いつだって引返し限界点は過ぎ行くコード・ブルー(山下智久)想い乱れて(新垣結衣)
飛行機がもはや出発点に戻る燃料がなくなるポイントをpoint of no return(帰還不能点)と呼ぶ。
死というものは結局、生の引返し限界点なのである。
時間に支配された人間は刻一刻と後戻りの出来ないポイントを通過していく。
人はそのつかの間の時をもがきながら進んでいく憐れな生物である。
すべてのことはとりかえしがつかないのである。
それを知りつつ、人は最良の選択を求めようとするものだ。
何も選ばないことも一つの選択である。
しかし、ランチを食べるにあたり・・・何も注文しないという選択は空腹を招くのである。
だから・・・為すべきことを為すのは人生の基本なのである。
本題に入る前に恒例の週末の視聴率チェック。「宿命」↗*7.9%(北村一輝だけでは限界か)、「ヤマトナデシコ七変化」↘*7.8%(やはり耽美主義のドラマに嫁姑ネタじゃな)、「サラ金2」↗11.0%(西丸優子とったな)、「未来からの訪問者」*8.8%(長いCMだった)、「咲くやこの花」↘*8.1%(やったりやらなかったりしすぎ)、「ブラマン2」↗*7.8%(満島ひかりとったな)、「左目探偵」↗10.7%(ビルのドミノ倒しとったな)、「火の魚」*9.6%(尾野真千子とったな)、「熱血教師」10.3%(蓮佛美沙子とったな)、「再捜査刑事」12.5%(寺島進とったな)、「龍馬伝」↗21.4%(吉田東洋とったな)、「特上カバチ」↘*8.7%(堀北真希はかわいいのに)・・・ついでに「ハンチョウ2」↘*9.7%、「コードブルー2」↗16.8%・・・以上。
で、『コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命 2nd Season・第10回』(フジテレビ100315PM9~)脚本・林宏司、演出・西浦正記を見た。まさに釣り天国、フラグの津波である。もう何が釣りで何がフラグだか判別不能なほどだ。しかも最終回直前なので釣ったまま引くのである。これぞ連続ドラマの醍醐味です。海外ドラマの場合、ここで終って次のシーズンまで引きまくることもあるので吃驚仰天だが、さすがにそれはしないだろう。
脳内の血栓のために成功率の極めて低い手術を受ける田所部長(児玉清)を末期ガンのために余命幾許もない白石博文(中原丈雄)が見舞う。
田所「大学ではいつも先を越されていたが倒れるのは俺の方が先だったな」
博文「まだ分らんぞ・・・」(旗①)
田所「お前の娘(新垣)はもう立派なドクターだ」
博文「後は孫の顔を見せてくれたら言うことなしだ」(旗②)
田所「会っていかないのか」
博文「ランチの約束をしているのだが・・・」(旗③)
田所「もうランチタイムは終わりだぞ・・・青森に行くのだろう」
博文「飛行機を一便遅らせるから大丈夫だ」(旗④)
田所「・・・そうか」
博文「手術の後で・・・またゆっくり話そう・・・」(旗⑤)
白石の父親はハタ坊か・・・。ちなみにこの場合の旗色には「死相」が現れています。
人はいつでも決断を迫られる
告白するのか
告白しないのか
告白すれば恋の花咲くこともあるが
断られて気まずくなることもある
手術をするべきか
様子を見るのか
手術をすれば失敗することもある
様子を見れば手遅れになることもある
人は過去からリスクを学ぶ
そして未来をイメージする
この瞬間は
つねに分岐点なのだ
そして決断したことは取り消すことはできない
引き金を引けば
弾丸は銃口を飛び出していく
待てと言われて止る弾丸はまだ開発されていないのだ
朝のカンファレンス(会議)では今日の予定などの確認が行われている。
田所の血栓摘出手術の執刀医は脳外科医の西条(杉本哲太)である。
「止血が困難な場合、循環停止法を行うために専門医に待機してもらいます」
リスクを回避するためにさらなるリスクを背負う。
それを人は準備万端と呼ぶ。
脳内での出血を制御するために血液の循環そのものを停止する。そのために心臓を停止する。脳を保存するために低体温にする。出血は止るが心臓が再び動き出す保証はなく、脳が破壊されない保証もない。
しかし、もう一つの道には緩慢で唐突な死が待っている。
一同に会する医療スタッフはそれぞれの知識に応じて、西条の不退転の決意を知る。
森本(勝村政信)は朝一番の患者の手術の処置を終え、縫合をフェロー・ドクター(専門研修医)に委ねた。
担当するのは手続きミスによる医療訴訟を間一髪免れた緋山(戸田恵梨香)とフライトナース冴島(比嘉愛未)への片思いに悩む藤川(浅利陽介)である。
二人は針と糸で患者を縫合しながら仲良く罵りあう。
「麻酔の効いてる患者相手だと元気だな」
「あんたにあたしの気持ちなんかわかんない。うったえてやるって睨まれたのよ」
「だが、実際は訴訟はとりさげられた・・・いつまでもびびってんじゃないよ」
「あんたこそ、冴島に告白ったの?・・・びびってんはどっちよ」
「そ、そ、それをいっちゃあおしまいだよ」
手術台の患者は夢の中で映画「男はつらいよ」でフーテンの寅が妹のさくらにたしなめられるシーンを見ていた。
二年に渡るドクターヘリ専門研修は最終期に差し掛かっていた。三月二十五日になれば最終認定が行われ、指導医が合格を認定すれば彼らはフェロー・ドクターを卒業することができる。
もっとも落ちこぼれていた藤川はそれなりに過程をつみあげ、才気煥発の緋山は就業中の事故による心臓停止、患者の遺族とのトラブルなどのアクシデントに見舞われ、落ちこぼれかかっている。
失敗と失意のダメージは心身ともに緋山を蝕んでいる。
藤川はその気持ちを払拭しようと言葉を紡ぐが、緋山は素直に受け取る気分にはなれない。
「同情するなら過去を消してくれ」と緋山の心は叫ぶ。「できないならわかった風なことを言わないで」なのである。
「結局・・・自分でなんとかするしかないのだ」と藤川は理解する。落ちこぼれていた自分には落ちこぼれかかる緋山の心は想像できる。しかし、緋山と自分は違うのも事実だ。藤川が水を飲んでも緋山の渇きは癒えないのだから。
藍沢は煙草の吸殻を誤飲し幼児の手当てを負え母親に説教していた。
「医者は愚かな母親の尻拭いをするために生きているわけではありません」
愚かな母親には無意識に攻撃的になる藍沢だった。
救急車によって転落事故の患者が搬送されてくる。
出迎えに向かう藍沢(山下)と白石(新垣)の優等生コンビ。しかし、二人の出自は全く異なる。幼くして両親に捨てられた藍沢と名家に生まれ両親の愛情を注がれて育った白石。しかし、二人の心は通い合う。
「(白石の父親が)来てるんじゃないのか・・・」
「ランチの約束をしている・・・」
「具合はどうなんだ・・・」
「抗癌剤が効いて安定している・・・今日もこの後、青森で講演会をするつもりらしい」
「そうか・・・ところで二十四日のシフト替わってくれないか」
「いいけど・・・どうしたの」
「母親の命日なので・・・墓参りに行く・・・」
「そう・・・」
「二十年、ずっとかかさなかったが・・・今年は特別な気持ちでいけると思う」
「・・・」
母の死が自殺だと知った藍沢の心情を想像する白石は沈黙する。慰めも涙も必要ない。藍沢に必要なのは温もりだけだと知っているからである。
やや大きめのサイレンとともに到着した患者は重傷だった。
博文は病院の食堂で娘を待っていた。すでに空腹は限界に達していた。
院内にいる娘から電話が入る。
「もしもし、私、急患入った・・・」
「そうか・・・気にするな・・・医者同士の約束なんてそんなもんだ」
「田所部長のオペが終ったらまた来るでしょう・・・その時は必ずランチしよう」
「うん・・・お前も無理するな」(旗⑥)
博文は愛娘と一緒に飲むつもりだった二つのお茶を見つめた。
博文は病院を出る。タクシーでバスターミナルへ。直行リムジンで羽田へ。
(おおよそ・・・一時間半か・・・午後二時半の羽田発青森行きのJEA21便に乗るにはギリギリだな)
娘のためにタイトなスケジュールを課した博文は大きな分岐点に足を踏み入れた。
四階から転落した患者は多発外傷だった。
藍沢は決断する。
「出血性ショックで心臓停止直前だ・・・手術室に搬送しているヒマがない・・・ここで開復だ」
白石は即座に同意する。
しかし、出血は多量で患部に到達するのが難しい。
藍沢は進退極まった。
白石はリスクヘッジの可能性を探る。
(何かあったはず・・・何か・・・この場をしのぐ術式が)
白石は脳内検索を終了した。
「鉗子の先にガーゼ巻いて」
ナースは一瞬戸惑ったが・・・藍沢は白石の意図を即座に読みとった。
「スポンジスティックか・・・」
即製器具で視野を確保すると同時に出血を緩和する白石のフォローである。閉ざされた患部への道が藍沢の前に開かれる。
(白石・・・ナイスだ・・・)
藍沢は白石を見直した。二人は無言で愛を交わした。
その様子を感慨深げに見守る男がいた。
藍沢に右腕を切断され、外科医生命を絶たれた黒田(柳葉敏郎)だった。
黒田は田所の見舞いに来ていた。
田所が生死の境界線に立っていることを黒田は医師として知悉している。
「・・・見通しはどうですか」
「ふふふ・・・今度の死神は手ごわいようですよ」
「今・・・フェローたちの手術を見学してきました・・・もう立派な救命医です・・・」
「すべて・・・あなたのおかげだと思っています」
「私なんかは・・・何も・・・それにしても若い奴らが一人前になるのを見るのは眩しいものですね」
「その分、こちらは暗闇に近付くわけですから・・・黒田先生・・・もしもの時は・・・後を頼みます」
「・・・」
黒田と田所も無言で契約を交わした。
博文は羽田に到着した。青森行きの50人乗りエアコミューター(小型航空機)は離陸が少し遅れていた。博文は幸運を感じると同時に一瞬の不安を感じる。
運行計画の齟齬にはいつも何か原因があるものだ。
離陸の順番を待ちながらJEA21便の機長は嫌な予感に襲われていた。何かがおかしい・・・しかし、それが何かはわからない。離陸準備の手順を確認しながら心に湧き上がる違和感を機長は宥める。
(何も問題ないじゃないか)
副操縦士が無線連絡を終えて告げる。
「離陸許可出ました・・・」
機長は心の中で苦笑しつつ、機を滑走路に乗り入れた。
定刻より10分遅れて、JEA21便はテイク・オフした。
順調に高度をあげるコクピットに警告音が鳴り響く。
「右エンジン・・・出力異常です」
「なんだ・・・」
「右エンジン・・・停止しました」
「緊急事態を宣言する」
「どうします・・・」
「羽田には戻れない・・・成田に緊急着陸を要請してくれ・・・」
博文は機長の機内アナウンスを聞いた。
「当機は操縦系統にトラブルが発生したため、成田空港に緊急着陸します。お急ぎのお客様に迷惑をおかけし誠に・・・」
(こりゃ・・・講演会は中止だな・・・)
博文は目を閉じた。娘会いたさの親馬鹿の報いか・・・博文は微笑んだ。
黒田は西条に会っていた。
「こざっぱりしたな」
「規則正しい健診医暮らしだ・・・」
「なんだか・・・うらやましいぞ」
「勝算はどうだ・・・」
「分っているのはやるしかないってことだ」
「田所部長を殺すなよ」
「・・・いつもの通りやるだけだよ」
西条と黒田は宿命のライバルだった日々を振り返る。
成田空港への着陸許可を得たエアコミューターは片肺飛行で進路を修正している。
不気味な警告音が再び鳴り響く。
「左エンジン出力異常です・・・て、停止しました」
「成田に届かない・・・」
「どうしますか・・・」
「胴体着陸しかない」
「システム・ダウン・・・ね、燃料放出できません・・・」
「ジェット燃料・・・満タンか・・・」
客室搭乗員が叫ぶ。
「ヘッド・ダウン・・・頭をお下げください」
防御姿勢をとりつつ、博文は思う。
「もうすぐ死にそうと思わせておいて・・・即死か・・・一つのテクニックだな」
窓の外には市街地が広がっている。
機長はつぶやく。
「民家は避けたいな・・・」
「あの山林はどうです」
「うん・・・神に祈れ」
「か・・・」
機は高度ゼロに達した。衝撃音とともに機体は森の木々をなぎ倒していく。
黒田は一仕事終えた藍沢を待ち伏せていた。
「元気そうだな」
「腕の具合はどうですか・・・」
「二回、神経移植して・・・一年半のリハビリで・・・この程度だ・・・もうメスは握れない」
「・・・」
「だが・・・のんびりしている」
「平凡な暮らしですか・・・」
「その通りだ・・・息子と過ごす時間もあるしな・・・NBA(北米プロバスケットボールリーグ)のことにすごく詳しくなったぞ・・・知ってるか・・・今、日本人で上矢って凄い選手が全米で注目されているのを・・・」
「知りません・・・」
「まあ・・・そうだな・・・お前は医学書だけを読んでろ・・・すべてを患者のためにつぎ込めばいい・・・そういうことが許される時間は意外と短いぞ・・・」
「・・・」
かってのシニアドクター(指導医)とフェロードクターは見つめあった。
田所部長の手術は定刻通りに開始された。
執刀医の西条は高鳴る鼓動を鎮める。
(いつもどおりだ・・・平常心を失うな)
見つめる黒田と見つめられる西条は同時に心で叫ぶ。
その時、轟木(遊井亮子)が叫んだ。「ドクター・ヘリ・エンジン・スタート」
医師待機室に医師が集合する。
橘(椎名桔平)「何があったんです」
森本「墜落事故だ・・・50人乗りの旅客機が成田市沼田町付近の山林に墜ちて炎上している」
白石「こ、国内線ですか・・・」
森本「羽田発青森行きの便だったそうだ・・・どうした・・・」
白石「父が・・・父が乗っていたかも・・・」
一同は沈黙した。
三井(りょう)「とりあえず現場に行くわ」
指導医・三井、フェロー・藤川、フライトナース・冴島が先発した。
森本「負傷者は多数らしい」
橘「ピストン輸送で全員出動しましょう」
白石「私も行かせてください・・・」
一同は再び沈黙した。
藍沢「不安を抱えながら・・・行くのなら自重した方がいい・・・現場に必要なのは肉親の安否を気遣う人間ではなくて・・・医者だ」
白石「・・・医師として行きます」
橘「第二陣は俺と藍沢と緋山・・・白石は残りのフライトナースと第三陣だ・・・森本先生よろしいですか・・・」
森本「こりゃ・・・修羅場だな」
轟木「ヘリは現場に向かっています・・・何か目印はありますか・・・」
現場管制官「ものすごい煙があがっているのですぐ分りますよ」
轟木「・・・」
梶(寺島進)「こちら、ドクターヘリ、現地を視認した・・・着陸地点を指示してくれ」
第一部隊は立ち上る黒煙と破壊された機体の惨状に息を飲んだ。
墜落から数十分が経過して動員された消防隊、警察は付近の学校の体育館を特設救護所にしている。
消防署員「これを使う日が来るとは・・・」
署員は常備されている死体安置所の垂れ幕を取り出した。
消火活動は続いていたが、自力で脱出した乗客や機外に投げ出された乗客の収容は進行中だった。
地獄の光景に三井は一瞬、我を失った。
藤川がそれを察して言う。
「トリアージですよね・・・治療を開始するのは後続がついてからでも・・・」
「・・・そ、そうね・・・私は右から・・・行くわ」
治療順位を決めるための仕分け作業が開始される。黒田の黒は死亡もしくは現状では救命不可能な者。緋山の赤は緊急治療の必要な重篤患者。緑は軽症。黄色は重傷と軽症の真ん中だ。急変すればたちまち赤札に染まるのである。
西条は予測通り、手術が難航するのを感じていた。出血部位は修復が難しく、除去する血栓への進路を阻む。
「やはり・・・循環停止法を試すしかない・・・お願いします」
待機していた専門スタッフは田所の血流を停止する処置を開始する。
低体温下の心肺停止により稼ぎ出される奇跡の時間は二十分。
もはや引き返すことの出来ない究極の分岐点である。
「出血とまりました・・・」
「五分ごとにカウントダウンしてくれ」
黒田と西条は同時に何かに祈った。
第二陣は現場に到着した。
先着医師のトリアージはまだ途中だった。患者は墜落現場から続々と搬入されてくる。
橘は一瞬、思考が停止した。
藍沢は吠えた。
「患者を仕分けます、赤はこのスペースに、黄色は移動させましょう。机を中央にならべて医療品基地にします。黒は・・・どこか開いた場所に・・・橘先生、それでいいですね」
橘「その通りだ・・・それでいい」
「警察の方は・・・搬送先の病院との連絡を仕切ってください・・・」
指導者を得た現場は組織として機能し始める。
(さすがだな)と藤川と緋山は同時に感じるのだった。
冴島はそっと緋山に寄り添った。鬼軍曹は脆い士官をフォローする臭覚に優れているものなのである。
藤川は患者に呼び止められる。
「先生、俺の脚は脚は大丈夫ですか・・・」
藤川はシートをめくった。脚はなかった。
藤川は優しく言った。
「大丈夫ですよ」
他に言うことはないのだ。
緋山は熱傷患者を見た。即座に瀕死であることが察せられる。
瀕死の男が言う。「妻が・・・妻がいるんです」
そこへ男の妻(渋谷琴乃)が現れた。
「あなた・・・無事だったのね・・・」
「お前も・・・助かったのか・・・よかった・・・」
緋山の心の傷が悲鳴をあげる。
(無事じゃないよ・・・カテゴリーⅢの熱傷80%はお陀仏決定なんだよ・・・あんたのご主人はもうすぐ死ぬよ)
「お、奥さん・・・せ、説明させてください」
「どうしたの・・・早く手当てしてください」
「まもなく、喉が腫れて呼吸困難になるので挿管の必要があります・・・ただしそうなると会話はできません・・・」
「話なんて後でいくらでも・・・」
「ご主人はそのまま難しい感じになります」
「何よ・・・それ」
「最後の時間を奥様との意志の疎通につかうか・・・絶望的な治療に賭けるか・・・」
緋山は医師としてすべての言葉を言い切ることができない。
言葉が出てこないのだ。
冴島は気配を読んで助け舟を出す。
「奥様、どうなさいますか・・・」
「そんなの選べるわけないじゃない」
医師ではない冴島にはそれが限度だった。冴島は緋山に決断を促す。
「緋山先生・・・」
緋山は俯いた。
橘は教え子のピンチを察知した。
緋山の患者への挿管を開始する。同時に緋山を叱咤激励である。
「この状況で患者の家族に判断できるわけないだろう・・・それは俺たちの仕事だ」
緋山の傷心は悲鳴をあげる。
「でも、また間違えるかもしれないのです」
「お前は・・・何も間違ったことはしていない・・・ただ、結果が悪かっただけだ・・・逃げるな緋山、これは戦争なんだ・・・ここは戦場なんだよ・・・敵に背中を見せるんじゃない」
緋山は無言だった。
緋山の心の中はすでに焦土と化していたのである。
意識の片隅で緋山の敗北寸前を捉えている藍沢だったが、手を差し伸べる余裕はなかった。瀕死の患者は目の前に無数にいるのだ。
そこへ第三陣が到着する。白石と滅多に目撃できないフライトナース2号(男子)、3号(女子)である。
白石は医師である自分と・・・犠牲者の娘である自分との相克を感じていた。
(しっかりしろ・・・私・・・お父さんの娘じゃないか・・・)
白石は救急隊員に患者たちの待つ体育館に誘導された。
その目に飛び込んできたのは「遺体安置所」の文字だった。
父親があそこに冷たい骸になって横たわっている。そのイメージは鮮烈に白石を襲う。
「挿管しましょう・・・」目の前の患者に無心で処置をしようとする白石は動揺する心を抑えることができない。
治療と治療の隙間に白石の躊躇を藍沢は感じる。
「替わろう・・・」藍沢はワンタッチで挿管を終えた。
「集中するんだ・・・目の前の患者の命がお前の手に握られているんだぞ」
白石は崖っぷちで歯を食いしばる。
藤川はかって列車転覆事故の現場で顔見知りとなった救急隊員の細井に再会した。
短い間にたくましくなった細井の姿に藤川は鏡に映る自分の成長を見たような気分になる。患者の搬送のために救護所を飛び出していった細井は数分後に瀕死の重傷を負って戻ってくるのだった。
(なんてこった・・・)
ゾンビのように患者の治療を続ける緋山の前に熱傷患者の妻が再びやってくる。
「主人が・・・」
緋山は患者の前に立つ。それはもはや死者となっていた。救命処置を続ける救命隊員に緋山は告げる。
「もう・・・終わりにして・・・三時三十一分・・・ご臨終です」
緋山は時計に落とした視線をおそるおそるあげる。
夫を失った妻は緋山を睨んでいた。冷たい夫の仇を見る視線は緋山の心臓を直撃した。
緋山を救助するものはそこには一人もいなかった。
体育館に展示された無数の「友」という習字が虚しく佇むだけだ。
救急隊員「あの・・・3時13分では・・」
緋山「事故発生が2時50分・・・消防が到着して出動要請まで10分、第一陣到着まで10分、タッチ・アンド・ゴーで短縮された往復時間が15分、私が到着して患者を殺すまでが5分・・・どうしても3時半は過ぎるのよ」
藍沢は白石に「血にまみれた被害者の身体的特徴を申告する用紙」を渡した。
「これを書いて、警察か消防に渡すんだ」
白石は藍沢の愛を感じた。それはか細い命綱だった。
用紙に記入して遺体安置所に向かう白石を瀕死の患者の焼け焦げた手が捉える。
白石は医師としての自分を急速に取り戻した。
ホワイトボードには患者のリストが作られていた。
救命処置と救命処置の間に医師たちは患者に対する進捗事項を記入する。
白石と藍沢はすれ違った。
「まだ提出していないのか」
「身長180センチ、肩に痣、足の爪が巻き爪・・・父のことを三つしか知らないの」
「俺なんて父親のことなんて一つも知らないよ」
「・・・」
その時、救助作業は次の段階に達した。
「墜落現場付近が鎮火しました・・・現場へのアプローチの許可が出ました」
現場に残された患者の治療はさらなる重傷者の発生を意味する。
橘は決断した。
「藍沢、白石、冴島・・・俺についてこい」
ドクター・ヘリ・チームはエースを全員投入したのだ。
現場に近付く藍沢は父親の姿を求める白石の心を読み取る。
「昔に戻ったみたいだ・・・最初に現場に出た時のダメなお前を思い出す・・・黒田先生に何を教わった・・・お前は医者だ・・・患者を救え」
「・・・わかった・・・・・・って・・・ええっ」
白石は信じられないものを見た。
傷だらけのまま前進基地で救護活動を続ける博文の姿を。
「お父さん・・・何してるの・・・どうして・・・負傷しているのに体育館に行かないのよ・・・」
「す、すまない・・・でも・・・父さん、医者だから」
白石の心は激しい感情に満たされ、何も考えられなくなった。
現場には無数の旗が散乱している。
・・・決断をして・・・引き金を引いたものは・・・後は奇跡を・・・
藍沢は残骸の影に負傷者を発見した。
「大丈夫ですか・・・」
「ほっといてくれ・・・オレは子供を残して逃げ出してきたんだ・・・ひどい父親なんだよ」
呆然と藍沢は未だ燻り続ける機体主要部を見つめた。
救護所に残された緋山は呼吸困難に陥った子供の患者を前に立ちすくむ。側では患者の母親(中村綾)が泣き喚く。
(ここは・・・どこ・・・私は・・・だれ・・・)
緋山の心は彷徨いどこか遠くへ旅立っている。
容赦のない時は過ぎていく。
専門医「残り時間・・・五分をきりました・・・やれそうですか」
西条「やれそうって・・・患者の頭にドリルで穴あけて・・・メスを入れてるんだ・・・やるしかないじゃないか・・・あんたそれでも医者かっ」
黒田「・・・西条」
残り時間。10・9・8・7・6・5・4・3・2・1・・・0。
・・・奇跡を祈るだけだ
関連するキッドのブログ『第9話のレビュー』
春雨に濡れそぼる天使テンメイ様のレビュー(中辛)
ごっこガーデン。愛と哀しみの墜落現場セット。エリ「カレーはやっぱりチキンカレー。じいや、今夜は絶対絶対絶対カレーでお願いしまスー。困ったときの神頼み、多神教の我が国はいざとなったら数で勝負でしゅよ~。う~ん。サード・シーズンは黒田体制なの・・・田所先生にも絶対絶対絶対いてほしい・・・。単発シリーズでドクター・コトー緋山篇とかやるときも相談相手として必要なのでスー。あの事故で助かった人は墜落寸前に機内でぴょんと飛び上がって着地したのでしゅか~。来週のお彼岸命日墓参りには・・・あの人との和解も予感されましゅね・・・カレーで結ばれた父子になるのでしゅか~」お気楽「命日の墓参りの有給は早めに申請してほしいよね。エリカはどういう靴をはいてるの?・・・本当に墜落事故が起きて自粛なんてことにならなくて関係者一同ホッとしているよね・・・次のシーズン、これ以上の事故ってあるのかなあ・・・」mari「やはり本命は白石ですねえ・・・でもフライトナースとフライトドクターの方が関係は長続きしそうだし・・・ちょっと迷います・・・とにかく来週は30分拡大・・・このまま春も延長戦に突入すればいいのに・・・」まこ「黄色のお方が赤に、赤のお方がどんどん増える・・・今日もよろしくとりあえずトリアージ・・・アタック・チャンスはまだでしゅか~、時間よとまれとお祈りしましゅ~。田所再起動計画スタートでしゅ~。チャ~ラチャラララチャ~ン。藍沢、白石のツートップがパパのせいでめそめそ状態に・・・どっこいパパは不死身さんでしゅた~。でもケガしているし・・・安心させておいてドンかも~。じいや~、まこはかまぼこカレーにしてもらいましゅ~」ikasama4「書き損じたら消しゴムで消す・・・わけにはいかない人生の筆使い・・・。予告編のフェローたちは白い世界に去って行くようですが・・・まさか全員死亡エンドじゃないでしょうね。見事な旗折どんでん返しに騙された今回・・・すこし猜疑心強めです。あたかも患者の家族をもう絶対信じない緋山の如し」芯「藍沢、緋山の男性フェローはもう一人前だけど・・・女性陣は苦難の連続・・・がんばれ~・・・そして第三シーズンを期待したいのです」くう「白石は医師としてできなく・・・人として現場に入った・・・でも奇跡は待っていたのですねえ・・・白石家の運気盛んの模様です。この調子で末期ガンも治癒か・・・それはないか・・・事故現場と手術室が交錯し・・・もう心臓に悪い展開の連続・・・じっと見守る黒田先生・・・何か奥の手を隠してるといいなあ・・・お願いだよ~」みのむし「遅刻ですが私の心はすっかり春模様・・・春ドラマもよろしく・・・るるる」
水曜日に見る予定のテレビ『曲げられない女』(日本テレビ)
ところでSPAMコメントが一日50件を越えたのでしばらく、承認制度に移行します。
皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。
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コメント
キッドさん、こんにちは
藤川は、大事故だと燃えるタイプなんですね
無事に卒業できそうで、良かったですわ。
(緋山は心配だけど)
>知ってるか・・・今、日本人で上矢って凄い選手が全米で注目されているのを・・・
私も存じ上げませんでしたわ。素晴らしいですねえ
さて、いよいよ最終回ですね。
コードブルーなら、フェロー達がどんな選択をするにせよ、
きっと納得できるような答えを出してくれると思うので、
何だか安心して迎えられそうです。
もうテーマ曲を聴いただけで、涙腺がゆるんでしまうパブロフの犬状態。

今から3rd Seasonが楽しみでなりません
投稿: mi-nuts | 2010年3月17日 (水) 12時10分
藤川は地道な努力家・・・
大イベントのおこる終盤には
いつのまにかひっそりと成長しているのでございます。
一方で、うさぎさんの緋山は
派手に大騒ぎして
スピード違反で免停タイプなので
ございますね。
まあ、このシーズンは
前半はフィジカルが
後半はメンタルがボロボロの災難な展開。
次回どんな立ち直りを見せるのか
それとも完全に打ちのめされるのか
楽しみでございます。
妄想データによりますと
上矢はNBAデビュー戦で
19得点、16リバウンド、11アシスト、11ブロックという
4つの部門で2桁を達成するクアドルプル・ダブルを
成し遂げたそうですぞ。
これは歴史上五人目の快挙だとか・・・。
妄想はさておき
盛り上げるだけ盛り上げて
最終回は1.5倍増量。
ナイス・サービスです。
黒田の登場など
3rd Seasonへの布石もバッチリですからねぇ。
もう一回もう一回と
歌い続けて何回やるのかしら~。
投稿: キッド | 2010年3月18日 (木) 01時21分
じいやさま、こんにちは!
飛行機事故はいやなもんですね。
だいたいあんな重たいものが空飛ぶなんて信じられないですわ~。
今シーズンのコードブルーの事故といえば
階段のスキー板串刺しが鮮明に思い出されますが
こちらは最後らしく物量で押してきましたねえ。
何にせよ、処理のロボットになって
ひたすら捌いていくしかないような世界ですね。
そんなところでも呪縛から逃れられない緋山が
かわいそうでした。
ともかくもうお彼岸ですし
春は曙ですから~。
カレーでしゃっきりしますわ~。
この頃毎日カレーですが、
昨夜はエビカレーだったから
じいや、今夜は絶対の絶対チキンね。
りんごをすりおろして甘くしてね~。
投稿: エリ | 2010年3月19日 (金) 11時37分
一般の方はそれほど毎日は
乗らない飛行機でございますが
乗り物の中で一番安全とはいえ・・・
事故がゼロにはならないのが現実でございます。
お嬢様たちは常に安全脱出装置で守られていますが
パラシュートもなしに飛んでいるのが
不思議といえば不思議なのですな。
じいやは何度か
墜落寸前の飛行機に乗ったことがあるので
今でも一年に一回くらい
夢に見ますぞ。
異常に揺れる機体。
窓の外に見える太平洋。
みんなで
ひそひそと
「もうだめかもわからんね~」
と言っているあたりで
目がさめてホッとするのですな。
しかし、じいやは空港パニックものの
映画が大好きなので
人間のこわいものみたさ根性にはびっくりでございます。
為すべきことを前にして
心が震える緋山。
勇気という目に見えないシステムが
発動することを願うばかりなのです。
平成財閥春のご先祖祭り開催中なので
お疲れと思い
今夜は薬膳スタミナカレーに
いたしましたぞ。
タンドリーチキンと
じいや特製ナンでお召し上がりくださいませ~。
りんごとはちみつもたっぷりですぞ~。
投稿: キッド | 2010年3月19日 (金) 20時47分