だって「明日香」は「わたしたちの教科書」なのだから。
天才詩人であった明日香は逆境の中で言葉を紡ぐ。もちろん、言葉なのでそれは基本的に「嘘=虚構=フィクション」である。明日香は「嘘」を書く。「どこにもいないお母さんに宛てて」「どこにもいないトモダチに宛てて」そして「本当にいない未来の自分に宛てて」・・・そしてどこにもいない神は肉体疲労と雨と万有引力で明日香の命を吹き消した。
しかし、明日香の「嘘」は珠子(菅野)の心に水をそそぎ、朋美(佐藤未来→谷村)の心を照らす。
そして奪われた明日香の未来は今も風に吹かれているのである。
もちろん、いじめられっ子よりもいじめっ子の方が多数派であるから視聴率は平均11.2%、最終回12.4%なのであるが、ドラマとしては傑作だったと思う。おしむらくは窓際のしりとりは「ともみ→みかづき→キリギリス→すいか→カンボジア→あすかだと良かったと思う。・・・そんなユーモアはいりません。※今さらですが本レビューは妄想を主成分としてお届けしています。念のため。
で、『わたしたちの教科書・最終回』(フジテレビ・070628PM10~)脚本・坂元裕二、音楽・岩代太郎(ラフマニノフの交響曲第2番なども使用)、演出・河毛俊作を見た。今回も音楽はフェイク的要素があったようだ。技巧としてはひとつのこだわりで良かったと思う。つまり、悲しい場面が悲しいとは限らないし、楽しい場面が楽しいとは限らないという表現であろう。
最終回はやはりミラーハウス(鏡を壁として構成された迷路)だったと思う。ネーミング的にはエヴァンゲリオンへのオマージュのあった作品だが最後は乙ガンダムの香りも漂い、少しガンダムを解禁することをお許しください。
無力な母に代わり刃物に秘められた暴く力でいじめ問題に答えを出すと豪語し、いじめの実行犯で主犯格の兼良(冨浦智嗣)を人質に取った雨木音也(五十嵐隼士)が無能な教師・加地(伊藤淳史)を刺して流血させ、主要な教員とともに職員室に篭城している頃・・・。
死亡した明日香(小野花梨→志田)を被害者と考えるなら最後の加害者であることが明らかになる朋美は最初の加害者と言っていいだろう珠子に法廷で全弾発射的な攻撃を開始する。もちろん、朋美は珠子を責める意志はそれほどない。彼女の攻撃は自分に向かって照射されている。いわば自爆テロなのである。
「私が明日香と出会ったのは小学校2年の時でした。彼女が施設に入った後です」
・・・そう、私が私の心の傷を癒すのに必死で何の罪もない少女をいじめた頃のことなのね。・・・すでに朋美の言葉は凶器であり、一言一言が諸刃の剣となって朋美と珠子の心を切り刻むのだ。言わば二人は尋ねては血を流し、答えては血を流すのである。
「彼女と私はその日からトモダチになりました。消しゴムの貸し借りもしたかもしれません。明日香がともみ・・・と呼ぶので私は三日月と答えました。時効警察で三日月さんが登場するとそのことを思い出しました。すると明日香はキリギリスと答えました。私は享楽的な性格で明日香に比べたら恵まれていましたから。そこで私は水車と答えました。来る日も来る日も河の流れがある限りひっそりと回り続ける水車。明日香はそんな娘でしたから。次に明日香はシャンデリアといいました。何一つ持たない明日香にはさぞや私はゴージャスに見えていたのでしょう。そして、私は明日香の名前を呼びました。私も詩人でしたが、明日香も詩人でした。私たちは詩人の魂で結ばれていたのです。神様はバブルを崩壊させて私たち二人に秘密の隠れ家を用意してくれました。立ち入り禁止の廃墟です。そこで私たちはよろこびもかなしみもわかちあう約束をしたのです」
・・・私が自分のキャリアを積み上げる間に置き去りにした少女とあなたは遊んでくれていたのね。私のするべきことをあなたがしていた。あなたには明日香の心がわかっていた。私に「ありがとう」と言った珠子の心の真意を「英語の分からないアラブ人に置き換えて血まみれのサンキュー」と伝言するほどに・・・。
「中学生になって私と明日香の間に秘密ができたのは私が恋をしたからです。私はそれを秘密にしました。だって私が誰かに心を奪われたと知ったら明日香は一人ぼっちになったと悲しむかもしれないからです。でも結局、私は明日香を一人にしました。恋人と過ごす時間の方が楽しかったから。だって私はキリギリスでシャンデリアだから」
・・・私が傷心を隠して明日香を視界にも入れたくなくてそして自分を守るために心を閉ざしたまま愛されることに甘えていたのと同じなのね・・・。
「しかし、恋は突然終りました。恋人の兼良君の父親が援助交際をしているところを目撃した私はそうとは知らず思いのままに嫌悪感を口にしました。兼良君は泣いていました。そして翌朝から私は『雑巾女』になっていたのです」
・・・神経が高ぶっている。彼女は何を怖れているの。そして今度は笑みを浮かべている。これは危険なユーモアだわ。彼女は皮肉な運命を笑っている。汚いものを汚いと言って雑巾になってしまった自分。そして、やがて彼女は何になるんだっけ? ・・・何に?・・・そう、『透明人間』になるのね。彼女は今、見えなくなっていく自分を見ているのかもしれない。
「でも、私には夢がありました。ピアニストになる夢です。そのためにいじめに耐えられると思っていました。しかし、ある日、いじめグループに押さえつけられた私は指を一本一本折られていったのです。私はピアノの弾けない体にされてしまいました。そこで私は死のうと思いました。・・・それを明日香が止めたのです。きっと明日香はずっと私を見守っていたのでしょう。私は明日香を裏切った自分が許せず、彼女に汚い言葉を投げつけました。そしていじめられている者の気持ちなんか分からないと言ったのです。どうして彼女にその気持ちが分からないことがあるでしょうか。彼女は世界から置き去りにされているのに。しかし、詩人の言葉は過激ですし、私も本当に絶望していたのです。すると、明日香は身代わりを提案しました。昔の約束があるというのです。二人はよろこびもかなしみもわかちあう。しかし、結局、私はすべてを明日香に押し付けたのです。なぜなら明日香には悲しむ人がいなかったから・・・」
・・・そうよ。明日香を悲しむ人のいないものにしたのは私。私が世界のあらゆるものから目をそむけていたために明日香はひとりぼっちになったのよ。それはけしてあなただけの罪ではない。
「そして、明日香は兼良の父親の悪口を意図的に言いふらし・・・『消臭剤』になりました。人はくりかえしのおそろしさを時々忘れます。毎日、毎日、『臭い、臭い』と言われたら本当に『臭いような気が』してくるのです。毎日、毎日、『死ね、死ね』と言われたら本当に『死にたく』なってくるのです。そして、私はそんな明日香に手を差し伸べることも声をかけることさえしなかったのです」
・・・私だってそうしたわ。相談したかったかもしれない明日香を拒絶したし、それどころか、私はそんな明日香が心の支えにしようとした夢まで叩き潰したのよ。いじめられて苦しんでいる中学生に世界を変えるなんて逃避してないで、義務教育なんだから勉強すればいいとか言って、教科書も汚されて親の形見の時計質入して新しく買った教科書を燃やされて困り果てている・・・義理の娘によ。この研ぎ澄まされた鋭利な刃物のようなプロフェッショナルな言葉でね。丸腰の相手を嬲り殺しにするように。私はそれをした。あなたの何倍もひどいのよ。さあ。そろそろ真相を教えてちょうだいな。あなたはもう限界かもしれないけど。・・・でも私はそれを知りたいの。
「・・・あの日、明日香は死のうとしていると思いました。私はそれだったら私が死のうと思いました。本来、死のうとしていたのは私だったから。私は窓から身を乗り出し、手すりに腰をかけました。すると明日香はまたしても私を止めるのです。あなたには悲しむ人があるから死んではダメというのです。私は耳を貸そうとしませんでした。強い明日香には弱い私の気持ちが分からないと思ったのです。けれど明日香は私に言いました。自分も死のうと思った。けれどそれは間違いだと分かったというのです。なぜなら今は一人ぼっちでもいつか誰かが私が死ぬのを悲しんでくれるかもしれない。それを考えたら死ねないと言うのです。おかしな話でしょう。まだいない、いつか悲しんでくれる人のために自殺をやめるなんて・・・私はちょっと気がそがれました」
・・・すると明日香は死ぬ気はなかったのですね。あれだけの仕打ちを受けてまだ希望を持っていたのですね。くじけていなかったのですね。私を許してくれていたのですか。私を恨んでいなかったというのですか。そんな、もう涙を止めることができないではありませんか。そんな、そんな人がなぜ死ななければならなかったのよ・・・。
「私は教室に戻りました。そして、ふと目をそらした間に明日香は堕ちていたのです。視聴者は神様ですから、彼女が神に召されたのを知っているのですが、私にはわかりません。彼女はなぜ死んだのですか。死ぬ気がないというのは嘘だったのですか。それともただドジをふんだだけだったのですか。てへっと言いながら堕ちていったのですか。どちらにしろ、私は私を許せないのです。彼女が死んで私が生き残るなんて不公平すぎるのです。でも、もうこわくて自殺ができないのです。どうか、私を・・・死刑にしてください」
・・・何を言ってるの。あなたはそれ以上、自分を責めちゃだめ。明日香を捨てた私が、欲望の自己管理のできない兼良の父親が、兼良とそのとりまきが、何もしなかった学校がもっと悪いに決まっている。自分で自分を裁くことなんてできないのよ。それをしたら人間でなくなっちゃうのよ・・・カ、カミーユ・・・心をどこにやってしまったの。人格を喪失してしまったの・・・。統合失調症の初期段階を通過してしまったの・・・朋美さん。朋美さん。
その頃、兼良に「先生は悪くない。ボクが悪いのだ」と云われ、隙をつかれた今、現在、実際にいじめられていてとりあえず理屈や理想はいいから誰かいじめっ子をぶっ殺してくんないかという全国のいじめられっ子の希望や期待もむなしく、だれかを殺すくらいならいっそ私を殺しなさい的母親に刃物をにぎられ体罰さえ許してくれたらいじめをコントロールしやすいのになという雰囲気をかもしだす国語教師と体育教師にいじめっこ仕置き人は現行犯逮捕されてしまうのだった。
・・・一年後。加地は脊髄損傷で下半身不随になったが優しい夫人に毎日しごかれていた。いじめはなくならないが、とりあえず、いじめについて話せるようになった学校で議題を求められた珠子は「世界は変えられますか」という今は亡き義理の娘で早世の天才詩人の言葉を残す。
裁判は結審した。敵の弁護士(谷原章介)は「迷い」を示す珠子に「お前はよくやった。意味のないことなんてこの世にはないさ」と言う。珠子は「意味のあることなんてこの世にないさと同じ意味ね」と切り返す。しかし、珠子に浮かんだ微笑みは二人の春を予感させるものだった。裁判官の下した結論は「明日香は事故死だが、いじめがあったことは明白で学校側の責任は無視できず、精神的苦痛に対する慰謝料の支払いを命ずる」というものだった。やや灰色だが公明正大なる裁判官様(矢島健一)のお裁きであった。
兼良やとりまきたち、そして副校長の息子は闇に消えた。それが現実というものだから。あなたの隣になに食わぬ顔をしてかっていじめで人を殺した人間が暮らしているのが社会というものだから。
だが、精神崩壊した少女を見捨てることはできないのだった。雨木からの伝言で珠子は「あの娘を救えるのは宇宙であなただけ」と言われて胸をときめかせ、朋美に逢いに行く。
私はあなたの中の明日香の言葉で救われた。二人で明日香に会いにいこう・・・。
名前しりとりの呪文で意識を取り戻した朋美は秘密の隠れ家へと珠子を案内する。
どこにもいない神はその全能の力を振るい、経済復興や、地上げ、所有権の移動などの度に持ち主を呪詛して、廃墟を廃墟のままにしてあるのだった。
そこには明日香の最後の嘘が残されていた。それは明日香から明日香への手紙。
「昔の明日香も明日香だし、未来の明日香も明日香だ。今日、明日香は死のうと思った。明日香は昔の明日香が嫌いだった。でも、未来の明日香は今の明日香のことを好きになるかもしれない。そんな明日香のために私は自殺してはいけないと思う。明日の明日香が見る夢のために私は思い出をたくさん残してやろうと思うのだ。未来の明日香のために明日香は生きます・・・」
本当は死のうと思っていたのでは・・・私が明日香を殺したのでは・・・と自分を責め続ける二人に残された許しのメッセージ。それは珠子の嘘かもしれないが、いや、おそらく、世界を変えようとした明日香は珠子にそれを否定され、珠子さんの言うように自分を変えて行こうという結論にたどりついたのかもしれず、そのことに気がつくと珠子は残酷な天使のテーゼを呪うのか癒されるのか微妙なわけだが・・・ともかく、珠子よりも幼くてずっとずっと弱い朋美の心の窓には暖かい陽射しが降り注ぐ。それは物質化現象を引き起こし絵に描かれた窓が光り輝くほどなのだった。もちろん、ただ二人の心の病気が一段と深まっただけなのかもしれないけれど・・・。
珠子の胸には様々な思い出が夢のように去来するのである。
・・・明日香・・・珠子も生きます。あなたのように。
そして悪意と暴力と欲望とほんの少しの幸せに満ちた世界は明日香抜きで今日も続いていく。
関連するキッドのブログ『第11話のレビュー』
シャブリ様、画鋲は英語教師モー子(酒井若菜)にずーっと長谷部だと思われていた長部(新聞部員・斉藤嘉樹)の仕業ではないのかとキッドも妄想しておるのですが・・・。
★★★シャブリ様のわたしたちの教科書★★★
わたしたちの教科書 先生の座席表
根気のいるお仕事ご苦労様です。
土曜日に見る予定のテレビ『ライフ』(フジテレビ)この記事にこのドラマがリンクするとはフジテレビ攻撃の手をゆるめないな。マチベンもどうぶつ119も世界100人も美人三姉妹も押しのけるとは・・・。
ところでSPAMコメントが一日50件を越えたのでしばらく、承認制度に移行します。
皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。
最近のコメント