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2007年4月 7日 (土)

どんな悲劇にも希望はある。(井上真央)

どんな失敗作にもそれなりに良い所はある。・・・というところでしょうか。少なくともシェイクスピアの『リア王』の現代版としては「悲劇」にしていない点で反則負けです。では喜劇と言えるかというとそうでもない。悲喜劇でもない、言わば茶番劇である。

辛うじて「西田敏行のリア王ごっこ」が見られる。「井上真央の屍の抱擁」が見られる。「池中玄太80キロへのオマージュ」が見られるというところでしょうか。もちろん、主役・西ヤンの熱演は楽しいし、原作の引用やいただき方のチェックなど客層に応じて楽しめる作品なのですが、総体としてグダグダです。

もちろん、「何をしようが人間は所詮死ぬのだ」という視点ではこれもまた悲劇である意味、「1リットルの涙」とは対極です。

まず、池中玄太について触れておきましょう。25年前(1980~81)の日本テレビのホームドラマで池中(西田)が血のつながらない三人の娘を育てるという筋立て。長女を杉田かおるが演じていて成人して歯科医(三浦友和)と結婚したりする。やがて再婚するヒロインが坂口良子である。今回、西田の亡妻が坂口であること、次女の結婚相手が歯科医(吹越満)であることなど、ファンがニヤリとする設定がありました。今回の長女(若村麻由美)が恋愛に対して奔放な点もこれに類するものと考えます。

シェイクスピアの「リア王」とはストーリー的にはあまり結びつきがありません。本作では娘たちは男に目がくらんだり、金に目がくらんだり、夢を追いかけたりするのですが、「リア王」は老いた王が痴呆症になり、その妄執という老害により愛するものをすべて失ってしまうというまさに普遍的な悲劇なのですから。

で、『夢二夜・シェイクスピアドラマSP・王様の心臓~リア王より』脚本・井上由美子、演出・雨宮望を見た。リア王ではいきなり、痴呆になった王が国を娘たちに譲ると言い出し、最愛の娘が父に対して愛の言葉を告げないという理由だけで追放するというスピーディーな展開である。シェイクスピアはつかみのうまさに定評があるのである。それに対し、本作は現代の王様・ハジメ(年商30億円の流通業の創業者・西田)が心臓疾患となり、別居している三人の娘に頼ろうとするまでの経緯が延々と語られる。連続ドラマじゃないっつーの。

基本的に心臓疾患というあたりがすでにパクりとしては邪道だと思う。リア王は体は達者なのに頭が耄碌するところが肝なのである。心臓疾患は頭はしっかりしているのに体にガタが来た状態で、話をなぞろうとしても無理があるのであり、結局、リア王とは名ばかりの物語になってしまう。ま、それが狙いなのかもしれませんが。

「リア王」では末の娘はファザコンである。しかも夢見がちで、理屈っぽいところがあり、さらに頑固である。そういう娘が己の正義に固執するあまりに父親の寵を失い、最後には戦争まで巻き起こして、敗北し、絞殺されるという悲劇でもある。その名はコーディーリアである。ドラマでは末の娘はさくら(井上真央)である。

さくらは大学を中退し、芝居の演出家を目指して劇団の大道具係をしている。照明係・金井(福士誠治)に想いを寄せている。コーディリアは父に追放され、フランス王に嫁ぐのだが、その時、姉のゴネリルが「あなたには従順なところがこれっぽっちもない。あなたがなにもかもを失くすのは失うだけの理由があったのよ」と言いコーディーリアは自分の妄想に酔いつつ「やがて審判の時が来ます。どのような悪魔のはかりごとも、神の栄光によって裁かれる日が来るのです」などと意味不明なことを言うのであるが、このセリフはさくらと金井が「リア王」のセリフを読みあう形で引用される。この他にも長女と次女が父の財産を巡って姉妹ゲンカを始めるとさくらは「思ったより、戦争が早く始まっちゃった」というのであるが、「リア王」では引退後も老害を撒き散らす父親に手を焼いた二人の姉が父親を追放するのを見て、フランス王をたきつけて英仏戦争を開始するコーディーリアなのである。ま、思い込みの激しい人間に権力や美貌を与えるとろくなことはないという話ですから。

さて、ドラマでは一代で財を築いたハジメの財産を狙い、長女ゆり(若村)と次女あやめ(中島知子)が争い、財産に興味がないさくらを巻き込んでドタバタを展開する。父親の援助でレストランを経営するゆりにはホストの恋人(大倉孝二)がいて経営は大赤字。夫の開業を父親に援助してもらったあやめは韓国ドラマに夢中の怠惰な専業主婦で二児の母である。ハジメが「一緒に暮らしてくれた娘に全財産を譲る」と宣言したために目の色が変わるのである。さくらはお金よりも芝居という夢見る性格なのでこの話にのらず、ハジメは深く傷ついてしまう。

結局、金のことしか頭にない長女と次女に嫌気のさしたハジメは会社に戻る。しかし、社長代理を務める黒田(佐野史郎)は経理の監査をして、ハジメの放漫経営の問題点を指摘、役員会を巻き込んでハジメに引退をせまるのである。

ここから放浪を開始するハジメ。うっかり無一文で乗ったバスの運転手が石丸謙二郎なのだが次は○○に停まりますとは言わないのだった。若かりし頃を思い出し、郷愁にふける。忠義一筋の運転手剣持(リア王ではケント伯爵の役どころ・長門裕之)にせかされてさくらは父を発見し、劇団(主催者・渡辺哲)の公演チケットを同行した金井がハジメに渡す。

芝居は「リア王」である。長女次女も招待され、舞台の役者と四人の家族が入れ替わる。ここで次女は「似ているのは王様の引退と三人の娘ってとこだけ」と言い、脚本的な白状がある。

ここで三人の娘は舞台俳優としてはちょっと恥ずかしい演技をするが、年齢を考えると井上真央は堂々としたものであった。

この後は家族は大切だということで父とさくらが長女次女を、父を三人娘が、三人娘が父をと分かりにくい家族ごっこ芝居をするのであるが、突然、商売に力いれる長女とか、良妻賢母になる次女とか、明日のロミジュリの前フリをする三女とかバタバタと展開していく。

そして、父親は初心に帰ろうと店舗に立ち、安売りを始めたところで昇天するのだった。

カーテンコールでお辞儀をする井上真央、一瞬でしたが、なかなかエレガントでした。

ま、こんなもんかという、「リア王」ごっこである。西田と井上の本格的なリア王はちょっと見てみたい。ちなみにさくらが芝居を志すきっかけは「アニー」だった。日テレ自画自賛のしすぎである。

関連するキッドのブログ『花より男子の井上真央』刑事どん亀の西田敏行

日曜日に見る予定のテレビ『日曜洋画劇場・男たちの大和 YAMATO』(テレビ朝日)

ところでSPAMコメントが一日50件を越えたのでしばらく、承認制度に移行します。

皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。

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コメント

キッドじいや、おばんでがんす。
リヤ王の悲劇が起きないうちに、終わりましたね。
すごく消化不良でした。

投稿: mari | 2007年4月 8日 (日) 00時20分

❁~✾~❁~~✾mari様、いらっしゃいませ✾~~❁~✾~❁

そうですねー。
リヤ王は主役がじじいだけに
ま、萌え文化とは真逆で
日本人になじまないという考え方もあるのですが
それは違うと思うんですよね。
娘たちの相続争いという解釈からして
間違っているのであって
年老いた人間が陥りやすい間違いというか自然の流れ。
そこに巻き込まれてしまう家族たち。
そういう視点を欠いたら成立しないのです。
老人ボケが
戦争まで引き起こしてしまう・・・。
本来はそういう悲劇なんですから。
今回は省略されている
エドガー、エドマンド兄弟の骨肉の争いと
リア王一家の悲劇を
混同してしまうのが
リア王解読の
最大の罠なのでございます。

投稿: キッド | 2007年4月 9日 (月) 00時23分

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