ラムールとラモールの不毛地帯(唐沢寿明)敵と味方の義父と父(多部未華子)
昭和43年(1968年)から昭和48年(1973年)まで土曜の夜と言えばドラマ「キイハンター」(TBSテレビ)である。
諜報部員あがりの女スパイ津川啓子(野際陽子)が「うふんラムール(愛)・・・ああんラモール(死)・・・」と歌い出せば国際都市東京では陰謀渦巻いて血沸き肉踊る暗躍が繰り広げられたのだ。
人々はそれを荒唐無稽の絵空事と妄想したが実際の世界はもっと荒唐無稽だったのである。
国際情勢は米ソ冷戦の最中、暗黒帝国中国が台頭し、アジアで、中東で、ヨーロッパで、そして南米で、CIAとKGBそして中国公安省外務局は謀略の限りを尽くして諜報戦争を行っていたのである。
世界の街角では人々が誘拐され拘束され拷問され殺害されていた・・・もちろん・・・日本も例外ではなかったわけだが・・・政治の季節から暮らしの豊かさを優先した日本人はのほほんと平和ボケのスタート・ラインについたのだった。
そういう情勢に世を向けて国際社会に挑戦すれば新たなる不毛地帯が用意されていることは言うまでもない。
ペルシャの昔話・・・。
旅人は言った。「この土地で暮らすには何をすればいいだろう」
土地の主人は言った。「何もすることはない。なにしろ、あなたはこの土地では暮らせないのだから」
すでに世界から未開の土地は失われてしまっていたのだった。
で、『不毛地帯・第17回』(フジテレビ100225PM10~)原作・山崎豊子、脚本・橋部敦子、演出・水田成英を見た。70年安保闘争の結果、日本の国民は親米路線を選択し、ソ連に扇動された左翼運動は急速に冷却する。燃え尽きる寸前の蝋燭のように赤軍派は首相官邸襲撃未遂、ハイジャクと過激な行動を重ね、やがて山岳基地リンチ殺人事件、あさま山荘事件を経て自滅の道を辿る。時を同じくして中国では共産党独裁の体制下、紅衛兵による自国民の大量虐殺が引き起こされていたが、情報に疎い日本の左翼運動家たちはなおも文化大革命を礼讃していたのである。革命を夢見る若者たちが監獄半島である北朝鮮に脱出していったことは一種の喜劇といっていいだろう。
そういう国内の事件を尻目に高度成長に踊るエコノミック・アニマルたちは石油資源の確保を大義名分に火種のくすぶる中東にその手を伸ばしていく。
石油の利権獲得を目指した日本の石油公団は膨大な投資を重ねたあげくに21世紀に解散することになるのだがもちろん、結局膨大な赤字を残したことは言うまでもない。
だが・・・渦中の人々の情熱を嘲笑することは差し控えるべきだろう。今だって未来から見れば噴飯もののことに多くの人々が熱中していることは間違いないのである。
壹岐(唐沢寿明)はイラン要人と会うために兵頭(竹野内豊)とともにモスクワへ飛んだ。
イラン国王の側近であるドクターは壹岐の過去を調べ、心理的な抑圧をかけるために会談の地を壹岐にとっての屈辱の地であるソ連を密会の場に選んだのである。
さらに言えば、米ソ冷戦において、アメリカの傀儡政権であるパーレピ王朝が自由に暗躍できるのは敵地・ソ連であったとも言えるのだった。
つまり、イラン国内ではCIAの監視が強すぎて、日米合同の民間企業との裏取引が困難だったのである。
モスクワのホテルに宿泊した壹岐は入室するとさっそく盗聴器の有無を点検する。しかし、KGBは緩やかな監視はするものの行動の自由を認めるのだった。それはドクターがソ連高官ともある程度のパイプを持っていることを暗示していた。
イランでは国家情報安全機関(SAVAK)が秘密警察として機能しており、その犠牲者は数万人にのぼる。国王側近のドクターといえども国内ではうかつに動けないのである。
ドクターはイラン・サルベスタン鉱区の入札情報の見返りとして米国の最新鋭戦闘機のイランへの導入を米政府に働きかけることを求める。
壹岐は近畿商事ニューヨーク支社長時代に築いたコネクションによってニクソン米大統領に働きかけることを約束する。
やがて、イランはグラマンF-14トムキャット戦闘機を他の同盟国に先駆けて導入することに成功するのである。
壹岐への痛打を浴びせ続けた東京商事の鮫島(遠藤憲一)は勝利を確信する日本石油公社総裁の貝塚(段田安則)とは違い、不安を感じるのだった。
テヘランの兵頭の不在を察知した鮫島は兵頭の宿泊するホテルに侵入し、兵頭の行き先を探ったあげく・・・壹岐のソ連行きを疑う。
義理の父親の立場を利用して直子(多部未華子)に探りを入れた鮫島は壹岐がモスクワでイラン要人と密会している事実を突き止めるのだった。
そのために鮫島は日本石油公社の入札額の上限をあげ、万全の体制をとる。
壹岐は出発の際に空港でシルクロード観光に出かける千里(小雪)と偶然に会ったことから幸運の廻り合わせを感じる。
そして・・・ついに壹岐は極秘の入札額を入手するのである。
兵頭は共同出資者となった米国オリオンオイル社と最終入札価格を決定する。
そして・・・運命の日。
1位近畿商事・オリオンオイル。2位ドイツ企業。3位日本石油公社。
壹岐の勝利に鮫島は一滴の涙を流す。それはあたかもバンクーバー・オリンピックの浅田真央のフリー演技終了後の口惜しさに通じるようであった。
しかし、表彰式が終れば、新たな戦いは始まるのだった。
近畿商事を国賊あつかいしていた国内の新聞報道は一転して入札成功を快挙と褒め称える。
勝てば官軍の近畿商事は与党の田淵幹事長(江守徹)を通じ日本石油公社に新たな共闘を申し入れるのだった。
帰国して、直子に無事な姿を見せた壹岐の前に鮫島が顔を出す。
「壹岐さん、おめでとうございます・・・今後は東京商事も一枚かませてもらいますよ・・・なにしろ・・・同じ孫を持つ仲じゃないですか・・・」
壹岐は憮然とするのだった。
ついに壹岐はサルベスタン鉱区における油田開発の権利を得た。
しかし、国際石油資本(メジャー)と資源ナショナリズム(原産国国有化)の衝突、そしてイランにおける民主化失敗と宗教革命の波はすぐそこまで迫っていたのである。
昭和48年(1973年)第四次中東戦争勃発。アラブ諸国の石油戦略によりオイル・ショック到来。
昭和54年(1979年)イラン革命。中東は21世紀まで続く政情不安の泥沼へ突入していくのだった。
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ところでSPAMコメントが一日50件を越えたのでしばらく、承認制度に移行します。
皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。
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