一度も好きだったことはなかった・・・今日までは。(菅野美穂)
・・・うわあ。しびれるようなラブシーンを見てしまったぞ。ラブシーンで泣いたのって久しぶりだな。もちろん、理科教師(伊藤淳史)と社会科教師(真木よう子)の謎のキスではなくて、弁護士・珠子(菅野)と敵の弁護士(谷原章介)との「別れのシーン」である。
今回だけでも二人の複雑な愛のかけひきは堪能できるのだが、やはり「二人の辛さ」を感じるためにはここまでのすべてのフリをおさらいする必要があるだろう。
弁護士というある意味、ステータスの高い職業でパートナーとして同棲する珠子と敵の弁護士。二人の属する弁護士事務所はステータスの高い側の番犬であり、弱いものの味方ではない。
珠子は敵の弁護士と知り合う前に「愛を裏切られたこと」で「心が死んでいた」ので敵の弁護士とは「心を通わせること」はなかった。しかし、「裏切り」が「それほどひどい事情ではない」と知った珠子は「心が溶けはじめていた」ので敵の弁護士に対し「後ろめたさ」が芽生えていた。
これまで心を示さなかった敵の弁護士がついに「勝負」に出る。
冒頭、「10円」を「捨ててほしい」と頼む敵弁。菅野は「それはできない」と拒絶。そこで「私の母は医療ミスで死んだ。父は死んだ母と生きている息子をてんびんにかけ、私を選んだ。そんな父を憎んだこともある私だが、今は違う」と隠されていた事情を告げる。そのために「クライアントを守るためには十円を捨てることができる」自分なのだという宣言。それができないなら「事務所を解雇」「婚約解消」と最後通告をする。
ビジネスライクだからと割り切る姿勢の敵の弁護士は「唯一の本心」である「思い出の写真」を残す。珠子は敵の弁護士が出逢ったころから「自分を愛していた」と知る。
揺れる珠子の心。「明日香への後悔」と「敵の弁護士への後悔」の二律背反状態に身動き出来なくなってしまう。そして、一瞬、彼女は「生きているもの」に判断を委ねる。「私はどうすればいいの。あなたが決めて」・・・。すべてを忘れて新たな世界に踏み出そうとする珠子。しかし、死者の呪縛は珠子を逃がさない。明日香の手紙が珠子を引き止める。
その姿を見てすべてを悟る敵の弁護士。それほどまでに珠子を愛しているのである。
思わず、珠子を抱きしめ、「いいんだ、もう、いいんだ」と珠子の頭を撫でる。
敵の弁護士「愛してなかったと言ってくれ」
珠子「愛していなかった」(本当。ただし、今はちょっと愛してる)
敵の弁護士「ボクも愛してなかった」(ウソ。本当は珠子のためなら世界を敵にまわしてもいいと思っている)
そして「君は間違っていない・・・法廷で会おう」「ええ」と分かれる二人。
まあ、脚本家がハッピーエンドと言うからには「事件解決後」にこの二人はめでたくゴールイン。しばしの別れということでしょうがね。ともかく、今回は頭のいいもの同士の意地っ張りの応酬。もう、バカばっかりのドラマの登場人物の氾濫の中で、この二人・・・貴重だ。
で、『わたしたちの教科書・第六回』(フジテレビ070517PM10~)脚本・坂元裕二、演出・西坂瑞城を見た。前回は謎をばらまくだけばらまいた展開だったが、ついに今回は弁護士同士のポジションは明確になった。愛し合うもの同士が「己の守るべきもの」のために戦うという設定である。・・・長いフリだったなぁ。
今回も例によってフリーホール展開。前回から続く音楽ごと視聴者を欺く展開はいよいよ全編に浸透してきた。でも、弁護士同士の愛の場面は音楽は本気でこれってエンターティメンントとしてすごいチャレンジだな。
基本的に理科教師・加地の登場する場面ではBGMはすべてフェイクなのである。実際は洗脳された心にかなり危険な状態を抱えた加地がいつわりの幸せを感じる場面でも明るく楽しい音楽が流れるのである。好意的に解釈すれば「ドラマを見る気があるならしっかりみてください」というスタッフ側のチャレンジ。悪く解釈すれば「ただ志田未来が見たいだけなんです」という視聴者への意地悪である。・・・あくまで妄想です。
剣道についてはあいかわらずおざなりの演出。一本をとることの重さが分かってないし、そのワリには一本をとることがキーワードになっている。どういう意図なのか不明。なぜ、剣道部なのか・・・。今回、唯一の汚点だが演出力配分で見逃すか。
そして理科教師が曇った頭でクラスに謝罪する場面でこれみよがしのクラスのメンバーの態度表明である。これも見逃すとまったく分からなくなる重要シーンだ。
兼良(富浦陸)は黒よりも濃い黒。ポー(鈴木かすみ)は白であり、朋美(谷村美月)は灰色。もちろん、これもフェイクならごまかしすぎ。
とにかく、飼われたイヌとなった加地はどうやらビッチの社会科教師と家畜同士の愛を育み始める。しかし、まったく心を失ったわけではない。「明日香のこと」を思い出させる珠子の登場には苦痛を感じるし、霊界からの明日香の声をおぼろげに聞くこともできるのだ。
せんせい・・・加地先生・・・(謎の声・志田未来)・・・いや、視聴者だけが聞いたのかも。
社会科教師がビッチなのかどうかはまだ微妙。ただし、完全なる洗脳が困難なのと同じように、時々、悪くなるというビッチなだけなのかもしれない。気まぐれだから人間なのだから。
突然、出現した「わたしたちの教科書」の落書きに筆跡の似た落書き。自分の心を白く塗ろうとするように壁を封印しようとする狂気に支配された加地。まあ。加地は最初からちょっと狂っていて、いつものようにやや曲がった平常心と言えないこともないのですが。
今回は体育教師(大倉孝二)がハイリスクになってきたために副校長に処理される。もはや、副校長が最大の狂気であることも確定してきた。
そして、その背後にあるのは副校長の息子。
それなのに来週は三沢先生(市川実和子)なのか・・・。全体がフリーホールになっていると最終回の落下速度はおそろしいものになるのだろうな。キッドは絶叫マシンは苦手なのですが。
そして空飛ぶ象の正体も謎に包まれている。それだけでも、もはや、傑作になりつつあるのです。しかし、すべての伏線がオチるんだろうか。本当に。
関連するキッドのブログ『第五話のレビュー』
土曜日に見る予定のテレビ『博士の愛した数式』(フジテレビ)わが心の鬼太郎も出るのだが「脇役をやらせたらねずみ男か宇野重吉か」と目玉のオヤジが言うセリフがキッドは好きだったなあ。主役はその倅だ。『ライアーーゲーム』(フジテレビ)も見るけどね。
ところでSPAMコメントが一日50件を越えたのでしばらく、承認制度に移行します。
皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。
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コメント
はじめまして。(^^) ネットサーフィンで辿り着きました。
私も珠子と瀬里の別れのシーンを見て泣いてしまいました。
あのシーンの脚本と、ふたりの演技、凄かったですね。
とても丁寧な記事を書かれているので、
読みながらドラマのシーンが浮かんできました。(^^)
TBさせて下さい。
投稿: まりも | 2007年5月18日 (金) 10時01分
mothernature'ssonまりも様、いらっしゃいませmothernature'sson
そうですね。
これまでの作風から
ちょっと疑っていた脚本家の実力を
見直しましたよ。
ただし、ハイブロウすぎて
みんながみんな涙したとは思えませんけど。
菅野、谷原ご両人も
実力を発揮できる場面があって
役者として幸せでしたね。
美男美女のラブシーンを
正面から
見せることを
受け入れない世の中になって
久しいですが
そういう組み合わせでないと
美しくない場面はあり
他にも喜んだ人がいるのを
知ることができるのは
誠にうれしいことです。
また遊びに来てくださいね。
投稿: キッド | 2007年5月19日 (土) 04時42分
キッドさま、おはようございます。
弁護士ってやっかいですね~。
敵対しても別に一緒にいたっていいじゃないのっていうのは甘い論理なんですね。二人の別れのシーンは本当、号泣でしたわ。瀬里は法廷で珠子を有利な方に導いてくれると思うのですが、それも甘いでしょうかね。
象のコースターや雨木の息子、それにあの落書きは筆跡が似てましたか?謎ばかりの中で、今回一番のミステリーは、大城と加地のキスシーンでしたわ。
唖然としちゃった@@
投稿: かりん | 2007年5月19日 (土) 09時59分
珠子と瀬里が作り出す二人だけの世界。
加地と大城が作り出す二人だけの世界。
どちらもこの物語の内容から逸れた感じでしたが
珠子と瀬里はとても馴染んでいたと感じたのに
加地と大城の場合にその世界観が歪んでいたのは
どうしてでしょうかねぇ(苦笑)
それにしても戸板先生の対処については
雨木先生らしくなかったですねぇ。
なもんだから徐々に綻びが出来ていますねぇ。
虐げられてきた戦国の時代から
副校長となって虐げる立場となって生まれ変わっても
子育てには失敗してる辺り、
業は繰り返すってとこでしょうかね(笑)
投稿: ikasama4 | 2007年5月19日 (土) 18時40分
✿❀✿❀✿かりん☆スー様、いらっしゃいませ✿❀✿❀✿
恋愛至上主義で申しますと
瀬里は珠子が「心から自分を愛していない」
と知ってしまった。
身を委ねたのは「同情」だから。
そこですべての関係を一度清算する。
そしてもう一度珠子に
「心から愛してもらう」
チャンスに賭けた・・・
ということでしょうかね。
P大作戦の数十歩先を
行く純愛でございますね。
筆跡はおそらく、同じ美術さんが
書いたので・・・。
一方、大城と加地のキスは
ぎこちない純愛のようにも見え
飼い犬同士の打算のようにも見え
もしも大城が空飛ぶ象なら
スパイのスパイの捨て身のキスのようにも見え
まさしく、ミステリアスなキス。
まあ、伊藤くんに自己投影している人たちへの
大サービスなのかもしれません。
真木さんに自己投影している人たちへの
サービスになったのかどうかは
ちょっぴり疑問ですけど・・・。
じいやとしましては
若いって素晴らしいと思うばかりで
ございます。
投稿: キッド | 2007年5月20日 (日) 04時16分
✥✥✥ピーポ✥✥✥ikasama4様、いらっしゃいませ✥✥✥ピーポ✥✥✥
ガンダムネタよりも
エヴァンゲリオンネタなのか。
と今回は思えてきました。
謎と立ち向かう登場人物たち。
最大の謎は「明日香の不在」なのですよね。
その一点から
珠子を通じて瀬里へと続く直線。
もう一方に
加地と大城をつなぐ線。
珠子の方が加地よりも明日香のメモリーが重い。
しかも、大城も明日香とは無関係ではない。
そのあたりで加地と大城は曲線でつながる。
まあ、まっすぐな線なんてひけしないよ
まっすぐな定規を使わなければね~
なので、珠子と瀬里の線も
ちょっぴりは曲がっているのすもしれませんが。
雨木先生が「保守」をしようとしているのか
「残酷なこと」をしようとしているのか
そこはまだ隠されているのですが
前者であれば今回の戸板処分は
犯罪者になる可能性のある教師への
転ばぬ先の杖的な行為。
後者なら
「ゲームを面白くしようとした」
快楽犯的行為と言えます。
どちらにしろ、珠子にとっては
唯一の蜘蛛の糸ですからね。
風吹ジュンがここまでの
役者になろうとは
三ツ矢サイダー時代には想像もつかなかった
キッドなのでございます。
でも当時は世界で一番妖精だったのです。
こまわり君的にも。
投稿: キッド | 2007年5月20日 (日) 04時37分