戦わないものが愛される・・・それが無能の時代の天地人(妻夫木聡)
たとえば・・・「ラブシャッフル」の本質は「愛とは勝ち取るもの」だと言える。だから受けない。「メイちゃんの執事」もまた「友達とは勝ち取るものだ」という発想がある。だから思ったより視聴率は伸びない。「ミッドナイトイーグル」は「平和とは勝ち取るものだ」という主張である。もちろん、お茶の間は背を向けるのである。
今、お茶の間は「必死」である。なにしろ、時代は明らかに曲がり角に来ている。恐ろしいほどの「弱肉強食」の時代が始まろうとしているのだ。
そういう時にお茶の間は「どうすれば生き残れるか」という情報を今さらドラマに求めたりしない・・・ということも言えるし、「戦いがある」ことそのものから必死に目をそらしているとも言える。だから、一国の総理大臣候補が公衆の面前で「おねむちゃん」になっちゃったりするのは大失態なのだな。切腹すればいいのに。すごくその後のストレスたまるタイプだとうかがえるから・・・周囲の人は気をつけるべきだとも思う。
で、『天地人・第7回』(NHK総合090215PM8~)原作・火坂雅志、脚本・小松江里子、演出・高橋陽一郎を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。・・・いつもより名場面抽出少な目ですが・・・名場面がないのだから・・・仕方ないのでございます。その分、今回は結婚したことを隠す芸能人なみにさらっと流されたお船の最初の夫・総社長尾家という名門の出身である直江信綱(婿)の書き下ろしイラスト大公開です。その後は歴代大河ドラマでもワースト3入りは確実というおそまつな歴史考証についての指摘多数で盛り上がれます。北高全祝は信濃にいるだろうは誠にごもっとも。まあ・・・きっと影坊主なのでございましょう。そしてお楽しみはキュートな死体泥棒、妖怪「火車」物語付。戦場の兵どもが夢の後はどうなるのか、疑問の方は必見です。ま・・・とにかく・・・戦国時代でも戦がない方がお茶の間に受けるという読みは慧眼すぎてゲンナリするのでございますよねーっ。いつまでこの無戦国時代ものに耐えられるのか・・・心配でございまする。
で、天正五年(1577年)に突入である。ここで歴史考証というものについて短く触れておく。たとえば現在からおよそ430年前の話である。一般的に当時から生きている人は少ないだろう。だからインタビューはできないのである。そこで遺物の調査と分析が基本である。その主体となるのが文書である。文書にも様々なものがあり、公文書から、手紙、そして墓碑銘まであらゆる文字が一つの証拠となっている。さらに書には当然のことながら真偽がある。また内容が歴史上の本人によるものか、その本人について誰かが書いたものかという違いがある。ついでに本人を直接知るものと伝え聞いたことをまとめたものの違いもある。当然、誰もが知るものとそうでないものとでは信憑性に差が生じる。また、勝者と敗者ではあることないことの捏造の差が出るのだ。結論から言えば歴史的事実などというものはないという暴論も成立する。しかし・・・研究者たちは地道な努力を続け、古文書を解読し、墓を掘り起こして・・・真実を探求するのである。
たとえば、数ある上杉の猛将たちがほとんどキャスティングされていないのに柿崎景家の子、柿崎晴家が度々登場するのは後々に後継者争いが起きるときに晴家が景虎に味方する武将だからである。その父・柿崎景家は上杉四天王の一人とされる猛将だが・・・最初から登場しない。この景家は天正三年に織田信長に内通したとされ落命していると伝えられている。しかし、その子、晴家がその後も重用されているのは不合理だという検証がある。そこで・・・晴家が景虎に味方し、景勝が勝者となったことから・・・晴家の父で名のある景家も汚名を捏造されたという疑いが生じるのである。
そしてその真偽は藪の中なのである。だから・・・歴史にはロマンがあるという考え方があり、妄想でいいじゃないかという発想もあるのだな。
たとえば、相当に身分のあるものをのぞき、女性の名は残されにくい。そのために武田勝頼の母・諏訪御寮人の名が不明だったりする。天地人では上杉景勝の姉と妹の名が実は不明である。ドラマでは妹が華姫という名で景虎に嫁いでいるが定説では妹が嫁いだのは畠山義春で・・・景虎に嫁いだのは姉だということになっている。このあたりがロマンなのである。そして・・・景勝の正妻となる菊姫の名前が残り・・・二人の姉妹の名が残らないこと・・・ここに戦国のリアルな恐ろしさがあると言える。名前が残らぬことが二人の姉妹の行く末を暗示するわけだ。
同様にやがて、直江兼続の妻となる・・・直江景綱の娘・お船の名は伝わるが、謙信の侍女だったとされるお船の姉の名は伝わらない。実在さえ疑われるがドラマ「天地人」ではお悠(吉瀬美智子)という名で出ています。
お悠はくのいちである。越後国直江庄の地侍だった父・直江大和守か藤原の忍びの一族であるため、当然くのいちなのである。上杉の忍者といえば軒猿の一族が高名だが、これは謙信の軍師と言われた宇佐美定満の支配下にある忍びを中核となしている。
直江大和守は謙信を擁立した地侍の頭目でもあり、謙信が出世した後は与坂城を根拠地としている。お悠はくのいちとして一流であり、その役目は謙信の警護であった。
与坂城の南、越後の国から上野の国に向かう辺境には坂戸城がある。ここは上田長尾と呼ばれる一族の領地である。謙信の姉・仙桃院・綾姫が坂戸城主・長尾政景の正室となり、景勝と姉妹の母になる頃、直江大和守の父・親綱は娘・お藤を・・・政景の家来である樋口兼豊に嫁がせている。お悠の叔母にあたるお藤は当然くのいちである。
すでに述べたが、樋口一族は木曽義仲の愛妾で女武将の呼び声高い巴御前の血族である。信濃海野一族もその係累だ。つまり相当に由緒正しい忍びの一族なのである。
つまり、上杉→綾姫→上田長尾という主筋の婚姻関係が、直江→お藤→樋口という家来の間でも結ばれたのである。
つまり・・・後に直江兼続となる与六の戸籍上の母、お藤は忍びの頭領から別の忍びの頭領に嫁いだくのいちということだ。
もちろん・・・後に与六の妻となるお船もくのいちであることはいうまでもない。
お藤、お悠、お船・・・そして与六。その忍びの主は直江大和守である。その大和守の寿命が尽きたために・・・樋口の里にも動揺が走っていた。
坂戸城は越後の辺境だが、上杉謙信の勢力は上野国まで及んでいたので最前線は上野・沼田城になっている。城主は本庄秀綱である。いわば坂戸城はその後衛である。敵となるのは関東の雄・北条氏である。上杉と北条は手切れと手打ちを繰り返し、その主従関係は複雑化している。上杉謙信の養子の一人である景虎が・・・敵である北条家当主・氏政の弟であるのが一つの証拠である。
謙信は軍事的な天才であったが・・・戦略的にはかなり無謀なところがあったことは周知の事実である。その歪みはやがてお館の乱となって現れるがその導火線はすでに坂戸城下でも点火していた。
北条が景虎につけた風魔衆と景虎の妻となった仙桃院の娘・華姫につく樋口(直江)衆との反目である。それは上杉が北条を支配するか・・・北条が上杉を支配するかという根源的な問題であり・・・血を見るのは火を見るより明らかだったのである。
その日、越後上野国境を越えた風魔一族の動向は海野一族である真田忍びから樋口一族に通報されていた。
使いは甚八という真田の忍びだった。根津一族の血を引くものである。
与六の父、樋口兼豊は屋敷で、お藤とともに甚八にあった。
「風魔小太郎の配下が忍びいるのは珍しいことではないがの・・・」
兼豊は笑みを浮かべて甚八の言葉を受けた。
「されど・・・能登七尾城の攻城戦が峠を越える按配にて・・・氏政の恐れは尋常なきこと・・・」
「お館さま(謙信)の戦ぶりが変じたと見たわけじゃな」
「しかり。関東管領様は戦勝しても領地を奪わずが信条でしたが・・・此度は越中・能登の諸城に上杉方城主を配り、国盗りの様子。信濃善光寺にも手を伸ばしていることをわが主(勝頼)も案じる仕儀ならば・・・氏政殿もいささかたじろぐことでしょう」
「そこで・・・直江様のご病状を見て・・・坂戸の忍び狩りを決めたか・・・」
「風魔衆の中でも忍び討ちのてだれとされる足柄の忍びが選ばれております・・・」
「ふふふ・・・この樋口の忍びもあなどられたものよ・・・のう・・・お藤・・・」
お藤は老いを感じさせぬ顔に殺気をのぞかせた。
「油断は大敵なれど・・・関東の腐れ忍びなど・・・返り討ちにしてくれましょうぞ・・・」
すでに・・・お藤は里にいる樋口の七人の愛妾たちをつなぐ結界で警戒線を張っている。
お藤が育て上げた樋口の子息たちは北斗七つ星の陣で、雪どけぬ早春の国境線に散っている。指揮をとるのは与六の兄、与一である。お藤は本陣に夫と実子の与七を残し・・・実戦に出るつもりだった。うかみに長けた与六がいれば・・・とお藤が思うが・・・与六は跡取り景勝に従って越中富山城にいる。
・・・雪の上に鮮血がほとばしった。樋口与一は自慢の忍者刀術で風魔忍者を一刀両断にする。
風魔衆と樋口衆の血戦の舞台は雪の残る辺境山岳戦に移っていた。
お藤による待ち伏せの網にかかった風魔足柄衆はほぼ殲滅され・・・撤退する忍びを根切りにかけるために樋口衆が追跡しているのである。
白装束に身を固めた樋口与一を核とした追撃部隊は谷川岳方面に進出していた。
その後方ではお藤が陣頭指揮をとっている。
はだれ雪が風に舞う銀世界である。雪の洞に身を潜めたお藤は殺気を感じて飛びのいた。お藤を襲ったのは熊であった。風下から来襲したので血の匂いに気がつかなかったのはお藤の落ち度だった。もちろん、手負いの獣を使うかく乱の術である。
お藤は背後から忍びよる風魔の忍者を手裏剣で二人仕留めていた。しかし、すでに数箇所に傷を受けている。
それを確かめたように・・・樵姿の忍びが姿を見せた。
「ふふふ・・・樋口の忍びを甘くみたわ・・・」
「風魔の木っ端か・・・」
「せめて・・・樋口くのいちの頭・・・お藤様を討たせてもらい・・・帳尻あわせをいたす」
「熊を使ったはおぬしか・・・名乗るがよい」
「足柄の時丸・・・」
風魔の忍びの言葉が終らぬうちにその体はのけぞって倒れた。
お藤が必殺の指弾による兜割りの秘術を見せたのである。
「見たか・・・直江流・・・雪蛍の術・・・」
お藤は言葉を残し・・・雪上に身を横たえた。すでに・・・風魔に受けた傷から毒が心の臓に達していた。
「おまえさま・・・」
お藤の脳裏に夫樋口兼豊の顔が浮かび・・・その顔が父・大和守に重なった時・・・お藤は暗黒に落ちた。
関連するキッドのブログ『第6話のレビュー』
火曜日に見る予定のテレビ『メイちゃんの執事』『トライアングル』(フジテレビ)『神の雫』(日本テレビ)
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皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。
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コメント
来週はあっさり七尾城が落ちるみたいなんで
今度は畠山氏を調べる予定なんですが
意外に色々とあやふやなとこが多いです(; ̄▽ ̄)ゞ
畠山義続の次男・義春が上条家に養子になったのは
間違いなさそうなんですが、その義春が上条政繁その人なのか
元々の上条家当主である上条政繁の養子になったのかは
見る記事によって違うみたいだし(後者の方が有力)
武田信玄の肖像画についてはも
実は畠山義続もしくは畠山義続の父・畠山義総を描いたものではないかと
未だにこれについては結論が出てないみたいで
まぁ上杉謙信に数々ある説がはっきりしない事と
同じ領域みたいな感じです(; ̄▽ ̄)ゞ
それにしても、イケメンというか
ビジュアル重視みたいなキャスティングになると
合戦時の髷はとらないのは定番みたいですねぇ。
カツラを作るのが大変なんでしょうか。
それともパパイヤさんの髷を下した髪型を
作るのに無理があったんでしょうか(苦笑)
何にしてもこちらの記事を読む方がドラマよりも面白いデス ̄∇ ̄
昔、読んだ忍の作品では闇夜専用に黒い刃ってのがありましたが
雪国専用の白い刃ってのもありかもしれませんね。
それにしても金沢での髑髏の数が増える増えるwww
投稿: ikasama4 | 2009年2月17日 (火) 12時55分
✥✥✥ピーポ✥✥✥ikasama4様、いらっしゃいませ✥✥✥ピーポ✥✥✥
畠山氏は結構、迷宮でございますね。
まず、畠山重忠から始めると
重忠未亡人が足利義純に嫁ぐことにより
畠山家が始まる。
で二本松畠山、能登畠山、河内畠山と増殖して
戦国時代になると
天正元年に河内、天正四年に能登、天正十四年に二本松と。
次々に滅亡していく。
この辺りが醍醐味です。
まあ、滅びた一族は謎に包まれるのが
セオリーですし、
滅ぼした一族がまた衰退したり、滅亡したりして
ますます謎となっていくのでございます。
そういう歴史の闇にこそ妄想の花が
ひっそりと咲くのですがーっ。
まあ・・・髷をおろした戦姿が
落武者を象徴してしまうので
教養のない人にはビジュアル的に許せない・・・
のでございましょうねーっ。
本当におバカさん。
まあ、髷を結って
野球ができないことは
ちょっと想像すれば分るのにな・・・
といつも思います。
なんで頭頂部を剃るのか
すぐに分るだろうに・・・。
わかるかっ。
まあ、ヘルメットが
男女雇用機会均等法で
女性の愛用のものとなり
真夏にかぶるようになると
また変わってくるかもしれませんな。
ふふふ、ミッドナイトイーグルを見ていて
かぶったーっと叫びましたけどね。
そのうち・・・魔王様は髑髏の山に埋もれ
本人も髑髏に・・・おいたわしや('A`)
投稿: キッド | 2009年2月18日 (水) 04時32分