新之丞は、声を出さずに笑った・・・。(木村拓哉)
山田洋次監督の藤沢周平原作時代劇に木村拓哉・・・とにかくゴージャスな組合せだ。
木村拓哉を今さら論ずるのは・・・恥ずかしい気もするが・・・フッ・・・何を今さら恥ずかしがるというのだ。
つまり・・・これである。
このフッというのがキッドはキムタクだと思う。
自嘲・・・自らを嘲笑うこと・・・それは時には世間を嘲笑うようにも見えるが・・・実は・・・そういう時も・・・そういう世間で生きている自分を笑っているのである。
そして・・・キムタクといえば・・・現在における・・・スターの最高峰なのであり・・・そんな人に・・・自嘲されては・・・男たちはもう・・・肩をすくめるしかない・・・。
だから『武士の一分』の原作『盲目剣谺返し』は実に凄まじいチョイスだと思う。
主人公・新之丞は自嘲の王様であり・・・木村拓哉のために用意されたようなヒーローだからである。
で、日曜洋画劇場特別企画『武士の一分』(2006年劇場公開作品・テレビ朝日・071230PM9~)原作・藤沢周平、脚本・平松恵美子(他)、監督・山田洋次を見た。
幕末時代の海坂藩(藤沢ワールドお約束の架空藩・モデルは庄内藩・登場人物は語尾にがんすとつけなければいけないのが基本ルール)三村新之丞(木村)は30石取りの下級武士である。役目はお毒見役。実は剣の達人だが・・・最初は極意をつかんでいたわけではない。
その妻・・・加世(檀れい)は貞淑で美女という・・・理想の妻である。
1石というのは1000合である・・・一食一合と考えると・・・およそ・・・一年分ということだ。
年俸30石というのは30人を養える・・・というわけではない・・・ま・・・人は米だけ食べて生きているわけではないですから。だから・・・極貧ではないけれど豊かとは言えないのが三村家である。
ただし、中間(使用人)として徳平(笹野高史)を置いている。親の代からの奉公人なので・・・いわば「じいや」であり・・・じいやおタクはそこだけでも充分に満足できる。
このつつましい・・・三人家族に・・・嵐が襲い掛かる・・・新之丞が貝の毒にあたって・・・盲目になってしまうのである。
本来ならば・・・子供が跡を継ぎ・・・新之丞が隠居すればいいのであるが・・・若い夫婦には未だ子供がなかったのである。
家禄没収の危機・・・そして・・・妻は罠にかかってしまう。
新之丞はまず・・・最初に妻が「殿の前で夫が毒見をしている」と想像していることを笑う。次に・・・盲目になってしまった自分が切腹しようとして果たせず・・・意外なことに家禄が存続することに笑う。さらに・・・妻が浮気をしているという疑心に笑い・・・それが・・・家名存続のための犠牲であったことに笑う・・・そして・・・すべてが好色で冷徹な上級武士・島田(原作では島村)の画策であったことに笑うのである。そして・・・何よりも「仇を討つ」気になって・・・自分が盲目であることに気がつき笑うのである。
まさに木村拓哉的自嘲の連打なのである。これは堪能できるっ。
人間は本来・・・おかしなものだ・・・そのおかしさに気がつかない・・・アホであることもある意味素晴らしいことであるが・・・もちろん・・・気がついている方が素敵なのである。
この物語にはいくつも象徴的な要素が散りばめられているが・・・たとえば・・・ややバカ殿として描かれている藩主にお言葉をかけてもらうために新之丞は蚊に食われながら庭で待つ。藩主は一言「大儀」と発するだけである。いかにも無情だ・・・しかし、後にこの藩主が新之丞を命の恩人と思い・・・家禄存続の裁定を下したことが判明する・・・名君だったのである。しかし・・・そのことが三村家には伝わらない。伝わっていれば三村家の苦悩はなかったのである。だから新之丞は蚊に食われて笑い、そして真実を知ってまた笑うのである。・・・大人の演出だ。
原作→映画ではいくつかの変更点があるが・・・キッドとしては以寧(桃井かおり)が従姉から伯母にかわっているのが工夫であると思う。原作では以寧は本家の娘として分家の新之丞に仄かに恋心を抱いている設定なのである。つまり・・・加世の不義密通を告げ口に来るのは・・・ひそかな嫉妬の行為なのであるが・・・山田監督はおそらく煩雑さや・・・ま、ある意味、余分な情念を削った・・・のだろう・・・ま、ドロドロの好きなキッドはちょっと・・・フッと笑いますが。
やがて・・・原作にはない「武士の一分」という言葉が・・・愛する妻を離縁し・・・おいしいものを食べられなくなった境遇に自分を追い込んだ男に向けられていく・・・このままには捨て置けない・・・ということだ。
原作では羽虫の気配を読み・・・倶に死スルヲ以テ、心ト為ス、勝ハソノ中ニ在リ・・・という殺気に応ずる無心の剣の極意に到達するのであるが・・・映画では師匠(緒方拳)の存在感がこれを代理するのである。これは・・・ちょっと笑う。
さて・・・目を瞠るのが木村拓哉の剣筋である。
よどみない・・・特に最初の素振りはゾクゾクしました。殺陣の間・・・一箇所だけ・・・ややスピード感を欠くシーンがあったが・・・リアリティーと考えれば演出かもしれず・・・とにかく申し分のない刀捌きです。凄い・・・伊達にトップスターではないのだなあ・・・。
最後は・・・抱き合って・・・夫婦の新たな日々が始まるのであるが・・・山田監督としては大サービスだったのだな。
ま・・・キッドとしては・・・夫が優しい言葉をかけるたびに泣く声の音量が上がっていく・・・という原作テイストも捨てがたいのですが・・・それから・・・加世の得意料理は・・・やはり・・・「蕨のたたき」が良かったのに・・・。
とにかく・・・「武士の一分」は藤沢周平文学の入り口としては最高傑作と言っていいと思う。ま・・・常連俳優と言える小林稔侍のいきなり切腹も・・・フッ・・・だしな。
関連するキッドのブログ『たそがれ清兵衛のレビュー』
ごっこガーデン。三村家お茶の間セット。アンナ「ダーリンがいなかったらーっ、加世はなんで生きていけましょうかーっ、がんすーっ。旦那様ーっ。旦那様ーっ・・・アンナは一回で五回は泣くのぴょん」お気楽「あーっ、もうリハーサル中なのに・・・まだここにいたのね。ねえーっ、紅白の本番までもうすぐなんでーっ・・・そろそろ切り上げて・・・時代劇なんて・・・我慢できないのに・・・裸スーツもないし・・・」じいや「・・・お、お嬢様・・・なんて・・・健気な・・・(じいやバカ)」
火曜日に見る予定のテレビ『相棒 元日スペシャル』
ところでSPAMコメントが一日50件を越えたのでしばらく、承認制度に移行します。
皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。
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コメント
アンナぴょんがせっかく幸せ気分に浸ってるというのに
お気楽社長ったらなんて無粋な・・・とぞ思う。
今年は、じいやには色々お世話に・・・ゴ~~~ン
ごっこ遊びでも毎回楽しませて…ゴ~~~ン
じいやになりきってのお気使いにも…ゴ~~~ン
てな感じのふざけたあたしではございますが、
来年もよろしくおね・・・ゴ~~~ン←もうええっちゅーねん!(笑)
投稿: まこ | 2007年12月31日 (月) 19時47分
武士の一分の感想はさておき!(さて置いちゃう?笑)
キッドじいやには、本当にこの一年お世話になりました!じいやに出会えて幸せです(大袈裟?)H☆Cを代表して(代表しちゃうの?)熱く熱く御礼!(笑)
いや。。マジに、じいやの存在はとっても心強く色々と楽しませてくれてありがとうございました。
武士の一分を見てくれただけで、私は幸せでございます。こんな地味~な映画ですが、私は初めて木村君の演技がいいじゃん!と思った作品だったのです(笑)
来年もダーはもちろん、アンナ・まこ・エリを温かく見守って下さい(笑)じゃ、じいやが見てないであろう紅白に戻りますピョン★
投稿: アンナ | 2007年12月31日 (月) 21時03分
まずは明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。
藤沢周平三部作のトリが「盲目の剣」だったのと
前々作、前作が暗い仕上がりだったので
どんな風になるのか不安が一杯でしたが
それは杞憂に終わりました。
主人公・新之丞の心の移り変わりを
新之丞の自宅の庭の四季が表していたのが良かったです。
あれでドラマの色が少し明るくなって
見やすくなった気がします。
殺陣の違和感は
目の見えない島田が襲い掛かった際に
島田が石を蹴ってた音を察知した
新之丞との斬り合いで二人の身体が交差した
ところでしょうかね。
新之丞に接する加代に嫉妬する女性達もおるかと思いますが
私は加代を激しく叱る新之丞に怒りを覚えます(笑)
投稿: ikasama4 | 2008年1月 1日 (火) 13時45分
明けましておめでとうございます。
昨年は大変お世話になりました。
キッドさんの独特の切り口のレビューに加え、
ごっこガーデンにまで登場させていただけたりと、
ここを訪ねるのが楽しみです。
・・・・と言いつつ、昨年後半は忙しさと体調不良で、
それも儘ならないことがありましたが。
今年も、またお邪魔させていただきたいと思っていますので、宜しくお願いします。
あれれれ、武士の一分のこと、何も書いてないですね。
とりあえず、新年のご挨拶と言うことで、お許しくださいませ。
投稿: aki | 2008年1月 1日 (火) 22時23分
●no choco●まこ☆ミキ様、いらっしゃいませ●no choco●
まこお嬢様、あけましておめでとうございます。
本年もよろしくおつきあいください。
「ちりとてちん」は草々・若狭が
あれよあれよと結婚・・・。
ま・・・落語家夫婦ですから
どんな夫婦漫才・・・でなくて夫婦落語が
くりひろげられていくのか・・・。
春まで楽しみでございますね。
A子のその後も気がかりですが
お嬢様方の家出・行方不明に
慣れっこになっている
じいやはそれほど心配しておりません・・・。
今年もまこ様らしい楽しいご活躍を
お願いいたします。
投稿: キッド | 2008年1月 4日 (金) 10時56分
☁Building☁アンナ☆ラン様いらっしゃいませ☁Building☁
アンナお嬢様、あけましておめでとうございます。
本年もよろしくおつきあいください。
じいやがアンナ様のダーリン様の演技に
注目したのは
「SMAPの世にも奇妙な物語」(2001)で
樹木希林と志賀廣太郎のおかしな夫婦の
息子を演じた時ですから・・・
かなり遅めです。
まあ・・・とんでもないオチがつくお話でしたが
途中のおかしな両親にふりまわされる
ダーリン様のとぼけた演技が絶妙でした。
演技というものは底知れないもの・・・。
特に魅力的な演技というものは
素人にも分かり
素人にはけして真似できない
複雑な構造をしています。
そういう意味では
ダーリン様はかなりの演技派であると
じいやは確信しておるのです。
それでは本年もますますダーリン愛で
熱々になられますよう・・・
お願いいたします。
投稿: キッド | 2008年1月 4日 (金) 11時12分
✥✥✥ピーポ✥✥✥ikasama4様、いらっしゃいませ✥✥✥ピーポ✥✥✥
ikasama4画伯、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
違和感の部分はまさしく
そのカットです。
あそこだけ時間の流れに
二人の体の動きがついていってなかった。
まあ・・・アナログ編集っぽくてよかった・・・
とも言えますが。
年末から大量新画像の投入。
じいやとしては妄想ふくらみすぎて
困った状態です。
もちろん、うれしい悲鳴ですが
どうか、ご無理をなさらないように
お願いします。
まあ、創作の喜びと苦しみも
背中合わせでございますが。
檀れいさんは娘役出身ですが
いろいろな人に見えるので
まだイメージが定着しない感じ。
しかし・・・大物感は漂ってますねえ。
日本の四季は
まさに美の宝庫でございますな。
キッドは腰痛が出るので
冬はどちらかといえば苦手ですけどーっ。
投稿: キッド | 2008年1月 4日 (金) 11時23分
☀華韓何処ダンス教室~aki様いらっしゃいませ~華韓何処ダンス教室☀
aki様、あけましておめでとうございます。
本年もよろしくおつきあいください。
忙しくて体調不良は・・・大変でございますね。
どうかご自愛くださりますように。
短くても睡眠。
短くても休養。
これが大事ですぞ。
早目にお休み。
こまめにケア。
これも大切です。
キッドも実践はしてませんがーっ。
ダンサーは体が資本でございますからな。
じいやとしては
皆様のご活躍の妄想を
本年も楽しく展開してまいりたいと
思いますので
どうかお楽しみくださるようお願いいたします。
投稿: キッド | 2008年1月 4日 (金) 11時30分
キッドさん、こんばんは~♪♪
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくおねがいいたします。
金曜日、土曜日とウェイトレスになったため、
「のだめ」まだ見れていません。
明日まとめて見るかな。
ママとお姉が
満足そうにとても面白かったと
バイト帰りの倒れそうな状態のヤマトに言ってくるので
使うの久しぶりの言葉を使うと・・・ムカつきました。
「武士の一分」はヤラれた感が強かったです。
ヤマトには「お侍さんモノ」は
どこまでもどこまでも効きの悪いジャンルであり、
黒澤明監督作品のあの有名な映画も
どうも・・・日本人のくせにあれを見ないで生きています。
ていうか見たんだけど、その、途中で、あの・・・。
あと、和洋折衷で「ラストサムライ」、
また久しぶりの言葉を使いますが・・・ムカつきました。
だから、「武士の一分」にはヤラれたのです。
映画でこんなに泣いたのは久しぶりでした。
「恋空」でかなり泣いたばっかりなんだけどさあ。
「鬼龍院花子の生涯」とか「ローレライ」とか
どんどんたまってく・・・
「鬼龍院」は子供のとき見たけど
意味が解らなかったんだ。
投稿: ヤマト | 2008年1月 6日 (日) 02時27分
☆*⋄◊✧◇✧◊⋄*ヤマト様、いらっしゃいませ*⋄◊✧◇✧◊⋄*☆
ヤマト様、あけましておめでとうございます。
のだめももうご覧になられましたでしょうな。
ご挨拶おくれて申し訳ありません。
裏庭の除草していてキッドはちょっと
何かにかぶれて
正月早々・・・抗アレルギー剤およびビタミン剤各種投与中。
軟膏塗装生活でございます。
かゆいってーのっ。
・・・失礼しました。
ヤマト様も新年早々
ムカツキの連打で今年もまた
賑々しく
大変結構なことだと思われます。
乙女は何はともあれ元気が一番。
ムカツキそして涙・・・。
この起伏の激しさこそが乙女の証明なのでございましょう。
「鬼龍院」は夏目雅子の遺産のようなもので
ございますからね・・・。
ああ・・・生きていれば
どんな大女優になったことか・・・。
まさに・・・美人薄命・・・。
キッドはもはやうるうるでございます。
パプロフの犬かキッドの鬼龍院か
・・・なのでございます。
本年もよろしくおつきあいください。
投稿: キッド | 2008年1月 9日 (水) 23時21分