音符と昆布で慈しみ合う姉妹(池脇千鶴)因果応報と輪廻の雨で滅び逝く兄弟(貫地谷しほり)
続けてアスペルガー障害風の白痴をめぐる家族の愛憎劇である。
人間は優れたものを憎んだり愛したりするし、劣ったものを愛したり憎んだりする。昨日はぐれた狼が今日はマットで血を流し明日を目指して立ち上がるので・・・そういうことって誰にもありうることだと考える。
まあ・・・ある程度の高知能指数者にとっては人類の大部分は知的障害者のように見えることもあるしな。
心の病はビジネス的なトレンドで、「うつ診断」の流行でうつ病治療薬のメーカーは大儲けである。自閉症や発達障害の治療薬については仮説であった脳内たんぱく質の不足が実証されたとする研究者があり、「バカが治る薬」の実用化は秒読みに入ったのである。
もちろん・・・知的障害者にも様々な病因があり、それを一括してバカ呼ばわりするのはバカなことだが、言葉を濁してそれがなくなるなら苦労はないという立場で発言しています。
なんの問題もない人格が犯罪を起こした場合、その人格は本当に問題はないのか・・・という問題があるのだ。
一国の総理大臣が脱税して「知らなかった」で済ませようとしたり、その影の支配者が賄賂をもらって「秘書がもらった」と嘘をついたりすることは問題ないのか。
関係者が消されたりするのは運命ですます問題なのか。
世界は問題に満ちていて楽しいよね。
で、『音符と昆布(2008年公開)』(UHFチバテレビ100102PM2~)脚本・監督・井上春生を見た。作曲家・小暮浩二(宇崎竜童)を父に持つもも(市川由衣)は幼い時のウィルス感染をこじらせて嗅覚がないという障害を持ちながらフード・コーディネーターを職業としている。父と娘は二人暮らし・・・この世にたった二人の家族だった。
と思っていたら、父が旅行中に実の姉かりん(池脇千鶴)が現れる。
姉はアスペルガー症候群(高機能自閉症)の知的障害があり、知的障害者の施設に住んでいた。ついでにももが死んだと聞かされていた母親もつい最近まで生きていてかりんと暮らしていたという事実を知る。
アイロンで昆布を伸ばし、ももの恋人・聡(石川伸一郎)を「セックスフレンド」と断定し、廊下にポラロイド写真を万国旗のようにつるし、「すもももももももものうち」をこよなく愛するかりんにももは困惑するが、母仕込の昆布茶を飲んで落ち着くのだった。
やがて・・・姉に障害があることを知った妹は徐々に姉妹としての愛情を抱き始める。そして姉妹の間に秘められたおいたちの謎があきらかになるのである。
アスペルガー症候群にもピンからキリまであるが、かりんの場合は知能指数は高く、しかし、他人の感情を読み取れない、変化に対してひきつけをおこすという脳の帯状回、視床双方でセロトニン回収のためのたんぱく質不足が顕著なのであった。
つまり、かりんは「人の気持ちを理解しにくく」「こだわりが強い」自閉症患者なのである。
このため、姉妹の母・妙子(島田律子)はかりんの世話に手を焼いた。
祭日編成で電車のダイヤが乱れると踏み切りでひきつけをおこす娘を持つ母親はかなり大変らしい。
そのあげくに幼いももが罹患していることに気がつかず、そのためにももは嗅覚を失ったのである。
浩二と妙子は協議の結果、離婚し・・・浩二・もも組、妙子かりん組に別れたのであった。
妙子が病死した時もかりんはその死を理解できず施設の職員が察知するまで2日間放置していた。
職員「(電話で)・・・かりんさん困ったことはないですか」
かりん「妙子さん(母親)が眠ったままもうずっと起きないのです・・・」
職員「そ・・・それは・・・困りましたね・・・」
ももは知らなかったが父親とかりんはその後も会っていたらしい。
ポラロイド写真は「街灯のある風景」で父の説明によるとそれは「音符」なのだという。
かりんによれば「もものために子守唄をピアニカで聞かせたいが写真が一枚たりないので完成しない」のである。
やがて・・・その写真が幼い頃に住んでいた家の風景であることに気がつくもも。
ももは幼い頃に料理をして嗅覚がないために焦げ臭い匂いに気がつかず家を全焼させていたのだった。
父「お前たちにも幸せになってもらいたい・・・自分たちも生きていかなければならない」
もも「それが人生ってものよね」
ももは優しくてちょっとバカな姉のために・・・電力会社を騙してかって家が建っていたゲートボール場に街灯を立てる計画を実行する。
こうして、かりんは妹のための子守唄を完奏することができたのである。
父「かりんはお前から母親を奪ったことを申し訳ないと思っているんだ」
もも「先のことは分らないけど・・・今、私は姉さんがいることですごくハッピーを感じるの」
可愛い障害児をやらせたら日本一の池脇と、やさしいけれどちょっとサドの美少女・市川・・・ナイス姉妹です。
関連するキッドのブログ『NANA2』
で、『輪廻の雨』(フジテレビ100104PM1130~)脚本・桑村さや香、演出・並木道子を見た。第21回(2008年度)ヤングシナリオ大賞の受賞作である。脳の機能性障害であるアスペルガー症候群も生育環境によって脳の発達が疎外されることは健常者と変わらない。「音符と昆布」のかりんは有能な両親を持ち、社会的な援助も機能的に利用されている。それに対してこちらは無能であったり悪辣だったりする両親が設定され、社会的な支援も作為的に無効となった状況で知的障害者とその兄を襲う悲劇を描いている。
コンテスト作品なのである程度の意図的な臭さを黙認すれば知的障害者をめぐるもう一つの世界を楽しめる仕上がりである。
ギャンブル狂いで酒乱の父親と・・・従順で病弱な母親を持つ三上兄弟。
幼くして母を亡くした二人は家庭内暴力をふるう父親から逃れ二人だけで生活を始める。
その上、弟の修平(瀬戸康史・・・オトメンからここ)は知的障害者だったのである。
21才になった兄の孝平(山本裕典・・・任侠ヘルパーからここ)はバイトをしながら奨学金で大学に通い、18才の弟は知的障害者を雇用する工場で働いている。兄弟二人暮らしのアパートは孝平にとってようやく築いた幸せな家庭であった。
弟の知的設定はこのような感じ。
①人の気持ちがわかりにくく状況判断ができない。
②部分的なこだわりに執着する。
③「命は大切に」という母の教えは守るが善悪の判断はつかない。
④絵を書くのが得意で数字の暗記力が超人的。
兄は弟を愛しているがその存在を負担にも感じていた。
大学で知り合った恋人の愛美(貫地谷しほり)にも弟の存在を隠している。
そんなある日、「いしだ壱成の聖者の行進」(1998年)を連想させる知的障害者への虐待を背景に事件が起きる。
工場の金庫の番号を覚えた修平がただ「工場長ごっこ」をするために金庫からお金をとりだしてしまうのである。雨の中を弟を迎えにきた兄がそれを発見。
「バカ・・・何してるんだ・・・こんなところを見られたら・・・」
というところで暴力的な工場長が出現。兄弟を殴打した後で警察に通報しようとしたのだった。
誤解を解こうと懸命に抗弁した兄の孝平だったが・・・ついに積もりに積もった鬱積が爆発し・・・工場長を殺害してしまうのだった。
まあ・・・家族を共犯者にするときは知的障害者はさけること。これが鉄則だという話です。
死体を山中に埋めた兄は弟に「何か聞かれても何も知らない」と答えるように諭す。
弟「お母さんは命を大切にしろ・・・といいました」
兄「悪い人は死んで・・・いい人に生まれかわるのだ」
兄は弟に「黙っているのが身の為だ」と理解してもらおうとするのだが・・・それがムダなのは自分が一番分っているはずである。
やがて・・・愛美が偶然、修平と出会うことによって兄弟の間に波風が起こる。
愛美が優しく修平に接することが・・・孝平にとっては「苦労知らずの人間の偽善に映り」耐えられないし・・・殺人者という汚名の発覚が恐ろしくもあり・・・さらには良心の呵責という古典的心情も修平の精神を追い詰めていく。
工場長の妻(手塚理美)は兄弟に対して漠然とした好意を示すが、徳永(永井大)・青木(青木崇高)の刑事コンビは着実に捜査の手を兄弟に伸ばしていく。
なにしろ・・・弟は質問される前に「何も知らない」と答えてしまうのである。
さらに諸悪の根源である父親は事件のことを聞きつけ・・・金をせびりに現れるのである。
弟が刑事に「死体のスケッチ」を見せたことを知った兄はついに弟を殴る。
止めに入った愛美にも暴力で応じる孝平。
「お前なんか・・・死んでくれ」
そして孝平は闇雲な逃走に移る。しかし・・・途中で我に帰った兄は弟への最後のプレゼントとしてスケッチブックを買うのだった。
だが・・・兄が悪い人になったと思った修平は愛しい兄のために包丁を取り出すのだった。
いわゆるひとつのフリオチである。
このインパクトのあるラストが作れたことが脚本家の勝因と言えるだろう。衝撃の結末は七難を隠すのである。
まあ・・・とにかく事件をおこしたことで兄弟の事情が認知され・・・これはこれでハッピーエンドといえるだろう。愛美が救急車を呼んで孝平は命をとりとめる。殺人・死体遺棄もいい弁護士がつけば情状酌量される可能性がある。修平には責任能力は問えないし。
とにかく今日も本人の思惑を越え家族や周囲の人々を困惑させながら知的障害者たちは健気に生きていくのだ。それもまた人生だからである。困っている人に手を差し伸べることができるのはいいことだ。無理のないマイペースでお願いします。
富豪のマダムはわが子でなくて恵まれない子供たちに私財を投じれば後ろ指をさされないのです。
関連するキッドのブログ『ブザー・ビート』(脚本家はたたきあげ)
木曜日に見る予定のテレビ『とめはねっ!』『グインサーガ』(NHK総合)『7万人探偵ニトベ』(テレビ朝日)
ところでSPAMコメントが一日50件を越えたのでしばらく、承認制度に移行します。皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。
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コメント
>いわゆるひとつのフリオチである。
こういうの大好き。
>衝撃の結末は七難を隠すのである。
だから全て許せるのである(笑)
その後ももうどうでも良いのです。
泣きました。こういうラストはダメだな~(/_;)
単純で涙もろいバカなので。
でもやっぱり山本君が良かったな~。
役者が頑張ってくれると、平凡なストーリーも良く見える。
いや、自分の好みの…ってことですね。
それでは、今年もよろしくおつき合い下さいませ~(^-^*)/
投稿: mana | 2010年1月 7日 (木) 12時37分
|||-_||シャンプーブロー~mana様、いらっしゃいませ~トリートメント|||-_||
どんな逆境でも平気という人は
もうそういう性格なんだと思うしかないわけですが
このドラマの主人公は
迷いつつ歯をくいしばるタイプ。
でも・・・人間の頑張りには
限界があるだろう・・・
もう・・・だめなんだよう・・・
でございます。
まあ・・・イケメンなら
誰かが肩を抱いてくれるかもしれませんが
そうでないと肩をすくめるしかないのですな。
善悪の区別がつかない弟に
戒められる不条理はある意味
悪魔にとって爆笑ポイントでございますけど。
四歳児になると人を騙すことができるようになる
というのが一つの基準なので
修平はアスペルガー(高機能)とカナー(低機能)の
ボーダーラインに位置するのですが
心の機能にも好調不調があるので
大目に見ることにします。
つまり、修平の病状であれば
罪の意識には苦しまないのがオーソドックスです。
善悪の区別のつかないものが
どうして罪の意識に苦しむことができるのか
と言う問題です。
このあたりが実はフィクションなのですな。
まあ・・・ドラマでございますれば
心に染みればなんでもいいという視点もございますよね。
今年もよろしくおつきあいくださりませ。
投稿: キッド | 2010年1月 7日 (木) 22時49分