迷宮入りのアンドローラ膝小僧感じる?(小泉今日子)刑事物語マラカスの詩(長瀬智也)
コネタ系で言うと武田鉄矢演じる片山刑事を主人公とした映画「刑事物語」シリーズ(1983年~)に「刑事物語2りんごの詩」とか「刑事物語3潮騒の詩」などがある。フーテンの寅さんテイストで・・・毎回、片山刑事が事件を解決して失恋というお約束になっている。
金曜日の作家たちは元ネタがわからないようなことばかりをして遊んでいるわけである。
そういう意味で1982年に犯行があり、時効直前の1997年に犯人が逮捕された松山ホステス殺害事件の加害者である福田和子の名前も・・・彼女が2003年に服役中に病死したことも知らない人も意外にいるかもしれないのである。
何を知っていて何を知らないか・・・そういう「知識の共有性」というのは予想外に成立しないということを自覚している人は多かったり少なかったりするのである。
「日本人は韓国の歴史問題について無知だ」などという馬鹿な知識人がいるわけだが、「知」というものについてもう少し認識してもらいたいものだ。
ドラマの中で、主人公のうぬぼれ(長瀬)が2010年4月から「死刑に当たる罪について公訴時効が廃止された」ことを刑事のくせに知らないことを先輩の町田刑事(小松和重)は驚くわけだが、そういう人は多いかもしれないし、場合によっては「殺人事件にかって時効があったこと」を知らない人もいるかもしれないし、「時効」がなんなのかを知らない人だっているだろう。
知には誰が何を知っていて、誰が何を知らないか・・・という知も存在するし、それを面白おかしく思う知もあるのだな。
そして・・・ほとんどの物事は知れば知るほど面白いのが普通なのである。そこに立っているだけで涙が出るほどかわいかった80年代のキョンキョンを知っていればこのドラマがより面白いのが知というものなのだ。
そして知とは基本的に移ろうものだ・・・知ったことを忘れるのが人間というものだから。
で、『うぬぼれ刑事 マラカスの詩(第7回)』(TBSテレビ100820PM10~)脚本・宮藤官九郎、演出・土井裕泰を見た。心はお天気で変わるし、六本木は広すぎるのである。そして言葉だけでは愛は伝わらず、男らしさを立てないとうぬぼれと呼ばれるのである。1984年にアン・ルイスが唄ってからもう26年も経過しているのだな。しかし、夜の蝶がカラオケで歌う歌としてはミラーボールが回るほどに馴染んでいるのである。
ちょっと前なら時効寸前だった殺人事件からタイムリミットが消え・・・果たして終らない夏休みに夏休みの宿題が終るのかどうか・・・刑事たちの怠惰な気持ちが疑われる今日この頃なのである。
凶悪なすっぴんメイクの「世田谷区医師殺害事件」の容疑者・福原直美(小泉今日子)指名手配写真にちょっとピンとくる世田谷通り警察署の現在のエースうぬぼれ。かってのエースである町田警部は・・・「重大犯罪の時効がなくなったこと」を失念している後輩を諭すのだった。二人のエースが存在していることを失念するとオチが効かないので注意が必要です。
うぬぼれたちが集ううぬぼれ酒場では・・・自分に惚れているしかない・・・異性に愛されない男たちが週末を過ごしていた。うぬぼれ仲間のいるその空間はあまりにも居心地がいいために時を忘れさせる。そのために彼らは30時間もそこで飲み続けていた。今回のスポットライト・レギュラーである栗橋教授(坂東三津五郎)は70杯のマティーニを飲み、バーテンダーのゴロー(少路勇介)の足は棒になっていた。
そこへ真っ赤なドレスの怪盗ルビイ・・・ではなく、謎の女・板倉里奈(小泉)が現れるのだった。里奈は栗橋の短大の平成元年の卒業生だと名乗り・・・栗橋は記憶にはないが話をあわせる。なにしろ・・・22年前の話である。
里奈はウォッカ・トニックを飲み、上機嫌で穴井(矢作兼)のつまらないギャグも大受けの笑い上戸。
やがて、氷ぬきのウオッカ・トニックを飲む頃には不機嫌で「どうせ、私のこと嫌いなんでしょう」と言いながら氷のような辛辣さでうぬぼれた心を打ち砕く説教上戸。
そして、トニックぬきのウオッカ・トニックを飲んだあとには眉間にしわを寄せるのだった。
酒を飲み始める前に嗅いだ里奈の香水の匂いに心を奪われたうぬぼれは・・・苦悩を浮かばせる里奈の眉間に惚れたのだった。
しかし・・・そのしわは・・・実は飲みすぎて嘔吐の前兆だった。
だが・・・お茶の間はもちろんのこと、うぬぼれの周囲の全員が・・・里奈が犯罪者であることを知っていた。なにしろ・・・うぬぼれが惚れてしまったからである。
そんなことはうぬぼれの父親・葉造(西田敏行)に伺いをたてるまでもなく明らかなのである。
冴木刑事(荒川良々)とうぬぼれは直美の足取りを追っていた。全国津々浦々を顔見世巡業さながらに渡り歩く・・・直美。
「まるで・・・捕まえてほしいと言ってるみたいだ」とうぬぼれは感じる。
報道されている事件のあらましは・・・再現ドラマとして語られる。
殺された医師は安藤和馬(坂東・妄想キャスト)・・・里奈(小泉)は安藤家のメイドで安藤の妻・サツキ(森下愛子・妄想キャスト)の目を盗んで不倫関係にあった。妻の留守中に二人は「かっけ診断プレー」で「うふん、あはん、そこはだめ」とエロスの世界を展開する。クドカンはキョンキョンのツボを憎いほど心得ているのである。いや、別に膝小僧が性感帯という話をしているわけではありません。
恐ろしいほどのかわいさを持ちながら・・・どこか知性的・・・そんな矛盾した存在感こそ・・・女優・小泉今日子の持ち味なのである。
これに・・・不幸な境遇が加われば鬼に金棒なのである。
そして、同時にサルのキグルミが史上最高に似合うアイドルなのでござった。
妻が歌舞伎の夜の部ではなく昼の部を見に行ったことから、不倫が発覚、ヒマを出された里奈は恨んで安藤を絞殺するに至った・・・。
やがて、逃亡生活を続ける里奈は15年間、警察の追及を逃れ居場所を転々と移って過ごした。
その途中では捜査中の刑事(生田斗真・妄想キャスト)が里奈(遠山景織子・妄想キャスト)に捜査情報をもらし、逃亡を手助けする不祥事がすでに発生していた。小泉今日子がヒロインの「マンハッタンラブストーリー」では劇中ドラマで軽井沢夫人を演じるのが遠山で、そのドラマの脚本家が森下である。ちなみにダンサー役で及川光博が登場するが・・・彼は伝えたいことをダンスで表現するという役柄だった。
今回、うぬぼれと里奈=直美が踊りだすシーンはそのことを思い出すとさらにニヤリ感が増します。
一方、事件当初から捜査に携わる町田と被害者の安藤家を訪問したうぬぼれは・・・被害者・和馬(村松利史)の妻・サツキ(木野花)が余命いくばくもないことを知る。そして・・・町田が仄かにサツキを慕っていることを感じると同時に・・・サツキの匂いが里奈と同じ匂いであることに気がつくのである。
そして・・・サツキが犯人の逮捕を望んでいない様子であることにも気がつくのだった。
捕まりたい様な犯人。
犯人が捕まってほしくない様な被害者遺族。
うぬぼれの中に巣食う漠然とした不安。
それを打ち消すようにうぬぼれを唆す里恵(中島美嘉)だった。
「久しぶりに言うけど・・・君を好きにならない女なんていないよ・・・」
うぬぼれのうぬぼれは沸騰するのだった。
そして・・・原点に戻るかのように埠頭に戻る刑事と・・・容疑者。
「もうすぐ・・・時効になってしまう・・・だから私を逮捕して・・・」
「いいえ・・・時効はもうないのです」
「ええーっ」である。
真相などというものはすべて闇の中である。しかし・・・床掃除をすれば四つん這いのお仕着せのスカートの中身が極めてエロスなメイドの直美は次のように語るのだった。
「安藤のお屋敷はとてもステキな場所で・・・安藤の旦那様を愛することはメイドとして当然の奉仕活動だったのです・・・旦那様は不義密通の秘密を隠すために私に奥様と同じ香水を贈ってくださいました。私はそれで奥様の目を盗み、旦那様と秘密の関係を続けることを安心して行うことができたのでした。しかし、奥様はすべてお見通しだったのです。奥様は旦那様を愛していて、私も旦那様を愛していて、旦那様は奥様を妻として、私を愛人として愛している。そういう円満な三角関係でございました。もちろん、そういう関係を不純だとか、私が性的奴隷に甘んじているとか批判する方々もおありでしょうが・・・愛の形にルールなどはないということをお知りになっていないだけなのです。やがて・・・奥様が私と旦那様の関係をなぜお許しくださったのか・・・私が知る日がやってきました。旦那様は末期のガンで・・・余命はいくばくもない。そして・・・旦那様は愛するものの手にかかって死ぬことを強くお望みなのでした。奥様にはわかっていたのです。旦那様が私の手にかかって死にたいと望んでいることを。大恩のある奥様とお慕い申し上げる旦那様のたっての望みをどうして断れるでしょう。むしろ、私は喜んで旦那様のお命をお奪いもうしあげたのでございます。私の手の中で喜びに震えて断末魔をお迎えになった旦那様、そして涙を流して感謝してくださった奥様・・・私は幸福感を感じると同時に・・・自分の犯した罪の重さに震えたのです。奥様は私に逃走資金を援助してくださり、そして奥様に好意を寄せる町田刑事から捜査情報を聞きだし、逐一、私に報告してくださいました。ご夫婦のために逃亡生活を送る私の身を案じて、時効が来たら二人でゆっくり旅にでましょう・・・と奥様は口癖のように言ってくださいました。それも夢のように楽しみでしたが・・・罪を犯した私は人としてその償いをしたい思いが日に日に増していったのです。同時に愛する旦那様と優しい奥様と私の愛について誰かに知っておいてもらいたい・・・そういうえもいわれぬ気持ちもともにわきあがり・・・私の心は乱れたのです・・・ウオッカ飲むかマラカス振るかせずにはいられないほどに・・・私は・・・楽になりたかったのです・・・町田さん」
うぬぼれは直美に「サツキに心を奪われた世田谷通り警察署のかってのエース・町田刑事」だと思われていたのである。
では・・・直美は町田刑事のことをどう思っていたのだろうか。もちろん、サツキが町田を憎からず思っていた以上・・・直美もそれに準じた気持ちを抱いていたのだろう。メイドたるもの・・・夫人の好みに沿うのが務めだからである。
こうして・・・わからない人にはまったくわからないように思える・・・円満な三角関係と・・・うぬぼれの失恋は同時に成立したのだった。
とにかく・・・ここまで異常な愛を淡々と表現する小泉今日子・・・類稀な努力家だな。
そして・・・うぬぼれを讃えるヘイヘイヘイの歌が今夜も聞こえてくるのだった。
関連するキッドのブログ『第6話のレビュー』
日曜日に見る予定のテレビ『龍馬伝』(NHK総合)『多部未華子のGM・踊れドクター』(TBSテレビ)
ところでSPAMコメントが一日50件を越えたのでしばらく、承認制度に移行します。
皆様には不自由とご迷惑をおかけして本当に申し訳アリマセン。
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コメント
キッドさんが書き記してくれた埠頭で語る事件の真相、ダンスとあいまってこれだけでも十分に満足でしたが、元エース 町田さんのオチが待っていたとは!知識量がほとんどない私でも十分にこのドラマ堪能できました。
町田さんの気持ちを想像したり・・アイドル キョンキョンがいつのまにか こんなすごい女優さんになっていたとは
本当に味わい深いドラマです。
視聴率が納得いきませんが、キッドさんのブログがあるからいいや!
ひとつひとつの事件と並行して大きなドラマが、この先待っていそうな感じですね。ますます楽しみです。
投稿: chiru | 2010年8月21日 (土) 12時07分
暖かい応援ありがとうございます。
列島は猛暑が続いていますが
水分補給をお忘れなきよう
お願い申し上げます。
スタジオの片隅で
ひっそりと文庫本を
読んでいる・・・。
そんな小顔のアイドルだったキョンキョン。
「学校に行ってないので本でも読まないと不安になる」
キッドがアイドルに
そっと本をプレゼントするようになったのは
そんな彼女に学んだからなのです。
小泉今日子は今では新聞に
書評を書くほどのタレントになったわけですから
努力の成果というものは麗しいものでございます。
よく天は二物を与えずといいますが
それは生死とか男女とか
そういう大雑把なもので
才能に関しては不公平だったりする・・・という
考え方もあります。
しかし、今回の直美を演じるキョンキョンを
見れば
才能あってよかったと思うしかありませんな。
素晴らしいものを素晴らしいと感じることも
人生の素晴らしさですからねえ。
演劇人がドラマに関ると
かゆいところに手が届かない感じになることが
多いのですが
クドカンの場合は「う~ん、そこそこ」の連続。
まあ・・・夏の金曜日の視聴率は
いつもこんなもんですから。
泣く子とジブリには勝てない・・・のですな。
クドカンドラマは基本的に
回が進めば進むほど
深く広く世界が広がっていく。
いよいよ、ここからが佳境でございます。
投稿: キッド | 2010年8月22日 (日) 00時42分
暑い日が続きますね。アイスクリームが如く、溶けてしまいそうです(^_^;)
町田刑事と未亡人のくだり、いまひとつしっくり来ずでしたが、キッドさんの解説で腑に落ちました。ありがとうございます。
ムロツヨシの「キミって北川景子に似てるよね~」から、遠山景織子の再現ドラマに至るまで前半・中盤笑わせてもらいました、が、後半の三角関係はしっとりと描かれていて、なかなかどうして胸に響きました。小泉今日子、相変わらず良かった…。
来週は西田敏行にフォーカスされる模様ですが、うぬぼれが報われる方向で収斂すると良いなぁ、と思ってます。残り4話、楽しみです。
投稿: inno-can | 2010年8月22日 (日) 09時18分
もはや、朝昼晩とモナ王を食べても
涼を感じなくなりつつあります。
今年の夏は本当に長い・・・。
去年が素早い夏だったので余計です。
今回は見せ場の連続で
後半がややつまった感じになっていて
なかなかに離れ業でございました。
サダメへの里奈のダメ出しが面白くて
つい「アキハバラ@DEEP」を
リピートしてしまいましたよ。
やはり生田斗真はいじられてナンボなのですな。
小泉今日子(44)って信じられない感じ~。
西やん、三田佳子、長瀬の三角関係は
まさに大物感漂ってますねえ・・・。
はたしてどんなハッピーエンドが待っているのか・・・
楽しみでございます。
最後は幸せの新婚逃走犯だったりして・・・。
投稿: キッド | 2010年8月22日 (日) 14時49分