秘密を愛した社長(阿部寛)
小市民たちの薄汚れうらぶれた日常。
加賀刑事(阿部寛)が暴いていくのはそういう日常に幽かに秘められたロマンスである。
それをロマンスと感じられればこの物語はそこそこ面白いはずだ。
だが、キッドはちっとも面白くありません。
なにかとてつもなく残念な感じが漂っている。
そうだなあ・・・あえて言えば・・・ツッコミのないボケを延々と見せられているというか。
出てくる登場人物が全員とてつもなくみみっちいというか・・・そんな感じ。
もちろん、普通の人々というのはみみっちいものだし、それを淡々と描くことにも問題ない。
しかし、ドラマとしては誰かが「みみっちいなぁ」と囁かなくてはいけないんじゃないか。
どうなんだ。
で、『新参者・第8回』(TBSテレビ100606PM9~)原作・東野圭吾、脚本・牧野圭祐(他)、演出・山室大輔を見た。清瀬直弘(三浦友和)には忘れられないロマンスがあった。それはちょっと悪だった青春時代の恋の勲章。いけないルージュ・マジックの乱れた日々である。直弘はその感傷を胸に秘めてこっそり回想するのが密かな楽しみだった。妻や息子にも語らぬ自分だけの青春の秘密。とにかくその秘密があったから「オレはさ・・・昔・・・泥だらけの純情みたいな赤い青春の日々があったんだぜ・・・」となぜか上から目線で家族を見下ろすことができるのである。
独身時代の直弘(和田正人)はスナックのママ戸紀子(吉井怜)によって童貞を喪失したのであった。薄汚いアパートの一室で酒の臭いをプンプンさせて裸の尻をさらけだしたあの夏の日。
その頃から趣味がいいと言えなかった直弘は50円玉を削り、戸紀子に指輪を作ったりしたのだ。そんな変な指輪・・・一笑に付するのが正しい美的感覚というものだが。
しかし、初めて女を知った直弘は戸紀子に夢中になった。少し、うざくなった戸紀子は魅力的な流れ者と知り合い、姿を消したのだった。
それから、23年。キャバクラとクラブの中間くらいのお値段手頃なバーで直弘は祐里(マイコ)に出逢った。「この女抱けるかもしれないな」と股間を膨らませた直弘は戸紀子の指輪に気がつく。・・・そんな・・・まさか。
直弘「君のママは・・・戸紀子って言うんじゃないか」
祐里「まあ・・・どうしてご存知なの?」
祐里の年齢を聞いた直弘は祐里を自分の娘と確信した。
(そうか・・・あの人はオレのために身を引いて・・・未婚の母の道を歩いたのか)
直弘の股間は萎んだ。戸紀子はすでに他界していた。
直弘は祐里に父親らしいことをしてやりたい気持ちになった。娘がいる父親は男のロマンなのである。だが、家族には内緒にしていたかった。娘を独り占めしたかったし、第一、せっかくの秘密のロマンスが汚れる気がしたからである。
そのせせこましい心情が誤解を招いた。ホステスを秘書にしたと世間は呆れた。愛人秘書と誰もが思った。妻子は家を出る決意をした。しかし・・・その前に夫に質問してみた。
「どうして・・・愛人を秘書にしたの」
夫はついに正直な告白をした。
「あの子は君と知り合う前の恋人の子なんだ・・・」
「なんだ・・・そんなことなら早く言えばいいのに・・・」
「そうだよ・・・父さん・・・姉さんがいるなんて素敵じゃないか」
「・・・お前たち」
「でも、念のため・・・DNA鑑定は受けてね」
「そうそう・・・認知とかするにしてもね・・・形式的な問題だし」
「・・・お前たち」
DNA鑑定の結果、直弘と祐里が親子である確率は限りなくゼロに近かった。
祐里は戸紀子の別の愛人の子供だったのである。
「あなた・・・」
「父さん・・・」
妻と息子は蔑みの目で直弘を見た。その見下ろされながらのいたわりがつらくて直弘はため息をつくのだった。
時々、クラブに戻った祐里の夢を見て股間を膨らませる今日この頃の直弘だった。
当然・・・加賀刑事の出番はなかった。誰も殺されなかったからである。
もうひとつの別の世界はきっとすぐそこにあるのだ。
それほど遠くない・・・けれどけして交わることのない不確定な時空間に。
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ところでSPAMコメントが一日50件を越えたのでしばらく、承認制度に移行します。
皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。
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