剣を用いてもてるものは銃を用いてもてるものにおよばず(坂本龍馬)
京都周辺には春を売って口を養う女たちが屯していた。
女とそれを商う者たちにとって上客は金払いのいい客だった。
幕末の動乱・・・次から次へと金回りのいい男たちが現れた。
尊皇攘夷の人斬りたち。
御所護衛の人斬りたち。
腕が自慢の男たちは敵を斬り恩賞に与かり、その金で女を買った。
後に維新の元勲となったものには芸妓を妻にしたものもあるし、新選組の隊士の中には水茶屋の娘に子を生ませ、その子が売れっ子芸妓になったため老後を養ってもらったものもいる。
敵も味方もなく、景気がいいときにはもて、不景気になればもてない・・・今も昔も色街では不変の真理である。
しかし、時には泥中に人情の蓮の花は開くのである。
で、『龍馬伝・第24回』(NHK総合100613PM8~)脚本・福田靖、演出・梶原登城を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は龍馬の義母である坂本伊與と生母・幸のそっくりさん寺田屋お登勢の二大ビッグ・マザー描き下ろしイラスト大公開で圧巻でございます。夏の香りがする幕末の転換点・・・池田屋その後で・・・奢る平家は久しからず和をもって貴しを成すを忘れる権力者たち。粛清の反作用で起きた尊王攘夷の炎に油を注ぐ大粛清へ・・・。やられたらやりかえす・・・古き良き燃える男たちのロマンが進捗中です。結局はフランスに操られた幕府の代理戦争なのでございますけれどね。これを見た大英帝国はニヤリでございますな。幕末から日清日露の戦役までイギリスがどれだけ儲けたか・・・気が遠くなる勢いです。しかし、もはやそれは遠い昔。世界に出なければ「サッカーを敵陣に爆弾を運ぶ戦いであること」に気がつかない我が国のあり方・・・はたしてワールド・カップはどうなることでしょう。パスしているだけでは勝てないという簡単な真理は憲法九条がある限りなかなかに気がつかれにくいもの。大体・・・目標がベスト4というのが情けない。優勝を目指さないゲームになんの意味があるのか・・・。まあ・・・勝てば官軍なので・・・こういう愚痴が虚しいものになることを祈るばかりでございます。陽射し増す六月の好天・・・超早い暑中お見舞い申し上げます。
で、元治元年夏、池田屋事変で暴力革命を目指したテロリスト集団を撲滅した京都守護職会津公と戦闘集団・新選組・・・。京都市中取締りは不浄の仕事であるために武士にはできない・・・という法の矛盾を突いて下層階級中心の浪士集団「新撰組」は歴史の舞台に名乗りを上げます。尊王攘夷系の過激派浪士の狼藉に手を焼いていた京都市民は喝采をあげ、新撰組には官からも民からも潤沢な資金が流れ込む。人を殺して報奨金をもらえる構図は基本的に土佐勤皇党武市瑞山と岡田以蔵の関係と相似しているところがミソなのである。市民も新撰組を芝居の赤穂浪士になぞらえてもてはやす。そうなればたちまち増長するのが人の性なのであった。祇園精舎の鐘の音はなかなか耳に届かないものなのだ。
土佐の高知では岡田以蔵が鉄の鎖に縛られていた。しかも両手両足を広げたうつ伏せである。
「以蔵よ・・・いかなるあやしのものといえども鉄のいましめは解けまい・・・その鉄鎖には銀も溶かしてあるからの・・・」
牢獄の中には土佐郷忍びの頭となった岩崎弥太郎が立っていた。
「忍び仲間のお前を責め問いするのは辛いが・・・これも役目じゃ・・・上のものには思惑ちゅうのがあるからの・・・大殿様が関心あるのは・・・幕府への面目というものでの・・・不逞の輩がおこした罪ということで勤皇党の行いを正したいのじゃ・・・ま・・・お前にそんなことを言っても無駄だがな・・・なにしろ・・・お前は何一つ・・・知らんのだからな・・・見ろ・・・ここに訴状がある。お前の知らないことが・・・色々と書いてある。森下衆の隠し目付けはいたるところに張っておるからの・・・すべては筒抜けじゃ・・・そしてこの訴状はお前の自白に基づいて書かれたことになっておるのじゃ・・・驚くじゃろう・・・何一つ知らんお前がいろいろと白状しちゅうわけじゃから・・・だから・・・かわいそうじゃが・・・ちいと泣いてもらわにゃならん・・・拷問に耐えかねて白状したという体裁を整えるためにな・・・」
岩崎は真っ赤に焼けた鉄火箸を取り出した。それを以蔵のむき出しの尻に近づける。
薬のために寝ぼけたような眼差しだった以蔵の目が見開かれる。
「あああああああ」
焦げた臭いが漂いだす牢獄で弥太郎は目を細めた。
「武市先生のかわいがっていたここが・・・こんな風にされて・・・あの方もさぞや・・・お心が傷むだろうて・・・すまんな・・・以蔵・・・しかし・・・もっと泣いてもらわんと・・・」
弥太郎はゆっくりと火箸を以蔵の肛門に差し込んでいく。
「あーっ!」
以蔵の悲痛な叫びは牢獄中に響き渡った。
その頃、伏見寺田屋工兵隊は壬生での屯所増築に出張していた。
忍び大工などで構成された部隊は豊臣秀吉の一夜城を築いた川波衆の流れを組んでいる。前線で戦う兵のための陣地構築がその秘伝であった。
寺田屋お登勢は徳川の安泰で忘れられた技能の伝承者だった。にわかに元亀戦国の香りが強まった幕末においてお登勢は忍び大工を養成し、日本初の工兵隊を組織していたのである。
坂本龍馬は勝海舟の命令で海軍代表としてその作業ぶりを見学に来ていたのだった。
応対したのは新撰組副長の土方歳三だった。
川舟で荷揚げされた資材はすでに処理されて組み立てが迅速に行われる。
その模様を龍馬は関心して眺めていた。
「凄いもんですな・・・小屋が見る見る間に建っちょる・・・」
「ふふふ・・・そうでしょう・・・」かすかに上州なまりのある土方は坂本龍馬の素直な感想に笑顔で応じた。
「あたしらも・・・最初に寺田屋さんの仕事ぶりを見たときにはたまげましたよ・・・ほら・・・あそこに道場があるでしょ・・・あれなんざ・・・半日でできちまった・・・」
「ほう・・・そりゃ・・・たいしたもんじゃの・・・」
龍馬は池田屋に放っていたくのいちから・・・望月亀弥太を斬ったのが・・・この土方歳三であることの報告は受けていた。しかし・・・望月が土佐藩の密偵であることは・・・新撰組の与かり知らぬことである。過激派浪士に化けていて過激派浪士として殺される。それもまた忍びの宿命だった。
そのために龍馬は土方に含むところはない。今はただ忍び大工の手際に魅了されるばかりである。
「なるほどの・・・大砲相手の戦には陣地構築が大切だと言うが・・・このような工兵隊があったら便利じゃのう・・・」
「坂本様も・・・そう思われますか・・・兵を展開するには兵糧の確保が大切ですが、武器弾薬を野ざらしにするわけにはいかない・・・この工兵隊があれば・・・進軍がたやすくなるということです」
「なるほど・・・倉庫も作れば、穴も掘る・・・それに橋なども作れるの・・・」
「さすがは・・・海軍きっての兵法者と噂の高い、坂本様じゃ・・・話が早いねえ」
「おう・・・そう言えばお玉池が池の千葉道場にいた藤堂くんがケガしたそうじゃが・・・大丈夫かの・・・」
「顔をやられましたが・・・命はとりとめました・・・さすがは伊賀の忍びの血を引く奴だと評判ですよ・・・」
「そういえば・・・土方様は軍医だとか・・・」
「ははは・・・見よう見まねですよ・・・薬活の法の真似事で・・・まあ・・・軍医は数が足りないので衛生兵というものを養成したいと思ってます」
「衛生兵とな・・・」
「まあ・・・応急処置ですな・・・とりあえず血止めなどの手当てをして後は医者にまかせるという寸法で・・・」
「なるほど・・・手当ての早い遅いは命にかかわると言いますきにの・・・」
「そういえば坂本様は京都で医者の娘とつきあっているとか・・・」
「いや・・・なんだ・・・妙な縁での・・・ははは」
「ふふふ・・・坂本様も・・・新しい忍び戦の工夫をいろいろとなされていると聞きました」
「おう・・・それじゃ・・・幕府はの・・・西洋列強に対抗するために海軍を作っちょるわけだが・・・それにあわせて江戸では洋式歩兵の養成も始めたそうじゃ・・・いわば陸軍じゃ」
「噂は聞いたことがあります・・・」
「しかしの・・・わしはそれでは不十分じゃち・・・思うておる・・・」
「ほう?」
「海軍はいわば・・・軍艦の軍じゃ・・・しかし、敵地を占領するためには歩兵もいなければならん・・・これが陸軍というわけじゃ。時には海軍は陸軍を運ばねば海の外での戦はできんわけじゃ・・・」
「その通りですな」
「しかし、陸軍が海に慣れておらんとせっかく運んでやっても即座に戦ができんということが想定されるじゃろ?」
「確かに・・・そうですな」
「そこで・・・わしはの・・・外国には海兵隊というものがあると知ったんじゃ・・・」
「ほほう・・・つまり海軍の中の陸軍ということですか」
「そうぜよ・・・土方さんはわかりが早いの・・・」
「いや・・・死んだ芹沢がそのようなことを申していました。新撰組も黒船と戦うときには舟戦も知る必要があるとか・・・」
「ほほう・・・そりゃ・・・なかなかじゃの・・・。酒乱じゃと聞いていたが先見の明はあったんじゃの・・・」
「ああ・・・本当に酒は身を滅ぼすとはあの人のためにあるような言葉でさ」
「そこでじゃ・・・末は・・・海軍とたとえば新撰組が合同で訓練して・・・海兵隊の養成が出来ぬものかと勝先生が言うのじゃが・・・」
土方は龍馬の言葉に新鮮なものを感じた。
「そりゃ・・・なんとも・・・凄い話ですな・・・」
「ええじゃろう・・・来る西洋列強との戦では・・・この戦法は絶対に不可欠じゃと思う。早い話・・・わしが操船する海軍の軍艦に新撰組を載せて・・・まずは敵地を艦砲射撃・・・すかさず新撰組が上陸して急襲をかけるという段取りじゃ・・・」
「こりゃあ・・・胸のすく話だねえ・・・」
「まあ・・・わしには恐ろしい話のようにも思えるがの・・・」
「しかし・・・そうしなければ攘夷なんてできませんでしょうな」
「その通りじゃ・・・」
「あっしはね・・・龍馬様・・・今は都の治安を守るためにきったはったをしていますが・・・いつかはそんなことをしている場合じゃなくなると思うんですよ・・・今の夢のような話を聞いていると・・・なんだか胸のつかえがとれるような気分です」
しかし、お互いが観相術者である龍馬と土方は・・・その未来が幽かな可能性でしかないことがわかっていた。
龍馬は思う・・・新撰組がわが艦に乗ることはないだろう・・・と。
土方は思う・・・龍馬の船に新撰組が乗り込むことはないだろうと・・・と。
しかし・・・二人は知らない。龍馬が艦長になる可能性があった船に土方が乗船することを。しかし、土方はその船に敗残兵として乗り込み・・・龍馬はその頃、陸地で非業の死を遂げるのである。
二人がそれぞれの未来予想に思いをはせる間に、新撰組の隊員の急増にともない増築された隊士舎は池田屋工兵隊によって完成していた。
二人は微笑み、笑顔で別れの挨拶を交わした。
元治元年の夏の陽射しが降り注いでいた。
関連するキッドのブログ『第23話のレビュー』
月曜日に見る予定のテレビ『月の恋人』(フジテレビ)
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皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。
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コメント
今回は龍馬の継母・伊與と
龍馬の亡くなった母・幸を描いてみやした。
来週はお登勢を公開するつもりですが
出来としては我ながらイマイチです(; ̄∀ ̄)ゞ
でもって、これからやってくるであろう
長崎編で登場する人物も描こうとしてるんですが
いきなりドーンと増えてくるのでこれもこれで
困りもんです(; ̄∀ ̄)
でもって今回は
以蔵の拷問シーンをじっくり描いたのが印象的でした。
ここ10年くらい時代劇ではこういうのを描いたのって
見た事がなかったもんで
自分らが小学生の頃
友達と「鞭・縄・ロウソク・三角木馬」と
どれだけ拷問の道具を言えるのか争い
それで日本や世界の拷問の道具などを調べていたもんです
(遠い目)
ですが、ここでの以蔵の拷問は
確実に自主規制が入ること間違いなしですね ̄▽ ̄
投稿: ikasama4 | 2010年6月14日 (月) 23時30分
✥✥✥ピーポ✥✥✥ikasama4様、いらっしゃいませ✥✥✥ピーポ✥✥✥
なるほど・・・病床の幸様だったのですね。
今回のドラマ的にマップ上では
行水で髪を洗っているお登勢様であると
妄想していましたーっ。
ああ・・・長崎編の
お元が待ち遠しい・・・。
萌えまする・・・。
今回は渋い脇役登場も
よろしいですな。
家族あわせの楽しさもありますな。
坂本一家揃いで百点とか。
千葉一家もそろっていてうれしいですなーっ。
土佐ものオールスターで三百点とかもできますなーっ。
・・・どんなゲームなのか・・・。
最近では「必殺仕事人」で
責め問いシーンがあったような気がします。
まあ、あれが時代劇と言えるのならばですが・・・。
前も書きましたが
子供は拷問大好きですからな・・・。
小学生の頃は絵の上手い子は
みんな女子に
磔にされた男の絵を描かされていましたぞ。
その絵に女子は槍を突き刺したり
口元に血のしたたりをかきくわえたり・・・
どんな猟奇的な学級だったんだ・・・。
SとかMとかは
変態ではなく
人間の本質なのかもしれないと
感じることがございます。
まあ・・・以蔵を責める
弥太郎は・・・妄想的には
大変態ですけれども~。 (*´Д`)
投稿: キッド | 2010年6月15日 (火) 03時03分