涙は希望があるから流れる・・・だから私は泣けない。(菅野美穂)
珠子(菅野)には希望はない。義理の娘(明日香=志田未来)にはもはや苦悩もなく、幸福もない。苦痛もなければ歓喜もない。始まりもなければ終わりもない。彼女にはもはや何もないのだから。
ポー(鈴木かすみ)は全てを失わずに済んだ。珠子の電話はつながった。
ポーの猫の命もついでに助かった。道連れにならずにすんだのだった。
命を救った珠子にポーは言葉のナイフをつきつける。
「いじめられるのは恥ずかしいことでしょ」・・・そうだな。辱めを受けることは立派ないじめだからな。
「でも私は黒いニワトリが好きよ。明日香もこんな気持ちで心の中で叫んでいたのかもしれない」
「でも、あなたは明日香をつきはなした」
「ええ」
「あなたは明日香に冷たくした」
「ええ」
「だから、罪ほろぼしをしたいんだ・・・」
「・・・・・・・・・・・」
珠子に希望はない。しかし、まだ生きている。生きている限りは何かをせずにはいられないのだ。
で、『わたしたちの教科書・第9話』(フジテレビ・070607PM10~)脚本・坂元裕二、演出・西坂瑞城を見た。ついに音楽のフェイクは終ったようだ。今回は音楽と視聴者が感じるべきエモーションは一致しているように思えた。これがさらにフェイクならやりすぎである。
それでもまだ、いくつかのダミーは投げられる。しかし、今回のごまかしは分かりやすく、視聴者の理解の手助けを意図していると思われる。それでも、まだ、珠子の心情を理解できない幼い視聴者も多いだろう。フライングエレファントが国語教師(佐藤二郎)だったことに驚く人や、彼と娘のエピソードが裁判にむすびつかない人もいるかもしれない。しかし、解題に入った裁判編はこれまでの伏線を急ぎ足で回収し、そしてまたフリーホールを展開する。今回の落下は優雅だったと思う。
裁判が有利に展開することで平静を取り戻した加地(伊藤淳史)は妻(真木よう子)に謎の告発者の存在を告げる。もはや、良心は消え、保身が残るのみの犬夫婦は謎の存在に怯えるのだった。
珠子の使徒となった体育教師(大倉孝二)はこれを盗聴して珠子に報告する。「いじめの証拠を加地に託した存在」・・・手かがリは一枚のコースター。そこには空飛ぶ象がえがかれていた。「この教師は切り札になる・・・」珠子はコースターの店をつきとめ張り込みを開始する。
一方、飲んで踊れる店「フライングエレファント」には英語教師(酒井若菜)と数学教師(水嶋ヒロ)の姿があった。しかし、これはフェイントである。いわば、英語教師はミッシングリング。珠子はミスリードのまま、英語教師にコンタクトする。
一方、加地は国語教師と夜の街にいた。行方不明の国語教師の娘を捜していたのだ。そして国語教師の謎がようやく明らかになった。教師からセクハラを受け、暴力に訴えた娘、そして加害者でもあり被害者でもある教師に謝罪した父親。「私は一緒に殴ってほしかったよ・・・」と云われ国語教師は加地に問いかける。「どっちが正しいと思いますか?」
加地の答えは「大人としての判断です。彼女もきっと分かってくれますよ」・・・国語教師は夜の闇に叫ぶ。「そんなこと、分かってほしくないっ」
珠子の気がかりはポーだった。
校内で国語教師はポーを見る。明らかに不自然な不揃いに切られた前髪・・・。「髪・・・どうした?」「自分で・・・切りました」
再びポーは階段を昇る。珠子はポーからの電話を受ける。珠子は声の変調を聞き逃さない。ポーは非常階段の途中でまた救助される。
「あれは自分のことだった。明日香を私も助けなかった。見て見ぬフリをした。ごめんなさい。ごめんなさい。そして今は私がいじめられている。でも、みんな大変なんだ。誰かをいじめなきゃ、やっていけないんだ。学校は助けてくれない。親はきっと悲しむ。誰かに気付かれるのはこわいし、誰にも気付かれないのもこわい。変だよね」
ポーを抱きしめる珠子は「親はきっと好きだから泣くんだよ。涙は希望があるから流れるんだよ。もう、学校に行かなくていいよ」とポーに告げる。珠子には希望はないのだが。
珠子も学校もキーマンと考える英語教師。学校側は英語教師を囲い込んだ。体育教師はなだめすかして、彼女を法廷に出廷しようとするが、彼女はかたくなに拒否する。しかし、彼女は重大な手がかりを明かす。
フライングエレファントは娘を捜索中に国語教師が訪れた店だったのだ。
珠子の逆襲が始まる。・・・公明正大な裁判官様(矢島健一)なのだった。「学校にいじめはありましたか?」「教師がいじめにおびえるから生徒はいじめを告白できないのではありませんか」「あなたの心の声を聞かせてください」
国語教師「私は明日香が裸足で下校するのを目撃しました。私は誰かに靴を隠されたのだと悟りました。私は声をかけませんでした。私は靴を捜しました。それは給食室裏のゴミ箱にありました。残飯まみれで汚れていました。私はそれをハンカチで拭い、下駄箱に戻しました。私が明日香のためにしたのはそれだけです。・・・副校長はいじめを隠蔽するために書類の改ざんを命じていました。私は告発すれば二の舞になると思いました。当校にはいじめがございます。私はそれを見過ごしてまいりました・・・心よりお詫び申しあげます・・・」
犬たちは動揺を隠せない。落胆する敵の弁護士。そして、迷惑そうな顔をする副校長(風吹ジュン)、敵意をみなぎらせる珠子・・・熱演である。ワンダフルである。今シーズン、もっとも見逃さなくてよかったと思えるシーンがここにあった。しかし、話はまだまだ続くのである。
関連するキッドのブログ『第8話のレビュー』
視聴率に苦しむ本番組。まあ、国民の大部分が老後の生活を搾取されているこの国では致し方ないのかもしれない。かって年金未納で熱くなった国。しかし、納めてもなかったことになってしまうのでは未納者が正解だったのではないか。という世の中だけに。・・・しかし、5回*9.0%、6回↗10.1%、7回↗10.2%、8回↗11.0%、9回↗11.9%・・・このジリジリ上昇感は一応フリーホールしてます。
土曜日に見る予定のテレビ『ライアーゲーム』(フジテレビ)
ところでSPAMコメントが一日50件を越えたのでしばらく、承認制度に移行します。
皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。
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コメント
涙の法廷でしたねえ。見ごたえがありました。
あの涙は誰に向かっての謝罪でしょう。
いじめを受けた子供たちににいじめを見過ごしたあらゆる人たちがあの涙とともに一筋の光を見出せたなら成功だったかもしれませんね。
それにしても今週はスーは目が痛いです。
目の酷使という非情な仕事であるのに、さらなるゴシップが追い討ちをかけて涙で悲嘆にくれています。
じいやに甘えたくてぐずぐずしています・・・ぐすん
投稿: かりん | 2007年6月 8日 (金) 21時04分
このドラマの特徴は二人の人が似た環境にある対比で
今回の場合は熊沢先生とぽー様でしたね。
藍沢明日香にはすまないと思ってた。
でも、その事を言ってしまうと自分の立場が危うくなる。
正しい事ができない。
黒いものを黒といえない。
罪の意識が
償いたいという思いが二人を「人」にしていく。
でも、人であろうとする二人が生きる社会では
生きていくのが難しい。
だから、自分を殺してしまう。
そんな二人を救ってくれるのは
自分を受け入れてくれる人
自分が認められたいと思う人
そういう存在があればこそなのかもしれませんね。
それからぽー様がいた「13階」
あれは「13階段」からの引用なのでしょうか。
そう考えると自らの手で死刑を執行しようとした
ぽー様の覚悟が怖くなります。
投稿: ikasama4 | 2007年6月 9日 (土) 20時27分
✿❀✿❀✿かりん☆スー様、いらっしゃいませ✿❀✿❀✿
後半はたえず涙が浮かんできましたね。
在りし日の明日香の姿抜きで
こうですから
たとえば国語教師の脳裏に浮かぶ
「はだしで帰ってゆく志田未来」
とかが挿入されていたら
画面が見えなくなると思うのでございます。
お嬢様を悲しませているのは
女性誌のA嬢とのゴシップでございましょうか。
妄想世界の山P先輩はしっかり管理されているのですが
最近の現世のタレントのプライベート管理は
難しゅうございますからね・・・。
タレントの人権も守らねばなりませんし・・・。
じいやが現役バリバリの頃には
もっとこわもてするマネージャーが
目を光らせていて
若いスターの皆さんはもっと
こっそり遊んだものですが
最近はみんなカタギなので
管理にも限界があるのでございましょうね。
「夢」を売っているのだから
最後まで「売りきれや~」
とじいやが歯噛みするような展開・・・。
最近、多すぎです。
しかし、ジャニーズが
帝国でありながら
この時期にあれでは
内部抗争か・・・と疑ってしまうのでございますよ。
お嬢様、の目が痛くなるほど
悲しませるなんて
とんでもないことでございますよ。
自由でオープンになってきた時代だけに
アイドルも自分をしっかり管理しなければ。
選ばれたものの責任と義務・・・。
その自覚があるものだけが生き残るのです。
山Pはそういう点で
じいやは大丈夫と思うのでございますよ。
どうか、信じて見守ってくださいますように。
モ娘。のファンなんかもう、やってられない状態ですし。
まだ、全然マシでございます。
投稿: キッド | 2007年6月10日 (日) 01時31分
✥✥✥ピーポ✥✥✥ikasama4様、いらっしゃいませ✥✥✥ピーポ✥✥✥
さすがに現役トップのエンターティナーですので
かなり見事な構成力といえますね。
作者本人が「ガス抜き」と言うほどに
渾身の力をこめた問題作なのでしょう。
珠子を中心にすべての登場人物が
珠子の迷い、珠子の後悔、珠子の懺悔、珠子の憤怒を
表現する仕掛けになっているようです。
ポー様は「珠子は他人を責められない」
というある意味、いじめる側を肯定した意見で
珠子に迫り
次の段階では
それは「自分自身」の保身だったと告白。
さらに「加害者」をかばう心情まで
みせるわけです。
しかし、それもまた保身と追求することは
珠子はしない。
珠子にとっても子供たちはみな「明日香」なのだから。
一方、熊沢は珠子の共犯者。
熊沢の懺悔は珠子の懺悔でもあるわけです。
もはや、「いじめ」を確信している珠子には
それを認めない人々は
新たな犯罪に手を貸す人々になるわけです。
そして熊沢は「それ」を認めた。
つまり「失敗」を認めなければ
「成功」はないという単純な理屈が
単純であればあるほど
受け入れられなくなるという
この社会の矛盾点というわけです。
この熊沢の発言を受け入れられない人の
多さがある意味、この番組の低視聴率、
さらには老後の問題のあれこれな
大問題の発生を暗示しているようです。
まったくバカばっかりでございますね。
しかし、この腐敗した社会が
豊かな社会として世界をリードしているというのが
末恐ろしくもあります。
今や、世界を支配しているのは
圧倒的にキリスト的な幻想ですから
13は単純に不吉の象徴なのでしょうね。
20億人のキリスト教徒と、10億のイスラム教徒、そして4億人の仏教徒・・・そして中国人とインド人その他で構成されている世界では
「4」より「13」ということなのでしょう。
ま、「4」だと死なない場合も多いですけど。
「13」ならほぼ死ぬという考え方もあります。
ま、この場合はキング・クボヅカは除外されますが。
まだまだ続く珠子の戦い。
それが美しい湖あるいは泉にたどりつくことを
祈るばかりでございます。
投稿: キッド | 2007年6月10日 (日) 01時56分
こんばんわ。
最近、ココログさんに一回でトラバが飛ばない事が
多いのですが、キッドさんの所は承認制なので、確認できず。。。
飛んでいなかったら、すいません(+_+)
今回は熊沢先生の証言で、泣いている明日香が見えるようでした。
>義理の娘(明日香=志田未来)にはもはや苦悩もなく、幸福もない。苦痛もなければ歓喜もない。
でも、私には、まだ明日香は泣いているように
思えてなりません。
これから、裁判がどう運ぶのか。。。
第2第3の明日香を出さないためにも、珠子には
勝っていただきたいですね。
今回の裁判シーンは秀作でしたわ。
緊張感いっぱいでした。
投稿: くう | 2007年6月11日 (月) 00時41分
❀❀❀☥❀❀❀~くう様、いらっしゃいませ~❀❀❀☥❀❀❀
トラバのことはどうかお気軽に。
キッドも仕組みがよくわかっていませんし。
どうしてもとばないようなら
リンクを貼ります・・・。
そうですねぇ。キッドはもう
全編に明日香が
妄想されているのですが
一般の方はどうなのかな・・・
と思うわけです。
幽霊とは一種のビョーキです。
心の中に闇があれば
そこに棲むものです。
とがめを感じないものは
幽霊を見ることもない。
明日香の声が加地に届かなかったように・・・。
「先生」
と、呼ぶ声が聞こえなくなった時。
おそらく加地は人間ではなくなったのだ
とキッドは思うのです。
ビョーキは人間の特権ですから。
ま、キッドのように
妄想が過ぎても人間離れしてきますけれども・・・。
一筋縄ではいかない
弱肉強食の問題。
いじめは自然でもあり
不自然でもある。
キッドはそのねじれを質すのも
人の生きる道だと思っています。
投稿: キッド | 2007年6月13日 (水) 00時44分