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2007年1月27日 (土)

私は満州にありがとうと言うわ・・・。(常盤貴子)

ラストシーン。無価値となった満州国紙幣をばらまいて「満州のバカヤロー」と叫ぶ男たちをあざ笑うように常に前向きに自身のエゴを貫く主人公はつぶやく。すべて現実に起こったことかどうかは当時七才の原作者に理解の範囲でそうなのだと思う。

とにかく、ものすごい美人の人妻なのである。美しいので年齢も定かではない。自由奔放にふるまい、やりたいことをやり、いいたいことを言う。己の欲望に恥じることはなく、己の生のあるがままに生きる。だから、汚れることもなく、敗戦を乗り切っていく。美しい怪物。常盤貴子がこの難役を淡々と演じていく。

監督は『冬の華』(1978)から淡々とした映画を作り続ける人なのでこの作品も淡々としている。キッドはあまり買わないが、常盤の美しく白い背中を記録にとどめただけでもこの作品は価値があると思う。常盤、美しいよ。常盤なのである。

で、『金曜ロードショー・赤い月(2004)』(日本テレビ070126PM0903~)原作・なかにし礼、脚本・井上由美子(他)、監督・降旗康男を見た。波子(常盤)は満州国で軍部にとりいり、成功をおさめた酒造会社を経営する夫(香川照之)と長男、長女(斉藤千晃)そして幼い次男(なかにし礼がモデルと推定される)とともに栄華を堪能していた。軍には昔の恋人(布袋寅泰)もいて、さらには商社員を装った情報将校(伊勢谷友介)とも情を交わすという、愛がなければ生きている意味がないという魔性の女である。

夫はそんな妻に激しく嫉妬しながらも愛を断ち切れずに悩むのだが、そんなささいな人の心の営みを粉砕するかのように大日本帝国は崩壊を開始する。ここに数奇な運命に翻弄されるロシアの娘(エレーナ・サハロヴァ)がからむ。帝国ロシアから追われた父が関東軍のスパイとなるため、人質となり、自身はソ連のスパイとして波子の家の家庭教師となるのである。

主人公がまったく善の存在でないことは恋人を独占するためにロシアの娘を軍に密告することで明らかになる。そのためにロシアの娘は恋人に一刀両断されることになる。描写は血しぶきで表現されるが、反戦平和を主張する波子がおのれの犯した罪におののくためにはゴロンと首がころがるくらいの描写が必要だったと思う。

もちろん、波子はただロシアの娘を恋人から遠ざけたかっただけで、この結末を望んだわけではないのだが、人が無知から恐ろしい結末を導き出すことは「自分の息子が出征するのに万歳と叫ぶことは出来ない」などという底の浅い反戦論を語るよりよほど説得力のある愚行の証明であり、この辺が淡々としているのがもったいないと考える。

ロシアの娘と同時にドイツを屈服させたソ連軍は東部戦線に兵を送り込み、火事場泥棒のような対日参戦を開始する。満州国は崩壊し、波子一家は路頭に迷う。「生」にこだわる波子は恋人たちのコネを最大限に利用して、牡丹江から脱出する。強姦され、殺され、飢えに苦しむ脱出行ではなく、顔も汚さずに生き延びていく波子は幸運に包まれているという他はない。生活力を失った夫はそんな波子をもてあまし消極的な自殺をはかる。そして、波子は阿片窟で失意の恋人を発見。「性」にこだわる波子は恋人を自分の身体で復活させようと試みるが、罪の意識に悩む恋人もまた波子のようには生きていけない。「まったく男ってやつは」なのである。波子の長女や次男はそういう下半身のだらしのない波子をなじるが「生きることが一番大切なのよ。生きて生きて生き抜くの。生きるためには愛する人が必要なの。あなたもそのうちきっとわかる」と独自の理論を展開するのだった。

その後、波子と子供たちは日本に帰国するのであるが、絶望する男たちを尻目に冒頭のセリフを述べる。そう、この世界は「楽しんだ」ものが勝つのである。もちろん、この映画は常盤貴子が美しいことをのぞけばそれほど楽しい映画ではありませんが。

自分の母親についてその美しさを賛美する物語を語ることのできる男は幸せと言えるだろう。常盤貴子に今、男の子がいれば、将来、その資格を得るのだが、常盤も30代半ば、そろそろ、どうなの・・・と言っておく。

ところで『花より男子2』では井上真央がいちゃいちゃで加藤夏希に復讐ラスト。来週は貫地谷しほりがミツの転生として登場するのだな・・・それは違うと思うぞ。

日曜日に見る予定のテレビ『風林火山』(NHK総合)『華麗なる一族』(TBSテレビ)

ところでSPAMコメントが一日50件を越えたのでしばらく、承認制度に移行します。

皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。

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