脚本家は「ケータイ刑事銭形泪」、「ケータイ刑事銭形零」、「ケータイ刑事銭形雷」、「ケータイ刑事銭形海」、「ケータイ刑事銭形命」などを経て、「泣かないと決めた日」「名前をなくした女神たち」で一発(二発)当てた後、ここである。
しょうもない脚本を書き続けた後、ついに開眼したタイプなので・・・ときどき、しょうもない部分もありますが・・・とりあつかい注意の榮倉奈々をそつなく使いこなし・・・「クロサギ」(2006年)以来の山下智久TBSドラマ主演の重圧にもめげず・・・それなりに仕上げた感じでございます。
まあ・・・山崎努を筆頭に蟹江敬三、吉行和子、設楽統(死体)など芸達者も多数投入されているのも手伝っていると思われますけどねーっ。・・・っていうか、キャスト豪華すぎるだろう。山Pだからか。それにしても山Pは「コード・ブルー」以来の連ドラなのか・・・キッドも休んでいたのでまったく空白感がないな。いわばキッドを棺桶から引きずり出したわけで・・・これが光あるものの重力というか・・・やはり、それだけパワーがあるということなのでしょうかーーーーーーーっ。
さて、こうしている間にも天使テンメイ様は第一稿を書きあげているわけだが・・・よく考えるとここ3回ほど、キッドは日付的に即日レビューになっているのだな。何か追い立てられる感じがするのはそのためだった・・・と今、気がついたのである。明けてからレビューを書きだす体制の翌日レビューにしないとものすごく・・・心情的にあせるのです。どこかで切り替えないと心理的圧迫感で窒息しそうだよ。
そのために・・・なかなか本題に入っていけないのだな。ここで死んだりするとものすごく心残りな感じになるわけである。
ある意味、コードブルーは「ひきもどす山P」だが・・・今回は「見送る山P」と言っていい。
山Pに命を救われるのが無理なら・・・せめて見送ってほしい・・・そういう展開なのか・・・いや・・・あくまで妄想上は・・・。
いい加減に本題に入れよ~。
で、『最高の人生の終り方〜エンディングプランナー〜・第1回』(TBSテレビ20120112PM9~)脚本・渡辺千穂、演出・石井康晴を見た。なんと・・・史上最悪にかなり近い出来の「ランナウェイ〜愛する君のために」(平均視聴率9.99%)の後番組である。もうすでに「葬式」の匂いがします。しかも・・・演出家は連投だ。それが・・・とにかくまともなドラマを演出しているわけである。ドラマにおいて脚本家の占めるウエイトがいかに高いかを示す好例だろう。「クロサギ」はもちろんのこと、「白夜行」とか、「流星の絆」も演出したディレクターなのである。前のクールは死亡寸前のストレスだったことは十分に妄想できる。
さて、あまりにもすごい「場」を与えられて・・・脚本はやや盛り込みすぎである。
キッドにしても「葬儀社」と「ミステリ」という観点から即座に『モップガール』(2007年テレビ朝日)を想起してしまった。もちろん、死因究明ものということでは『きらきらひかる』(1998年)という金字塔があるわけだが・・・葬儀社もの・・・といえば『モップガール』は最終形態に近い完成度である。
もちろん・・・マイナーリーグ相手なのでメジャーはごり押しも可だけれどな。
で、一方では「ただいま11人」(1964年TBSテレビ)から続く・・・おいっ、先行形としても60年代はないだろう、ほとんど誰もピンと来ないぞ・・・「ひとつ屋根の下」(1993年フジテレビ)とか「あいくるしい」(2005年TBSテレビ)とか、「11人もいる!」(2011年テレビ朝日)・・・それが言いたかったのか・・・とか・・・大家族もののホームドラマの系譜があるわけである。
それはそれである意味、老舗のリメイクという方向性があるのだな。
さらに言えば謎の男・岩田(山崎努)の登場によって映画『おくりびと』(2008年)の「死をめぐる穢れと浄めの確執」といった哲学的なテーマの気配も感じさせるわけである。
一歩間違えると映画『永遠に美しく』(1992年)まで行ってしまう危険なテーマである。
しかし、まあ、「スカイハイ」(2003年テレビ朝日)方向には発展しないだろうけどねえ。
とにかくテレビ朝日の金曜ドラマナイト枠に絞ってみても「スカイハイ」「モップガール」「11もいる!」といろいな気配が漂うのである。地上波ではど深夜の「ケータイ刑事」シリーズの作家から見れば金曜ドラマナイト枠は憧れの対象だもんなーーーーーっ。そういうことなのかっ。
ひとはかならずしぬのにどうしてうまれてくるんだろうか。
このひらがなで書くしかない・・・無垢な問いかけに答えがでるとは思えないが・・・「「プロポーズ大作戦」(2007年)ではヒロインの親友だった榮倉奈々がのしあがり、ついには山Pを一本背負いするところまで来たということはすごいことだと考える。それよりも紙魚子出身の前田敦子のちょっとSな妹役のさらなる向上に一番期待しています。
「お兄ちゃん、ダメッ」・・・このパターンですよう・・・ぱふっ。
・・・人は皆、「時」という乳母車に乗っている。
なぜ、生まれたのかを知らないように・・・なぜ、死ぬのかを知らない。
しかし、乳母車は突然走りだし・・・ふと止まるのである。
渡英中の恋人あずあず(美馬怜子)・・・が不在なのをよしとしてまさぴょんこと井原真人(山下智久)は合コンの誘いに乗るのだった。
・・・おい、ここから本題かよっ・・・そうですが、何か?
・・・幼い子供が保母さんの手押し車で運ばれるように人は誰も死に向かって運ばれている。
その最終章は一般的に葬儀によって締めくくられる。
もちろん…死後の世界を信じない者にとって葬儀は死者には何の意味もない儀式だ。
どのような葬られ方をしようとどんな棺におさめられようとどんな手向けを受けようとも・・・死者は何も感じないし・・・何も得ることはない。
しかし、人間は葬式が大好きなのである。
だから・・・葬儀社が忌み嫌われる企業であるという前提はキッドには全くわからない。ある意味、憧れの企業ナンバーワンではないか。
だが・・・そうなるとこのドラマの言わんとするところが根底から覆るので・・・葬儀社は不人気という設定に迎合することにする。
けれど・・・「霊にとりつかれた話」ひとつするにしても・・・「実は私、葬儀社につとめてまして・・・ある日、右肩が急に重くなりましてね・・・その日の仕事終わりに読経後の僧侶に呼び止められて・・・あんた・・・仏さんに肩をつかまれてるよ・・・と言われてギョッとしたことがあるんですよ」とリアルに怪談できる魅力があることだけは譲れないのである。
まあ、それはそれとして・・・居酒屋チェーン店の中枢企業に勤務する真人の実家は葬儀社なのであるが・・・真人は家業を嫌い、大学を卒業してフランチャイズ式搾取の手下としてエリア・マネージャーの地位を獲得したのだった。
「黒い居酒屋」と言ってもピンと来ない人がいるかもしれないが・・・要するに儲かればピンはねをして、経営難に陥れば各店舗の経営者に赤字を押しつけるリスク分散型の企業ということである。
まあ、早い話合法的なやくざです。
その日、真人は地下鉄のホームで・・・ちなみに北新宿駅はフィクションである・・・電車に飛び込んで列車の運行と人生を止めようと・・・しているように見える若い女に声をかける。
「あきらめなければ・・・あきらめなくてよかったと思える日がきっとくる」
その慰めの言葉に唖然としたのが・・・警視庁高円寺署勤務の刑事・坂巻優樹(榮倉奈々)だった。
つまり、トーストを咥えて登校中に転校生にぶつかったのである。
やがて・・・真人は合コンで優樹と再開する。
つまり、転校生は同じクラスだったのである。
セオリーですね。
こうして、山PはヨッパッPと化して巡り合った二人はなじむのだった。
街中で優樹を台車に載せ、真人が運搬する仲になるのだ。そういう仲になるのは性交するより難しいと思うがど深夜出身の作家が書くことなので目をつぶってください。
ここで謎なのが・・・優樹が拝んだ死者はだれなのか・・・ということである。
そして、この謎が何かの伏線なのかどうかもまた謎である。
一応の仮説としては故人である優樹の祖父(元・警察官)が捜査線上に浮かぶのであるが・・・そこで殉職したのか、病死したのか、それとも自殺や事故なのか・・・は不明である。
この他にも伏線らしいものは各所にある。
真人の妹の一人、長女・晴香(前田敦子)は足がやや不自由なのだが・・・そうなった事故の詳細はまだ隠されている。
次女の桃子(大野いと)は担任教師(黄川田将也)と不倫関係にあるようだが・・・どの程度の関係かは不明である。
三男の隼人(知念侑李)は大学生なのだがその偏差値は不明である。ちなみに実の父親は日本大学を卒業後、バルセロナ五輪で銅メダルを・・・関係ないだろう。
そして兄である長男・健人(反町隆史)が放浪している理由も謎だ。
ついでに盆栽をこよなく愛するらしい父親・浩太郎(蟹江敬三)が愛煙家なのかも、常用する煙草の銘柄がケント(KENT)なのかも不明だ・・・意味不明だぞ・・・きっと。何よりも井原家の母親不在の理由も霧の彼方なのである。
とにかく・・・どうでもいいような謎がちりばめられていて・・・ケータイ刑事シリーズを一度でも見たことのあるものなら背筋に悪寒を感じるはずである。
家業をなぜか・・・毛嫌いしている真人は大学進学と同時に実家と疎遠となり・・・五人兄弟のうちで親の手伝いをしているのは晴香一人なのだった。
死体にはこよなく優しい浩太郎だが・・・なぜか子供たちとの付合い方には問題があったらしい。
一番の理解者である晴香にも「死ねばいいのに」と言われる始末である。
このように・・・登場人物を紹介するだけでも骨の折れる豪華なキャスティングである。
葬儀社・井原屋の古参の従業員・田中(大友康平)に触れる余力がないほどなのだな。
ところで死者の「死」は死者にとっては何の意味もないが・・・生者にとっては時に重大であるというお約束が展開すると・・・ドラマも真人もようやく転機を迎えるのだった。
真人にとって26年生きてきて最悪の日が訪れるのである。
ここまでドラマ内の時系列が行ったり来たりするのでその日がいつなのか・・・非常にわかりにくいのだが・・・まあ・・・交通整理がいろいろと大変だったということは妄想の範囲内である。
最初の犠牲者が父の浩太郎なのか・・・真人の指導下にある居酒屋店長・長田(設楽)なのかもうっかりすると不明になる構成の悪さなのだが・・・死ぬのは・・・浩太郎→長田なのだな。
最悪なのは病院で心停止する長田の死亡推定時刻を刑事・優樹が手帳を見ながら告げる場面である。
転落したと思われる時間と・・・死亡時刻は・・・違いすぎるのだが・・・刑事ものではないので聞かなかったことにするしかないのだった。
まあ・・・そんなこんなでじっくりとドラマを見ていると落ち着かない気分になる瞬間もあるが・・・真人が人生を見直していく過程はさすがにスムーズに描かれている。
なぜなら・・・やはり、山Pの存在感が抜群だからなのであるよね。
そのこたえはきっとかぜにふかれている。
(ここからは刺激の強い描写を含む可能性があります。過敏な神経の皆さまはボリュームを絞ってお楽しみください)
冬は死の季節だ。木々は枯れている。風は生の証である熱を奪う。
冬の好きな人もいるかもしれないが・・・俺は嫌いだな。
その理由は俺が生まれた家が葬儀屋だったことにある。下手なドラマは自然をうまく取り入れないで時にはかゆいところに手が届かない感じがすることがあるが、俺のちょっと寒そうな顔で感じてもらいたい。その日は冷たい木枯らしが吹いていたのだ。
俺が下請けの雇われ店長に対してマニュアル通りに厳しく指導した時も。
黒猫なみに不吉な黒い霊柩車が窓の外を横ぎった時も。
深夜アニメのようなお安い出会いにつかのまのときめきを感じた時も。
強くて冷たい風が吹いていたのだ。
そして、その風は俺の心の中にも吹いている。
冬は死の季節なのだ。その証拠に秋には万床だった病院のベッドも年を越せばすっかり空きが目立つようになる。ほとんどの患者は生きて退院できなかったのだな。そうなれば・・・我が家は商売繁盛なのである。
いつから・・・自分の家と・・・自分の家の仕事と・・・仕事に励む父親に嫌気がさしたのかははっきりしない。
病死した俺のクラスメートの病室で父親が営業スマイルを浮かべているのを見た時かもしれないし、冬につきものの火事によってこんがり焼けたグロテスクな焼死体をうっかり見てしまった時かもしれない。あるいは死後数日たって発見された腐乱死体の強烈な匂いが夕飯時になっても父親に残り香してどうにも耐えられなくなった時かもしれない。
世の中には二通りの人間がいる。いじめて喜ぶ人間といじめられて喜ぶ人間だ。
俺はどちらかといえばそのどちらにも属さない「いじめ」というものになじめない人間だったように思う。
子供の世界には「死」というものの存在感は希薄である。その中に「死」を強烈にアピールするものがあれば自然に「いじめ」の対象となるわけである。
もちろん、俺も「死神」とあだ名され・・・触れば不潔な存在として疎外され・・・忌み嫌われたのである。
そうしたつらさが俺と俺の家との間に冷たい風を吹かせたのだろう。
俺は大切な何かをどこかに吹き飛ばされ・・・そして寂しいゾンビのような青春を過ごしたのだった。
大人になった俺は鬼になった。
世界が「暗黒面」に支配され・・・生き地獄である以上・・・いじめられる死神よりもいじめる鬼になった方が少しはマシだと思うからだ。
鬼の目から見れば・・・亡者のくせに善人ぶる人間など憎しみの対象でしかない。
「売上のノルマが達成できていないのに・・・サービスの飴を経費に計上するなんて・・・店長、あんた、コロンブスなめてんのかよ・・・金使って客をよろこばせてんじゃねえよ。客からしぼりとってヒーヒー言わせるのがビジネスってもんだろ」
他人に上っ面の感謝を受けたいならボランティアでもしていればいいのに・・・と鬼は本気で思うのだ。なぜそう思うのかは・・・鬼にもよくわからない。
その答えはずっと昔に吹き飛ばされてしまったからだ。
とにかく・・・その日は強くて冷たい風が吹いていたのである。
そして・・・翌日・・・叱り飛ばした店長が高いビルから転落したことが上役によって知らされる。
俺はいじめていたクラスメートに自殺されたいじめっ子の気分がわかったような気がした。心の底から鬼ならば勝利の喜びや達成感があるのかもしれないが・・・単にじゃんけんに負けて鬼になった俺はたちまちいやな気分になるのだった。
「死」から全力で逃げ出したはずなのに「死」はけして逃がしてはくれないのだ。
俺は自分の甘さを思い知ったんだな。
しかし・・・店長はまだ「死」には追いつかれていないようだ。
俺は生と死の境界線で安堵の吐息をつく。
だが・・・それも・・・束の間・・・実家で家業を手伝う妹から・・・父・危篤の知らせが届くのだった。
医者も看護婦も人手不足なのか・・・瀕死の父親は放置されたまま・・・俺の目の前で悪態をつきながら息をひきとった。
俺が確信したのは「霊柩車を見た時に親指を隠さないと親の死に目にあえない」というのは迷信だったということだ。
なにしろ、霊柩車を毎日見て育った俺なんだから。
家出中の兄貴は別として・・・幼い弟妹たちは・・・気持の動揺をかくせない。
お安い携帯ドラマなみに姉妹の暴力の応酬があって南極大陸に行った兄よりも格段レベルの高い兄である俺の胸で下の妹の桃子は泣きじゃくるのだった。
おそらく・・・ツンデレ体質の上の妹はぴりっとしない俺に「葬儀社が家族の葬式を他社に頼んでメンツがたつのかよ」とマジすか・・・の説教をするのである。
その時・・・俺の心の中で凍りついていた何かがゆっくりと溶け始めたのだった。
それが下の妹の胸のふくらみの温もりによってなのか・・・上の妹の厳しい言葉の熱さによるものかは定かではない。
ひょっとしたら・・・昔から家にいる他人の従業員・田中さんのうるんだ瞳のせいかもしれない。
どこからか風にのって囁く声がするのだ。
ことばにならない・・・むねのあついたぎり・・・こぶしをかためろ・・・たたきのめされても
田中さん・・・あんたがささやいているのかそれとも野良犬の遠吠えなのか。
こうして・・・俺は嫌っていた親父の葬式を喪主として行うことになる。
玄人である妹の晴香は素人の俺を手ほどきするために一夜漬けで夜をあかしたのである。久しぶりに妹とすごした時間に俺は胸騒ぎを感じるのだった。
「おれ・・・うまくできたかな・・・」
「うまいとかへたのレベルじゃないわよ・・・ただお手本通りにやっただけって感じ」
ぎこちないながらも葬式を終えた俺の前に謎の男がやってきた。
「あんた・・・まだ心から悲しめていないな・・・」
「なんでそんなことがわかるんだよ」
「いいかい・・・この世は美しくもあるし・・・醜くもある・・・どちらが好みかは人それぞれだが・・・それでおまんまをいただくからには・・・それなりにコツってものがあるんだ。ほら・・・オヤジさんの丹精した盆栽をみてごらん。一日・・・主がいないだけでもう醜くなりつつある。枝先は枯れている・・・死というものが白くむき出しになっているんだ。それをこうしてハサミでちょっと切り取ってやる。こうすれば・・・盆栽はより美しく存在することができるのだ。たとえ・・・枝先は死んでも・・・盆栽は生きているんだからな」
「オヤジの盆栽友達だったんですか・・・」
「・・・」
その夜・・・父親の遺品を整理していた俺は・・・悪態をつきながら死んだ親父が大切にしまってあった俺自身の「過去」を発見し・・・突然、涙がとまらなくなるのだった。
とおくにはなれていてもわかりあえる・・・わずかなぬくもりわかちあったように
どこかで田中さんが歌っているのだった。
鬼と死神の間には仏がいるのである。俺の仏心が覚醒しようとしているのだった。
翌日・・・鬼の上司から・・・業務記録の訂正を求められた俺は転落した店長の危機をたちまち感じ取るのだった。
そして・・・向かった病室では母一人子一人の店長が母親・光江(吉行和子)を残し親に先立つ不孝を実行するのを目撃する。
仏心のついた俺はたちまち・・・罪の意識にさいなまれるのだった。
俺が殺したかもしれない・・・店長。あやまりたくても本人はもうこの世に存在しないのである。
俺は救いを求めて街をさまよった。暴力的な刑事は俺をストーカーしているらしく何度も偶然に出会うのだった。
「だってあなたは私にあきらめるなって言ったでしょ」
そうだ。結局、生きている限り、何かをしてしまうのが人間なのだろう。
そんな俺にできることはもはや・・・葬儀だけなのである。
俺の中に眠っていた葬儀屋魂に火がついたのだった。そんな燃え上がる俺に晴香は冷たくて熱い愛の言葉をなげつける。
「なにやってんの・・・上で行かないで、下で行って」
そして田中さんの幻の声も鳴り響くのだった。
はげしくたかぶるゆめをねむらせるな・・・あふれるおもいをあきらめはしない
せめて傷心の母親を慰めることは何かできないか・・・と俺は思う。
なぜなら・・・こんな時本当に母親をなぐさめたいはずの店長はこの世にいないからである。
俺は心の命じるままに・・・店長の「死」そのものを探り始めるのだった。
木枯らしに吹かれて夜おそくまでビラをまいていた店長。
客の笑顔を大切にしていた店長。
親の死に目に会いたかった店長。
そんな店長を俺は本当にいじめ殺したのか。そして店長はいじめ殺されるような弱い人間だったのか・・・。
知り合ったばかりの刑事・優樹と店長の転落現場を訪ねた俺はついにひとつの可能性を見出す。
独身の店長が父親のいない子供とキャッチボールをした屋上。
柵の外に転がったボール。
他人の笑顔を見ることをこよなく愛した男が陥ったアクシデント。
そうさ・・・その日は風が強かったのだ。
転落場所で店長の指紋のついた新品のボールを発見した俺は・・・転落現場に子供が供えた店長のお気に入りの飴と店長が最後につかんだ愛の記念品を母親に示すのだった。
「あの子は・・・いじめられて死んだのではなくて・・・単におっちょこちょいだったっていうんですか」
「いいえ・・・優しい人だったんだと・・・俺・・・いや・・・私は思います」
「・・・・・そうですか・・・・そう言われるとなんだかうれしいわ・・・そう・・・そうなのよ・・・あの子はやさしい子だった・・・本当に・・・優しい・・・優しい子だったんだよ・・・・・うえーん・・・・・・・葬儀屋さん・・・ありがとう・・・」
人はどこからともなく現れてどこへともしれず消えていく。
それはまちがいのないことだ。
そして愛するものを失った生きている人間の心の痛手が大きいことを俺は知っている。
そんな遺族から感謝の言葉を告げられる父親。そしてそれを誇りに思っていた幼い自分。
父親の遺品に混じっていた幼い日の俺の作文にはそう記されていた。
俺は失っていた過去を取り戻したのだった。
なぜなら・・・風に吹き飛ばされた答えもいつか風に吹き流されて戻ってくる場合があるからだ。そういう奇跡はいつだってどこにだってあるんじゃないのかな。
愛がすべてさ いまこそ誓うよ 愛をこめて 強く強く
田中さんの歌声に励まされて俺は・・・父親の愛した仕事を受け継ぐ決心をしたのだった。
生まれて死ぬまでの人生は結局、愛を探す旅路なのだから。
もう・・・心ないもののささいな誤解なんて気にならないのさ。
だって俺にとって生きることと愛することはまったく同じ意味なんだから。
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