やられたらやりかえせと言われたから・・・やりかえした。(戸田恵梨香)
今宵も響き渡る。「だめーっ、そっちいっちゃだめーっ」という絶叫。もちろん、この程度の確率論になるとすでに直(戸田)と同じ立場でだまされてしまう視聴者もいると思われるが、そういう人でもいや、きっとなんだか危ないとは直感的に思えるはずである。しかし、淡々と開けてはいけないドアをあけ、すわってはいけないテーブルにすわり、「ぶざまだねぇぇぇぇぇ」と言われてえーんえーんな直に激萌えな人も多数である。
レトリック(ごまかし)なカードゲームとトリッキー(八百長)なカードゲームを挟んでリストラゲームの中盤戦。ついに秋山(松田翔太)が登場し直は「しっぺ返し」に出るのです。「ボコボコにやられる」→「立場逆転」、世の中にあふれる弱者にとって胸のすく展開。まさにカタルシス。しかし、秋山が「私物」にない人は真似しないでください。
で、『ライアーゲーム・第七話』(フジテレビ070528PM1110~)原作・甲斐谷忍、脚本・古家和尚、監督・佐々木詳太を見た。直が0票のまま、着々と投票が進むリストラゲーム。まずはキノコことフクナガ(鈴木浩介)が失意の直に「ギャンブル」を持ちかける。「30票」と「Mチケットで3千万円」を賭けたゲームをしないかというものである。ここで、「獲得票」の「移動」という「ルール」がさりげなく提示される。「投票後の票の移動」は一種の「ルール変更」であるが「それを禁止するルールがない」以上、「お約束」からははずれない。
「Mチケットは意外なものを売買できる」というヒントもあるのである。キッドはドラマ内のルールとドラマ視聴のルールをまぜこぜに書いていて非常に読み取りにくいと思うが、丁寧な説明にも限度があると思うので、このまま進めて参ります。
まず、フクナガのゲームは次のようなもの。「表裏のないカードAと表裏のあるカードBを袋の中にいれ、フクナガがシャッフルして直が引く。Aをフクナガのカード、Bを直のカードとして自分のカードが引かれたら一点。先に十点獲得したものの勝利」なのである。ここで「必ず裏にして引く。表だったらノーカウント」という特殊なハンデが付け加わる。もちろん、これをハンデと理解するか、しないかは直しだいなのだが、直は当然の如く理解できない。
最初に直がBを引く確率は1/2だが、それが裏である確率は1/4となり、一方、フクナガの表裏のないAを引く確率は1/2なのである。
もし、この勝負が一回戦決着なら、フクナガが勝つ場合が50%、引き分けが25%、直が勝つ場合が25%となる。フクナガは2回に1回勝つことが出来、直は4回に1回しか勝てない。
つまり、これだけでも充分に直は不利なのだが、そこはギャンブルである。直に勝ち目がないわけではない。もちろん、直はそう考えずに勝負は五分五分と考えてゲームをするのである。
しかし、実際にゲームは先に十勝するというルール。この場合は二回に1回勝つゲームをするものと4回に1回勝つゲームをするものがどちらが先に十回勝つかという話になる。
こうなると直が先に10勝できる確率はおよそ6%になってしまう。勝利確定勝数が多ければ多いほど直は不利になっていくのである。
それでも20回やれば1回くらいは直が勝つ可能性があるので、フクナガとしては勝負を賭けているのである。ある意味、まっとうなギャンブラーである。ただし、相手を勝負に引き込む口上がちょっとヤクザなわけである。だって、最初の勝負で直が十枚連続で裏向きのBを引くことはありうるからだ。この場合、フクナガはもう一勝負、いくしかなくなる。
「あついねー」と言うしかないけどな。
で、もちろん、次も直が10回続けて裏向きのBを引くことはありうるのである。
フクナガはおそらく直の手に「ゴッドハンド」を見るのだろう。
しかし、まあ、ドラマとしては確率論的にリアルな展開で進んでいく。直は自分が不利なルールで戦っていることにも気がつかず、まんまと三千万円を巻き上げられてしまう。フクナガ「頭も悪い上に運もないダブルでダメダメな女だなぁぁぁぁぁぁぁぁ」である。さあ、出ます。一人になった直の「・・・もう、ダメだ・・・はぅ・・・シクシクシクシク・・・ズズー」である。
もはや、このシーンが見たくてこのドラマを見ているものも多いと思う。・・・いやな渡世だなぁ。
そこで秋山登場である。騎兵隊かっ。しかも、リストラゲーム的には「秋山=直の私物」あつかいである。直としては「私のことは秋山の持ち主とお呼び」状態なのであった。そして、直の持ち物である秋山は軍師よろしく、わが君に策を授けるのだった。
ここから、直は豹変する。直は「人をだましたりできない善人」ではなく、「人の言いなりになるバカ」だから、問題はないのである。詐欺師・秋山を得た直はバカサギコンビ復活の狼煙をあげてキノコフクナガをひっかけに行く。
再ゲームにチャレンジである。秋山の必勝法は「カードに傷つけておけ」という100%八百長なのであった。この場合、イカサマを見抜かれない限り、直の勝率100%なので、二回目の勝負はギャンブルではなくてゲームなのである。ギャンブラーとしては非常に許せない行為なのだが、詐欺師のやることに容赦はないのだ。ゲームはゲームを支配したものが勝つのがセオリーなのであるよ。
たとえばライアーゲーム一回戦を見てみよう。ゲームを支配しているのはライアーゲーム事務局である。二人の人に一億円貸して、最高で一人は一億円の負債を追う。一人は最高獲得二億円の一億円を返済し、もしリタイヤすれば5000万円を返却。つまり、ライアーゲーム事務局はどちらが勝とうが5000万円プラスになる。もちろん、勝者が二回戦に進めばプラスは確定しないが、二回戦でも同様なことが繰り返されるわけだ。そして何回戦まであるかは秘密なのである。ゲームはライアーゲーム事務局が勝つようになっているのである。
ともかく、軍師・秋山の言うとおりに作戦を実行する直。こうなると子羊のような容姿はプラスに働くのである。
現在、八回目の投票が終った時点で直の票は10票(フクナガからだましとった)。そこで直は「買収工作」にとりかかる。もうウソのつき放題である。しかし、「だまされっぱなしの直がウソはつかない」という信頼が武器なのである。「全国で敗者復活戦が行われている。そこで敗者復活に欠員がでた。敗者復活の復活の最高は今19票なので20票になれば復活できる。だから10票売って」作戦である。ここで「フクナガに三千万円とられたの。みんなも500万円ずつとられてるから、フクナガ、6500万円も儲けてるの」と本当の情報もまぜて同情(シンパシー)と共感(エンパシー)を誘うのである。そして、隠密で七人のメンバーから七千万円で10票ずつ買いまくる。ただし、支払いは次の投票前とするのであった。
結果、十回目の投票を前に直は80票。場には残り320票で八人がほぼ均等で全員が40票前後という事態になったのである。残りは50票の投票があり、ほぼ均等にふりわけられるために誰もが勝利確定の50票には届かない。直には30票プラス最後の投票5票、しめて35票という自由になる票があるのだった。
私物・秋山「もうゲームを支配しているのはオレのご主人様なんだぜっ」状態なのである。
さて、今回、秋山が直にさせるのは「しっぺ返し」という戦略である。
エッセイ「複雑系」(M・M・ワールドロップ)にこの「しっぺ返し」の戦略の例が紹介されている。ここでは「囚人のジレンマ」というゲームがまず説明される。キッドはやや変形した「容疑者のゲーム」を紹介したが、「囚人のジレンマ」では「両方裏切りは服役、片方裏切りは裏切られたものが服役プラス罰金、裏切った方が釈放プラス賞金、両方裏切らずは釈放」という裏切りものに魅力的な設定になっている。この場合は最悪が裏切られることなので、裏切るのが「セオリー」となる。いわば、司法側に有利なルールなのである。得点で言うと両方裏切りマイナス1点(服役)。両方裏切らずプラス1点(釈放)。片方裏切りプラス2点(釈放+賞金)、片方裏切られマイナス2点(服役+罰金)となるのである。つまりマイナス2点になる可能性のある「裏切らない」より、マイナス1点ですむ「裏切る」を選ぶのがセオリーなのである。ま、「西洋的な容疑者のゲーム」とキッドはひそかに考えます。「複雑系」で紹介されるのはこのゲームを一人の囚人の立場で1VS1の十回戦で戦うというゲームなのである。戦うのはコンピュータのプログラムである。つまり、どういうプログラムを組むと「勝てるか」というゲームなのである。たとえば「何があろうと10回裏切り続ける」というプログラムがあったりする。これに「何があろうと裏切らない」というプログラムが戦いを挑めば大敗北なのである。さて、様々なプログラムが総当りのリーグ戦を行うと意外なことに勝利を得るのは「しっぺ返しの戦略」を持つプログラムであることが判明する。つまり、「最初は裏切らない。相手が裏切った場合は次は裏切る」というある意味単純なプログラムである。この戦略が他の様々なプログラムにトータルでは勝つという結果が出るのだった。その意味は深いのだが、とにかくこれはあらゆる場面で活用可能な戦略だ。「相手を信頼する。しかし、裏切られたら復讐する」ということである。もちろん、最初の裏切りが致命傷である場合もある。つまり「次はない」というルールだった場合である。しかし、とりあえず直は「しっぺ返し」によって勝利をつかみつつあるのである。果たして日本国憲法はどんなルールになるのでしょうかね?
関連するキッドのブログ『第六話のレビュー』
月曜日に見る予定のテレビ『プロポーズ大作戦』(フジテレビ)
ところでSPAMコメントが一日50件を越えたのでしばらく、承認制度に移行します。
皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。
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