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2007年6月15日 (金)

私もあなたと同じことをした。あなたが罪を背負って生きれば・・・私はそこにいる。(菅野美穂)

珠子(菅野)はそう言うのだが、兼良(冨浦智嗣)が許されることを許せない人々もいるだろうし、兼良が心の中で舌を出していない証拠はどこにもない。しかし、珠子にできることには限界がある。

珠子は罪を背負って生きていくのだし、罪人が増えようが減ろうが罪の重さは変わらない。

なにしろ、珠子はとりかえしのつかないことをしてしまったのだし、自覚がある以上、それは苦しみに耐えることに他ならない。涙を流すことは彼女にとって自分を許すこと。自分を許しそうになるのをこらえるのはもう苦行だ。

珠子は罪から顔を背けるものに自分の犯した罪を突きつけていく。さあ、見なさい。これが人の命を奪った人の顔。あなたも同じ顔をしているのよ。

で、『わたしたちの教科書・第十話』(フジテレビ・070614PM10~)脚本・坂元裕二、演出・河毛俊作を見た。いじめの実行犯で少年をどのように処理するのか。一番デリケートな部分である。たとえば女子高生コンクリート殺人事件の被害者が加害者の生存を許せるかどうかという問題だ。もちろん、許せないのである。だって彼女ができることはもはや何一つないのである。それに対して明日香(志田未来)はまだ死因さえ、ドラマの中では明らかになっていない。もしも、自殺だとすれば、彼女はすでに許したという考え方もできる。兼良の生存を許し、自分の命を絶ったのだから。事故や他殺だった場合にはまた別の考え方もできるだろう。もちろん、結論は一つに集約される。明日香はもはや無力なのである。

だから、明日香の全てを奪った世界に自分を含めて罪を問う珠子が兼良に対してどうふるまうかは相当にデリケートな部分だ。明日香サイドに身を置くものは冷酷に見守るからである。スタッフは細心の妄想力でなんとか乗り切ったと考える。

思慮深くもなく、想像力もない哀れな人妻で兼良の母親を渡辺典子が演じる。角川三人娘の一人、原田知世が神がかった妖精モードのCMを連射する中で、年相応の母親役が板についてきた渡辺典子。もう、不幸な中年女性役専門になってしまったか・・・。

いじめ放置を告白した教師・熊沢(佐藤二郎)の証言を傍聴していた兼良の母は珠子に挑戦状をたたきつける。「息子は無実です。息子に証言台で身の潔白を証言させます。息子はそこらの子供とは違いますから・・・私は息子を信じています。あなたのように子供を捨てたりする母親じゃありませんから」なのである。

すでに兼良の非行事実を確信している珠子は少年の心身を思って忠告するが、相手は聞く耳を持たない。珠子はわが子を殺した義理の母親だが、相手にはクラスメートを殺した子供の母親の自覚は皆無なのである。もちろん、視聴者には兼良の母は死んだ方がマシな存在として映る描写になっている。典子、熱演である。

珠子の元婚約者で敵の弁護士(谷原章介)は「いじめが明らかになった以上、裁判の戦術を変更すべきだ」と副校長(風吹ジュン)にアドバイスするが、副校長はかたくなに拒否。あくまでいじめはなかったと強弁する指示を下す。熊沢の発言は誤解による事実誤認だと主張するのである。・・・ビョーキだからな。もういい加減、周囲が気付いてやれよ。

珠子は「生徒と戦うつもりはない」と主張するのだが、「これは母親と母親の戦いだから、君が譲れないように彼女も譲れない」と元婚約者は反論する。

加地(伊藤淳史)と妻(真木よう子)の負け犬・ビッチコンビは激しく動揺する。裏切りものの体育教師(大倉孝二)に吠えかかるが、くすぶる人の魂が「ああ、やっぱ、オレたち、悪者なの、もう見てみぬフリはできないの」とささやきかけるのだ。

加地「もうね、ボクね。トホホなの。教師やめたくなっちゃった」妻「ずるい。私だってやめたいわよ」加地「だって生徒たち本当はいじめっ子だったんだからコワイよ」妻「私だってこわいわよ」・・・ああ、哀愁の犬夫婦である。

一方、ポー様(鈴木かすみ)は親にいじめを告白。学校は欠席である。人間宣言をした熊沢先生はポーのいじめも察知していたので担任の加地に忠告する。「あなたのクラスにいじめがある」・・・さらに動揺する加地。恐怖に耐えながらポーに電話をすると電話に出たのは珠子だった。

「ポーちゃんに何の用?」である。

加地が珠子の事務所に行くと突きつけられる衝撃の新事実(加地専用)。ポーはクラスでカスって呼ばれていた。ポーの親は転校のために引越しをするという。すべてはおそかったのよである。へたりこむ加地。影法師になったポーは「できれば絵本の主人公のようにアカプルコに転校したかったのに隣町だなんて最後までつまらないわ、ホホホ」なのだった。加地の教師成績。一年目、一人死亡。二年目、一人転校である。ダメ教師ですわ。

うなだれた加地。もはや教壇に立つのも恐ろしいのだった。

ついに兼良が法廷に登場。生者に許される一方的な証言で死者を冒涜する。「明日香はね。ボクに惚れて、ボクにつきまとったんですよ。ボクが拒否すると、悪質ないやがらせをはじめました。クラスのみんなが知っていることです。みんなが彼女をさけるようになると、明日香はいじめを捏造し始めたんです」・・・見守る副校長によぎる不安の影。その真意は不明だが、ある意味、いじめスレスレの言動だし、いじめがないことを主張した副校長にとっては明日香が問題児であってもやはり問題なのであるからな。最後に警察権力が味方であることを誇示する元フィアンセ。「君がいじめをしないのは誰の教えかな?」「父です。父は世間に恥ずかしいようなことはするなとボクに教えてくれました」・・・・・・・・裁判長「原告側代理人・・・反対尋問を」珠子「反対尋問はありません」

元婚約者「なぜ、戦わない」珠子「いじめは全員がグルだから・・・生き残りの言うことはすべて欺瞞だから・・・でも彼を生贄にするつもりはない」そして兼良は一人・・・嘔吐していた。

まさに自分自身に吐き気のする状態。自立神経の失調である。悪が自らを罰するというパターンである。もちろん、悪魔的には例外はあると思うのだが。

辞表を手に副校長の下へ向かう野良犬志望者の加地。それを存在感薄めの英語教師(酒井若菜)が呼び止める。「新聞に加地の父親の買春行為の告発が・・・」そして加地の携帯電話には珠子から呼び出しがかかる。

加地とともに兼良の家を急襲する珠子。目的は共犯者の保護である。まだ仮面をかぶり続けようとする母親をコントロールする珠子。「子供部屋の明かりがついているか消えているか家の中では分かりませんが、外から見れば一目瞭然なのです。父親の悪事を子供が知って悩んでいるのに見てみぬフリをしていたら守れるものも守れませんよ。父親を売ったのは子供かも知れない」

そして、異音発生。たまりかねて子供部屋に向かう加地。どんな悪い子だとしても加地にとって兼良はいいご主人様だったのだ。ついに母親に舌を出す兼良。彼はいじめられっ子に転落していた。吐き出されるプリントはさらしの記事だった。狂乱する母親。

「こうなるのが望みだったんでしょ」と嘯く兼良に珠子は正面から向き合う。ポーに影響された珠子はすっかりポエムにおかされていたのだった。

「想像しなさいよ。明日香はかわいい高校生になったかもしれない。スタイルだってすごくよくなったかもしれない。いろんな美味しいものを食べて、素敵な夕焼けに包まれて、誰かと恋をしたりして、おしゃべりしたり、笑ったり、とんだりはねたりしたかもしれない。そんななにもかも、明日香の未来にあったかもしれないすべてはもうないの。あなたは生きてそれがどうしようもないことだと思い知って欲しいのよ。私は今、そうしている。あなたのしたことを私もした。あなたがそれを思うことができれば私はいつもそこにいるのよ」

涙をこらえわななく珠子。加地に見せたのとは別の涙を流しているように見えた兼良。演出的にはこれが限界だと思う。

最後に加地に気配る珠子。「あなたは明日香が私を見てくれていると言った。忘れないで・・・明日香はあなたも見ている」・・・見ているのか。明日香。ここで志田未来を出さないのは大人の演出だが。単に予算とスケジュールの問題かもしれないとも思う。

加地は激しく身震いすると人間に戻った。犬ではなく本当は人間だからな。ちょっと知能指数が低いだけなんだから。

生徒に向き合う加地。「先生、ウソついてました。ポー様はよろこんでこの学校を去っていたわけじゃない。きっとみんなのことを忘れようとしているでしょう。みんなのことを思い出すのもいやなんだ。その理由はみんな知っていますよね。それでいいのかな。いやな学校。いやなクラスメート。いやな教師。みんないやないやないやな世界です。そんなんでいつか幸せになれるのかな。先生は幸せになれない気がする。だから、書きたいと思った人だけでいいです・・・彼女に手紙を書いてください。ポー様は文学好きなので内容がなんであれ、ちょっぴり喜んでくれると思うから・・・」加地は校庭を見る。明日香が木陰で本を読んでいたあの場所を。生徒の何人かは手紙を書いてくれた。その中には透明人間・朋美(谷村美月)もいた。いじめっ子死刑制度の主張者である朋美が今後のフリーホールのスイッチ担当者らしい気配である。

手紙を届ける加地。ポー様は戻ってきた下僕を優しく抱擁する。「妄想世界ではいつか再会する私とあなた。私は「ランジェリーショップ・サイコ」とか「スナック・チェーンソー」とかの経営者になっている」加地「こわいね」ポー「そして私は言うでしょう。まだ教師なんかやっていたの・・・ちっともむいてないのによくがんばったね・・・と」そして別れのヒザカックン。明日香といい、ポーといい加地は可愛いらしい。やっぱり犬属性だからか。

キッドがともかく泣いた。

しかし、ポーの車にはフダムスファミリーのパパとママのような人が乗っていると妄想してしまったので半笑い含みです。

さて、フリーホール落下開始である。ついにベールを脱ぐ副校長の息子(五十嵐準士)である。彼はいじめっ子に対する死刑執行人であるようだ。いじめという悪を天に代わって裁くことは選択肢としてありえるし、それが反社会的行為であるという皮肉な面白さを兼ね備えているのである。いわば、珠子には不可能な選択肢であり、珠子の影とも言えるのである。そうすると雨木副校長の兼良証言中の不安は過去からの連想によるものなのだろうか。副校長の息子はゆっくりと校舎外を徘徊し、ターゲットを捜索しているらしい。ヘビメタなメタリカの「聖なる怒り」の「ある種の怪物」をギンギンに身にまとって・・・そして法廷では珠子と雨木副校長が対峙。激しく落下しつつ・・・つづくである。

関連するキッドのブログ『第9話のレビュー

土曜日に見る予定のテレビ『ライアーゲーム』(フジテレビ)

ところでSPAMコメントが一日50件を越えたのでしばらく、承認制度に移行します。

皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。

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コメント

罪と罰。
人は罪の意識を感じた時にはじめて人になれるのかもしれない。

彼が受ける罰はただ世間からバッシングをされたり
無視される事ではなく、生き続けていかなければならない。

その事を教えるのは本来親であり教師である。

でも、親や教師は見て見ぬふりをする。


正面から向き合おうとしない。

子供と戦おうとはしない。

戦うのが怖いから。
傷つくのが怖いから。

子供達は人になれないまま大人になっていく。

そして連鎖が広がっていく。


昨今、核家族化が進む中
「自分の子供は正しい」と闇雲に信じている親。
それに逆らわない教師。

このような状態がこのドラマの世界観を作り出したのでしょう。


個人的には仁科による他殺説を考えていたのですが
これはもう妄想かなぁ。

音也と仁科は実は死刑執行人=ハングマンだったりして(笑)

それから次週はとうとう雨木の牙城が崩れていくようですねぇ。

となると前世での夫が家臣達に追放されたように
彼女も部下達に追放されるのでしょうかねぇ。


いつの時代も歴史は繰り返されるようです(苦笑)

投稿: ikasama4 | 2007年6月15日 (金) 17時46分

✥✥✥ピーポ✥✥✥ikasama4様、いらっしゃいませ✥✥✥ピーポ✥✥✥

「いじめ」と「とがめ」・・・。
キッドの妄想世界では
ともに地獄に住まう生命体の種族名でございます。

「いじめ」にも「いじめ」としての
役割や機能がありますし
「とがめ」には「とがめ」としての
役割や機能があるのです。

捕食関係では・・・
「いじめ」は「とがめ」に食われます。

「いじめ」や「とがめ」
と人間の関係は微妙です。
「いじめ」や「とがめ」から
人間が生れたのか・・・。
人間から彼らが生れたのか。

まあ、地獄と人間の関係と同様なのですね。

で、一般論でいうと
地獄は人の心にあるわけですから
地獄に落ちた人間の苦しみは
もう想像するしかありません。

本来、社会というものは
「罪」を子供に教え、
「地獄」を子供に教え、
「罪」と「地獄」を関連づけて成立するものなのですが、
どうもこのシステムには不備があり、
時々、エラーがでる。

まあ、このドラマの登場人物たちの
心の闇はすべてそのエラーに基づくもののようです。

キッドとしては
魔性の「とがめ」をかばう
地獄の鬼子母神・風吹ジュンと
魔性の「いじめ」を救おうとする
観音菩薩・菅野美穂の
妖術合戦、聖剣の響きが
もうすでに展開しています。
ああ、お見せできないのが残念です・・・。
なにしろ・・・妄想なので。

投稿: キッド | 2007年6月15日 (金) 20時45分

雨木校長の息子はいじめっ子の成敗を自分のお役目だと思ってるんですねえ。
H☆Cも月に代わってお仕置きするから、同じ匂いがする人かしら?
スーはくんくんしてみたけれどよくわかりませぬ。
でも珠子と兼良だって明日香を死に追いやったが同じ顔ではなかった。
誰も同じではないけれど同じ痛みをもっているということが
珠子が向かうためのただ一つの情熱かも。

投稿: かりん | 2007年6月15日 (金) 22時00分

✿❀✿❀✿かりん☆スー様、いらっしゃいませ✿❀✿❀✿

雨木ジュニアの心理については
まだ細かく提示されていませんが
いじめに対して暴力で反撃した結果の
収容だったようです。

H☆Cは月に代わってお仕置きをしますが
アイドルなので犯罪はいたしません。
少々のことは
平成財閥とこのじいやめが
おこたりなく
揉み消しますのでございます。

かりん様は
お嬢様として完璧ですが
何でも匂うくせだけは・・・
お直しすることができず
じいやの不徳のいたすところでございます。

珠子の罪の意識は
二段階で変化いたしますよね。

一回目は明日香の死。
二回目は夫の別れの理由を知った時。

罪の意識の深まりは
珠子に人間の「知らぬことの罪」を
考えさせたはず。

「罪がある」ということを知らしめること。
それが珠子にとって
「明日香が見ていることを忘れない」
という償いのやり方なのでしょう。

一方、兼良はまだ「子供」だったというわけです。

これは「いわゆる更生の余地あり」
という考え方ですが
それでは「被害者は赦し」しか許されないのか・・・。
という鬱屈が生じます。

雨木ジュニアは短絡的ではあるけれど
珠子にカバーできない部分。
「許せない心」
を代表するのでしょうね。

こうなると情熱と情熱の戦いでございます。
善悪ではなく
最後はガッツがものをいうのでございましょう。
さすがはお嬢様でございます。

投稿: キッド | 2007年6月16日 (土) 22時11分

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