すべてを忘れてしまう娘のための思い出作り(アヤカ・ウィルソン)
テレビ番組のレビューは時々かなり時代遅れである。
特に、劇場映画の放映について書くことにあまり意味はない。
・・・と思いつつ、書くわけである。
たとえば、テレビドラマの「嫌われ松子の一生」と映画の「嫌われ松子の一生」では仕上がりに格段の差があるわけだが・・・テレビドラマのレビューはあるが・・・映画に関してはなんとなくスルーになっている。福田だ。福田が悪いのである。その後は筑紫も悪い。福田がやめたとか筑紫が死んだとか「嫌われ松子の一生」のクオリティーにくらべてなんだってんだ。
まあ、それでこそ映画「嫌われ松子の一生」だ・・・という伝説も成立する。
この日、テレビ東京のお昼のロードショーは「アメリカン・グラフィティ」(1973)だった。
この一作だけで伝説となったポール・ル・マット演じるビッグ・ジョン・ミルナーは「シャコタン・ブギ/楠みちはる」のジュンちゃんである。・・・意味不明だぞ。
Tシャツの袖口に潜むタバコはキャメルである。
で、町の兄貴分ともいうべき、ジョンちゃんのお相手は・・・13才のキャロル(マッケンジー・フィリップス当時14才)である。
背伸びして夜の町に憧れる彼女は姉・ジョディの策略でジョンの車に乗り込む。
今なら、一部愛好家熱狂のシチュエーションであるが、もちろん、永遠の兄貴ジョンはまったくローティーンには興味がなく紳士的に家に送り届けるのである。
途中、街角カーレースを挑まれてもキャロルを乗せている間は羊の皮を脱ぎません。
そういう古き良き狼の理想の姿がここにあるのだな。
もちろん・・・「パコと魔法の絵本」の原点はここにあるのだ。
・・・お前的にはな。
で、『パコと魔法の絵本(2008年公開)』(100329PM8~)原作・後藤ひろひと、脚本・門間宣裕(他)、監督・中島哲也を見た。「下妻」「松子」に続く中島監督作品である。今回は絵本が舞台の物語なのでさらに極彩色に拍車がかかっています。これは好き嫌いがはっきり分かれますが・・・キッドはこの色使いだけでなんとなく得をした気分になります。
基本的には常に「悲しい人々の物語」なので鬱々の内容なのだが、原色色とりどりなのでごまかされます。・・・されるかっ。
深田恭子、中谷美紀に較べるとアヤカ・ウィルソンは演出上、手加減するべき子役ですが(当時10~11才)・・・一切手抜きを感じさせない名演技を披露します。
舞台の映画化なので・・・ややくどい部分もありますが・・・おそらく子供時代に見れば一生忘れられない映画になること間違いなしです。もう、確実にトラウマにはなりますね。
まず、くどい感じは案内役を勤める堀米(阿部サダヲ)と消防車に轢かれた消防士・滝田(劇団ひとり)の共演です。
サダヲとひとりが同じ画面に存在するかぶった感じは超強烈。
そう考えるとこのキャスティングはかなり鏡面的に見えてきます。
まず、飛び出す絵本「ガマ王子VSザリガニ魔人」があって、誕生日にその絵本を亡き母親に贈られたパコがいる。交通事故で両親を失い、一日で記憶が消える記憶障害者となったパコは病院に入院しています。この病院がやがて絵本の世界と渾然一体となっていくという趣向です。世界は絵本の中の世界となり絵本の中の世界は世界となる。
すべては鏡に映ったもう一つの影なのですな。
だから、看護婦も二人いる。
「消灯時間がすぎて起きている患者は永遠に眠らせるぞこら」のタマ子(土屋アンナ)・・・。
「慰謝料とか謝礼金とかお手当てとか特別ボーナスが好き」な雅美(小池栄子)・・・。
ボケとツッコミとか、アメとムチではなく、両者サド目で凶悪なナースです。
実にくどい。
そして・・・二人のナースには意中の恋人や夫というパートナーがいる。
これがタマ子の憧れの人で子役スターくずれの室町(妻夫木聡)・・・。
さらに雅美の夫で弱腰のために妻に夜毎噛み砕かれる夫・浩一(加瀬亮)です。
妻夫木と加瀬のダブルです。くどいじゃん。
さらに言えば医者の浅野(上川隆也)で娘がいるオカマの患者・木之元(國村隼)なのです。
どの辺がくどいかは想像におまかせしますが・・・浅野はシンデレラに・・・木之元はジュディ・オングの衣装を着るということです。
もちろん・・・表面上はこういうペアが目につきますが、「鏡に映った自分のように他人を見る仕掛け」があちこちに作られています。
たとえば「涙を止める方法は涙が枯れるまでなくことだ」と浅野に教えられたもう一人の主人公である大貫(役所広司)がその言葉を餌付けしたサルに拳銃で撃たれて入院した極道の龍門寺(山内圭哉)に伝えるシーンがあります。
拳銃不法所持で愛するサルが射殺されて嘆く龍門寺・・・。
そして大貫を挟んで反対側には娘の結婚式に招待されない木之元がいる。
龍門寺と木之元は号泣するわけですが・・・間に入った大貫はまさに鏡そのものなのです。
大貫は「弱い人間に生きる資格はない」と言う弱肉強食の理念の信奉者ですが・・・やがてパコにメロメロになっていきます。実は狼の皮をかぶった羊だったのですな。
しかし、パコの悲劇を知るまでには大貫はヒザに乗ったパコを突き飛ばし、ライターを届けてくれたパコをぶん殴るという容赦のない攻撃性を発揮して・・・ある意味爆笑です。
もう、この場面だけでこの作品にダメ出しするお茶の間が目に浮かぶようです。
そして・・・この鏡の世界・・・あなたが私で私があなた・・・は最後にさらに悲しい結末を展開するわけです。
迫り来る死を目前にしながら・・・パコに素晴らしい一日を届けようと金に糸目をつけずに病院を飛び出す絵本化する大富豪の老人・大貫。
その命が尽きたと思えたとき・・・本当の悲劇の幕があがる。
実に心憎い展開です。
まあ・・・とにかく・・・一部愛好家はアヤカ・ウィルソンの美少女ぶりに目を奪われて話の内容なんてどうでもいいんですけれどーっ。
この日スタートしたNHKの連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」は生い立ち篇。水木しげるの妻を演じる松下奈緒の幼女時代を演じるのは菊池和澄でかなりいたいけない。
まあ・・・この日はそういう福音に満ちた月曜日だったのです。
そして、無垢な少女たちが麻薬不法所持で捕まるような未来にキャッチされないことを祈るばかりなのでございます。
関連するキッドのブログ『下妻物語』
水曜日に見る予定のテレビ『ERⅩⅢ』(NHK総合)
ところでSPAMコメントが一日50件を越えたのでしばらく、承認制度に移行します。
皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。
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コメント
そっか~。テレビ放映されたんですね~。
アヤカ・ウィルソンちゃんはメチャ可愛かったですね(*^^*)
私にとっても、この色彩はお得ものです♪
絵本の世界のように物語も美しかったですね。
大好きな邦画の1本です。
投稿: くう | 2010年3月30日 (火) 21時12分
連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」、
BSハイビジョン放送枠(7:30-)ながら視聴しました。
なかなか良い滑り出しではないか~と思っていたら
時事通信が『「ゲゲゲの女房」最低視聴率更新=NHK朝ドラ』と打電していて思わずのけぞりました。
「ウェルかめ」が最低視聴率だったのは、まあ納得しますが。
2010年4月期は、朝ドラと月9を中心に見ることになりそうです。どうもそそる作品が少なそうで・・・^^;
投稿: inno-can | 2010年3月30日 (火) 23時29分
テレビ東京の記事を書く時は
地域限定色が強くて
申し訳ない感じがいたします。
中島作品のテレビ放映は
不運な感じがしてドキドキなのですな。
映画はきちんと当てているので
ある意味、高尚で下世話な芸術作品と
言えそうです。
明るくて暗い・・・こういうブルースな作品には
敬意を払いたいのでございます。
今回はちょっとやりすぎかなぁ・・・
と思いました。
ま、それでいいとも思いますし。
ずっと見続けたい監督なので
手に汗握るわけですが・・・。
投稿: キッド | 2010年3月31日 (水) 09時14分
ふふふ・・・ドラマ冬の時代には
様々な観測がドタバタするわけです。
今回は最後がハッピーエンドに
決まっているのでそこそこ獲得すると思いますぞ。
なにしろオバケで大儲けする夫婦の話ですからな。
連続テレビ小説の平均視聴率的は
「つばさ」13.8%
「ウェルかめ」13.5%
と歴代最下位連続更新中。
それに対して
「ゲゲゲの女房」は
①14.8%
②15.5%
と時間変更スタートとしては
まずまずの立ち上がり。
もちろん、「ウェルかめ」と「つばさ」は
第一週は「16~18」%とっていて
これと比較すると・・・ということです。
しかし・・・二つはジリ貧だったのに
これは若干あげてます。
キッドの推測では尻上りにあがると思います。
なにしろ・・・オバケがついてますし・・・
夏場はきっと強いと思うのです。
投稿: キッド | 2010年3月31日 (水) 09時48分