一筆啓上仕候。江戸に着仕り、築地屋敷に罷在候。大津波警報発令中(坂本龍馬)
2010年、2月、チリでM8.8の巨大地震が発生し、日本では今、大津波警報が発令中である。
海抜ゼロメートルのゴールとなる東京マラソンの先頭はもうゴールしているがこれから津波の第一波が到達するのである。雪、霙まじりの雨の中の苛酷なレース・・・最後が津波だったら凄惨だな。
もっとも東京湾内は津波注意報(黄色)の範囲かもしれない。日本全国はほぼ津波警報(赤色)につつまれているが、大津波警報(ピンク)は宮城県沖など東北地方である。
テレビでは「笑っていいとも増刊号」を見たい人も「冬季五輪・フィギュアスケート・エキシビジョン」を見たい人も「東京マラソン」を見たい人もみんな大津波警報のマップを見ることになっている。
こういう時、テレビは素晴らしいし、科学技術の発達も素晴らしい。
太平洋を渡る津波は度々、多くの犠牲者をもたらしてきた。前触れがあるのはないよりずっと素晴らしいのである。
安政元年(1854年)の土佐大地震を故郷で体験した龍馬は、安政二年(1855年)に巨大地震に見舞われた江戸に安政三年(1856年)夏の終わりに到着する。二度目の江戸修行は安政五年まで続く。
現代からおよそ150年前・・・激動の安政年間はこれからが本番である。
で、『龍馬伝・第9回』(NHK総合100228PM8~)脚本・福田靖、演出・大友啓史を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回はファン待望の幕末勤皇攘夷のハゲタカ武市半平太描き下ろしイラスト大公開でございます。勤皇とは皇室に武士として忠義を尽くすこと。一方、尊皇攘夷とは古代中国周王朝が周辺異民族を打ち払った中華思想です。東の天子と西の天子の関係は、江戸と京にも通じるところがあります。天皇という八嶋の主、将軍という実力者、そして藩主という各国の主、八嶋連合国である日本の国の政治の中心は東西どちらにあるべきか、19世紀に勃興したヨーロッパ蛮夷戎狄の侵略がせまりつつある幕末の民はいよいよ右往左往して混乱を極めるのでございます。すでに征夷の本家・清帝国は断末魔の叫びを上げ始め、大八嶋にも東夷(ロシア)、西戎(イギリス)、南蛮(フランス)、北狄(ロシア)が魔の手を伸ばし始めている。恐ろしいことに21世紀になっても状況はまったく同じなのでございますな。安政年間まだまだ東洋の真珠の中心地、大江戸では陰謀の萌芽があり、恋の花咲くこともある。千葉さな子18才、番茶も出花でございます。
安政三年(1856年)八月、坂本龍馬は再び江戸に留学する。この時、二十歳である。すでに吉田東洋の忍びとして契りを交わしている。形の上では土佐藩の藩主豊信派に属したことになる。この年、薩摩の篤姫は御台所として江戸城に入る。この輿入れを采配する水戸の巨魁、徳川斉昭を中心とした雄藩連合に豊信が参入している都合上、龍馬は次期将軍一橋慶喜派なのである。前年に世を去った千葉周作が水戸徳川家の剣術指南である関係から、周作の弟・定吉の千葉桶町道場に通っているのは廻り合わせとも言えるし必然とも言える。これに対し、武市半平太は鏡新明智流の士学館に通っている。普代大名・旗本に縁深いこの道場には紀州贔屓がある。白札郷士として家柄好きの武市もまたなんとなくその色に染まるのである。江戸三大道場の残りの一つ、神道無念流の練兵館は桂小五郎を筆頭に愛国狂の長州藩士の溜まり場になっている。この道場は後に靖国神社となる。とにかく・・・龍馬と半平太は血縁・地縁で結ばれた縁戚でありながら知らず知らずのうちに袂を分かつように時勢に動かされているのである。
半平太は後に吉田東洋を暗殺するように豊信派ではなく、旧藩主少将豊資派に属している。郷士であって上士に準じる扱いの白札郷士である半平太にとって、他の郷士と白札郷士を差別しない吉田東洋の改革案は受け入れることのできないものであった。
半平太と龍馬をつなぐ人物の一人に龍馬より二つ年上の山本琢磨がいる。龍馬の父、八平は坂本家の婿養子である。実家は山本家で山本琢磨の父・代七は八平の兄である。つまり、龍馬と琢磨は従兄弟同士なのである。一方、琢磨の母の姉は島田源次郎に嫁いでおり、その娘が富子である。富子とは半平太の妻である。富子と琢磨は従姉弟なのであり、半平太と琢磨は義理の従兄弟ということになる。
このように半平太と龍馬は山本琢磨によって従兄弟同士ということになるのだった。
山本琢磨出奔事件で表面上、龍馬と半平太が苦心したことは言うまでもないだろう。龍馬は伯父さん(琢磨の父)を泣かせるわけにはいかず、半平太も妻の叔母さん(琢磨の母)を泣かせるわけにはいかなかったのである。
巨大地震から一年もたたぬ、江戸の町はすでに復興の賑わいを見せている。火事と喧嘩が江戸の華である以上、地震で壊滅したくらいでは亡びないのが江戸の心意気なのである。龍馬はその新しい材木の香りが漂う界隈を抜けて行く。
龍馬が足を向けたのは南伝馬町であった。訪ね当てた髪結い処「お染め」は番所裏の長屋である。龍馬が「頼もう」と声をかけると若い娘が応じる。店主のお染の娘、お光である。
「お武家様・・・お髭をあたるのかい・・・今、おっ母さんは出前に出てるけど・・・あたいでよけりゃ・・・」
「いや・・・親分に用があるのだが・・・」
「お父っつぁんにかい・・・」
その声を聞きつけたのか、二階から男が降りてきて、坂本に気がつくとぴくりと眉をひそめた。髪結いの亭主で南伝馬町の十手を預る岡っ引き半蔵・・・しかし、正体は公儀隠密頭の服部半蔵である。
「こりゃ・・・親分・・・先年は・・・」
「いや・・・坂本様、その話は店先じゃどうも・・・むさくるしいところですが二階へおあがりくだせえ。お光、お茶を頼む」
龍馬は頷いて二階にあがる。
「浜松ではまっこと・・・すまんことをしたきに・・・」
「し・・・坂本様・・・その話は困りますよ・・・あれはお互い・・・行きがかりってことで水に流しましょうや・・・あっしはここでは髪結いの亭主でお上の十手を預る気楽なご身分なんで・・・坂本様にはあれの前には無頼の捕り物を助けてもらいやしたし・・・もうあれから三年もたちますか・・・」
「今日は・・・心苦しいが・・・頼みがあってきちょる・・・」
「なんです・・・」
半蔵は気さくそうな笑顔から一瞬、鋭い忍びの目を覗かす。
「わしの親戚が盗人の疑いで訴えられての・・・」
「ははあ・・・例の金時計の件ですか・・・」
「話が早いき・・・その金時計じゃ」
「しかし、あの時計は大地震で倒壊した薩摩屋敷から火事場泥棒が盗んだ品でげしょう。なんでまた・・・土佐のお侍さんが・・・」
「山本琢磨というのはわしの従兄弟じゃが・・・滅法、酒癖が悪くてな・・・どうやら嵌められたらしいのじゃ」
「あの金時計は・・・ご禁制の密輸品の上に葵の御紋が彫刻されているといういわくつきのものという話で・・・大方・・・江戸の困った方の悪戯だと思いますがね・・・」
「困った方・・・」
「いや・・・こちらの話で・・・しかし、その件は薩摩藩が大慌てでもみ消して決着ついたと聞いてますがね・・・」
「それが・・・土佐藩ではちょっと話がこじれておっての・・・藩の対面上、従兄弟は切腹申し付けられている」
「ははあ・・・しかし・・・そりゃ、お国(土佐藩)の問題でしょう・・・しがない岡っ引きのあっしにどうかかわるんで・・・」
「いや・・・親分の裏の・・・」
「しっ・・・なんですよう・・・もう」
「わしとしては・・・従兄弟を逃がしてやりたいんじゃが・・・」
「なんと・・・それをあっしに手引きをしろと・・・」
「従兄弟は忍びとしてはかなり・・・腕もあるし・・・やっとうも桃井道場の手練れじゃ・・・そういうことで親分のところで面倒みてもらえんかのう・・・」
半蔵の目が点になった。
「土佐藩の脱藩浪人を・・・公儀隠密に・・・う・・・あっしの手下にですかい」
「どうかのう・・・」
龍馬は上目遣いで半蔵を見つめるのだった。半蔵は噴出した。
「まいったね・・・どうも・・・坂本様は・・・とんでもねえ・・・お方だ・・・」
「よく・・・言われるき・・・どがいしてかの・・・」
「・・・そうなると・・・下忍あつかいですぜ・・・」
「命があるだけ儲けものと言うきにの・・・わしは半分商人ぜよ」
「ちょうど・・・みちのくの草が・・・江戸に戻ってまいります・・・その帰り道につけましょう・・・南国土佐の方に・・・東北の冬は堪えるかもしれねえが・・・」
「おお・・・さすがは・・・忍びの頭領じゃ・・・恩に着るぜよ」
「しーっ・・・お声が高い・・・まったくこりゃ、前代未聞だぜ・・・」
こうして・・・山本琢磨は剃髪して修行僧となり、公儀隠密上野房五朗の下忍として奥の細道へ旅立つのであった。
用が済んで・・・髪結い床屋を出た龍馬をお光がぼうっと見送るのに半蔵は気がついた。
「よせ・・・お光・・・お前の手におえる相手じゃないぞ・・・」
「なんだい・・・お父っあん、悋気かい・・・」
「そんなんじゃねえ・・・あのお侍はとんでもねえ・・・筋のお侍なんだ・・・第一、向こう見ずにも程があるわな・・・」
その親子の頭上の長屋の屋根の上には忍び装束の男が寝そべっていた。白昼堂々と服部半蔵の家の屋根で気配を絶っているこの男は知る人ぞ知るあのお方である。裏の顔は江戸の町を騒がす義賊・鼠小僧・・・しかし・・・その正体は・・・。
「坂本龍馬か・・・面白い男じゃのう・・・」
そのつぶやきに半蔵がはっと顔をあげたとき、屋根の上の鼠小僧の姿はもうない。
とある夜・・・すでに龍馬と夫婦の契りを交わしている桶町千葉道場、佐那の寝室にこそこそと龍馬が帰ってきた。
のべられた布団の横で浴衣の佐那が正座をしたまま、きっと目を配る。
「龍馬様・・・どこにお出かけでしたか・・・」
「お・・・起きとったのか・・・」
「江戸に戻られていくばくもなく・・・もう佐那の体にお飽きになられ・・・焼け落ちた吉原通いでございますか・・・」
「ち、違うぜよ・・・ものすごい誤解じゃ・・・」
「何が違うのですっ」
「野暮用じゃ・・・親戚に不幸があったきに・・・野辺の送りにつきおうとったんじゃ」
「きーっ、そんな弁解を黙って聞く江戸の娘がどこにおるというのです・・・」
「まっことじゃき・・・嘘じゃと思うのなら・・・その目で確かめてみるがいいぜよ」
そう言いながら、龍馬は袴を手繰りあげたのだった。
「ま・・・」
佐那は目の前に出されたものを見つめて頬を染める。
「まっこと・・・白粉の匂いなどせんじゃろうが・・・」
「線香くさくもありませぬ・・・これは川の匂い・・・まさか・・・川縁の夜鷹などに手を出して・・・」
疑り深い佐那を問答無用で押し倒す龍馬だった。
「佐那様・・・龍馬はお佐那様をまっこと好いちょるきに・・・」
「り、龍馬様・・・」
龍馬はいつもの倍くらい濃い目の江戸の夜を過ごす。
その胸には川船に揺られ夜の闇に消えた幼馴染の従兄弟の最後の笑顔が去来していた。共に琢磨を見送った七つ年上の武市半平太の顔も浮かぶ。
(瑞山先生・・・泣いちょったの・・・)
坂本龍馬、二十歳の夜だった。
関連するキッドのブログ『第8話のレビュー』
月曜日に見る予定のテレビ『コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命2nd Season』(フジテレビ)『ハンチョウ』(TBSテレビ)
ところでSPAMコメントが一日50件を越えたのでしばらく、承認制度に移行します。
皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。
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コメント
八平が山本家の養子は知っていましたが
琢磨と龍馬が従兄弟とはいやはや
お佐那様ネタに夢中になるあまり
調べを怠ってしまいました。
このままでは切腹になりそうなので
琢磨にならって、とりあえずどこかに逃亡です(; ̄∀ ̄)ゞ
やっぱ龍馬はこれくらい女性に対して
奔放な方が龍馬らしいですねぇ。
早く福山さん本来の持ち味でもある
エロ龍馬も見てみたいもんです。
でもってイラストは素晴らしきモンタージュの世界ですね。
咲の髪型をベースに色んな女性が出来ますねぇ。
とりあえず弥太郎を描き上げたんですが
次回から身なりがキレイになってまうみたいで
出し遅れた事にちょっと後悔してる今日この頃です(; ̄∀ ̄)ゞ
投稿: ikasama4 | 2010年3月 2日 (火) 00時40分
✥✥✥ピーポ✥✥✥ikasama4様、いらっしゃいませ✥✥✥ピーポ✥✥✥
郷士といえども支配階級の一員で
ございますからねぇ。
士農工商は伊達ではありません。
上士と下士という階級差別では
語りきれない
地縁・血縁というものがございますな。
土佐にも家老格の家柄が
幾筋かあり
分家出身の豊信は
どこか肩身の狭い境遇・・・。
だから酒に溺れたという趣がございます。
結局、土佐勤皇党と豊信の確執というのも
派閥抗争の変形と考えられるわけです。
しかし・・・その初期だったので
親類としての情が
瑞山にも龍馬にも等しく働いた・・・
と考えるのが筋ですな。
それにしても平井兄の悪人ぶりは
ちょっと爆笑ですけど・・・。
20才にして龍馬がどういう恋愛観を
持っていたかは・・・人それぞれで
いい・・・と思うのですが・・・
キッドはやはりフリーダムな
ラブをひたすら
追求していた気がいたします。
龍馬が枠におさまっているのも
後数年・・・
しかし、下半身はすでに全開に
愛をまきちらしていた・・・
というのが男のロマンではないでしょうか。
加尾、さな子、お龍・・・
代表的な三人は土佐の女、江戸の女、京の女として
それぞれにその場その場で愛されていた・・・。
もっともっと他にもたくさん愛されていた女が・・・
まあ、お茶の間の女性たちには
評判悪くても
そういう龍馬の方がキッドにはピンと来るのでございます。
さて、いつも勝手に改作して
申し訳ない大河ロイドたち・・・。
尼の頭巾あたりから
シリアスでまとめようとすると
つい・・・フィギュア改造魂に火が・・・。
あいすみませぬ・・・。
新作・弥太郎・・・楽しみでございます。
投稿: キッド | 2010年3月 2日 (火) 02時01分
キッドさん お久しぶりです。
いつぞやは間違いをお教えくださり有難うございました。
ほんと、いつの話やねん?みたいな数字でしたね(笑)
ーーーーーー(キリトリ線)ーーーーーーーーー
ーーーーーー(キリトリ線)ーーーーーーー
龍馬さんが 加尾に失恋して失意から
佐那に心が傾くところを早く見たいですわ~^^
5月にはお龍さんの出番が来るようですし
モテ男龍馬さんに興味津々でございます~~~^^
それにしてもニコライ聖堂の説明には感慨深いものを感じました。
龍馬さんは早くに逝ってしまっても
親類縁者の血はつながっている。
こういうことにも ワクワクしています。
お話が お江戸に移ってウキウキですが(笑)
長崎・京に移ってもこのウキウキが続けばいいなぁ~と。
それにしても
日本列島で投獄中の新参者廣太郎さんや水戸藩の方のお顔が
見えな・・・・・。。
投稿: ice | 2010年3月 2日 (火) 18時40分
ジョーダンジャナイヨオオオ~ice様、いらっしゃいませ~オグリンカワイソス
いえいえ、キッドも結構間違えて
皆様に教えていただいておりますので
世の中、もちつもたれつでございます。
江戸の旅、よろしいですね。
東京に生れて何十年のキッドですが
まだまだ行ったことのない場所は
たくさんございます。
若かりし頃は東京より他の場所に
ロマンを感じましたし、
東京を愛しく思うようになると
出不精の年頃になりましたしね。
桜の季節にはまだ早い時期に
なりますので千代田区設定のコースも
ゆっくりと楽しめると思いますぞ。
かなり歩きでがあると思うので
欲張らない方がいいかもですぞ~。
建物好きなら番外編の岩崎邸はまあまあです。
ただし、上野周辺はちょっと遠いですからね。
①秋葉原から皇居へ。(やはりニコライ堂か)
②皇居東側(ゴール日比谷公園松本楼あります)
③皇居西側(靖国神社まででも結構な感じに・・・)
この三章だけでも大変かも~。
いい景色、美味しい食べ物にめぐりあえるように
お祈りしております。
三人娘の中では
結局、加尾が一番幸せな感じに
なるわけですが・・・
深く関わった順に亡き後が・・・
淋しくなるのが哀れな感じです・・・。
まあ・・・すべては歴史の彼方・・・。
今となっては何もかもロマンですけれどね。
浮名を流した龍馬なので
本当の血縁者が
密かにどこかで生きていたりして・・・。
まあ・・・日本では大事なく終った津波騒動ですが
漁業関係者の皆さんは大変そうですけど・・・。
大惨事にならなくてよかったと思うばかりです。
まあ・・・生れた時から
いつ関東大震災が再来するかと
脅されてきましたので
もう・・・来ないのかも・・・
と最近思ったりしています。
投稿: キッド | 2010年3月 3日 (水) 01時33分