てる、おはよう、みやこちゃん、おはよう。(僕の歩く道)
人の心というものは解明されたようで解明されない不思議なものだ。しかし、人は歩いていく。歩いていくと道ができる。道は心の中にも外にもある。様々な人の通る道もあれば、ほとんど人の通らない道もある。人の心の中は幸せに通じる道を探している部分があるという人もいるし、そうとは限らないという人もいる。もちろん、歩かない人だっているのである。だから、人というものは解明されたようで解明されない不思議なものだ。
一般的な人とは何か。説明することはできるが万人を納得させることは難しい。このドラマの主人公が一般的な人であるかどうかを判断するのも難しい。いや、人であるのかどうかも定かではない。
しかし、それではあまりにも虚しいので、彼もまた人なのだと思ってキッドはずっとこのドラマを見てきました。
で、『僕の歩く道・最終回』(フジテレビ061219PM10~)脚本・橋部敦子、演出・河野圭太を見た。草彅剛の主演での三部作の最終回である。脚本家とのコンビは『スターの恋』(2001)もあり、草彅は二十代の後半を、脚本家は三十代の後半を共に過ごしてここにたどり着いた。そういう意味で脚本と演技者は実によどみない歩調で「人」と「人でない人」のボーダーラインを示す物語を描ききったと思う。
本編の主人公は自閉症である。自閉症としては多くの医師が「軽度」と診断するレベルの障害がある。31才だが10才程度の知能しかない。場合によって10才の人ならできるであろうこともできない。しかし、10才の人ができないことをできる場合もある。ここで理解すべきは主人公テルが理解しにくい人であるということだ。彼はいつもと違うことをするのに困難があり、カレーはチキンカレーしか食べない。大きな音でパニック状態になる。そして違う道を通って家路につくこともできないのである。
そんな彼を母親と兄夫婦と甥、妹。そして幼馴染のみやこ(香里奈)が支えているというのが物語の発端だった。テルは厄介者であり、人の世話にならなければ生活できない人である。死んだ父親は登場しないが、生前はテルを人でない人として接した気配がある。テルを生かすための苦労は母親が背負い、それは兄妹の成長過程に絶えず負担となっていた。人でない人の兄、人でない人の妹として、様々な暗い影が心に刻まれている。
そんなテルに転機が訪れたのはみやこの紹介による動物園への就職であった。みやこはテルを人であると考える数少ない人であり、彼女の努力により、テルは人の世界に受け入れられて行く。仕事場の先輩をあきれさせ、園長には人でない人であることを半ば利用されつつ、仕事の幅を広げ、世界をひろげていく。人に近付いていくのである。
これはテルが発達可能な自閉症であるためであり、自閉症のすべてがそうであるとは言えない。しかし、そうであるか、そうでないかの判別は人には難しい。とにかく、テルは発達し、やがて他人に影響を与えるまでになっていく。このドラマの惹句である「純粋な男」という表現にキッドは抵抗があるのだが、外界への対応力や自由度に限界があることが純粋であるとすれば、そうであるがゆえに特異な影響を与える存在として、テルは「人より多くできなくてもできることを一生懸命やればいい」という母の教えで出世病に取り付かれた園長を救い、「ちくってんじゃねえよ」と鸚鵡返しをすることで若い人に反省を促し、「緩やかな成長を示すこと」で自閉症の子供を遺棄した過去を持つ父親の心を和ませる。
つまり、人は人とつながっていくから人であるという意味で彼も人であることを示すのである。そして、彼は人は人に愛されるから人であるという段階に足を進めていく。みやこは欠損家庭という背景で人でない人の部分をもっており、不倫関係という人でない人への日常があった。そういう意味でテルは彼女にとっても人でない人であった。やがて彼女は不倫相手の離婚後、彼と結婚することで人でない人からの脱出を図る。しかし、夫は隠れた人でない人だったのだ。人でない人と結婚した彼女はまたもや人でない人になってしまう。家出。そして離婚。その時、みやこはテルが人であったと気がつくのだ。そしてテルを愛するのである。ここはかなりのファンタジーであるが、ドラマだから当然なのである。
テルはロードレーサーという人にしかできない行動をなしとげ、また一歩人に近付くのだが、ついにはみやこに愛されることにより、人に愛されるから人の領域にまで足を運んでいく。このファンタジーを草彅剛と脚本家は淡々と描き、人でない人も時には人になるかもしれないという希望の物語を完結させるのだった。
関連するキッドのブログ『第一話のレビュー』
僕シリーズは共演女優を一挙に開花させるのだが、このドラマも香里奈を申し分なく魅力的な存在に押し上げている。人は時にはペットに癒されるというが、障害者にも同様に癒される。癒されることもまた人でない人と人を分ける能力の一つであるからだろう。だから、きっと多くの人がこのドラマで癒されたのではないかと考える。
木曜日に見るテレビ『Dr.コトー診療所2006・最終回』(フジテレビ)VS『嫌われ松子の一生・最終回』(TBSテレビ)
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コメント
おはようございます♪
遅くなりましたが、最後くらいはと思って
頑張って書き上げました。
僕とはかなり見方が違ってるようですが、
それよりも文体。キッドさんらしいですネ。
小市民の僕には絶対書けませんよ!(^^ゞ
さすがは、銀河系規模のストライクゾーン。
香里奈も申し分なしですか。
僕は、りなの方がまだマシかな。
むしろ自転車に萌えるドラマでした♪
それにしても香里奈は愛してるんでしょうかね。。
出来がいいのはもちろん認めますけど、
このドラマ、見返す気になります?
ちょっと優等生過ぎるし、僕はむしろ、
出来の悪い『ひと恋』の方が
見返す気になっちゃうんですけど。。☆
投稿: テンメイ | 2006年12月21日 (木) 05時52分
○-○)))テンメイ様、いらっしゃいませ。○-○)))
なかなか朝が来ないので睡眠不足になるという
人でない人の生活。
さすがに仕事をきりあげなくちゃもたないな。
と考えている時にテンメイ様がお見えになり
まあ、キリがいいことにしました。
このドラマはテンメイ様と知り合うきっかけに
なったドラマなので
まあ、それなりに思い出深いドラマです。
ロードレーサー&プロガーと
ロードレーサードラマとの縁。
純粋であり不完全である人間。
テンメイ様の言葉に対するこだわりに
少なからず天命を感じたキッドでした。
キッドは実名ブロガーなので
まったくオブラートにつつまないわけではないのですが
デリカシーのかけらもないと評されるキャラなので
もしも問題発言とお気づきの場合は
遠慮なくご注意くださいね。
香里奈は愛してると思いますよ。
人は人を愛するとは限らないし
むしろ、人を愛せない場合も多いと思いますが。
このドラマはまったり感でいえば
たっ恋を上回る進行だと思いますが
障害者というキワモノがあるので
興味をつなぐための保険がかかっています。
そういう意味では情報は消費されやすいので
分析的興味はそそらないかもしれませんね。
キッドが再視聴するとしたら
初回の香里奈の爆発部分かな。
長山藍子の演技を見直すという機会もあるかもしれません。
キッドは『たっ恋』の出来が悪いとは
思いませんが、
すでに三度見している『のだめ』にくらべると
いくら綾瀬がど真ん中の直球でも
二度見をするかどうか微妙です。
「セカチュー」「白夜」とピックアップで見て
「たっ恋」も見ておくかという場合ぐらいですかね。
さあ、次はどの物語がテンメイ様の心をとらえるのか。
楽しみです。
投稿: キッド | 2006年12月21日 (木) 06時33分
この僕シリーズのドラマは
できるだけ無駄な台詞は省いている分、
無音の間、室内の音、そして出演者の行動で
その場の雰囲気やその人の感情を表している点が
淡々としていながらも、すんなり受け入れられるのが
ポイントとしてあるように思います。
室内を歩く音、電気のノイズ、空調の音。
この辺の細かい部分は流石フジといったとこですね。
また、自閉症という障害を扱いながら
その描いた姿は今の社会に生きる人と人との
こうあればうれしいと思う姿を映し出しているような点も
見逃せないところです。
なるほど、たしかにドラマの目玉となる
「キワモノ」は不可欠なのでしょうね。
そう考えると次回のドラマには
イマイチ、ピンとくるものがありません。
さて、とりあえずはフタを開けてのお楽しみという事になりますかね。
投稿: ikasama4 | 2006年12月22日 (金) 00時31分
✥✥✥ピーポ✥✥✥ikasama4様、いらっしゃいませ✥✥✥ピーポ✥✥✥
この番組のアソシエイトプロデューサーの石原隆氏は
キッドより少し年下ですが
企画者としては相当に優れもの。
最も有名なのは「古畑」ですが「踊る」にもからんでるし
「世にも」もやってます。
なかなかにオタッキーなので
「美少女仮面ポワトリン」なんかもやってます。
しかし、キッドが最も評価するのは
ハートウォーミングストーリーのプロデュース。
「お金がない」とか「やまとなでしこ」「HERO」
キッドが観月作品で一番好きな「私を旅館に連れてって」
そして「スターの恋」から僕シリーズ。
う~ん。いい仕事してるなーっ。
さまざまなスタッフがいるからできるドラマですけど
僕シリーズの「しんとした感じ」
の味わいはトータルな部分で石原氏が影響を与えていると
考えています。
このワクは基本的には関西テレビワクですが
僕歩くの前の「結婚できない男」も
なかなかでした。
脚本は違いますが演出・プロデュースは
重複していますので「ヒミツの花園」には期待しています。
マンガ作家がらみの話がうまくいったためしはないのですが
とりあえず釈ですし。
投稿: キッド | 2006年12月22日 (金) 03時27分