万華鏡はパラレルワールドの象徴(中谷美紀)仁は誤診(大沢たかお)鬼と涙(綾瀬はるか)
愛のために鬼になる。虫も殺さぬ顔をして女殺し。君子豹変級の変心である。
好きな女のために目の前の命を見捨てる主人公・・・。
ものすごく陰惨な話になってきました。
吃驚仰天である。
毎回、よくも悩む種が尽きぬものだと思うほど揺れ続けた仁の心は最後の最後でとんでもない境地にたどりついてしまったのだなあ。
本題に入る前に恒例の週末の視聴率チェック。「アンタッチャブル」↘*6.4%(これは一回休みが効いたな)、「おひとりさま」↗11.0%(観月もてもてドリームか)、「マイガール」↗10.0%(甘~いハッピーエンドの極み)、「セイラ」↗*9.8%(最終回フタケタなるか)、「サムライハイスクール」↗10.1%(軽~い夢おち)、「外事警察」↘*4.1%(そりゃそうだな面白すぎるもの)、「終着駅VS事件記者冴子」15.7%(単に終着駅でいいのに)、「HERO」17.7%(年末年始だからな)、「坂の上の雲」↘19.5%(来週は一日三回見そうだ)、「仁」↗20.1%(凄いな・・・)、「さんスマクリスマス」22.2%(だってこれがあったんだぜ~)・・・以上。ついでに「東京ワンワン」の視聴率はショコラ様のTBへゴー!
で、『JIN~仁~・第10回』(TBSテレビ091213PM9~)原作・村上もとか、脚本・森下佳子、演出・平川雄一郎を見た。人それぞれの命は突き詰めれば人それぞれの全世界である。命が全てであるというのはそういうことである。そうでありながら人は愛のためにその全てを失っても惜しくないと思いつめることがある。わが子のために命を投げ出す親だとか、失恋の後にリストカットとかである。命の掛替えのなさにくらべれば愛など代わりはいくらでもあるのが本当のところだが、人間の認識力は時に命と愛を天秤にかけ我を忘れることがあるものだ。ドラマはそういうあたりを狙ってくるわけである。
これまで仁(大沢)は目の前で苦しむ患者を捨ててはおけない・・・と失敗をおそれず手術を行い、伝染病の流行の中に身を投じ、歴史的にあってはならない薬を作り出し、効き目が薄いと改良を重ね、よりよき未来を作ることを恩師と約束し、歴史的有名人である友達が殺されそうになっても助けると約束してきた。
ところが悪魔の呪いがかかった(と思うしかない)マジックアイテムである未来の未来(中谷)の写真に変化が現れると「歴史を変えすぎたために未来が生まれなくなってしまう」と思い込む。
そして悪魔の囁きによって(としか思われない)「野風(中谷二役)が隠居した大名に身請けされないと未来が生れなくなってしまう」と信じるのである。
ものすごく激しい思い込みである。
たとえば「写真を撮るときに未来はただトイレに行ったのでツーショットでなくなった」可能性だってあるわけである。
逆に仁と野風が結ばれなければ未来は生れないという可能性もある。
しかし、このドラマでは「野風と未来が目の前で毒を飲んだ。解毒剤は一人分。どちらに投与しますか?」という究極の選択を提示するためにそういう流れを作っているわけだ。
残酷な世界があるのではなく、仁の心が残酷さを宿すためにである。
この脚本家は残酷な魂を持つ男に冷たくされたい変態なのだな。
あるいは悪魔になっても自分だけを愛してくれないとイヤというタイプなのである。
・・・あくまで妄想です。
タイムマシンで人類発生前の過去にやってきた冒険家が虫を踏み殺す。その虫こそが人類の共通の先祖であったために冒険家はその瞬間に消滅するというのはタイムパラドックスの初歩のアイディアである。つまり、人類は発生しなかったのにどうして男は虫を踏み潰せたのか・・・という矛盾が生じるからだ。
そういう初歩とは無関係に蝶の羽ばたきが嵐を巻き起こすという怪しいカオス理論の中でもさらに怪しいバタフライ・エフェクトを利用したストーリー展開である。
そのシンボルは万華鏡に現れる。
万華鏡は鏡と色紙あるいはセルロイド片によって構成される模様の変化を楽しむ玩具である。いくつかの断片は不変だが、それぞれの位置によって模様は変容する。
人と人が出会い運命を形勢するゆえに歴史の歯車が変則することによってまったく違う人間関係が出現するということである。
万華鏡の中で蝶模様は花模様になり花模様は別の蝶模様になる。
仁はその新しい局面を楽しまず・・・あくまで未来となった過去に固執するのである。
そのために身も心も奉げる咲(綾瀬)の愛にも気付かないし、死をもおそれずただ一夜の思い出にすがろうとする野風の切なく痛ましい思いもスルーする。
実はとんでもない男なのである。
だが、まあ・・・21世紀から19世紀にとばされた男なんてそんなもんだなという考え方もあります。
とにかく・・・仁が未来の未来以外のことにはあまりこだわらず時計の針をすすめたために時間は狂いだしているという趣きらしい。
だから・・・京都で長州尊皇攘夷派の必死の巻き返しを図っているはずの久坂玄瑞(林泰文)が江戸でうろうろしているし、神戸で海軍塾塾頭をしている坂本龍馬(内野聖陽)もまた江戸でうろうろしているのである。
さらに季節さえもが狂いだしているようだ。浅草と湯島の間にあるいかにも上野の山の桜並木を歩く仁。
すでに文久三年も暮れにさしかかり・・・枯れ枝である。しかし・・・足元の草むらは青々と萌えているのである。
そして咲は季節はずれの蝶の死骸を発見する。
時間は壊れかかっているのかもしれない。
あるいはタイムスリップというありえない経験によって仁の頭が壊れかかっているのだ。
さらに言うならば・・・すべては仁の妄想にすぎないかもしれないのである。
脳腫瘍により昏睡状態に陥った仁の夢の世界・・・。
しかし・・・つつましやかな野風の胸を触診した仁が探り当てた病が乳がんであり・・・医学所の医師・佐分利(桐谷健太)がわざとらしく・・・19世紀の初めに乳がん摘出手術に成功したとされる華岡青洲門下生であると匂わせている以上・・・結局は野風の乳がん摘出手術を仁がしてしまうだろうことも明瞭なのである。
それを前提として・・・未来の未来のために・・・野風の乳がんを一度は見逃す仁だった。
「いつかは忘れることができるでしょうか」
縁談の話が持ちあがった咲は2億5000万円で身請けの話の来ている野風に相談する。
武家の娘と苦界にある女郎とがガールズ・トークを展開するのはいくら男尊女卑の世界とはいえ・・・幸不幸の落差は激しいわけだが・・・ものすごい腕力でなんとなく成立させるのも腕前である。
「できません・・・でもそれが女の生きる道でありんす」
二人の片思いの女はえいえいおうえいえいおうなのである。
別れの朝。咲はがんばってお弁当を製作。
龍馬ほどではないが、少しは女心が分るようになった恭太郎(小出恵介)は咲の涙腺を刺激するのだった。
「お前が夢中になったのは医術じゃなくて先生なんじゃないのか」
「でも・・・優しい先生が心を鬼にするほどのお方が相手では叶わないと思うのです。原作ではヒロインなのにドラマ版ではオリジナル・ヒロインに負けそうなのです・・・しかも現在と未来のダブル攻撃なんですよ」
ともかく・・・咲のお弁当箱といえば黴団子だと思っていた純庵(田口浩正)は揚げ出し豆腐を見て複雑な気持ちになるのです。
一方、江戸で奇跡の長州・土佐会談を果たす。久坂と龍馬。
「長州は戦に負ける・・・それよりもペニシリンで儲けた方が富国強兵の早道じゃ」
居合わせた仁は歴史にくわしくないのでどれほど変な感じか分りませんでした。
しかし・・・龍馬を悪質な佐幕派と断じた久坂は龍馬暗殺を決意した模様。
刺客団に襲われた二人。龍馬は北辰一刀流免許皆伝なのでいい勝負をしますが多勢に無勢です。懐にはまだ短筒も隠していない模様。
「先生は・・・運命がわかるのか・・・」
どこぞの坂を転げ落ちた二人は神田川へ転落。
そして・・・龍馬は消えてしまったのである。
顔は仁、声は龍馬の謎の男の正体は。
そして未来は変わるのか。
本当のヒロイン咲の運命は・・・。
幕末・・・「陽だまりの樹」・・・ペニシリン・・・「火の鳥」・・・畸形嚢腫・・・「ブラックジャック」となんとなく手塚治虫色を感じるこのドラマ。
最後はほろ苦いのか・・・それともエンドレスなのか・・・。
いよいよ最終回である。ま・・・これはきっとあくまでアナザー・ワールドなんだよな。
続編のために未来のいない仁が過去に戻る展開だったりして。
キャストも第二の仁だったりして。
関連するキッドのブログ『第9話のレビュー』
水曜日に見る予定のテレビ『相棒』(テレビ朝日)『浅見光彦・最終章』(TBSテレビ)
ところでSPAMコメントが一日50件を越えたのでしばらく、承認制度に移行します。
皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。
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コメント
龍馬は北辰一刀流免許皆伝ではありません。
投稿: ぽにょ | 2009年12月15日 (火) 22時19分
その証拠はどこにあるのでしょうか?
現存するのが北辰一刀流長刀兵法目録だけ
というのであって
「初目録」、「中目録免許」、「大目録皆伝」
が伝授されていなかった証拠は
どこにもなく
桶町千葉道場の塾頭を務めていることから
通説では
免許皆伝者だったということになっており
キッドの記述はそれにそっています。
まあ、キッドは
免許皆伝者だったことは
間違いないと考えています。
秘伝ですので証明はいたしませんけどれど。
まあ・・・なにしろ・・・坂本龍馬は
一時はお尋ねものだったわけですから
察してくださいね。
投稿: キッド | 2009年12月15日 (火) 23時04分
キッドさん、こんにちは
最終回前でも謎が多すぎて、本当に85分で決着がつくのかしら、と
心配してしまいます。いっそのこと、もう1クール続けて見たいような。
海外ドラマだと、謎を残したままシーズン2、シーズン3と続いたりしますけど。
前情報で野風の乳癌を見過ごすことは知っていたのですが、
放射線治療がないからとか、花魁として乳房を失うのはしのびないからかと、
勝手に思っていました
未来のことになると途端に判断力を失ってしまうところとか、
龍馬のお姉さんの名前や火消しの辰五郎は知っているのに、
歴史にはあまり詳しくない仁先生って、なんだか可愛いです。
(空気読まなさすぎな、お兄ちゃんも)
急に寒くなりましたね。師走でお忙しいかと思いますが、お体ご自愛ください
投稿: mi-nuts | 2009年12月16日 (水) 13時21分
>実はとんでもない男なのである。
そう考えると、現代でいい加減っぽかった仁先生を思い出しますね。
(山本君の方がよっぽど真面目人間に見えたし)
江戸へ来て、急に人格が変わったかのように善人な姿を見続けてしまったので、
「鬼ですね」って言われても、
「そんなことないですよ!」って擁護したくなりました(笑)
>脳腫瘍により昏睡状態に陥った仁の夢の世界・・・。
最後の最後はこの手もあるし。あちこちで卓袱台が飛ぶかもですが(^_^;)
>2億5000万円で身請けの話の来ている野風
そうなの~!私は一桁間違ってても驚いたのに。
どんだけのことして貰うんでしょうね。隠居さん。。。テヘ
毎回、内野龍馬にもうメロメロの私ですが(笑)
あの背後への一突きはシビレましたよ~♪キャーカッコイイ!
歴史なんて変わってもいいから、
死なないで~龍馬~(ノ゚ο゚)ノ
投稿: mana | 2009年12月16日 (水) 16時14分
謎だらけの最終回。
これはもうドラマの醍醐味でございますよね。
決着というものの捉え方は
人それぞれでございますから
ものすごい傑作の
最終回になると
ブーイングの嵐が
吹きまくるのも
当然の流れですしね。
果たして何人の人が
納得の最終回になるのか・・・
スタッフの腕の見せ所です。
海外ドラマは最近、
とにかくめちゃくちゃな感じで
ひく・・・というのが
トレンドですが
キッドはあれを
スターウォーズエピーソード5方式と
呼んでいます。
えーっ、ハンソロ固まっちゃって続くかよ~です。
まあ、エンターティメントは
人の弱みにつけこむ
阿漕なビジネスでございますからね。
すっかり・・・
仁の善人モードに洗脳されたお茶の間・・・
もともと未来の未来の手術失敗以来
メロメロでダメダメな奴だったわけですから・・・。
この冷徹モードに接しても
かわいい・・・ぐらいな
暖かい眼差しが・・・全国的に注がれています。
人は贔屓目でものを見ますねぇ。
まあ・・・検査ができないと
危険な手術というのは
嘘ではないですけどね。
人は本当のことを
いいわけに使うということですな。
しかし・・・心はとがめますからね。
愛のために患者を見殺しも
歴史のことをうろおぼえも
かわいいから許される。
これは息子のために
十億円のお小遣いをあげちゃう
首相の母の気持ちに通じるものでございましょうかーっ。
そして・・・まあ脚本上の展開とはいえ・・・
こらえていた妹の涙をしぼりつくす兄・・・。
天晴れです。
ふと・・・気がつけば冬の第一陣ですな。
間もなく冬至ですし。
キッドの密林の窓から見える
新東京タワーもどんどん高さを増しています。
その赤いランプが冴え冴えと冷たい感じが
いたします。
外出時はマフラーをお忘れなく
手洗いうがいを励行してくださいませ。
投稿: キッド | 2009年12月16日 (水) 18時24分
とにかくしつこいほどに
毎回悩んでいたのは
最後にひどい奴になって
しかもひどい奴と思われないための
フリだったのですな。
ものすごい計算を感じますぞ。
未来の人たちはあれ以来・・・
いろいろあったはずですが
仁が包帯男だとすると
何もなかった・・・わけで
試験勉強で一夜漬け中には
ぜひ欲しいテクニックですな。
時間が一本だとすると
仁が何かをしでかすたびに
未来は衣装替えが大変なのですが
龍馬の言う通り
なかった過去は大変だとも思わないわけです。
咲は仁の所業をとがめるでなく
「鬼になるほど愛してるって素敵」
そして・・・奥歯をかみしめて身をひく。
うんうん・・・わかるよ~って
現代人にはできない心の体現なのですな。
そうやってみんなホストやホステスに
貢ぎ末は闇金に・・・。
こうなってくると
続編があるのかどうかがカギですな。
ないならハッピーエンドは簡単に
作れそうだし
ちょっとおしゃれにバッドエンドも可能な感じ。
まあ・・・なんにせよ。
そこそこ卓袱台が飛ぶのが世の常です。
中国たてれば米国たたず。
子育て所得制限なら制限境界周辺の人たたず。
社民たてれば党内たたずでございます。
まあ・・・人身売買制度そのものがアレですが
老い先短いくせに
妾にそんなに使われたら
親族大激怒なのはあくまで現代感覚ですな。
幕府が大騒動なのに
色恋にふけるさる大名のご隠居・・・素敵。
うらやましい限りでございます。
剣戟の響きの間にも
近眼で目を細める演技とかもあって
なかなから芸が細かい
内野龍馬。
チャンバラ的な殺陣とリアルな殺し合いの
間くらいのアクション・シーンも
なかなかに乙でございますね。
ハラハラドキドキできますもんね。
こういう一点をとってもなかなかなのですなーっ。
仁もメスさばきの修練を積んでいて
伊賀流十字メス投げとかの達人でもいいのに。
よくないわっ。
さあ・・・龍馬たちの運命は如何に?
来週が本当に楽しみでございまする。
投稿: キッド | 2009年12月16日 (水) 18時44分