末は単騎の泣き別れじゃき・・・(坂本龍馬)
麻雀の手役は基本的に14枚の組合せで作られる。
世の中の人で麻雀を知らない人が増えているのか減っているのかは不確かだが・・・少なくとも知らない人は多いと思われる。
三枚一組のものが四組で12枚。これに俗に「アタマ」と言われる二枚一組が加わり14枚になる。
手持ちの稗は13枚で、山から持ってくるか、相手が捨てた稗を加えて14枚を完成させる。
多くの場合、三枚一組のうちのどれかが・・・二枚になっていて・・・残り一枚を待つわけだが、時にはアタマを待つ場合がある。
これを単騎待ちというのだ。気分的には単騎待ちは・・・待ち合わせで最後の一人を待つようでもあり・・・待っている一枚の気分になると・・・恋人を待っているようでもある。
ただ・・・一枚を待っていると・・・対戦相手も同じ単騎待ちをしている場合がある。
この場合・・・二人は出会うことができない。
薩長同盟には二人の重要なパーツがある。それは薩摩と組む坂本龍馬と・・・長州と組む中岡慎太郎という二人の土佐脱藩浪士である。
二人が親友だったから・・・回天の時がやってきたという考えもある。
どちらかといえば坂本龍馬が主で中岡が従と考えるのが一般的だが・・・チームワークだけに謎も残る。
少なくとも天才・坂本龍馬を中岡がよく理解していたことは間違いないだろう。
二人は歴史的な役割を果たし・・・そして退場していく。
何かを成し遂げようと・・・成し遂げなかろうと・・・誰もが単騎の泣き別れをしていくものだ・・・という考え方もあるが・・・二人の宿命を劇的と考えた方が人生は面白い。
で、『龍馬伝・第30回』(NHK総合100725PM8~)脚本・福田靖、演出・渡辺一貴を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は迫力満点・高杉晋作描き下ろしイラスト第二弾。さらに、もう一人の不死身の男、池内蔵太のうぬぼれ太描き下ろし、さらには妖艶大浦慶の描き下ろしの出血大サービスでお得でございます。熱気渦巻く国際都市・長崎でも外事警察は協力者に謝礼を欠かしませんな。歴史の激流が渦巻く中・・・無名の若者たちが世界に挑んでいく・・・。誰もが必死です。しかし、その中で亀山社中一行は特に無力。躍り出るためにはまず、実力者に利用されなければならない。相手の思う壺にはまりながら・・・自分の意思を実現させていく。これはもう魔術使いのなせる技でございますね。もちろん・・・持って生れた人間的魅力や・・・それまでの努力を抜きでも語れませんが・・・これからの三年間・・・龍馬ほど必死だった人間はいなかったのではないかというのがファンの気持ち。高杉が・・・西郷が・・・さもあらんという感じで存在感を示せば示すほど・・・後は勇気だけ・・・という無手勝流の龍馬のせつなさが胸にせまりますな・・・。すべての場面で坂本龍馬の歯軋りが聞こえるほどの今回でございました。
慶応元年(1865年)夏・・・国内に一応の安定を見た幕府は西欧列強各国との条約締結の交渉を開始する。安政に結ばれたいわゆる不平等条約の改正を目指した幕府だったが結局はその総仕上げを行ったという結末を迎えるのである。将軍後見人の一橋慶喜は公家実力者との交渉でついに朝廷から条約についての勅許を得るがそれは不平等条約を公にするという歴史的には非情に不名誉な結果を残す。その核ととなるのが従量税方式である。これは税額の決定に日本の役人が関与できる従価税よりも列強に有利な税方式なのである。ある程度品物に対する定額税の色彩が強まり、物価が上昇するものである以上、本来得られる税収入は目減りし、日本側は自動的に損をする仕組みである。対日交渉の主導権を握った英国はこの方式で清国を貪りつくした実績がある。一方、税制度では英国に主導権を握らせたフランスは幕府の役人を直接支配することでさらなる実利を狙っていた。国家の役人をコントロールして自国の有利を作り出すことも彼らの常套手段である。着々と徳川幕府に対する支配力を高めるフランスを英国は冷徹に観察していた。
薩英戦争、馬関戦争で薩摩と長州という雄藩と実戦した英国は両藩の実力を分析し、両藩との関係を密にしていた。フランスと幕府の連携を静観しつつ、次の一手を着実に布石するところが・・・陽の沈まぬ帝国の抜け目のなさだった。
英国公使はフランスと同様に幕府と交渉しつつ、民間の貿易商たちに反幕府勢力の助長を促していたのである。作戦を指揮するのは表向きは死の商人、しかし、実際は英国諜報部の極東支配人グラバーだった。
幕府が正式に認める貿易港・長崎では正規な取引をし、すでに密貿易港と化している下関ではありとあらゆる不法な取引を行う。それがグラバーの光と影である。
長崎から一艘の手漕ぎ舟が沖合いに進んでいた。乗り込んでいるのは坂本龍馬と池内蔵太、陸奥宗光、そしてお元だった。舟を漕ぐのはお元配下の忍び水夫である。
沖合いには帆船、蒸気船など多くの船舶が錨をおろして停泊している。
そのうちの中型の商船に龍馬たちは向かっていた。
豪商・大浦屋の所有する外洋帆船・佐用丸である。
「立派な船じゃのう・・・」
船を持たない船乗りである龍馬はうらやましげな視線を佐用丸に送る。
「香港製の帆船じゃ・・・蒸気船ではないけれど最新鋭のものばってん」
長崎の公儀隠密の元締めであるくのいち・お元はさりげなく解説する。
「商人がこげな船を自前でもっちょるとは・・・さすがは長崎じゃき」
「大浦屋は・・・元を質せば松浦の海賊衆じゃけん」
「なるほどの・・・松浦水軍はここで生きちょったのか・・・」
船上に待っていたのは商人の女将というよりは女海賊と言った方が相応しい洋服を着込んだ大浦お慶だった。
「お待ちしていました・・・坂本様・・・」
「これはまた・・・別嬪じゃのう」と目を輝かせる龍馬の尻をお元はつねりあげた。
「あ、いたたた・・・く、くのいちが悋気をするとは心得ちがいちゅうもんじゃ」
「本当に、坂本様はいけずなお方・・・」
「ふふふ・・・仲がよろしいこと・・・土佐一の女たらしとは聞いておりましたがさすがは坂本様でございます」
「わしの評判は・・・どうもならんの」
その時、すでに佐用丸は錨をあげ、帆は風をはらんでいた。
順風を得て、佐用丸は海原を走り出す。
「どこへ・・・行くのじゃ・・・」
「ふふふ・・・他国ものを案内するのははじめての場所・・・松浦党の隠れ島でございます」
龍馬は陽射しを浴びて輝く海面に目を転じた。
「そりゃ・・・面白いことじゃ・・・」
その頃、京都二条城地下の秘密の実験室では西洋ランプに照らされて白衣のものたちがうごめいていた。
一人が声をあげる。
「お・・・脈が戻ったぞ・・・」
「なんと・・・恐ろしい・・・」
その声に佐久間象山だったものは目を開いた。
「・・・ここは・・・」
「ふふふ・・・目覚めたか・・・」
「お・・・あなた様は・・・一橋公・・・」
寝台に横たわる佐久間象山を見下ろしているのは慶喜だった。
「いかにも・・・そちの科学忍法を試させてもらったわ・・・そちの体でな・・・」
「すると・・・私はよみがえり・・・しかし・・・私の反魂の法は未完成だったはず・・・」
「ふふふ・・・すべては組合せよ・・・そちのからくりと・・・わしの闇の血が結合して・・・死せるものを復活させたのだわ・・・」
「それにしても・・・奇妙でございます・・・私が私でないような・・・」
「ふふふ・・・頭は確かに佐久間象山だが・・・体は禁門での戦で出来た死体を寄せ集めたものじゃからの・・・」
「すると・・・私は・・・」
「そうじゃ・・・御主は日の本最初の人造人間ということよ・・・」
「なぜ・・・私を・・・」
「これからは戦の世が始まるのじゃ・・・しかし、もはや、兵どもが・・・将の指図に従うとは限らなくなっておる。長州がいい例じゃ・・・下層民どもが謀反しおって・・・革命じゃ、独立じゃなどとほざきおる・・・わしはの・・・わしの命令に背かぬ軍団が欲しいのじゃ・・・真の旗本軍がの・・・」
「そ・・・それは」
「佐久間、そちが作り出すのじゃ・・・わしのための怪物兵団をな・・・」
暗い地下室の中で慶喜の目は赤く輝くのだった。
佐久間は寒気を憶えたが・・・体温はほとんどなく・・・おそらく現世の名残による錯覚だったのだろうと冷静に考えた。
佐用丸はいくつかの小島が浮かぶ海域に達していた。
その島影から一隻の黒船が姿を見せた。
「おお・・・」
「あれでございます・・・あれが・・・ヴァンパイアの幽霊船ばってん」
それはフランスの蒸気船「フェニックス(不死鳥)号」の成れの果てである。東洋への回航中に吸血鬼に汚染され、指揮系統を失い、漂流しながら、この海域に達したのだった。
船影を見つめる水夫たちに怯えが走る。
「下手に近付くと餌食になりますし・・・その上、時々、発砲してきます」
「なるほど・・・知性は失ったが・・・船としての戦闘力は健在というわけか・・・」
「坂本様は・・・吸血鬼退治の秘策をお持ちと・・・お元に伺いました・・・」
「うむ・・・」
頷くと龍馬は陸奥を見た。陸奥は青白い顔をお慶にむける。
「それで・・・あの不浄のものどもを退治すれば・・・あの船を整備してくださるということですな」
「いかにも・・・われらが根拠地に近づけぬのでは・・・密貿易もままならぬので」
お慶は微笑んだ。
「いかがでしょう・・・お引き受けくださいますか」
「もちろん・・・こちらとしては渡りに船・・・それに・・・このお元は・・・細川ガラシャにつながるお方・・・世が世なら主筋になる方じゃき・・・その頼みとなれば聞かぬわけにはいかんのじゃ・・・」
今度はお元が微笑んだ。龍馬が遠祖を明智光秀の従兄弟満春に持つようにお元は明智玉子の血脈に連なっていた。明智謀反の際に一時的に細川家を離縁されている間に玉子が長崎の地で生んだ子の血筋である。明智光秀に連なる一族の末裔なのだ。
「なるほど・・・じゃけん、お元殿は筋金入りの切支丹たいね・・・それで・・・どのように」
「わしら・・・四人で乗り込むき・・・」
「四人で・・・」
呆れるお慶を残し再び、龍馬たちは上陸用ボートに乗り移り・・・幽霊船へと近付いた。
突然、幽霊船から砲声が響く。
ボートと佐用丸の中間に水柱があがる。
「こりゃ・・・たまらんな」
「龍馬・・・人生はのるか・・・そるかじゃ・・・」
池内蔵太が凄みのある笑顔をみせる。
「まあ・・・御主は不死身じゃが・・・わしとお元はこの中では一番、生身じゃき・・・」
龍馬は口をすぼめて言葉を返した。池内蔵太は長く長州勢と行動を共にし、負傷をして大出血した際に井上聞多から輸血を受けていた。それ以来、不死身の体となったのである。
やがて・・・龍馬たちのボートは幽霊船にたどりつく・・・。
「それ・・・一暴れじゃ・・・この一戦に勝てば・・・この船が手に入るきにの」
やがて、日中も活動できるタイプのヴァンパイアが甲板に現れる。その前で陸奥はリストカットをするのだった。
「さあ・・・ごちそうや・・・こっちの血はあまいで・・・」
吸血鬼対毒性「お貞の呪い」を持つ生物兵器・陸奥宗光は微笑んだ。
龍馬は抜刀し・・・お元は伊賀十字手裏剣を構えるのだった。
池内蔵太には井上聞多の上海みやげの二丁拳銃がある。
いかに吸血鬼対毒性を持つ陸奥も致命傷を負っては命がない。龍馬たちは陸奥を護衛しつつ・・・陸奥の血を吸って吸血鬼が土に帰るのを手伝うのだった。
龍馬は北辰一刀流の腕を奪い、ヴァンパイアの戦闘力を奪うのである。
そこへ陸奥が己の血を注ぐ。
たちまち蒸発するあわれな吸血鬼たち。
お元はイエズスの祈りを奉げる。
内蔵太はぶっ放した。
根気のいる作業だったが・・・やがて・・・船倉に眠る吸血鬼たちも塵となって消失した。
浄化されたフェニックス号のメイン・ポールに「亀山社中旗」が翻る。
「城じゃ・・・亀山社中に浮かぶ鉄の城が出来た」
龍馬は思わず叫んだ。
「戦船土佐号じゃ・・・」と池内蔵太。
「いや・・・ここは戦船紀州号やないと・・・半分はわての血で贖ったようなもんやし」
大量失血でさらに蒼白となった陸奥がニヤリと笑う。
関連するキッドのブログ『第29話のレビュー』
火曜日に見る予定のテレビ『ジョーカー許されざる捜査官』『逃亡弁護士』(フジテレビ)『天使のわけまえ』(NHK総合)『土俵ガール!』(TBSテレビ)
ところでSPAMコメントが一日50件を越えたのでしばらく、承認制度に移行します。
皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。
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コメント
初っ端から高杉さんが見せてくれましたねぇ。
佇んでいるだけで異彩を放っていますねぇ。
予想以上の存在感。
これだったら再来年の大河の主人公は
高杉晋作にしてキャスティングもほぼ、そのままにしたんで
いいんじゃないのと思うんですが
そうなると玄人ウケはよくても
数字的にはちと厳しいかもしれんですねぇ。
それにつけても外事警察の面々が土佐のみならず
宇和島、長崎、薩摩と出てますからねぇ。
誰が敵で誰が味方なのか
その時々の状況で変わっていく
そして龍馬の叫びに時代が動く
これがこの作品の醍醐味なんでしょうねぇ。
逆にこういう必死さが
議員さんからは伝わってこないのですが
それは元々そういう熱意がないのか
それともテレビに携わる方が意図的に
編集してからなのかはよう分からんとこです。
そしてお元が実にいいですねぇ。
売れっ子の芸者であり
幕府の密偵であり
隠れキリスタンであるという三つの顔を持つ女性
こういうミステリアスな雰囲気を持つ女性に
男性は弱いもんです。
でもって、長崎・江戸・土佐・京と
各地に妻がいる龍馬が羨ましいと思った今日この頃です ̄▽ ̄ゞ
投稿: ikasama4 | 2010年7月27日 (火) 00時07分
✥✥✥ピーポ✥✥✥ikasama4様、いらっしゃいませ✥✥✥ピーポ✥✥✥
画伯のお部屋の外装が
四大女優共演になっており
実に華々しいですな。
トレビアン!
一方、高杉晋作ファン熱狂の
かっこいい高杉大全集。
まだ喀血していないのに
この人気ですからなーっ。
高杉、沖田、陸奥の幕末三大喀血王子の
活躍はうらやましい限りです。
一方、坂本龍馬は思わぬ不人気。
司馬遼太郎が描きあげた部分を
除くと
わかりにくい天才っぷりが
仇なのでございます。
リアルに描いていくと
本当に理解されにくい男だったわけで
妙に納得できるところが
また龍馬愛好家の心に
塩をすりこむのですな。
皆様、へらへらしてるとか
行動が見えないとか
ものすごく・・・率直な感想で
斬殺です。
しかし・・・かめばかむほど
味が出るのが龍馬の魅力ですからな。
京都が陰湿な藤原氏の魔都ならば
長崎は面妖な異国人の集う魔都・・・。
お元とお龍の比較だけでも
一晩語り明かせるほどの
充実ぶりなのに
お茶の間にはあまり伝わらない・・・
そこが痺れるポイントです。
さりげなくちりばめられた
外事警察の面々が・・・
国際政治の不気味さを
醸し出してますよねえ。
異国人の教会建設を認可しながら
隠れ切支丹を取り締まる
幕府の矛盾もさりげなくアピール。
このあたり・・・
テロリストを国賓あつかいしたり
米韓合同演習に観察官を派遣したり
戦略的互恵関係を口にしつつ
米中の板ばさみになったり
その場その場で
逃げ続けるしかない
弱き国であることは
もはや宿命のようです。
そうでありながら平均寿命が延び続け
いい年した老婆が
沢登りにチャレンジしたり
氷河特急に乗ったりして
それなりにエンジョイしている我が国。
ハッピーなのか・・・とふと思います。
ええじゃないか
ええじゃないか
ええじゃないかと
祭りが近付く季節。
龍馬の心は
「何がええんじゃあ・・・何がええというがじゃあ」
と苦渋に満ちていますが
それを表にも出せないのがまた苦しいわけで
ずっと歴史から置き去りにされたままでなくて
よかったと思うばかり・・・。
このドラマもまた「あの日」がくれば
ああ・・・なんて人を殺してしまったんだ・・・
と誰もが思うわけですが
そこまでは登場人物一同が
「まったく・・・龍馬なんてものは・・・」
と否定するのが龍馬ドラマの基本ですからねえ。
実にお茶の間向きではない・・・と
キッドは坂本龍馬を主人公にしたドラマを
見る度に思う次第でございます。
まあ・・・とにかく・・・各地で
モテモテでよかった・・・と思うしかないのですな。
そしてモテモテでなかった人々が
どれだけ龍馬を憎んで
あることないことで誹謗中傷したかということを・・・。
投稿: キッド | 2010年7月27日 (火) 10時15分