私、クビになっちゃったんですーっ。(加藤あい)
おいおい、また使えない奴になっちゃったのかよっとツッコミたいところだが、それでこそ、加藤あいである。加藤あいはキッドにとってはいつまでたっても「こけしの女」なのである。「ハケンの品格」の裏・主人公として普通の女の子の成長を見せた後で、ちょっと人格的に問題ある女の子になって知らない間に殺人者。こけしだ。こけしそのものだ。もちろん、それは「池袋ウエストゲートパーク」(2000)のヒカルの記憶が濃すぎるからなのだが、ピチレモン出身のこの深キョンの同級生は独自の世界を切り開く。キッドの重要な脳内キャラクターである。
今回、目玉は「加藤あい」だが、残り四作品は常連プラス「バンピ」(櫻井翔)である。彼は「木更津キャッツアイ」(2002)の「モー子狙いのエース」として固定されている。う~ん、世紀末からこっち、宮藤官九郎の作り出すキャラクターおそるべしだな。
短編、あるいはショートショートの場合、このようなタレントパワーとフリとしてのキャラクターは重要な要素となる。そのままよりかかるにしても、裏切って予想外の役どころを演じさせるにせよ、である。こうした無作為のコピーというか、量産化に際し、原型師にギャラを支払うシステムがないのはこの世の不条理の一つなのだな。
で、『世にも奇妙な物語・'07春の特別編』(フジテレビ070326PM9~)企画・石原隆(他)、音楽・蓜島邦明、ストーリーテラー構成・中村樹基、ストーリーテラー演出・植田泰史を見た。ストーリーテラー・タモリは料理店の支配人として奇妙な料理を振舞うという設定。最後は「奇」なるスープを出す。第三話の前フリで「スパルタ教育」について触れるのが記憶に残る程度。あっさりである。
①「才能玉」脚本・大野敏哉、演出・植田泰史。奇妙なアイテムのコメディー。悪漢探偵の逆転オチ。嫌な青い鳥エピローグである。奇妙なアイテムは魔物行商人ネタだが、「ニードフル・シングス」(S・キング)のように店舗を構える場合もあり、通信販売もの、ネット・ショップものと時代に応じて営業形態は変容する。「うる星やつら」ではラムが宇宙的規模のこの手の流通機構から奇妙なアイテムを買うのは定番ネタ。今回は「なめるだけで才能が開花する飴玉」をネット・ショップで手にいれる「才能のない若者」の話である。
ミュージシャン志望の若者(櫻井)はオーディションで「音楽的才能」がないことを指摘される。同棲相手の女(平山あや)からは「そろそろ将来のことを考えて」と言われる。ま、よくある光景だ。で、「アイテム」を手に入れる。基本である三つの願いで飴玉は三個。「どんな才能が開花するかなめるまで分からない」のが怪しいポイント。ここで禄でもない才能という手はあるが、なかなかに工夫がある。第一の才能は「画才」である。天才的な絵を描くが「画商は素晴らしいが100年早すぎる」と「価値」を認めない。しかし、大衆に受けていたぞ。第二の才能は「サッカーのリフティング」、たちまちスカウトされるが、「パスもドリブルもシュート」もできないので解雇されてしまう。しかし、試合に出るまでに分かるだろう。工夫があるのだが、詰めが甘いのである。第三の才能が「犯罪計画立案」の才能である。次々に浮かぶ犯罪計画。誘惑にかられる主人公。ここで「犯罪者」になれない「善人」であることがハッピーエンドに向かう。恋人を完全犯罪で殺すことを思いついたが、実行せずに警察官になるのである。しかし、計画することと、結果から過程を推理することは違う才能ですけれどね。ともかく、「バカとハサミは使いよう」ということで一件落着。しかし、本当は音楽の才能が欲しかった主人公。最後に恋人が飴玉を使用すると・・・である。
②「ヴァーチャルメモリー」脚本・高山直也、演出・星護。これも奇妙なアイテムのコメディーである。結末はバッドエンドっぽいが、記憶の消去が可能なこの時代の法体系はどういうことになっているのだろうか。どちらにしろ主人公(加藤)の「精神鑑定」は困難を極めるな。疑似科学として「人間の脳はコンピューターと同じ」という設定があるのだが、一般的なイメージとして「電気信号」を「コピー」した時に「オリジナル」を消去するというのはデジカメからPCへのデータ転送に際し、元データの削除を行うというサービスによる連想なのか。本人から記憶を奪うという「オチ」のための無理な仕掛けである。もう少し、魔法の方に寄せた方がしっくりくるネタでした。
記憶の認識に対する共感性というのは意外に穴だらけだからな、瞬間記憶、短期記憶、長期記憶という構成システムや、回想という再構成システム、そして物質的なメモリーと時間的なメモリーとの差異。そういうことを知っているものと知らないものの落差は大きい。地球が惑星であることを認知しない人と星の話をするような混乱が常にある。
ともかく、仮想現実を脳内に直接刺激で挿入できるシステムが普及し、レンタルビデオ店で他人のメモリーがレンタルできる世界。ドジでノロマなOLは上司(小木茂光)に叱責されてストレスがたまる。「スカッとしたい」ので刺激的な「他人のメモリー」を求めるのである。それが「レーサーの記憶」だったり「スタントマンの記憶」だったり「ワニ狩り」の記憶だったりするのだが、絶叫マシン感覚なのである。より、強い刺激を求める主人公はついに「裏もの」に手を出す。この裏と表の差ももう一つ。「ストリートファイト」だの「戦争体験」だのが裏になるという感覚がないキッドが特殊なのだろうか。ま、「暴力」=「非合法」という構図なのかな。
さらにどうやら、コピーできるらしい商品である。世の中はたちまち海賊版だらけになるはずだよな。
ま、とにかく、大金がないと「裏メモリー」を手に入れられない主人公の所に記憶のスカウト業者(ヨシダ朝=早大哲学科卒の怪優)がやってくる。「あなたの記憶、高く買う。売った記憶なくなる、い(いいですか)?」なのであった。
こうして「自分の記憶を売り、他人の記憶を買う」という売買のサイクルにとりこまれた主人公。これが一品ものなら、オリジナル売り上げ100万。市場価格200万なのだが、オチでは250万で売った記憶が200万で買えることから薄利多売、つまり量産可能が窺える。もし、システム的に一度記憶が消去されるにしても、量産価格で買い戻せば儲けは出るのである。そうしないのはシステムに悪意が混入しているのだな。脚本の穴とも言うが。
とにかく、記憶を売り、記憶が脱落するので仕事に支障をきたす主人公。ついに会社を解雇されてしまう。直後に高値で売れた記憶。それは殺人の記憶だった。その記憶の持ち主は・・・。「私、殺っちゃったんですーっ」(加藤あい)なのであった。うーん、いいんだよー。君はそれでいいんだよーっと思う人にはグッドエンドです。
③「雰差値教育」脚本・小川みづき、演出・佐藤源太。プラスアルファのネタ。だじゃれネタでもある。「雰囲気+偏差値=雰差値」ということ。で、教師ドラマのパロディーを行う。基本的には学力よりも心の発達を重視した教育に対する皮肉であり、冷笑もの。「心を評価・採点できるのか」という主張なのだが、そんなものできるに決まっているのだが。冷たい笑いをあびる女優としては右に出るもののいない永作博美が指導力に問題のある教師を演じる。「お調子者はお調子者らしく、不良は不良らしく、個性をのばす方針」というのがちょっと笑えた。ようするに「教室でくさい芝居が達成されるかどうかが問題」というコントである。立場を利用して主人公を追い込む上司が温水洋一。オチは「元の木阿弥」。あるいは「バカは死ななきゃなおらない」なのであった。スパルタ教育と関係なさすぎ。
④「午前2時のチャイム」脚本・演出・長江俊和。ウソから出たマコトもの。サイコもの。心理実験もの。日本では医療として認められていないホメオパシー(毒をもって毒を制す療法)を精神病治療に応用したもの。ようするに、擬似人格を作って逃避する多重人格の殺人狂に本人が忘却している擬似人格を暗示によって挿入し、擬似人格と擬似人格を対立させ、本来の人格を覚醒させようとするという、もう書いていても何が何だかわからない設定。サイキックはキチガイでもあり、超自然能力者なのだが、その隙間から異界のものが侵入してくるスーパーナチュラルホラーおちである。
ちょっと頭がおかしい二枚目をやらせたら右に出るもののいない椎名桔平が患者を演じ、最後は都市伝説のマスク女に襲撃される。桔平萌えの人は見逃せない。治療チームに山口紗弥加がいて注射をしてくれるのでそれが好きな人にはうれしい。
⑤「回想電車」原作・赤川次郎、脚本・田村田孝裕、演出・土方正人。「死んでいるのに気がつかない」ネタ。「末期の夢」もの。「残酷な結末」オチ。ま、いい夢見ながら死ねてよかったと思う人にはハート・ウオーミングなハッピーエンドでもあるだろう。うらぶれて死ぬ小市民を演じさせたら右に出るものがいない小日向文世が電車の中で過去のいい思い出に繋がる人々と再会する住所不定の乗客を演じる。
関連するキッドのブログ『怪談・新耳袋・劇場版』
水曜日に見る予定のテレビ『復讐するは我にあり』(テレビ東京)
ところでSPAMコメントが一日50件を越えたのでしばらく、承認制度に移行します。
皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。
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コメント
キッドさん、こんにちは~♪♪
やっとメンテ終わりましたね~。
早速管理画面にGO・・・
ちょっと関係ない記事TBしちゃいました・・・
もしアレなら消して頂いて全然構わないです、
かぶってるのは・・・クドカンかな・・・
なして加藤あいさんは頭のよろしい役を
されないのでしょうか。
英会話学校のCMをアユタ君としているときは、
頭よさげに見えるのになぁ。
ヒカル。懐かしい。
石田衣良さんのご本は少し読んでギブですが、
アレはドラマ、面白かったですよね。
もう夢中でしたよ、
カラオケ行けば歌うのはSADS、
キングのちょっとダルイカンジの真似、
小雪さんの小悪魔ぶりを研究したり、
そう、ヤマトはあの頃24、5歳で、
感化されやすい年頃だったのでございます
(思春期ボーっとしてたから
思春期が遅れてやって来ていた)。
「世にも奇妙な物語‘07 春の特別編」では、
バンビもヒカルも大変そうでしたねー、
もう見ているこっちも大変でしたよー、
ヤマトはバンビとヒカル視聴後、
落としたピアスを探しに旅立ったので
2話しか視聴していないのです。
しかも白状すると、2話とも、
何かしながら片手間に見ていました。
製作者の皆様、
この場をおかりして深くお詫び致します。
(他人様のブログ内のスペースを勝手にかりる)
ちなみにヤマトの、
「世にも奇妙な物語」今までのベスト3は、
3位 永瀬正敏さん主演「プレゼント」
永瀬さん演じる男性が、国生さゆりさん演じる
美しい「異常者」に恋をして命をおとす。
2位 リト・・・妻夫木聡さん主演「美女缶」
美女缶という缶を隣人の部屋から入手した
妻夫木さん演じる青年が美女缶から生まれた
美女に本気で恋。美女缶から生まれた美女
には背中にバーコードで存在する期限が記されている。
でもオチは、妻夫木さん演じる青年の背中にも
バーコード。
1位 豊川悦司さん主演「ルナティックラブ」
ちはるさん演じる女性に恋をした豊川さん演じる青年
が、恋するあまり「異常者」へと変貌していく様が
美しく描かれている。
↑
監督が岩井俊二様あぁ!
うーん。我ながら乙女なチョイスです。
投稿: ヤマト | 2007年3月28日 (水) 16時20分
☆*⋄◊✧◇✧◊⋄*ヤマト様、いらっしゃいませ*⋄◊✧◇✧◊⋄*☆
ふふふ、東京タワーが終って
キッドとヤマトの交差点が
消滅しておりますので
クドカンで充分でございますよ。
加藤あいはきっと頭が良い役を
やると不気味になるのだと思いますね。
それでヒットをとばしたりすると
CM展開がしにくいのです。
こけしがギリギリなのですよ。きっと。
キッドだっていい加減いい御年でしたが
池袋で下車しようものなら
駅前でしゃがみたい気持ちになるのです。
山Pもきたろうも
一番かわいい年頃でした。
ならべるなーっ。
その二人をーっ。
リトル・・・のヤクザぶりも可愛かった。
キング父も可愛かった。
だから、ならべるなって。
ピアスが見つかってよかったですね。
神は奪うものですが時々返すのです。
「世にもベスト3」は難題ですが
3位「プレゼント」監督・今関、児童買春禁止法で実刑・・・。
2位「美女缶」男も女も恋も賞味期限つき・・・。
1位「ルナティックラブ」・・・あなた誰なの?オチ。
っていうか、みんな燃え尽きてます。
・・・しょうがないですねぇ。
キッドだと
3位「サイゴノヒトトキ」(2004春)永作博美たちが乗り込んだバスが崖から転落。そして空中で停止するドタバタ。オチはキッドはすでに地獄にオチと解釈。
2位「親切すぎる家族」(1990)古尾谷雅人が小日向さんの役回り。この手では映画版の「雪山」(2000)も好きだけど・・・。並べるなーっ。全然違う。
1位「BLACK ROOM」(2001)木村拓哉のすべての作品の中で一番好き。いまでも時々見る。『茶の味』の石井克人・脚本・演出。ドタバタだけどね。
全ての現実と幻想の死者の皆さんに合掌します。
投稿: キッド | 2007年3月28日 (水) 18時23分
こんばんは!
「世にも」は毎回はずれがないですよね。
今回もかなり良かったと思います。
私的には才能玉。
あれを舐めたら、才能のかけらもない私にも何かが
でてくれるかなとちょっと欲しいアイテムですね。
椎名さんのところ、私もよくわからなかったです。最後のあれは何だったの?
>山口紗弥加がいて注射をしてくれるのでそれが好きな人にはうれしい
このフレーズでだいぶ微笑をいただきました^^
投稿: かりん | 2007年3月28日 (水) 23時32分
なかなか面白かったですが
どこか「世にも奇妙な物語」っぽいというか
まとまっているというか
その物語の雰囲気を壊さない感じが
固いというかなんというか(;・∀・)ゞ
最近、YOUTUBEでこの手の作品が幾つか
あがっていてそれを見るのが結構楽しみです。
まぁ著作権とのいたちごっこのようですけど(苦笑)
世にもベスト3はムズカシいので
印象に残ってる作品を。
「ユリコちゃん」
故・河原崎長一郎さん主演のやつで
朝、起きて朝食を取る主人公。
でも娘や母の様子がおかしい。
「バーチャル・リアリティ」
錦織さん主演のやつでたしかこれが仮想現実めいた作品の
始まりではなかったかなと。
そして「穴」
故・いかりや長介さんの作品で
ある日、主人公が底の見えない穴にゴミを捨てた事から
物語が始まる―――。
これは結構最後のオチに笑ってしまいました。
皮肉たっぷりの作品でなかなか痛快でした。
「BLACK ROOM」あれは大笑いしました≧∇≦
今は旬の俳優である志賀廣太郎さんと樹木希林さんとの掛け合いは
なかなか面白かったですね。
木村さんがパソコンのCMのノリそのまんまっていうのも
良かったのかもしれませんが、完全にあの夫婦が食ってましたね(笑)
投稿: ikasama4 | 2007年3月28日 (水) 23時46分
✿❀✿❀✿かりん☆スー様、いらっしゃいませ✿❀✿❀✿
才能玉は軽いタッチでよかったですね。
櫻井くんは
二宮くんよりちょっと
ふくれっつらがカワイイ感じがする。
というのがキッドの印象。
それもすべてが「木更津キャッツアイ」に
引きずられたイメージです。
かりん様が
見てないなんて意外でしたよ。
もしも、機会があったら見てくださいね。
岡准、櫻井、佐藤隆太、塚本高史、岡田義徳
の友情物語なのですが
馬鹿馬鹿しくてちょっとせつない。
というテイストです。
じいやはこれで櫻井くんが好きになりましたよ。
椎名さんも山口さんも
どこか怪しい感じが
似合うのでございます。
投稿: キッド | 2007年3月29日 (木) 23時54分
✥✥✥ピーポ✥✥✥ikasama4様、いらっしゃいませ✥✥✥ピーポ✥✥✥
うーん、著作権は微妙なんですよね。
キッドは昔、痛い目にあったことがあります。
ある怪物のキャラクターを
著作権が切れていると思って使用し
法外な使用料を請求されたり・・・とかですが。
いちいち細かいぜっと思うのですが
たまに昔の作品の二次使用収入があると
著作権は守らねばっと思ったりして。
ikasama4様ベスト3はなかなかSF色が強いですね。
ユリコちゃんは筒井康隆さんの実は死んでいたネタだし
穴は星新一さんの「おーいでてこい」
パーチャル・リアリティーはオリジナルですけど
藤子不二雄さんによく似た短編がありますからねー。
ああ、古き良きSFの日々よ・・・ですねぇ。
志賀さんのお父さんが本当に奇妙な味でしたよね。
あの暗闇の向こうの果てしない空間。
あの不安で楽しい感じ。
そして最後の続きが見たくなるCGプレイ。
木村くんがからむと
どうしてもゴージャスになるように
世の中はできているようです。
投稿: キッド | 2007年3月30日 (金) 00時27分