今回はほぼ全編、泣いていたと思う。
1時間も涙を流していると実に草臥れるのである。
「とりかえしのつかないことをしてしまった・・・」とアムロ状態の継美(戸田愛菜)、生さぬ仲の母と生さぬ仲の娘の間で板挟みになる奈緒(松雪)、家長として断腸の思いで苦渋の決断する藤子(高畑淳子)・・・どの身になっても憐れでならない。なにしろ・・・誰一人として悪いことをしているわけではないのだ。
ここにはいない・・・継美の父親、奈緒の実の父親、そして藤子の夫・・・存在しない男たちが・・・もはやこの世にないとして・・・影のようにこの件を見つめていたとしたらどうだろう。胸が張り裂けはしないだろうか。
張り裂けないとしたら人間ではないのである。
さて、本題に入る前に「グリム童話」の「子供たちが屠殺ごっこをした話」のもう一つの話に触れておこう。・・・もうひとつの別の話については昨日の記事を参照してください。・・・「肉屋には三人の子供がいました。一人はまだ幼く、母親がお湯につけています。その間に上の兄弟たちは父親の真似をしてお肉屋さんごっこをはじめました。兄が肉屋となり弟が豚になりました。そして兄はナイフで弟の喉を切り裂きました。物音を聞きつけて母親がやってくるとすでに弟は死んでいました。母親は兄からナイフをとりあげると逆上して兄の心臓を突き刺しました。母親は自分のしたことに驚いて末の子の元に戻ります。すると末の子はお湯の中で溺れ死んでいました。仕事を終えた肉屋が最初に見たものは世をはかなんで首をつった妻の姿だったのです」・・・ある意味、ドイツ人の容赦ないブラック・ジョークの結晶である。この話で大笑いできる日本人は少ないと思う。
しかし、人は時にどうしようもなく愚かで・・・時には信じられない行いをするものである。
そういう意味でこの話は人間のすべてを物語っているとも言える。
キッドは「Mother」のそこそこの視聴率を見るとそういう思いを強くします。しかし、↗13.9%なのでやはり世の中捨てたもんじゃないとも思うのです。・・・お前って腰がすわらないよな。・・・多重人格だからな。
水曜日のダンスは
「臨場」・・・17.9%↗18.6%↘16.7%↗16.9%・・・・・・↗18.6%↘17.0%
「Mother」・・・・・・11.8%↗12.0%↗12.8%↘10.0%↗11.9%↗13.9%
ナイス・リード。
で、『Mother・第6回』(日本テレビ100519PM10~)脚本・坂元裕二、演出・水田伸生を見た。どうやって怜南(継美)の母親・仁美(尾野真千子)は鈴原家の電話番号を知ったのか。どうでもいいことだが、そういうことが気になるお茶の間のために一応の説明がある。
仁美「娘がノートに渡り鳥って書き残しているんです」
教師「渡り鳥・・・担任の鈴原先生のことかな」
仁美「学校での娘の様子をお聞きしたいのです」
教師「鈴原先生のご実家の電話番号なら・・・わかります」
そして・・・仁美は鈴原家に電話をかけた。
その電話に出たのは継美(怜南)だった。
「あなた・・・怜南なの・・・」という実の母の問いかけに思わず「・・・ママ」と零れる継美の中の怜南の言葉。
そのつぶやきを・・・偽りの母親である奈緒が聞いた。奈緒の育ての親である藤子が聞いた。藤子の実の娘たちらしい・・・芽衣(酒井若菜)と果歩(倉科カナ)が聞いた。だが果歩のヒモの耕平(川村陽介)は聞き逃した。いや・・・聞いていたが聞かないフリで撤退したのかもしれない。
とにかく・・・事情を知らない三人の女は困惑し、秘密を持った二人の女は切羽詰ったのである。
(どうしよう・・・どうしよう・・・とりかえしのつかないことをしてしまった・・・お母さん・・・ごめんなさい・・・お母さん・・・私はお母さんを・・・裏切った・・・)
継美は信じられない自分の失策に呆然とした。怜南は心を動かすママの声に陶然とした。
継美からは表情が消えた。仮面をかぶり続ける継美/怜南の心が凍結してしまったのだ。
藤子は疑問を口にした・・・「ママって誰?」
継美は脱力した。その背後に奈緒が触れる。
継美は奈緒にすがりついた。
(どうしよう・・・お母さん・・・ごめんなさい・・・お母さん・・・お母さん・・・お母さん)
奈緒は愛しい偽りのわが子を抱きしめた。
室蘭では仁美が立ちすくんでいた。
(怜南・・・怜南が生きている?)
そこへ訪問者がやってきた。
「マーくん?」と仁美が口にしたのは愛人の真人(綾野剛)の愛称だった。
しかし、やってきたのは刑事だった。
「死体がないっていうのはいろいろと困った状態でしてね・・・書類仕事がありますので・・・おおよその事情を確かめておきたいのですよ」
「・・・」
「あの日・・・お子さんは何故一人で漁港なんかに行ったんでしょう?」
「・・・わかりません」
「・・・一緒に男性とお暮しだったとか・・・お子さんとその方とは仲良くされてましたか?」
仁美は答えに窮した。疑いを晴らすために何かを言わなければならない。疑い?・・・何を疑われているのか?・・・娘が母親の愛人を誘惑したこととか・・・私が躾のために娘をゴミ袋に詰めて夜間に路上放置したこととか?・・・そういうことを疑っていると?・・・それは疑いを晴らすために言っていいことなのか。何をどこまで・・・説明するべきなの。わからない。どうしていいか・・・わからない。それにアレはまだ生きているかもしれないのだ。
そう・・・怜南は・・・アレは確かに怜南の声だったもの。
東京では怜南は継美としての意識を取り戻した。いつの間にか鈴原家の二階にいる。
(もう・・・こうなればお母さんにまかせるしかない)
「漢字の・・・書き取りをしなくちゃ・・・」
(お母さん・・・継美の失敗を・・・取り繕ってください)
「お母さん・・・すぐ戻るから・・・」
三女の果歩は気を遣って・・・その場に残った。
継美は机に向かって漢字の書き取りを始める。
果歩は当たり障りのない言葉を捜した。
「へえ・・・七歳なのにもう、こんなに難しい漢字を書けるんだ」
果歩は地雷を踏んだ。
(七歳・・・七歳か・・・継美ちゃんは・・・七歳なんだ)
あの日。室蘭に姉を尋ねた日。行方不明になった女の子は・・・七歳だったと果歩は気がついてしまった。
階下では奈緒に対する取調べが始まっていた。姉に対する疑問を口にする芽衣。口調は辛辣だがそれは口の重い姉への援護射撃なのである。
「おかしい・・・と思ってたんだ・・・奈緒姉が・・・子供を生むなんて・・・あの子・・・奈緒姉の子供じゃないでしょ」
藤子はうろたえる。
「なんで・・・自分の子供じゃない子を奈緒が連れているのよ」
「私に聞かれても困るじゃない」
奈緒は必死に答える。
「継美は私の娘です」
しかし、そこへ真相に気がついた果歩がおりてくる。
「あの子も七歳だったよね・・・」
階上では継美が耳をすましている。もはや継美には祈るしか術がない。
(お母さん・・・がんばって・・・継美の失敗をとりかえして・・・)
「何の話?」
「私が奈緒姉を訪ねた日・・・奈緒姉が担任していたクラスの児童が行方不明になったって話を聞いた・・・そして奈緒姉はその日に引越しを・・・」
「バカね・・・それじゃ、まるで奈緒姉が誘拐犯みたいじゃないの」
いつものように嘲笑しようとした芽衣は途中で凍りつく。
母と二人の娘たちは・・・長女を見つめた。
「そんな・・・まさか」
奈緒は撤退を決意した。奈緒はいつだってそれしか手段を持っていないのである。
「継美と一緒に出て行きます」
藤子はしっかりと抱きしめたはずの偽りの長女がまたしても彷徨い出したことに恐怖する。
「待って・・・何を言ってるの・・・」
「お母さんたちは何も知らなかったことにしてください」
次女の芽衣は長女のいつもの頑固さが始まったと気がついていた。思いつめて・・・我を失って・・・優秀な人間はピンチに弱いものよね。
「だめよ・・・誘拐犯なのよ。知らなかったじゃ・・・すまないよ・・・お母さんは会社の経営者なのよ。私はもうすぐ結婚するの・・・果歩は就職の内定が出てるのよ・・・娘や姉が犯罪者になって・・・ただですむと思うの?」
奈緒は追い詰められた。いつも優しいお義母さん。本当の姉妹のように可愛い義妹たち。この愛すべき人たちを私は裏切る。それしかできないのだ。私は偽りの娘。偽りの姉。そして偽りの母なんですもの。
でも母親として・・・継美だけは・・・失いたくないの。
だから・・・家族にだけは「秘密」を打ち明けよう。ごめん・・・継美・・・ごめん。
「あの子は・・・私の子供ではありません・・・私の教え子だった子です」
継美は目を閉じた。母親の掲げた白旗を継美は見た。
(しょうがないよ・・・お母さん・・・お母さんは悪くない・・・失敗したのは私・・・最初に裏切ったのは私・・・私が責任をとるよ・・・)
目を開いた継美はノートにメモを作り始める。
ペンギンの看板
「冬」と「花」という字に埋もれて、それはひっそりと立っていた。
「あなたは一体何をしたの・・・」
「あの子を誘拐したのです」
母の問いに娘は正直に答えた。
北海道の雪の降るバス停で偽りの母と偽りの娘に吹いた冷たい風は再び戦ぎはじめる。
三流ジャーナリストを装ったハイエナこと駿輔(山本耕史)はいつか書く記事のために取材を続けていた。その興味は謎の女・望月葉菜(田中裕子)に注がれている。
望月葉菜の家には変な担当医・袖川(市川実和子)が訪問していた。何かの勧誘のように袖川は葉菜に入院を勧める。しかし、袖川は事情を知っている女なのである。しかも、奈緒や藤子の知らない葉菜の寿命も知っているのだ。
「入院した方がいいと思うんですよね・・・再発したらもって三週間ですよ・・・こわくないですか」
「・・・」
「じゃあ・・・言い方変えます・・・こんなところで・・・一人で淋しくないですか。私、こんなこと言いたくないんですけど・・・お節介とか焼くのも焼かれるのも真っ平ごめんだし・・・でもね・・・あなたみたいに生きることに未練がないような態度をとられると・・・うーっマンボっ!ってなっちゃうんですよ・・・医者だからって人の死に無頓着って思わないでください・・・私、患者に死なれるのが大キライなんです。うーっマンボ!なんですよ」
「・・・私、入院しようかしら・・・」
「え・・・」
「だって・・・そうしないと先生・・・うーっマンボってなっちゃうんでしょう」
唯一の息継ぎポイントまで泣かされてたまるかっ・・・なのである。
まあ・・・涙ぬぐえや・・・。先は長いぞ・・・。
継美と奈緒は散歩に出ていた。
血縁者らしい母と姉妹は・・・事情通の果歩にレクチャーを受けていた。
「・・・ていうわけで継美ちゃんは虐待されてたってわけ」
しかし、本当は最も常識人である芽衣は反論する。
「だったら・・・警察でも児童相談所にでも通報すればすむ話じゃない」
「でも・・・結局・・・注意を受けた親許に戻された子供がさらに虐待されて・・・殺されちゃうことだってあるんだよ」
「だからって・・・子供を誘拐したらまずいだろうがっ」
「そ、そりゃそうだけど・・・」
藤子は娘たちの言葉を聞きながら奈緒の胸中を察する。
(そうなの・・・ただ・・・教え子がかわいそうだから・・・そうしたの)
藤子には自信がない。本当の親ならこういう時どうするか・・・30年問い続けて答えはないのである。もちろん、実の親にだって答えられない質問なのであるけれど。
そこへ・・・奈緒と継美が帰ってくる。
「ただいま」
「おかえり」
「おかえり」
「おかえり」
「ただいま」
一瞬の静寂・・・しかし、風が終息することはない。
「心配しないで・・・継美・・・おばあちゃんも・・・芽衣も果歩もみんなあなたを好きだから」
継美は漢字の書き取りを始める。
「大事大事・・・」と奈緒は声をかけるが継美は漢字の書き取りに熱中している装いで答えない。
妹たちはそれぞれの部屋に戻り・・・奈緒と藤子が対峙した。
「私・・・あなたは冷静な娘だと思っていた・・・そして今もそうだと信じている・・・継美ちゃんは・・・いえ・・・怜南ちゃんを・・・本当の家に返しなさい・・・今なら、まだ穏便にことを収められると思うの・・・」
「迷惑をかけてすみません」
「迷惑とか・・・そういう問題じゃないのよ・・・あなたを守りたいだけ・・・あなたは継美ちゃんに自分を見たんでしょ・・・そして同情して」
「お母さん・・・私・・・自分が正しいことをしたとは思ってません・・・間違ったことをしたと思っています・・・まして正義のためでも継美に同情しているわけでもありません。私はただ継美のお母さんになろうと決めたのです」
「それじゃ・・・あなたはただの人さらいじゃないの・・・」
「お母さん・・・私の籍を抜いてください・・・そうすればマス・メディアもうかつな中傷記事は書けないはずです。私が・・・間違っていたのです・・・最初からここに帰ってくるべきじゃなかったのに・・・」
「何を言ってるの・・・そんな・・・あなたはあの子のために・・・家族を捨てるっていうの・・・果歩がどれだけあなたを姉として慕っているか・・・わからないの・・・芽衣だって口じゃあんな風だけど誰よりあなたを心配している。私だってあなたを三十年育ててきた・・・そういう家族を捨てて・・・あなたはあの子を選ぶっていうの・・・そんなのあなた・・・ひとでなしのすることよ・・・」
「ごめんなさい・・・お母さん・・・私はあの子の母親なんです」
藤子は奈緒の中に自分の姿を見た。奈緒を自分の娘にしようと決めた自分。でも事情が違うでしょう。私は合法的に奈緒の母親になったのよ。子供を誘拐したりしないわよ。しかし、奈緒の中に藤子はいるのだ。継美を自分の娘にしようとした奈緒。本当の親ならどうする。娘のやりたいようにやらせる。それとも暴力に訴えてもやめさせる。ああ・・・本当の親なら・・・。
(馬鹿・・・奈緒・・・なんて馬鹿な娘なの・・・なんて可愛い娘なの・・・奈緒・・・私の奈緒)
藤子の心は張り裂けた。
継美はその音を聞いた。
(かわいそうなお母さん・・・かわいそうなお母さんのお母さん・・・大丈夫・・・継美は・・・自分の失敗は自分で・・・なんとかしますから・・・嘆かないで・・・傷つかないで・・・苦しまないで)
継美は「書置き」を一心不乱に書き綴っていた。
(立つ鳥後を濁さず)だからね。まあ・・・継美の知能指数は推定200・・・現在中学生相当にあたることは間違いない。普通のお子さんが真似ができなくても叱らないでください。
しかし、朝、うっかり漢字ノートを忘れたのは・・・故意なのか・・・それともうっかりさんと親しくしすぎたのかは微妙なところである。
とにかく継美は問題を解決するために置手紙を残し、奈緒の姿を心に刻むと一人で旅立ったのである。
ここから刻まれる藤子と芽衣そして芽衣の婚約者・加山(音尾琢真)の挿入曲は謎を孕んでいる。
家を出るときは三人。藤子と芽衣とお腹の胎児。帰ってきたのは何人なのか。
とにかく・・・加山は「二人の問題なんだから・・・もっと早く相談してくれたらよかったのに・・・でも結論から言えば・・・君の選択は正しかったと思う・・・そんな面倒くさい命は生まない方がいい」と告げるのである。
それを受けて中絶手術に向かう藤子と芽衣。
産婦人科の脱衣室で・・・芽衣の心は揺れ始める。
「継美ちゃんの本当の母親ってどんな女なのかしら」
「・・・」
「きっと・・・自己中心的で私に似ているような気がする・・・子供をないがしろにするところなんか」
「そんなことはない・・・あなたは・・・違う」
「じゃ・・・どうして、こんなに不安なの・・・どうしてこわいの」
「それは・・・あなたが母親だからよ・・・もうあなたは母親になってるから」
「私・・・ダメダメな女だからさ・・・子供に好きになってもらえる自信がないの・・・許してくれるかな・・・こんな母親で・・・母親として好きになってくれるかな」
藤子は愛おしい娘を抱きしめた。
果たして・・・中絶はなされたのか?・・・芽衣は天国の嬰児を愛するのか。それとも・・・不運な胎児の出産を決意したのか・・・。
なぜか・・・どちらともとれるような気がするのである。いや・・・帰ってきてもお腹まだ大きかっただろう・・・ただ太ってるのかもしれないじゃないですかっ。・・・・・・。
とにかく・・・お腹に不安をかかえる娘を抱きしめて・・・藤子は・・・決断を迫られるのである。
世の中にはできることとできないことがある。二人を守るために一人を犠牲にすることも。
経営者ならやむをえない場合があるのだから。
奈緒を切り捨てるのは・・・あの子が養子だからじゃない。
あの子がそれを望むから。
でも本当の親ならどうするのかしら。
その頃、継美の置手紙を発見した奈緒は本当の親のような恐怖を感じていた。
お母さん、継美が書いた手紙だよ。読んでね。
お母さん、栞も作ったよ。はさんでね。
お母さん、読むの好きでしょ。
お母さん、いつもご飯作ってくれたの、嬉しかったよ。
一緒に餃子作ったの、面白かったよ・・・
・・・お風呂にはいったとき、泡だらけになったの、びっくりしたね。
継美はお風呂で泡だらけになったことがなかったのだ。
仁美はどれだけ虐待してたんだよ・・・。
・・・商店街で買い物したの、楽しかったよ。
買い物できるようになったよ。
260円の買い物をする時は300円渡すよ。おつりは40円。
何買ったんだよ・・・。そこはどうでもいいだろうがっ。
一回一回財布はしまうよ。
サイフを盗られた母親への嫌味かっ。っていうか・・・奈緒は継美の涙の跡に気付いているのだろうな。と思うだけでさらに涙が・・・誰か、助けてください。
学校へ行けてうれしかった。
友達もできた。
掃除当番は
お母さんと一緒の仕事だから楽しかったよ。
夜寝るの、一人で眠れるよ。
一人で大丈夫だよ。
継美は大人になったらお母さんみたいな髪型にするよ。
お母さんみたいに優しくなるよ。
お母さんみたいに強くなるよ。
お母さん、ありがとう。
お母さんになってくれて、ありがとう。
お母さん、大好き。
お母さん、ずっと大好き。
・・・大事大事。
継美は一人で室蘭に帰るよ
どうしよう・・・どうしよう・・・継美が家出した。
どうやって・・・帰るの。
お金は・・・給食費・・・だけどあれじゃ・・・足りないはず。
そうだ・・・うっかりさん・・・うっかりさんのところに・・・行くかもしれない。
奈緒は漢字ノートを握りしめて家を出た。
葉菜の家には駿輔が訪れていた。しかし、理髪店「スミレ」は休業中だった。
駿輔は名刺を残した。そこに駆けつける奈緒。
「どうした・・・何かあったのか・・・」
「継美が・・・いなくなったの」
「落ち着けよ・・・それ・・・なんだ・・・」
「好きなものノート・・・それを書いてるときが楽しいって・・・」
「現実逃避だな・・・それをまた書いているってことは・・・あんたとの暮らしも辛かったか?」
「・・・」
「もういいじゃないか・・・あんただっていつまでもこんなこと続けられないってわかってるだろう・・・このままだと親子心中だぜ・・・まあ、他人だからただ心中か・・・あんたはよくやったよ・・・もう充分だろう」
「違うわ・・・」
「何が・・・」
「これ・・・好きなものノートじゃない」
青色の電車
波の模様のバス
手を繋いだ階段
キディ・ランド
怒っているみたいなマネキン
ペンギンの看板
52階のビル
「これ、帰り道だわ・・・私と継美が来た道だもの・・・あの子が心配していたのは・・・自分のことじゃなかった・・・私と私の家族のことだったんだわ」
「あの子が帰りたいって言うなら帰らせてやればいい」
「あの子はね・・・嘘でしか・・・本当のことが言えないの」
「なんだ・・・それ・・・嘘なのか・・・本当なのか・・・先生・・・大丈夫か」
「あなたは結局・・・理性の信者なのよ」
28番
「なんだ・・・こりゃ」
「バス停・・・私と継美が最後に降りたバス停よ」
「それじゃ・・・帰れないな」
奈緒はバス停に向かった。
28番は降車専用だった。どこかへ行くバスはいつまで待っても来ないのである。
継美はもう一度、目印のビルの階数を数えに行った。
(間違えたのかな・・・あのビルは確かに52階あったと思うけど)
継美は数えなおしてみた。やはり、ビルは52階あった。
そこへ・・・婦人警官が通りかかった。
(もう・・・つかまっても大丈夫・・・だって私は一人だから)
この辺りが小学生です。継美・・・いろいろとまずいんだよ。ランドセルとかな。
だが・・・奈緒は間一髪で継美を発見するのだった。
そこは思い出の歩道橋。葉菜と奈緒がすれ違った場所だったようだ。
奈緒「継美ーっ」
婦人警官「あら・・・お母さん?」
立ちすくむ継美。
(どうしたの・・・お母さん・・・来たらダメだよ・・・お母さんのお母さんを悲しませるよ)
婦人警官は奈緒に歩み寄る。
継美の我慢もそれまでだった。
継美「お母さん・・・おかあさあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」
いつわりの親子は抱き合った。空気を読むことに長けた婦人警官は出過ぎた真似はしないのだった。素晴らしい婦人警官である。表彰したいくらいだ。
帰るところはここだよ。
継美とお母さん。
二人のいるところが帰る場所なの。
それだけは忘れないで。
(お母さんお母さんお母さん)
そして二人は儀式の待っている鈴原家に戻った。
藤子は覚悟を決めて歯を食いしばっていた。
「ただいま、おばあちゃん」
「継美ちゃん、お帰り」
藤子の心は乱れた。実の母のあの人にも盗られなかった娘を・・・こんな小娘に奪われるとは・・・。憎い・・・この子が憎い。
藤子は養子離縁届けの書類を出した。
「それを書いたら・・・出て行って」
居合わせた果歩は驚愕した。藤子はもっと穏便にすませることもできたのだ。
しかし、藤子は心を鬼にすると同時に果歩に最後の望みを賭けていたようでもある。
「なによ・・・これ」
そうよ・・・果歩・・・もっと言ってちょうだい・・・情ですがって・・・奈緒の気持ちを変えさせて。
しかし・・・奈緒の決心も固かった。
「わかりました・・・」
「ちょっと待ってよ・・・お姉ちゃんを追い出すの」
「仕方ないの・・・私はあなたたちを守らなければならないから」
「そんなのないわ・・・守るならお姉ちゃんも守ってよ・・・三姉妹でしょ」
そこに芽衣も加わった。
ああ・・・芽衣はだめ・・・芽衣はこんなこと・・・お腹の子に障るし・・・。
「芽衣・・・あなたは寝てなさい」
「うるさくて眠れないわよ」
藤子の心は乱れた。生さぬ仲の奈緒。果歩。芽衣。芽衣のお腹の子供・・・。私の孫。そして・・・継美。ああ・・・あなたさえ・・・いなければ・・・こんなことにはならなかったのに。
そして、果歩は「養子」の文字に気がついた。
「なに・・・これ・・・養子って」
藤子はもう何がなんだかわからない気分になった。ああ・・・30年間育てた娘が。隠してきた秘密が・・・すべておじゃんになるのだわ。本当にもうあの子がいなければ・・・。
「お姉ちゃん・・・養子なの・・・芽衣や果歩が生れる前に施設からもらわれてきたの」
「嘘・・・嘘だ・・・そんなの嘘だ」
果歩・・・可愛いよ果歩である。
「果歩・・・うるさい」
芽衣・・・こわいよ芽衣である。
「ダメだよ・・・そんなの書いちゃダメ・・・家族が壊れちゃうよ」
奈緒は署名を終えた。
準備周到な藤子は判子も用意していた。
しかし、朱肉を渡すことができなかった。
奈緒・・・こんなに果歩を悲しませて・・・それでもあなたは・・・。
「お母さん・・・朱肉をください」
いや・・・やめて・・・朱肉は・・・藤子はすべての不幸の源である継美を睨んだ。
あなたさえいなければ・・・そこには涙を流す幼子の姿があった。
賢く、優しく、そして傷ついた子供。
私が母親になろうと決めた娘が母親になろうと決めた娘。
私のいつわりの孫娘。
ごめんなさい。ごめんなさい。あなたを助けてあげられなくてごめんなさい。
でも私は三姉妹の母親なの。私にしてあげられることはもうないの。
儀式は終った。
「イヤ・・・こんなのイヤ」
「果歩・・・嘘ついていて・・・本当のお姉ちゃんじゃなくて・・・でもね・・・優しくて素直な果歩のこと・・・好きよ」
「・・・」
「芽衣、ごめんね・・・」
「あやまらなくてもいいんじゃない・・・追い出すのはこっちなんだから」
芽衣はこれまでの長い間の姉との一方的な確執の無意味さに苦笑していた。
「芽衣は・・・きっといいお母さんになれるよ」
「・・・奈緒姉らしくないよ」
「まあ・・・お互い様よね」
奈緒は継美に手を差し出した。
継美はその手を握った。
藤子はもう二人を見ていることができない。
継美はそっとその後姿に声をかけた。
「ランドセル・・・もらってもいいですか」
「それは・・・もう・・・あなたのものよ」
藤子は微笑んだ。なんて可愛い子なんだろう。さすがは奈緒が選んだ娘だ。
私の最愛の娘の目に狂いはないのだわ。
「ありがとうございました」
奈緒は愛をこめていつわりの家族に別れを告げた。
なんて・・・いい人たちだったんだろう・・・見ず知らずの私のために・・・こんなによくしてくれたことを私は心から感謝しています。
奈緒はやはり・・・あれからずっと心を殺していたのだ。
いつわりの家族を失った今・・・初めてその大切さに気がついたのである。
でも・・・大丈夫、私にはもう継美がいますから・・・。
さよなら、お母さん
縁があったらまた会いましょう・・・
藤子は涙が赤く染まっている気分だった。こうして・・・二羽の渡り鳥は鈴原の家を出て住み慣れたホテルに戻っていった。
入院した葉菜の元へ、花束を抱えて老紳士(高橋昌也)がお見舞いにやってくる。
「あんたを訪ねてきてた女性を見かけたよ。
三十半ばの・・・。
なにか随分慌ててたようだ。
男性も一緒だった。あの女性、ひょっとして・・・・・」
一瞬で状況を見抜く観察眼・・・人間関係に対する洞察力。
葉菜の過去を知る男。
老紳士の正体は・・・まだ秘密らしい。
葉菜は奈緒が娘であることを老紳士に肯定してみせた。
まさか「猿の軍団」の榊教授では・・・誰が知っていると言うのだ。
その頃、奈緒・継美親子のストーカーと化したハイエナ駿輔はすべての情報を握っていた。なりすまし代理請求で本人たちの戸籍まで入手している気配である。
そんな駿輔に謎の電話がかかってくる。
流れから言えば電話の主は仁美であると思われるが・・・この辺りはなんとなく曖昧にするのが姑息なテクニックなのである。
次に葉菜が病院から名刺によって駿輔に電話をかける。
その電話を受け取った駿介は・・・おそらく働き口の店の制服を来たまま・・・それとも上京なんで最高のオシャレを決めたのか・・・片手を意味ありげにポケットに忍ばせたやさぐれ女・・・仁美の登場を葉菜に伝えたのである。
ホラー・テイストを滲ませて・・・場面は家なき母子のホテルの一室に移る。
そこにノックの音が・・・。
隠れる継美。おそるおそるドアをあける奈緒。
侵入してきたのはうっかりさんだった。
「何しにきたのです」と問いかける実の娘の視線をはねのけて・・・何か危険なクスリが注入された如く活性化したスーパーうっかりさん。
あなたたちは私が守ります
・・・宣言しつつ軽々ととランドセルをつかみあげるのだった。やはり、コールド・スリープで猿の国へ行くのか・・・だから誰も知らないって~。
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金曜日に見る予定のテレビ『森カンナの警視庁失踪人捜査課』『子役オールスターズとハガネの女』(テレビ朝日)『岩佐真悠子のトラブルマン』『里久鳴祐果の大魔神カノン』(テレビ東京)『仲里依紗のヤンキー君とメガネちゃん』(TBSテレビ)
ところでSPAMコメントが一日50件を越えたのでしばらく、承認制度に移行します。
皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。
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