天下のため力を尽くし候ゆえに四十才まで帰宅せずと申し候(坂本龍馬)
二十七歳の手紙で四十歳になる頃までは実家に戻らない覚悟を伝えた龍馬だったが・・・四十歳になる前に土佐には何度か戻っている。しかし結局、四十歳にはなれなかったのである。
過ぎ去った時間の中でとっくに散った命がふと心に蘇ることは恐ろしいことだ。
会ったこともない人物の死を悼むというのは何とも虚しいことである。
しかし、そう感じるのが自分だけではないと知ることは心の安らぎを生む。
故人の手紙を残し、伝えてきた人々の思いは心が通じることの喜びがあることに発する。
人は誰も一人では存在したことにはならないからである。
さて、そろそろ元号の季節である。もっとも文久三年はほぼ1863年でまかなえる。
1863年は文久二年11月12日から文久三年11月21日まで。
1864年は文久三年11月22日から文久四年2月19日で改元し、元治元年2月20日から12月3日まで。
1865年は元治元年12月4日から元治二年4月6日で改元し、慶応元年となる。
慶応は坂本龍馬にとって最後の元号である。慶応四年は9月7日まででそこから明治元年9月8日となる。
もちろん・・・その時すでに坂本龍馬はこの世にはいないのである。
で、『龍馬伝・第17回』(NHK総合100425PM8~)脚本・福田靖、演出・梶原登城を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は土佐の怪物・前藩主・山内容堂公の弩迫力描き下ろしに土佐の海賊酋長・中浜万次郎の爽快描き下ろしの二大イラスト付で晴れた日のお野菜なみにお買い得です・・・ゲゲゲの女房の後の情報番組を見たのだな。龍馬愛好家たちの集う咸臨丸甲板・・・なんか晴れ晴れとしていますな。そして処女妻さな子の天晴れ女の操・・・まあ・・・妄想的にはついてつかれてくんずほぐれつの別れの一夜は絶対にあったわけですが。お佐那様としては16才から25才まで一途に思い続けてお世話して「あんたにあげた九年の日々を今さら返せとは言わないわ~」なのでございます。ああ、そんな娘さんは絶滅ですか・・・。いや帝国ファンはみんなそうなのか・・・。そしてクセ者の今年の大河は・・・史上有名な「脱藩赦免」を持ち出しておいてさらりと交わす憎い展開。吉田東洋をコントロールしていたのはオレだ。オレ様なのだの怪気炎でございます。酒か・・・晩年は酒毒に犯されたか。登場人物多すぎてマップに収納しきれないのが悩みです。亀弥太とか、なつとか・・・伏線の張り方も上手い感じでございますねえ。加尾が再登場したようにさな子も再登場は必然・・・であってほしいものです。五月末までお龍未登場なので・・・江戸妻、土佐妻をいったりきたりとか・・・。まあ、兄切腹ではまたきっと来る~・・・。小袖の件も~。権平は八平を意識したセリフ回しに感服でした。本当の親子みたいだった~。
文久二年も暮れ(1863年)ようとしていた。激動である。幕府の国際問題担当には二人の幕臣がいた。護衛艦・咸臨丸で渡米した勝海舟。そしてポーハタン号で渡米し、その後、ナイアガラ号で欧州を廻り世界を一周して帰国した小栗上野介である。二人は対立していたという説もあるが、基本的には二人の切れ者は役割分担をしていたことが伺われる。その共通の目的は「海軍創建」である。実質的に人材育成を担当したのが勝である。自力航海での太平洋横断に始まり、神戸海軍操練所に続く海軍軍人育成とその組織作りを勝は実行した。一方の小栗は国産軍艦の製造を目指していた。米国以外に欧州を視察したのはその建艦技術の実力を比較するためでもある。その成果が横須賀の海軍工廠に結実する。ただし、欧州を視察したためにフランスに巣食う闇の一族が憑依したことが小栗の不運だったのである。小栗を経由して汚染された慶喜が闇の将軍となっていくのもまた運命の変転というものだ。しかし、それは別の話。英国諜報部の謀略により発生した生麦事件(薩摩藩士による外国商人殺害事件)は公武合体派の同盟関係に皹を生じさせ・・・江戸と京の力関係を逆転させる。流動的な状況の中、軍艦奉行勝海舟は江戸の各藩上屋敷を説諭巡回するのだった。
桶町千葉道場。多忙を極める浪人・坂本龍馬は道場に隣接する千葉佐那の小部屋で暮らしていた。すでに師走となっている。夜更けである。
鍛え上げられた肉体と肉体が寝所の中でぶつかりあっている。龍馬も佐那も探究心に優れた剣士である。お互いが何を求め、何を感じるのか、そして快楽の行き着くところはどこなのか。寸刻を惜しんで技を磨くのである。
「あ・・・そんな・・・そうきましたか」
「まっこと・・・手ごわいの・・・これで・・・どうじゃ」
「うほっ」
冬というのにぐっしょり汗をかいた二人は仰向けになって息を整えた。先に立ったのは佐那である。甲斐甲斐しく乾布で龍馬の汗を拭う。
「こりゃ・・・すまんの・・・」
「坂本様は・・・大事ある身・・・風邪でも召されたら・・・平将門の血を引く桓武平氏千葉家の女子として神田明神に顔向けできませぬゆえ・・・」
先ほどまであえぎにあえいでいたとは思えぬきりっとした佐那だった。その可憐さに・・・坂本は思わず浴衣から零れ落ちそうな佐那の胸乳へと手を伸ばす・・・。
「あ・・・そんな」
「もう、一本、お手合わせ願います・・・」
「うふ」
こうして龍馬がつかの間の房事に熱中している頃、江戸城内では勝と小栗が膝をつき合わせていた。
小栗は勝より五歳年下だが、二千五百石の大身であり、加増されて漸く千石の勝とでは身分に差がある。しかし、二人とも根っからの江戸っ子であり、口の聞き方は伝法である。
「しかしな、勝殿、海路はちと思わしくないの・・・」
「するってえと・・・上様は東海道を行きなさる・・・こう申されますか」
「仕方ねえだろ・・・上方じゃ、英国艦隊が集結してるってえ評判だもの」
「水軍忍びの報告じゃ・・・英国軍艦五隻が伊豆あたりまで来ているそうですな」
「まったく・・・薩摩の殿様も・・・困ったことをしでかしてくれたもんだ」
「万次郎が言うには英国の公使は欲の皮のつっぱった野郎で賠償金をふっかけてきそうな按配で・・・」
「フランス公使もそう申しておった・・・下手をするとヒュースケンの時の賠償金1万ドルなみに請求してくるかもしれん・・・そうなると五万ドルくらいは覚悟しないとならん」
「こっちの情報では十万ポンド(40万ドル)ってえ算盤をはじいてるそうですぜ」
「なんじゃ・・・それは法外にもほどがあるだろう・・・」
「しかし、払わなければ・・・幕府がこの国を代表する政府だと主張できなくなる・・・という魂胆で・・・」
「だが・・・四万両(およそ40億円)たあ、いくらなんでもふっかけすぎだろう」
「ともかく、戦だけはなんとしても避けなければならねえ・・・こっちのよわみにつけこむ気だわいな」
「まあ・・・ことと次第によっちゃ・・・英国を薩摩にけしかけるって手もあるがよ」
「小栗様・・・そいつはよくねえ料簡ですぜ・・・」
「なに・・・あくまで・・・手立てのうちってことだがな」
「最後は成り行きまかせですかい・・・」
「仕方あるめえ・・・こちとら神様じゃねえんだし・・・」
江戸城の東南・・・土佐藩江戸屋敷の奥座敷には灯が灯っていた。
その暗がりの中で前藩主・鯨海酔侯こと山内容堂が酒を嗜んでいる。
「東洋・・・おるのか・・・」
小姓たちは部屋の外に控えており、室内にいるのは容堂だけだった。しかし、一度酒量が度を越えると、容堂には人には見えぬものが見えてくるのである。
やがて、燐光を放って現れたのは青白い顔色の吉田東洋であった。
「やはり・・・おったか・・・たわけが・・・死におって・・・」
吉田東洋の幽霊は悲しげに微笑んだ。
「謹慎も解け・・・これからが肝心という時に・・・の・・・我は手をもがれたようだわ・・・」
「・・・」
「我は・・・この後・・・いかにすればよい・・・」
「ご・・・ご自愛くだされ・・・ご・・・ご自重くだされ・・・」
「わかっておる・・・勝負というものは・・・動けば不利・・・動かねば負けじゃ・・・すべては機じゃろうが・・・」
「・・・御意」
「東洋・・・申せ・・・下手人は誰じゃ・・・」
「・・・」
「申せ・・・」
「・・・瑞山」
「・・・そうか・・・やはりの・・・」
闇の中で東洋の両眼がギラリと光った。
京都。武市瑞山は三条の屋敷にいた。すでに三条実美と武市瑞山は陰謀の愉悦に溺れ始めている。しかし、人を踊らすことにたけた京の貴族にとって瑞山などは操り人形である。二人で溺れているように見えて実美はしっかりと己の命綱を握っている。
「大分・・・静かになったでおじゃるのう・・・」
「大方、すす払いはすみましたゆえに・・・」
「これからは・・・御殿の中も・・・掃除が必要となるでおじゃろう・・・」
「・・・」
「かようなこともあろうかの・・・たとえば・・・姉小路などももう少し・・・静かにさせたいと存じたりするものや」
「しかし・・・高貴なお方に・・・そのようなことを・・・」
「まだや・・・そのうちや・・・今はまだ溝をさらっておじゃれ・・・今宵もどこかでお前の犬が吠えておじゃろうに・・・ほほほ」
(奸物め・・・)
かっての瑞山ならそう断じていただろう。しかし、もはや瑞山が奸物そのものになり果てているのである。
闇の中で・・・以蔵が血にまみれていた。今宵の相手は京都の酒屋一家だった。昼間、土佐勤皇党への金の寄進を渋ったのである。もはや土佐勤皇党は押し込み強盗の一味だった。
以蔵はふと視線を下に落とした。そこには生首が転がっている。子供の首だった。後腐れのないように一家全員を粛清せよ・・・それが以蔵に与えられた瑞山の指令だった。調達組と呼ばれる下士の群れが屋敷に入り金目のものを物色し始める。役目を終えた以蔵はふらりと一家三人の骸を残し・・・裏から外へ出る。
町は闇に包まれている。曇り空であると同時に新月である。それが屋外に潜む京都奉行所の忍びの命を救った。忍びは以蔵の立ち去る方向を確かめて・・・町屋の屋根を越える。やってきたのは粗末な町人長屋である。そこに以蔵が女を囲っているのだった。
忍びは忍び声で囁く。
「情夫(いろ)が来ますで・・・恐ろしいお方や・・・今夜は子供をいれて三人斬りでおます」
「そないでっか・・・」
「ほな・・・」
闇の中で・・・娘が身を起した。偶然を装って以蔵に近付き・・・懇ろになって今は借家で以蔵に囲われた体を装っている。しかし・・・娘は伊賀生まれのくのいちだった。正体は公儀隠密である。
しばらくして・・・以蔵の足音が聞こえた。その足取りは酔っているように重い。
しかし・・・以蔵になつと呼ばれるくのいちには以蔵がしらふであることが分っていた。
「大分・・・死霊にとりつかれておいでやわ・・・」
雨戸がたたかれた。
「はい・・・お帰りやす・・・」
なつが戸をあけると・・・雪が舞いこんだ。
「おや・・・雪や・・・」
体に白いものをまとわせて以蔵が立っていた。闇の中でなつが微笑むと・・・以蔵は長い長い息を吐いた。
関連するキッドのブログ『第16話のレビュー』
火曜日に見る予定のテレビ『八日目の蝉』(NHK総合)『絶対零度・未解決事件特命捜査』『ジェネラル・ルージュの凱旋』(フジテレビ)
ところでSPAMコメントが一日50件を越えたのでしばらく、承認制度に移行します。
皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。
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コメント
東京では特売の野菜はすぐに売り切れですねぇ。
ああいう時は物価が安い田舎がいいなと思います。
さて、こちらも朝ドラから
大河ドラマに話を(つ´∀`)つ戻してと
さてさて次回より海軍創設時代に繋がっていくんでしょうけど
どんどん登場人物が増えていくようで
それはそれで困り者ですね。(; ̄∀ ̄)ゞ
以蔵は益々仕事に励んでいますが
なんだか精神崩壊の兆しが見えています。
ここから臼田あさ美さん演じるなつが
どう見せてくれるのか楽しみなところです。
ともあれ、この作品に出る女優さんは
ほぼノーメイクなんで
この作品に女優さんが出るという事は
結構なチャレンジなんだと改めて思います。
勝と小栗はこの頃、幕府の双璧として
奔走していた姿は想像しても面白いです。
一方で薩英戦争で賠償金を徳川幕府に
肩代わりさせる薩摩のやり口を見てると
幕府の金を使わせて疲弊させようとする
かつて徳川家康が豊臣政権にやった手法とよく似ています。
なんとも皮肉なものです。
投稿: ikasama4 | 2010年4月27日 (火) 00時35分
ふふふ、「ゲゲゲの女房」は
なんとも懐かしい雰囲気で
朝から遠くを見つめる今日この頃です。
まあ、調布なんて東京じゃないけどな・・・
という気分もいたします。
まあ、つまりは武蔵野・・・の田舎でげす。
しかし、水木しげるの選択としては
抜群のセンスだよなあとも考えます。
なんとなく妖気というか
画面上の白い帯状のものが
あの辺には漂ってたイメージがございますから~。
再び、舞台は上方へ。
時代劇ではありえない移動というのが
日常茶飯事ですが
龍馬の場合は実際に
神出鬼没の動きを見せますからね。
やはり、蒸気船の威力は絶大なのですな。
もっとも多くは半帆船なわけですが。
水軍=海賊は本来、国境なき海の漂泊民でございます。
一所懸命の農民的武士から見れば
発想の違うアウト・ローのものたち。
龍馬の脱藩について
重く見るものと軽く見るものの差異は
ここに生じます。
土地から離れて生きることは
土地にしがみついて生きるものからは
悪鬼の所業に映る。
しかし、逆から見れば
なんくるないさ~なのですな。
しかし、多数派はやはり
陸で暮らす人々なので
そちらの感覚が正史的になっていくのでございましょう。
最近の沖縄問題を見ていると
つくづく思いますね。
誰も本質については語らない感じがして・・・。
突出して表面化している部分だけを捉えている。
日本では未だに攘夷が行われているわけです。
公海上を中国海軍が
日本の領土を分断する形で渡る。
そうしながらお調子者の中国軍兵士が
警戒体制の日本海軍をあおる。
いつ、不測の事態がおこってもおかしくない状況。
それなのに「沖縄に基地は不要」という
不合理な地元の声だけを伝播させていく。
一体・・・何を煽っているのか・・・不気味です。
そうした狂気がいつ
汚れ仕事を誰かに押し付け始めるのか・・・。
そして・・・押し付けられたものが
義を感じつつ・・・心を失っていくのか・・・。
まさに以蔵の憐れさは
沖縄の町の成人式の若者たちと符号するわけです。
なつは「仕方ないとあきらめないでください」と
語る女子高校生なのか。
それともいつかは都会にでて
十六茶を宣伝するのか・・・でございます。
江戸時代にも白粉、紅、眉墨の化粧セットがあるわけですが
倹約令の後は廃れて・・・幕末はすっぴん時代だったという
研究もあるそうです。
そういう意味では女たちが化粧をしたくて
明治維新が起こったという妄想も膨らみます。
しかし、すっぴん風であればあるほど
セクシーと感じるタイプにはたまりませんね。
貫地谷も前田もマイコも広末も
現代劇の二倍は魅力アップでございますな。
そうは思われませんか~・・・同志募集中。
大和撫子素顔党・・・なんじゃそれは。
勝りんとオグりんは
やはり幕府旗本の両輪ですな。
しかし、オグりんの方が坊ちゃんなので
最後は粘り腰にかける・・・とキッドは考えます。
それにくらべて成り上りの福沢諭吉なんかは
最後までのしあがっていきますからな。
やはり面の皮が厚いのは大切なのでございます。
武市はそこまでの図太さがないところが
また憐れな感じなのですな。
世の中を躍らせているつもりが
踊っている・・・それに気がつかないのは
人の常なのですねえ。
幕府を助けたい久光、
幕府を困らせたい薩摩の下級武士。
下克上と戦の不透明な境界が
いたるところに噴出していく。
まさにあちらをたてればこちらがたたず。
そして失うものが少ないものたちは
それを冷たい笑いで眺めるのです。
戦国時代も幕末も・・・そして現代も
全く変わらないと思うと
ウキウキしてきます。
やはり根が悪魔でございますもので・・・。
投稿: キッド | 2010年4月27日 (火) 09時58分