仇の娘と生まれしは因果の縁と思いきり恋しいお方の目の前で熱き血潮の流出をお見せたてまつる・・・。(戸田恵梨香)
・・・かって美輪明宏先生も演じた雪之丞・闇太郎の二役をタッキー(滝沢秀明)が演じたのである。
もちろん・・・フィクションなのであるが・・・原作小説は昭和9年の作品。
今で言う売れっ子作家だった原作者がもう当時の娯楽小説の様々な要素を詰め込んだエンターティメントである。
もはや、擬似歴史的様相を呈していて様々な解釈が可能なのであるが・・・まあ・・・オーソドックスなものに仕上がりました。
で、『正月時代劇・雪之丞変化』(NHK総合・080103PM9~)原作・三上於菟吉、脚本・中島丈博、演出・黛りんたろうを見た。
ざっとあらすじを述べる。長崎の海産物商人・松浦屋清右衛門(大杉漣)は役人・土部三斎(中尾彬)や商人・長崎屋(本田博太郎)、広海屋(石井愃一)たちの陰謀により財産を失い失意のうちに自害する。残された遺児は復讐の誓いを胸に秘め・・・上方歌舞伎の花形役者・中村雪之丞となって・・・三人の仇の住む江戸に現れる。そうとは知らずに徳川家斉の側室で三斎の娘である浪路(戸田)は雪之丞に心を奪われてしまう・・・。仇の娘と知り浪路を利用して三斎への接近を目論む雪之丞。何故か、雪之丞に瓜二つの義賊・闇太郎(滝沢・二役)やその手下のお初(高岡早紀)は雪之丞の目的を知って肩入れする。やがて雪之丞は広海屋をそそのかし長崎屋を破産させ、長崎屋に広海屋を殺させ、浪路に長崎屋を殺させ、浪路を自害させ・・・その亡骸を三斎に見せつけてついに仇討ちを成し遂げるのである。すべての復讐を終えた雪之丞は華麗に舞うのだった・・・。
まあ・・・そういう筋書きです。もちろん・・・浪路サイドから見るととんでもない悪党なのですが・・・そういう悪党に惚れる女の性がまた哀愁なのですね・・・。
しかし・・・まあ・・・現代ではこの物語の心情というのは理解されがたい・・・のではないか・・・とキッドはふと思うのですね。
まず・・・復讐・・・これが美徳ではないとされる・・・敗戦国的洗脳教育が完了している我が国では・・・まあ・・・本音はともかく・・・雪之丞を建前で賛美できない。だから・・・現代において「雪之丞変化」をやろうとすると・・・問題作になるか・・・骨抜きになるか・・・どちらかでございます。今回がどちらであったかは・・・それぞれがご確認いただきたい。
ま、もちろん・・・雪之丞の魅力はストーリーだけではありませんから・・・タッキーの女形ぶりを堪能できればそれでいいという考え方もあります。まあ、殺陣もそこそこ楽しめます。
さて・・・問題は原作的な困ったところでございますな。まず・・・将軍の寵愛する側室が役者に惚れてほいほい実家に戻ってこられるのか・・・どうか・・・というあたり。
浪路は第11代将軍家成斉の側室という設定ですが・・・15才で将軍になった家斉は天明、寛政、享保、文化、文政、天保とおよそ50年に渡って君臨したモンスターな将軍。確認されているだけで16人の妻妾を持ち、男子26人、女子27人、あわせて53人という子を成した大奥大繁盛将軍でもあります。ま・・・時には一人を溺愛ということもあるでしょうが・・・まあ、フィクションの姫が一人くらい紛れ込んでもわからない・・・というムードはありますね。
おそらく・・・原作者の頭には7代将軍・家継の時代の「江島生島事件」がよぎったのだと思いますが・・・大奥御年寄(女中)江島と生島新五郎(役者)と浪路(側室)と雪之丞(役者)では立場違いすぎます。
さて・・・この頃の歌舞伎役者は「早替わり」で人気を博し、五代目岩井半四郎などは「お染久松浮名読販」で七役三幕三十四度の早替わりをしたのである。雪之丞変化には当然、そういうニュアンスもあるはずで・・・今回はちょっとものたりなかった。
ついでに闇太郎と雪之丞が瓜二つという設定もまったく未消化で・・・意味不明の視聴者も多かったのではないか・・・。
闇太郎はもちろん、鼠小僧次郎吉をモデルとしているのは明らかで・・・鼠小僧は天保3年(1832)に松平家の屋敷で捕縛され江戸市中引き回しのすえ、磔、獄門になっているのである。次郎吉は総額一万二千両を盗んだとされているが・・・ほとんど遊興費で散財したという。まあ・・・賭場としては上客で・・・恵まれないヤクザ者にとっては義賊であったのだな。
悪い役人、悪徳商人、浮気なお姫様、義賊、女盗賊・・・そして暗殺者・・・実は登場人物が全員・・・ワルというのが・・・「雪之丞変化」の醍醐味であるのだが・・・もはや・・・お茶の間はこのような悪を楽しめない時代になっているのでは・・・とニュースの「万引きGメン」ものを見ていて・・・ふと思うキッドなのだった。
関連するキッドのブログ『ロミオとジュリエット~すれちがい』
土曜日に見る予定のテレビ『機動戦士ガンダム00』(TBSテレビ)『のだめカンタービレinヨーロッパ第二夜』(フジテレビ)『栞と紙魚子の事件簿』(日本テレビ)・・・なので・・・『鹿鳴館』(テレビ朝日)とか『ファイブ』(NHK総合)とか・・・パスだな・・・三島にも平山譲にも悪いけど・・・無理だから・・・。
ところでSPAMコメントが一日50件を越えたのでしばらく、承認制度に移行します。
皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。
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コメント
あけましておめでとうございます。
滝沢を使う企画なんだから、こんなことを言ってもしかたがないのだけど、情念渦巻く戸田恵梨香の姫をこそ主人公にできてたらなあと思ってしまいました。
投稿: 幻灯機 | 2008年1月 5日 (土) 07時43分
そ、そんなモンスターの愛人だったとは・・。
エリは腰を抜かしそうでしたが、
それにしても恵梨香ちゃんのかわいさが
とてもそんな風には見えず幼い印象でした。
でも後半狂っていくあたりから
この人もなかなか魅せてくれましたよね。
これなら大河に出ても大丈夫かも。
タッキーの女形は滝沢演舞からきた企画なんでしょうね。
そう、闇太郎が意味不明でしたのよ。
双子の兄弟がいたのかとずっと思ってました。
やぶれかぶれですよね(苦笑
見所がさっぱりわからなかったんですけど、
じいやの解説を先に読んでから見たほうがいいですね。
投稿: エリ | 2008年1月 5日 (土) 14時33分
✪マジックランタン✪~幻灯機様、いらっしゃいませ~✪マジックランタン✪
幻灯機様、あけましておめでとうございます。
戸田恵梨香もなかなか底を見せない女優ですね。
そういう意味ではかなり冒険的なところに
挑んでおりますようで。
ここまでは・・・ちょっとボーッとした女の子が
適役になっているわけですが
そういう意味では今回もその延長線上。
しかし・・・そこから危うい役どころというのは
すぐでございますからね。
はたして・・・妖艶・・・という役柄が
今のテレビで求められているのかどうかは
微妙ですが・・・戸田恵梨香には
その資質がある・・・とキッドも見ておりますよ。
投稿: キッド | 2008年1月 9日 (水) 22時55分
✿❀✿❀✿かりん☆スー☆エリ様、いらっしゃいませ✿❀✿❀✿
ふふふ・・・徳川家斉といえば
ある意味・・・絶倫将軍というか変態将軍で
ございますからね・・・。
もう・・・イメージは様々膨らむのです。
もっともっとスポットを浴びてもいいのですが
・・・お茶の間向きではない・・・
という考え方もございますからな・・・。
原作者は翻訳家出身なので
西洋の娯楽小説の影響は
かなり強いのですな・・・。
悪漢小説の影響もあれば
王子と乞食みたいなものまで・・・。
やや・・・ごった煮で
未消化の部分もあります。
ですから・・・現代でやるときには
もう少し洗練した方が見やすいと思うのですが
おどろおどろしさが消えてしまっては
つまりませんし・・・
そのあたりのバランスが難しいのではないかと
思うのです・・・。
じいやとしては今回はまあまあだと
思いました。
俯瞰のシーンの多用が
やや中途半端でしたけれども・・・。
このあたりは計算とセンスが・・・。
どちらも力量不足だったようで・・・。
投稿: キッド | 2008年1月 9日 (水) 23時04分