なぜ、私をいさめない(正妻の池脇千鶴)VSなぜ母親と妹たちを追い出さない(正妻の上野樹里)
・・・大河ドラマはじっくり見たくなるのに、日曜劇場は早送りしたくなるのはなぜなのだろう。やはり、この脚本家の性の提示の仕方が苦手なのかな。
日曜劇場の方を「うんうん」と頷きながら、見る人々はどういうタイプの人なのだろうか。
「夫に浮気されている人」「娘の新婚家庭に居座っても平気な人」「昔の恋人の長女と結婚して義父でもあり、昔の恋人の夫でもある人を殴れる人」ということになるのか。どの人ともあまり友達になりたくないなぁ。
そうなのだ。テレビは友達だからな、こんないやな人たちと付き合うのはよほど社交的な人でないと無理だろう。特に大竹しのぶはせつないほどに「いやな人」を演じていて、それなら、もっと悲しい物語にすべきであり、ラブコメとは相容れない。映画「青春の門」からのファンとしてはなんだかひどい話だなぁと思う。
「恋多き女」ならさっさと織田と「寝て」しまえばいいのである。それから、上野と三角関係でもつれにもつれればいいし、すでに織田にとって「女」としての魅力がないと知り、絶望して自殺する展開でもいい。織田の言動には節々にその気配があるのに、いざとなると偽善を展開する。もう、気持ちが悪いほどだ。
四姉妹のキャラクターも独立心が全くない。依存心の塊である。そうなると大竹はそういうように姉妹を育てているので、姉妹がいようがいまいが酒に溺れているという姿がとってつけたものなのである。そうなると長女の上野は異常なしっかり者である必要があり、依存する母と妹たちから逃走するために日本に来たのが本筋だろう。だから、母や妹たちが来襲した時点で失踪した方が筋が通っている。
ああ、「シンスケしゃん」と田中健に処女を捧げた大竹。「かけおち'83」で「かけおちしてんだよ、実家に電話してる場合かよっ」とビールをラッパ飲みしながら長谷川康夫を蹴り飛ばす大竹。男女七人で光り輝いていた大竹。そういう素敵な大竹しか記憶にないので・・・おいおい、勘弁してくれよである。
で、『風林火山・第19回』(NHK総合070513PM8~)原作・井上靖、脚本・大森寿美男、演出・東山充裕を見た。「計算」という言葉がある。ドラマではストーリーや、登場人物について因果応報を滞りなく進行させるために綿密に工夫することを指す。大河ドラマのように多数の登場人物があり、歴史的事実という制約を受ける場合、この「計算」は重要な要素と言える。
で、今回の大河ドラマは相当に計算されていることが窺われる。その中では計算外のことはさらなる好結果を生んでいるような気がしてならない。
おそらくミツ(貫地谷しほり)の好評は予想外だったのではないか。そう感じさせるほど計算が素晴らしいのである。
歴史的に諏訪御料人として知られる武田勝頼の母。名前が伝わっていないために湖衣姫だったり、由布姫(ゆぶひめ)だったりするのだが、今回は由布姫(ゆうひめ・柴本幸)である。彼女は早世したので・・・おそらく20代で逝去している・・・儚い印象がもたらされやすい。それを勝気な性格にしている点がかなりの計算高さなのである。
これによって、新田次郎版では悪役として描かれていた三条夫人(池脇千鶴)が複雑な性格を持った一人の女性として描かれ始めている。逆に言えば、三条夫人をこのように描くのであれば由布姫はあのように描くのが適切というように計算がなされるのである。
最近のドラマはこうした計算がまったくないような作品が多く、それはそれで適当でいいじゃないと思うこともあるのだが、うんざりすることもある。
今回は「父の仇である晴信と由布姫が側室として結ばれる」というだけの話である。それがこうもそれぞれの情愛や思惑が鮮やかに描かれ、緊張感があり、そして感傷があるというドラマチックな展開をするのは驚嘆に値すると思う。
悋気を抑えきれず由布姫に冷たい言葉を告げた三条夫人は「これでは夫に疎まれる」と後悔の念に襲われる。新田版では貴族としての誇りから田舎侍である夫を蔑む・・・というように描かれる三条夫人だが、そのようなものが三男二女の母であるのはどちらかといえば不自然なのである。姉に細川晴元夫人、妹に本願寺顕如夫人のある女性である。政治的にも夫とは仲むつまじい必要があり、信玄より三年早く死んだとはいえ、さまざまな苦楽を共にした女性だ。この三条夫人の方が自然であり、それが計算というものだ。
しかし、主役である山本勘助(内野聖陽)には両面の三条が見えている。勘助のポジションはより複雑である。主君・晴信は最愛の妻と我が子の仇の息子である。そして由布姫には最愛の妻の面影を見ている。由布姫の命を救いながら、晴信の側室の話を勧めたことで憎まれている。同時に主君晴信への愛により三条夫人は恋仇でもある。そして、三条夫人は唯一、晴信に対しては生理的な嫌悪を隠さない。ミツの死さえも三条夫人には通ぜず、それゆえに勘助、晴信、三条夫人は明らかに三角関係なのである。
そして、勘助、晴信、由布姫も三角関係にあり、もちろん、晴信、由布姫、三条夫人は当然の如く三角関係である。四人で三角関係が三つ。実に美しい構図ではないか。
再び、由布姫を訪れる三条夫人。京土産の笛をたくし、戦国の姫として道を説くのである。すべては夫のため、領国のため、そして自分自身のためである。そこには矛盾がない。しかし、勘助は三条夫人の本心を疑い、笛を検める。
衝突する三条夫人と勘助。しかし、お互いがお互いの立場を理解していることは明確である。で、ありながら、共感も同情もしない二人の刹那。なぜなら二人は一心異体なのである。共に晴信を思い、共に由布姫を案じているのだ。そして恋敵なのだ。
やがて婚姻の儀が行われ、初夜の床で笛をふく由布姫。その音は耐えることなく、三条は安堵のまま、眠る。しかし、次の夜、晴信を襲い、しくじり、そして心を取られた由布姫の笛の音は途切れる。三条は言い知れぬ寂寥感に襲われるのである。
しびれます・・・。
関連するキッドのブログ『第12回のレビュー』
で、『冗談じゃない!・第五回』(TBSテレビ070513PM9~)脚本・伴一彦、演出・石井康晴を見た。絵恋(上野)の母・理衣は三条夫人を見習うといいと思うよ。それから、圭太は「羊たちの沈黙」と「ハンニバル」を見て、年上の男がどのように妻を愛するべきかレクターに学ぶといいと思うよ。田中圭と田口浩正はすごくいいと思うよ。
関連するキッドのブログ『第一回のレビュー』
火曜日に見る予定のテレビ『セクシーボイスアンドロボ』(日本テレビ)
ところでSPAMコメントが一日50件を越えたのでしばらく、承認制度に移行します。
皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン
←クリックするとTVスポットCM版『H☆C THE MOVIE アイドル戦士キャンディー☆ムーン』第7弾アリマス。(裏切りの猛虎の巻・中編デス)お気楽様、こんな記事でTBはるけど許してね。
| 固定リンク
コメント
勘助が幼少に疱瘡で片目の光を失ったという設定
史実で晴信の次男が疱瘡で両目の光を失っている事
これが三条夫人が勘助を嫌う事を印象付け
それが後々の相続まで続いていくと思われる展開は凄いですねぇ。
物語の主軸となる人物とその陰の主人公となる人物との
対比がまた絶妙です。
ここ最近の大河ドラマはどこか
最近人気の若手俳優を起用し、
伏線となる演出も見え見えで1,2話で終わってしまったり
ホームドラマで現代の世界とダブらせるような展開が多かったですが
この作品は全く違います。
晴信を巡る三条夫人、由布姫との三角関係。
これに晴信が重用する勘助に対する嫉妬が
三条夫人にはあるようですね。
更に重用という事であれば甘利をはじめ
家臣達にも勘助に対して実力は認めつつも
ちょっと嫉妬してるとこが笑わせてくれます。
今年の大河はとても安心できます。
P.S.
何だか魔界転生のようなノリになってきましたね(笑)
これはちょっと剣豪でも描いてみよーかなと思ってます(;^∀^)ゞ
投稿: ikasama4 | 2007年5月14日 (月) 20時05分
✥✥✥ピーポ✥✥✥ikasama4様、いらっしゃいませ✥✥✥ピーポ✥✥✥
久しぶりのレビューでしたが、
毎回毎回、本当にそつのない大河ドラマですよね。
このスタッフで信長様をやってもらいたいですよ。
桶狭間では信長様、登場するのかしら。
翌年の川中島(第四次)までとすると
登場するとしても秋以降か・・・。
キッドは池脇千鶴マニアですので
いやぁなばっかりの三条夫人で
ないことがまずうれしく、
さらに
勘助だけには冷たい三条なので
一粒で二度おいしい気分です。
今回は竜雷太がちょっとウヒョヒョでした。
戦国武将がかわいく見えてくる。
こうでないと。
ザ・ムービーは
いつ完結するかもわからなくなってきたのです。
とりあえず、全員が出終わったところまでは
やりたいと思ってます。
基本はセーラームーンですけど
もう、魔界転生もスケバン刑事もガンダムも
入ってるし・・・。
剣豪登場いいですねぇ。
とにかく
まだ登場していない
くう様、あず様、お気楽様、
ミマム様、aki様・・・そしてシャブリ様を
登場させてあげたいのです。
えーと、忘れてる人はいないよな。
投稿: キッド | 2007年5月15日 (火) 11時48分