スーパー・ナチュラル・ホラーをあなたに(桜庭ななみ)
「毒トマト殺人事件」というお遊びドラマもあるのだが、「スターと遊ぼう!」というコンテンツではなく「スターで遊ぼう!」というコンテンツであり、ある意味、楽屋オチの連打である。スタッフが一番楽しいのでは・・・と思わせるのはエンターティメントとしては三流だと考える。まあ、そういう部分も楽しめたら問題はない。語りだしたらいろいろあるので・・・ドッキリとかドラマのようなものについてはキャリアがあります・・・やめておく。
そういう意味ではスーパーナチュラルホラーというジャンルも諸刃の剣である。
聖アンナと洗礼者ヨハネと聖母子・・・と突然、レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画のタイトルを無意味に挿入すれば文脈は乱れている。
怪談などというものは基本的に意味不明だったり、不可解だったりすることを刺激として楽しむエンターティメントである。
辻褄があわなくてよろしい・・・が前提だ。
つまり・・・そういうことは恐怖であり、不気味であるからだ。
もちろん、超自然の恐怖ではない、ナチュラル・ホラーというものがある。秋葉原の路上や、自動車の工場や、名門小学校に刃物を持った狂人が飛び込んでくるのも充分に恐ろしい。もちろん、それをエンターティメントとして楽しむことは関係者各位に相当な根性が求められるのである。そういう意味で「トリハダ」シリーズは優れたコンテンツなのである。
虚構大事の世界では、現実というフィクションが文学や映像芸術などの表現のフィクションに介入することを基本的に忌避するわけだが、世の中にはそういう本質を理解する知的水準をもたないものが多くいる。
葬式で参列者が爆笑しては不謹慎だというルールもあるらしい。
そういうすべてのおりあいをつけるのがたやすいから・・・虚構の創造者たちはスーパー・ナチュラル・ホラーに夢を托す。
もちろん・・・彼らがあまりにもそれにのめりこむと普通のドラマが作れなくなるおそれがあるので注意してもらいたい。
超自然では許されるなんでもありが・・・自然では許されないのがお約束です。
で、『怪談新耳袋 百物語 第101話~105話』(TBSテレビ100702AM0310~)脚本・大九明子(101話兼監督)、内藤瑛亮(102話兼監督)、篠崎誠(103話・104話兼監督)、藤平絢人(105話)、監督・継田淳(105話)を見た。例によって、BS-iのお下がり(2010年5月放送)である。地上波のほうが放映季節はふさわしい感じになっている。夏にこわい話は美しい日本の季節感である。たとえば・・・こわいものが窓の外にいるのに窓を閉めないで腰を抜かしたり、鍵はあけられる妖怪がドア・チェーンはあけられなかったり・・・辻褄のあわない連打だが・・・スーパーナチュラルホラーなのでなんでもありなのである。そしてこわければそれでいいのだ。こういうドラマである程度評価されてしまうと・・・ナチュラル・ドラマを作るときについうっかりの連打になりやすいのである。まあ・・・それもまた一興なのだが。
「スリッパ」・・・女子高校生が女友達の家にお泊りに行くのは安全な冒険である・・・と誰もが思いやすい・・・少なくとも不慮の妊娠の心配はないはずだ・・・と・・・しかし・・・女友達の家にだって何が潜んでいるのかわかったものではないのである。女友達の父兄が強姦魔かもしれないし、女友達の悪い男友達が徒党を組んで潜んでいるかもしれない。そして時にはこの世ならぬものが・・・。女友達(松山メアリ)の家に遊びにきた室内でスリッパをはくタイプの女(桜庭ななみ)は・・・それなりにウキウキ気分でトモダチの家にお泊りを楽しむのである。女は無地のスリッパを選ぶ。
メアリ「あなた・・・部屋でスリッパをはく人なんだ」
ななみ「そうよ・・・あなたははかないの?」
メアリ「だって・・・無駄だし」
しかし、ななみの行動を柄入りのスリッパが追いかける。トイレのドアり前に、洗面所の入り口にいつのまにか柄入りスリッパがならんでいる。
ななみはそれが不気味だった。
ななみ「なによ・・・嫌がらせのつもり・・・私なんか泊めたくないの」
メアリ「そんな・・・私はただ嫌われたくないの」
機嫌を直したななみはすでにパジャマに着替えていた。
メアリ「ちょっと大きいかな・・・」
ななみ「いいよ・・・もう着ちゃったし」
メアリ「姉のだから・・・」
ななみ「あら・・・あなたお姉さんいたっけ?」
その時、ななみは側らに柄入りのスリッパを発見して恐怖を感じる。
そんなものはそこにはなかった・・・。
ななみ「わ・・・私、帰る」
メアリ「き、嫌いにならないで」
玄関に駈けるななみ・・・しかし、そこにはスリッパが先回りしている。そのスリッパを履こうとする白く幽かな足が見える。
(解説)妖怪屋敷ものである。死んだ姉の幽霊ものである。スリッパのお化けである。孤独な魂の呼ぶ声である。他人には知られたくない家族の話である。
「寺に預けられた理由」女子高生(宮武美桜)が小学生(宮武祭)だった頃の話である。母親と二人で朝食を食べていると二人の女が取っ組み合いをしながら食卓のあるキッチンに乱入してくる。二人はお互いの髪を引きちぎりあうほどの修羅場を演ずる。
娘の目に見えるその恐ろしい光景が母親には見えない。
娘がそれについて話すと母親は何か思い当たったような顔になる。そして娘を連れ出すとお寺でお払いをしてもらうというのだ。
それ以来・・・娘はお寺に住んでいる。
話を聞いていた友人「・・・それでお寺では何があったの?」
女子高生「それは聞かないで・・・」
(解説)新興宗教の恐ろしい勧誘の手口なので注意してください。
「ついてくるもの」夜更けに帰路を急ぐ女子高校生(松山メアリ)・・・母親も帰宅が遅くなるらしく携帯電話に着信がある。
「・・・まだ家じゃないの?」
「もうすぐ着くところ・・・」
「戸締りよろしくね」
「うん・・・」
その時、軍靴の響きが聞こえる。規則正しい行進の音が接近してくる。聞きなれぬ物音に女子高校生は背後をふりかえる。
暗がりに姿を見せたのは怪しい影・・・。
「・・・あひる?」
しかし、それはのたうちまわる傷痍軍人だった。
「何、何なの?」
行進しているのは傷病兵の群れである。あまりの恐ろしさに女子高校生は走って家に帰る。しかし、町内を行進する軍靴の響きはしだいに彼女の家に接近してくるのだ。
「い、嫌・・・」
二階の窓からそっと覗くと包帯だらけの傷病兵と目があってしまう。発見された恐怖に腰がぬけるメアリ。
ふと気がつくと室内は血まみれの傷病兵で満ち溢れている。
彼らはフレッシュなメアリの身体を求めているらしい。その差し伸ばされた手がそっとメアリの首筋にふれる。手にふれる。足にふれる。
メアリは失神寸前である。
(解説)平和な生活は戦争の犠牲者の死体の上に成立している。人類百万年の歴史を考えれば人の死んでいない場所など地上のどこにもないのである。
「扉のむこう」お留守番をすることになったななみと祭の年の離れた姉妹。妹はまだ子供で玄関チャイムがなると相手を確かめずに出てしまうような幼さがある。
姉のななみは妹の祭をたしなめるがドアの外は無人だった。
ドアに鍵をかけ、床についたななみを真夜中に祭がおこす。
祭「あのね・・・トイレなの」
ななみ「子供じゃないんだから・・・」
祭「・・・まだ子供だもん」
仕方なく・・・玄関横のトイレに付き合うななみ。その時、玄関の鍵がカチャリと解けて・・・黒い男が侵入してくる。トイレのななみは姉の絶叫を聞く。
祭「お、お姉ちゃん」
ななみ「だめ・・・出てきちゃ・・・」
やがて、トイレのドアが粉砕され・・・男が侵入してくる。
絶叫で目を覚ましたななみ・・・妹は泣いている。
祭「こわい・・・夢を見たの」
同じ夢を見ていたななみはあわてて・・・玄関に行き、ドアにチェーンをかける。
夢と同じように鍵が解かれ・・・ドアは開きかけるがドア・チェーンは切断されない。
ドアの外で黒い男がつぶやく。
「あれ・・・夢と違うじゃないか・・・」
(解説)ナチュラル・ホラーとスーパー・ナチュラル・ホラーの融合である。この方がこわさを感じる人も多い。黒い男は白昼すでに合鍵を手にいれた変態色魔であるとも考えられる。しかし、ドア・チェーンを切る一手間を惜しむ小心者である。超自然は姉妹を毒牙から救った夢のお告げである。おそらく、神に愛された姉妹なのである。
「赤塗り」夜更けに友人(高杉彩良)の家を訪ねる宮武美桜・・・。マンションの玄関で友人に到着を告げると友人は「504号室・・・階段は使ってきて・・・」と応じる。
階段は面倒くさいと忠告を無視してエレベーターを利用する美桜(あかりちゃん)だった。
しかし・・・エレベーターはなぜか四階で停止。
黒い手に赤い爪のおそろしいものが現れる。
思わず、折りたたみ傘で「それ」を攻撃するあかりちゃん。すると、赤い爪がポロリと落ちた。
エレベーターを脱出し、階段で命からがら友人の部屋にたどりついたあかりちゃん。
しかし・・・友人は・・・。
「エレベーターを使ってしまったのね・・・」
「なんで・・・わかるのよ」
「だって・・・その手・・・」
あかりちゃんの手の爪はいつの間にか真っ赤に塗られていたのである。
(解説)マニキュアは信頼性のある専門店で塗るのが一番。一生落ちなかったら困りますから。
(総論)「扉のむこう」の敵から幼い妹を守ってトイレの前に佇み、玄関ドアに立ちふさがるななみの横顔と後姿。その勇姿が目に焼きついた人は男性として正常に機能しています。
関連するキッドのブログ『怪談耳袋・劇場版』
『トリハダ』
『恋して悪魔』
土曜日に見る予定のテレビ『臼田あさみの鉄の骨』(NHK総合)
ところでSPAMコメントが一日50件を越えたのでしばらく、承認制度に移行します。
皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。
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