桜の季節、死に行く君に敬礼。(成海璃子)慟哭。(薬師丸ひろ子)黙祷。(手塚理美)
歴代美少女豪華共演の陸軍知覧特別攻撃隊物語である。
特攻隊専用食堂の女将に薬師丸、お世話とお見送りをした女学生たち(なでしこ隊)のリーダーに成海、特攻隊員の婚約者の戦後の姿に手塚理美という鉄壁な布陣だった。
敵である連合軍にバカ爆弾と呼ばれたロケット機「桜花」や、人間魚雷「回天」、特攻戦艦「大和」、誘導装置としての人間を使用した・・・大日本帝国陸海軍の特別攻撃の戦死者は一万人以上いると推定されているが・・・総力戦に・・・特別攻撃の死にも無差別攻撃の死にも格差はないと・・・キッドは考えている。
ただ・・・ただ・・・戦争は人間が人間を合法的に殺す機会にすぎないのだ。
それを「悪」と考える人もいるが・・・キッドはそうは考えないことをあらかじめお断りしておく。
で、『土曜プレミアム・千の風になって・ドラマスペシャル・なでしこ隊~少女たちだけが見た特攻隊~封印された23日間』(フジテレビ080920PM9~)脚本・末谷真澄、ひかわかよ、演出・田島大輔、大川卓弥見た。脚本・演出が複数名あることから察することができるのだが・・・複雑な構成を持ったフィクションである。主に次の要素で構成されている。①なでしこ隊と知覧特攻隊(振武隊)の交流を描いたドラマ ②戦後のなでしこ隊員と特攻隊員(戦没)の婚約者の再会を描いたドラマ ③当時の記録映像のドキュメンタリー ④実在の関係者の証言のドキュメンタリー・・・ある意味見にくいわっ。
とにかく・・・おタク時代になって・・・特定の情報につまびらかなものとそうでないもの格差は極めて激しくなり・・・なるべく多くの賛同を得ようとして・・・散漫になってしまう例は多いのだが・・・少なくとも・・・本当にあった話のドラマとしては・・・そこそこ泣けるし・・・がんばったと思う。陸軍なのになぜ海軍機で出撃するのだという初歩的なツッコミは「ドラマなので適当な機体でお茶をにごしています」というテロップ説明がある用意周到ぶりなのである・・・ある意味姑息だわっ。
さて・・・特別攻撃でもっとも高名なのは海軍の神風攻撃隊だろう。「カミカゼ」で世界で通用するほどのネーム・ヴァリューがあり・・・自爆テロにまでその影響力は及んでいる。つまり・・・日本の生み出した一つの文化なのである。
もちろん・・・人命尊重社会にあっては甚だ悪しき文化であることは間違いなのであり・・・一方・・・殉死的側面から美化する方向性もあり・・・語ることが非常に困難な文化でもある。
しかし・・・前述したように・・・陸海軍が専用の兵器から・・・偶然の産物まで幅広く行った特別攻撃なのであって・・・様々な「事実」があったということを理解しておく必要があると思う。
たとえば・・・「片道燃料だったか否か」という問題である。
結論から言えば・・・それはケース・バイ・ケースなのである。往復の燃料を積んで出撃した特攻機もあれば・・・目的地に到達することも困難な燃料不足で出撃した特攻機もあったということなのである。であるから・・・燃料についてどちらが正しいかを論ずることがすでにバカ丸出しということだ。
他にも「特攻隊員が覚醒剤を使用していたか」という問題がある。基本的に・・・戦闘において興奮剤を使用することは特殊なことではなく・・・出撃前に飲酒することも珍しくはなかったのであり・・・その酒に覚醒剤を混入することも充分にありえることなのである。もちろん・・・シラフで出撃したものもいただろうし・・・酩酊したり錯乱しながら出撃したりしたものもいただろう。当然・・・その中には理性を失い幻覚・幻聴を感じながら海面に特攻をかけたものもいたはずで・・・だからどうしたということなのである。劇中に・・・不時着して帰還する特攻隊員も描かれるわけだが・・・やむなく不時着したものも、ワザと不時着したものもいるのが人間としては当然のありかたなのである。
そもそも・・・本能的に衝突を回避しようとする人間に意志でそれを克服させようとする企画自体が荒唐無稽なのであり・・・それを主体的に立案した軍事官僚たちの馬鹿馬鹿しいほどの無能さ・・・これだけは明らかなのである。
計画者の中には・・・「お前たちだけを死なせはしない・・・最後に俺も逝く」と言って終戦の日に特攻出撃した海軍の宇垣中将や割腹自殺した大西中将もいれば戦後に防衛庁航空総隊司令を務め天寿を全うした源田大佐や敵前逃亡で有名な陸軍の冨永中将もいて・・・実にそれぞれが人間らしいのである。
まさに人生いろいろ・・・特攻もいろいろなのである。
そういう意味で・・・陸軍の知覧基地の・・・しかも・・・前田笙子(成海→和久井映見)たちなでしこ隊が目撃者となった数日間の出来事に限定したこの企画は秀逸だったと言える。
中学生時代に看護婦をやらされたり、女子大生をやらされた成海だがほぼ実年齢(現在16歳)の15歳の知覧高等女学校3年生(現在の中学3年に相当)を演じて・・・今回は非常に魅力的だった。
終戦の年の春・・・前田たちは軍の命令により・・・秘密の奉仕活動につく。それは出撃を控えた特攻隊員たちの身の回りの世話をし・・・出撃にあたって花を添えることだった。最初は「軍神」たちに奉仕することを無邪気に喜んだ少女たち・・・やがて・・・目前に迫る死に苦悩する青年たちと出会い・・・この世の不条理に打ちのめされていくのだった。
すでに戦争計画は根底から破綻し・・・人材も物資も底をついた帝国陸海軍は特攻攻撃に活路を見出そうとしていた。それは最終的な「1億玉砕」を達成するために有効な手段だったが・・・別の見方をすれば軍事官僚たちのその場しのぎだったのである。
そのために・・・一方では特攻作戦の成果を華々しく報道しつつ・・・特攻部隊そのものを極秘にするという矛盾となってあらわれていた・・・。
本島少尉(成宮寛貴)と米軍機の機銃掃射の中で劇的な出会いをした前田はいつしか・・・教師志望だったという本島に魅かれていく。どこからかやってきて・・・どこかへと消えていく特攻隊員たちの無惨さに・・・打ちひしがれた前田にとって・・・それはつかの間の恋だった。
特攻隊員の一人・穴澤利夫(山根和馬)は機体の故障や天候不良などのため・・・特攻出撃しながら何度も生還したことで・・・孤立をしていた。穴澤は婚約者を残して特攻隊を志願(建前上・・・実は強制)したことを悔やんでいた。次の出撃を前に穴澤は検閲を逃れるために恋人への手紙の投函を前田に託したりするのだった。
出撃前に軍歌を歌い気分を高揚させようとする岡安(福井博章)も酔いどれて前田にすがる。
隊員たちの最後の食を提供する食堂の女将トメ(薬師丸)はそんな隊員たちの仮の母として精一杯のおもてなしをし・・・サービスしすぎるから・・・隊員たちに里心がつくとお決まりで極悪な憲兵から鉄拳制裁を受けるのだった。
やがて・・・青年たちを死へと送り出すために身をささげることに・・・心を痛めた前田はお見送りに苦痛を感じるようになる。
そんな前田の元へ一度出撃に失敗した本島が訪ねてくる。
彼は夢だった教壇に立ち・・・たった一人の生徒に向かって最初で最後の数学の授業をするのだった。
翌朝・・・飛行場で本島を敬礼で見送る前田。・・・そして本島も帰らぬ人となった。
やがて・・・終戦・・・いつかは自分たちも死ぬから・・・と送り出した軍神たちを思い・・・心が折れかかる少女たち。しかし・・・平和な時代はいつしか・・・悲しい過去を風化させていくのである。
戦後20年が過ぎ・・・一枚の記録写真が妻となり母となった永崎(旧姓前田)の元へと届く。その写真に写っていたのは桜の枝を振るなでしこ隊と機上の穴澤だった。
やがて・・・穴澤の婚約者・伊達(手塚)と出合った永崎は「笑顔で行ったと伝えてくれ」という穴澤からの伝言を伝える。しかし・・・永崎はこう付け加えるのだった。「でもそれはウソでした・・・穴澤さんは涙をこらえていたのです」
関連するキッドのブログ『最後のナイチンゲール』
『男たちの大和』
木曜日に見る予定のテレビ『キャットストリート』(NHK総合)
ところでSPAMコメントが一日50件を越えたのでしばらく、承認制度に移行します。
皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。
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