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2010年2月19日 (金)

わが心の不毛地帯(唐沢寿明)

昭和46年(1971年)、イランはパーレビ王朝の二代目帝王(シャア・ハン・シャア)パーレビ2世(通称パーレビ国王)が支配していた。米国CIAの支配する傀儡政権だが、日本の高度成長を見習い、イランの近代化を進めたパーレビだったが、そのためにイスラム保守派の反感を招く。パーレビは宗教的指導者のホメイニを追放するがやがて逆襲され、イラン革命後には亡命を余儀なくされる。

しかし、当時はイラン建国2500年祭を2億ドル(およそ700億円)の予算を投じて開催するなどパーレビ王朝の最盛期なのである。ちなみに日本万国博覧会(1970年)の入場券売り上げはおよそ350億円である。

もちろん、革命勢力のバックには米国と冷戦中のソビエト連邦KGBが暗躍しているのであり、東西のスパイが入り乱れているのである。

最初の王妃はエジプト国王の娘。次の王妃はイランの貴族の娘。そして最後の王妃はイラン軍人の娘だった。二番目の王妃とは仲睦まじかったが、不妊症であることが判明し、後継者作りのために最後の結婚をすることになるのだった。

もちろん、それは現実の出来事であり、ドラマとは無関係である。

で、『不毛地帯・第16回』(フジテレビ100218PM10~)原作・山崎豊子、脚本・橋部敦子、演出・小原一隆を見た。イラン・サルベスタン鉱区の油田開発をめぐり近畿商事の壹岐正(唐沢)は米国のオリオン・オイル社と組んで、東京商事の鮫島(遠藤憲一)の画策する日本石油公社と大手商社による包囲網に叛旗を翻す。

近畿商事社内において妨害工作を繰り返した里井副社長(岸部一徳)の追放に成功し、与党・自由党の田淵幹事長(江守徹)への裏金工作によって対決の体制を整える壹岐だったが、石油利権を独占しようとする佐橋首相を後ろ盾に東京商事の妨害工作が開始される。

その第一弾は国家を代表する日本石油公社グループから離脱し、米国資本と組む近畿商事は国益に反するというマス・メディアによるネガティブ・キャンペーンだった。

新聞・テレビの報道で近畿商事の評判は急落するのだった。

さらに政府は大蔵省、通産省などがこぞって露骨な近畿商事への営業妨害を開始するのだった。

世間のバッシングに弱気になる大門社長(原田芳雄)に社を追われる里井は嫌味な言葉を残す。

「壹岐の暴走のために社員たちがどれほど困難に直面することになるか・・・そして社長もいつか壹岐に追い出されることになりますよ・・・その時、誰が一番社長に忠実だったのか・・・思い知ることでしょう」

里井の暴言を聞き流した大門だったが、壹岐には里井の意向を伝えるのだった。

「・・・社員の苦労も考えてくれんと・・・」

壹岐はその言葉を反芻した。

(苦労か・・・)

そして言った。「外遊中の幹事長が戻れば状況は変わります・・・それまでは耐えるしかないのです・・・それとも社長はもうあきらめるのですか」

「そないなこと言うてないわな・・・それより入札についての情報収集はどうなってんのや」

「現地で兵頭石油部長(竹野内豊)が鋭意奮闘中です」

しかし、イランの首都テヘランで情報収集にあたる兵頭はテヘラン事務所長の東山(小市慢太郎)に愚痴をこぼしていた。

「なんの情報もないだと・・・」

「相手はシャアなのです・・・接近することも落とすことも一般人には不可能です」

「しかし、逃げ出すわけにはいかんのだ」

壹岐の娘・直子(多部未華子)は父の身を案じた。

「お父さん・・・こんなに報道でたたかれて・・・大丈夫ですの」

「心配するな・・・お父さんの正しさをいつかみんな分ってくれる」

そんな壹岐の元へ元社員の小出(松重豊)が現れる。

「へへへ・・・壹岐さん・・・ぜひ・・・会ってもらいたい人がいるんですよ」

小出はいつの間にか政財界の黒幕の一人・林田(梅野泰靖)の手下となっていた。

佐橋総理とつながる林田は壹岐を恫喝する。

「帝国陸軍軍人として国家に反逆するなど恐れ多いとは思わんのか」

「この度の私の真意はあくまで日本石油公社が入札に失敗した時の安全弁です。石油公社が成功すれば100%ですが、失敗すれば0%です。そこで私が50%の保険をかけたとお考えください。すべては国益を考えた上での行動なのです」

「そんな戯言が通用すると思うのか」

極道の気配を漂わせる右翼の大物に毅然とした態度で応じる壹岐に林田は激怒した。

ますます、嫌がらせを強める官公庁に加え、総会屋の「壹岐はソ連の手先だ」という怪文書までが再び出まわり始める。

そんな壹岐に毎朝新聞の田原(阿部サダヲ)は問いかける。

「壹岐さん・・・安全弁と言うのならもし近畿商事が一番・・・日本石油公社が二番で落札した場合・・・近畿商事は入札を譲るのでしょうね」

手詰まりに陥りかかった壹岐に士官学校時代の旧友で韓国・光星物産の李会長(榎木孝明)が救いの手を差し伸べる。

「そうだ・・・京都へ行こう」

壹岐は最初に比叡山の僧侶となった千里(小雪)の兄・精輝(佐々木蔵之介)を訪ねる。

壹岐「この静寂の中に暮らすあなたがうらやましい・・・私は未だに汚濁の中でもがいています」

精輝「あなたは強いお方だ・・・蓮華になりなされ。泥水の中でも美しい白い花を開く蓮となるがよろしかろう」

精神の一部が浄化された壹岐に京都で面会した李会長は貴重な情報を漏らす。

李「パーレビの側近に陰の大物と呼ばれるドクターがいます。古来、宮廷の医師は鼻が利くものです」

壹岐「友情に感謝する」

李「これから我が国も日本にならって経済成長をするつもりです。パートナーを大切にするのは当然のことです・・・我々は戦友ではないですか」

壹岐「・・・・・・」

明るい気分になった壹岐は千里の工房を訪ねるのだった。

壹岐「すっかりご無沙汰ですまない」

千里「今のあなたが大変なのは分っているつもりです」

壹岐「この戦いが終ったら娘の一家と食事をしてもらえないか」

千里「うれしい・・・」

・・・それは死亡フラグじゃないのか。

しかし、鍵となるドクターとコンタクトできない兵頭だった。

壹岐は奥の手であるデ・・・黄夫人(天海祐希)に縋るのだった。

「困ったときだけくるのね・・・いいわ、お小遣いくれるなら教えてあげる・・・王妃の信任状を取るのよ・・・段取は私がつけてあげる」

「すまない・・・」

ようやく、兵頭はドクターとコンタクトをとるためのアイテム「病気の母親のいる映画館の売り子のひまわりの種」を手に入れるのだった。

兵頭は意気揚々とおつかいから帰るのだった。

「パーレビ国王がソ連を訪問するときにただ一度、ドクターとモスクワでコンタクトがとれます」

「モスクワだと・・・」

「ええ・・・」

「それはダメだ・・・私はソ連には・・・行きたくない・・・絶対にだ」

「何を言っているんです」

「あの国には忌まわしい思い出がありすぎる・・・」

「そんな・・・壹岐さんの口にする国益っていうのは・・・そんなに軽いものなのですか」

その時、壹岐の中に鬱積していた黒い血潮が暗い過去の傷跡から噴出するのだった。

「君は・・・祖国に妻子を残し、囚人服を纏い、ロシアの大男に毎日蹂躙され、仲間たちの死体を埋めるための墓穴を凍土に掘り、いつ落盤で生き埋めになるか分らぬ極寒の暗黒炭鉱の中で十一年間も強制労働をしたものの気持ちが分るというのか・・・生意気を言うな」

壹岐の激昂に兵頭は返す言葉もなかった。できることなら抱きしめたいと兵頭が手を伸ばしかけた時、壹岐の秘書が邪魔をしたのだった。

秘書「専務・・・お声が廊下まで・・・」

仕方なく兵頭は上司の深い心の傷にただうなだれるのだった。

壹岐は暗黒の中を彷徨い、導師である谷川(橋爪功)を訪ねるのだった。

「行き給え・・・壹岐くん・・・君こそが希望なのだ」

壹岐はたちまち勇気を取り戻すのだった。

直子「ソ連に行くなんて絶対ダメよ・・・あんな恐ろしいところにお父さんを行かせるなんて・・・お母さんが生きてらしたら・・・絶対お止めになるわ」

壹岐「仕方ないのだ・・・私がやらねば誰がやる」

直子「そんな・・・キャシャーンみたいな・・・」

一方、鮫島は政府を動かし、経済協力のための使節団をイランに送り込み、詰めの一手を打つ。

タイトロープの上で・・・壹岐は兵頭とともに今世紀最大の殺戮者の第二の後継者が支配する暗黒の地獄帝国の首都である魔物の棲み家モスクワへ旅立つのだった。

決して癒えることのない傷とともに物語はクライマックスへまっしぐらなのだった。

関連するキッドのブログ『第15話のレビュー

土曜日に見る予定のテレビ『咲くやこの花』(NHK総合)『井上真央の樅ノ木は残った』(テレビ朝日)

ところでSPAMコメントが一日50件を越えたのでしばらく、承認制度に移行します。

皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。

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コメント

キャプテン・スカーレット(実は既に人間ではない。壱岐正)
ホワイト大佐(大門社長)
エンゼル隊(兵頭君ほか)

ブラック大尉は…小出?

…ということを、ふと思いました。

ツイッターの#fumouタグで、「帰国後の壱岐正=アンドロイド説(シベリアで既に人間性は崩壊し、今回のモスクワ行き話で更にアンドロイドとしても崩壊した)」的なことを言っていた人の影響です。

そもそもキャプテン・スカーレットと顔つきが似てる。ぜひコスプレしてほしい。

投稿: 幻灯機 | 2010年2月20日 (土) 07時30分

✪マジックランタン✪~幻灯機様、いらっしゃいませ~✪マジックランタン✪

TBSテレビでやってた
「キャプテン・スカーレット」は
昭和43年(1968年)だったので
もう放送終ってるんですが
昭和46年にはちょうど
東京12チャンネン(テレビ東京)で
再放送やってました。

われわれはミステロンだ・・・
われわれは地球人に復讐する・・・

「サンダーバード」よりも
地味になったメカたちが
プラモのイマイの屋台骨を揺さぶったのは
「白い巨塔」よりも
人気のない「不毛地帯」を
暗示していますな。

敵につかまると洗脳されて送り返されてくる・・・
というのは
冷戦・・・特に西側の恐怖・・・。

まあ・・・近年、我々は
北朝鮮からの帰還者で
それを実際に見たわけですが・・・。

投稿: キッド | 2010年2月20日 (土) 13時08分

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壹岐モスクワへ…o(;-_-;)oドキドキ♪ 現地では監視がつくらしいし、直子は危険だと言って心配してるし、 鮫島には絶対に悟られないようにしなきゃいけないし、何よりドクターに会えたからと言って 石油開発がスムーズにいくとも限らないしで、色んな意味でドキドキハラハラですわぁ{/hiyo_shock2/} あと、未だに壹岐がソ連のスパイじゃないかって疑いもあるので、とにかく極秘に事を進めなきゃ{/ase/} 兵頭がこんなに頑張ってるんだから、何とか上手くいきますよーに{/ee_3/} 紅子の協... [続きを読む]

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