妻を助けてくれたまえ!(唐沢寿明)私は軍人の娘ですから人前では泣きません(多部未華子)
やはり・・・バランスが悪いのだなぁ。
いや・・・「不毛地帯」のドラマ化としては最高水準に達していると思うが・・・お茶の間との距離の取り方が失敗している気配がある。
主人公の壹岐が「いけない恋心」を誰に対してもどうして隠せないのか・・・という疑問が沸き起こるのは必定なのである。
これはその点については純情可憐な青年のままの男だから・・・ということなのだが・・・もう、そういう心情って誰も理解できないのじゃないかと思う。
昔は・・・不器用なんだなぁ・・・で済んだ話なのである。
ま・・・男の不器用さで殺される妻なんて・・・お茶の間的にはもっとも耐え難かったりして・・・。
秋ドラマ第二次なんちゃって高校生ビッグ3(もう二人なんちゃってじゃないじゃん)の陣(順位は平均視聴率)
①多部未華子「不毛地帯」・・・・14.1%↘11.1%↗11.6%↘*9.9%↗11.8%↘10.7%↘10.6%↗11.4%
②大後寿々花「サムライハイスクール」14.0%↘11.3%↘*9.6%→*9.6%↗10.6%↗11.0%↘*9.9%
③志田未来「小公女セイラ」・・・*7.4%↗*8.0%↘*7.8%↘*7.6%↘*6.0%↗*8.4%→8.4%
※主役と脇役を同列で論じる脈絡のなさを責めないでください。
で、『不毛地帯・第8回』(フジテレビ091203PM10~)原作・山崎豊子、脚本・橋部敦子、演出・平野眞を見た。最初に「おことわり」のつくドラマである。つまりフィクションだということなのだ。ドラマがフィクションなのは当たり前なのだが・・・まあ・・・実在というフィクションにかなり近い部分があるのでアレなのである。さらに言えばこの物語の主人公たちは特権階級に属している。同じような特権階級の人々を描いた「華麗なる一族」との最大の違いは「戦争」を色濃く描写することによって「戦後まもなく」の暮らしがあり・・・壹岐の一家が貧しかったような誤解を生じさせていることである。当時の東京は焦土から復興していたので特権階級も庶民も同じような住居に住んでいた・・・という話にすぎない。
そこでこのドラマでは壹岐(唐沢)や壹岐夫人(和久井映見)が庶民のように描かれてしまっていることが・・・中途半端なことになっているのである。
研究不足か・・・狙いなのか・・・は微妙なのだが・・・たとえば零落した小出(松重)でさえも庶民ではないのである。当時の庶民はもっとド貧乏なのだ。
だから壹岐や壹岐の妻の心情が同時代人なら分るというのも誤解である。
壹岐や壹岐の妻の心情は雲の上の世界の話であり・・・当時の人々は原作を読んでうっとりするのが普通なのだな。
同時に秋津千里(小雪)の存在だって意味不明だろう。庶民が食うや食わずの時代に陶芸なんて始めてしまうことが・・・超お嬢様の世界なのである。
しかし・・・今は、庶民が陶芸をやっても違和感ないし・・・妻子ある男性に心を寄せても死は覚悟しない。
たとえば・・・登場人物の中では秋津千里と壹岐直子は同格なのである。
二人とも軍人の娘だからだ。
一方で妄想上では壹岐夫人の佳子は政治家の姪であり、父親は軍人の凶弾に倒れているのである。壹岐が11年も不在の間、戦後の混乱期で滞りなく子育てをしているのは佳子もまた超お嬢様だからなのである。
庶民の戦争未亡人たちの暮らしはもっといくらでも悲惨だったのだ。
だから・・・原作はある意味、御伽噺なのだな。
それを妙にリアルな話として作ろうとしているところに失敗を感じます。
まあ・・・だから・・・あのエンディングにしちゃっているわけですから・・・。
東京商事の鮫島(遠藤憲一)との売り上げ競争・・・近畿商事内部の里井副社長(岸部一徳)との権力闘争・・・壹岐にとって・・・それらは戦いとしては大したことのない戦いである。過去に彼は何千何万の将兵を死に至らしめるような作戦をしてきた男なのである。
しかし・・・家庭に戻ればそこには壹岐にとって不得意な平和維持活動が待っている。長い抑留生活の間、壹岐の顔を知らずに育った長男・誠(斉藤工)、ライバル・鮫島の息子と交際している長女の直子、そして・・・最愛の妻・佳子・・・この家族との距離の取り方が難しいのである。
上官の娘である千里の間に生じる思いも複雑すぎて壹岐の手にはあまる。生死をともにした上官の娘であることに対する保護の気持ちと、美貌の本人に対する恋情が入り混じり混沌としている。
どちらかといえば娘の直子に対する感情に近いのだが、直子と違って近親相姦のタブーがないだけにさらに恐ろしいのである。
そうした葛藤の激しさが壹岐にとっては不本意な独特の不機嫌な表情を顔に出現させる。
その態度があまりに不自然ゆえに・・・佳子としてはあらぬ疑いをかけざるを得ないのである。
壹岐の滑稽さは何もないことを隠そうとすることである。いや邪な心はあるわけだが・・・その心を克己しようとするあまり・・・隠そうとする不自然さが残るのだった。
そういう感じをお茶の間は理解してくれないような気がする。
一方で東京商事の主催するパーティーで外人相手におぼつかない英語で話したり、里井夫人(江波杏子)や大門夫人(赤座美代子)に疎外されたりする佳子夫人もかなり唐突なのである。
なにしろ・・・世が世なら・・・民間企業の社長夫人といえども気を使わねばならない身分の佳子なのである。
前回も言ったが・・・壹岐の政界へのパイプは壹岐夫人の力に負うものなのだ。
その辺りのことは少なくとも大門夫人には社長が一言言うはずなのである。
そして夫人たちはみんな昭和の生まれではないのだ。明治の女だったり、大正の女だったりするのである。やや・・・ネタを作りすぎて失敗していると考える。
双方の部下の妻と考えれば余計なのだな。嫌味を言う場面ではない。ここは同じセリフで大門夫人から里井夫人へのけん制としてしつらえるべきで演出ミスだ。
まあなあ・・・お茶の間にわかりやすくと・・・より面白くがちくはぐになるのはこのドラマの根本的な問題点だけどな。
せっかくの美しい妻との晴れがましい舞台も・・・新聞記者・田原(阿部サダヲ)の特ダネ魂が打ち砕く。
情報を得るには情報をの鉄則で・・・田原は米国大手自動車メーカー・フォーク社と東京商事の情報を得るために・・・近畿商事の内部事情を鮫島に流す。
これを得た鮫島は壹岐の秘密工作を里井に明かすことで・・・近畿商事の足並みを乱そうとするのだが・・・ここも作りすぎなのである。
そんなことして・・・鮫島に何のメリットがあるのだろうか。
すべてが・・・壹岐や壹岐夫人をひきたてさせるネタに見えてしまい・・・ちょっとゲンナリするのだな。そういう中学生のいじめレベルの話ではないのである。
少なくとも、里井が大門の顔に泥を塗るような真似はしないだろう。
まあ・・・でも・・・低視聴率のプレッシャーにスタッフがなんとかしなければ・・・と思っている熱意は伝わってきます。
ともかく・・・不器用な男の不可解な態度で・・・妙な嫉妬心にかられた佳子はささいなケンカを夫としてしまう。
レベルとしては・・・夫婦で銀座を歩いていたら、グラビアアイドルとすれちがい、夫の視線が彷徨ったのを妻が見逃さなかったあとの亀裂程度です。
そこで・・・「帰ります」「勝手にしろ」・・・と別れた後で・・・夫が気が咎め・・・「やさしい言葉」をかけようと・・・妻を呼び止める。
そこは横断歩道。そして無謀な運転の車が信号無視をして・・・。
「佳子ーっ」である。
佳子の遺言は・・・「あなた・・・会議は・・・会議に・・・」
現代なら高度救命センターが何とかしたかもしれないが・・・ここは「手遅れです・・・」が問答無用でまかり通った昭和42年(1967年)なのである。
最愛の母を失い気丈にふるまう娘だったが・・・母がそうしていたように一人涙にむせぶ。
壹岐はもう自決したい気分なのである。
それを諌めるシベリア時代の上官・谷川(橋爪功)「貴様がいない間、細君が家を守ったように・・・今度は貴様が家を守る他あるまい・・・」なのである。
しかし・・・壹岐はとても家にはいられず・・・仕事に没頭するのだった。
大門はそんな壹岐にニューヨーク支社長を命ずるのだった。
「単身赴任で安くあがるからな・・・金髪美人で慰安もバッチリじゃよ・・・壹岐くん」
もちろん・・・それは間近に迫る・・・米国からの貿易自由化の圧力と国内の企業再編成を睨んでのことなのである。
何も知らない泰夫(加藤虎ノ介)はフィアンセの千里に禁句を言い墓穴を掘る。
「壹岐さんの奥さん・・・亡くなったんだって・・・」
これも劇化しすぎでちょっと不自然なんだな。入院していた竹村(中丸新将)ルートの方が自然だろう。
まあ・・・直子のミニスカートは膝下で地味だったが・・・逆光のシルエット・サービスはセクシーだったから納得の出来ではあります・・・結局そこかよっ。
関連するキッドのブログ『第7話のレビュー』
土曜日に見る予定のテレビ『尾野真千子の外事警察』『アグリー・ベティ2』(NHK総合)『志田未来の小公女セイラ』(TBSテレビ)『大後寿々花のサムライ・ハイスクール』(日本テレビ)『ターミネーター:サラ・コナー クロニクルズ』(フジテレビ)
ところでSPAMコメントが一日50件を越えたのでしばらく、承認制度に移行します。
皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。
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コメント
あ~、すごく分かり易いです。
ド貧乏な時代背景から始まり、
壹岐の気持ちや、佳子の身分。
大正もしくは明治生まれだったんだ~
な人たちや鮫島の行為などなど。
それなりにドラマを楽しんでるので、
視聴後にキッドさんの解説を読むと面白いですね~。
冷静になれるしσ(^_^;
でも、それを知らないからこそ思うツボの
泣ける回でした。
「佳子ーっ」(/_;)
泣きツボをくすぐられると評価高いんです。
単純な私。テヘ
投稿: mana | 2009年12月 8日 (火) 20時16分
|||-_||シャンプーブロー~mana様、いらっしゃいませ~トリートメント|||-_||
まさに今回は「佳子ーっ」の回でございました。
とにかく・・・全国正妻の皆様は
そんなことが許されていいのかっ展開に
ぶほっとなったのではないかと妄想。
まあ・・・あくまでフィクションでございますので。
ウィスキーがお好きでしょ
もう少ししゃべりましょ
の人がものすごいバッシングを
受けるのでは・・・とめまいを感じましたほどです。
まあ・・・昔のことというのは
時代だけでなく
地域差もございます。
今はそうでもないですが
昔は都会と田舎では10年くらい
タイムラグがありましたしね。
「坂の上の雲」で言うと
明治元年
東京の子供 はだし
田舎の子供 はだし
明治十年
東京の子供 靴
田舎の子供 はだし
みたいな感じ。
そして老いは過去を長くします。
たとえば現在80才の老人が
10才くらいでその頃80才の老人の
10才の頃のことを聞くとします。
すると140年前の本当の話を
80才の老人は知っていることになる。
つまり人間は生きたタイムマシンなのですな。
もちろん・・・話が本当に本当なのかは別として。
大人が子供に話をする意味は
そういうところに味があるのだと思います。
そういう意味でこのドラマは
まあまあだけど
惜しい感じをキッドはもっているのです。
投稿: キッド | 2009年12月 8日 (火) 21時09分