降る夜に恋人たちがお互いの瞳に抱くようなロマンスに包まれるのである。まさに藤沢マジック。
そのサムライ像には黒沢明の『用心棒』や『七人の侍』に通じるものは確実にある。しかし、そこにしがないサラリーマンが絡んでくるのだった。藩という会社から絶対に逆らえない命令が下る、その命令は理不尽な場合がほとんどだ。しかも、命令されるのは最下級の、下の下の、パートタイマー扱いの従業員的身分保障のサムライたちなのである。そして彼らは、耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍び粛々と任務を遂行し、帰還する。時には命を落とす。やってられないよねぇ的な話なのにロマンチックで憧れさえ感じさせる。そんな奇跡のような作品・・・。ここにありますなのだ。
五十石は一家四人が食べるのがやっとという給料なのだが、海坂藩はいつも台所事情が苦しく、借り上げ米をする。まあ、税金のようなものだが、すると手取りが三十石である。一家四人は飢え死に必定なのだが、自給自足や内職などで食いつなぐ。出世というステップアップがないわけではないが基本は世襲である。五十石の家に生まれたものは五十石を継いでいかなければならない。加増よりも減収の恐れの方が大きい。この映画には出てこないのだが「やっかい叔父」というものがいる。五十石の家に生まれた次男三男は基本的に結婚できない。分家する余裕がないのだ。どこかで欠員が生じた場合のみ婿入りという手段で独立できるのである。そういう運がないと居候として「厄介者」としての生涯になってしまう。そういう世界である。
格式の高い家の娘に主人公が恋するのもパターンだが、たそがれもその口である。相手が百五十石なら、もう高嶺の花なのだ。朋江と清兵衛もその口でお互いに恋しながら格式の合った違う相手と結婚しなければならない。しかし妻を亡くしたやもめと夫と離縁した出戻りとして再会する。だからといってどうにかなるわけではない。身分を越えての友人である朋江の兄はそれでも縁談を清兵衛に持ちかけるが、清兵衛は受けることができない。なぜなら、夢を失うのがこわかったからだ。
しかし、お家騒動の後の粛清騒ぎの中、清兵衛は生死を懸けて死刑執行人を命ぜられる。しかも、相手は剣の達人で大人しく斬られるけではない。「死ぬかもしれない」可能性に清兵衛はついにプロボーズを口にするのだが朋江はタイトルのセリフを口にする。
決闘。リアルな殺陣である。キッドは幼少から十年ほど剣を修行して一瞬だがある境地に達したことがある。これは人を殺すための技術なのだという悟りである。その時、キッドは確実に人を殺すことができたと思う。しかし、すべては積み上げたあげくの一瞬のことである。一日おこたれば一日なまるのである。清兵衛も達人になった記憶はあるがそれを再現できるとは限らない。しかし、相手もまた最高の状態ではない。失意の底にあり、消耗し、酩酊している。達人と達人の戦い。それはどちらがどれだけ衰えているかの勝負になるのである。映画では清兵衛が竹光であることを知った敵(田中泯)が「愚弄するのか」とプライドを傷つけられたので勝負を始めたともとれるセリフがあるのだが、実は最初から心理戦を展開しているのでそれが口先だけのものと知れる。敵は清兵衛を油断させ、敵意を削ぐために会話をした。そして勝てると読んで勝負に出たのである。清兵衛が途中でなだめる口を使うのも戦術なのだ。お互いに自分が生き相手を殺すためにすべての力を使う。それが剣の道の本道だからである。リアルな殺陣というのはそういう意味だ。
そして・・・。ロマンチックなハッピーエンドがやってくる。映画ではかなり蛇足と思われる部分もあるが、大衆娯楽としてはこういう部分があってもよく、それが傑作であることを損ねるほどのものではないとキッドは考える。
深夜には『生物彗星WoO・第五話』(NHK総合061223AM0110~)脚本・岡野ゆうき、演出・川崎郷太を見た。ジュブナイルであるので、まあ、何がどうしたということはないのだが、今回、舞台は荒川区だし、拾ったアイ吉(ちびウルトラマン)を連れて防衛隊から逃げ回る少女は谷村美月なので、そこそこ楽しいのである。テイストとしてはテレビ東京深夜の平成『ウルトラQ』である。脚本はすべりまくり、演技も演出もものたりないが、ウルトラシリーズだから見なければならない。永島敏行、とよた真帆、黒谷友香、塚本晋也など脇役は真面目に演じている。今回は使徒もどきの造形の怪獣ゲルバイルとの対決がある。全十三回だが、6話は来年でそれ以後の放送予定は不明である。今回は女性自衛隊と婦人警官のコントがあり、笑えないが言いたいことは分かる。キッドとしては谷村美月がコインランドリーでゴミ袋を着ているのがツボでした。
日曜日に見る予定のテレビ『ナイナイクリスマス』(TBSテレビ)で『北の零年』(テレビ朝日)で『謎のホームページ サラリーマンNEO冬のスペシャル拡大版』(NHK総合)で『明石家サンタ』(フジテレビ)で『ライオン丸G最終回』(テレビ東京)のコースでクリスマスイブなのだが、・・・うっ、日テレが抜けている。レビューは未定です。
| 固定リンク
コメント
私はNHKドラマ「腕におぼえあり」から
藤沢作品を知りました(;^∀^)ゞ
それ以来すっかりハマっております。
下級藩士で剣の遣い手。
これはもう藤沢作品の主流ですね。
それから様々な流派
一刀流、雲弘流、無形流、東軍流、無外流、直心流等々があったので
短編・長編に限らず
この流派はどんな結構楽しみにしていたものでした。
たしかに上司の命令は理不尽なものがあるのですが
それでもその任務を遂行しようとする姿が
武士の一分たるもの、
そしてしがないサラリーマンの生き方に重なるのでしょうね。
それに派閥争いとかもありますしね(笑)
>リアルな殺陣である。
たしかにそれは感じますね。
小太刀は基本は受けの太刀ですね。
こちらから斬りかかるのではなくて
相手の太刀を受け流して、そこから攻勢に転ずる。
この辺りの戦い方もよくよく考えておられます。
>生物彗星WoO
谷村美月目当てで見ております(;・∀・)ゞ
投稿: ikasama4 | 2006年12月23日 (土) 13時15分
キッドさん、こんばんは!
ikasama4さまも・・・やはりお二人は歴史オタクなんですね~~。以前ikasamaのところでもちょっと書いたのですが(詳しく書けない・・恥)ちょっと藤沢さんにゆかりがあります。なのに原作を読むとけっこう眠たくなるあたしってばバチ当たりですよね・・ごめんなさい・・しゅん・・
この清兵衛も以前見たけれど全然みどころがわからなくて地味で・・終わってしまいました・・うわ~ん、ごめんなさい。今回も見ようかと迷って結局Mステに行ってしまったわ。天国の藤沢さんに手をあわせて・・合掌
近いうちに一分だけは見ようと思ってます。。やっぱりランちゃんのダーですし・・見ないとね!
投稿: かりん | 2006年12月23日 (土) 18時15分
✥✥✥ピーポ✥✥✥ikasama4様、いらっしゃいませ✥✥✥ピーポ✥✥✥
『腕におぼえあり』(NHK92用心棒日月抄-村上弘明)
『江戸の用心棒』(フジ81-古谷一行)
『用心棒日月抄』(テレ朝97-小林稔侍)
が長男の単身赴任なら
『新・腕に覚えあり』
(NHK98よろずや平四郎活人剣-高橋政伸)
はやっかい叔父の独立物語。
この両方、つまり長男にも次男にも視点を
置いているところが藤沢作品の優しさと
キッドは思います。
逆に長男しかいなくなった時代には
伝わりにくい点かもしれません。
しかし性差の少なくなった現代では
女性にも共感が生まれるのではとも思っています。
それが幸か不幸かは別にして。
秘太刀シリーズも楽しいし、
江戸市井作品もいいけれど
そろそろ用心棒の新作が見たいキッドです。
上川、反町、竹野内、
誰でもいいからやって欲しい。
谷村は中山美穂系伊東美咲類に属しています。
投稿: キッド | 2006年12月23日 (土) 21時23分
✿❀✿❀✿かりん(スーちゃん)様、いらっしゃいませ✿❀✿❀✿
本名が藤沢ゆかりだったりして・・・。
まあ、有名人が縁者にいると
研究者になるか。
ふふん・・・となるか。
もっと有名人になるか。
リアクションは様々ですが
ま、特別な感情は芽生えますよね。
キッドは何でも知っていたい病にかかっていますから
たちまちマニアになってしまいますが。
たとえば藤沢作品の舞台となるのは
庄内地方。
山形県は父方の苗字のルーツなので
(ヒント・面識はないけれど「お水の花道」の原作者はおそらく遠い親戚)
それだけでシンパシーを感じたりします。
もっともそうと知ったのは藤沢作品を知った後でしたけど。
時代劇もそうだけどある程度、
周辺知識があった方が好きになる確率は高い。
ネタバレ問題はあるけれど
レビューを書くのは
なるべく同じ喜びを共有したいという
根源的な欲望があると思うキッドです。
藤沢作品は地味というのはまさしく正鵠。
しかし、付き合ってみると
その地味さがたまらなく愛おしくなっていったりして。
かりん様も早くそんな境地になってもらいたい。
ま、亀ちゃんや山Pが
藤沢作品を演じれば
一発でがんすけんども。
キッドとしては
しんずれいしましだ・・・と
真田が言う度、
加藤茶さんを想起してギャハハなのですが。
投稿: キッド | 2006年12月23日 (土) 23時01分
キッドさん、メリークリスマス♪
DVDで見て、またTVを見てしまいました。山本周五郎は全部読んだので、藤沢さんは、大事に読んでます。でも油断すると、母が私の本を持っていってしまうので、何を読んだのか混乱します。でも、彼の作品ははずれがありません。
たそがれ・・は映画より、本のほうが良かったわ!と一言で切り捨てられました。
H★Cは、早速覗かせていただきました。楽しかったで~す。
ikasama4さんのイラストが、何て可愛いのでしょう。夢があっていいですね。
私はいつの間に掃除係から新聞記者へ?
投稿: mari | 2006年12月25日 (月) 01時40分
❁~✾~❁~~✾mari様、いらっしゃいませ✾~~❁~✾~❁
好きな作家の未読の作品があるのは
幸せですよね。
キッドはお気に入りはむさぼりつくすので
あっという間に再読の楽しみしかなくなってしまうのです。
限りある人生を
他人の書いた書物で費やすことを
キッドの中の誰かは否定しますが
人生を豊かにするには必要だという意見の方が
キッドの中の多数決で勝利します。
キッドは小説も映画もそれなりに
パーフェクトだったのです。
小説は見せない喜び。
映画は見せる喜びですから。
H☆Cの沖縄活動報告は今日あたり
アップしようと思ったのですが
ミキちゃんが大花火を打ち上げましたので
少しほとぼりをさましています。
mari様も登場しますので
どうかお楽しみに。
投稿: キッド | 2006年12月26日 (火) 00時05分