桜でなくて咲くやこの梅(成海璃子)イギータのための最後の約束(嵐)
あなどれないのは「ちりとてちん」の藤本有紀の作である。
「百人一首」かと思うと「落語」なのである。
まあ・・・古典文芸という意味では一緒だからな。
時代劇で景色もものすごく江戸で合成されているのだが・・・寓話的彩りなのである。
一方、「プロポーズ大作戦」の後は「ハチミツとクローバー」、「ヴォイス」と原作あり、オリジナルとすごく残念な感じの仕上がりを示す金子茂樹・脚本の「最後の約束」・・・またしても残念な感じに。ものすごい才能を感じるのだが・・・どこかが甘い・・・まあ、こっちが鈍いのかもしれないけれど。
で、『咲くやこの花・第1回』(NHK総合100109PM0730~)作・藤本有紀、演出・佐藤峰世を見た。土曜時代劇は黒川芽以の「オトコマエ!2」も大村彩子の「陽炎の辻」もスルーしてきたのについに成海璃子の主演でキャッチされてしまったのである。・・・まずいじゃないか。土曜には前作が限りなく駄作だった「ブラマン」の続篇とかスペシャル版がとてつもなくつまらなかった「左目探偵EYE」のレギュラー・シーズンとかが始まるのである。とてもじゃないが・・・こちらで楽をしたくなるではありませんか。
とある江戸時代。深川の漬物店「ただみ屋」の一人娘こい(田中凛音→成海璃子)はとびっきり地味な着物で初詣に出かける。
願うことは「今年も地味で目立たなく生きていけますように」である。
しかし・・・晴れ着で賑わう神社の境内で一人だけ地味な普段着のこいは人一倍目立っているのだった。
おみくじを引けば「大吉」でそこには「華やかに着飾れば願い事叶う」と記されている。
こいの願いとは真逆なので木に結んで邪気を払おうとするこい。しかし・・・一陣の風が吹き、おみくじは通りすがりの浪人・深堂由良(平岡祐太)の顔に貼りつくのだった。
「ご、ご無礼を・・・」
こいが手打ちにされるのかとどよめく観客であるが浪人はおみくじを一瞥すると去っていったのだった。
こいが・・・地味を願うのはとなりの家の鰻店「金森屋」の一人娘・しの(黒岩澄香→寺田有希)との友情関係のもつれからであった。幼い頃からなにかと目立つこいはしのの激しい嫉妬の目にさらされているのである。
こいの母親そめ(余貴美子)としのの父親信助(佐野史郎)は近所でも評判の犬猿の仲で会えば喧嘩をする間柄。こいとしてはせめてしのとは仲良く穏やかに付き合いたいと思っているのである。
こいを寺子屋嵐雪堂の師匠佐生はな(松坂慶子)は興味深く見つめるのである。
もちろん・・・はなには・・・こいの中に眠る大輪の花の蕾が見えているわけです。
そんな折、江戸では大店の呉服店「百敷屋」主催の「大江戸かるた腕競べ」が開催されることになる。なにやら将軍家もからんだ大イベントで町民たちは話題騒然なのであった。
しのもこれに参加しようと腕を磨いているのだが・・・こいと勝負してみると圧倒的にこいが強いのである。
しの「か、隠れて練習してたんでしょう・・・キーッ」
こい「そ、そんな・・・」
またしてもしのに憎まれてしまうこいなのであった。
幼い頃・・・河原で見つけた百人一首の札と出逢って以来・・・こいは百人一首は人一倍好きだったのである。
こいが最初に出会った歌は・・・。
由良の戸(門)を 渡る舟人 梶を絶え 行方も知らぬ 恋の通かな(曾丹)
曾丹こと曾禰好忠は平安時代の歌人である。天才すぎて社交下手で孤高の歌人だった。
梶を失った舟のように不安な恋の道。はな先生は引っ込み思案のこいに「見る前に跳べ」と諭す。しかし・・・あくまで消極的なこいは合点することができないのである。
そんなこいの前に再び現れる謎の浪人・由良。
「お前は何故大吉を払おうとしたのか・・・普通は逆だろう」
「だって・・・望まぬことが書いてあったから・・・」
ことの次第を訊いた由良は筆をとりだすとこいの頬に「大吉」と書すのであった。
「お前は充分地味だ・・・燃えるような情熱もなく・・・頑固なだけの・・・つまらない小娘だ」
「アグリー・ベティー2」に登場するナンパ術の本の著者による座右の銘「女はけなしておとせ」のテクニックの流用かっ。
「なんなのよ・・・」と河原で頬を洗うこいの後姿に一部愛好家はトレビアン的熱狂であろうが・・・とにかく・・・こいは幼くして「由良の門」の歌にめぐりあい・・・そして今回は浪人・由良とめぐりあったのです。
これは・・・久しぶりに・・・萌える。
関連するキッドのブログ『三日月』
で、『土曜プレミアム・新春スペシャルドラマ・最後の約束』(フジテレビ100109PM9~)脚本・金子茂樹、演出・佐藤祐市を見た。ルールを守って生きることが悪くて、ルールを破って生きることが正しい。こういう主張は危うい側面を持っている。たとえば大義のためにツインタワーに旅客機を衝突させることを絶賛するのかという問題である。あるいは自分を守るためには地下鉄にサリンを散布してもいいのか・・・という問題だ。もちろん、昨年、人気が開花したと評価が高いアイドル・グループのドラマなのでおかたい話は抜きでいいじゃないですか・・・という考え方もあるだろうが・・・イメージ戦略として嵐のためにいいのか悪いのかという視点だってあるわけである。
キッドは根本的な問題としてこの作者の倫理観が悪質なのではないかと疑問を抱くのである。
ま・・・それはそれでいいか。歌舞伎の白波五人男がやりたかったのかもしれないし。
画期的なエネルギー源の開発で大躍進を遂げたエネバイオ社の真新しい本社ビル。
その社長室に新見朋彦社長(津川雅彦)は不在である。マスコミからの取材を受けるために外出中らしい。
復讐の鬼を「魔王」で演じた大野智は清掃員・益子悟として「サタデー・ナイト/ベイ・シティ・ローラーズ」を鼻歌で歌いながら新人の飯尾(小堺一機)とともにエネバイオビルの地下エントランスに到着する。出入りの業者として音声認識による暗証を口にする益子。
合言葉は「イギータ」であった。
レネ・リギータ(43)はサッカーの元・コロンビア代表の攻撃的なゴール・キーパーである。
「流星の絆」で親の仇討ちをした二宮和也演じる山際はエネバイオビルのセキュリティー・センターを管理する警備会社の派遣社員である。警備システムの管理者として優秀な技能を持っているらしい。正社員である警備部長の岡中(藤木直人)は前任者からそう聞かされていた。
セキュリティー・センターは15階にあった。
猛獣使いアイドルこと相葉雅紀が演じるのはエネバイオビルのコーヒーショップの店員である棚田である。少し知能に問題があるらしく注文が覚えられないのである。しかし、癒し系であるので女性社員の憩いの場になっていた。
エネバイオ社の有能な社員である轟(大塚寧々)もここで愚痴をこぼすのが日課だった。
その轟を名指しで訪ねてきた生命保険の勧誘員・富澤を演じるのはバンビこと櫻井翔である。最近、怪しい役が多いので登場した瞬間に犯人だと判る。
いや・・・少なくとも何か隠している気配を好演しているということもできます。
エネバイオ社の社長令嬢である有里子(黒木メイサ)は化学者でもある。研究所に発注した成分解析データを待っている。そんな重要なことを外部に発注するのかどうかは別としてバイク便でそれを届けたのは「花より男子」の世界一のバカップルの片割れで有名な松本潤が演じる後藤だ。
なぜか・・・データの一部が欠損しており、有里子と後藤の間には険悪なムードが漂う。
送り手側との連絡がつかないことを理由に五階の自動販売機コーナーへ有里子をおしるこデートに誘う後藤だった。ナンパの手口だったのか。
ここまで・・・活気あふれる企業のある日の午後を描いた描写は素晴らしい感じである。
ところが・・・ここから登場するテロリストが・・・ある理由で非常にチープなのである。
とにかく・・・突如としてセキュリティー・センターのシステムはハッキングされ、謎の集団の侵入を許したのである。
セキュリティー・センターはビル全体の出入口の開閉を制御できるためテロリストによってビル・ジャックが可能となるのだった。
すべての扉はロックされ、ライフルで武装した黒覆面の男たちはビル内の全員を人質にとるのだった。
ビル内のモニターには「ビルの中のとあるところに仕掛けられた時限爆弾」が示される。
テロリスト「このビルは占領されたました。館内の皆さんは指示にしたがって五階ロビーに集合してください。なお・・・社長が身代金3億円を持ってこないと90分後にビルは爆破されます」
テロリストは五人である。このビルには少なくとも25階の天井裏があるのである。どれだけの社員および関係者がいるのか想像もつかないのであるが・・・五階に集められた人々はかなり少なめだった。
この後、パニックに陥った人々が右往左往するのだが・・・エキストラが非常に緊迫感を感じさせません。
また転んで負傷者が出たりもしますが・・・その描写は控え目です。
犯罪に巻き込まれた人々の悲惨さの描写をある程度セーブするある理由があるからです。
そのために謎のテロリストたちの不気味さも控え目で・・・恐怖感がありません。
もちろん・・・理由があることなのですが・・・テロが始まってからオチまでは非常にダラダラとした感じがします。
「銃で狙われたら逆らえない」と岡中はスタッフにかわって弁解しますがその後で平気でテロリストに掴みかかったりもします。・・・ま、人間、状況によって変わるものだと言われればそれまでです。
たまたまセキュリティー・センターにコーヒーの出前をした棚田は15階のトイレに逃げ込みそこからただ一人、携帯で警察に通報します。
刑事(北村有起哉)「テロリストの人数は・・・」
棚田「直感で30人くらいです」
この会社では携帯電話禁止なのか・・・などと疑問をはさんではこの猿芝居に最後までついていけないので注意が必要です。
有里子と行動を共にする後藤は5階から非常階段で22階の研究フロアへ。そこには貴重なデータが保管されているのです。それから3階のボイラー室へ。さらには階数不明の動力室へ。階段での移動で疲労困憊になるはずですが息をきらせるでもなくなんとなく親密な関係になっていきます。
後藤「俺も社長の息子なんだぜ・・・零細の町工場だけど・・・」
有里子「私の家だって・・・よくある裕福だけど冷たい家庭よ・・・」
ま・・・お約束なので恥ずかしくても我慢するのです。
一方、元空き巣の前科者だったことが判明した飯尾とともに針金で電子ロックを解除しながら脱出路を探す益子。清掃員を見たら前科者かテロリストと断定する必要があるのは最近の定番です。
清掃員一同「ふ、ふざけるな」
通風口からエレベーターシャフトで移動する魔王コンビや、トイレから出たり入ったりするマイガールのパパ、そして社長の娘と息子カップルは時々、テロリストと遭遇しますがある理由のために追及されません。伏線と言えば聞こえはいいですが・・・緊迫感をそぐことこの上なし。
途中で・・・新見社長が薬害事件の被告であり・・・轟の家族はその犠牲者の一人でありながら・・・いつしか怨みを忘れ社長の下で働くようになったことが明かされます。
そして・・・富澤も同様な経験をしていることが明らかになるのです。
富澤「忘れる人もいれば忘れられない人もいるってことですよね・・・ドリームチャンス!」
人質の中には気分が悪くなったりする人も出て・・・富澤は監視カメラに訴えたりします。
「人質はこんなにたくさんいらないのでは・・・」
この時・・・山際は困った表情をしますがいつも困った表情なのでよく分りません。
ついに有里子の工作で一部人質の解放に成功するのですが・・・テロリストが発砲して後藤は倒れてしまいます。一度開いたシャッターは再び閉じるのですがソファでもはさんでおけばよかったのに・・・などと妄想してはいけません。ガラスも割ろうと思えば割れるよななどというのは経費節減の神もおそれぬ発想です。
やがて・・・3億円を持った社長が到着。
実は嵐の五人が真犯人で・・・テロリストたちは単なる五人の後輩だったことが分ります。
嵐の目的はただ一つ、十年前の薬害事件で死んだ部活のキャプテン・木田またの名をイギータへの新見社長の謝罪の言葉をマスコミの前で発表することだったのです。
ま・・・脅迫されて謝罪することに意味があるかどうかは別として・・・気がすむまでやりつくすタイプは確かにいるということなのでしょう。
大騒ぎを堪能した五人は見晴らしのいい場所に立つイギータの墓標の前で「勝ったら打ち上げる花火見物」をするのでした。それが病床のイギータと交わした最後の約束だったからです。
ドラマだから手のこんだことをするのは仕方ないのですが・・・「それだけのことだったら・・・私を誘拐して父を脅迫すればすむ話だったじゃないの」と有里子に言われてもしかとする嵐だったのです。
まあ・・・娘の命よりも会社を優先する可能性があったから・・・という理由も考えられますが。
とにかく・・・自分たちの友情と自己満足のために公序良俗を乱した犯罪者集団はさわやかに逮捕されるのです。
まあ・・・臭い飯食って頭を冷やしたらものすごく後悔することになるだろうとは口が裂けても言ってはいけないのである。
とにかく・・・この辺りの理論武装と騙している間の緊迫感不足。この脚本家がいつ残念な感じのドラマから卒業できるのか楽しみです。
関連かるキッドのブログ『花より男子』
『魔王』
『ザ・クイズショウ』
『流星の絆』
月曜日に見る予定のテレビ『コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命2nd Season』(フジテレビ)『ハンチョウ』『菅野美穂のWの悲劇』(TBSテレビ)
ところでSPAMコメントが一日50件を越えたのでしばらく、承認制度に移行します。
皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。
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コメント
キッドさん、こんばんは~。
やっぱりおもしろいですわーキッドさんの文章!
もやもやしてましたがキッドさんの文章読んで笑ったらちょっとスッキリしました。
”ドリームチャンスバンビくん” ”かわいそ村の村長さん” ”魔王な清掃員”
”熱い看板しょってる男” ”頭がアメリカンな癒やし系店員”
こんなおもしろい5人でお金も労力もいっぱい使ってもらって
共演者もいいのになんでこんなにトホホなドラマに仕上がったんでしょう?
アイドルドラマなんてジャンルもうないかと思ったら2010年まだあったんですね。
まぁドラマだしキリがないほどたくさんあるので細かい所はつっこみませんが
結局”どんな理由であれ犯罪者が犯罪者を糾弾しても心に響かない”ってことです。
ホントに脚本って大事で難しいものなんですねーーー。
せっかく連休のこんないい時間帯を提供してもらったのにもったいない、残念ですー。
投稿: もも | 2010年1月10日 (日) 23時25分
サクラじゃないよ~もも様、いらっしゃいませ~リンゴじゃないよ
楽しんでもらえて幸いでございます。
SMAPの「古畑」登場から思うのですが
役とキャラが限りなく近い場合は
それなりの制約があるのに
なんとなく無視して作ってしまう・・・。
その辺りが日本のプロダクション・システムの
限界なのです。
結局、予算の範囲でしか
ものが作れないのです。
そうなると「ジブリ」のような
特殊な職人の世界でしか
いいものが作れなくなってしまうのですよ。
このドラマもあと一手間か二手間で
傑作になるのに・・・実に残念な感じ。
脚本家もスケジュールに追われますからねぇ。
このままじゃダメだと思いつつ・・・
未完成のものを現場にタッチ・・・
という気配が濃厚です。
まあ・・・逆に言えば
嵐のキャラクターを生かして
そこそこ面白いようにも見えるドラマに
仕上げたということでは
ちゃんと仕事をしているわけですが・・・
残念ですー。
投稿: キッド | 2010年1月11日 (月) 00時14分
途中、大野智のはずが、大野聡ってなってましたよ!?
投稿: みほ | 2010年8月23日 (月) 16時19分
嵐嵐嵐みほ様、いらっしゃいませ嵐嵐嵐
ご指摘ありがとうございました。
早速訂正いたしました。
おおのさとしと読めることが仇だったと
ご容赦くださりますように。
投稿: キッド | 2010年8月23日 (月) 16時44分