信越国境に異変の兆し天正元年に春なんてないよ。(妻夫木聡)
さて・・・空想科学戦国時代の幕開けである。1573年には春はあるが・・・天正元年に春はない。
天正元年は元亀四年が7月28日に改元されて始まるのである。
ちなみに三方ヶ原の戦いは元亀3年12月に行われ、武田信玄は元亀4年4月に没する。
だから・・・樋口兼続(妻夫木)が密偵として信濃に侵入して春日虎綱(高坂弾正)に出合ったのは「元亀四年の春」である。一応言っておく。全国的に一部元号おタク大失笑だったろうが・・・。
さらにいうならば春日は三方ヶ原の戦いに参戦しており・・・信玄の病状悪化による退却戦の途上(伊那周辺)にあり、対上杉最前線の海津城にいくら城代とはいえうろちょろしていないはずなのである。・・・ま、いいか。
で、『天地人・第2回』(NHK総合090111PM8~)原作・火坂雅志、脚本・小松江里子、演出・片岡敬司を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回もちび喜平次とちび与六の主従の契りの物語を堪能でございます。そして・・・新旧・高坂(香坂)弾正、吉江宗信(後に魚津城で柴田勝家に攻められ自害)、新旧・直江景綱、北条高広、柿崎景家・晴家の父子など猛将書き下ろしイラスト大特集、ちっとも戦国時代の匂わない本編よりも戦国の風が吹き寄せる傑作揃いです。前回・・・「桶狭間終ったーっ」・・・でしたが今回は「三方ヶ原終ったーっ」で始まるこの大河。ちょっと心配になってきませんかーっ。その辺をチクチクと突き刺す「上杉景勝は・・・結局、長尾上田衆からの人質だろう」論付です。全くその通り・・・キッドは鉄砲稽古の場面の北高全祝のセリフ「寺で人殺しの道具を云々」に卓袱台投げそうになりましたよ。
で、樋口与六が正体不明の母親に甘えたい盛りの頃の永禄8年(1565年)・・・美濃金山城では森蘭丸が生れている。そこから元亀4年の春までは・・・信玄の駿河侵攻やら、北条氏康の病没やら、三増峠の戦いやら、金ヶ崎の戦いやら、姉川の戦いやら、比叡山焼き討ちやら、足利義昭の陰謀やらが渦巻くわけであるが軽くスルーなのだった。とにかくここは戦国時代です。教育パパや教育ママが塾の先生に師弟の成績を尋ねる時代ではないのです。ないはずです。ないといいなあと思う。できれぱないようにしてもらいたいよなぁ。まあ・・・親子の情に時代は関係ないという考え方もありますが・・・。
で・・・永禄12年(1569年)・・・飛び加藤は真田幸隆の隠居所に忍んでいた。信濃戸石城の一画である。
「加藤段蔵か・・・」
「ご機嫌いかがか・・・」
「御主ほどではないが耄碌したわ」
「ふふふ・・・これは口が悪い・・・」
「三増峠の戦(いくさ)はどうじゃった・・・」
「まあ・・・武田のしのぎ勝ちでござる」
「御主・・・命を狙われておろう・・・」
「馬場殿あたりが拙者を煙たく感じておるらしい・・・武田の秘事を知りすぎたとお考えなのであろうよ」
「で・・・いかがする・・・」
「消えることにするわ・・・そこで相談じゃ・・・」
段蔵はふと黙し・・・ついに言った。
「子を一人くれぬか・・・」
「子を・・・」
「そうじゃ・・・拙者は・・・忍びの芸を極めたと思う・・・しかし・・・家もなく子もなく・・・その芸も一代限りじゃ・・・」
「ふふふ・・・忍びとしては常道じゃの」
「しかし・・・惜しむのよ・・・わが芸を・・・」
「伝えたいか・・・」
「伝えたいのじゃ・・・」
真田幸隆は老いた忍びの目を見た。そこに己を見る思いがした。老忍は言葉をついだ。
「拙者が死んだら・・・子は戻す・・・真田の忍びとして使うが良い・・・どうじゃ?」
「それも面白いかもしれんの・・・真田の隠れ里から一人選ぶがよい・・・」
「では・・・達者での」
「達者での・・・」
信濃・真田庄の山奥に忍びの里があった。あるものは身寄りなきゆえにあずけられ、あるものは攫われ、この地で忍びとして養育されるのである。その暮らしはけして安穏なものではなかった。10人の子供がいれば一年のうちに半数は死ぬ。三年目には一人も残っていないこともある。体力も知力も抜きん出ていなければ・・・生き残ることもできない暮らしだ。このような里はこの時代珍しくはなかった。下克上も最高潮に差し掛かっていたのである。
渓流の深みに子供たちが数人沈んでいる。錘をつけられ・・・縄で結ばれているのだ。それをとかなければ窒息し・・・溺死するのである。
最初の一人が水面に浮かんだ。そのまま・・・背後の岩に飛び移り・・・さらに森に姿を消す。
幼い顔に必死の形相が浮かんでいる。気配を消し息を整えねばならない。
その体が跳ねとんだ。その瞬間、子供の潜んでいた草むらに棒手裏剣が突き刺さる。
「ほう・・・見事じゃ・・・」
子供は声をかけられ振り向いた。
「才ばかりは・・・生まれもたねばならぬからな・・・」
子供は身構えて声の主を捜している。その目の前に蝶が舞い始めた。どこから現れるのか次から次へと色とりどりの蝶が舞っている。
一瞬・・・子供の体から緊張が途切れる。その刹那、いつの間にか子供の傍らに立っていた加藤段蔵は子供に当身を食らわす。子供は倒れかかるがそれを段蔵が受け止める。
「ほ・・・女子か・・・この段蔵の跡を継ぐのがくのいちとは・・・それも一興よな・・・」
気配を窺っていた真田の里のしつけ係りは二人の姿を一瞬で見失う。
「真田の千造・・・この娘・・・もらっていくぞ・・・」
千造は耳元で囁かれ、硬直する。ふりかえるが・・・そこには段蔵も娘の姿もなかった。
千造は・・・ため息をつくと・・・河原に戻っていった。子供の人数を数え・・・一人足りないことに気がつくと深みに飛び込む。水中では男の子が一人息絶えていた。
「与六か・・・惜しかったの・・・それにしても・・・飛び加藤・・・恐ろしき忍びだて・・・」
元亀3年12月・・・天竜川の西、浜松城の北、三方ヶ原に誘い出された徳川・織田連合軍は武田軍の猛襲に大敗北を喫していた。しかし、その大勝の後・・・信玄の前進は止り、年が変わって元亀四年には戦線縮小の気配を見せ始めていたのである。
表向きは占領地の安堵を装っていたが不可解な動きである。
武田軍の援軍として北条の兵が動いているために・・・前線で諜報活動を指揮する北条忍びの頭領・風魔小太郎にはその異常さが克明に伝わってくる。
信玄そのものが戦略の巨人であるから・・・そこには秘匿された何かがあると小太郎は読む。すでに信濃から美濃に手を伸ばしている信玄が一挙に岐阜へ侵攻する可能性もあった。
しかし・・・冬が去り、春が盛りとなっても織田・徳川と武田の戦域は動かなかった。
やがて・・・情勢分析から・・・小太郎はひとつの結論に達する。
「信玄坊主め・・・身罷ったか・・・」
遠江と駿河国境の荒れ寺に潜む小太郎は羽虫の音を聞きながら思わず口走った。
信玄はすでに信州伊那谷に移り・・・4月12日に死んでいた。
遺言では3年は死を秘せと述べたらしいが・・・小太郎はそれを4月15日に知った。
もちろん・・・徳川・織田連合軍もその事実を数日で掴んでいた。
信長は・・・岐阜城で織田配下の熱田の忍びの報告を聞いていた。
「信玄は年初めより病を発し・・・三月末までには前線から身を引いた由にございます」
信長は始終一言も発しなかったが忍びが去ると一度だけつぶやいた・・・。
「飛び加藤・・・であるか」
上杉謙信も・・・信玄の死を四月中に知った。謙信は軒猿(上杉の忍び)折佐久につぶやいた。
「信長・・・魔王の運気・・・あなどれぬわ・・・」
信玄の死により虎口を脱した信長は・・・夏までには朝廷に改元を迫るまでに覇を推し進める。短い元亀の世が終わり・・・安土桃山時代と呼ばれる天正年間が始まるのだった。(つづく)
関連するキッドのブログ『第一話のレビュー』
火曜日に見る予定のテレビ『メイちゃんの執事』『トライアングル』(フジテレビ)『神の雫』(日本テレビ)
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コメント
とりあえず北高全祝の台詞は思いっきりスルーしました( ̄▽ ̄)
何にしても「義」と「愛」を掲げてるので
どうも綺麗に見せようとビジュアル的にも
させている辺りはなんだかなぁって感じです。
特にカッコいい人はよりカッコよく
キワモノはよりキワモノにって感じは
なんだかなぁって感じです。
段蔵は三浦さんになったんですね( ̄▽ ̄)
風魔小太郎ありがとうございます(-人-)
この年は浅井も朝倉も風前の灯火
来年には二人の頭は杯になってしまう運命ですね。
恐るべしゴンゾウ信長です。
まぁ早いこと吉川信長をつくらんとなぁ(; ̄∀ ̄)ゞ
武田信玄の死は諸説ありますが
こういう感じが自分は好きですね(≧∇≦)b
投稿: ikasama4 | 2009年1月13日 (火) 00時02分
✥✥✥ピーポ✥✥✥ikasama4様、いらっしゃいませ✥✥✥ピーポ✥✥✥
まあ・・・とにかく序盤戦は
子供を戦にまきこまない展開でございますね。
まあ、脚本家は泣かせる展開作りには
定評ありますから・・・戦国時代で
なければ基本的にはまったくOKの
お涙頂戴ドラマに仕上がっているのですが。
この調子でいくと常盤が身体障害者になって
車イス転がしはじめそうでこわいのでございます。
まあ・・・信長・秀吉の扱いについては
セリフがあるだけ・・・いいかと
思うほかないですね。
今回14才の妻夫木なので30才松方でも
面白かったのに家康もださないとはーっ。
段蔵はかなり長生きする予定です。
そして百地、風魔、服部(初代)などの首領級の忍者は
全部ikasama4様で賄う予定でございます。
ご了承ください。
元亀は信長絶対絶命ですが
天正になれば信長様のターンですからな。
この年の夏は大逆転の夏。
しかし、この調子で行くと
あっという間に本能寺かもしれません。
武田信玄という巨大な上忍の死は
相当に忍びの世界に津波を波及させたと考えます。
天正伊賀の乱などもその一つ。
ここからは伊賀、甲賀、真田、風魔、軒猿、熱田、
根来、藤原、鞍馬などの忍びたちの
主導権争いが激化なのでございます。
忍者天国は・・・
この世の地獄でございますがーっ。(; ̄∀ ̄)ゞ
投稿: キッド | 2009年1月13日 (火) 13時48分