悪いことは良いことですか?(小池徹平)
たとえば「勧善懲悪」を描くことは知的とは言えないという考え方がある。
もちろん、知性とは悪に汚れることであるからその考え方は間違っているとは言えない。
だが・・・「万引きなんて大したことではない」と正々堂々と主張するのはあまりにも盗人猛々しいという考え方もある。
善と悪の境界線は実に曖昧なものだ。
「勧善懲悪」の代名詞として「水戸黄門」などの時代劇が指定されるわけだが、その手のドラマでも正義の味方が悪人をバッサリやる傾向は控え目になっている。
つまり・・・絶対的な正義が窒息しかかっているのである。
たとえば・・・日本には多くの在日北朝鮮人もいれば在日韓国人もいる。
そういう人々と日本人が仲良く付き合うことは悪いことではないだろう。
しかし・・・国家をあげて日本人少女を拉致監禁されたり一方的な死亡宣告をしている北朝鮮の場合、そこには常に苦渋がつきまとう。ワールド・カップで北朝鮮代表として出場したJリーガーは少なくともメディアで祖国について語るときにはある程度の配慮が要求されるだろう。
そして、それを報道するメディアの姿勢にも配慮は必要である。
もちろん、誰が好き好んで北朝鮮に生れたいか・・・という問題はさておき・・・人殺しの家族には人殺しの家族としての肩身の狭さがあってしかるべきだからである。
所属する国家の誰かの悪事で若者が苦しむのは哀れであるという考え方もあるが・・・その国家によって苦しめられている同胞がいることを忘れては国家は成り立たないのである。
だが・・・人々はいざとなったら・・・自分以外のあらゆる他人についての出来事は他人事であるし・・・それはきっと善悪ではない。
だから・・・悪いことは良いことだし、良いことは悪いことなのである。
私たちは・・・所詮、そういう世界に生きています。
で、『鉄の骨・第1~3回』(NHK総合100717PM9~)原作・池井戸潤、脚本・西岡琢也、演出・柳川強(他)を見た。土曜日のドラマはどれも悪人を主人公としたドラマを描いている。「ハンマーセッション」は不良生徒の対応に苦慮した学園の校長が指名手配の詐欺師を教師に雇用する話で・・・「万引きしても弁償すればそれでいい」とはっきりとまとめあげるとんでもないドラマだし、「仲間を大切にすれば社会なんかどうなってもいい」と完全に主張しているので独裁国家だったらスタッフ一同死刑になりそうな勢いである。また「美丘」はとりあえず、死病にとりつかれた女が彼女のいる男にちょっかい出しても周囲は暖かく見守るべきだし、病気の娘の母親は自分の子供の幸せしか考えなくて当然だというある意味、強引な反社会性を秘めている。まあ・・・娘の母親(真矢みき)は裏番組の「踊る大捜査線・・・」で「私の体から弾丸を取り出して銃にこめてあいつを射殺して」と恩田刑事に言われるほどのバカな警察官僚を演じていて・・・この役の印象が強すぎて・・・どんな役をやってもなんだか嫌な感じの女になってしまうという役者冥利につきる道を歩いているわけだが・・・今回もきっと・・・ずっと嫌な感じの母親を演じていくのである。なんだか可哀想だな・・・。
そして・・・「ドラゴン桜」で気が弱い上にマイペースなバカを演じた小池徹平もまた・・・また、どうせ気が弱いんだろう・・・そのくせ、マイペースなんだろう・・・その上、ちょっとバカなんだろうといつも思われるのである。
さらに言うと・・・結局、いつもそんな役だ。
今回の平太(小池徹平)もまた、ゼネコン大手の会社員で・・・突然の移動命令で建設現場から土木の営業になり・・・不服を抱きながら上司(陣内孝則)には逆らえない役である。
そのくせ、いつのまにかそれなりにマイペースで仕事をこなしていく。
そして、取引先の大手銀行に勤める彼女・萌(臼田あさみ)が口の上手い上司・園田(宅間孝行)に口説かれてちょっとその気になっているのにまったく気がつかないちょっとしたバカなのである。
まあ・・・そういう役柄をかわいいと感じるスタッフがいる限り・・・彼はそういう役を演じ続けるしかないのな。・・・ちょっといたいけない。
さて、原作者は安達祐美の離婚した夫ではない・・・それは井戸田潤だ・・・っていうか誰も間違えないよ・・・。
慶応大学→三菱銀行→経営コンサルタントと言う経歴を持つ作家である。デビュー作である「果つる底なき」が2000年に渡辺謙主演でドラマ化されていて・・・菅野美穂ファンなら記憶に残っている人も多いだろう・・・どういう記憶の残り方だよ。
とにかく・・・経済としての企業活動をそれなりにリアルに描くことのできる作家なのである。
で、とにかく・・・ここまでの描き方は・・・談合こそが日本的な正義・・・つまり、和をもって貴しとすの具現であった・・・という主張である。
まあ、基本的にどう考えても独占禁止法違反である放送業の独占をしているNHKならではの自由競争への嫌味が臭い立つわけです。
昔は・・・皆様のNHKは公共放送ですと言い張ったわけですが、一連の不祥事を受けての受信料(という名の放送税)不払い運動を受けたり、営利目的の事業を拡大したり・・・でいろいろアレなんで・・・なんとなく・・・最近は合法とは何か・・・という煙幕を張っているようにしか見えないのが実に苦しい立場に立ってるものの悲哀なのですな。
まあ・・・職員一同が多くの国民よりいい暮らしをしている・・・となると・・・失業問題とか、不況問題を取り上げるときにもいろいろ敏感になるのですなーっ。
しかし、現場のスタッフは下請けが多いですから・・・あまり苛めないでくださいという気持ちもあります。
いい加減に脱線をやめないか・・・。
ともかく・・・通称・談合課といわれる平太の職場は・・・大手ゼネコン六社の同業者が秘密の集会を持ち、公共事業の受注を事前に協議して割り振りする「競争入札形骸化」の舞台だったのです。
「談合なんて・・・よくないことじゃないの・・・」
と恋人に批判される平太なのだが、職場に馴染むにつれて・・・不況にあえぐ建設業界がお互いに潰しあうのではなくて・・・協力してワーク・シェアリングするのは必要悪なのではないかと急速に順応していくのである。
もちろん、第三者はそれでは「競争力の強い企業」が生れないと批判する。
しかし・・・平太は思う。戦って生き残ることを望むものは多いだろうが・・・敗れて首を吊ることを望むものはほとんどいないだろうと・・・。
結局・・・談合か競争入札かは・・・平和か戦争かと選択していることにすぎないのである。
本人たちには「平和がいい」に決まっていると平太はその闇に居心地の良さを見出すのだ。
しかし・・・人間の悪は平和を望まない。
「業界再編成」による「利鞘獲得」をもくろむ一部政治家と官僚と企業が結託し・・・「談合破り」を開始する。
その黒幕は談合会のボス・山関組の和泉(金田明夫)である。
最終的に談合会の一谷組と真屋建設を合併させ・・・談合会六社を五社にすることで少ないパイの獲得分を増やそうという目論見も潜んでいる。
このことに反発を感じたのは真屋建設の談合担当・長岡(志賀廣太郎)である。
彼は陰謀により・・・二回続けて談合の約束通りの入札に失敗した一谷組の尾形(陣内)に真相をリークする。
「信じてもらえないかもしれないが・・・私はね・・・今回のやり方は気に入らないんだ」
「長岡の・・・」
「昔の通りに皆さんと話し合いで納得のいく仕事をしたいんですよ」
「・・・うれしいこと言うじゃねえか・・・」
まあ・・・基本的に登場人物は全員、カタギじゃあないと色眼鏡で見ています。
こうして・・・ボスとして仲間を裏切ったことが露見し、つるし上げられる和泉。いやあ、こういう役をやらせたら金田明夫・・・右に出るものいないな。
そして・・・子供の世界ではありえないことのように思えて・・・いや大人の世界ならなおさらに・・・かもしれないが・・・新しいボスに長岡を選んだ談合会に山関組も何事もなかったように参加していくのである。
実に・・・見事なゲームなのである。
いよいよ・・・本題である地下鉄工事の入札を廻り・・・虚々実々のかけひきが繰り広げられていく。
仁義を守り「美しい談合」を続けようとする男たちと、自分たちの利益のためには仲間を食い殺しても「談合破り」を実行に移す仁義なき男たち。そして・・・彼らの道具となって動く検察庁の談合摘発チーム。さらにはトキワ土建の山本(高橋一生)などの枠外の男たちのルール無用の新規参入。
まあ・・・結局・・・正義なんていうものは置かれた立場によって変転するもの・・・という基本を学ぶには最適のドラマなのでないでしょうか。
まあ・・・キッドとしては・・・平太が園田に萌を寝取られないことを祈るばかりである。
だって・・・そんなことされたら平太はきっと泣いちゃうぞ・・・。
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月曜日に見る予定のテレビ『ハンチョウ』(TBSテレビ)『夏の恋は虹色に輝く』(フジテレビ)
ところでSPAMコメントが一日50件を越えたのでしばらく、承認制度に移行します。
皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。
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