脱がされて挟まれて奪われて二宮和也は腰が抜けたのだが、仔猫の三四郎も猫車三太夫も仲村五作も見えたりはしないわけで。
猫車じゃ、猫車じゃーっ。猫車が通りますーっ。神社の境内に猫車が回ります。猫に引かれて回ります。回り回って気がつけば、天界目指して昇ります。猫車、昇ります。なーんにも心配なーいの。
・・・呆けたというより壊れたワケだな。いや、充分に呆けているわけだが。日ごろから躁状態に陥りやすいキッドとしてはなんとも楽しくせつなく背筋が凍る夢子(八千草薫)である。ああ、妄想と現実の区別がつかなくなるその日。まっ、行ってしまえばそれはそれでハッピーなのである。取り残された皆さんには申し訳ないのだが、それもまた知ったことじゃなくなるのだから問題ないな。
視聴率12.4%なのだが、ドラマに現を抜かすという意味ではこれ以上の作品はないだろうに。しかし、もう少し知的水準の低い人々もとりこもうとするとこの味は出せないかもしれん。ま、どちらにしろ現実逃避に熱中したり、醍醐味を感じたり、そういうことは趣味にすぎないですから。幸せは人それぞれですから。
で、『拝啓、父上様・第9話』(フジテレビ070308PM10~)脚本・倉本聰、演出・宮本理江子を見た。一平(二宮)はまんじりともしない夜を過ごす。視聴者の中には「母親を侮辱された一平が若女将・律子(岸本加世子)と対決する」なんて展開を期待したりする人もいたのかもしれないが、それは一平には無理な話のわけで。一晩眠らないで考えたあげくに早朝、何も悪くないのに殴られて顔を腫らした時夫を揺り起こして、まくしたてる口上は「じっと頭を低くして、嵐が吹きすぎるのを待てば、今日よりは明日、今年よりは来年、どんどんつらさは薄れていくから、ただひたすら耐えろ」というほとぼりさまし論なのだった。もう「かっこよさのかけら」もありませんから。おそらく時夫としても「せこい」と言いたかったのだが、一平よりも大人なので「いや、お兄ちゃんも悪知恵が働くね」と精一杯気をつかってお世辞を言う。一平はそのお世辞にも気がつかず、「悪知恵ってなんだよ。オレはお前のためにも考えてやったんだぞ」である。いえ、一平ちゃん、どう考えても自分のことしか考えてませんから・・・。思わず時夫も一言。エリ(福田沙紀)のプレゼントを思い出させ、それが高価な手袋と知り、「なんだかお嬢さん、可愛そうだ。ミフィーちゃんのぬいぐるみも買ってもらえないなんて」とチクリである。ようやく、心がとがめた一平だが。本当にエリの気持ちが分かったかどうかは・・・キッドは微妙だと思います。とにかく、「悪いのは自分」と言い訳することで心が一杯の一平。竜次(梅宮辰夫)に会っても言い訳を猛スピードで続行。「時夫は悪くないんです」って誰も時夫が悪いなんて思っていませんが。悪いのは「目の前のお宝に目がくらんで後先考えずに未成年者を未成年者に預けたあなた」ですから。しかし、役者が上の竜次はぐっすり眠りこけているのだった。
結局、針のむしろの一平。律子に文句を言うどころか、律子に口を聞いてもらえず、エリには無視された上に時夫を立てられて、「これも身から出たサビ」と不満さえ、もらすのである。いいですか、皆さん。一平はこれっぽっちも反省してませんからーっ。だって何を反省するべきか分かってないんですからーっ。こういう「にぶさ」が新坂下の婿の必要条件なのですねーっ。
一方、着々と坂下消滅の日程は進み、それが現実と思い知る夢子の心の歯車は静かに狂い始めていくのです。保健所が処理した仔猫の名前を呼び、「あっちの世界」と「こっちの世界」の境界線がほころびはじめ、一般人が見逃す猫の集会を発見し、こっちでは葬儀のすんだ旦那の猫出棺の儀の噂を信じ、やがて・・・。
もちろん、にぶさでは右に出るもののない一平がこの変調に気がつくはずもないのです。下っ端ばかりが集まる納会。新坂下に誰が残れるかで残留未定組が大荒れ模様に。一平はどうやら残る気もあるらしい。おいおい。そして、酒に溺れた澄子(森下千絵=富良野塾)は猛獣に変身。唇を奪われ、ベルトを抜かれ、下半身で挟まれた一平は「ちょ、す、ま、あ゜」「ちょ、す、ま、あ゛」「ちょ、す、ま、あ゛」なのだった。
危うく虎口を逃れた一平は貞操の危機で汚れちまった自分を慰めるためにルオー(久保隆徳=富良野塾)の喫茶店へ。そこでフランス語会話集をゲット。さらに「暮れに水商売の女は自殺しやすい」と怪しい統計論を聞かされ、34才から48才が女の盛りなので42才で女盛りのピークにある母・雪乃(高島礼子)のもとへ。
雪乃は鈍い息子の母とも思えぬ鋭さで息子の恋を直感。「さびしいけどうれしくなる」のであった。「こっちの世界」では年越しに恵方の高所に穴八幡宮の一陽来複のお札を貼ると厄払いができるというビジネスがあるのだが、それをビジネスと思う息子とビジネスと思わない母との間で軽くバトルが行われる家庭もあるだろうが、やっぱりビジネスだと母が突然意見を変えたりして息子が妙に淋しい気分になったりする家庭もあるだろう。しかし、雪乃と一平の親子には無関係で、貼れと言われたら素直に貼るのだった。年越しというあるのかないのか分からない一点にむかい、適当に。しかし、ご利益があろうとなかろうと子を案ずる母の案じられた子のくすぐったい心のやりとりが幸せというものだからな。
母から授けられた七福神巡りの元日デート大作戦。意中の人・ナオミ(黒木メイサ=女性版の要潤であるという指摘を某掲示板で目にした。コミック「8マン」にはエリートという超天才少年少女が登場するのだがこの二人が中学生ぐらいだったらピッタリだったとキッドも思う)と会うだけで一平はすべてを忘れることができるのだった。しかし、このデートをこっそり観察する雪乃と夢子。ま、人にもよると思うが、これが後から発覚すると問題になることもあるような気がするのだなぁ。ま、こういう遊び心が分からない女性となら問題になってもいいとも思うが。ともかく、楽しいデートと同時進行で夢子の華やいだ心はどこまでも上昇が止まらなくなってしまうのだった。
こわいヤクザの親分かもしれないナオミの妄想上の父親が待つ鎌倉の実家へと彼女を送り出した後で雪乃に電話した一平は「おかあさん(大女将としての夢子の呼称)がこわれちゃった」と告げられる。
たちまち、大騒ぎの坂下。「あっちの世界」で幸福になった夢子。「熊沢の旦那(小林桂樹・律子の父親で夢子の愛人の政治家)は死んでいなかったのね。党の方針で死んだことにして北朝鮮に潜入していたのね。そして主席様と一緒に羽田に着くのね。坂下は秘密の迎賓館になるのね。好物のかぶら蒸しお願いなのね。これから、私はお化粧するのね」なのである。伊豆に年越しに出かけた娘一家も急遽帰京。「何にも心配ないの。あの人はエリを目の中にいれちゃうかもよ。おほほほほほほほ、へへいへーい」なのであった。「母さん」「おばあちゃん」娘も孫娘も悲鳴なのである。
薬物で眠らされた夢子は病院に運ばれる。病院のソファでうなだれる雪乃と一平。「デートの邪魔してごめんね」と言う雪乃に「雪乃ちゃん」と呼びかけずに「母さん、女将さんは・・・」と神妙な一平。ふらりと現れた律子はすわりこむと名演技を披露。「雪乃ちゃん。私が悪かった(?)、私が母さんをああなるように追い詰めた(?)・・・そうだよね。え゛ーん、ええ゛ーんっ」・・・一平の心に何かが去来して・・・つづくである。大傑作。
関連するキッドのブログ『第8話のレビュー』
宝石のようなセリフの数々なので何回でもリピートできる。まさに珠玉の作品になってしまったのだなぁ。すごいなぁ。まあ、キッドはエリの胸もんだあたりから引き込まれているわけで。動機は不純なわけで。しかし、一平のような純な心はもう遠い昔に置き忘れたわけで・・・上手く言葉にできません。
土曜日に見る予定のテレビ『演歌の女王』(日本テレビ)
ところでSPAMコメントが一日50件を越えたのでしばらく、承認制度に移行します。
皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。
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コメント
確かにボケてしまうのと妄想の世界から戻れなくなるのは同じ事なのか?キッドさんは超妄想ボケ老人になりそう・・・。ちょっと見てみたい!!近寄らないと思うけど・・・。
投稿: お気楽 | 2007年3月 9日 (金) 21時48分
✞✞エコエコアザラク✞✞お気楽様、いらっしゃいませ✞✞エコエコザメラク✞✞
そうなのでこざいますよ。
キッドはこれでもかなり慎重に妄想を選択して
口に出しているのでございまして
心の中ではもう本当にとんでもない妄想をしておりますの。
これが、ストップかからなくなって
妄想丸出しになったら・・・。
いや、妄想で行動しだしたら・・・。
そのように妄想しますと
もう、妄想ながら恐ろしいのでございます。
あれも妄想。これも妄想。きっと妄想なのです。
投稿: キッド | 2007年3月 9日 (金) 22時58分
富良野塾の役者さん、多いんですね。キッドさんてば何でもご存知ですねえ。
そこであんな、いけないことを教わったなんて。
でも、ニノが無事でよかった~~。
ああっ!上にお気楽さんが・・もうお気楽さんも爆笑なんだもん。
何しろ、ヒミツの花園の陽そっくりの美少年らしいので・・そら、狙われるわね。ほうほうの体で逃げたのね?(爆
しかし、夢子の妄想もステキでしたね。国家機密だったっけのダンナさまは北朝鮮から帰ってきて会合。
いつの時代へトリップしてるんでしょ。
きっと楽しい時代があったのね。けなげに鼓のおさらいするのを見て複雑な涙を禁じえない。つか、明日は我が身、同類だったりして。
投稿: かりん | 2007年3月 9日 (金) 23時22分
ニノの妄想の世界を一気に抜いた出来事に(笑)彼自身が
圧倒されていましたね。そんな演技は上手でした。
澄子は、ニノを狙っていたのでしょうね。
夢子さん、あのはしゃぎようが凄かった!やっぱり壊れましたね。
投稿: mari | 2007年3月10日 (土) 02時06分
キッドさんこんばんは。いつもTBありがとうございます。
このドラマ最初は淡々と見てたのに途中からジワジワ効いてきました。倉本聰おそるべし!ですね。
夢子の「いい女じゃん!」っていう言葉使いや「北朝鮮へ潜入してた」という妄想など、小技にけっこうしびれてます(笑)
※TBを返したいのですが、なぜかいつもエラーになってしまい戻せてませんm(_ _)m
投稿: 小龍 | 2007年3月10日 (土) 02時21分
>黒木メイサ=女性版の要潤であるという指摘を某掲示板で目にした
なるほど~いい線いってますよね~
じゃあ、黒木さんの未来も・・・
でも、要潤よりも異質な感じも・・・
何かどのドラマに出ても違うんじゃ?と思わせるものがあるんですよね~
そこが逆に魅力なのでしょうか?
いつかぴったりと来た黒木さんを見たいような見たくないような・・・
まさか夢子さんの妄想に北朝鮮がかかわってくるとは・・?
意外なセンスにますます夢子が好きになりました。
投稿: きこり | 2007年3月10日 (土) 10時03分
こんにちは~!
夢子さんが、あっちの世界に行ってしまって、周りは悲しんでいますが、本人は何だかとても幸せそうでしたね。
妄想がまた、とてもユニークで、一平の妄想どころではない、スケールの大きさまで感じてしまいました。
それから、あの問題の場面のお相手がスミ子さんだったのには、びっくりしました。
で、キッドさんも猫車に参加されましたか?
投稿: さくらこ | 2007年3月10日 (土) 10時32分
✿❀✿❀✿かりん☆スー様、いらっしゃいませ✿❀✿❀✿
いえ・・・キッドは富良野塾を応援しているわけでも
けなしているわけでもないのですが
たくさんの俳優さんがいる中、
ちょっと濃度が濃いのが気持ち悪いのです。
いや、別に情実じゃなくて
実力だとしてもバランスが・・・。
お気楽様の体験談は内緒だそうなので
ここでは深く触れません。
政治家の愛人の妄想。
愛人は蜂の一刺しとか
泥を塗って無理心中とか
ああ、色恋を政治に持ち込むなよ・・・と
世間を面白がらせる人もいますが
愛に燃えて
最後は妄想の世界へ。
楽しい愛人です。
笑って泣けます。
かりん様はピチピチでございますから
遠い未来のことでしょうが
じいやはじいやだけに
まさに明日か明後日は我が身でございましょう。
なーんにも心配なーいのっ。
投稿: キッド | 2007年3月10日 (土) 23時52分
❁~✾~❁~~✾mari様、いらっしゃいませ✾~~❁~✾~❁
確実でございます。
まず、「帰る方向一緒」ですから。
これが一平いただきます計画の根底にあります。
娘を実家に帰す。ベロベロに酔ったフリをする。
もうこれ以上飲めない演技。
一平に送らせる。途中、開脚で刺激する。
歩けないフリでベッドまで。スイッチ・オン。
しかし、一平の逃げ足の速さが計算外だったのです。
夢子の壊れる演技はやはりさすがで
ございました。
後ろからムフフとせまってきた時にもはや
体力以上の勢いを感じさせましたからね。
あれだけ走れるってすごいなっ。
投稿: キッド | 2007年3月10日 (土) 23時59分
♨♨♨♨♨♨~小龍様、いらっしゃいませ~♨♨♨♨♨♨
倉本先生は最近、ちょっとなんだかなじめない作品が
多かったのですが、これは久しぶりにうっとりです。
北朝鮮については主席様と極悪キムジョンイルらしき人を
敬称で呼ぶところがああ、女将っぽいと感じました。
TBは特に規制もしていないのですが
貼れない方もいらっしゃるんですよね。
キッドもはれない方がいます。
はれないと虚しいんですよね・・・。
お手数かけてすみません。
また遊びにきてください。
投稿: キッド | 2007年3月11日 (日) 00時06分
❆❆コタツミカン❆❆きこり様、いらっしゃいませ❆❆ハルハマダマダ?❆❆
印象として庶民的じゃないんでしょうね。
エキゾチックな感じもするし・・・。
日本はシルクロードの極東ですから
別に混血でなくても
時々、潜んでいた遺伝子がのっぺりしていない顔を
生み出すのですが、
どうしても違和感は生じる。
だから今回の役は「異世界の人」としては正解なのですが
やはり、神楽坂サイドから見ると違う意識が出ますね。
白虎隊ほどではないけれど。
ま、まだお若いので馴染んでいけば
愛されるような気もします。
香椎由宇とダブル鉄仮面をやってもらいたい。
・・・どんな話だっ、それは。
一応、政治家の愛人ですからね。
熊沢の旦那、北朝鮮に太いパイプがあったのかもしれない・・
とか、想像してしまいました。
投稿: キッド | 2007年3月11日 (日) 00時18分
❀❀❀✿❀❀❀~さくらこ様、いらっしゃいませ~❀❀❀✿❀❀❀
きこり様以外でお声がかかるとは・・・。
うちはもっと場末のネコなので
そんな華やかな行事には参加しにゃあいのですにゃ。
ま、噂で聞く程度ですにゃ。
猫神輿だと威勢のいいのが担ぎに行ったりしますにゃ。
猫車は猫貴族のアレですからにゃー。
工事現場のネコ車とは違いますからにやー。
先週の予告編はエリともナオミとも見えるように
作ってありましたが
ベッドにあったぬいぐるみで
ああ、娘からもらったアレなのね。
で、澄子と思ってました。
狂騒状態は長引くと体に負担がかかりますからにゃー。
ま、夢を見たままで幸福に旅立てれば
それはそれで本人は幸せでしょうね。
周りは大変だけど・・・。
投稿: キッド | 2007年3月11日 (日) 00時28分
このドラマでは初コメントです。
実は女将さんが家出した回からしかみてないんですが
回を重ねるにつれ、面白くって!
他のドラマが回が進むにつれ、
何かぶれていく気がするのに・・
「これが脚本家の力の違いなのね」by八千草薫
女盛りは34~48歳説には元気もらいました(爆)
投稿: Eureka | 2007年3月11日 (日) 15時32分
✛✛Paradise✛✛Eureka様いらっしゃいませ✛✛Paradise✛✛
その回あたりから面白くなっています。
その前の森光子さん、ゲストもなかなかでしたけど。
今回の岸本加世子は
親の死に目な会えなかったというその前の回を
見ているとさらに味わい深いのですが・・・。
まあ、地味にフリを重ねていくという基本が
どんどん効いて行くという
ドラマとしての基本テクニックが
通用しなかったり
できない作家がいたりもするのですが
久しぶりにそういうドラマなのです。
キッドは女性は生きている間、
ずっと盛りだと思っています。
男は・・・盛りなんてねーよーと
思うことしばしばです。
投稿: キッド | 2007年3月12日 (月) 06時33分