醜いものほど美しいものを求めるズラ(松山ケンイチ)銭ゲバ的美醜姉妹(木南晴夏)一枚50円(ミムラ)
番組内容でCMを自粛されしまう・・・というのが民放の泣き所である。
そのために非常に通俗的なモラルの範囲内でしか芸術が磨かれない。
日本文化の最大の弱点でもあるが・・・まあ・・・与えられた土俵で勝負をするのが力士という考え方もあります。
自然は弱肉強食の世界であり・・・その中から結果的に平和共存が生れる。
食物連鎖をどちらの視点でとらえるか・・・というのが環境問題の基本哲学。
天敵を失い、共食いするしかない人類は環境破壊をして滅亡する。
そういう感覚を養うためにもギリギリの銭ゲバが見たいのです。
で、『銭ゲバ・第2回』(日本テレビ090124PM9~)原作・ジョージ秋山、脚本・岡田惠和、演出・大谷太郎を見た。蒲郡風太郎(松山ケンイチ)は家庭を放棄した父により母子家庭で育ち、最愛の母を病で失う。自らの不幸は金銭、あるいは金銭がないことに理由があると悟った風太郎は施設を脱走し、路上の泥酔者から金を奪おうとしたところを知人に見咎められ逆上して知人を撲殺してしまう。やがて・・・成人した風太郎は金を奪うことにしか人生の意味を見出せない狂人と化していたのだった。
そんな風太郎の前にかって母を侮辱した資産家令嬢の緑(ミムラ)が現れる。
緑に接近するために緑の運転する車に故意に轢かれた風太郎。
目覚めるとそこには銭によって守られた美しい獲物が・・・守られることによって人の心の醜さを知らぬまま・・・無防備な姿を晒しているのだった。
風太郎は「安全運転義務違反」の罪を問わず「友達になって欲しい」と緑にもちかけ・・・緑は快く応ずるのだった。
風太郎は不幸である。なぜなら幸せを失っているからだ。
風太郎の幸せは母(奥貫薫)の温もりだった。その温もりは失われた。
母が生きていた頃・・・緑と知り合った風太郎は極上のマカロンをふるまわれ、母に食べさせたい一心で持ち帰ろうとしたところを幼い緑に見咎められ、独善的な緑によって母を呼び出され母子ともに説諭されるという屈辱を受けている。
すでに父親からの暴行で顔面に一生消えぬ傷痕を残していた風太郎は・・・右顔に人を左顔に鬼を宿していた。
右顔には母の言葉が宿る。「貧しくても心正しく生きていれば神様が守ってくれる」
左顔にも母の言葉が宿る。「あんな小娘にお前の優しい心をなじられて口惜しい。同じ人間なのに口惜しい。貧乏は口惜しい」
風太郎に深く刻みつけられたこの出来事は・・・緑にとっては醜い顔の子供に優しくしてあげた微かな記憶に過ぎないのだった。
こうして・・・風太郎は派遣従業員でありながら派遣先の企業・三國造船の社長令嬢とお友達になったのだった。
緑に誘われたクルーザーでのパーティー。勤労青年の皮をかぶった守銭奴である風太郎は油断なく緑とその仲間たちを観察していた。風太郎にとって彼らは路上の泥酔者に過ぎない。隙があれば懐から金を奪うための存在である。
緑に話しかけられた風太郎は応える。「海辺で育ったのに船に乗るのは初めてです。こんなに素晴らしい景色があるとは知りませんでした。貧乏でも真面目に生きていれば良いことがあると母親が言っていたのを思い出しました・・・」と。
しかし・・・その目は獲物たちの動きを見逃さなかった。やがて・・・緑の実の妹で顔の右側に生来の痣のある茜(木南晴夏)が一人・・・群れからはぐれていることに風太郎は気がついた。やがて緑の友人の白川(田中圭)が500万円の腕時計を自慢した後・・・腕時計を置き忘れ・・・それを茜が破損させるのを目撃した風太郎は「しめた」と笑顔を浮かべる。破壊された時計を隠匿した風太郎は獲物の群れに自分という餌を投げつけるのだった。
やがて貧しさゆえに紛失した時計について責任を問われる風太郎。白川の疑いの目に潔く身体検査を受けるがもちろん時計は発見されない・・・豊かなものたちにはそこはかとない後ろめたさが生じるのだった。
巧妙に機会を伺い・・・茜と二人きりになることに成功した風太郎は「幸せな奴らが憎いんだろう・・・ああいう生れた時から幸せな奴を憎む気持ち・・・オレにはわかるよ」と隠匿していた時計を示し・・・それを海に投棄するのだった。
生れて初めて同じゲームをした茜はたちまち風太郎の虜になり・・・心から慕うようになるのだった。
そして・・・醜さと体の不自由さで歪んだとはいえ令嬢である茜は父(山本圭)と姉の緑におねだりをするのだった。
それは・・・茜専用使用人として風太郎を部屋住みさせるという希望である。
障害を負った娘を溺愛する父は喜んで茜の願いを受け入れる。
それより先に造船所に風太郎を訪ねるものがいた。最近、風太郎が殺害した派遣労働者について調査中の刑事だった。刑事の一人は荻野(宮川大輔)で・・・風太郎が最初に殺した男の兄だった。そしてなぜか、荻野は弟を殺したのがその日、施設を脱走した風太郎であると断定するのだった。荻野から証拠のない事実をつきつけられた風太郎は「あのやさしいいい人をなぜ殺すことができるでしょう」と慟哭する。
しかし、荻野は「今日は挨拶だけや・・・しかし犯人はお前だ」と名誉毀損で訴えられても仕方のない横暴さを残して去る。もちろん、貧しい風太郎が裁判に訴えないことを見越しての行動であるし・・・弟殺しの犯人が風太郎であるという確証があるか少し頭がおかしいかのどっちかである。
母の思い出の残るベラの煮付けがメニューにある定食屋。そこに棲む人々は風太郎に似た行方不明の肉親がいるという理由で親近感を示す。しかし、貧しい定食屋一家は風太郎の眼中にはない。風太郎にとって世界で意味があるのは自分と獲物だけなのである。
定食屋の主人の姪である由香(石橋杏奈)は兄の写真を見せるが風太郎はまったく気にもとめないのだった。そこにはただ風が吹いているだけなのである。
やがて風太郎はトラブルの現場に遭遇する。無銭飲食で警察に連行されそうになっているのはあろうことか風太郎の父親(椎名桔平)だった。
風太郎は父親の出現に幼児退行し一瞬動揺する。しかし、金の無心を申し出る父親に狂気を取り戻し、言葉を吐き捨てる。「その人は知らない人です」と。
部屋に戻った風太郎は床下に隠した紙幣を浴びながらランドセルを買ってくれた優しい父親の面影と母と自分に暴行し無惨な傷跡を残した父親の形相の相克に悶え苦しむ。
やがて職場に茜の意を汲んだ父親の命を受け緑がやってくる。
「仕事が終ってから話を聞く」という風太郎に経営者の娘として緑は好ましい印象を受ける。「こんな仕事でも生活がかかっているのです」と嘯く風太郎だった。
三國の屋敷(別荘)に呼び出された風太郎だったが・・・姉妹の父親は風太郎の風貌を一目見るなり難色を示すのだった。
用件を切り出さない父親に席を外す風太郎。その耳に父親の「あんな醜い男をこの家に入れるわけにはいかない・・・貧しさはそれだけですでに罪なんだ」という父親の理路整然とした暴言が飛び込んでくる。
危機を感じた風太郎の前に茜が現れる。「残念だけれど・・・君のお父さんには気に入られなかったようだ」と言外に茜の口ぞえを懇願する風太郎。
風太郎は何かに祈るのだった。「頼むよ・・・こんなチャンスはまたとないのだから」
茜は父親と激論を交わす。「だってよろしいっておっしゃったでしょう。あの人は素晴らしい方なのです。こんな私の罪をかぶってくださった。高価な時計よりも私に優しくしてくださった。あの人は盗人なんかじゃありません。あの人をくれないなら死にます」・・・茜に緑も加勢しついに押し切られる父親。
それを廊下で盗み聞く風太郎は「やった」と思わず不気味な笑いをもらす。
その姿を物陰から家政婦の春子(志保)は見ていた。
野望の手がかりを掴んだ風太郎は荒野に吠える。その足元にカメラの広告チラシがまとわりつく・・・。「その笑顔を永遠に」・・・微笑む子供の笑顔。風太郎の脳裏によぎるのは学校行事の写真だった。一枚50円。風太郎は母親に告げた。「ボクは・・・一枚も写っていなかったよ・・・」母親は優しく微笑んだ。
やがて・・・庭で茜と二人きりになった風太郎は「こういうことには不慣れなんだ」と前置きして茜の耳を両手で塞ぎ「オレは自分が醜いから醜いものは嫌いだ。だからお前のことは大嫌いだ。でも姉さんを手に入れるのは難しそうだ・・・だからお前で我慢したのさ。この家の全てを手にいれるためにだ。そうでもなければお前なんか顔を見るのも厭だ」と愛を告白する。思わず「あなたの声が聞きたいの・・・」と風太郎の手に自分の手を添える茜。
風太郎は優しく囁くのだった。「大好きだ・・・茜・・・君を愛している」
その時・・・屋敷の門前には身形を整えた・・・風太郎の父親が佇んでいた。その鼻は息子が狙う獲物の匂いを嗅ぎ付け、おこぼれの屍肉に預かろうとするハイエナのようにひくついている。
父親の件を除いてはほぼオリジナル展開なのだが・・・巧妙に原作に寄り添っている。まあ・・・様々なドラマの原点の一つになっている原作相手だけに見事な脚色であると言える。そして松山ケンイチの魅力のほとばしりはもちろんだが・・・久しぶりに潜在能力全開の役柄にありついたハルハルこと木南晴夏。圧倒的じゃないか。
関連するキッドのブログ『第1回のレビュー』
月曜日に見る予定のテレビ『ヴォイス・命なき者の声』(フジテレビ)
ところでSPAMコメントが一日50件を越えたのでしばらく、承認制度に移行します。
皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。
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コメント
こんにちは~。
ケンイチ君の演技に魅せられてます♪
キッドさん一押しの木南晴夏ちゃん。
いい表情を見せてくれますね~。
今まで彼女を知らなくてビックリでした。
どうしても昭和を感じてしまう過去。
そこまで貧乏?
写真一枚ぐらいあげなよ~な意地悪担任。
父親の「薄気味悪い」発言。。。
昔のドラマのような違和感と闘ってます(笑)
そう言えば…
緑は昔のマカロンのことは憶えてるんですかね?
風太郎にとっては一大事だった出来事も、
お嬢様には些細な記憶にすら残らない
ことだったりするんですよね~。残酷だ。
投稿: mana | 2009年1月28日 (水) 17時19分
ハルハルいいでしょう?
そこにいるだけで
なんだか危険な色気があるんですよね。
ベビーエロとかかしこさんとか
役柄で渾名のつく木南晴夏ですが
最近はゲストのしかもちょい役があるだけで
このまま・・・消えてしまうのかと
ドキドキしていただけに
「20世紀少年」とコレで
少し寿命が延びた気がします。
ふふふ・・・世の中の何パーセントかは
常に昭和の貧乏にひたっているものです。
21世紀貧乏だってあるんですもの。
ただ・・・そうでない方には
その貧乏の実感は分りにくいんですよね。
盗難事件が発生して
指紋とっちゃう教師が今もいますし。
ちなみに2006年にこんな状態でしたし・・・。
『NHKスペシャル・ワーキングプア~働いても働いても豊かになれない~』のキッドのレビュー→http://kid-blog.cocolog-nifty.com/blog/2006/07/post_72dd.html
まあ・・・すべてはこたつでアイスです。
対岸の火事です。
高みの見物です。
もっとやっちまいな~でございます。
いじめっ子は忘れるが
いじめられっ子は忘れないの法則です。
大体、いじめっ子はいじめたつもりが
なかったりもしますからな。
もちろん・・・特別ないじめっ子は
その喜びを反芻しますから
忘れないのですが
緑はあくまで独善家で
その気はないのですしね。
そのあたりが銭ゲバの原点のひとつでしょうね。
投稿: キッド | 2009年1月29日 (木) 03時25分