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2012年2月29日 (水)

欲望が邪悪だとすれば生命は邪悪そのものであることを認知させる日曜画家に回心する乙女(木南晴夏)

人間の心がペンローズの提唱するように量子力学的秘密の彼方に存在するのかどうかは不明である。

しかし、記憶に関してはかなりの検証が進んでいる。人間の脳の化学的アプローチは脳内にメモリがあることをある程度、実証してきた。人間もまた計算機として記憶するシステムを持っているわけである。

だが、謎はまだ多く残されており、「意識の発生」や「自覚」あるいは「直感」などを機械が再現するための障壁は大きい。

心には不可侵で未知の領域がダーク・マターのように残されている。

そこにあるのに手が届かない何か・・・それをどう感じるかもまた・・・人々の共通認識としては成立しない事象だろうと悪魔は考える。

しかし、人間は「相互理解」は可能であると希望を持つ生き物でもあるだろう。それが神の設計なのか、偶然の産物なのを懐疑しながら・・・。

七瀬の好意が一瞬にして嫌悪に転ずるのを知れば、人が「好き」になることは同時に「嫌い」になることだという二進法的メモリーの恐ろしさを感じることができる。

そして、人の心を読むことができるものが欺かれるという心理の綺(あや)に驚くのである。

原作とは話数が異なるドラマであるが・・・なんと次週はオリジナルらしい・・・またもや話数順の入れ替えである。

何がドキドキするってこれは何か問題が発生してお蔵入りとかが発生したのではないだろうなと危惧するわけであるのだなあ。

参考までに原作は

① 無風地帯 ② 澱の呪縛 ③ 青春讃歌 ④ 水蜜桃 ⑤ 紅蓮菩薩 ⑥ 芝生は緑

⑦ 日曜画家 ⑧ 亡母渇仰

・・・の八篇で構成されている。

ドラマはここまで

①無風地帯 ②水蜜桃 ③澱の呪縛 ④青春讃歌 ⑤紅蓮菩薩 ⑥日曜画家

・・・の順で放送されている。「水蜜桃」の先出しの後は原作に準じていたわけだが・・・今回は「芝生は緑」を抜いて、「日曜画家」が先行するわけである。

レビューのために山本周五郎の「季節のない街」の「牧歌調」を再読して準備していた・・・キッドのガッカリ度は別にして・・・オリジナルをまぜてもいいから・・・とにかく全話映像化だけは完遂してほしいものだ。

残りは「芝生は緑」と「亡母渇仰」なのである。

「日曜画家」の原作では「外側をダークグリーン、内側をオレンジで塗りわけた同心円」が息子の抽象化画像だったのだがドラマでは単なるオレンジの三角形でそこもややものたりなかったが・・・。

七瀬は急に女らしくなってきた自分のからだつきに、いくらかの危険を感じはじめていた」という重要な部分は例によって欠落している。せっかくなんでもできる木南晴夏を起用しているのだから・・・ここは表現してほしかった。

とはいうものの・・・いくつかの場面を省略して・・・筋立ては無難にまとめられていて・・・今回も充分に満足できる作品に仕上がっているのでございます。

で、『家族八景 Nanase,Telepathy Girl's Ballad・第六話・日曜画家』(TBSテレビ20120229AM0055~)原作・筒井康隆、脚本・佐藤二朗、演出・白石達也を見た。今回、火田七瀬(木南)が家政婦を勤める竹村家は、広い敷地の中に、古い母屋がひと棟、けばけばしい色のペンキを塗った離れがひと棟、さらに門の前に立って庭の奥を覗けば、ガソリンスタンドの建物と背中あわせにアトリエ風の洋館が建っているという不調和な外見の家である。今回は七瀬が心を読む時には相手が静止画像でお歯黒になるという演出になっている。脚本家が大河ドラマで公家の役をしている心理の反映であろう。もちろん、有名な日本画家の父親を持つこの家の主人・竹村天州(矢島健一)が先代の成功の上に立っている貴族的な特性を持つことも暗示していると解釈することもできる。

天州は彼の偉大な父親とは違い、商事会社の経理課長をしながら日曜日だけはアトリエで絵描きをしているのである。

・・・ちなみに原作者の父親は動物生態学者で大阪市立自然史博物館の初代館長(ある意味偉大)で、原作者は展示装飾会社に勤務するサラリーマンで兼業作家であった過去を持っている。つまり、かなりの自己投影がなされているキャラクターであることが妄想できる。

ともかく、七瀬は天州の表面的な心に触れ・・・「芸術家」としての「彼」を誤解していくのである。

なぜ、そのような事態が発生するかと言えば、天州が抽象化能力に優れ、心を抽象化してしまうので、心を見るものによってどのような解釈も可能になるからなのである。

・・・素晴らしいアイディアだなあ。

七瀬が「芸術家の純粋な魂を持つ人間」と錯覚していく天州に対して、その妻である登志(石野真子)は「俗物」として描かれる。「見栄っぱりで、しかも負けずぎらい」な女なのである。

「最近、お手伝いさんは贅沢ににゃったって聞くけど・・・あなたはそうじゃにゃいって紹介されたから、雇うことにしたにょよ、だから待遇について注文要求注文要求されても困るにょよね」

ドラマでは何故か「な行」の発音が苦手な女として描かれる登志である。脚本家のノリノリなのか、女優のアドリブなのかは不明だ。まあ・・・深夜ドラマだからな。

≪金≫≪出費≫≪それだけの仕事はしてもらう≫≪しかし支出≫≪金≫

登志の心は金銭欲で満ちている。有名な画家の家へ嫁いできたのに・・・亡くなった舅とは違い夫は画家とは名ばかりのサラリーマンであり、収入のあまりの落差に登志は心をすり減らしてしまったのだ。

最近の若い女の子は≫≪ぜいたく≫≪出費≫≪待遇改善を要求されたら≫≪絶対に認めない≫≪女中は女中≫≪お給金だって高すぎるくらい≫≪三食だけでもいいくらい≫≪金≫≪支出≫≪なんとかいいなさいよ≫

ご主人が絵を描いてらっしゃるって伺ったんですけど

「ふつうの日は会社に勤めているの。絵が売れないから会社なんかに勤めているの」

≪芸術家の妻≫≪サラリーマンの奥さん≫≪くそ≫≪金≫≪売れる絵を描かない≫≪クズ≫≪芸術家気質≫≪世間知らず≫≪安月給≫≪金にならない変な絵≫≪夫のために≫≪私が苦労する≫≪カス≫

七瀬はこの家でもまた、ひどく傷つけられ、そしてそれ以上に誰かを傷つけることになりそうだ・・・と予感する。

竹村家の一人息子の克己(菊田大輔)は21歳の遊び人である。物ごとすべてを小馬鹿にするような笑いを浮かべているその口もとに、どすぐろい卑しさがただよっていた。彼は七瀬の存在に気がつくと同時に七瀬の体を性的欲望の対象として分析し始める。

≪新しい女中か≫≪上玉じゃないか≫≪処女か≫≪処女かもな≫≪着痩せするタイプ≫≪でるところはでている≫≪おっぱい≫≪おっぱじめたい≫≪イチコロ≫≪俺の顔≫≪すぐにおとせる≫≪おっぱい≫≪おっぱじめる≫≪おっぱっぱ≫≪征服したい≫≪女なら誰もが俺の顔に惚れるだろう≫≪調教≫≪俺は最高の男≫

克己は意識から男性の性的な分泌物の臭気が立ち上っている。七瀬が特に嫌いなタイプの精神構造を持っていた。

やがて、帰宅した天州は七瀬に「透明な意識」を見せて、七瀬の「好意と尊敬の念」を得る。

天州の妻と息子は「金になる絵」を描くことを要求する。

「あなた、お手伝いさんをやとったんだから・・・そろそろ売れる絵を描いてちょうだい」

「親父、俺、ちょっと遊ぶ金がいるんだよ」

しかし、天州は彼らの言葉をただちに抽象化してしまう。

七瀬は天州の意識野にもぐりこんだ。

けたたましく、天州を攻撃する言葉はすべて色彩に変化していた。

「あなた

「親父

登志の容姿はダークグリーンの長方形となり、克己はオレンジの三角形となっている。

七瀬は天州の自我を「繊細で傷つきやすいもの」と想定した。「芸術家としての純粋性」を保持するために「芸術家」としての才能を利用した「防衛手段」がこの「抽象化能力」ではないかと推理した七瀬は・・・天州に同情し、天州に共感を抱く。

自分の心になだれ込んでくる敵意に満ちた他人の心を締め出したくなることは七瀬にもあった。

やがて、天州への同情や共感は七瀬の中で好意へと転換していく。

原作では天州への好意が膨れ上がった七瀬は天州の中で自分自身の印象を探り、ごくちっぽけな白い点として存在することを知って、少しがっかりするのだが・・・ドラマでは雪の降る円内の具象としてアレンジされている。

やがてその円内には雪が積り、純白となっていくのである。

もちろん、それは処女である七瀬が生理的に嫌悪する男性の分泌物の象徴でもあるのだが、七瀬はうかつにもロマンチックなものと誤解してしまうのである。

抽象の前ではどんな錯覚も成立するからだ。

私も人を好きになることができるのだ・・・と七瀬はいつもの乳白色の入浴剤入りの浴槽に入浴する。透明度はまさないが半身浴に近づいている・・・ような気がする。

七瀬は天州のアトリエを清掃し、天州の作品を鑑賞する。

天州の意識を覗くことのできる七瀬は・・・自分だけが・・・天州の抽象画にこめられた意味を理解することができると・・・誤解するのである。

抽象画の解釈と、抽象化で偽装された天州の意識の読解が巧妙に重ねられて実に鮮烈な描写になっているわけである。

芸術家という人種を過大評価し、共感を覚えている自分の感傷だろうか・・・と七瀬は内省してみるのだが・・・具体的な心を読ませない相手に対して・・・結局は自己過信を犯してしまう。

名家の生まれ。父親から才能を受け継いでいるが父親以上になれない苦悩。端正な顔立ち。俗物的な妻と子に包囲された日常。そのような心象風景の断片が・・・記号化され、七瀬の中に主観的な天州の偶像となっていく。それは好ましいシンボルとして・・・七瀬の中に潜在する超能力者であるがゆえの圧倒的な孤独からの解放願望に結び付いていく。

それは恋のコンプレックスとなり・・・七瀬は恋に落ちるのである。

七瀬もまた生理的に恋するお年頃だからだ。

原作ではここから、七瀬は天州に憧れ、ストーカーと化していくのだが・・・ドラマでは天州の正体を七瀬に知らせる二人の女性・・・天州の勤務先の部下が・・・登志によって招待され・・・天州の創作意欲を高めるためにである・・・見事に無理なく展開していく。

まあ、二人の女、里子(八代みなせ・・・「闇金ウシジマくん」からここ、片腕マシンガールでもある)と美佐(真凛・・・2011年のミス納豆である)の異常なキャラクター設定は脚本家がノリノリだったご愛敬と思われます。

登志は「夫に売れる絵を描かせるためにそれとにゃく二人を誘導するにょよ・・・あなたのお給金を払うためにゃにょよ。うまくやりにゃさいよ」と命ずるのである。

しかし、すでに恋は盲目状態になっている七瀬は天州の望まぬことはさせない・・・と天州を守る立場でアトリエにお茶を運ぶのだ。

二人の若い女と天州はなごやかに芸術談義をしていたが・・・七瀬は天州の意識に潜入し、天州の心の目で自分を含めた女たちを視た。

里子はオレンジ色の三角形になっていた。これは里子が克己と同様に無視されていることを示していた。

七瀬は円内の自分がほとんど雪に埋もれているのを見て・・・天州の好意が強くなっていることに心が浮き立った。

しかし・・・美佐がほとんど真っ白な円であることを発見して衝撃を受けたのである。

七瀬は自分の心の衝動が美佐への嫉妬に発展するほどのことがないことから、天州への恋心がそれほど深くないことを悟る。もちろん、嫉妬に似た感情は衝撃の中に含まれるわけだが、本来の超人類としての自我が旧人類への潜在的な優越感を保持しているためにそれはたやすく自己正当化されてしまうのである。

七瀬に心に浮かんだのは失望であった。

やはり、私のような女は恋する相手を得られないのか。

恋の呪縛の解けた七瀬に隠蔽されていた天州の激しい欲望を伴った意識が流れ込む。

≪使いこみ≫≪この女は使い込みをしている≫≪横領≫≪それを俺は知っている≫≪歓喜≫≪邪悪な舌なめずり≫≪そのことを≫≪そっと耳打ち≫≪脅し≫≪女は逆らえない≫≪ホテルに連れ込んで≫≪いただく≫≪退社後≫≪内緒にしておきたい≫≪君のことは前から気になっていた≫≪お互いに秘密の関係を≫≪この言い方、再考の余地≫≪決算の後で≫≪使い込んだ金を戻せない≫≪追い込む≫≪秘密の花園≫≪どんな形をしているのか≫≪征服≫≪調教≫≪俺は最高の男≫

白い円はキャンバスだったらしい。今、そこには虹色の円化した花模様が描かれている。それは明らかに女陰の象徴だった。

天州と克己はにたもの親子だったのだ。

それに全く気がつかず・・・好意さえ寄せていた自分のうかつさに七瀬は茫然としていた。

その時、突然、里子が席を立ち、アトリエを出て行った。

そのただならぬ様子が七瀬の注意を引く。

里子は廊下で泣いていた。

≪課長は落合さんを狙っている≫≪私を捨てた≫≪落合さんももてあそばれて≫≪捨てられる≫≪注意してあげたい≫≪しかしできない≫≪私と課長の関係が発覚≫≪芸術家だと思ってあこがれて≫≪冷たい家庭に同情して≫≪堕胎までさせられた≫≪私の≫≪私の赤ちゃん≫≪最低の男だったのに≫≪だまされた≫≪堕胎の費用さえ払ってくれなかった≫≪ただ肉体だけが目当てだった≫≪哀しい≫≪哀しい≫≪泣きたい≫≪泣いている≫

七瀬は衝撃から立ち直った。すでに七瀬の保護欲の対象は天州から哀れな女たちに移っている。

七瀬は匿名で美佐に電話をかけた。

「決算前にお金を元に戻しておきなさい」

そして、天州の邪悪な算段は頓挫したのである。

・・・天州の中で七瀬は真っ白なキャンバスと化している。

≪そろそろ≫≪とりあえず≫≪女中だ≫≪どうにでもなる≫≪征服≫≪調教≫≪俺、最高≫≪征服≫≪調教≫≪俺、最高≫

七瀬の抽象化された妄想上の女陰が天州の中で凌辱されるために満開となる。

七瀬の能力は強化されつつあった。群衆の中にあっても必要なら特定の意識を遮断することができるほどになっていた。

掛け金をおろさなくてもそれが可能になっていたのだ。

・・・このあたりは、すでに『七瀬ふたたび』に続くながれである。作品集としては分冊されているわけだが・・・要するに『家族八景』と『七瀬ふたたび』は連作短編集として連結されているわけである。

七瀬は天州の怠惰でありながら性欲だけを溢れさせた醜悪な精神をシャットアウトした。

自分の中にあった天州のイメージが今は完全に逆転し、反吐が出るほどうす汚く醜いものに変わり、彼を憎んでさえいる。

七瀬は一言言わずにはいられなかった。

「お気の毒様・・・私、お暇をいただきます」

≪なんだって≫≪えっ≫≪ええっ≫≪えええーっ≫

・・・「やめさせてほしい」と七瀬が告げると竹村夫人は憎悪を爆発させた。

「そんなことだろうと思ったよ。にゃんだい、だから最近の女中はダメにゃんだよ。あんたなんか、どこへいったって使い物ににゃらにゃいからにぇ。男とちゃらちゃら遊び歩いて妊娠するぐらいがおちだよ。あきれるにぇ。にゃにゅにぇにょにぃーっ」

まあ、原作者が若い時によほど悪行を重ねたことは充分に妄想でき、そういう懺悔が創作心理となって表現されることもあって当然だと考える。

関連するキッドのブログ→第5回のレビュー

シナリオに沿ったレビューをお望みの方はこちらへ→くう様の家族八景 

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2012年2月28日 (火)

戦死者が死んでいる(松本潤)

元ネタはエド・マクベインの87分署シリーズ・第14作「クレアが死んでいる」(1961年)である。

探偵ではなく警察小説であるが・・・第1作の「警官嫌い」が1956年であるから・・・第56作の「最後の旋律」(2005年)までおよそ・・・半世紀続いていたことになる。・・・エド・マクベインは2005年に逝去している。

しかし、今回の話のポイントとなる太平洋戦争終結は昭和20年(1945年)でそれより昔なのだ。なんといっても今年は戦後67年なのである。

ちなみに依頼者の老婦人を演じる水野久美は実年齢75歳で終戦の時には7歳でした。

まあ・・・若く見える老婦人ということにしてだ。遺影の相手と将来を誓うとなるとやはり16歳が最低限であると考えてマリアナ沖海戦が1944年なので前年に最後の別れをしたとして終戦時に18歳。現在85歳の老婦人となる。まあ、いろいろな意味でギリギリだな。

単純に「幽霊譚」なら・・・どうせジュブナイルと考えて、キャロリン・キーンの『少女探偵ナンシー』シリーズから老婦人がらみの「幽霊屋敷の謎」でもよかったが・・・「幽霊屋敷の謎はどうなっちゃったのでしょう?」とかね。

しかし・・・まあ、大泉洋回だったし、結局、シリアスだったわけだから・・・「おなじみの登場人物が突然死ぬ」の元祖である「クレアが死んでいる」に落ち着きました。クレアというのは87分署の刑事の一人、クリングの愛しい恋人で・・・銃乱射事件の被害者なのである。

まあ・・・ドラマの方はキワモノクラスのメルヘンで・・・お若い方にはまさにちんぷんかんぷんなんじゃ・・・。

で、『ラッキーセブン・第7回』(フジテレビ20120227PM9~)脚本・宇田学、演出・成田岳を見た。脚本・演出は「TOKYO コントロール」(2011年フジテレビNEXT)と同じである。これは東京航空交通管制部を舞台にしたサスペンスだった。空港の遺失物取扱所(Lost and found)に美人(中越典子)捜索官がいるという発想は素晴らしいと思う。しかし、ふってわいたお見合いの件といい、違和感ありまくりでしたな。中越典子は「必殺仕事人」と「サラリーマンNEO」以外にはろくでもないキャスティングで意味不明のことが多いのだが、今回もギリギリでしたな。

まあ、所轄の北品川署の刑事である桐原警部補(吹石一恵)が要人警護のために空港の下見にくるというのは・・・完全に意味不明である。

まったくふりむいてくれない相手(吹石)より、食事に付き合ってくれる相手(中越)を選ぶべき・・・という「月9」的アドバイスかよ・・・腐っても探偵ミステリーじゃないのかよっ。

ラッキー探偵社に老婦人(水野久美)が現れ、夜な夜な訪れる恋人の幽霊についての捜索が依頼される。相手が超常現象の場合は心霊探偵に頼んでもらいたい・・・と依頼を拒絶するラッキー探偵社。

相変わらずほとんど、業務をしていないように見える探偵たちである。とりあえず、着手金の相談ぐらいしろよ・・・とテレビに向かって灰皿を投げ付けそうになりますな。

そして・・・旭(大泉洋)はお見合いに出発。興味津々で尾行する駿太郎(松本潤)と飛鳥(仲里依紗)である。

相手は遺失物取扱所にお勤めの自称探偵(中越)である。

「忘れ物を捜すって素晴らしいことだと思うんです」と自分の職業を誇らしげに語る彼女に対し、旭は「弁護士です」などと身分詐称をするのである。立派な犯罪である。

そこで、駿太郎はちゃちゃをいれて、お見合いデートをぶちこわす。

「そんなにウソから入ったらダメだろう・・・相手にピンときたら・・・真心こめてアタックしなきや・・・」恋愛については百戦錬磨の駿太郎は旭を教え諭すのだった。

前回の非礼をわび、再び・・・彼女とデートした旭は「忘れ物は・・・単なるもの・・・じゃないと思うんです・・・どうしても失いたくない思いそのものだと思うんですよ。私はその思いに答えるのが自分の仕事だと思います。人間は大切なものでもうっかり忘れる生き物ですからね」

彼女のロマンあふれる職業意識に刺激され・・・旭は切り捨てた老婦人の依頼を拾いに行くのであった。

一人暮らしの老婦人は身の上を語る。

「将来を誓い合った人がいたんです・・・しかし、その人は大東亜戦争でお国のために戦死したと知らせが届きました。でも・・・あの頃は戦死したはずの人が九死に一生を得たり、敵国の捕虜になっていたりして・・・ひょっこり帰ってくるなんてこともあったんですよ。私はどうしてもあの人が死んだと信じられなくて・・・気がついたら67年たっていたんです」

「ロマンチストだなあ・・・」

その夜、寝ずの番をしていた旭の前に戦死した「彼」が現れる。

「彼女は・・・もしも、私をあきらめて他のものに嫁ぎ・・・私がひょっこり帰ってきたらどうしようとそればかりを考えて・・・戦後ずっと操を守り続けてきたんです。こんなことなら・・・別れの日に・・・やることをやっておけばよかった・・・」

「じゃあ・・・おばあちゃんは・・・処女なの」

「ロマンチストでしょう・・・」

旭はこのロマンにオチをつけなければならない自分を幽かに哀しく思う。

一方、暖かい家族に恵まれた駿太郎は急に老婦人のことが気になりだして・・・旭の次に老婦人の家庭訪問を行う。そして・・・処方された薬から病院を割り出すと、院内に潜入。守秘義務の壁を乗り越えて、老婦人が悪性腫瘍に犯されていることを知るのである。

旭と駿太郎はお互いの情報を交換する。

「おばあちゃん・・・死ぬ気なんだぜ」

「まあ、それも運命かもしれないが・・・このままじゃ、寝ざめが悪いよな」

「なんか・・・証拠が欲しいんじゃないのかな・・・許嫁が死んだ証拠が・・・」

「そんなもん・・・あるのかな」

「それを捜すのが探偵の仕事でしょう」

「いや・・・それはかなり違うと思うぞ・・・でも俺が依頼人代理になって・・・一応捜してみるか・・・なんていうか、ボランティア精神だな」

「もうまったくビジネスじゃないですよね」

しかし・・・とにかく暇なのである。ラッキー探偵社は全力をあげて・・・老婦人の許嫁の消息捜査を開始するのであつた。

ミッドウェイ海戦の大敗北以来、苦境に陥った帝国海軍は防衛線を縮小しつつ、起死回生の祈りを捧げ、マリアナ沖海戦に挑む。

空母部隊を集結させ、敵の空母を撃滅する作戦である。

時に1944年6月19日。しかし、すでに日本軍の暗号解読に成功していた米国海軍は待ち伏せ作戦を決行。後にマリアナの七面鳥打ちと呼ばれるほど帝国海軍の空母航空隊に壊滅的打撃を与えるのである。

やがて、航空機を失って無力化した帝国海軍の空母に米国海軍が襲いかかる。

最初に米潜水艦の雷撃により空母「翔鶴」が沈没。続いて、雷撃によって損傷した艦内に気化した航空燃料が充満した空母「大鳳」が大爆発、炎上、沈没する。

敗北を悟り退避を開始した帝国海軍だが、米国海軍は追撃の手を緩めず翌日の6月20日に空母「飛鷹」が敵艦載機の猛襲を受け炎上。乗組員は退艦し「飛鷹」もまた太平洋の藻屑と消えたのだった。

探偵たちはデータベースを探り、生存者による戦友会を訪ね・・・やがて・・・老婦人の許嫁の遺族が和歌山県に生存していることをつきとめる。

探偵たちが手にしたのは・・・戦死者に授与される旭日章(今更ですが妄想のために再現性は低く設定されています)であった。

事情を聴いた許嫁の甥は・・・形見の品を贈与してくれたのだった。

探偵は老婦人を呼び出した。

「優しくしてくれたお礼に・・・」と老婦人は多額の入金がある預金通帳を渡す。

老婦人はどうやら資産家だったらしい。

「こんなものもらえない」といいつつ、旭は一度はポケットに通帳をしまうのだった。

「あなたが・・・恋人がもう・・・この世にいないことを信じられる証拠になるかどうかは・・・わからないが・・・事情を話したら彼の身内の方が・・・これをあなたに・・・って」

旭は旭日章を渡す。

勲八等白色桐葉章
内藤一喜一等機関兵

老婦人は勲章に記されたその名に・・・ようやく・・・彼が去ったことを受け入れる気になるのだった。

駿太郎は「彼からもらった浅草寺のお守り・・・空襲でもえちゃったんだってね・・・これ、あげるから・・・機嫌なおしてよ」と新しいお守りをプレゼントするのだった。

旭は通帳を渡す。「これで遺された人生を有意義に送ってみたらどうだろう・・・すごくいい、老人ホームに入るとか・・・素敵な出会いが待っているかもしれませんぜ」

駿太郎「そうそう・・・おばあちゃんは・・・美人だもん・・・なんてったって和製フランソワーズ・アルヌール(フランスの美人女優)・・・怪獣大戦争のX星人に萌えた人もたくさんいるんだよお」

二人の若い男に囲まれて・・・老婦人は微笑んだ。

そして、はるか、太平洋の海底では白骨化したご遺体から最後の吐息のように水泡が漏れたのだった。

こうして二人の恋は終わったのである。

今も昔も、帰らぬ人々を待つ人々はいるだろう。・・・黙祷。

今回の教訓・必要経費請求のためにレシートはお忘れなく

関連するキッドのブログ→第6話のレビュー

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2012年2月27日 (月)

ああ、だから今夜だけは君を抱いていたい、明日の今頃は僕は船の中(松山ケンイチ)

清盛は二十歳前の若者である。最初の妻を熱烈に愛していたのである。

保延四年(1138年)には長男・重盛が誕生。保延五年(1139年)には次男・基盛が誕生する。

やることはやっているのである。

ちなみに・・・ドラマではうだつの上がらない風の清和源氏当主の源為義だって・・・。

長男・義朝を筆頭に・・・帯刀先生義賢、志田三郎義広、四郎左衛門頼賢、掃部助五郎頼仲、賀茂六郎為宗、八幡七郎為成、鎮西八郎為朝、九郎為仲、新宮十郎行家、十一郎泰綱、加賀十二郎有朝・・・その他男女あわせて十九名、あわせて31回以上、やっているわけである。

為義を見る目を少し変えてください。

王家ばかりでなく・・・その他のラブ・シーンはないのでしょうか・・・。

王家は祖父孫どんぶり、女性上位、同性愛となんでもありになっているのになあ・・・。

この勢いで山岸凉子の「日出処の天子」もドラマ化しないかしら・・・。厩戸王子のキャスティングが問題だけどな。本木雅弘も悪くなかったけど・・・「日出処の天子」となるとちょっと骨太すぎたしな・・・。今なら山田涼介が女装もできることを証明しているが・・・やはり男装の美少女っていう手か・・・いやいや・・・もう、いいだろう。

で、『平清盛・第8回』(NHK総合20120226PM8~)脚本・藤本有紀、演出・渡辺一貴を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は後の西行こと佐藤義清の描き下ろしイラスト大公開でございます。鳥羽院の北面の武士であった藤原北家秀郷流の風雅に優れた武士が何故、出家したのか・・・様々な憶測があるわけですが・・・松尾芭蕉の例を想起するまでもなく・・・彼が諸国巡礼の旅に出たのは忍者だったからに他なりません。歌人として名を残したのはほんのついでのことなのでございます。

Tairakiyomori06藤原頼長が内大臣に就任したのは保延二年(1136年)の暮れのことである。その時、頼長は弱冠17歳である。太政大臣、左大臣、右大臣に続く二位の官位を持つ令外官である。今ならさしずめ、総理大臣代理であり、ある意味、最高執政官なのである。高校生が総理大臣・・・すでに充分、来るところまで来ている感じがいたします。それというのも白河院が排除していた藤原摂関家を鳥羽院が復権させたことによるもの。摂関家の兄・忠通は関白・太政大臣までのぼりつめており、同じく、関白太政大臣だった父・忠実の後押しを受けての登場だが・・・一種の天才だったことは間違いないだろう。なにしろ、高校生総理大臣なのである。さて、鳥羽院と崇徳帝の寵愛を受けて身悶える佐藤義清も実は摂関家と同じく、藤原北家の流れである。しかし、藤原秀郷という武家藤原家の流れに分かれ、今や、佐藤という支流に位置するわけで・・・北面の武士として侍るのが精一杯の身分なのだった。天皇家を王家と称することが物議をかもしているようだが・・・要するに古には王家は無数にあったわけである。やがて、その中から王の王たる大王が生まれ、聖徳太子がその呼称を天子と名乗ったに過ぎない。天皇家は大王家であり、王家とは大王家の略称なのである。なぜ、物議を醸すのか全く理解不能だな。要するに本家と分家の話なのである。ただし、中臣鎌足が藤原氏を発足して以来、大王家と公家という特殊な関係が延々と続き・・・中世を経営してきたのである。そのために・・・王家の分家の方が公家より下位に置かれるという奇妙な事態が発生するのだな。天武天皇は七世紀の大王だが、その子孫が高階家なのである。だから、貧乏貴族の高階家も広義には王族なのである。清盛の室となった高階基章の娘は父が九世紀の醍醐天皇の血統である醍醐源氏の末裔であり、天武天皇・醍醐天皇のブレンドといえる。醍醐天皇の四代前の清和天皇からは清和源氏が発祥している。もちろん、清盛のライバル源義朝はその末裔である。八世紀には桓武天皇があり、桓武平氏を生んでいる。つまり、伊勢の平氏は桓武天皇の末裔であるが、清盛は白河天皇の直系でもあるわけだ。崇徳天皇が白河天皇の直系である以上、このドラマでは平清盛と崇徳帝は異母兄弟なのである。まさにこれから血で血を洗う抗争が勃発するわけで・・・王家の血脈は大騒ぎなのである・・・本当に面白いなあ・・・。

清盛は博多津にいる。安芸の水軍を支配下におさめたことにより、瀬戸内海ルートは完全に平氏のものとなり、南宋との密貿易はほぼ平家の独占事業となっている。清盛は略奪した宋船を「軍船・伊勢」と改名し、平氏交易船団の旗艦と定めた。兎丸の話によれば、元の持ち主は一族郎党皆殺しにしたので・・・他の南宋商人との商売には差し支えないということである。

博多津の唐人街は後の世ほどの規模ではないがすでに清盛に異国情緒というものを感じさせるほどの発展をしている。

上陸した清盛は平家の交易担当官とも言える平家貞(平正盛の父の代の分家系統である)の案内で花街にのりこんでいる。主人の周大人は清盛の人柄にほれて愛娘に接待を命じた。一戦終えて清盛はくつろいで寝物語を楽しむ。

「ウチは父が博多の女に産ませた娘やけん、大和姫子と申します」

「そりゃ、たいそうな名であることよ・・・」

「きよもり様は・・・帝さまのご落胤であるそうな」

「ふふふ・・・人の口に戸はたてられぬな」

「都は博多よりもにぎわっていましょうか」

「都は大きいが・・・博多のようにきらきらしくはないぞ・・・暗い大きな寺のような街だ」

「まあ・・・大きな寺ですか」

「ほんまや。我にはこの街の方がずっと性に逢うことよ」

「都には昔、大陸を追われた妖狐が棲んでいるとか」

「ほほう・・・初めて聞いたわ・・・妖狐とな・・・まあ、都は確かにもののけの棲家ではある」

「まあ、恐ろしい」

「しかし、妖狐とはいかなるものかいな」

「二千年前から生きている狐で尾が九本あるそうな。ほんで、時々、世に現れては男衆をたぶらかすのや」

「ならば・・・汝もその一族かいな」

「まあ、お口が悪い。妲己様はこんなおへちゃやのうて・・・絶世の美女に化けるらしいと」

「ふーん」

その頃、都では鳥羽院が快楽に溺れていた。美福門院藤原得子の愛戯は際立っている。大和撫子では得られない奥深い快楽に鳥羽院を誘うのである。今、果てたと思ううちに高ぶってくる衝動に鳥羽院は恐怖を感じるほどである。

「得子、そなたは・・・まるで魔性のもののようである」

「ほほほ・・・法皇様・・・これはお戯れを・・・そんな無碍なことをおっしゃるのでは・・・今宵はもうお休みになられましょうや」

「いや・・・やめてはならぬ・・・もっと・・・もっとじゃ・・・」

雪洞の明りが揺れる。御所の壁に女御の影が映る。

それはけだものの姿のように見える・・・そしてその尾はいくつにも枝分かれして・・・。

「教えてたもれ・・・そなたの真名(まな)を・・・」

「玉藻と申しまする・・・」

「たまも・・・たまも・・・おお、おおー」

その頃、相模の国で夜盗を狩っていた源義朝は郎党の鎌田政清と野宿をしていた。

二人とも熊の毛皮を身にまとっている。鎌田正清(政家)の母は義朝の乳母であった。そのために二人は乳兄弟である。鎌田氏もまた藤原北家秀郷流の一族である。この一族は奥州藤原氏とも言われみちのくとの関係が深い。熊の毛皮は先祖から伝わる防寒具である。北面の武士である佐藤義清の祖父、季清の弟が首藤助清を名乗り、相模に根を下ろし、その孫が鎌田通清を名乗った。それが正清の父であり、源為義の郎党となっている。つまり、佐藤義清と鎌田正清は遠い親戚と言える。佐藤義清は文武両道のつわものであったが、鎌田正清は豪勇のもののふであった。

二人は鎌田家の本領を襲った夜盗の群れを追跡して相模野に分け入ったのである。

「若殿・・・」

「なんじゃ・・・」

「のぶせりどもが・・・逆襲に転じたようです」

「ふふ・・・逃げ疲れたか・・・」

「10人ほどが忍びよってまいります」

「半分はまかせたぞ」

「御意」

はねおきた正清は弓をひきしぼる。

「たーっ」

太矢が飛翔し、一度に二人の盗賊を串刺しにする。

その時には義朝が抜刀して、駆け去っていた。

闇夜に盗賊たちの断末魔の叫びがあがる・・・。

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2012年2月26日 (日)

Can't Buy Me Loveとは何かということを汝に問うシスター(山田涼介)

カンガルーケアは母体の体温で新生児を保温しようという苦肉の策であったという。

しかし、母親の子供への愛情形成を主眼としてバースプランのメニューとして再構築されたという。

つまり、母体と新生児のスキンシップを奨励するの医療機関のサービスである。

そういうものまでサービス化することにあさましさを感じる人もいるだろう。

だが、そういうことで育児放棄などの心の病発症が統計的に軽減できるとしたら有意義とは言えるだろう。

まあ、キッドは給食に媚薬を混ぜて、出生率をガンガン上昇させないと、この国に未来はないとは断言しません。

だが・・・愛情形成が他人が手とり足とりサービスしないと成立しない世界では「僕にはお金で愛は買えない」とシャウトする人間は育たないのではないかと危惧するのだな。

「愛」とは不思議なもの。「愛」はそこにあるけれど「愛」はどこにもない。「愛」を手に入れようとするならば「愛」を手放さないといけない。「愛」は海。「愛」は大地。「愛」は・・・。

で、『理想の男子・第7回』(日本テレビ20120225PM9~)脚本・野島伸司、演出・中島悟を見た。息子・大地(山田涼介)を迎えに来た死んだはずの父親(金子ノブアキ)・・・実は、大地の母親・海(鈴木京香)は妊娠中の夫の浮気が許せず、離婚していたのだった。

「死んだ」と聞かされていた父親が生きていたことを知り・・・母親の洗脳が解けかける大地。だって・・・「父親が事故死したために女手ひとつで育ててくれた母ちゃんの神話」が根底から覆ったのである。

虚言を弄するからノイローゼなのか、ノイローゼだから虚言を弄するのか・・・またしても海は母親の階段を下るのである。

「出産の時は医者に勧められてカンガルーケアにトライしたんだけど・・・赤ちゃんに愛情を感じるどころの騒ぎじゃなかったのよ・・・離婚後の生活設計に追われていたんですものーーーっ」なのである。

そんな海だけに大地から「父親が出世して・・・迎えにやってきた」と聞かされて心ウキウキなのである。長い歳月によって意地もプライドも枯れ果てたらしい。

しかし、大地の父親はすでに別の女性と結婚、新しい妻に子供ができないために「大地」だけを迎えに来たのだった。

その上で大地を3000万円で買い取りたいと海に申し出る元・夫。海は息子と3000万円を天秤にかけて・・・3000万円を選択である。だって中古ならそこそこの一戸建てが買えるんだもん・・・なのである。

しかし・・・父親が自分だけを迎えに来たと知った大地は「母ちゃんを愛していない父ちゃんは俺には必要ありません」ときっぱりなのである。

空気のようなエロ男爵・・・隣人の倉橋さん(沢村一樹)も惚れる男らしさなのだな。一回くらいは記述しておかないとな。出演していたことを忘却しそうだからな。

一方、城国商業高校の真のボスであるジャイアント・パンダ・・・じゃなくて班田(RED RICE「11人もいる!」のサムからここへ来た湘南乃風のリーダー)は少年刑務所を出所。かっての不良仲間の更生を絶対に認めたくない彼は・・・かっての悪友・三船(藤ヶ谷太輔)を求めて海王工業高校を金狼(林遣都)たち手下を率いて急襲するのだった。

三船を不良の魔手から守るために内山(武田航平)たちは防衛陣を形成・・・アニマル四天王を配置して迎撃態勢を整える。

一方、息子を金で売ってしまった自分を自己正当化するために・・・自分に盲目的に優しい三船を訪ねた海は三船とともに最後の砦と化したボクシング部に閉じ込められてしまう。

鍼灸師の息子である班田は針によるペイン・コントロールで無痛覚人間となり、一切の攻撃を無効化できるのである。・・・まあ、痛くなくてもダメージはあるわけだが。

さしものアニマル四天王も撃破され・・・絶体絶命のピンチ。

しかもネズミから伝書鳩に転生した小林(中島裕翔)が金狼の策略で三船の居場所をもらしてしまうのだった。

しかし、「妻の妊娠中に浮気をしてしまうような穢れた父親の血」を丹波兄妹(脇知弘・三吉彩花)のコスプレ・コーナーでシスター女装によって洗礼的お清めした大地が到着する。

三船の「顎が奴の弱点だ」というアドバイスを受け・・・大地がくりだしたのは・・・。

マザコン・カンガルー・アッパー・・・オーストラリアつながりで・・・だった。

つまり・・・カンガルーケアは・・・母には無効だったが・・・息子には有効だったのである。

カンガルーケアは洗脳の一種だということです。

本能的にこのままでは立場が危ういと悟った海は小切手を破り捨て・・・いつわりの母の愛パンチで失神しそうな大地に覚醒を即す。愛なんて嘘か実かわからないものだもんね。

大団円である。もはや語る言葉もない。

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2012年2月25日 (土)

なにもいらないわたしがいまほんとうにほしいものなどただひとつただひとつだけ・・・ってあるのかよっ(松岡昌宏)

朝のドラマの主題歌は・・・最初の方のパートと後半の方のパートに分かれているのだが・・・後半の方を耳にすると・・・ツッコミを入れずにはいられないのだな。

いや・・・キッドのブログの再開と「カーネーション」の開始がずれていて・・・レビューできないので・・・この点だけは言ってみたかった・・・なにしろ谷間なのである。

・・・とはいうものの・・・今回は前回のフィールドの分析に続いてスケジュールの分析をしてみたいと考えている。

そういう意味では主人公が刑事と言えども・・・公務員である以上、朝のドラマを見て・・・出勤というスケジュールは充分に考えられるのである。

だから、キッドの妄想上では小暮鉄平(松岡昌宏)は朝、出勤前に・・・「ってあるのかよっ」とつぶやく可能性があるのである。

そして・・・「面倒くさい女だな・・・こいつ」と考えたりするのだと思う。

で、『13歳のハローワーク・第7回』(20120224PM1115~テレビ朝日)原作・村上龍、脚本・大石哲也、演出・高橋伸之を見た。脚本家がチーフ・ライターに戻り、連続ドラマとしては佳境に入ってきたのである。スケジュール的には今回を入れて後、3回らしい。そのためにここまでルーティン(約束された手続き)として続けてきた一話完結を脱している。ちなみに一話完結もスケジュールの一種である。その時間割はさまざまだが、簡単に起承転結で振り返ってみよう。

起・・・小暮がいつものように過去に戻る。

承・・・過去で新たな人間関係と遭遇する。

転・・・新たな人間関係がなんらかの進展をみせる。

結・・・小暮鉄平が未来に帰還する。

これが一話完結の基本的なスケジュールである。

もちろん・・・このドラマを時間割で分析することは普通のドラマよりやや複雑だということができる。

時間の流れが一定ではないのである。2012年に始まったドラマが1990年に逆戻りして、ふたたび2012年で終わる。ただし、こういうドラマは特異なものではない・・・現代から回想の過去に戻り、再び現代に戻って終わるのはごくありふれた手法である。

本来はこの時間の流れがタイムトラベルものではひとつの面白みになるわけだが・・・本作はあまり、そのへんにこだわらない。

臨機応変でスケジュールを調節するのである。

これまでは・・・2012年から1990年にタイムスリップした小暮鉄平の主観時間と、2012年の時間は全く問題にされてこなかった。つまり、小暮鉄平が1990年でどのような時間を過ごそうと2012年では問題が発生していないのである。つまり・・・無断欠勤のような問題が発生しないことから・・・1990年で何時間経過しても2012年の小暮の不在は一瞬の出来事として処理されてきたのである。

ところが・・・今回は怪しいハローワーク職員(滝藤賢一)は「過去の時間経過は未来の時間経過と連動する」と言いだすのであった。要するになんでもありなのだな。

つまり、スケジュールの変更である。

未来を1月1日に出発し、過去で二泊三日を過ごすと未来に帰還するのは1月3日になるということだ。そんなこと突然言われても普通は困るのだが・・・作者はそういうご都合主義を全く気にしないタイプなのだな。そして・・・そもそも小暮鉄平の時間旅行がファンタジー色の強いものだから・・・クレームつけるのも大人気ないというものなのである。

さて、スケジュールにはいくつかのポイントがある。その一つが辻褄の問題だ。なるべく因果応報である方が物語をリアルに表現できる。

つまり、性交したので妊娠した。というスケジュールである。これが妊娠したので性交したということになると説明が必要になってくる。たとえば・・・妊娠したのはその前に性交したからだというようなことだな。じゃあ、結局、性交したから妊娠したんじゃないかっ・・・といらだつことがあるわけである。

次に省略の問題だ。本来、小暮鉄平を人間と考えた場合、起床、洗面、朝食、排便、「カーネーション」、整髪、歯磨き、場合によって入浴、着衣、玄関をあける、鍵をかける、通勤開始・・・というようなスケジュールが続くわけだが、ドラマではいきなり職場にいてもいいのである。

今回は何やら秘めた思いがあるらしい仁科佳奈(沢木ルカ)と主人公が警視庁芝浦警察署で出勤途上に遭遇するというスケジュールである。

もちろん、主人公に限らず登場人物たちにはそれぞれにスケジュールがある。仁科佳奈もまた、起床、洗面、排便、「カーネーション」、整髪、歯磨き、場合によって入浴・・・というスケジュールを消化して・・・主人公と遭遇しているわけである。

すべての登場人物たちのスケジュールを緻密に設定することが重要な場合もあるが・・・ほとんどの脚本家はそれほど潤沢な時間を与えられていないので・・・ある程度、適当にフィールド内でスケジュールを調整する。

だから多くの登場人物たちは空腹感や睡眠不足、さらには排便欲求に悩まされているのが普通なのである。いや・・・登場しないときは自由に生きているだろう・・・という考え方もあります。

ともかく・・・そういうスケジュールの中で・・・2012年の自分の立場を改変するために1990年の過去の自分である鉄平(田中偉登)を改変しようとする小暮の目論見は悉く失敗しているというのがこれまでのスケジュールである。

しかし、過去における時間の消費が未来に加算されないシステムではスケジュール的に問題なかったのである。

今回は2012年に突然、人事異動のための面接というスケジュールが組み込まれ、それが「警視庁捜査一課に異動」という小暮の願望に沿うものであったことから・・・なんとかスケジュールを予定通りに消化したいという主人公の目標が設定される。

ところが・・・怪しいハローワーク職員は新システムを宣言し・・・過去にタイムスリップした小暮は突然、スケジュールに追われることになるのだった。

なんとしても・・・約束の時間までには未来に戻らなければ・・・そのための悪戦苦闘が物語の主軸になってくる。

しかし・・・何日も無断欠勤したんじゃ・・・異動とか・・・そういう問題じゃないだろうという率直な感想は頑として受け付けない方針らしい。・・・まあ、なんでもありの作者に何を言っても馬の耳に念仏である。

今回は「自家営業のカレーライス屋」を目指す学生ベンチャー企業と、そのアイディアや企業秘密を買収しようとする大手商社との提携やら敵対やらが描かれる。1990年の高野(横山裕)と翔子(真野翔子)の恋のスケジュールも進展しているわけだが・・・なにしろ・・・穴に入れられてああんなのである・・・耳かきの話ですがね・・・そういうことはお構いなく主人公はなんらかのアクションをおこして未来に帰りたいというスケジュールなのである。

しかし・・・今回の問題を解決しても・・・まあ、何が解決なのかも不明なのだが・・・未来への扉は開かれない。

つまり・・・。

起・・・小暮がいつものように過去に戻る。

承・・・過去で新たな人間関係と遭遇する。

転・・・新たな人間関係がなんらかの進展をみせる。

結・・・小暮鉄平が未来に帰還できない。

という大幅なスケジュールの変更があったわけだ。

もちろん・・・2012年には高野(古田新太)になってしまうスケジュールがあり、そして翔子もなんらかのスケジュールを消化しているわけである。

まあ・・・このドラマは「人間にとって仕事とは何か?」という深遠なテーマを掲げているわけだが・・・ここまではスケジュール的にそれほど深淵な仕事を作家がしているとは考えられないわけで・・・結局、隠されている翔子のスケジュールが一番、気になるところなのである。

そのスケジュールの面白さがこのドラマの成否を決めるわけだな。

結局、ドラマとは登場人物のスケジュールをお茶の間に伝えることでしかないのだから。

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2012年2月24日 (金)

あなたは笑顔の方が素敵・・・たとえ動機が不純なんだわとしても(山下智久)

うわーっ、暴投なのに・・・ど真ん中の直球である。

すごく、まともだし、ぶっかけないし、もう、これ、あれだね。

いつもだったら・・・校長先生(竜雷太)は・・・児童に悪戯して懲戒免職・・・でも、晴香(前田敦子)にとっては良い先生でした・・・ってことだろう。

まあ・・・ソーシャル・ネットワークのようなサイトでたまたま・・・杉並区の葬儀社関係者同志が出会うというウルトラスーパーデラックスな運命の挿入もあるけどね。

とにかく・・・もう、普通のいいドラマなのである。・・・でございましょう?

今回の主軸は空気が読めない仕出し弁当屋の村内緑(松本じゅん)・・・村内弥生(橋本真実)の母・・・だな。突然登場しましたーっ・・・シリーズである。

まあ・・・みんながぶっかけを待ち構えているとすかす・・・というコレもいつもの「手」なんだな。

まあ、意地でも続けろとは申しませんけれど。

なにしろ・・・井原家に喧嘩の種がなくなってしいましたからーっ・・・いいのか、それで。

で、『最高の人生の終り方〜エンディングプランナー〜・第7回』(TBSテレビ20120223PM9~)脚本・渡辺千穂、演出・山室大輔を見た。今回は田中さん(大友康平)の回だったのかと思うほど活躍が目立ったな・・・いや、もちろん、今回の主役は上の妹の晴香だけどもさ。最初にことわっておくけど、俺とドラマの中の俺は別人です。単なるなりすましですから。でも、ドラマの中の登場人物に感情移入するのは結局、同じことなんだよね。どうせならキッドの多重人格の中の山P的な擬似人格が語った方が楽しんでもらえるんじゃないかな・・・ということです。

で・・・最初からの狙いなのか・・・諸事情によるのか・・・今回は①醤油、②牛乳、③ラーメン、④麦茶、⑤生チョコとクリーム、⑥麦茶と続いた井原家のぶっかけの歴史も幕を閉じたのである。こういう食材を使った展開に不快感を感じる人って節分の豆まきとかにもいらだつのだろうか・・・一種の病気だよねえ。

まあ、お茶の間様は神様だからなあ。

しかし・・・まあ・・・兄貴も帰って来たし、弟や妹の事件も解決して・・・井原家に騒動の種がなくなったのも確かだし・・・あえて見せ場を作らないというのも充分にセオリー通りです。

そうきたか・・・っていう感じですよね。

さて・・・第一話から登場している晴香のネット上のGoogle+・・・そこで晴香は「食べ歩きとジョギングが趣味の23歳のOL」という架空の人格を演じているんだよ。そして・・・第三話ではサイトを通じて知り合った実名でコメントする男・26歳のサービス業者・一之瀬さん(駿河太郎)と誕生日デートを計画する。しかし、遅刻した晴香に「走ってやってくるあなたの姿を想像している」なんて一之瀬さんがメールするもんだから・・・足の不自由な晴香は・・・待ち合わせ場所へ向かう道を途中で引き返してしまったんだ。それから第四話では大手葬儀社「セレモニーホール太陽」にお勤めの実在の一之瀬さんとニアミスしてしまう。実在の一之瀬さんも・・・まあ・・・仕事が葬儀サービスであるということは隠しているわけなんだな。

つまり・・・とんでもないタマを投げる脚本家だけどフリは丁寧に着実にしているってことです。

とにかく・・・「あれ以来・・・メッセージがなくて・・・僕は嫌われてしまったかな」なんてコメントしてきた一之瀬さんに・・・晴香は「ごめんなさい、あの時は急に具合が悪くなって・・・」なんて嘘のコメントを重ねてしまう。

せっかくの気晴らしの仮想人格がこれじゃ・・・本末転倒だよねえ。その手元には「ご家族の幸せを見守るラッキーアイテム」というよつばのクローバーのアクセサリーが・・・晴香・・・怪しい宗教にはまるのか・・・なんてね。

だけど・・・家族の前ではいつもの晴香。健人兄ちゃん(反町隆史)も帰ってきて、隼人(知念侑李)もバイトに励む大学生、桃子(大野いと)も教師との不適切な関係を清算して普通の女子高生に戻り・・・井原家の朝食は和気あいあいなのだ。

和食好きな兄貴のために朝ごはんである。桃子は「私はパンがいいのに」とむくれかけるが・・・ぶっかけチャンスではある・・・「ごはんおいしいじゃないか」と健人兄貴が言えばみんな和むしかないのである。

この後、健人兄ちゃんはまたしても消息不明になるわけだけど・・・みんながそれほど騒がないのは・・・いつものことだからなんだよ・・・念のため。

だけど・・・俺は前回の兄貴の家出がいつもと違っていたような・・・そんな胸騒ぎは感じているんだけどさ。

さて、その日は「誰にでもわかるお葬式の説明会」の当日だったのだ。会場で合流する予定の兄貴は来ないし、参加者はちらほらだし・・・なんと・・・大手葬儀社「セレモニーホール太陽」もおなじような事前説明会をしていて・・・こちらはお茶菓子、向こうは豪華弁当なので・・・差をつけられてしまったのだな。

でも・・・その会場に晴香の杉並区立梅里小学校(フィクション)時代の校長先生の白井さん(竜雷太)がやってきたことで・・・晴香の心に変化が生まれることになるんだな。でも、そのためには白井さんはこの世を去る必要があったらしい。

だけど、その時は、そんなことになるとは夢にも思わず、校長先生が「孤独死」を恐れていることで・・・田中さんと緑さんの出番が確保されたのだ。

校長「井原屋さんにお願いするにはどうすればいいんですか」

田中「近所の方に伝えておいてもらうといいですね」

緑「でも死ぬ死ぬって言いにくいわよね」

弥生「・・・お母さんっ」

田中「その場合はもしもの場合の連絡先をお書きになっていただくとよろしいですね」

緑「でも、壁に葬儀社の電話番号書いておくってのもなんだわよね」

弥生「・・・お母さんったらあ」

まあ、今回、唯一の普通の笑いどころである。

まあ、本当は笑いのポイントはたくさんあるのだが・・・一般人には気づかれにくい隠しアイテムのような構成なんだな、これが。おしゃれすぎじゃないですかっ。

校長「教え子の成長を見るのは教師の幸せ・・・今でもラッキーアイテムはよつばのクローバーかな?」

なんて校長先生は晴香のことをよく覚えている。すごくいい先生なんだな・・・これが。

しかし、その後、敵情視察に出向いた俺と晴香は弁当を持った校長先生と再会するのだった。

しかも・・・後に判明するのだが校長先生は「セレモニーホール太陽」に葬儀の手配を依頼登録しているのだった・・・校長先生っ。

だが・・・そんな校長先生の裏切り行為がいけなかったのか・・・校長先生は不慮の死に見舞われるのだった。

その夜の夕食時になっても健人兄貴は帰宅せず・・・晴香が手抜きでメニューは焼きそば大盛りだったので・・・隼人は不満顔だったが・・・ぶっかけチャンスか・・・桃子が「お兄ちゃんの分まで食べちゃっていいよね」と食欲を露わにしたのでことなきを得たのだった。

そして・・・その頃、妻に先立たれて一人暮らしの校長先生は指名手配中の連続強盗殺人犯・小島清文に自宅を襲撃されていたのだった。だが、さすがはゴリゴリのゴリさんである・・・校長先生は命を奪われつつ、相手の毛髪を鷲掴みで引き抜いていたのである。これによって・・・犯人は特定されたのだった。

それはともかく・・・坂巻刑事(榮倉奈々)から連絡を受けた俺と晴香は遺体の一時保管を請け負った。変わり果てた校長先生の姿に晴香はショックの色を隠せない。

そこで「これじゃ・・・儲けが出ないな」とつぶやく一之瀬さんに遭遇。晴香は怒りと悲しみを爆発させるんだな。

「ざけんじゃないよ・・・葬儀をなんだと思っているのさ」

「仕事ですよ」

「仕事だったら真心こめてやりなさいよ」

「仕事だから赤字はだせないんです」

晴香の気持ちもわかるけど・・・これでは八つ当たり・・・。

「すみません・・・妹が失礼なことを」

「井原屋さん・・・」

「校長先生の葬儀はウチでお引き受けします・・・」

「お願いします」

後からわかったんだけど・・・校長先生は「お別れ会」のための預金を残していたのである。だから・・・香典を遠慮しても充分のビジネスになりました。情けは他人のためならず・・・ってこういうことだよね。時には感情的になることが利益を生むっていうか・・・違うかな?

まあ、それはそれとして・・・遺品整理業という業者もいるわけだけど・・・今回は晴香の「真心」を形にしてやるためにも・・・校長先生の遺品整理も請け負ってしまいました。

一人暮らしの上に・・・強盗殺人犯に荒らされた室内は結構凄いことになったけど・・・身寄りのない人が去った後はだれかが片付けなきゃならないってことなんだよな。

そこで発見したアルバムに幼い晴香(宮野ここね)の姿があった。

運動会の写真である。「私・・・足が悪いことを子供の頃には気にしてなかったんだよね・・・でも・・・運動会で赤組と白組に分かれた時に・・・同じ赤組の子に言われちゃったんだ・・・晴香ちゃんは・・・走れないのに人数に勘定されるんだ・・・って。ああ・・・自分は余計者なんだって・・・その時、はじめて気がついたんだ」

そいつの名前を言ってごらん。お兄ちゃんが今からぶん殴ってきてやる・・・とは言えず・・・俺はかける言葉もなかったよ・・・。

とにかく・・・俺たちは遺品を整理したよ。衣類とか・・・写真とか・・・手紙とか・・・年賀状とか。

その頃、兄貴は・・・何故か・・・認知症的な症状を示し・・・たまたま、交番にいた坂巻刑事に保護されていた。もちろん・・・後から坂巻刑事に聞いた話だけどね。とにかく・・・兄貴は自分の身に何が起こったのか・・・グッドライフ的に坂巻刑事に頼み込んだらしい・・・。「家族には内緒にしてくれ・・・」と。

ああ・・・気を使っていいたいこともいえないこんな世の中じゃってことなのかい。

兄貴・・・水臭いよ。

一方、田中さんが忘れて行った火葬許可証を届けに行った晴香が消し忘れていたパソコンの画面を隼人が発見してしまう。ああ・・・もちろん、兄として弟妹をストーカーしている俺は最初から知っていたことだけどね。

桃子もやってきて・・・晴香の仮想人格は明るみに出てしまったのだ。

そこへ・・・晴香が帰ってきて・・・気まずいことに・・・。

そして・・・たまたまその日にオムライスを食べていた一之瀬さんから名刺をもらった晴香は彼があの一之瀬さんだと気がついてしまったのだ。

「今日・・・おいしいオムライスを発見・・・ある人から仕事は真心をこめてやるものだと言われてしまった・・・目先の利益に追われていると・・・つい忘れがちですが・・・なんだか・・・目が覚めたような気がしました・・・」

それを言ったのが自分だと・・・晴香が言えるはずもない。なにしろ・・・基本的にウソをついているわけだから。何を言ったってウソくさくなるじゃないか・・・。

「どうせ・・・心の中で笑ってるんでしょ・・・私はしょうがなくてしょうがないんだから」

「しょうがなくって・・・そんな」

「どうせあきらめてるのよ」

「あきらめてるって・・・」

「どうせ、私の気持ちなんか誰にもわからない」

部屋に引きこもってしまった晴香のせいで弟と妹にカップラーメンを分け与えると俺にはミカンしかなかったんだな。

で・・・岩田さん(山崎努)の登場である。

「人の心を深夜ドラマの火田七瀬のように全部見抜けたら恐ろしいよ。レントゲンみたいに心がのぞけたら・・・それこそ老若男女を問わず・・・街は骸骨だらけになっちまうんだからねえ」

「いや・・・それは単にレントゲン・アイでしょう・・・調節がうまくいけば裸も見れるという」

「それはともかくとして・・・ウソは必要だよ・・・誰だってどんな家族だってウソでなんとかやりくりしてるんだ・・・俺なんてウソがコート着て歩いてるみたいなもんだ・・・」

「そんなそれじゃ・・・詐欺師か幽霊みたいじゃないですか」

「でもさ・・・ウソだって誰かが信じてやれば・・・本当みたいなもんだろう」

「過剰な親切心ですか・・・」

「そうさ・・・ウソからでた真実(まこと)ってやつをやってみろ」

「なるほど」

もはや、俺と岩田さんは阿吽の呼吸なのだな。

次の日、どういう風の吹きまわしか・・・せっかくの休日に俺の手伝いをしてくれるという坂巻刑事と遺品整理と言う名の探し物を始めた俺。実は・・・坂巻刑事は兄貴の入院という秘密を持てあましていたんだよな。好きな人にウソをつくって苦しいものな。だって・・・もう・・・坂巻刑事は俺のことが好きで好きで・・・どうして台車に乗せてくれないの・・・私の嘔吐を受け止めて状態なんだから。

で・・・俺は校長先生へ送った晴香の年賀状を探り当てた。下手な鉄砲も数撃ちゃあたるってね。

その頃・・・晴香は何かあったら連絡してくださいという有給休暇をとって・・・それって休暇になるのかよ・・・一人街をさまよっていたんだ。

街は幸せそうなカップルだらけ。

かっこかっこかっこつけて・・・ロックンロール・ウィドウ(未亡人)気どりかよっ・・・。

最初から恋人をあきらめて・・・最初から恋人は死んでるんだって・・・。

妹がそんな気持ちじゃ・・・兄ちゃんが泣きたくなるよ・・・。

桃子みたいに相手を選ばずに恋をするのも考えものだけど・・・。

誰だって恋する権利はあるんだぜって言ってやりたいよ。

俺は妹の後姿を見つめながら(ストーカー中)・・・そんなことを考えたんだ。

ここで親父の遺言コーナーです。

晴香への・・・言葉は・・・。

幼いころ 親の不注意で事故に遭わせてしまい

後遺症を残してしまった事を

心から申し訳なく思っている。

うん・・・それはもうあやまるしかないものな。

でも俺は兄だから・・・もう少しなんとかしてやりたいんだよ。

だから・・・俺は桃子や隼人と一緒に我が家の倉庫を捜索したんだ。

そして、ついに、すごくいい感じの達成感を感じる隼人や心がいっぱいになった充実感を感じる桃子とともに校長先生から桃子への年賀状を掘り当てたのだった。

二枚の年賀状は・・・校長先生と桃子をつなぐ・・・失われた記憶だったんだな。

心に葛藤を抱えた晴香を隼人と桃子は特性「でか肉団子」でもてなすのだった。肉団子はドキドキしながらぶっかけられる時を待ったがそれは杞憂だった。

だって・・・俺も隼人も桃子も恋の応援団モードだったんだから。

晴香はなんだか戸惑っていたけれど冷えた心には温かい鍋が一番だからね。

そして・・・翌日・・・桃子や隼人に「逝ってらっしゃい」と送りだされ「校長先生のお別れ会」を前にちょっと寄り道して俺は晴香を思い出の小学校に連れ出したのさ。

「昔は・・・お兄ちゃんがんばって・・・ってよく応援してくれたよな」

「・・・」

「これ・・・見つけちゃった」

最初は晴香から校長先生へ。

「私はよつばのクローバーがラッキーアイテムになりました」

そして、校長先生から晴香へ。

「運動会の時の応援団長、御苦労さまでした。晴香ちゃんの大きな声の応援で赤組は見事に勝利しましたね。校長先生は晴香ちゃんは凄いと思いましたよ」

晴香はじっと二枚の年賀状を見つめていた。

「晴香がもしも走ることができたら・・・意外と鈍足で赤組は負けていたかもしれない・・・でも晴香は走れなくても応援できたじゃん・・・晴香がしょうがないからしょうがなく・・・家族のためにしてくれたこと・・・ごはんを作り、稼業を手伝い・・・そういうことに俺はすごく感謝している・・・たとえ・・・それがいろいろなことをあきらめた結果だとしても・・・俺は晴香がいてくれて本当によかったよ・・・だって・・・晴香が優しいのはウソじゃなくて本当のことだろう・・・それがしょうがいからしょうがなくて生まれた優しさだったとしてもさ・・・」

「よつばのクローバーはね・・・校長先生がクラスのみんなと捜してくれたご褒美だったんだ・・・応援団長として頑張ったからって・・・私・・・そのことを忘れていたよ・・・校長先生は覚えていたんだねえ」

「本当に児童思いの校長先生だったんだね・・・ま、晴香は特別にかわいいから・・・贔屓していたのかもしれないけどねえ」

「えへへ・・・」

「な、走れなくたって・・・葬儀屋だって・・・晴香は優しい女の子だろ」

「うん・・・わかった」

俺は泣きじゃくる晴香の肩をそっと抱きました。

でも・・・ここからが兄貴としての余計なお世話の見せ所なんだな。

なんと・・・一之瀬さんのところへ行っちゃいました。もう・・・ギャンブルだけどな・・・でも職場で葬儀を奪い合ううちに・・・俺はなんとなく一之瀬さんの人柄がわかっちゃったんだ。なにしろ、好敵手だからね。つまり・・・こいつは悪い奴じゃないってこと。

なにしろ・・・独立を考えたりする場合、晴香はうってつけの嫁候補なのである。だって葬儀社同志だもん。

俺の招待を受けて・・・「校長先生を送る会」にやってきた一之瀬さん。

「どうして・・・」と絶句する晴香。

「お兄さんに・・・誘われました・・・いいセレモニーですね・・・僕も真心のある仕事をしたくなりました」

「・・・」

「よかったら・・・少し散歩しませんか・・・ゆっくりと歩けばゆっくりと話ができるから」

こうして・・・二人は春の気配がする街の中へ去って行った。その後姿(ストーカー中)に俺は晴香と一之瀬さんの恋の芽生えを感じたんだよ。まあ、兄貴としてはちょっと複雑なんだけど。

街には・・・校長先生が生前に愛した・・・チャップリンが作曲してナット・キング・コールが歌う「スマイル」(1954年)が流れていたよ。

笑ってよ 本当はいやでいやでしかたなくても

笑ってよ 本当はすぐに死にたい気分でも

どんなに困難で暗雲たちこめていても

スマイルしていれば心配ないからね

スマイルしていれば

君がスマイルしていれば

本当の悲しみが根負けするはず

いつのまにか本当にうれしくなってくるだろう

そして世界もスマイルしてしまうんだ

君がスマイルを忘れなければ

太陽だって君に微笑むのさ

泣いている君よりも

スマイルしている君の方が

最後に勝つんだよ

信じておくれ

最後にスマイルが勝つってことを・・・。

スマイルしてよ、僕のために

スマイルしてごらん君のために

まあ、みんなが、この曲をパクっていることは一目瞭然だよね。

みんなは校長先生は最高の人生の終り方をしたのかどうか、疑問に思うかもしれないけど・・・校長先生の優しさが晴香の中に生きているってこと・・・俺は忘れない。そして、少しだけ俺も「優しさ」を残す手伝いができたってこと。優しさっていう影も形もないものを伝えるのって難しいけど・・・チャレンジしてみる価値はあるんじゃないかな。

その夜・・・坂巻刑事が葬儀の井原屋にやってきた。何しに来たって・・・そりゃ、来週は私が主役よって言いにきたんだろう。

俺たちは流れ星にお願いしたよ。

どうか視聴率があがりますように。

兄弟姉妹が笑顔でくらせますように。

どうか視聴率があがりますように。

そんな二人を岩田さんはそっと見つめていた。

俺は気がつかないフリをしたんだ・・・だって二人はこれからいいところなんだから。

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Hc2012001じいや「エリお嬢様、今年は2~4週間、開花が遅れていると『梅まつり開催中』の百花園(梅屋敷)の管理人がこぼしておりましたぞ・・・お屋敷のドーム型桜庭園を気候調節して早咲きの桜を満開にしましたのでご鑑賞くださりませ」エリ「最近、FC2ブログは障害多いのよね~、困りましたわ~」アンナ「最近は別荘でのんびりしているぴょん」まこ「今回は寺内貫太郎ごっこがなくて・・・残念でごじゃりましゅ~。でも、晴香が≪23歳。葬儀屋<( ̄^ ̄)>エッヘン≫とカミングアウトしてよかったのでしゅ~」お気楽「ただ今、お気楽ビルを改築中、もうしばらく待っててね」ikasama4「とにかく・・・カーネーションがめでたく終幕するまでは毎日更新なので・・・ゆっくりお花見もできませんな・・・(; ̄∀ ̄)ゞ・・・ロイドの設計なんてとてもとても」

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2012年2月23日 (木)

ダンボールって呼ばれてます。(桜庭ななみ)

たぶん・・・なあ・・・なんていうか・・・おふざけ℃で言えば・・・「時効警察」に一番近いノリなのかもしれない・・・って先週あたりから思いだした。

もちろん・・・実際の事件・・・しかも迷宮入りになった凶悪事件を・・・実際に解決してしまうという・・・「時効警察」とはポテンシャルが違いすぎるという部分はある。

しかし、全体を通じるゆるさにはかなり近いものがあるんだな。

だけど刑事ドラマ全盛期にあって・・・あのゆるさが貴重だったことは明らかで・・・。

大学を舞台にした青春ものがまるっきりないところで・・・突然ゆるくされても・・・どうしていいのかわからないと思うのだな。

暗い21世紀の始まりにあって・・・どこか浮世離れした大学生と教授たち・・・。

まあ・・・心からそれを楽しめないのは・・・キッドが老いた証拠かもしれないなあ。

でも・・・「中年夫婦のリフレッシュ対策としての狂言下着泥棒を一目ぼれ体質のクワコーがスタイリッシュなジンジンの助けを借りて解明する」・・・ことに徹頭徹尾魅力を感じないのだ~・・・どうしよう。

今回、面白かったのはジンジンが張り込みのためにダンボール・ハウスを仮設してしまうというギャグ一点。

まさに一点豪華主義なドラマだよな。

トリックの上田と山田。もげっの桃子と大友さん。時効の霧山と三日月。

どのカップルも恋愛モードにいきそうでいかない・・・でも・・・きっと・・・ねえ・・・という感じが成功の秘訣だと思う。

そういう擬似恋愛モードになんとなくくすぐられるのが人情なのである。

えーと、クワコーとジンジンにその気配はあるのか。

なくてもせめて・・・ダンボールハウスでジンジンの着替えをクワコーがうっかりのぞいちゃうとか

せっかくスウェット出すならそういうサービス精神があってしかるべきっ。

トリックでは刑事コンビ、もげっでは葬儀屋の皆さん、時効ではまあ、署員一同。

箸休めのポイントにもことかかなかった。倉科カナと升毅は健闘しているが・・・弱いんだよっ。

ジンジン・・・クワコーのことが・・・何故か好きなんだな・・・という強引な展開に持っていくしかないと思います。

で、『妄想捜査〜桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活・第5回』(テレビ朝日20120219PM2315~)脚本・森ハヤシ、演出・七高剛を見た。ミスたらちね(谷澤恵里香)ぐらい・・・ジンジンも体を張ってくれたら・・・と思う今日この頃です。いっそ・・・「ダンボール・ガールのスタイリッシュな生活」で最初からやり直せば・・・いや、マスターいやアソシエイト・プロフェッサー(佐藤隆太)もいい味出しているけどね。これで視聴率*6.3%は恩の字だよな・・・以上。

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(本記事です・・・念のため)

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2012年2月22日 (水)

外面如菩薩内面如夜叉の如く紅蓮の炎に包まれた十一面観音菩薩が十一面荒神に退行し紅蓮菩薩と化した時、震えた乙女(木南晴夏)

原作では「水蜜桃」→「紅蓮菩薩」という順になっている。続編である「七瀬ふたたび」の萌芽がこの二作には色濃い。七瀬がミュータント(突然変異種)として人類に対して「生き残りをかけた戦い」を挑むからである。もっともそれはあくまで正当防衛のスタイルである。

「水蜜桃」では貞操の危機を回避するために強姦者をテレパシー能力を駆使して精神崩壊に追い込む。そして「紅蓮菩薩」では心理学者の追及を回避するためにその妻の秘められた嫉妬の炎に点火して母子心中に追い込むのである。

ドラマ化にあたって嫉妬に狂った妻が「赤ん坊を殺して風呂場で自殺した」という結末はやや難解かあるいは刺激的すぎると考えられたのであろう。ドラマの結末はやや曖昧な展開で余韻を残している。

原作中にも妻が夫に殺意を抱く描写があり、もう一つ別の可能性としては成立するラスト・シーンではある。

もちろん、描写はされないが、ドラマ版では妻は夫を刺殺した後で、赤ん坊も殺し、そして自殺するのである。

原作では夫は殺害されないが・・・母子心中というスキャンダルに追われて・・・七瀬を追求する余裕がなくなるのである。

「この子を殺して私も死ぬ」は古典的な妻の怒りの表明だがそれを伝える相手が夫であるために夫が生き残る・・・この理不尽さを納得できない・・・愚鈍なお茶の間のためにも無難な展開だったと考える。

ちなみに紅蓮は燃え盛る炎の色にたとえられるが・・・仏教における紅蓮地獄とは八寒地獄の一つで極寒により、皮膚が裂けて流血し紅蓮華の如くになるというものである。原作タイトルの「紅蓮菩薩」とは菩薩のような人が嫉妬による憤怒の炎に包まれて燃え上がっているような呪われた光景を七瀬が幻視することによるものである。紅蓮菩薩という菩薩は存在しませんので念のため。ただし、十一面観音菩薩は右手に数珠、左手に紅蓮を携えている。また菩薩は星の数ほど存在するので無名の紅蓮菩薩が存在しないとも断言できない。

現代社会では種の多様性を「善」とするのが生き残り戦略の主流であるが、種の存亡をかけて敵対することが「悪」であるとも断定できない支流もあり、七瀬をめぐる物語はもちろん、その悲劇的側面を内包しているのである。

で、『家族八景 Nanase,Telepathy Girl's Ballad・第五話・紅蓮菩薩(ぐれんぼさつ)』(TBSテレビ20120208AM0055~)原作・筒井康隆、脚本・佐藤二朗、演出・深迫康之を見た。再び、佐藤二朗脚本である。そうなると登場人物一同が佐藤二朗化してしまうので少しフィルターをかけないとちょっと気持ち悪くなるのである。普通の人に混じってこその佐藤二朗だからな。全人類が桜金造になった世界も不気味だけどな。

駅前から山手に登って五分ほどの新しい住宅地の中、アメリカ式に前庭へ芝生を植えた開放的な他の住宅地と違い、一メートルあまりの石垣の上に建てられ高いブロック塀に囲まれた」根岸家が家政婦・七瀬(木南晴夏)の新たなる住み込み先である。この描写で表象されるのは無論、根岸家の閉鎖性である。ドラマではシンメトリーな花壇がその変形として示される。鏡面的な左右対称もまた一種の閉鎖性を示しているからだ。七瀬が掛け金をはずして心を読む時の心象風景は今回、相手が水着になることで示される。そのスタイルはリゾート地におけるトロピカルなムードも込められており、解放を求めつつ、サングラスで眼を隠すという複雑な閉鎖性を視覚化していると思われる。

根岸家もまた「青春賛歌」の河原家と同様にインテリジェンスが高い家庭である。夫の新三(眞島秀和)は大学で心理学の助教授をしており、妻の菊子(井村空美)は原作では同期生と言う設定であった。ドラマでは新三(36)、菊子(29)になっており、おそらく心理学教室の先輩、後輩なのであろう。

実際には新三の1970年代にはまだ普遍的だった男尊女卑的な態度は同年齢でこそ際立つのであるが、男女雇用機会均等法以後の世界ではそのニュアンスは伝わりにくいのであろう。最初からこの点は放棄していると思われる。

本来は・・・夫が妻を・・・「女」としてバカにし、妻が夫を・・・「学者バカ」として見下すという軽蔑の応酬が本編の醍醐味である。しかし、その心理はお茶の間向きではないと判断したのであろう・・・「夫の浮気に嫉妬する妻」という低俗的な構図に終始するわけだな。もちろん、それもまたドラマ化の醍醐味なのである。

河原家との違いは生後十か月の赤ん坊の存在である。しかし、その存在は母親の愛の対象ではなく名前さえないのである。

新三には大学という職場を通じた社会の一員としてのアイデンティティーがあり、妻には良妻賢母というイメージで地域社会に認められるというアイデンティティーがある。お互いのアイデンティティーが尊重されれば家庭の平穏は守られるということである。

しかし・・・妻の菊子は「良妻賢母」を演じることに固執しすぎて、いささか常軌を逸した精神状態になりつつあったのだった。

菊子の「貞淑さや上品さや温厚さはすべてお芝居」であったのた。

菊子は夫を軽蔑していた。夫の学業を軽蔑していた。夫の学者であるための非常識さを軽蔑していた。彼女は結婚生活は夫を軽蔑することでしか成立しないと信じているのだ。しかし、夫が業績をあげ学者として出世することは望んでいた。高い地位の夫の妻であることを秘められた激しい虚栄心が渇望していたのである。この内部の矛盾に菊子はまったく気がつかないのである。

「あら、まったくこんなところに下着を脱ぎ散らかして・・・」

七瀬に家を案内しながら菊子は廊下で夫の下着を発見する。もちろん、七瀬に見せるために菊子があらかじめ放置しておいた下着である。

≪さあ、みなさい≫≪夫の下着を≫≪夫の間抜けな生活様式を≫≪そして良妻としていかに私が苦労しているかを知りなさい≫≪そして近所で語りなさい≫≪夫を道化者として≫≪私を苦労の絶えない良い奥様として≫≪いいふらしなさい≫≪それがあなたのレゾンデートル=存在価値≫≪私が良妻賢母であることのメディアたれ≫

「本当に学者というのは非常識で困っちゃうのよね・・・手のかかる子供みたいなものだわ」

七瀬は愛想笑いをした。

七瀬は新三が心理学の研究者と知り、自分自身の特殊な能力について何か、新たなる知見が得られるのではないかと期待していた。

しかし・・・新三が自分の研究について考えをめぐらすことはほとんどなかった。

夫婦で囲む夕食の食卓で新三が考えるのは基本的に研究室の研究生(河原実乃梨)との情事についてであった。

≪深夜の研究室のソファ≫≪ささやかな冒険≫≪冷たい皮膚≫≪若い尻≫≪若い足≫≪若い筋肉≫≪誰にも気づかれていない≫

しかし、菊子はすでに夫の浮気について知っていた。新三は妻に知性がないことを夢にも疑っていなかったが妻には充分な知性があったのだ。身の回りに無神経な新三の浮気が誰にも気づかれずにすむ筈はなかったのである。そう言う点では新三は実際にバカだったのである。

≪女のことを考えているんだわ≫≪今、女を抱いたときのことを考えている≫≪考えながらごはんをたべているわ≫≪あの顔≫≪おしゃべりな女にちがいない≫≪もしも誰かに知られたら≫≪浮気された可哀相な奥様≫≪同情を買える≫≪けれど女としての魅力を問われる≫≪あの顔≫

新三が大学に行く日の朝食では菊子は必ず「今日は何時にお帰りですの・・・」と訊く。

≪馬鹿なことをきく≫≪俺のスケジュールなど聞いてどうする≫≪無意味なことを≫

「今日は遅くなる」

≪講義終了の時間は午後3時50分≫≪それから情事をするのね≫≪この間は8時30分に帰宅した≫≪食事をしなかったから情事は4時から8時まで・・・4時間も・・・情事を≫≪私との時は10分≫≪おざなり≫≪私を女としてみていないのだ≫≪私を・・・≫

夫を軽蔑しているにも関わらず夫に抱く菊子の嫉妬は激しかった。

夫が情事をしている時刻を正確に把握しながら、菊子は赤ん坊を抱いたままあれこれ思いをめぐらせ、ひとり嫉妬に身を焼いていた。

どこにも発散することのできない激しい嫉妬は彼女の心を地獄と化していた。

七瀬は七という刺繍の入ったエプロンで家事をしながら・・・時々、その激しい嫉妬の放射に触れ・・・慄いた。

入浴シーンである。

その日、七瀬は新三の心に突然、≪火田≫という名前が浮かんだことに驚いていた。

≪火田≫≪どこかで聞いた名前だ≫≪いつ・・・どこで・・・≫

七瀬はいつもよりやや薄いようにも思える乳白色の入浴剤に裸身を沈めつつ考える。

明日・・・機会があれぱ・・・新三の書斎を捜索してみよう・・・。

風呂場を出た七瀬は夫との情事を終えた夫人が洗面所にいることに気がついた。

純白のガウンを着た痩せぎすで長身の菊子が、指先につまんだコンドームを眼の上の高さにさしあげ、電燈の明りにすかして夫の体液を凝視していた。量を目測しているようだった。

七瀬は鬼気迫る情景に腰がぬけそうになった。

≪少ない≫≪昼間の情事で何度も射精を≫≪殺してやろうかしら≫≪現場でふたりとも殺してやろうかしら≫

幽かに夫の心が伝わってくる。

≪菊子≫≪セックスだけが生きがい≫≪新鮮さがまったくない≫≪あの匂い≫≪年寄り≫≪婆さん≫≪あきあきする≫≪愛情をそそぐなら≫≪若い性≫≪明日≫

翌日、夫妻の留守を狙って新三の書斎に侵入する七瀬。

そこで七瀬は「ESP」と書かれた書類を発見する。

「extra-sensory perception・・・超感覚的知覚・・・彼は超心理学を研究しているのだわ」

さらに七瀬は書類の中に父親の名前が書かれたファイルを発見するのである。

火田精一郎・・・彼はなぜ・・・父の名を記憶していたのか・・・父が特殊な成果をあげたからではないか・・・遺伝的に・・・父も秘めた能力を持っていた可能性がある・・・私が父の娘だと知ったら彼はどうするだろう・・・危険・・・危険だ。

七瀬は恐慌に襲われ、思わずカードをファイルから引きちぎってしまう。

まずい・・・こんなことをしたら・・・あらぬ疑いを・・・。

しかし・・・間が悪いことに新三の意識が接近していた。

≪火田だ≫≪火田精一郎≫≪ゼナーカードによるテストですごい成績をおさめた≫≪珍しい姓だ≫≪縁者であるかもしれないと考えてよかった≫≪娘かもしれないと≫≪思いだしたのは幸運≫≪やはりそうだった≫≪あの家政婦≫

七瀬が書斎を脱出したのと新三が帰宅したのは同時だった。

「君のお父さんは、武部製薬の総務部長をしていた火田さんだね」

「はい、そうです」七瀬は観念して言った。新三が七瀬の身許(みもと)をすでに調べていることを知ったからである。

新三は七瀬をテストするつもりだった。

この後、原作では七瀬の亡くなった父のESPテストの統計学的に異常な数値に基づき新三が七瀬にテストを受けさせようとし、七瀬が拒絶するスリリングな描写が続き、いらだった新三の≪こんな非人間的な、動物みたいな女は死ねばいいんだ≫という心の罵倒で七瀬が不覚にも涙を流すことになるのだが・・・ドラマ版では愚鈍を装った七瀬が嘘泣きをするという展開となる。・・・まあ、いいか。木南晴夏には造作もないことである。

急場をしのいだ七瀬だったが、このままでは済まないと途方に暮れた瞬間、菊子が帰宅した。

七瀬の涙を見た夫人はたちまち誤解した。

≪あの男≫≪ついに家政婦にまで≫≪けだものだわ≫≪女中に手を出すなんて≫≪女中にまで

菊子の心の呪いの炎はあかあかと燃え盛る火葬場の火のようであった。

菊子の顔は紅潮し、紅蓮地獄の亡者のように血まみれになっていた。

人類原初の激しい怒りのイメージが圧倒的な勢いで七瀬に流れ込む。

七瀬は・・・菊子を利用することにした。新三に自分のことを忘れるような厄介事をあたえればよいと考えたのだ。

「奥様・・・私は見てしまいました・・・旦那様の浮気の現場を・・・旦那様は奥様をバカって言ってました・・・」

その瞬間、七瀬の心の掛け金がはじけとんだ。

見上げれば紅蓮の炎が赤ん坊を抱いた姿の菊子を包んでいた。

彼女の強力な呪いの心が七瀬を呪縛していた。

七瀬は震えながら叫んだ。

お、お暇を・・・お暇をいただかせてください

無理ないわね・・・さようなら

菊子は慈悲の笑みを浮かべていた。

早々に根岸家を辞した七瀬の背後。

根岸家の閉ざされた窓辺には新三の姿があった。さらに、その背後には包丁をかまえた菊子がゆっくりと近づいている。

七瀬はこうして難を逃れた。

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2012年2月21日 (火)

凍てついた昼下がり(松本潤)

元ネタは「凍てついた夜」(リンダ・ラ・プラント)である。ちなみに女酔いどれ探偵ロレイン・ペイジ・シリーズ三部作の「序」である。この後は「渇いた夜」「温かな夜」と続いていく。シリーズを通じてドス黒い過去を持つ主人公が失意から再生していくという物語になっている。

ちなみに原題は「Cold Shoulder」「Cold blood 」「Cold Heart」でどこにも「夜」はない。直訳すれば「冷遇」「冷血」「冷淡」である。身も心も凍りそうなタイトルである。

しかも、さらに直訳すれば「凍える肩」「冷えた血液」「冷たい心臓」となっていく。肩が寒いくらいなら生きているが心臓が冷たくなったら死んでいるのである。

しかし・・・実際には紆余曲折あって・・・死にかけていた主人公が生き返っていくストーリーなのだ。「夜」をめぐる物語としてそれを示した邦訳タイトルは・・・好みにもよるだろうが・・・それなりに的を得ている。

もちろん・・・ラッキーセブンにはただの肌寒さが似合うわけだが・・・今回はいたるところで「凍てつく」昼下がりであったことは間違いないだろう。

「生温かい昼」というタイトルでもよかったが・・・あまりにもズバリだからな。

ともかく、映画版「花より男子」の道明寺司とドラマ版「花より男子」の道明寺司が夢の共演である。

ある意味、ホットではあったよねえ。

探偵という「トラブルこそが私のビジネス」という裏稼業の自己正当化を延々と続ける必要は一体、どこにあるのだろうか。

まあ・・・「なにもなかった過去」から「なにかありそうな未来」へ・・・主人公の成長の物語として考えれば、その職場は夢と希望と信頼に満ちていなければならないのかもしれないですけれどもーーーっ。

で、『ラッキーセブン・第6回』(フジテレビ20120220PM9~)脚本・野木亜紀子、演出・長瀬国博を見た。日本一無防備な探偵事務所・北品川ラッキー探偵社は記念すべき調査案件・2000件を達成しようとしていた。なぜか駿太郎(松本潤)が気になる第一号案件では調査対象が乱入し、ラーメン屋店主ではない筑紫(角野卓造)が刺され、若き藤崎社長(松嶋菜々子)が犯人を回し蹴りで昏倒させているにも関わらず・・・失敗から何も学ばないのか・・・第一、調査対象に存在をつきとめられてしまう探偵社って・・・というエピソードである。

新田(瑛太)が去り、観葉植物の苔丸だけが・・・駿太郎の心の拠り所である。

しかし、駿太郎の指示通りに熱心に格闘技の道場に通っている駿太郎だった。

そんな駿太郎に「あなたには期待しているわ・・・私はあなたをスカウトできて本当によかったと思っている・・・がんばって」と色目を使う藤崎社長。

駿太郎も飛鳥(仲里依紗)に「君っていつも魅力的・・・もてるでしょう」とさりげなく言って「むかつく」とほめられる色事師なのだが・・・まだまだ社長を陥落させるには未熟らしい。

しかし、事務所にかかってきた無言電話を「男性からでした」と見抜く特殊能力は持っているのだ。もちろん、藤崎社長はこの点をかっているのだな。世界でも十人くらいしかいないだろうと推測できる特殊能力だもんな。・・・有用かどうかは別として。

ともかく、無言電話や、無差別出前注文など・・・事務所に対して嫌がらせ行為が発生しており、要警戒レベルなのだが・・・いたって呑気なメンバーである。

休日のために愛犬の予防注射にでかけた飛鳥はテレビ番組でドッグフード1年分を入手するチャンスをつかみ、駿太郎をパートナーとしてテレビ局に呼び出す。つまり、駿太郎・・・業務していません。給料泥棒かっ。

藤崎社長は怪しい外回りにでかけ、旭(大泉洋)は怪しいクライアントと面談のために外出。茅野(入来茉里)にいたっては秋葉原に備品調達といいつつおでん缶の買い出しである。一人、留守番となった筑紫はひょんなことから鍵付倉庫に閉じ込められてしまう。

無防備探偵事務所の成立である。そこへ宅配ピザの配達員に変装した調査対象の小林(飯田基祐)が侵入する。「俺の浮気調査の報告書を出せ」である。あきらかに言っていることが支離滅裂で精神を病んでいるのだが・・・そこにはあまり触れないらしい。

この状況と探偵たちの行動がハラハラドキドキさせるポイントになっています。・・・誰がハラハラドキドキするんだよっ。・・・もちろん、「渡鬼」ファンだろう。・・・ああ、そうですか。

駿太郎はテレビ局で偶然にも子供の頃に憧れた「私立探偵・真壁リュウ」を演じる祐希(谷原章介)に出会う・・・18年間続いている人気ドラマシリーズってやはり21年間続いていた「渡鬼」へのオマージュだよな。つまり、今回は筑紫回なのだ。

脅迫されているという祐希の依頼で行動を共にする駿太郎。ご褒美は甥っ子の翔太(後藤奏佑人)へのサインである。犯人は祐希に冷たくあしらわれたガリガリガリクソン(おそらく本人)であった。凍てついた昼下がりの屋上で駿太郎は犯人を習得仕立ての関節技で確保するのだった。毎週、あらびき団出身者をしめあげるというお遊びをこれから続けてもらいたいくらいの見せ場である。

定時連絡(危険をともなう稼業である探偵としては必修)で事務所の応答がないことに不審を持った探偵たちは急ぎ、事務所に向かう。

もちろん、展開的には不必要だが、筑紫と駿太郎の連携を見せるために・・・小林を誘導して筑紫は駿太郎と電話で会話し、阿吽の呼吸を見せるのだった。

「苔丸の水をやるのは俺の仕事だ」

「・・・なるほど、山と言えば川ですね」

こうして、ダッシュで事務所に帰着した・・・駿太郎。事務所では狂乱した小林がオイルを撒いてライターに火をつけ、放火寸前である。

しかし、駿太郎とゆかいな仲間たちは格闘の末、小林を確保して一件落着である。

駿太郎の回し蹴りが炸裂して・・・小林は即死したのだった・・・死んでないだろう。「はぐれ刑事」シリーズでは善良な市民がえてしてこういう展開で犯罪者になるじゃないか・・・ここは月9だから・・・主人公はたとえメルトダウン中の原子炉に飛び込んでも死にましぇ~ん。・・・ああ、そうですか。

こうして、探偵たちの団結は一層高まったのである。

・・・まあ、だからどうしたという話でございます。

「昔は俺が腹をさされて調査対象を犯罪者にしてしまった・・・今回は穏便にことがすんでよかった」とまとめる筑紫。

翌日、離婚を迫られた小林が妻を刺殺する可能性は25%くらいだとおもうが・・・もちろん、そこは他人事なのである。こうして・・・凍てついた昼下がりは吹雪の黄昏に向かっていくのだな。

今回の教訓・探偵はいつでも携帯電話を携帯すること。

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2012年2月20日 (月)

さよあけてゆくえあやまつからのふねめざめしきみのひとりゆれけむ(松山ケンイチ)

夜が明けて朝になってみると、行く先を間違えた空の船である。目が覚めた清盛は迷子になって、一人でさびしく波にゆられている・・・恐ろしい情景である。

やはり、加藤あいはこうでないとな。「平家の御曹司に口説かれちゃったんですーっ」(加藤あい)にしたいところであるが自重しました。「なんだかまだまだおさない胸がときめいてしまいました」(深田恭子)だってありますからーーーっ。

夢の堀越高校2002年度卒業生共演である。・・・そこかよっ。

大河ドラマで年齢のことを問うのは禁じているが・・・二人とも実年齢29歳だからな。年齢不詳の明子はともかく・・・時子は9~11歳くらいの童女である。しかし、見事に童女を演じきった深田恭子おそるべし・・・というかみごとなキャスティングだ。まもなく三十なのになんちゃって小学生を演じられる女優は他にいないものな。なにしろ、深田恭子はギリギリまで絞ってきているし・・・みあげた役者根性である。

で、『平清盛・第7回』(NHK総合20120219PM8~)脚本・藤本有紀、演出・渡辺一貴を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は平清盛の二人の妻・高階近衛将監(従六位上)基章の娘・明子と平兵部権大輔(正五位下)時信の娘・時子の二大イラスト描き下ろしでお得でございます。ちなみに明子は関白・藤原忠実のご落胤という噂もありますので・・・清盛と明子は世紀のご落胤カップルなのでございます。まあ、この作者だとその点にふみこみかねないので楽しみです。

Tairakiyomori05 で、今が何年かが定かではないのである。清盛が従四位下になったのは保延元年(1135年)のことであるし、美福門院藤原得子が叡子内親王を出産したのはその年の暮れである。清盛と明子の間に長男の重盛が誕生するのが保延四年(1138年)であるから・・・清盛と明子の婚姻はその間の出来事となる。というわけでおそらく、今回は保延元年から二年(1136年)にかけての出来事であろうと思われるのである。まあ、ここまで平安時代は常春の国みたいな感じだからな。いつ、越年したのかも定かではないということである。

さて、お茶の間では身分の差がちんぷんかんぷんという方もいると思うので・・・基本的なところを記してみる。もちろん、身分は時代によって流動的な部分もあるし、各人は昇進したりする。なのであくまで目安の話です。まず、位階というものがある。官吏の序列を示す等級ということだ。一番上が正一位である。次に従一位がくる。この下は正二位、従二位、正三位、従三位と来る。ここまでは公家が独占している。つまり、武家は三位には昇進できないわけである。平忠盛は正四位下まで昇進していて・・・通常ならば残りは正四位上しかないのである。ちなみに四位からは正従に加えて、上下がついてさらに等級が分かれている。正四位上、正四位下、従四位上、従四位下となっていくのである。これは・・・従八位下まで続いていく。さらにその下には大初位上、大初位下、少初位上、少初位下がございます。これが律令制に基づく身分差別なのです。さて、これとは別に官職につくとそこにまた職種による身分が生じてくる。清盛は保延二年春には中務大輔に任命される。天皇の補佐をする中務省のナンバー・ツーであり(トップは中務卿)位階は正五位上相当になるのだが・・・清盛はすでに従四位下なので資格があるわけである・・・19歳にしてこの出世はもちろん・・・もののけの血がものを言っているわけである。縁談ともなれば両家の親の官位が問題となってくる。平家は忠盛が正四位下、高階家は基章が従六位上。この間には従四位上、従四位下、正五位上、正五位下、従五位上、従五位下、正六位上、正六位下がそびえている。平家の家人たちが顔をしかめるのはものすごい身分の差があるから・・・仕方ないのでございますよ。

海賊退治・・・実際には安芸の水軍との提携・・・の功で出世街道を歩む清盛だった。しかし、宮仕えの実務は平忠康の子・鱸丸が実務に優れているのを頼りに乳父の右衛門尉盛康の養子縁組で身分を引き上げて任せきりである。昼は無頼仲間の藤原兎丸やら、北面武士の佐藤義清と遊び・・・夜は・・・この頃は下流貴族の高階家の娘、明子と過ごしている。

びろん・・・びよろん・・・びろん。明子の奏でる琵琶の音色は荒んだ清盛の心に沁みわたるのである。清盛はくつろいで明子と物語る。

「明子の父上は・・・元は源氏じゃそうな」

「はい・・・醍醐源氏の末、源家実の子で高階の家には養子で参ったそうでございます」

「琵琶は父の手ほどきか・・・」

「ええ・・・源の家は・・・代々風雅を好んでおったそうです。ご先祖には源博雅という雅楽の名手があったとか・・・」

「ほう・・・」

「あの高名な陰陽師、安倍晴明ともご縁があったとか・・・」

「陰陽師とな・・・明子は占いの才もおますのか」

「星は少々・・・読みまする・・・」

「星をな・・・我ら水軍忍びも星を読むんや・・・夜も船は漕がんとならんでな」

「今日の星は妖星が凶星にからんでおりますゆえ・・・ご用心いたしませ・・・」

「それは面白いのう・・・」

夜明け間近・・・春の気配の漂う都路を清盛は郎党一人連れず平家屋敷に戻ってゆく。

烏丸小路と梅小路の辻にさしかかった時に清盛は殺気を感じた。周囲は荒廃の色濃い廃墟である。火事で焼けた屋敷が何棟かそのままになっている。その暗がりにぼんやりと青白い光が浮かんだ。

「ふ・・・怪異か・・・」

清盛のつぶやきに応じるごとく、風に乗って声が聞こえる。しわがれた老人の声であった。

「もののけがもののけにもののけと申すか・・・けったいやのう」

のそりとたちあがったのは・・・老人ながら大男だった。白拍子のような装束の若い娘が一人、従っている。

「殿さま・・・無理をなさってはいけませぬ・・・」

「不知火いいのじゃ・・・我はいささかつかれたわ・・・この平家の御曹司と命のやりとりをして最後に面白い目をみたい・・・お前はその後は好きにしろ・・・東国にまいるのもよかろうて」

「名のあるお方とお見受けいたすが・・・」清盛は殺気を受け流しつつ問うた。

「わしはのう・・・汝が祖父、平正盛に一敗地にまみれた源悪対馬守義親よ・・・流浪の果てに都に舞い戻ったわ・・・」

「なんと・・・怨霊か・・・いや・・・まだご存命でおわしたか」

「こわっぱ・・・いざ勝負じゃ」

義親が引き抜いたのは薙刀だった。驚くほどの素早さで間合いを詰めた法師姿の巨漢は振りかぶった薙刀を一閃させる。旋風が巻き起こった。しかし、すでに清盛の姿は義親の背後にあった。

「ほう・・・見事なり・・・」息を吐いた義親の上半身がぐらりと揺らいだ。そのまま、地面に落ちて音をたてる。遺された下半身からは血がわきあがっている。

清盛は宋剣を振った。幽かな血の匂いが鼻をつく。

「よせ・・・御大将の遺言を聞いたであろう・・・どこへなりと去るがよい・・・御大将の躯は郎党に手厚く葬らせるよって・・・」

「・・・」両手に手裏剣を構えた若い娘は無言で宙を舞った。

暗闇を滑空する刃を清盛は星明りでとらえていた。

キーンと鋭い金属音を残し・・・手裏剣は宋剣に撃ち落とされていた。

新たな血の匂いがする。

すでに娘は自害して果てていた。

「・・・哀れな」

清盛は宋剣を腰に収めると・・・押し黙ったまま、家路を急ぐ。

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2012年2月19日 (日)

喜怒哀楽とは何かということを汝に問うメイド(山田涼介)

喜怒哀楽は人間の感情およびその表現を示す言葉であるが・・・いささか漠然としているとともに、いくつかの疑問を感じる言葉でもある。

その一つは四つ目の「楽」というキーワードの意味合いである。

たとえば英語にすれば喜びも楽しみも「pleasure」と訳すことができる。

かぶってるじゃねえかあーーーーーーっと興奮するのだ。

そうでありながら・・・日本人は「喜び」と「楽しみ」の差異をなんとなく感じるわけである。

あえて言えば、喜びとは「快楽」そのものであり、「楽しみ」とは「快楽に対する期待」を示しているとも言える。

喜びとはごちそうを食べることであり、ごちそうに対する期待が「楽しみ」なのである。

しかし・・・やはり、喜びも楽しみも幸福に通じているわけである。

それに対して怒りや悲しみは不幸に通じる感情だということができる。しかし、怒りと悲しみの色合いの違いはかなり大きい。ただし、不幸に遭遇すると怒りを経過して悲しみに到達する場合があり、そこにはある種の連動性があるわけである。

そう考えると幸福な感情と不幸な感情で喜怒哀楽はバランスをとっていると考えることは可能だ。

だが、キッドはよろこび、怒り、悲しみに続く、第四の感情は他にあるのではないかと思っている。

その前に「楽」についてもう一度考えてみよう。これを「らく」と考えた場合、当然、「快楽」とは別の「安楽」という言葉が浮かぶ。さらに連想すればそれは「安堵」となる。感情とはいささか趣が異なるがそれは平穏な心の状態である。楽あれば苦ありと言ったり、苦楽を共にするという場合・・・そこには「苦しみ」が浮かんでくる。

「苦しみ」は「怒り」や「悲しみ」を含むが・・・単なる苦しみもあるだろう。それは「死」と単純に結び付く心だ。

飢餓による苦しみ、呼吸困難の苦しみ、睡眠不足の苦しみ・・・そういう欲求不満の苦しみも一応、感情と呼べるだろう。

しかし・・・苦しみは「早く楽になりたい」という欲求を伴う。単に感情とは言い切れない。

つまり、喜怒哀苦ではやはり・・・ピンとこないのである。

そうなると遺された代表的な感情がただひとつあると思うのだ。

それは安堵の反対側にある不安、つまり恐怖である。

恐ろしさこそ・・・第四の感情にふさわしい。

キッドは喜怒哀恐こそが正しい言葉ではないかと妄想しています。

で、『理想の男子・第6回』(日本テレビ20120218PM9~)脚本・野島伸司、演出・佐久間紀佳を見た。ついに微妙に露わな変態の登場である。しかし、二次元おタクを変態に分類するとほぼ全人類が変態に所属してしまうので・・・大地(山田涼介)は「芸術家だ・・・」とお茶を濁すのである。まあ、息子の唯一の恋仇候補だった池田先生(金子ノブアキ)が退場すると同時に実の父親(金子ノブアキ)登場である。今度は一転して母親・海(鈴木京香)のライバルになるのだな。「お父さんとお母さん、どっちが好き?」は質問の古典だからな。母親の最大のライバルは父親なのである・・・どんな人間関係なんだよ。

とにかく・・・小林(中島裕翔)の「窮鼠猫を噛むパンチ」あたりからここまで、怒涛の展開で・・・脚本家の手腕が際立ったのである。いや・・・もう、凄いよね。ま、ドラマとしての評価は別にして。

今回の海のノイローゼは「母親の前に女でありたい」病である。いわゆる「相手(息子である)の浮気は許さないが自分は浮気する」人として問題ある裏切り行為に走るのだな。

新しい父親が来ても虐待されるような年齢では・・・いや、そういう場合もあるか・・・一部、現実家庭とか、残酷な神が支配するとか・・・しかし、まあ、一般的には・・・ないが、もやもやする大地。

しかし、そういう内面的葛藤とは別に・・・学園の危機は迫っていた。

海王工業高校に敵なしとなれば、他校からの侵攻は必然である。

やってきたのは城国商業高校の金狼(林遣都)の率いる悪の軍団である。

かっては小林と同じいじめられっこだった金狼は五人がかりで一人を血祭りにあげるシステムでのしあがったらしい。

一方、小林は恐ろしい母親・光子(鈴木杏樹)に対する恐怖症を抱いているわけだが・・・大地との友情を梃子になんとか「恐怖」を克服しようとしているわけである。

しかし・・・大地に・・・「見栄を張ってもいいが・・・嘘はダメだ・・・強くなれるように努力すればいい・・・」と言われて「無理だよ・・・僕はネズミ系だから・・・」と逃走・・・。

気がつくと「そして・・・誰もいなくなった」状態に。

金狼の狙いはやはり、憲吾(藤ヶ谷太輔)だった。そのために内山(武田航平)を人質にとって呼び出しをかける。頂上作戦で一挙に海王工業高校を傘下に収めようとしているのである。

ついでに捕獲されてしまった小林はママに身代金を払って解放してもらおうとするが・・・恐ろしい母親はママ・ライオンとして我が子を谷底に突き落とすことを選択するのだった。

まあ、真の女性恐怖症の基本は母親によるしつけと言う名の虐待によって生じるわけだからね。

小林家の悲劇は獅子が鼠を生んだことにあるわけである。このままでは女性恐怖症から対人恐怖症になり、人格崩壊は必定の小林なのである。

しかし、ついに覚醒する小林。

「ボクはマザコンじゃない、ただママがこわいだけなんだ」と必殺パンチを繰り出すのである。しかし、それは金狼の頬に爪痕を残しただけだった。気絶した小林・・・しかし、彼の雄姿を人々は忘れないだろう。

そして・・・ついにやってきた大地とアニマルな仲間たち。

ワニ、ヘビ、象、豹とモンスターな働きで金狼軍団を壊滅させるのだった。

「そして・・・だれもいなくなった」

金狼がくりかえしのギャグを決めるとアニマルレンジャーたちは一本指を立てる。

「俺たちは袋叩きなんて卑怯な真似はしない・・・一人選んでください」

金狼はモンスターではないと思われる大地を選ぶが・・・誰もが最悪の選択をしたことに喝采するのだった。

マザコン(⌒(´・▲・`)⌒)パンチ炸裂ーーーーーーーーっ。

まあ、もう脱帽するしかないわな。

丹波兄妹(脇知弘・三吉彩花)のコスプレ・コーナーではメイド女装を披露する大地だったが・・・「慣れによって恥じらいを忘れている」と厳しく指導されてしまうのだ。

・・・変態道を究めるのは難しいよね、本当に。

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2012年2月18日 (土)

気配を読んで気配り、専業主婦は水商売なんじゃなあい?(松岡昌宏)

「気」というのは便利な言葉で、すべてを説明できるし、何も説明しなかったりする。

「空気」を読むというのは要するに「気」の問題なのである。

天の気を読めば天気予報だし、毒気をぬけば人畜無害である。

で、「気」を制するものは世界を制するのだな。

「気が多い」というのはそれだけ「気を分散化する能力が高い」ということである。

コンビニの接客一つにしろ、恋愛対象になる異性以外にはまったく気がない人は気が効かない人と言える。

そういう意味で若い時に気が多いのは実にすばらしいことなのである。

しかし、気は散るもので・・・ひとつのことに集中できない・・・根気の続かない人もだめなのである。

結局、気はたくさん、長く、太く、強く、美しく持つべきものなのだな。

もちろん、そういう気を得るためには修練を積むしかないのだ。

しかし、人間には個性があるので・・・そこそこ気の内容にも差異がある。

自己の気の使い方を見つめ、得意とする気・・・つまり本気を確かめることも大切なのだ。

あなたの気は何でしょう。呑気? 強気? 元気? 狂気?・・・それとも空気?

で、『13歳のハローワーク・第6回』(20120217PM1115~テレビ朝日)原作・村上龍、脚本・内平未央、演出・梶山貴弘を見た。第10回テレビ朝日新人シナリオ大賞(2010年)で惜しいところまで行った人らしい。つまり、これはデビュー作なのであろう。まあ、初々しいよね。前回はちょっと楽屋落ち要素が鼻についたが・・・帝国一色のバラエティー・ショーで罰ゲームの炭酸ガスを浴びて「オレのトサカがどうにかなったらどうすんだ」と若干意味不明なリアクションをとっていた松岡くんの持ちネタ「夜王」がらみなのに・・・一生懸命ネタを集めましたという健気さが伝わってきた。もちろん・・・情報としてはやや浅めだけどこのドラマのテイストとしては充分なのだろう。

さて、今回は少しだけこのドラマの要素を分析しておく。

分析にはいろいろなやり方があるが・・・フィールド形式でやってみたい。つまり「場」である。

もちろん、様々な場があるわけだが・・・。

基本になるのは①「2012年の警視庁芝浦署」である。ここには「正面玄関」とか、「生活安全課」とか「階段」とか「トイレ」とかがあるわけだが・・・これを含め、さらに各回の時間の扉のある場所も「2012年のフィールド」と呼称しておく。ただし、「怪しいハローワーク」だけは別のフィールドと考えておく。とにかく、2012年のフィールドでは高野(古田新太)は警視庁捜査一課の管理官となっている。小暮(松岡昌宏)は生活安全課の刑事である。そして、今のところ・・・真野翔子(桐谷美玲)は所在も生死も不明である。このドラマの究極の謎と言える。ここには今回、登場しなかった不良少女の仁科佳奈(沢木ルカ)も所属しているのだ。

次に②として「1990年の翔子のアパート」がある。ここでは高野(横山裕)は東大卒の就職浪人である。過去にタイム・スリップした小暮とともに成り行きで真野翔子の部屋の押し入れに同居しているわけだ。まあ、ものすごい設定である。もちろん、若い男女が一つ屋根の下で暮らしているわけで・・・何もないわけはないのであるが・・・ここでは翔子が高野を好きになってしまい、高野もなんとなく察しているという展開になっている。徹底的に三枚目として設定されている小暮はやや翔子の気持ちを誤解したりするが・・・これは過去から現代を貫く小暮の「認識の甘さ・・・配慮不足・・・空気が読めない男」を象徴しているわけである。

さらに③として「1990年の東進学塾」がある。ここには「教室」や経営者の唄子(風吹ジュン)や秘書のような酒井(光石研)のいる「社長室」、アルバイトで講師をしている翔子も使う職員室がある。「教室」には小暮の過去の存在である鉄平(田中偉登)がいる。もちろん、「学校」もこのフィールドに含まれるが人数を絞り込むために「塾設定」を大いに利用しているわけである。生徒たちがいたりいなかったりしても塾だからで済むわけだ。ここでは、未来から来た小暮と過去の鉄平が共に翔子に関わっている。つまり・・・高野色の薄いフィールドなのである。同時に実は小暮が未来でなすべきこと・・・青少年の安全を守り、改善を指導する立場を知らず知らずに実践しているのである。青少年に与える自分の一言がいかに大切かを小暮が学んでいるのだが・・・本人が全く気が付いていないところがポイントである。

そして、④として「1990年の職場」がある。ここでは高野と小暮が毎回、様々な仕事を短期間、体験するわけである。そこには過去の鉄平がからむことはあるが、翔子色は薄められている。ただし、翔子と鉄平には教室や職員室という濃いコミュニケーションのフィールドがあるのに対し、高野と鉄平はやや疎遠になっている。この辺りは・・・未来の高野が小暮を鉄平の未来形としてあまり認識しない設定であり、あるいは今後、なにか高野に対して決定的なことを鉄平がする可能性を含んでいる。基本的に・・・過去の改変によって鉄平から続く小暮の認識も改変されているわけだが、このドラマではその点はあまり深く考えていないようだ。同様に鉄平と翔子が深くかかわっているのに未来に翔子が登場しないこともこのドラマの核心の一つであるわけだ。

最後に⑤として「怪しいハローワーク」とドラマの「オチ」になっている「改変されたかもしれない2012年」がある。しかし、今回の例でもわかるように本当に改変されたのかどうかは不明だ。確かに登場人物たちは過去で小暮の言った言葉を口にするのだが・・・改変前が描かれない以上・・・本来そうだったという見方もできるのである。

ただし、「消えた漫画家」のように改変前には存在した漫画家が消えていた例もある。しかし、その場合は改変後の鉄平の記憶を改編後の小暮が受け継いでいないという根本的な矛盾が生じることは言うまでもない。この辺りの時間改変もののねばっこいところは・・・まあ、スルーするのだろう。

まあ、フィールドとしての分析は以上である。

今回は③と④が分離しているシナリオだったが・・・「商売の基本は気配り」であるといセオリーを小暮がつなぐことでなんとか成立しているわけである。

また・・・ホストたちが風のように消えてしまうというのも女流ならではの冷たさと言えるだろう。また・・・容赦のないホスト業の美化は帝国的配慮と言わざるを得ない。

さて・・・ドラマ「鈴木先生」のやりまくり中学生・彩香を演じた13歳の小野花梨がまたもや独特の雰囲気でメガネでぽっちゃりの里奈を怪演である。一体、どんな女優に育つのか見ものだな・・・。

なにしろ、そのオーラによって・・・翔子の恋心に火がついてしまうのだ。それを演じるのはなかなかに只者ではない気がする。

まあ、もやもやする翔子とお坊っちゃまなチンピラ・高野の恋の行方はなかなかにときめきます。

高野に食べさせたかったチョコレートを小暮に食べられてしまった翔子の憤怒の顔はキュートでしたな。

さらには一応、美少女枠の真帆(山本舞香)は里奈に感化されて・・・社会に出ない女性になってしまうのである。

まあ・・・今でも専業主婦の幻影に惑う女性は多いわけである。

バリバリのキャリア・ウーマンはバリバリのハウス・キーパーでもある。これは鉄則ですからな。まあ・・・要するにそんなスーパーウーマンは滅多にいないということです。

国家の陰謀で共働きが常識となった時代・・・優しい専業主婦のお母さんにあこがれた女の子たちの魂は虚空をさまようしかないのですねえ。

だから・・・エリートな専業主婦となった真帆(吉田洋)の空虚な言動よりも銀座の高級クラブのママになった里奈(安藤玉恵)の言動の方が同じ不気味さでもリアルな感じがするわけです。

もちろん・・・今回のオチをハッピーエンドではなく・・・ブラック・ユーモアが漂っていると見た場合ですけれど。

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2012年2月17日 (金)

もしも先生に逢えずにいたら妹は何をしてたでしょうか・・・悪い遊び、神の裁き、鳩尾(みぞおち)にエルボー(山下智久)

テレサ・テンに麻丘めぐみまぜんなよっ。

おいっ・・・今日は谷間じゃないぞ。

いや・・・もう、普通に面白いだろう。だから任務終了じゃないのか。

いや、それは、もう単にキッドが病みつきになっているだけだろ・・・まだまだお茶の間は・・・。

そうなのかっ。

本当はジュリーのサムライで行きたかったんだけどな。「片手にピストル、心に花束、みぞおちにエルボー、息ができない・・・」(山下智久)で。

ネタつめこんだからな・・・少なくとも二回分はあったよな。

いや・・・この脚本としてささくれだってるところが持ち味なんだよ、きっと。

それにしても「アキハバラ@DEEP」(2006年TBSテレビその他)のユイ(本上まなみ)と設楽ヲタ(設楽統)が子供まで作っていたとはな・・・ってユイはオーバー・ドーズで死んだだろうっ。あ・・・これはネタバレか・・・何を今更・・・キーワード作戦かっ。

まあ・・・とにかく・・・このドラマの井原家と岩田さん以外の男たちは・・・とにかくダメダメなんだな。

まず・・・一人目の教師・川原(黄川田将也)・・・鬼畜だな。元宝塚のトップスターなみの美貌の妻と幼い娘がありながら教え子と淫行なんて・・・条例次第で犯罪者じゃないかっ。通報したら逮捕されちゃうレベルだぞ。しかも、そこはスルーなのである。さすがだ。さすがは「エンプラ」(どこを略してんだ)・・・。

そして二人目・・・49日の長田店長(設楽)。母親(吉行和子)の言いなりで交際している女性(本上まなみ)と手を切るとは・・・母子依存にもほどがあるだろう。「ふぞろいの林檎たち」(1983年TBSテレビ)かっ・・・いや、悪い姑は佐々木すみ江だ。吉行和子はいい母ちゃん。・・・もう、いいぞ。

とにかく・・・ダメダメな男たちはとことんスルー。それがこのドラマのポリシーなのだな。

そこは、まあ、もう、妄想で補完するしかないでしょうな。・・・あ、じいや、もう来たの?

まあ・・・他にも目ざとすぎる健人(反町隆史)の件もお茶の間がツッコミ・エリアに殺到してましたな。

目ざといというか、ミラクルなバッタリ能力って言うか。

すべては運命のなせるわざですな。量子論的にご説明申し上げますか?

・・・あ、いいです。本題に行きます。

で、『最高の人生の終り方〜エンディングプランナー〜・第6回』(TBSテレビ20120216PM9~)脚本・渡辺千穂、演出・川島龍太郎を見た。まあ、今更なんだけど・・・この街の季節は二月なのに・・・どこか春めいてる感じがします。でも、先週は桃子がパレンタイン・デーのチョコレートを作ってたわけだしね。今日の東京は夕方から小雪が降ってたし、本当はとても寒い感じ。あ・・・今週はもういきなりなりきりモードなんで・・・ヨロシク。

で、俺は業務の合間を縫って、末っ子の桃子(大野いと)を尾行して・・・またもや見てはいけないものを見てしまったんだ。出た・・・担任の先生、妻子持ちっ。しかも先生の奥さん(白羽ゆり)は「夫と教え子のただならぬ関係」をうすうす気がついている表情をしている。こりゃ・・・修羅場かよっ・・・と思ったけど・・・桃子は歯をくいしばって耐えた。そうさ・・・本当は桃子も・・・誰かを傷つけたくてふーらりふーらり愛を捜してたわけじゃないんだもんな。

とにかく、今回は徹頭徹尾「愛、テキサス」なんだな。

業務に戻った俺が、「葬儀の井原屋」の業務用車両で信号待ちをしていると、でたっ、謎の少年、友也(藤本哲哉汰)くん。そして・・・その後ろからは母親みたいな人が・・・。っていうか、友也くん・・・幽霊じゃなかったんだな。

帰社っていうか帰宅すると、家では早くも雛祭りの支度である。花屋の夕子(磯野貴理子)さんや弁当屋の弥生(橋本真実)さんも雛人形の飾り付けの手伝いに来ている。

出入りの業者なので「豪華ねえ」などとお世辞を言ってくれるのだが、上の妹の晴香(前田敦子)が「家は休日が普通の家のようにはとれなかったので・・・家に飾る雛人形が家族サービスだったんですよ」などと応対しているところに・・・かなり複雑な気持ちの桃子が居合わせる。桃子の雛人形はちょっとスケールダウンしているのだな。片手に渡せなかったバレンタインデーのチョコレート、雛人形は姉より安めなのである。一言多い夕子さんは「どうしても二人目になると・・・小さくなっちゃうのよね・・・いやいや、変な意味じゃなくてね」すると弥生さんは「そうそう飾るスペースもないしさ」・・・弥生さん、なんのフォローにもなってないですって。

しかし・・・そういう蟠りを通りこして妹の愛は怒りを伴って携帯電話にたたきつけられるのだった。

「ただの生徒あつかいなんて・・・ひどい・・・土日はおとまりしてくれなきゃ・・・許さない」

もちろん・・・メールの内容は後でこっそり俺がチェックしました。

兄として・・・人間として・・・ダメって言いたいところだけど・・・年頃の妹の扱いに・・・俺は自信がない。大体、やめろって言われてやめられるようなら最初からやらないことだものな。

健人兄ちゃんなら・・・どうする?・・・いい加減、帰ってきてくれないかな。

ともかく、俺は先生の家に仕掛けた盗聴器で・・・不倫教師とその妻の会話を盗聴するのだ。もう・・・俺は探偵かっ。

「今度の土日・・・サークルの合宿に付き添い頼まれちゃって」

「え、今週はしおりの雛人形を買いに行くって約束してたでしょう」

「そんなこといっても」

「今年は絶対に買いたいの?」

「わかってるよ・・・そのうちに」

「パパ、ママ、ケンカちてるの?」

「・・・ちがうよ・・・お話ししてただけだよ~」

呑気な会話に聞こえるが・・・実は・・・奥さんの川原彩さんが・・・「今年」にこだわるのはそれなりの理由があったんだよ。もちろん・・・毎週、誰かが死ぬのがお約束みたいになっているのでどこかで「フラグたった」の大合唱があったと思うんだけど・・・そこは一筋縄ではいかないこの物語。すかしてくるよ、きっと。とにかく、甘酒とか雛あられとかぶっかけチャンスがいたるところにあるからドキドキするよね。

で・・・夕食です。またまたぶっかけチャンス。しかし、弟の隼人(知念侑李)はあれから、すっかり毒気が抜けたみたいになって・・・家事を手伝ったり・・・まるで枯れてしまったみたいでちょっと心配なんだよね。一方、桃子には妻の説得に成功した不倫教師からお誘いメール着信である。にんまりする桃子。

「私、週末、泊まり込みで試験勉強するから」と桃子が似合わない嘘をつくと・・・晴香は濃い疑いの眼差しを注ぐのだった。まあ、明らかな嘘だとわかっても知らないふりをするしかないってことはあるよね。とにかく・・・喧嘩が始らなかったので俺と隼人はほっと胸をなでおろしたのさ。

そして・・・桃子と先生は不倫旅行に出発した。東京直下型地震発生の確率よりずっとありえない低さの出会いが発生するんだ。でもね・・・昔から、こういうことを「悪いことはできない」って言うんだな。

とにかく、たまたま・・・人手不足が発生して・・・漁の手伝いをしていた健人兄ちゃんが海辺のホテルにチェック・インする二人を発見してしまったわけだ。なんだか、神の手で止まっていた心臓をピンポイント直撃するみたいな出来事だけど・・・そういうことだってあるんじゃないか。ほら、昔からこうも言う。「世間は狭い」って。

健人兄ちゃんは大人だから、一目で二人の不適切な関係を洞察してしまうんだ。すごいな、兄ちゃん。

「・・・お兄ちゃん」

「桃子、お前・・・親父になんて言って出て来たんだ」

「お父さん・・・死んだよ」

「なんだって」

そこへ・・先生の娘の保育園から電話がかかってくる。

「え・・・妻が娘を迎えに来ないって・・・そんな」

なんと・・・先生の奥さんが失踪してしまったのだった。

「桃子ちゃん、桃子ちゃんのお兄さん、すみません・・・とにかく・・・いろいろと大変なので・・・失礼します」

「えーっ、先生帰っちゃうの?」

「先生だとっ」

とにかく・・・こうして・・・健人兄ちゃんは「親父の死」と「妹と先生の不適切な関係」を同時に知ることになったのだった。そうなんだよ・・・兄ちゃん・・・井原家は大変なことになってるんだよ。昔から言うだろう。「すべては神様のお導き」だって・・・。まあ、少し、導きすぎと思う人もいるかもしれないけど・・・このドラマではまだまだ序の口だからね。覚悟しといてほしいな。

桃子と健人兄ちゃんが神様に導かれまくっている頃、葬儀の井原屋には転落死した長田さんのお母さんが来社していた。長田さんの四十九日の相談に見えたんだ。クリスチャンの人のために説明しておくと・・・仏教では死後、七日ごとに七週間に渡って法要をするんだよ。この間に死者は生と死の中間に存在すると信じられていて、中有とも言うんだ。生を陽、死を陰と考えると陰に至る間ということで中陰とも呼ぶんだよ。もちろん、晴香に教えてもらうまで・・・俺も知らなかったんだけどね。どうして・・・七という数字なのかって言うと仏教発祥の地インドでは・・・七進法が使われていたからなんだって。で、とにかく、初七日から始まる七日ごとの法要は満中陰となる四十九日で一応のけじめがつくわけ。

だから・・・四十九日の法要は大切な儀式になるのさ。

だって死者がこの世からあの世に正式に引っ越すわけだから。まあ・・・あくまでそういう信心のあり方の話だけどね。

ふと長田さんのお母さんが「あの・・・友也くんは元気にしていますかね」と口にしたのもきっと仏様のお導きなんだよね。そうそう・・・言っておくけど・・・葬儀屋は宗教宗派は問わずに営業しているので神様だろうと仏様だろうと大歓迎なんだ。

さすがにアラーの神は・・・まあ、いいか。

とにかく、俺の葬儀屋魂にピンと来たんだ。これは身を尽くすチャンスだってね。

さっそく・・・友也くんの家を訪ねると・・・相変わらず・・・友也くんは俺に対して父の仇モード。一体、どうやって俺と長田さんの関係を知ったんだろう。まさか・・・坂巻刑事(榮倉奈々)があることないことしゃべってるんじゃないだろうな。

で・・・友也くんの母親である今野みづきさん(本上)に事情を聴こうとしたんだけど・・・。

「あの人と私たちは何の関係もありません・・・」と口を閉ざされてしまう。

仕方なく、仕事が終わって・・・一人でイスをくるくる回している坂上刑事をゲットだぜ。

まったく・・・最近、台車に乗せてあげないんで欲求不満で一人クルクルなんて。

「何言ってんの・・・誰がいつ自慰行為をしたって言うの?」とうらみがましい目をする坂巻刑事からざっと事情を聴いたんだ。

「保険会社の探偵から照会があったのよ・・・長田さんが自殺なのか・・・事故なのかって・・・長田さん・・・友也君を受取人にした多額の保険に入ってたの・・・まさかと思うけど・・・保険金殺人かもと思ってちょっと探りをいれたの。そしたら・・・友也くんの母親は昔、長田さんと交際していてね・・・友也くんは実の子供だったってわけ。ま、未婚の母なんだけどね。彼女」

なんと・・・じゃ・・・長田さんは・・・実の子供だと知っていて・・・友也くんとキャッチ・ボールをしてたのか。

「どうもね・・・未婚の母のみづきさん・・・昔は風俗関係で働いていたらしいの。で・・・二人の仲を引き裂いたのは・・・長田さんのお母さんらしいわ・・・つまり、息子の嫁にはふさわしくないってこと・・・」

「じゃ・・・友也くんのこと・・・長田さんのお母さんは・・・」

「自分の孫だって知っているのよ」

俺の頭の中をぐるぐるとありえなかった世界が渦を巻いた。

長田さんとみづきさんが結婚していれば・・・。三人家族であれば・・・。友也くんと長田さんは屋上でキャッチボールをしなかったかも。俺が追い込むような不成績はあげなかったかも。ボールを取りにいかなかったかも。みづきさんが身をひかなかったならば・・・。長田さんが母親に逆らっていれば・・・。長田さんのお母さんが結婚に反対しなければ・・・長田さんも死なずにすんだかも。長田さんのお母さんは一人ぼっちにならずにすんだかも・・・。

だが・・・過ぎ去った時間は改変できないのだ。だけど・・・未来は変えられるんじゃないか。

もちろん・・・ドジで死んだのは長田さんだけど・・・もう長田さんには責任のとりようがないもんな。

もしも二人が別れずにいたら友也くんも・・・長田さんのお母さんももっと幸せになれたかもしれない。でも、そういう未来を願うことはできるはずだよね。

「その通り・・・」

おっと岩田さんの登場だ。

「犬が餌を見つつお預けに耐えるように・・・生と死の間で・・・その人は待っているんだ・・・残された人が少しでも幸せになることを・・・おあずけの状態なんだ。なにしろ・・・手も足も出ないんだから・・・なあ」

俺は感じたんだ。じっと自分の母親や・・・自分の息子を見守る・・・せつない視線を。

そりゃあ、心も残るだろうさ。そして・・・俺は長田さんの残された願いを叶えてあげたいと心底思ったよ。だが・・・その前に家庭問題も片づけないといけないんだな。

まったく・・・後先考えずに人の結婚に反対したり、人の結婚生活を欠き乱したりして・・・人の道を踏み外してもろくなことにはならないと神も仏も言うだろうに。まあ、逆のことを悪魔が言うからドラマが成立するんだけどね。

まあ・・・やることやってる時、人はきっと神も仏も悪魔のことさえ・・・考えないわけだけど。

ここで恒例の親父の遺言チェック。末っ子の桃子に親父が遺した言葉は・・・。

全てが手に入ると思ったら大間違いだ。世の中には道理というものがある。

親父・・・大変だったな。何もかも知ってたんだな。そりゃ・・・心臓も止まるよな。

仲良く餃子を包む晴香と隼人。

今日はのんびりと三人で一家団欒か・・・と思っていると桃子が健人兄貴(反町隆史)を伴って緊急帰宅である。

「勉強会はどうなったのよ・・・って、健にいちゃんっ」

「兄貴、今まで・・・何やってたんだよ・・・」

「すまない」

家族の質問を背に親父(蟹江敬三)の仏前に線香を上げる兄貴。

何がどうなってるのか・・・わからないが・・・とにかく、健人兄貴が帰ってきて・・・俺は心の底から安堵したんだ。もう、桃子のことは・・・兄貴にまかせたい気分。

「健にいちゃんが帰ってくると知ってたら・・・もっとごちそうにしたのに」という晴香。

しかし、兄貴は「何言ってんだ、充分ごちそうじゃないか・・・うん、うまい」である。

なんだか、家族がそろうってことがこんなにうれしいとは予想外だよ・・・と思っているのもつかのま・・・晴香の桃子への追及が始まった。やはり、健人兄ちゃんが帰ってきたので安心してつっこめると思ったにちがいない。そりゃ、俺だけじゃ・・・不安だものな。

「家庭のある人と付き合うなんてよくないことなのよ・・・まして先生とだなんて」

「何言ってんの・・・お姉ちゃんなんて恋愛経験もないくせに、わかったようなこといわないで」

「なんですってー」

「ふん、処女が何言ったって説得力ないっつーの」

「い、いつ、言った、私が処女だっていつ言ったっ」

「・・・まあまあ、お姉ちゃんたち・・・今日のところは・・・」

「なによ、自分だって、キャバ嬢に貢いで殺人犯と間違われたくせに」

「え・・・(兄貴絶句)」

「・・・うひゃあ」

止めに入った隼人は晴香に軽く振りはらわれて転倒である。

すでにつかみあいに突入した晴香と桃子に健人兄貴が割って入る。さすがだ。兄ちゃん。

しかし、その時には麦茶を手にした桃子。ぶっかけタイムである。健人兄ちゃんは晴香を身を挺して守ったのだ。

「なにやってんだ」

「なによ・・・健兄ちゃんだって・・・肝心な時にはいなかったくせに」

「うん・・・きついな・・・」

「それとあんたの不倫とは関係ないでしょ」

「うるさいなあ・・・私の勝手でしょ」

「勝手ってなによ、胸ばっかり大きくなって頭がからっぽのくせに」

「あーっ・・・うらやましいんだーっ」

「きーっ」

ふたたび、格闘モードにはいる二人。ここは俺の出番。真人-桃子-健人-晴香-隼人の扇を完成させねばならない・・・って桃子のエルボー・スマッシュ炸裂。俺の鳩尾直撃ーっ。

・・・あ・・・息ができない、へへっ・・・おっちゃんよ・・・くらっちまったぜ。

き、きついのをな・・・。

「たて、たつんだジョー・・・」

そこでゴングが・・・いや電話のベルが鳴った。

「おい、誰か電話に出ろ・・・ぶっかけタイム終了ーっ」・・・さすがだ、健人兄ちゃん・・・なんとか仕切ったね。

仕事の電話だった。事故死したご遺体を高円寺署から搬出して、ご遺族の待つご自宅に搬入する。まかされたのは搬送だけだけれど、ご遺族の意向をうかがってその後のことは営業次第というわけ。

兄貴と長峰刑事は顔見知りらしいけど、新人の坂巻刑事は兄貴と初対面で・・・どうやらお熱になったらしい。そりゃ、そうさ。俺の自慢の兄貴だもの。

兄貴に手とり足とり指導される俺が・・・うらやましくて仕方ないって感じ。

まあ・・・すべて・・・俺の気をひきたいがための浮気な演技ってことはみえみえだけど・・・気がつかないフリをしておこう。

「どうしたんだよ・・・じっとみて」

「いやあ・・・兄弟なのに・・・似てないなって思って」

「・・・腹違いだから・・・」

「あ、そうなんだ・・・道理でザコとマグロほど違う」

「おい・・・誰がタコだって・・・」

「ザコって言ったの・・・誰が吸盤みたいにすいつくってーの」

何かを思い出したのか・・・赤面する坂巻刑事・・・よせよ・・・誤解を招くだろうが・・・。

そこへ・・・再び兄貴のバッタリ能力が発動して・・・高円寺署に先生がやってきた。どうやら・・・奥さんが行方不明で、捜索願いを出すつもりらしい。何か一言言ってやろうと一歩前に出た俺を兄貴が引き留める。

「家を捜したら・・・自分がいなくなった時の対処の仕方みたいなことが書いてあって・・・まるで遺書みたいなんですよ・・・」

先生は半狂乱で・・・なんだか・・・哀れに見えた。そりゃ、悪気がなかったとは言えないし・・・妻子がある身で教え子に手を出すなんて・・・すごくスリリングで萌える行為だったのかもしれないが・・・こうやって天罰を受けると・・・なんだか人って滑稽で・・・悲しいもんだとも思えてくる。まあ、一発ぶんなぐってやりたい気持ちは消えないけどね。

仕事を終えて・・・家に戻った俺は桃子の部屋を訪ねてみた。廊下では兄貴がそっと立ち聞きしている。この安心感ったらないね。

「先生の奥さん・・・行方不明だって・・・」

「電話があったの・・・別れようって・・・あたし・・・ふられちゃった」

「・・・」

「先生はひどい人だと思っているでしょ。でもね・・・葬儀屋の子供だから・・・あたし・・・ずっと一人ぼっちだった・・・先生だけだったんだ・・・私を気にして声をかけてくれたの・・・そして・・・デートしてっていったらしてくれたし・・・なんでも言うこと聞いてくれて・・・あたしはうれしくて・・・先生のためになんでもしてあげたいと思って・・・これが人を好きになることかって・・・はじめて実感できたんだ・・・悪いことしてないなんていわないよ・・・でも・・・先生だって私のこと好きになってくれたんだと思う・・・奥さんや子供のことで苦しんでいたし・・・でもね・・・私は私だけの先生になってほしかった・・・だけど・・・それで・・・大変なことになったら・・・どうしよう・・・あたし・・・あたし・・」

世間から見れば・・・もてあそばれただけかもしれないし、俺もそう思うけど・・・桃子が精一杯がんばったことはわかる。泣きじゃくる桃子の肩をたたき、頭を撫で・・・慰める以外に俺には仕様がない。兄貴だって同じだろうと思う。

だけど・・・俺は・・・身を尽くすんだ。

翌日、俺は先生の家を訪ねた。行方不明の妻、不適切な未成年者との淫行を相手の家族に知られ・・・娘の栞ちゃん(井上琳水)からは「お母さんどこ行っちゃったの?」と責められて憔悴しきった先生。その上、眉間にしわよせた俺の登場でもう、ノックダウン寸前だ。

「はっきりいって・・・桃子のことではあんたを八つ裂きにしてやりたい気分です。汚れたナニを一寸(3.03㎝)刻みで刻んでもいい。しかし・・・桃子から話を聞いて・・・桃子がいろんな意味で世話になったというか・・・桃子にとってはあなたが救い主みたいなところもあったと思う・・・だから、俺も、手助けしたいと思うんです。奥さんを捜すの手伝いますよ・・・もしものことがあったら・・・妹は一生気に病むと思うので」

先生は土下座した。

「申し訳ありませんでしたーっ」

俺は先生の家から奥さんの写真やら手帳やらをかき集めると・・・栞ちゃんを連れて家に帰った。

桃子を世話したことのある晴香に栞ちゃんをまかせて・・・まあ、一日くらいなら桃子みたいには育たないだろうし・・・・今日は仕事を休ませてもらう・・・と兄貴に言う。奥さんの写真をじっと見つめて・・・兄貴はうなづいた。

それから・・・兄貴はこう言った。

「栞ちゃんの世話を・・・桃子にさせたらどうだろう」

「え・・・こっそり殺したりしないかな」

「ふふ・・・自分が誰から幸せを奪おうとしたのか・・・桃子が感じることが必要だと思わないか?」

「そうだね・・・きっと桃子の奴・・・反省するね」

栞ちゃんは桃子の部屋に連れていかれ無邪気に喜んだ。

しかし、その目がギラリと光る。

「お姉ちゃんはお父さんの生徒さんなんだって・・・ねえ・・・いろんなことを教えてもらったんでしょ?」

・・・おい・・・。

断っておきますが・・・すべて妄想でございます。再現性もあえて低く設定してありますし、再構築された部分もあるのでご了承ください。

と誰かがなにやら説明している空耳があって・・・俺は「兄貴の歓迎パーティーにつられた坂巻刑事と捜索の旅に出た。しかし・・・奥さんはさっぱり見つからない。

そこへ・・・坂巻刑事の携帯電話に着信があり・・・葬儀の井原屋を訪ねてみづきさんが高円寺署に来ていると言う。友也くんが家出をしたと言うのだ。

俺は電話を代わってもらった。

「あ・・・葬儀屋さん・・・友也が・・・朝からいないんです・・・」

「心あたりがあるのですぐに合流してください」

俺にはわかっていたよ。友也くんが・・・あそこにいることが。それにしても・・・葬儀屋なのに俺って人探しばっかりしているな。ラッキーセブンかよっ。

俺は長田さんが転落したあのビルにやってきた。

そして、俺は屋上で眠っている友也くんを発見したのだ。死んでるみたいでビビったけど・・・大丈夫・・・生きていた。

そこへ・・・みづきさんが半狂乱で現れた。

「大丈夫・・・・」俺はコートを脱いで友也くんを包んだ。低体温症になっているかもしれないので・・・とにかく・・・病院に行かなくては・・・。

「一体・・・どうしたんです・・・」

「急に大金が手に入ったので引っ越しをすることにしたら・・・友也がいやだって言って家を飛び出して・・・」

「もしかしたら・・・長田さんのことを・・・」

「保険金の説明に調査員の方がいらした時・・・友也に聞かれてしまったんです」

「ここは・・・長田さんが・・・友也くんとこっそりキャッチボールしていた場所なんですよ」

「え・・・」

「これは俺の想像だけど・・・長田さん・・・ずっとあなたと友也くんを見守っていたんです」

「・・・そんな」

「でも・・・気が弱い人だから・・・ただ・・・見ていただけ・・・父親だと名乗ることもできずに・・・偶然を装ってキャッチボールをしていただけ・・・」

「・・・あの人らしいわ・・・」

「・・・ママ」

俺の腕の中で友也くんが目を覚ました。

「・・・おにいちゃん・・・」

「友也」

「ママ・・・僕・・・夢を見てたんだ・・・おじちゃんと・・・ううん・・・パパとキャッチボールしていた・・・僕はとってもうれしかったよ・・・」

「・・・」

「他人の僕が・・・言うのもあれなんですけど・・・長田さんの四十九日があるんです・・・長田さんのお母さんには・・・いろいろとわだかまりはあるかもしれないけど・・・友也くんに・・・お父さんとのお別れをさせてくれませんか・・・もちろん・・・無理にとはいいません・・・言える立場でもないですし・・・」

「それは・・・」

その時、晴香から電話が入った。

「どうした・・・何、健人兄ちゃんが先生の奥さんを見つけたって・・・どこで・・・西荻窪病院って・・・俺たち、今、そこへ行くところだよ・・・何・・・兄ちゃん、奥さん連れて家へ来るって言うのか・・・わかった」

俺は友也くんを坂巻刑事にパスした。

「えっ・・・」

「大丈夫・・・俺より力持ちですから・・・あとはまかせた」

「えーっ・・・ひ、非番なのにーーーーっ」

友也くんを抱えて地団駄を踏む坂巻刑事とそれを不安そうに見つめるみづきさんを残して俺は自宅に急行した。もちろん、B.G.M.は「愛、テキサス」ダッシュ・ヴァージョンだ。

何故にさまよい迷う?

あいつの声が鳴り響く

ってあいつって誰だよ。

家に戻ると先生の奥さんをかこんで兄弟姉妹が全員集合である。栞ちゃんは遊び疲れて眠ってしまっている。

そして、桃子を除く一同全員が土下座である。

「妹が・・・すみませんでした」

「私は・・・あやまらない・・・だって」

「いいから・・・あやまれ・・・」

「ところで健人兄ちゃん、どうやって奥さんを見つけたの・・・」

「もしや・・・事故にでもって・・・思って病院に行ってみたんだ・・・そしたら・・・」

しかし、俺はどうもその言葉にウソがあるような気がした。なぜか、そう思えたんだけど・・・そりゃ・・・付合いが長いしね・・・兄弟だし・・・しかし、それを問い詰める場合じゃなかったんだ。

「一番悪いのは・・・私の夫です・・・夫に代わって・・・おわびします・・・すみませんでした」

「なに・・・それ・・・先生だけを悪者にしないで・・・奥さんだって仕事ばかりして・・・先生をほったらかしにしたりしたでしょ・・・」

「こら・・・桃子・・・」

「だから・・・先生だって・・・私・・・先生を愛してます・・・先生だって・・・きっと・・・お願いします・・・先生を私にゆずってください」

「桃子・・・何言ってるんだ」

「わかりました・・・それなら主人と結婚してください」

「えーっ・・・」

「でも・・・条件があるの・・・あと・・・一年くらい待ってほしいの」

「・・・」

「私、ガンなんです・・・余命1年と告知されました」

「えーっ・・・」

「ガ、ガン」

「なに・・・それ」

「だから・・・死ぬまでは・・・主人の妻として・・・死にたいの・・・そして・・・川原家のお墓に入りたいのです。どうか、それまでは・・・主人を私の元へ返してください。私が大事にあずかりますから」

「・・・」

そう言うと・・・奥さんは栞ちゃんを起こして・・・葬儀の井原屋を後にした。

妹は唇をきつく引き締めるとその後を追う。

ちょうど先生が妻と子を迎えにきたところだった。

先生は二人の女を見ると土下座するしかなかった。

「先生の奥さん・・・・あの話・・・きっぱりおことわりします。なんか・・・重すぎるっていうか・・・栞ちゃんとか虐待したりしたらいやだし・・・先生のことだって・・・最初から長続きしないって思ったし・・・卒業したら先生と生徒じゃなくなっちゃうし・・・だから・・・だから・・・先生はおかえしします・・・ごめんなさい・・・だから・・・だから・・・だから長生きしてください」

妹よ・・・。お前はやっぱり・・・いい子だな。

妹は踵を返すと家へ帰って行った。

「すみません・・・子供なんで・・・思ったことを口に出しちゃって・・・」

「いいのよ・・・素敵な家族ね・・・私も・・・この子に兄弟を・・・」

言葉を切らす奥さん。栞ちゃんはそんな母親と土下座する父親を心配そうに交互に見つめている。

「もしもの時はあなたのところにお願いしようかしら・・・えーと、予約ってあるのかな」

「予約は承っていないんです・・・今にも潰れそうな会社なんで・・・」

奥さんは微笑んだ。そして、栞ちゃんと夫に向かって歩み去った。

俺が振り返るとそこに兄貴がいた。俺は先生一家のお見送りは兄貴にまかせて桃子の後を追いかける。

「桃子・・・」

「お兄ちゃん・・・私、今度は・・・誰にもあやまらないですむ・・・恋をするんだ・・・そう・・・決めたんだ」

「うん・・・」

「私、歌う。一番、井原桃子、麻丘めぐみの『芽生え』歌います」

もしも、あの日、あなたに、逢わなければ、この私は、どんな、女の子になっていたでしょ・・・うえーん、うえーん、うえーん。

桃子・・・。なんで、そんな歌知ってるんだ・・・。

そして・・・長田さんの四十九日がめぐってきた。

天国とか、地獄とか、極楽とか、地獄とか・・・地獄はダブルかよっ・・・あの世とかが本当にあるのか、ないのか、人は知ることはできない。

でも思い出して欲しい。長田さんが亡くなったあの日・・・ものすごく風が吹いていたんだ。

だけど・・・今日のビルの屋上は・・・無風地帯で・・・小春日和なんだ。

なにもここでしなくてもいいのに・・・と思ったけど・・・こうして奇跡のような穏やかな日がめぐってきたかと思うと・・・長田さんは良い日に旅立つんだと思うね。

長田さんのお母さんは・・・友也くんとみづきが姿を現すと・・・風ひとつないビルの屋上で・・・喪服の土下座をした。

「本当にごめんなさい」

友也くんは驚いてみづきさんを振り返った。

みづきさんは立ちつくしていたけれど、その瞳にはキラキラ光るものがあった。

「そして・・・ありがとう・・・あの子に・・・息子とキャッチボールをさせてくれて・・・あなたと息子の結婚を許さなかったのは・・・私の間違いでした。どうか許してください・・・」

「・・・お義母さん・・・私も彼と強引に一緒にならずに・・・すみませんでした。・・・でも、たまには友也と遊んでやってくださいね。だって・・・友也はあなたの孫なんですから」

みづきさんは長田さんのお母さんの手をとった。そしてお母さんの眼に浮かぶ涙を見てそっと肩を抱いたのだ。

「おかあさん・・・おばあちゃん」

友也くんはふと俺を見た。その顔には確かに長田店長の面影があったんだ。

今、長田店長はホットなナンバーになって空に溶けて行った。

「2番、今野みづき、テレサ・テンの『時の流れに身をまかせ』歌います」

もしも、あなたに、逢えずにいたら、私は、何をしてたでしょうか、シクシクシク・・・。

こうして・・・俺はこのドラマが一番、言いたかったのは「芽ばえ」(1972年)と「時の流れに身をまかせ」(1986年 )が似ている気がするってことじゃなくて・・・生きていればどんなに間違いを犯してもやり直そうと努力するチャンスがあるってことなんじゃないかと思う。もちろん、きっととりかえしのつかないこともあると思うけど・・・ハードルはすごく低いっていうことなんだよね。世間からうしろゆびさされる人にやさしい物語・・・それはきっと・・・どんな痛みも愛おしい・・・ってことに通じるんじゃないかな。

親父・・・長田さんはそっちについたかい?

いろいろあったんで・・・俺のかわりに・・・きっと親父は頭をさげているんだろう。

俺はその分、こっちでがんばるから・・・許してくれよな。

関連するキッドのブログ→『第5話のレビュー

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2012年2月16日 (木)

口説かれてましたとウソをついちゃったんですーっ。(加藤あい)相棒はコケシじゃないのかよっ(桜庭ななみ)

おい・・・谷間だからといって・・・ドラマの枠を越えちゃうのか。

いや・・・、ま、「ストロベリー・ナイト」は一応、ドラマだけど、「クワコー」はそれ以前の何かだからねえ。

それを言ったらおしまいだろう。

おばちゃん(三﨑千恵子さん)、亡くなったなあ。

そこかよっ。

なんか・・・昔、すごくいいネタをもらった気がするんだけど・・・うろおぼえだ・・・清川虹子さんだったかもしれない。

なんじゃ・・・それは。

でも・・・東京大空襲に関係しているような気がする。・・・ああ、思い出せない。

まあ・・・思い出すとそれはそれで危険な気がしてきたよ。

そうかな。

謹んでご冥福をお祈りします。

で、『ストロベリーナイト・第6回』(フジテレビ20120214PM9~)脚本・林誠人、演出・佐藤祐市を見た。・・・・・・・・・・おいっ。・・・いや、ゲストが成城南署強行犯捜査係刑事・高野真弓(加藤あい)だったもんで・・・ここはひとつ穏便に願います。・・・まあ、仕方ないか。今回、一応、一話完結だしな。

大手製薬会社勤務の長塚淳(窪寺昭)が自宅玄関前で刺殺される事件が発生。成城南署(フィクション)の所轄刑事・高野が・・・姫川班に人員配置され、姫川玲子(竹内結子)とコンビを組むことになる。玲子は若くて美人の高野刑事に嫉妬し、たまたま同じシャンプー「TSUBAKI」を高野が使用していたので「パンテーン」(スポンサー)に変えなさいと強要するのだった。

「私、意外とシャンプーやってないんですよね、先輩はエメロン、エッセンシャルと渡り歩いてますよねーっ」

と高野はシャンプーの女王を持ちあげるのだった。ちなみに竹内31歳、加藤29歳の冬であった。

捜査を開始する姫川班だが・・・被害者の周辺に不審な人物が浮上せず・・・難航の上に進展がない。警察学校で同期だった高野との再会が葉山巡査長(小出恵介)の心に火をつけたのか・・・急に鼻息が荒くなる。そこに不審を覚えた菊田巡査部長(西島秀俊)はひそかに葉山の身上調査を開始する。

菊田「卒業配置が一緒だったそうだが・・・葉山とは関係したのか」

高野「私は関係しませんでしたが友人が関係したそうです」

菊田「なるほど」

二人の密会を目撃した姫川は高野に詰め寄る。

姫川「・・・菊田と何を話していたの?」

高野「口説かれちゃいました」

姫川「・・・あれは私の送迎要員だから」

高野「・・・」

・・・おい、いい加減にしておけよ。

嫉妬の炎に燃え上がった姫川は妄想を連発。

「チャイムに指紋がなかったのは犯人が待ち伏せしていたからです・・・そして被害者に父親を呼び出させようとしたのです・・・しかし、父親は不在で犯人は仕方なく被害者を刺したのでしょう。間違いありません」

一同「さすがだな」

高野「えーっ」

「ターゲットは父親の長塚利一(佐々木勝彦)です・・・彼はあの非加熱製剤事件で多くの患者から恨みを買っています。すごく悪い奴です。恨み買いまくりです」

一同「さすがだなあ」

高野「えーっ」

ものすごい数の被害者のいる実際の事件と違い、ちょうどいい感じの被害者数の事件だった。たちまち、捜査線上には非加熱製剤事件で恋人を喪失した矢部眞人(矢柴俊博)が唯一浮上する。

一方、菊田はついに葉山刑事のトラウマを解明する。

「少年時代の家庭教師が刺殺されるところを目撃して・・・刃物を見ると恐怖で動けなくなります」

「刑事・・・やめた方がいいんじゃないか」

「いや・・・がんばって・・・克服したいんです」

菊田から相談を受けた姫川は同病相哀れむのだった。

「結局・・・自分で・・・立ち向かうしかないのよ・・・あたしだって・・・気絶しちゃうんだもん」

「主任は自分が守りますからっ」

突然、嵐のように見つめあう主従だった。

やがて、まんまと罠にかかる犯人。しかし、確保しようとした高野は一歩も動けず、姫川は負傷してしまう。

愛する人の血に逆上した菊田は犯人を半殺しにするのだった。

ついでに葉山も一撃で昏倒させる菊田だった。

「お前はなあ・・・本当にクソみたいに役立たずだっ」

しかし、気絶した葉山にはその激励は届かない。

すべてを目撃した高野刑事は「私・・・捜査一課は目指しませんからーっ」宣言をするのだった。

被害者の父親で極悪人のターゲットは「あーっ、ウチの前を血で汚しちゃって・・・ちゃんと清掃してくれるんだろうな」と明らかにモデルと目される人物と同様の発達障害の一面を発露する。

そして・・・事件の黒幕はネット社会の闇に潜んでいる悪魔だったらしい。

なんでもかんでも悪魔のせいにするよね・・・人間って。

それはさておき姫川はローヒールのようなハイヒールのかかとを折りふとスニーカー刑事のことを思い出すのである・・・。

とにかく、事件は姫川のものになりました。

関連するキッドのブログ→とにかく赤ちゃん欲しいんですーっ。(加藤あい)

で、「クワコー4」も見た。・・・おいっ。

だってフィギュア・スケートの選手(いしのようこ)がラーメン屋になる話なんだぜ。しかも、彼女に密かに片思いする男(堀部圭亮)・・・「家族八景」と連打ゲストだよ。もう・・・イメージかぶって大変だったよ。

それはまあ、そうだな。

「ジンジン」(桜庭ななみ)を見たって書きたいくらいなんだもん。

いしのようこ(43)も奇跡のスタイルだったけどな。

ジンジンもフィギュアの衣装でサービスするべきなんだもん。

お前・・・誰だよ?

関連するキッドのブログ→第3回のクワコー

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2012年2月15日 (水)

いつまでも若く、いつまでも愚か者で、いつまでも愛しい女へ捧げる突然の死という贈り物に叫んだ乙女(木南晴夏)

原作は八篇で構成されるわけだが、登場人物の「死」が表現されるのはこの「青春賛歌」が最初である。

原作順では「無風地帯」→「澱の呪縛」と来て三番目が「青春賛歌」になる。

連作短編であるので・・・主人公の設定説明などくりかえしの部分もあるが・・・いわば・・・話の核心にせまってくるコーナーである。八篇を二つの起承転結と考えると・・・この作品は「転」にあたり、最初の「結」にあたる「水蜜桃」になだれ込んでいく。

ドラマではすでに「水蜜桃」が先行しているので前後することになるが・・・この二つには「老いに対する恐怖」が共通しているわけである。

「水蜜桃」では老いて仕事を失った男の悲哀が描かれているし、「青春賛歌」では若さに固執して暴走する女の錯乱が描かれる。

「死」の恐怖の前提として「老い」の恐怖があるのか、その逆なのかは老若男女各個人によって違うだろうが、両者が密接な関係にあることは間違いないだろう。

例によって原作の核心部分は欠落するのだが・・・トーンとしてはドラマはまたもや傑作の領域に達している。

家族といっても河原家は主人の寿郎と陽子の二人だけである。しかし、七瀬が河原家で働きはじめてから二週間経つにもかかわらず、家族との「心の交流」といったようなものは、まったくなかった。

テレパシスト(読心能力者)が「心の交流」にこだわることがすでに意味深いのだな。

つまり、本質にあるのは主人公・七瀬の孤独なのである。

さて、どちらかといえば・・・本編はテレビドラマ向きではない。なぜならば・・・河原家の二人は夫婦そろって非常に知的なのである。お茶の間の平均値をはるかに凌駕する知性を持つ二人の心身は・・・いかに表現しようとも深い理解を得られないと予想されるのである。

しかし、ドラマでは夫をやや不器用でかなり善人風に描くことによって難を克服している。

原作では夫はあくまで理知的な個人、妻もまた理知的な個人である。

そしてこの夫婦には最後・・・一方の生の終焉まで「心の交流」が成立することはないのである。

二人は最後まで「理知的であるがために孤独な存在」なのだ。

しかし・・・ドラマでは残されたものが去ったものをある程度愛しく想う風を装うことによって・・・誰もが共感可能な世界に着地しているのである。

だが、七瀬の結論は原作によりそい・・・けして残されたものの心情に共感はしない。

そこがラスト・シーンに幽かな違和感として蟠るという態になっているのだな。

このあたりのアレンジはなかなかに見事なのである。

ついでに言えば今回は登場人物がほぼ三人(ただし妻の愛人その他が記憶の形で登場する)であるために非常に分かりやすかったと思うわけだが・・・七瀬が掛け金を外して心を読んだ時の・・・アフター・レコーディングによる夫婦の心の声はすべて木南晴夏が声優を担当しているのである。天才である。

ちなみに・・・この作品には明らかにモチーフがあると推察できる。それは映画「卒業」(1967年)だ。もちろん、映画はダスティン・ホフマンとキャサリン・ロスの青春物語なのだが・・・キャサリン・ロスの母親役で・・・ダスティン・ホフマンの愛人でもあるというアン・バンクロフトの演じる「ミセス・ロビンソン」こそが・・・河原陽子のモデルであると言えるだろう。

よって本作の結末は「青春からの卒業をめぐるひとつの冴えたこたえ」に他ならない。

つまり「老いて死ぬのがいやならとっとと死ね」ということなのだな。

で、『家族八景 Nanase,Telepathy Girl's Ballad・第四話・青春賛歌』(TBSテレビ20120215AM0055~)原作・筒井康隆、脚本・江本純子、演出・高橋洋人を見た。脚本家は劇団毛皮族の脚本・演出家である。ドラマ「栞と紙魚子の怪奇事件簿」(2008年)の第4話第8話を手掛けている。

河原家は新興都市のはずれの分譲住宅地にある中クラスの洋風家屋である。

家政婦として住み込んだ七瀬(木南晴夏)は河原家の主婦・陽子(小沢真珠)の圧倒的な精神力に感化され、とまどいを感じるとともに一種の快感を味わっている。

七瀬は「影響を受けた」とは思わず、陽子の自我の強さに衝撃を受けているだけだと考えていたが、ふと自分の考え方の過程を顧みた七瀬はそこにはっきりと陽子特有の思考パターンを発見したのである。

20歳そこそこの若い七瀬が38歳前後の陽子に影響を受けるのは不思議なことできないが、人の心を読むことができる七瀬は常人の数倍の人生経験を追体験している。その七瀬を圧倒するほど、陽子の思考プロセスは非常に論理的で、情報処理の屈折と分散の見事さはとびぬけて、頭脳の極めてすぐれた人間ならではの強い精神力を保持していたのである。

≪おでかけ≫≪家政婦に命令≫≪必要事項≫≪この家政婦は有能≫≪旦那の世話について≫≪夕食≫≪過去一週間の献立≫≪食材の有無≫≪適切な献立≫≪最近、旦那は妙に年齢にこだわる≫≪少し嫌味をきかせる≫≪家政婦の調理能力≫≪適切なレシピ一覧≫≪飲み物・コーラのようなもの≫≪洋食リスト≫≪微笑み≫≪嘲笑≫≪皮肉≫≪そうだ、旦那にハンバーガーを食べさせる≫≪アメリカンなジャンク・フード≫≪味なことやるマクドナルド≫≪実は原作初出当時は日本マクドナルド進出直前≫≪しかしSFなんだもの時代考証は多元宇宙論でスルー≫≪味なことやる私≫≪おでかけ≫≪行動予定≫≪インターチェンジまでの交通量≫≪目的地設定≫≪赤いハイヒール≫

「今夜の夕食はハンバーガーを作って旦那に食べさせてね。私の分はいらないから。それから旦那の地味目の茶色の冬服にアイロンをかけておいて。私の帰りは九時。もしも旦那に聞かれたらそう答えるの。もちろん、聞かれたらでいいのよ」

ドラマでは七瀬が心の掛け金をはずした状態は視覚的に表現される。河原家では服装が高校三年生風となり、夫は詰襟の学生服、妻は赤いボウのついたセーラー服である。

もちろん、学生服は青春の象徴であり、夫に比べて青春により固執しているのは妻であることから・・・七瀬の意識が妻に親和していることを表現しているのだろう。

七瀬はプリズムのような陽子の意識に魅了されている。

それはまさにめくるめく百万ドルの夜景を眺めている観光者のようなものである。

いつまでも・・・陽子の心を覗いていたい。七瀬は陽子の意識に恋にも似た感情を抱いているのだ。そのために・・・都心へとスポーツカーの愛車フェアレディーを運転する陽子の意識を出来る限り捕捉したいと欲求し・・・七瀬は家事を処理しながら陽子の心を追跡する。

≪年下の男の子≫≪オサムくん≫≪大学生≫≪待ち合わせの時間≫≪時差を利用してショッピング≫≪新作がある可能性≫≪贔屓のブティック一覧≫≪ボーグで≫≪スーツ≫≪おニューに着替え≫≪待ち合わせ≫≪食事≫≪フレンチ≫≪アプタイザー≫≪スープ≫≪ポアソン≫≪アントレ≫≪デザート≫≪情事≫≪サイモン&ガーファンクル≫≪ホテル≫≪ストッキング≫≪オサム(未来弥)くん≫≪プロデュース大作戦!≫≪社長の不祥事≫≪番組討ち切り≫≪せっかくビーチボーイズに選ばれたのに≫≪失意≫≪慰め≫≪濃密な≫≪青春の≫≪行為≫≪騎馬位≫≪絶頂≫≪うえたオオカミ≫≪先に行かれても気分を出してもう一度≫≪若い≫≪若さゆえの回復力≫≪絶頂・・・≫≪ホテル名検索・・・≫≪予約・・・≫≪ショ・・・ピン・・・グ・・・の・・・・≫≪店から・・・≫≪・・・≫≪東の空は青い≫≪・・・・・・・・・・・≫≪アクセル・・・・・・・・・夕暮れ≫≪・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・≫

精神感応力(テレパシー)は七瀬と相手との距離に影響される。河原家から遠ざかるにつれ・・・陽子の意識は受信できなくなってしまうのだった。

まもなく、一流大学を卒業したエリート官僚である河原家の主人・寿郎(堀部圭亮)が帰宅する。

七瀬はハンバーガーを作った。

寿郎の心は妻への批判で満ちている。

≪困った女だ≫≪享楽的だ≫≪38歳≫≪若い男と浮気≫≪大目にみていればいい気になって≫≪しかし美しい≫≪だが困った女だ≫≪浮気はいい≫≪しかし世間体が悪い≫≪役所で噂にでもなったら≫≪立場上≫≪困ったことになる≫

陽子の論理的な思考はすべて彼女自身の行動と密接に結びついている。だが寿郎の思考は、同じく論理的であってもいわば非常に文学的で、ほとんど良識的、観念的な他への批判に終始していた。

七瀬はそういう寿郎に批判的である。七瀬は「何もしない人間が行動的な人間を批判していると、いつも少し腹が立つのである。それは七瀬にとっては老人の意識、敗者の意識だからである。たとえそれが「悪事」であってもそれを為すものを、為さないものが批判することは許せない気がした。

もちろん、それは陽子に影響された七瀬が陽子を批判する寿郎に反発していることになるのだが。

まもなく・・・帰宅した陽子は心の中で情事を反芻しながら夫と日常的な会話をする。

≪オサムくんは今日も情熱的・・・心も体も通い合っている≫

≪何食わぬ顔でフレンチも食い男も食ってたか・・・困った女だ≫

七瀬は夫婦の仲が冷えていると最初は考えた。しかし、最近では二人の間に「徹底的な個人主義」があることを悟っていた。二人はそれぞれに「大人の複雑な関係」を構築しているらしい。

もちろん、陽子に影響されている七瀬にとって陽子を批判する寿郎も陽子が許容する限りにおいて許されるべき存在なのである。

しかし・・・それもまた大いなる幻影なのかもしれなかった。

そして、オムライスの夜がやってくる。ちなみにハンバーガーもオムライスもドラマのオリジナルである。1970年代と2012年代が交錯する奇妙な味わいの脚本が展開していくのだ。原作での陽子の寿郎への食事に関する七瀬に対する指示は「焼いたお肉と野菜いためでいい」である。

日本でTバックという言葉が浸透定着したのは1980年代だが、さかのぼればブラジル原住民の民族衣装であり、20世紀初めには世界的にストリッパーの愛用品であったので、陽子が夜の道具としてTバック下着を着用することは問題ない。

オムライスにケチャップでTと書くのは七瀬の出来心というようりは脚本家の遊び心であろう。そういうことをやってみたい年頃なのだろうな。

≪なんだ・・・なぜ( T )なのだ≫≪T・・・≫≪としろう・・・≫≪ティー・・・抱いティー≫≪TOしろうさん、抱いティーなのか≫≪この家政婦・・・オレに抱いてほしいのか≫≪しかし、小娘だ・・・小娘は小便くさい≫≪尿マニアもいるらしいが≫≪オレにその趣味はない≫≪オレが好むのは≫≪成熟した大人の女≫≪レンブラント・ハルメンス・ファンレイン≫≪ベッドの中の女≫≪陰影の豊穣≫≪ダナエ≫≪豊満な肉体≫≪ピエール・オーギュスト・ルノワール≫≪陽光をあびる裸婦≫≪たわわな乳房とゆたかな下腹部≫≪浴女とグリフォンテリア≫≪ふくよかな丸みを帯びたたるみ≫≪そうだ・・・お母様のような・・・≫

やはり寿郎も≪強烈なエディプス・コンプレックス≫を抱いていると七瀬は意識する。男性の女親への性欲は七瀬にとっても本能的な嫌悪の対象である。心理学を独学したことのある七瀬はそれが普遍的な心理であることは認識されていたが、自身の父親への性欲を隠匿するためにもマザー・コンプレックスは忌避する必要があるのだ。

同様に意識から母親への性的欲望を排除しつつ、・・・それは母への慕情へと巧妙に偽装される・・・寿郎の思考は一向に母親的にならない陽子への批判へと展開していく。

≪陽子もそろそろ、年齢(とし)相応に振舞えばいいのに≫≪中年の女が若い女の真似をするのは不格好だとわからないのか?≫≪あれだけ頭のいい女でありながら、自分のこととなると何も気がつかなくなるらしい≫≪やはり女だ≫≪スタイルはいい≫≪俺よりも若いから≫≪既製服が着れる≫≪俺は無理≫≪なぜならば服を誂えることができるのはステイタスだ≫≪大人のみだしなみだ≫≪レディーメイドなど貧乏人のファッションだ≫≪オーダーメイドこそがおしゃれの基本だ≫≪サイズ≫≪俺のウエストのサイズ≫≪ジーンズのサイズが≫≪なかった≫≪俺のはけるサイズが≫≪なかった≫≪困惑する店員≫≪小娘≫≪屈辱≫≪俺は既製品が着れない男≫≪しかしそれが大人というものなのだ≫≪既製服はそもそも青二才や小娘のティーン・エイジャーのウエスト・サイズ≫≪陽子は若者向きの既製服を買いあさる≫≪若さへの従属≫≪俺は違う≫≪成熟した人間は画一的なヤング・モードの流行から自由になって、自己の完成された個性を主張≫≪レディーメイドは敵だ≫≪オーダーメイドは素敵だ≫

寿郎は憤激し・・・オムライスを二杯食べた。

≪しかし・・・陽子を叱っても≫≪理解はしても納得はしない≫≪女だからな≫≪逆に優しく諭すことも大人の度量だ≫≪年上の男として・・・なにしろ、陽子は俺よりも七歳も幼い≫≪俺が中学生の時にまだ幼女だったのだ≫≪それならいっそ叱る方が≫≪いたわるべきか叱るべきかそれが問題だ≫

七瀬は時計を見る。すでに陽子の帰宅予定時間は過ぎていた。

「陽子は何時に帰ると言っていたかな?」

「九時とおっしゃってました」

≪なんだ・・・時間には正確な女なのに≫≪なにか問題が発生≫≪痴話げんか≫≪陽子の魅力の虜になった男が遊びを本気と勘違いして≫≪刃傷沙汰≫≪警察沙汰≫≪醜聞≫≪役所での俺の立場≫≪陽子の身≫≪しかし、あれは頭のいい女だ≫≪よもや≫≪いや≫≪しかし≫≪もしや≫

電話が鳴る。

「陽子か?」

「奥様からでございます」

「なんだ・・・まったく」

「え・・・事故でございますか」

「なにっ」

≪なにっ≫≪ついにやったか≫≪しかし自分で電話してきたということは≫≪陽子は無事≫≪A級ライセンスの腕前だからな≫≪保険≫≪示談≫≪穏便に処置≫≪それはそれとして≫≪叱るべきだ≫≪今夜、俺は叱ります≫≪いたわりつつ説教≫

酔っ払いの飛び出しによる軽い接触事故だったために陽子は自ら運転してその日のうちに帰宅した。

河原家に接近する陽子の意識が同調している七瀬の心に飛び込んでくる。

≪・・・厄日だった≫≪デートをすっぽかされた≫≪オサムくんの若いガールフレンド≫≪中年の酔漢≫≪ボーグに私にフィットするサイズがなかった≫≪仕方なく映画を見た≫≪ひどくつまらない映画≫≪おろかな若者たちの映画≫≪私はちがう若いからといって愚かではなかった≫≪オサムくんも愚かな若者だったのか≫≪いや頭脳明晰≫≪スポーツマン≫≪ただ内気なだけ≫≪しかし裏切った≫≪優柔不断≫≪愚かな酔っ払い≫≪急に車道に飛び出して≫≪かすり傷≫≪安全運転義務違反≫≪交番に連れていかれ≪説諭≪若い警官に≪年齢のことを言われた≪屈辱≫≫≫≫≫

まあ、可哀相に」自尊心の高い陽子にとってなんとむごい一日だったことか・・・と七瀬は思わずつぶやいた。

帰宅した陽子に寿郎は待ち構えていたように説教を始める。

自分では若い連中と同じように運転していると思っていても、反射神経が鈍くなっているんだ。だから人をはねたりする

相手は酔っぱらいだったのよ・・・あっちが悪いの

しかし、寿郎の言葉に陽子はショックを受けていた。

≪わたし・・・年齢(とし)のために≪運動能力が低下≫したのかしら≪そういえば≫≪昔なら≫あの程度の距離があれば≪かわせた≫かもしれない≫≪いえ≫≪そうじゃない≫≪そんなことはない≫≪今日は特別いらいらしていたから≫≪厄日だった≫

もう、やめてあげればいいのにと七瀬は気を揉んだ。

しかし、寿郎の叱言はいつまでもだらだらと続いた。

「もう、寝かせて。疲れているの」

≪どうして夫は・・・こんなに若さを気にするのかしら。自分が私のように若さを好きじゃないからかしら。それともわたしが若わかしいことに嫉妬しているのかしら

「じゃあ、寝なさい・・・だが、もうスポーツ・カーはやめなさい」

「それは、命令なの」

「・・・うん・・・命令だよ」

「・・・」

「・・・」

入浴タイムである。いつものように乳白色に入浴中の七瀬は放射される陽子の自意識に悩まされていた。

陽子は傷ついた心を癒すためにさらに自我を強化しようとしていたのだ。

年齢(とし)をとったと指摘されたことは、陽子の自我にとって深い精神的外傷(トラウマ)だった。なぜなら彼女の自我は彼女の若さと複合体(コンプレックス)を形成していたのである。

青春時代、彼女は世界の中心であり、彼女こそ青春そのものだった。

そして、その世界では中年は脇役だった。彼女が中年になったことを認めることは彼女にとって自我を捨てることと同じようなものなのだ。

≪私は若くない≫≪若くない私などというものはない≫≪私はわかい≫≪私はまだ若い≫≪まだ≫≪若い≫≪もう≫≪若くない≫≪オサムくんが私を無視≫≪私がオサムくんに無視された≫≪私を≫≪青春そのもの≫≪青春≫≪私のものではない青春≫≪私は私の青春そのもの≫≪私の青春は私そのもの≫≪わたしの時代の終焉≫≪わたしはこれから、端役を演じなければいけないのだろうか≫≪ノー≫≪否≫≪いいえいいえいいえ≫≪だめだめだめ≫≪いやいやいや≫≪もしそうなら≫≪もし≫もしそうなら≪死んだ方がましだ

ふと七瀬は目の前に陽子の幻影が佇んでいるを視た。

陽子は七瀬に突然、意識を向けたのだ。

≪家政婦の≫≪あの家政婦≫≪七瀬ちゃん≫≪あんな地味な子が≫≪若い≫≪若いだけで≫≪青春を一人占め≫≪あの子の皮膚がほしい≫≪爪≫≪爪をたてて≫≪とがった爪で≫≪はがす≫≪ぺりぺりと≫≪ベリベリと≫≪そして≫≪ペタペタと≫≪ベタベタと≫≪私にはりつける≫≪七瀬ちゃんの無経験≫≪頼りなさ≫≪健康な鈍重さが≫≪≪≪ほしい≫≫≫

七瀬は浴槽の中で金縛りにあったように身動きができなかった。陽子の心が七瀬の心にねっとりとまとわりついてくる。七瀬の心は震えた。

翌日、いつものように陽子は七瀬に留守番を命じスポーツ・カーにのって出かける。

七瀬の心は不安に満たされる。

その不安は七瀬自身の不安であり、陽子の不安だった。

≪オサムくんと決着をつける≫≪つける気だ・・・そんなことは≫≪無意味だ≫≪無意味です≫≪しかし≫≪確かめなければならない≫≪何を≫≪私の青春の≫≪オサムくんに私がどう見えるか≫≪私自身のために≫≪私は沈黙してしまうような≫≪黙ってやりすごすような≫≪人間じゃない≫≪何を≫≪何をやりすごすのか≫≪ミセスロビンソンはなぜ恋人と娘の結婚を許さなかったのか≫≪男の裏切り≫≪わが娘への愛≫≪ちがう≫≪自分が若くないことを認めさせた≫≪現実が≫≪時間が≫≪認めた自分が≫≪許せない≫≪私はスピードを落とさない≫≪なぜならスピード違反による事故は若さの証明だから≫≪死んでも≫≪いいわ≫≪アクセル≫

七瀬は悲鳴をあげた。陽子の目前にトラックの後部が接近する。その凶悪な車体が急速に拡大する。光と闇。パノラマ視現象。意識の拡散。亀裂の彼方に死・・・虚無があった。七瀬は生きながら死を体験したのだった。

七瀬は絶叫した。

陽子の死を知った瞬間、葬儀の間、そして今・・・寿郎は「妻の死の引き金を引いた自分のイメージ」からなんとか逃れようともがいていた。彼のあくまで知的な思考形態は・・・あの夜の会話が妻の死を招いたことをどうしても察知してしまうのだ。そう考えることは寿郎にとって苦悩以外のなにものでもなかった。

≪そんなことで罪悪感を感じる必要はない≫≪陽子は青春崇拝の軽佻浮薄な流行の犠牲者なのだ≫≪若者の時代などという虚構で中年の価値はひきずりおろされている≫≪若者など虚構だ≫≪価値など虚構だ≫≪陽子は間違っていた≫≪青春を失わないなどという虚構にひっかかってしまった≫≪だから陽子を殺したのは≫≪俺の一言≫≪狂った現代社会だ≫≪俺が彼女を追い込んだ≫≪絶対にちがうのだ≫≪社会が≫≪彼女自身が≫≪俺が≫≪俺が≫≪なぜなら≫≪なぜなら≫≪なぜなら≫≪陽子、君に会いたいよ≫

七瀬は河原家を後にする。街には時代を超えてボブ・ディランの「いつまでも若く(スロー) - Forever Young」(1974年「プラネット・ウェイヴズ」収録)が流れている。

君がいつまでも若くいられますように

いつまでも若く いつまでも若く

君がいつまでも若くいられますように

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2012年2月14日 (火)

さらば甘きエアキッス(吹石一恵)

(瑛太)と(松本潤)で悩んだ末にこうなりました。だって桐原警部補(吹石一恵)今まで一番、活躍してたから。

ま、まさか、これで吹石一恵の回は終わりじゃないだろうな。

いや、きっとそうだろう。

それはともかく、あっと驚く、瑛太途中退場である。

ただし・・・「これで全部解決だ」という駿太郎(松本潤)の言葉に応じての新田の退職宣言。

これは「16年前の社長(松嶋菜々子)の父親の事件」にからんだ話なので・・・別行動で単独捜査・・・最後に合流の伏線と言えなくもない。

その場合はまさに「名探偵再登場」なのである。

タイトルの元ネタは「さらば甘き口づけ/ジェイムズ・クラムリー」(1978年)、原題は「THE LAST GOOD KISS」で翻訳家は小泉喜美子である。酔いどれ探偵スルーの甘くせつないハードボイルドだ。ジェイムズ・クラムリーも2008年に故人になったが、翻訳の小泉喜美子は1985年に亡くなっている。自身も作家である彼女の翻訳はトレビアンなのである。このドラマのレビューのタイトル元ネタでは「女には向かない職業」も彼女の翻訳だったな。

「さらば甘き口づけ」の重要な登場人物・・・いや・・・犬にブルドッグのファイヤーボールがいる。「犬と呼ばれた男」にちなんでいただきました。

で、『ラッキーセブン・第5回』(フジテレビ20120213PM9~)脚本・野木亜紀子、演出・成田岳を見た。やはり、アクション・シーンは佐藤信介・演出回限定らしい。他の演出家は基本的にはコーヒー飲んだり、指相撲させたりするだけなのだな。まあ・・・ねっとりとした男(松潤)と男(瑛太)のラブ・シーンはそれなりにスィートでございましたが~。

で、結局、警視庁内部には「ラッキー探偵社」をこころよく思わない勢力があり・・・そこには「16年前の事件」がからんでいるらしい・・・ラッキー探偵社をつぶしにかかった陰謀に新田(瑛太)が巻き込まれた・・・という話である。

そのきな臭い匂いを嗅ぎつけたのは・・・誰あろう・・・警視庁北品川警察署の桐原警部補だった。

「この事件・・・なんだか妙じゃありませんか・・・」と上司の後藤警部(金田明夫)に疑問を投げかける桐原だが・・・後藤は「余計な詮索は身のためにならない」と忠告するのだった。

その頃、社員の不祥事により、営業停止寸前に追い込まれたラッキー探偵社である。

ちなみに探偵業は「探偵業の業務の適正化に関する法律」により内閣府(国家公安委員会)に所管される事業である。そのために「人の生活の平穏を害する等個人の権利利益を侵害することがないようにしなければならない」という規定があり、違反者には営業停止等の行政処分・罰則が定められているのである。

今回は社員の新田に着せられた濡れ衣で探偵社が公安委員会に因縁つけられたわけである。

まあ、かなり強引な展開だが・・・一応、筋は立っているのである。

ただし、実際の探偵社は「信用第一」で営業しているわけであり、このような「営業妨害」をしてしかもそれが「冤罪」なら「損害賠償」の裁判になることは必然であり・・・実際にはありえないケースと言える。もう少し、穏便な解決が図られるだろう。

しかし・・・基本的には新田と駿太郎たちの「信頼」が描ければいいという筋立てなので・・・そのあたりの事情はほとんどスルーされていくのだった。

というわけで・・・ようやく・・・捜査を開始する探偵社のメンバーたちである。

まあ、前述のような理由で雇用した探偵の本籍地を探偵社が問わないなんていうことはありえないのだが・・・新田の話した「コロッケの思い出」を頼りに新田の実家を捜しあてる駿太郎だった。

実は裕福だった新田家。応対に出た姉は西山繭子である。じゃ、父親は伊集院静かよ・・・おいっ。

「弟は・・・自由を求める旅人なんです」

新田の姉・真須子(いかにもお嬢様な年上の女)と軽くお茶した駿太郎は妙にすっきりした顔で戻ってくるのだった。

その頃、新田の家にあった盗品は誰かが故意に放置したものという推理に基づき、旭(大泉洋)と飛鳥(仲里依紗)は周辺の監視カメラの映像を収集、テレビの世界だけに存在する超科学技術で画像を処理した茅野(入来茉里)は不審な男を特定する。

それは「愛人の浮気調査の依頼者」である林原浩志・偽名(正名僕蔵)だった。

すべては探偵社に峰永警視庁刑事部参事官(近江谷太朗)の不正な金銭受け取りの写真を撮影させるための陰謀だったのである・・・意味不明なほどに手のかかることを・・・。

旭からの情報提供に桐原警部補は「真犯人の捜査をするべきでは?」と進言するが後藤警部は「上の描いた構図に異論をとなえたらろくなことにはならない」と優しく諭すのであった。

しかし、あきらめない探偵社の愉快な仲間たちは「愛する新田」のために林原浩志・偽名を追い詰めていく。

そして・・・ついに逮捕される林原浩志・偽名。

イメージ・クラブ「取り調べ」のような取調室で桐原警部補は林原浩志・偽名を追求するのだった。

桐原「あらいざらい吐いちゃいなさい」

偽名「知らないよ・・・頼まれたからやっただけだよ・・・ただのバイトだよう」

こうして、やはり桐原は追求するより追求された方が似合うことが証明されたのだった。

とにかく・・・新田の無罪は証明されて、駿太郎はお礼のお汁粉缶をプレゼントされるのだが・・・新田はそれでも職を辞すると告げるのだった。

「なんだよう・・・俺のこと嫌いになったのかよう」とすねる駿太郎。

「まあまあ、チュッしてやるからさ・・・機嫌直せよ・・・チュッ」と笑顔の新田。

「うほっ・・・」・・・こうしてラッキー探偵社は貴重な人材を失ったのである。

今回の教訓・探偵は警察関係者とは仲良くすること

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2012年2月13日 (月)

うなれ、潮風、逆巻け、怒涛、海賊王よ、いかりをあげろ(松山ケンイチ)

素晴らしい出来栄えである。

大和朝廷成立以来、最初の成り上がりである平清盛のおいたちを見事に描ききっているな。

途中、「宋船」を「からふね」という件がある。「から」とは「唐」を指すようであり、また「韓」をさすようでもあるが・・・実は加羅の国のことである。

大和朝廷は半島・列島を対馬で結んだ海洋国家、倭の国から分離独立した王家である。彼らの世界観ではかっての祖国を含めた列島以外の地はすべて「空」(から)の国であった。つまり、外国である。

つまり、「からふね」とは「外国船」のことなのである。

一方、佐藤義清と堀河局の百人一首コンビは待賢門璋子を評して「心が空っぽの人」と言う。天皇の性奴隷として造形された前中宮の心は異人のようである・・・と寝物語をするのである。つまり、心が外国人なのだな。

このようにセリフのひとつひとつがきちんと理にかなっているわけである。

やはり、祇園精舎の鐘の音はちりとてちんとなるのだな。

で、『平清盛・第6回』(NHK総合20120212PM8~)脚本・藤本有紀、演出・柴田岳志を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は鱸丸を養子に迎える伏線が準備万端整った平盛康描き下ろしイラストを始め、裕福な高階家に養子に出たばかりに出世の道を一度は断たれて大陸伝来の科挙にあこがれる男、後の信西、藤原通憲「よーいっ」、そして清盛の対宗貿易の切り札になると思われる西海の海賊王・兎丸の三大イラスト展開、例によって男ばっかりじゃないですかーっ。そろそろ、姫を・・・。じゃないと、時子が淀になっちゃいます~。おい、プライベートな通信はコメントでやれよ。

Tairakiyomori04時は1135年・・・長承4年と保延元年の間である。この頃、噂の鎮西八郎為朝はまだ生まれていないので・・・琉球はまだ王国以前の段階である。同様に、北海道のアイヌ庶民もまだ完全に大和朝廷の支配下にはない。日の本は東北の一部を除く本州と四国そして九州を一応傘下においている段階である。もっとも近い隣国である半島国家は高麗で第10代高麗王靖宗が代を継いだばかりである。そして、大陸ではすでに金が北宋を滅ぼして、南北分裂時代に突入している。つまり、ここで言う宋とは南宋のことである。「水滸伝」の原型である「宋江三十六人」の盗賊たちも今は昔の人になっているのである。北宋末期徽宗皇帝の退位から10年が経過しているのだな。南宋の初代皇帝となった徽宗の九男・高宗は金に対する朝廷内の融和派と交戦派のかじ取りに日々心を悩ませている。一方、金では第3代皇帝熙宗が即位したてである。ほぼ、中国の半分を手にした金だが・・・辺境一族の哀しさで人手不足と急速な漢化に悪戦苦闘中なのである。さらには自分たちの出身地である北の蛮地ではさらなる勢力が蠢動しているわけである。だが・・・それは後の世の話だ。

このように・・・日の本も乱世だが、アジア周辺諸国もまたなかなかに乱れた状況なのである。こういう時は逆に庶民にとっては自由を謳歌する良い時代と考えることもできる。それはもちろん、弱肉強食の実力主義を意味するのだが・・・自由は平等や平和とは対立する概念なのだから仕方がない。

平氏一族は一方で古い中央集権勢力の権威を利用しながら、一方では各地に着々と私的領地を獲得し・・・実力を蓄積していったのである。

ローマは一日にしてならずと言うように伊勢平氏もけして清盛一代で成り上がったわけではない。だが・・・清盛という麒麟児が生まれなければ・・・平氏が天下をとることもなかったのである。もちろん、日の本では天下をとることができても天にはなれないという恐ろしい呪いがかかっていることは言うまでもない。そういう呪いが「皇室を王家と言うのは許せない」などというあんぽんたんな主張を生むわけである。王家とは大王家の略でなんの問題もない。

それはさておき、平清盛は伊勢平氏の庶流であり、平家水軍の長である平忠康とともに瀬戸内海海上にあった。率いるのは河内源氏の村上水軍20艙であり、舟侍は20人。それぞれが10人ほどの郎党を率いているためにおよそ200人の軍勢であった。

後続している主力部隊は父・忠盛が500人ほどの手勢を率い、熊野水軍によって輸送されている。

忠康の一の姫、波音と一戦交えて意気の上がった清盛は忠康を舳先に呼び出した。

「そりゃ、潮の流れはよかろうが・・・このまま、賊の本拠につっかけたらどないやろ」

「しかし、若大将、お殿様は自重なされよと申しておったではありませぬか」

「お前も乳父の盛康のようなことを申す。この清盛、王家の血が騒いでならんのや。お前が止めるなら・・・我は一人でもつっかけたるわ」

清盛の眼に怪しい光が浮かびだす。こうなれば、この若者に逆らうことはできないのである。

「承知しました。この忠康とて腕が鳴っておりまする・・・このまま一気呵成に賊を討ちとってごらんにいれましょうぞ」

潮に焼けた忠康の顔にも血の気がさす。

まもなく、清盛の前衛軍は目当ての海賊衆の縄張りに足を踏み入れる。

水夫百人を乗せた巨大な海賊船は元は宋の交易船、青龍号であった。それを唐津の海でのっとったのは河野水軍の流れを組む藤原兎丸である。兎丸は自らを藤原純友の生まれ変わりと称し、父である盗賊・朧月から習い覚えたしのびの術で安芸海賊の頭領におさまっている。

「かしら・・・都の軍勢がやってきましたぜ」と呼びかけたのは一の子分の油谷だった。

「ふん・・・どうせ、ふ抜けの貴族くずれじゃ・・・生け捕って裸にむいちまえ」

「それじゃ、あっしが先手をひきうけますわい」

するすると青龍号から小舟に移った油谷は巨漢である。力士のようにでっぷりと太った体は意外なほど俊敏な動きを見せる。

「我は藤原兎丸様の侍大将、大和の油谷じゃ。腕に覚えがあるものあれば相手になるで」

「ふふん、こしゃくな奴め」と清盛は言うより早く、ひらりと体を踊らせる。

「あっ、若大将」と忠康たちが茫然とするうちに、清盛は超人的な跳躍力で敵船に移っていた。その時にはもう、愛剣である宋剣「北斗七星の剣」を抜刀している。

振り下ろした剣が油谷の体を真っ二つに切り裂いたと見えた時、ぷるんと身を震わせて油谷は剣を滑らせるようににかわしている。

「なんと・・・」

「あっはっは、わしに剣はきかんのじゃ」

「面妖な奴」

気がつけば・・・油谷は全身からぬるぬるとした体液を分泌していた。これが潤滑油となり、さしもの名剣も切り口を得られないのである。

「さあ、わしの番じゃ」油谷は清盛につかみかかった。

その気味悪さに清盛の心眼が開く。

「このもののけめ」

清盛がさけんだ時には油谷の体が炎に包まれていた。

「おお・・・王家の血じゃ・・・日の御子様(みこさま)の御術(おんわざ)じゃ」

忠康が讃嘆の声をあげる。

「うわあ、燃えてる・・・わしが燃えてる」

油谷は叫びながら海に体を投げ出した。

「見たか・・・清盛が秘術・・・炎の眼差し・・・それ、ものども突撃じゃあ・・・つっかかれい」

たちまち水軍勢は宋船に殺到する・・・。

王家の血と巫女の血の融合が・・・清盛に先祖がえりの能力を与えていたのである。

多勢に無勢である。追い立てられた兎丸は海に投げ出される。

「たっ、助けてくれ」

「なんじゃ・・・」と清盛は兎丸を見下した。

「俺は・・・泳げんのや・・・」

「・・・」

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2012年2月12日 (日)

女子高生に見えない宣言!!(吉永淳)

元ネタ、なんだよっ。

「Hana* chu」(主婦の友社-2011年休刊)の表紙のコピー「中学生に見えない宣言!!」です。

だ、誰がピンとくるんだよっ。

当時の女子中学生が・・・。

この後、「学校へ持っていくもの・・・ナースのコスチューム」(三吉彩花)と続けて長いタイトルにしようかとも思ったんですが・・・ちょっとくどいのでやめました。

そんな妄想計画、話してどうする。

まあ、谷間なんで・・・そんなにマジにならなくてもねーっ。

しかし・・・東雲麻衣(「熱海の捜査官」)もうかうかしてられないよな。佐藤愛(映画「リアル鬼ごっこ2」・・・初代は谷村美月・・・柄本明にセクハラをされるところが見どころだった・・・おいっ)参戦だしな。

っていうか・・・脚本家が美少女濃度の薄さに耐えられなくなってきたみたい。

出演者、熟女と男ばっかりだったもんなーーーー。

で、『理想の息子・第5話』(日本テレビ20120211PM9~)脚本・野島伸司、演出・中島悟を見た。「また来週!」まで出て、すっかり女装コーナーに愛着を持ち始めた鈴木大地(山田涼介)である。女子フィギュアスケート界のクララこと丹波さやか(三吉彩花)に「あんたも好きねぇ」とまで言われてるしな・・・妄想のためにシナリオの再現性は低く設定されています。念のため・・・まさに平成の女装王子と化しているのだ・・・いないと思うぞ。

さて、女装とは男性が女性の装いをすることで・・・つまり、異性装の一種である。医学的にはトランスヴェスタイトと呼ぶが・・・医者が言う以上、病気の一種と考えているわけである。

性的な服飾のモラルを逸脱した行為をフェティシズムの一種と考えて・・・下着嗜好癖や性転換願望症のような変態的行為に含めていくのだな。

これに対して「私たちは単に男装(女装)が好きなだけなの」と主張する人々は自らをクロスドレッサーと呼んでもらいたいらしい。

まあ、そういう趣向のない人には「つまり変態なんですね」と言われるしかないわけだが。

統計的には女装者が多いとされていて・・・これには母子の共生関係が影響しているという心理学者もいるが・・・まあ、心理学者の言うことなので信憑性は薄いわけである。しかし、創作のヒントとして・・・このドラマの主人公が女装する必然はここにあるとも言えます。

愛には様々な形があるが・・・その一つが一体化願望であることは・・・男女ともなんとなく妄想できるのではないか。だから母親を愛する息子が母親と同じ服装をしたいと願うことは極めて自然なことなのである・・・おいおい。

ジェンダーの問題があるので男女雇用機会均等法の社会ではバランスをとらないと「性差別者のレッテル」を張られる恐れがあり、当然の如く、逆の症例が登場する。

これは必然なのである。

だから、「父親をこよなく愛する娘は父親と一体化するために男装しなければならない」のだ。それが・・・謎の転校生・京塚昌子じゃなかった豹塚昌子(吉永淳)なのであった。

まあ、だから・・・なんだってことですが・・・近親相姦とか同性愛とか・・・そういうギリギリのところでしか、愛を表現できない脚本家なんだなあ・・・つくづくそう思うよ。

今回の鈴木海(鈴木京香)は「朱に交われば朱くなる」ノイローゼに陥るのであるが・・・大地はカレンダーに従ったバレンタインデーネタで母親の求愛を受け入れつつ・・・友情という外なる世界へ大きく羽ばたき始めている。

母親は息子を「安穏な老後のための道具」と自己主張するのだが・・・これは本当は息子への性的欲求を抑圧するための自己欺瞞である傾向は回を追うごとに深まっている。

息子もまた・・・それを知りつつ・・・突破口を求めているのである。

それが「投げキッスの交換」で表象されているわけである。

親子でバカップルでイチャイチャがテレビドラマの限界だからな。

まあ・・・ものすごくドタバタで面白可笑しく・・・そういう変態的部分を隠匿しているのがこのドラマの骨子なのである。

なお・・・男子の女装が女子の男装の倍程度いるのは・・・やはり、イチゴ柄の下着を男子が装着した場合、ギュッとしめつける快感がストレートに伝わるからだと考える。女子が男装してブリーフやトランクスをはいてもスカスカして風通りがいいだけで・・・どちらかといえばただ健康的なだけなのではないか。これがキッドの結論である。

だから・・・何の結論なんだよ。

つまり酸化チタン(白色顔料)と言うよりは賛歌痴漢(顔面蒼白)ということです。

誰がわかるかっ。

社会の窓があいてるぞ・・・きゃっ・・・という演出、もうひとつだったな。

最高の萌えポイントなのに。・・・いやいや。

それとも大阪の女の子だからかな。

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2012年2月11日 (土)

ドラムをたたく奴に悪い奴はいないとドラマーが言うドラマ(松岡昌宏 )

谷間とはいえ・・・恥ずかしいタイトルだな。

たまにだじゃれぐらいいいじゃないですか。

どういう心境なの?

やはり・・・あの5億円のCMが深層心理に影響を与えているかと。

そうなんだ。

それと・・・今回は脚本家が第48回岸田國士戯曲賞受賞作家なので・・・またベタにスタイリッシュな小劇団ノリなんですよね。

ああ、「スタイリッシュ」にだじゃれなんだな。

ええ、一週間に二本はさすがに・・・赤面です。

まあ、業界も新規開拓に熱心なんだな・・・きっと。

それなら新風巻き起こしてもらいたいんですが・・・こじんまりしてるんですなあ・・・これが。

まあ、今回は楽屋おちがオチみたいなことになってるしな。

困ったもんですな。

で、『13歳のハローワーク・第5回』(20120210PM1115~テレビ朝日)原作・村上龍、脚本・倉持裕、演出・塚本連平を見た。知らない人は稀少であると思うが・・・松岡昌宏はTOKIOのドラマーである。念のため。・・・で、それが前提で「ドラマーに悪人はいない」という楽屋おちのギャグが成立するわけである。この空気はドラマ全体を支配していて・・・なにしろ・・・今回の憧れの職業は「バンドのボーカル」あるいは「ミュージシャン」なのである。ミュージシャンである松岡昌宏が・・・刑事・小暮鉄平を演じるのではなくて・・・あたかもミュージシャンのように「音楽」について各所で語り始める。

「バンドのボーカルだけでは音楽は成立しない」とか「お前があこがれたのはパンドのボーカルなのかそれともミュージシャンなのか」とか「ミュージシャンだけでは音楽は楽しめない」とか・・・最後には和太鼓で正確なビートを刻むのである。おいおい・・・なのである。

まあ・・・一応・・・1990年のてっぺい(田中偉登)がイカ天ブームに浮かれてドラムをたたき始めるという言い訳がついているのだが・・・結局、和太鼓なんて誰にでもたたけるってことで・・・和太鼓なめてんのか・・・と思うのだな。

とにかく・・・原作があっても各話はオリジナル・ストーリーであり・・・脚本家の趣向が強く出ていいわけであるが・・・今回は「完全にうまくまとめたでしょう」というスタイリッシュな自己満足が濃厚に漂って鼻にツンときました。もうグダグタなのである。

まあ・・・そういう感じも天才である松岡昌宏は素直に伝えてしまうんだよなあ。

表情の演技なんて「ヤスコとケンジ」(2008年)のケンジや「怪物くん」(2008年)のデモキンになってたりしたしな。

まあ、「ナースマン」(2002年)とか来週、「夜王」(2006年)だから・・・そういう集大成的な流れもあるけれど。

つまり・・・脚本的に小暮鉄平という役を演じられなくなってしまっているのである。

毎週、口直しに「マンハッタンラブ・ストーリー」(2003年)見るのもつらいんだよな。

今回も・・・てっぺいにやりなおしをさせようという努力はほとんどなくなって・・・過去のあらたな人間関係構築に夢中になっている。もちろん・・・そこでしか・・・脚本家が話を展開できないわけである。

さらに言えば「1990年のテレビの音楽番組」がスタイリッシュすぎるだろう。

なにしろ・・・キッドは現場にいたから・・・よく知っているのである。

なにしろ・・・1990年にはすでにものすごい不祥事が起こっていた番組なんだから・・・。

他局とは言え・・・「イカ天」と言うからには・・・本気で再現してもらいたいよねえ。

ま、予算という「お金」がものを言うのはよくわかってますが・・・。

なにしろ・・・時間旅行ものなのである・・・そこで楽しませなくてどうする?

今回は・・・1990年の高野(横山裕)と翔子(桐谷美玲)がいろいろな火花を散らすわけである。

高野は恵まれた家庭に育ち・・・そういう境遇に疑問をもってあえぐ・・・所謂贅沢な悩みを抱えている若者で・・・翔子は逆境をはねかえそうと根性と努力で運命を切り開こうとしているが・・・がんばりすぎて目標を見失っている若者である。

翔子は「なんでもできる」高野を否定しつつ・・・実はあこがれているというツンデレ状態を抱えているわけだが・・・ついにその内心を吐露してしまう。

バンドの代役ドラマーで失態を演じた高野に「ひとつくらいできないことがあった方が・・・ホッとする」なんて言ってしまうのだ。もう唐突にベタだな。

そして高野はその言葉が心にしみて思わず翔子にキスしてしまう。いやんばかん・・・である。もう、そのスタイリッシュさに卒倒しそうでしたよ。

なんだ・・・2012年には桐谷美玲は高野夫人になってるのか・・・そして・・・結局・・・「今」を変えないと本当の「未来」は変えられないオチなのか・・・ねえ、もう少し、センス・オブ・ワンダーを楽しませてくださいよ・・・これってSFだよね・・・SFなんだよねえ。

ブレーン・バスターズの三国園子(富田理生)はなかなかいい味だしていたが・・・全体的に・・・映画「GSワンダーランド」(2008年)みたいだったよね・・・まあ、イカ天ブームもGSブームのリフレインだからな・・・。

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2012年2月10日 (金)

夕べも弟は眠れなかったのさ・・・終わった愛を捜していたから(山下智久)

もうすごく面白くなっているな。

どんなドラマでもじっくり見てしまえば・・・面白くなってしまうから・・・困ったものだ。

こうなると・・・お茶の間との温度差が気になってくる。

基本的に・・・ひっかかるところをチェックしておこう。

まず・・・CLUB「Queen Alia」だな。

ここは基本的にお茶の間と敵対するエリアである。そこで働くマネージャーとかボーイとか黒服とかホステスとかキャバ嬢とかキャバクラ嬢とかはお茶の間の人々から見れば「人間」ではない人で、そこでは基本的に「犯罪的遊戯」が日夜繰り広げられている・・・この世の地獄なのである。

だから・・・そこで生息している人が生きようが死のうが・・・無関係・・・という前提があるわけだ・・・あるのかよっ。

なにしろ、会いたい人を席に呼ぶだけで2000円を消費するのだ。時給1000円で二時間分だぞ。そこかよっ。

近所の商店街で100円の焼きそばを買うと1枚くれるサービス券なんか50枚あつめてようやく100円のサービスなんだぜ。焼きそば1000杯食べて・・・ようやく2000円だ。・・・もう、そのたとえはいいよ。

だから・・・どんな事情があっても・・・その関係者と関わっている人間は半分、悪に魂を売った人間なのである。

もう、最初から救いようがないのだな。

だから・・・ゲストたちが・・・いくら、主人公(山下智久)の弟の片思いしている相手(岡本玲・・・「フリーター、家を買う」のあかり)だったり、その同僚がもっと美女なエリカ(平愛梨・・・映画「20世紀少年」のカンナ)だったりしても・・・所詮、キャバクラ嬢だしな・・・という蔑視が前提になるのだ・・・そこまで差別的なのかよっ。

まして死体(鈴木福じゃなかった鈴木一真)なんて・・・結局、二股かけてた元キャバレー王だからな・・・。

もう・・・ドロドロすぎてお茶の間は涙一滴、こぼせません。きっぱり断言かよっ。

だが・・・もはや・・・そういうところが・・・面白くて面白くて仕方ない境地なのである。

他人から見ればどうしようもなくバカなことで・・・それぞれの人は生きているわけで・・・怒ったり、悲しんだり、喜んだりしているのである。

もてあそんだ女に刺されて死んだダメな男を愛してしまった女をストーカーしている弟を見捨てない兄がいたっていいじゃないか・・・もう、そういう心境なのでございます。

まあ・・・お茶の間の皆さんがみんなそうなるとは到底考えられませんがーーーっ。

で、『最高の人生の終り方〜エンディングプランナー〜・第5回』(TBSテレビ20120209PM9~)脚本・渡辺千穂、演出・石井康晴を見た。とにかく・・・本気で「寺内貫太郎一家」(TBSテレビ)的なジャンルを志向していることは感じられましたな。言葉で言うより・・・少々掟破りだが・・・あくまで検証ということで証拠を検分していただきたい。

1974こういうことである。とにかくお茶の間で家族がとっくみあいが基本だ。そして・・・。

2012こうくるわけである。進化系としてとっくみあいではなく・・・「お茶の間でぶっかけあい」になっているところがミソらしい。

まあ・・・共通点は翌日になるとすべてが修復されているということだ・・・セットだからな。

まあ・・・お茶の間もそろそろ・・・この部分が気になっているだろう。っていうか・・・ここを中心に見ている人々もいるかもしれない。今回・・・改良されたのは・・・「ぶっかけあい」の後で「雑魚寝」というか「川の字」というか「トノトノの字」というか・・・兄弟姉妹が仲良く「添い寝」をすることである。

「動」のあとの「静」は「メリハリの基本」ですから・・・これだけでずっとドラマがしまった気がしますな。

まあ、とにもかくにも・・・概ね、ドラマらしくなってきましたなーーーーっ。

今日もどこかで誰かが叫んでいるような気がする・・・と思ったら電話だ。

なんと・・・弟の隼人(知念侑李)が警察のご厄介になっているというのだ。でた・・・いつかこうなるような気がしていたよ。なにしろ、予告編で前フリされていたからな。まあ、つかみたい気持ちはわかるけど・・・結構、余韻台無しって感じもあると思うけど。

ともかく・・・兄として身請けに出かけた俺。どうやら・・・喧嘩騒ぎに巻き込まれたらしく・・・弟の頬にはヤクザな傷が・・・痛くないのか・・・弟よ。

今は興奮してアドレナリンが出ているからあれだけど・・・後からジンジン痛くなってくるんだよな・・・。事情聴取の結果・・・現場で弟が持っていたナイフは喧嘩相手が持ち出したものらしい。じゃ・・・なにか・・・弟は相手からナイフを奪って戦ったというのか・・・いつからそんな喧嘩の達人になったんだよ・・・ま、それはそれとして・・・つまり、弟は被害者ということになって・・・無罪放免である。

しかし・・・ついこの間も傷だらけになって帰ってきたばかりである。しかも・・・暗い暗い目をしてすねているのは明らかなのだ。

弟の心の闇を俺は兄としてどうしていいのか・・・悩むところなんだな。

そういう時は天国の親父(蟹江敬三)に相談してみたい。

といっても親父の遺言だけどな。

隼人・・・真っ直ぐに人を思うだけが能じゃない

これだ・・・短っ。それにしても親父・・・何か知っていたのか・・・まるで・・・隼人が誰かを「思いすぎてダメになる」のがわかってたみたいじゃないか。予言者かよっ。

だが・・・だからといってこれだけじゃ・・・何かが起こるまで待つしかない。

いくら坂巻刑事(榮倉奈々)が「何かあってから遅いのよっ、まさぴょ~ん」と言ったって人間なんて全能じゃないものな。もちろん・・・警察と懇意にしている「顔」で本来なら一晩くらい留置されても仕方がないのに簡単に帰宅を許してもらったのは感謝するけどね。

家に帰ると・・・下の妹の桃子(大野いと)は呑気にざるそばを食べていた。ぶっかけのフリじゃないかとドキドキする人も多かったんじゃないか。そうそう・・・よく・・・末っ子が隼人だと思っている人がいるんだけど・・・末っ子は桃子なんだよな。なにしろ、桃子は高校生で、隼人は一応、大学生だから。でも、妙に大人っぽい妹と、妙に子供っぽい弟なんで近所でも勘違いしている人は多いと思う。

ところで・・・妹はいつも無表情を装って・・・つまり無愛想な仏頂面をしているから・・・気がつかない人がいるかもしれないが・・・相当な正統派の美系なんだよ。なにしろ・・・俺の妹だからね。

このあたりを見るとわかるんだ。このメンバーに入って遜色ないわけなんだから。

いや・・・あくまで参考までにね。もしも、妹の印象が悪いとしたら・・・それは役作りっていうか・・・脚本の趣旨なんだな・・・。で、それは弟の隼人も同様で・・・どんだけ、バカでダメでワルなんだよう・・・と思っていると・・・意外といい奴だったのかも・・・という仕掛けをしているのさ。まあ・・・やりすぎちゃって・・・イメチェンに失敗するってこともあるけど・・・ドラマとしては常套手段。俺だってそういう山をいくつも越えてきたわけだしね。

おっと・・・そんなこと言ってたら・・・まるで俺が予言者みたいじゃないか。

でも、実際の俺は・・・「一体、何やってんだ・・・話してみろよ」と弟から話を聞き出そうとしても・・・「なんでもないよ・・・道歩いてたらからまれただけだ」と言われたら二の句が告げられないという・・・兄失格のだらしなさでした。

「何かあってからじゃおそいんだぜ」と坂巻刑事の受け売りを試したけど「わかったよ・・・わかりましたっ」と言われたらもう絶句である。

その上、弟はまたもや・・・家出である。

もちろん・・・今回はこっそり後をつけたよ。だって・・・たった一人の弟だものな。まあ、妹は出来のいい晴香(前田敦子)と素行の悪い桃子と二人いるしね。まあ、多分、来週は桃子を尾行することになると思うけどさ。

で・・・弟が足早にやってきたのは駅前の繁華街にある・・・CLUB「Queen Alia」・・・早い話がややおとなしめのキャバクラだ。まったく・・・。 キャバクラ譲の出待ちなんて・・・。なんて弟なんだお前は。

ふと見ると・・・弟はなんだか「よこやーーーっ」(ライアーゲーム)と叫びたくなる怪しい中年男を気にしているようだ。

そうこうするうちに・・・キャバクラから女の子たちが出てきた。そのうちの一人が弟のお目当てらしい。ここだけの話だけど・・・俺は弟の部屋で彼女の写真を見たことがあるんだ。どっかの居酒屋で合コン・・・って雰囲気の写真。なんで・・・そんな写真の女の子の顔なんて覚えているのかって・・・もちろん弟思いじゃなくて・・・その娘が美人だからに決まってるでしょ。

で・・・あっという間に修羅場寸前の感じに。どうやら・・・キャバクラ嬢のカナコさんは・・・怪しい男、・・・及川さんと怪しい関係にあるらしく・・・弟の隼人はカナコさんにぞっこんなんだけれど相手にされていないピエロってかんじなんだな。

だって大人の世界に迷い込んだ中学生みたいなもんだもの。でも・・・本人ってそういう状況に割と気付きにくいものなんだよな。

とにかく話の成り行きから・・・カナコさんは及川さんの借金の保証人みたいな感じになっていて取り立て屋に追い込みをかけられているらしく・・・隼人はそこに首をつっこんで痛い目にあっているらしい。ようするに弟はカナコさんに金を貢いで、カナコさんは及川さんに貢いでいるってことだな。バカだなあ・・・隼人・・・。いや・・・元はと言えば隼人の貢いだ金は葬儀の井原屋の売上金・・・一番バカなのは俺じゃんか。

まあ・・・金の流れはおくとして。だってさ、金は天下の回り物だから・・・。

とにかく・・・店の他の女の子たちもなかなかに粒よりで・・・などと気をとられているうちに・・・隼人を見失った俺です。うわあ・・・しまった。

仕方なく・・・俺は家に帰って・・・弟の部屋を家宅捜査して・・・弟の日記をゲットしました。

親しき仲にも礼儀ありだけど・・・この際・・・読んじゃえっ・・・何かあってからじゃ遅いものな。

すると・・・。

「大学のテニス・サークルで知り合った水野可南子ちゃん・・・一目ぼれだーっ。俺は猛然とアタックしたけど・・・まったく相手にされない。そのうちにカナちゃんの家で大変なことがあったらしく・・・カナちゃんは怪しい夜のバイトを始めてしまった・・・。俺は心配で心配で・・・車で送り迎えなんてしてみたけれど・・・とにかく・・・店に入るにはお金がいくらあっても足りないことに・・・大企業の社長の息子なんて・・・見栄をはったりして・・・俺ってださいな」

なんていう・・・バカなんだ。俺のかわいい弟は。

「偶然、店のオーナーとカナちゃんがデートしているところを目撃してしまった。オーナーは時計を見せて父の形見だとか・・・言ってるし、カナちゃんは指輪を見せてお婆ちゃんの形見だとか言っている。「お婆ちゃんはよく・・・この指輪をしているとおじいちゃんに守ってもらっているような気がするって言ってた・・・」「カナコ・・・君は僕が守るよ」・・・なんてことだ・・・俺のカナちゃんが・・・あんな中年男といい感じに・・・それをこっそり見ている俺ってまるでキモいストーカーみたいだ」

みたいじゃなくて・・・ストーカーそのものだってーの。

「バレンタイン・デー・・・カナちゃんが・・・チョコレートを渡すのはもちろん・・・俺じゃなくて・・・あの及川っていうキザ男だ・・・くそっ、くそっ・・・二人がデートしているレストラン・・・俺は店に入ることもできない・・・だっていかにも高そうだもん」

ふう・・・隼人。もう、犯罪者の一歩手前だ。

「及川って男が破産したみたいだ。ざまあみろ・・・これでカナちゃんも目が覚めるだろう」

おいおい・・・目を覚ましてほしいのはお前だよ・・・隼人。

「カナちゃんが・・・及川にお金を貢ぎだした・・・一体、どうなってんだ・・・」

・・・。

「カナちゃんが指輪を及川に売り飛ばされて別れを決心したらしい・・・でも俺とは住む世界が違うって言われた・・・どうしてだよ・・・同じ日本に住んでいる日本人じゃないか」

隼人・・・バカだバカだとは思っていたがそこまでバカだとなんだか・・・泣けてくるな。

・・・なんて俺がストーカーの弟をストーカーしている頃。

及川さんはご遺体になってしまったのだ。

坂巻刑事情報によると・・・死因は鋭利な刃物で数回刺されていて、怨恨の線が濃厚の・・・殺人事件らしい。もちろん・・・俺の頭には容疑者として隼人の顔がばっちり浮かんでいました。

翌朝・・・坂巻刑事が同僚の長峰刑事(水上剣星)と葬儀の井原屋を訪ねてきた。もちろん・・・重要参考人になっている・・・隼人の取り調べのための任意出頭を申し渡しにきたのである。しかし・・・隼人は当然のように姿をくらましているのだった。

殺人事件ともなれば・・・井原屋が警察に渡している袖の下なんか・・・なんの効果もない。

親父の仏前におはぎをそなえていた晴香や朝飯をかっこんでいる桃子も事情を聴いて驚く他ないのだ。

刑事たち「殺された及川さんの元恋人は隼人くんの同級生なんだ」

桃子「ええーっ」

刑事たち「隼人くんは及川さんと別れろとか・・・可南子さんていう同級生に店をやめろとか・・・何度か店で暴れたらしい」

桃子「それって・・・可南子さんて人に付きまとっていたってこと・・・?」

刑事たち「とにかく・・・事情を聴きたいんだ」

桃子「じゃ、隼人兄ちゃん・・・容疑者ってこと?・・・やったってこと」

坂巻刑事「いえ、そこまでは・・・なんていったって・・・隼人くんはまさぴょんの弟さんだし」

晴香「まさぴょん?」

晴香・・・お前だけツッコミどころがボケてるぞ。

とにかく・・・わかったことは・・・可南子さんが隼人のことを「ただのともだち」としか思っていないことだ。いくらなんでも・・・それでもしも・・・隼人が及川さんを刺してたら・・・ウルトラスーパーデラックス三枚目だな。

ああ、困ったと思っていたら・・・でたよ。

岩田さんだ・・・お茶を出してもコーヒーを出しても飲まないのはなぜなんですか?

「困ってるな」

「困ってます」

「死んだ・・・男・・・借金があるんだってな・・・しかも恨んでいる奴も一杯いるそうじゃないか」

「どうもそうらしいですね」

「でもな・・・そんなのはみんな生きている側がそう思うだけなのさ」

「・・・」

「死んだら無だよ」

「む・・・ですか」

「そうだよ・・・無・・・なんにもない・・・死んだら無だ・・・人間はゼロから生まれて・・・死んだらまたゼロだ・・・」

「それって・・・」

「とにかく・・・生きている間はゼロじゃないってことだ・・・どんなバカでもゼロじゃない」

「なるほど・・・」

「なにか・・・きっと・・・できるよ・・・誰かのために・・・何かをな・・・な・・・あの花のように」

「俺は生きてるから・・・ですか」

こうして・・・俺はまた死者の無念を晴らす旅に出たのだ。

どこにって・・・とりあえず・・・キャバクラに。今回はさすがに・・・坂巻刑事は抜きだよな。

で、セット料金6000円に・・・心の中でゲッと叫びながら・・・初対面のエリカちゃんと軽いつかみのトークである。

「イケメンねえ」

「またまたーっ」

「イケメン枠で名刺に携帯番号サービスしちゃう」

「この間、執事とお嬢様が探偵のドラマで犯人役やってた女優さんに似てますねえ」

「あーっ、それよく言われる~」

「で・・・あの子なんだけど・・・」

「えーっ、カナちゃん狙いなの?・・・指名料2000円でーす」

「げげーっ」

・・・ってところでタイトルなんだな。これが。っていうか・・・ここでタイトルかよっ。

で、可南子さん・・・源氏名カナちゃんとエリカちゃんにはさまれて・・・弟がついていた嘘だとか・・・行方不明の指輪のことだとか・・・及川がろくでもない男だったとか・・・まあ・・・大体・・・弟の日記にあった話の裏をとりつつ・・・お勘定は1万4000円である。

そして・・・カナちゃんにとって弟は「迷惑な奴」だったことが確認できた。

それにしても・・・エリカちゃんは妙に愛想がいいよね。それにこんなところでチョイ役やってるようなタイプじゃないから・・・きっとみんな・・・誰が殺したクックロビン音頭を踊りだしたいところじゃないかって・・・俺を含めてほとんどの人に意味不明ですみません。

美女二人に囲まれた喜びと痛い出費の悲しみに心を浮沈させながら・・・家に帰ってきた俺は・・・遺体冷蔵庫に・・・異音を聞きつけ恐怖におののいた。とはいえ・・・これは日常の話でいきなり・・・ホラーにはならないし、どうせ・・・隼人だろうと思ったよ。それにしてもどうやって入った。どうやってふたしめたんだ・・・隼人・・・お前はマジシャンなのかっ。

で、晴香は大音量でテレビを見ているし、桃子はバレンタインの手作りチョコレート製作中だ。何食わぬ顔で戻ってきた末っ子のような隼人に食ってかかる姉のような二人。

なんだか・・・本当の兄弟姉妹みたいなムードに・・・驚愕だぜ。

初めて普通のホームドラマになったみたいだよな。

「あんた・・・大変なことになってるのよ」

「俺は何にもしてないよ」

「じゃ・・・なんだって隠れてるんだ」

「そ、それは」

「まさか・・・誰かをかばってるのか」

「・・・」

「えーっ・・・ふられた女をかばってんの?」

「うるさいなっ・・・カナちゃんはただの友達だよ」

「バッカみたい・・・コクってもないのかよ・・・ふられた女にそんなにいれこんで」

「おいおい」

「それで疑われてうわさになったらどうすんの・・・私、学校に行けなくなっちゃうよ」

「そんなこと言って・・・あの先生に逢えなくなるからじゃないの」

「なによ・・・関係ないじゃない」

「いや・・・先生と変な関係になるのはまずいぞ」

「あの、チョコ、誰に作ってるの?・・・いけないことはいけないのよ」

「なによ・・・そんなこと・・・恋愛経験ゼロのお姉ちゃんに言われたくない」

「おい・・・それは言い過ぎだぞ・・・晴香だってなあ」

「・・・」

「いや・・・なんでもない」

「あの・・・俺のことは・・・」

「ふーんだっ・・・真人にいちゃんはいつも晴香姉ちゃんの味方ばっかし・・・晴香ねえちゃんはまるで子犬ちゃんね・・・いつも鼻をならしてキャンキャン言って・・・」

「なんだってえ」

ここで何故か・・・流れ出すのは主題歌「愛、テキサス」である。なんだ・・・ぶっかけのテーマみたいな感じにするのかよ。ふらりふらり揺れるのか。なぜにさまよい迷うのか。

こ、こら・・・チョコレートはやめなさい。こ、粉もだめ~。

「姉ちゃんたちやめて」

「この売女」

「なによ雌犬」

ぶっかけである。粉まみれだ。しかも・・・チョコレート直撃の桃子は白黒まだらだ。

俺は桃子から目をそらしながら・・・なにしろ・・・直視したら吹くからな。

「なにやってんだよ・・・お前ら・・・親父が生きてたら・・・なんて言うと思うんだ。

隼人・・・しっかりしろよ・・・桃子の言うとおり・・・変な噂たったら・・・葬儀の井原屋だって・・・商売あがったりだぞ。

人殺しのいる葬儀社に見送ってもらいたいと思う人がいるかっ」

「相手が好きだから自分も好きになるとは限らないじゃん・・・好きって言う気持ちはどうしようもないじゃん・・・可南子は・・・家が大変なことになって・・・全部自分の金で大学に通ってんだ・・・普通のバイトじゃ・・・どうしようもないから・・・キャバ嬢やってたんだ・・・それなのにあの男は可南子を食い物にして・・・」

「それでお前は店の金を加奈子さんに渡してたって・・・それが仕方のないことだって言うのかよ」

「なにそれ・・・あんた・・・その女に貢いでたってこと」

「ごめん」

「だったら・・・本当のことを警察に言うしかないだろう」

「それは・・・いやだ・・・」

「なんでわかんないんだ」

「わかってるよ・・・わかってるって」

立ちあがった隼人は俺に鉄拳制裁である。おい・・・俺がなぐるところだろう・・・。

でもな・・・こんな可愛い弟を俺にはとても殴れない。

俺は隼人を抑えつけた。

「お前・・・もしも可南子さんが犯人だったとして・・・一生、彼女に逃げろって言い続けるのか・・・それで彼女は幸せになれるのか・・・人が死んでるんだぞ・・・もしも・・・お前が犯人だったら・・・お前は一生逃げて逃げて・・・それで幸せか?・・・隼人・・・本当に彼女が好きなら・・・嫌われることを恐れるな・・・本当の彼女の幸せを・・・よく考えるんだ」

「・・・」

「明日・・・一緒に警察に行こう」

「・・・うん」

「それじゃ・・・風呂に入るか・・・」

「だね」

危なく、桃子と顔を合わせそうになって俺はあわてて隼人を抱きしめた。

隼人は俺の腕の中で子犬のように身をふるわせる。可愛い・・・なんて可愛いんだ。

これが・・・弟の味かっ・・・。

で・・・入浴シーンは妄想の彼方に飛び去り・・・寝物語である。

俺と晴香の間に桃子と隼人を挟む。

そうさ・・・昔・・・こいつらがもっともっとチビだった頃から俺は知っているんだ。

誰が何と言ったって・・・他の誰よりも長い時間を過ごしてきた。

みんな葬儀屋の子供だもの。

俺たちにしかわかりえないことは・・・あるんだよな。

「こうしていると健人(反町隆史)兄ちゃんを思い出す・・・こわい夢を見た時はいつも添い寝してくれたっけ・・・」

「優しかったよな・・・」

「私・・・よく覚えてない・・・」

「赤ちゃんだったからな」

「いつのまにか・・・態度も図体も大きくなっちゃって」

「なによ~」

ああ、可愛い。晴香も・・・桃子も・・・隼人もみんな可愛い。健人兄ちゃん・・・兄ちゃんも俺みたいな気持だったのかな。健人兄ちゃん・・・どこにいるのさ。俺もたまには健人兄ちゃんに甘えたいよ・・・弟としてさ。

もちろん・・・その頃、健人兄ちゃんは大変なことになっていたわけだが・・・俺は露知らずさ。

だって人間は神様じゃないからね。

とにかく・・・喧嘩して仲直り・・・人間なんてそんな繰り返しで生きているってこと。

喧嘩したまま死んだら仲直りもできない・・・ああ・・・そうか・・・俺はピンときたよ。

みんなに恨まれたまま死んだご遺体の・・・心残りが何かってことを。

ところが・・・翌朝、目を覚ますと・・・隼人は脱走していた。

恋ってやつは・・・どうしようもないな。

思案にくれていると・・・田中さん(大友康平)が・・・出番を確保するために隼人の隠れていた遺体冷蔵庫から・・・ジュエリーショップのカードを発見するのだった。

さすがは田中さんだ。

俺の中に徐々に焦点を結ぶ・・・失われた指輪の物語。

そうだ・・・愛はいつでもすれ違いだ。

そして・・・賢者の贈り物はいつだって愛の証なんだものな。

それから坂巻刑事が耳寄りな話を仕込んできた。

「あの店のオーナーからようやく証言がとれたんだけど・・・あの夜・・・被害者は時計を売りにきたらしいわ・・・オーナーは疑われるのがいやで言い渋ってたんだけど・・・被害者はよほど・・・お金に困ってたのね」

なるほど・・・やはり時計を売ってたのか。

俺はようやく・・・坂巻刑事とデートするチャンスをつかんだ。ジュエリーショップに誘うのはなかなか気がきいてるよね。

で、やっぱり俺に気があるから舞い上がる坂巻刑事・・・持ち上げておいて落とす・・・愛のゲームの基本中の基本だよな。

「えーっ・・・なんか買ってくれるんじゃないの」

「ごめん・・・今・・・財政的にピンチなんだ・・・」

「しょうがないなー・・・もう」

「っていうか・・・職務でしょ・・・職務」

こうして・・・俺は失われた指輪を発見した・・・そして・・・ご遺体の最後の願いを知ったんだ。でも・・・一足先に・・・指輪は・・・隼人の奴が持ち去っていた。

ふふん・・・さすがは俺の弟・・・やるじゃないか。

時はバレンタインデー・・・俺は愛の記憶が残る店にやってきた。

そこに現れたのは可南子さんだった。

「どうして・・・ここに・・・」

「あの・・・最後の夜に・・・彼が店にやってきたのは・・・新しい店のオーナーに時計を買ってもらうためだったんです」

「え・・・」

「お父さんの形見の腕時計・・・可南子さんも知ってますよね」

「で・・・そのお金で・・・彼は・・・ジュエリーショップに行ったんですよ」

「なんで・・・」

「その続きは弟が話します」

俺はようやく・・・到着した弟を呼びこんだ。

「なんで・・・兄貴が・・・」

「そりゃ・・・兄ちゃんだからさ・・・いつだってお前より先にいるだろう・・・でも一番いいところはお前にやるよ・・・さあ」

弟はうなずいて二つの指輪を差し出した。

「あの人は・・・腕時計を売ったお金で・・・この指輪を買ったんだって・・・店の人が言ってたよ・・・俺はあの人がカナちゃんの時計を売り飛ばしたんだとばかり思っていた・・・でもあの人はこう言ったんだ・・・このサイズで指輪を作ってほしいって・・・」

言葉につまった弟に助け舟を出すのは兄のつとめだよな。

「なぜ・・・そう言わなかったのかって思ってるでしょ・・・男ってバカみたいに・・・好きな人を驚かそうとするもんなんですよ・・・相手が喜ぶかどうかは二の次なんです」

可南子さんの頬に薔薇が宿った。

「男ってバカね」

そうですよ・・・そして・・・そういう男に愛されてあなたは幸せなんでしょう。ねえ、そうでしょう。

その頃・・・坂巻刑事は幸せではなかった女を取り調べていた。彼の部屋から出てきたエリカさんの目撃証言が出たのである。

エリカさんは遠くを見つめて告白したそうだ。

「彼は・・・カナちゃんを傷つけたくないから・・・私と別れるって言ったの・・・殺されて当然だと思うのよ・・・少なくとも・・・私はそう思った・・・そして・・・たまたま・・・果物ナイフがあったのよ」

きっと多くの人が彼のことを酷い男だって言うだろうね。

二人の女を手玉にとって・・・一人を選んで・・・でもそういうことはよくあるんじゃないのかな。

とにかく・・・一人は彼を惜しんで葬式にやってくる。

もう一人は葬式には来れない・・・ただそれだけのこと。

岩田さんはこう言ってた。

「本当の愛って自分の幸せよりも相手の幸せを願うこと・・・なにしろ死んだら何もかもなくなっちまうんだから・・・生きている間は・・・誰かに何かをしたいってみんな思うもんだ。それが結局・・・生きるってことだからさ」

確かにね。一人残されても・・・生きている方が愛されていたって思えることはいいことかも。

もちろん・・・愛されない方は・・・あきらめるしかない。

だって、結局、愛するしか道はないんだから。

隼人もいつか・・・手が届かない愛を追い続ける悪夢から解放される日がくるかもしれない。

ひょっとしたら・・・可南子さんの気が変わる可能性だってゼロじゃない。

晴香が言う・・・愛する者に愛される奇跡みたいなことがね。

でも・・・もう一人の彼女・・・エリカさんは・・・もしかしたら・・・永遠に愛を得られないかもしれない。だって彼女は自分で可能性を葬ってしまったんだから。

だけど・・・俺にはそれだって・・・愛と呼べるかもしれないと思えたりもする。

だってエリカさんはまだなんにもなしになったわけじゃないものな。

ねえ・・・親父・・・どう思う。

そっちに愛はあるのかい?

関連するキッドのブログ→『第4話のレビュー

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2012年2月 9日 (木)

あの素晴らしいスタイリッシュな愛をもう一度(桜庭ななみ)

谷間とはいえ・・・タイトルが手抜きじゃないか。

そんなことはスタイリッシュにありません。

ああ・・・なるほどスタイリッシュなタイトルなんだな。

はい・・・この世界ではスタイリッシュ=だっせ~っということですから。

じゃ、スタイリッシュサンルーフというのはだっせ~っサンルーフということか。

そんな一部限定のメーカーとついでにユーザーの話はしておりません。

じゃ、平田香織のデビューシングル「スタイリッシュスター」とか、2007年に結成されたボーカルユニット「スタイリッシュハート」とか、ラジオ番組の「熊田曜子のスタイリッシュ・トーク」とか。

そんな検索順の話も・・・いい加減にしておけよ。

まあ、でも誰だって一度はあこがれるよね・・・スタイリッシュな生き方・・・あらゆる・・・お手本通りのあれやこれや。そんでスタイリッシュなデブとか、スタイリッシュなブスとか、スタイリッシュなチビとか・・・そういう自分を発見することも大切だしねえ。

谷間にしてはヘビーな展開になりそうなので本題、お願いします。

で、『妄想捜査〜桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活・第3回』(テレビ朝日20120205PM2315~)脚本・演出・及川拓郎を見た。「スミレ16歳!!」とか「ザ・クイズショウ」とか「宇宙犬作戦」の人である。視聴率が*5.7%→*5.7%ときていたのだがついに↘*3.9%を叩き出しました。まあ・・・当然と言えば当然だな。小劇場でスタイリッシュなことがテレビではスタイリッシュとは限らないというひとつのスタイリッシュなアレなのである。

まあ・・・でも・・・お茶の間でスタイリッシュな小劇場気分を味わえるということでは貴重だよな。

クワコー(佐藤隆太)にとってスタイリッシュな「優しさ」とは「病気の時に看病してもらえること」なのである。そして・・・クワコーがそういう優しさにふれたのは小学生以来なのだった。

そのために・・・クワコーはこのままでは「孤独死」してしまうと思い悩む。

まあ、スタイリッシュな孤独死もあるから・・・それはそれでスタイリッシュ・チャンスなんだけどな。

さあ・・・そろそろスタイリッシュ禁止にしとくかな。

まあ、今回、一番、スタイリッシュなのは「あの素晴らしい愛をもう一度」でクワコーが「モテキ」で森山未來が「Baby Crusing Love」で踊り出すように踊るシーンである。スタイリッシュにもほどがあるな。

だから、スタイリッシュについてのスタイルはもうわかったよ。

とにかく、たらちね地方のたらちね遺跡から「予言の石板」が発見され・・・クワコーがたらちね地方のローカルな生き神様である「たらちね様」候補に指名されるのである。

しかし、すべてはたらちねの名士である垂乳根権蔵(麿赤兒)がわが子・スケキヨ(三浦透子)をたらちね様の襲名儀式である「死のバンジージャンプ」から守る陰謀だったのだ。

もちろん、すべての陰謀はジンジン(桜庭ななみ)によって見抜かれる。

「スケキヨくんは実はスケキヨちゃんだった・・・もちろん平成生まれの私は『犬神家の一族』なんて知ったこっちゃないですよ・・・おじさんのスタイリッシュな妄想に合わせるって大変ですよねえ・・・すべては親が子を思うスタイリッシュな愛のなせるたくらみだったのです」

ジンジンの機転で房総工業大学の学生たちが墜落するクワコーを受け止め一件落着。

一命をとりとめたクワコーはその夜AVをじっくり楽しんだのだった。

ちなみに木村部長(倉科カナ)が「アドベンチャー・ヴィクトリー」だと思ったAVはキッドのブログでは「オーディオ&ビュジュアル」の略です。

小説のドラマ化を「小説のAV化」と表記することがありますのでスタイリッシュにご了承ください。

今回・・・ちょっとジンジン不足だったな。

関連するキッドのブログ→『第2話のレビュー

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2012年2月 8日 (水)

あらゆる排泄され分泌され吐瀉されたすべての汚物、不潔な残滓、異臭の黴菌に嗚咽する乙女(木南晴夏)

至って健康的で、「おしりだってあらってほしい」文化のもと、除菌、消臭、衛生的な現代人にとって・・・ものすごく曲がりにくいコーナーが原作の「澱の呪縛」である。

原作順で言うと・・・「無風地帯」→「澱の呪縛」であり、ドラマ化にあたって第4話にあたる「水蜜桃」を挟み込んだことには・・・製作者サイドのおののきが充分に妄想できる。

社会全体が充分に非衛生的だった1970年代においてさえ・・・「澱の呪縛」のインパクトはかなり大きかったので・・・ましてや・・・清潔な現代においては・・・である。

原作者には「時をかける少女」という非常にロマンチックな小説があるわけであるが・・・もちろんジュブナイルなのだが・・・大人向けの小説である「家族八景」の「澱の呪縛」はそのイメージを根底から覆し、原作者の人格を損ないかねない迫真の描写が続くわけである。

まあ、キッドはうひひと狂喜いたしましたがね。

原作者は教養として「ジークムント・フロイトの心理学」に触れているためか、時に激しくスカトロジーに傾斜していくのである。

たとえば初期の短編「「最高級有機質肥料」(短編集「ベトナム観光公社」などに収録)では植物系異星人との社交のために自らの排泄物を晩餐に供する必要にせまられた男の話がえがかれる。彼の糞尿がいかに美味だったか・・・彼は平和的使節として異星人に語り聞かされることになるのだ。その描写のために原作者は自らの・・・(以下省略)・・・。

その他にも「オナンの末裔」だの「コレラ」だの「俗物図鑑」の吐瀉物評論家だの「怪奇たたみ男」だの「蟹甲癬」だの吐き気を催すものから痒みがとまらないものまで・・・不潔な小説の乱打なのである。

後期の短編「九月の渇き」(短編集「家族場面」に収録)では・・・異常気象により晴天が続き、水洗トイレがすべて流れなくなり・・・ついには便器として尿を浴び続ける男までが登場するのである。

・・・どんだけ・・・肛門期なんだよ・・・と眉をしかめる識者もいるかもしれないが・・・キッドは常に多重人格一同爆笑してまいりましたな。

例によって一番肝心な「七瀬は顔色を変えて走った。便所へとびこみ、吐いた。いつまでも、いつまでも、胃がとび出すのではないかと思うまで吐き続けた」というシーンはオブラートに包まれたわけだが・・・逆に「とても湯槽(ゆぶね)に入る気がせず、七瀬は冷たいのを我慢して水道の水でからだを洗った」はずなのにきちんと入浴して絶叫であるのは大人の演出である。

まあ・・・ヒロインの嘔吐シーンや、ヒロインの全裸行水シーンを見たい一部愛好家にとってはすべては夢の彼方ということですな。

基本的に堤幸彦&佐藤二朗コンビより、今回の白石達也&池田鉄洋コンビの方が演出、脚本ともに抑制が効いていて見やすかった気がいたします。

で、『家族八景 Nanase,Telepathy Girl's Ballad・第三話・澱の呪縛(おりのじゅばく)』(TBSテレビ20120208AM0055~)原作・筒井康隆、脚本・池田鉄洋、演出・白石達也を見た。ドラマ版七瀬の三軒目の派遣先は・・・神波(じんば)書房という古書店である。原作では「郊外電車の分岐駅に近い大通りに面した、大きな履物店」なのだが・・・いいロケ先が確保できなかったことは充分妄想できるので賛否は問わない。原作的には裕福とは言わないまでもそれなりに経済力のある家庭なのである。しかし、現代では大家族=貧乏という図式が定着しているためにやや貧しく描かれている。

この点は「中流家庭」なのに主婦が「怠惰」という「悪」に汚染されていたため、家族が地獄の不潔さを漂わせ、家全体が異様な臭気に包囲されているという「恐怖」をやや薄めていると考える。

ついでに言えば原作の11人兄弟がドラマでは8人に少子化しております。

神波家の主人である浩一郎(橋本じゅん)が「妻の病気になったので家事がおろそかになっちゃって・・・」と着任した住み込みの家政婦七瀬(木南晴香)に事情を説明している間にまとわりつく四歳の陽子は存在を抹消されているのだった。

ただし、六歳だった悦子(末原一乃)は五歳に設定変更されて後に登場する。

まあ・・・11人も8人もたいして違わないという考え方もあります。

家の中を案内された七瀬は家にこもる異様な臭気「甘ったるい中に酸味のある一種の動物的な臭い」に頭痛を発するほどである。

そして諸悪の根源である仮病でずぼらでまともな神経でなく無神経で不潔さに鈍感で動物的な感情だけで生活を続けて行こうとするあまりにも女性的でヘニーデとも言うべき精神的混沌の内面しか持たない母性本能の摩耗しきったルーズな主婦・兼子(清水ミチコ)を紹介される。

兼子の思考は「安楽な時間を過ごしたい」で独占されており、それは「アイスバーこそがパラダイス」として表現される。作中のアイスバーの商品名は「ストライク」である。もちろん、ドラマのオリジナルである。

七瀬は「理想の女性像」からかけ離れた兼子を若さゆえの純粋さから批判的に見つめ、兼子の作る不潔な空間に強く反発を感じるのだった。

やがて・・・小学生、中学生、高校生と神波家の子供たちが下校してくる。

大学生の次男・明夫(浜野謙太)は七瀬にたちまち魅了されるが、造船会社に勤務する長男の慎一(山本浩司)は何故か七瀬に興味を持たないのである。

この点は原作では特に言及されないが・・・大学を卒業して社会人となった長男はすでに・・・社会的平均よりも過度に不潔な自分とその家族についてなんらかの自覚をせざるをえない場面に遭遇しているということに原因があるであろう。彼にとって社会は清潔すぎるのであってその一部分に属する七瀬は当然、かれの「好み」ではないということなのだな。

もちろん、家事一般をすべて投げやりに行う兼子の支配下にあって慎一は家畜として飼育された子供なのである。

申し遅れたが・・・今回の「掛け金をはずした状態」は神波家が獣化することで表現される。

こうして・・・夕食が始まり・・・家族たちは動物の餌のような料理もしくは残飯を食べるのであるが・・・そのまずさに誰も気がつかないのである。

その愚鈍さに七瀬は驚愕するのであった。

最初は好感をもった神波家の裏表のなさは・・・単なる人間よりも獣に近い精神生活の貧しさに起因していたのである。

たまりまくった洗濯物、汚れきった食器、家具、窓。天井。床。壁。七瀬はその汚泥の中に沈み込むイメージを感じ・・・入浴剤だと思った浴槽の白色がすべて垢と悟った時についに「きゃーーーーーっ」と絶叫するのだった。

追い打ちをかけるように七瀬の歯ブラシで歯を磨く高校生の三男・良三(岡本拓朗)に遭遇し・・・「あ・・・あ・・・あ・・・あ・・・」と息も絶え絶えになるのだった。

仕方なく・・・指で歯を磨く七瀬である。

そして・・・悪臭漂う中、眠りについた七瀬は悪夢に襲われ・・・ついに兼子の支配する澱みきった汚穢の巣に反旗を翻す決意を固めるのだった。

「腐敗しきった悪家政に挑むジャンヌ・ダルク」なのである・・・もちろんジャンヌ・ダルクである以上・・・最後は火炙りになる運命なのだが・・・。

翌日、猛然と戦闘を開始した七瀬は洗濯ものをちぎっては投げ、年頃の男子の射精の後を始末し、年頃の女子の汚れた生理用品を焼却し、部屋という部屋を清掃しまくったのだった。しかし・・・長年にわたってしみ込んだ腐り果てた伝統は一朝一夕で打倒できるものではなかったのだ。

まだまだいたるところに「ダンゴムシの瓶詰級」の汚物が隠匿され、家屋全体に馴染んだ汚染物質は七瀬の努力を嘲笑するかのようにたちこめるのだった。

七瀬は敗北の予感を感じた。

しかし・・・七瀬の微かな革命は・・・神波家に穏やかならぬ波紋を投げかけるのだった。

整理整頓された家を見た子供たちは・・・「恥」を感じ、「恥をかかせた」七瀬に敵意をなげかけるのである。

もっとも清潔である長女で高校生の道子(茜音)も「いつもとはちょっと違います」とブログで発しなければならないほど・・・不浄なのである。

≪お人形さんみたいなのに私を汚いって蔑むのね≫≪いやな奴≫≪掃除なんてしやがっていやがらせかよ≫≪みられたみられたオレのアレを≫≪おねしょをしたままだったのに≫≪わたしのダンゴムシ≫≪覗き屋≫≪俺の劣等感≫≪俺の俺の劣等感≫≪自分は清潔だと思ってやがる≫≪こいつの優越感≫≪こいつのこいつの優越感≫≪犯してやる≫≪汚してやる≫≪強姦してやろうか≫≪そうすればおれたちと同じになっちまうぞ

なれ合い的な家族意識、連帯感によって、なま暖かく住み心地のよい異臭に包まれた不潔さが、今や意識の表面におどり出てきて牙をむきだしたのだ。そのために神波一族の集合的無意識は変貌し・・・自分たちの不潔さを糾弾し始めたのである。つまり集団自己嫌悪の嵐の到来である。

やがて・・・それは敵意や悪意を増幅し、ついには内省的な汚れに満ちた追想へと突入する。

自虐である。

おふくろがずぼらだからいけないんだ≫≪親父が甘いから≫≪おふくろは不潔だ≫≪俺も不潔だ≫≪みんな不潔だ≫≪ブタだ≫≪ブタなんだ≫≪俺たちは不潔極まりないブタの一族だ≫≪ふん、汚くて何が悪い≫≪お前なんかには想像もつかない汚いことを≫≪究極の不潔を≫≪あんな汚いこともした≫≪ブタよりももっと汚い俺≫≪私≫≪僕≫≪排泄物≫≪体液≫≪垂れ流し≫・・・。

七瀬は恐ろしい精神汚染から逃れようと心の掛け金をおろそうとしたが彼らの強力な≪汚辱の記憶の奔騰≫がそれを許さなかった。

七瀬は神波一家の無意識の精神攻撃に呪縛されてしまったのだ。

七瀬は意識そのものを強奪されかかっていた。七瀬は精神の危機を感じる。

もはや・・・肉体的にその場から逃れるしか・・・方法はなかった。

七瀬は懸命に立ちあがり・・・流水を求めた。すべてを洗い流し清める水の流れ。

風呂場にたどり着いた七瀬は絶叫しながら水垢離をする。

≪清めて・・・私を清めて・・・あの人たちの不潔から救い出して≫

清潔な冷水を全身全霊で感じながら七瀬は嗚咽をもらし涙した。

水道水の冷たさが辛うじて精神的汚染を遮断したのだった。

その日からまもなく・・・七瀬は暇乞いをした。

神波夫婦はうろたえつつ・・・七瀬の希望を受け入れる。

「そうだよなあ・・・大変だよなあ・・・なんてったって家は大家族だから」

うっかり放屁しつつ、浩一郎はあぶら汗を流す。

≪言わないでくれ・・・家が不潔とは言わないでくれ・・・他所の家には内緒にしてくれ・・・世間体が悪い・・・嫁入り前の娘だっているんだ・・・我が家が不潔だとは他言無用でお願いします≫

七瀬は微かな敗北感と呪縛からの解放の喜びを感じながら・・・神波家に別れを告げたのだった。

関連するキッドのブログ→『第2回のレビュー

シナリオに沿ったレビューをお望みの方はこちらへ→くう様のレビュー 

久しぶりに後説である。ドラマ版第三話は素晴らしい出来だったのではないか。まあ、お茶の間が耐えられるかどうかは別として。「心を読んでいる」ことの七瀬のうっかりミスなどもさりげなくもりこまれているし・・・。このまま・・・「七瀬ふたたび」までなだれ込んでほしいものだなあ。

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2012年2月 7日 (火)

かくも温かき心(松本潤)

元ネタはジェイムズ・エリオットの「COLD COLD HEART(かくも冷たき心)」(1994年)である。冒険小説の書き手だったJ・C・ポロックが別名義で書いたサスペンスだ。

まあ・・・逃亡者にも追跡者にもしがらみがある・・・という点くらいしか類似点がない・・・とも言えるが・・・タイトル的には・・・なんていうか・・・生ぬるい展開にちょっとじれたので・・・皮肉をこめています。

もちろん・・・逃亡者が死体の山を築き、追跡者も信じるものに裏切られ傷心しつつ目的のためには手段を選ばないプロフェッショナルという「月9」なんて成立しないと思うが・・・。

逃げる瑛太、追う松潤は第1回のモチーフのヴァリエーションであり、瑛太が「逃亡する理由」の遺憾を問わず・・・時間経過を経て探偵として成長した松潤が瑛太を次第に追い詰めていく・・・といった次なるプロットが欲しいものだ。

行方不明の同僚に探偵事務所一同が茫然自失では・・・それでもお前たちは探偵か・・・という気分になる。

まあ・・・今回は前篇であり・・・おそらく謎が解かれるであろう・・・後半にはそれなりに仕掛けがあって・・・とにかく探偵事務所のメンバーが強い絆で結ばれているということをくどいほどに描いたのだろうと考える。

そんなことが本当に面白いかどうか・・・は別として・・・小学生じゃないんだから。

で、『ラッキーセブン・第4回』(フジテレビ20120206PM9~)脚本・野木亜紀子、演出・佐藤信介を見た。脚本家は2009年度フジテレビヤングシナリオ大賞の受賞者である。探偵事務所の人々の会話はそれなりにコミカルだが・・・探偵たちの会話としてはものすごくピンとこないことは言うまでもない。もちろん・・・主人公からしてつい最近までフリーターだったのだから仕方ないけどねえ。

13年前・・・藤崎瞳子(松嶋菜々子)はラッキー探偵社を設立する。筑紫(角野卓造)はおそらくその時からのメンバー。

12年前・・・旭(大泉洋)が入社。

8年前・・・新田(瑛太)が入社。

3年前・・・飛鳥(仲里依紗)が入社。

そして、最近、駿太郎(松本潤)が入社。

探偵事務所のメンバーたちは・・・公私ともに自分たちが仲間であると意識しているという設定である。

しかし、どうやら・・・新田は他人には語らない秘密を抱えているらしい。そのために・・・何事か…単独で活動を開始する。

実際に新田が「犯罪」を犯したかどうかは別として・・・「盗撮と盗聴によるプライバシー侵害」「住居不法侵入」「窃盗」などの嫌疑をかけられ・・・ついには失踪してしまうのだ。

この新田の行動に対して・・・延々ととまどい続ける探偵社の人々の心の軌跡を描いた今回・・・途中・・・とっとと捜索を開始しやがれ・・・とテレビに向かって毒づいたことを報告しておきます。

あげくの果てにまたもや・・・偶然、新田を発見する駿太郎である。

運命か・・・すべては運命で・・・努力は無駄なのか。

新田の最初の任務は・・・料亭の女将の愛人(正名僕蔵)からの「浮気調査」だったわけだが・・・本人名義で張り込み場所を確保しているなど・・・新田が最初から個人的動機を持っていた気配はなく・・・なんらかのターゲットもまた偶然、新田の視野に闖入してきたわけだし。

そのターゲットと目された・・・単に通過点の場合を含む・・・男は警視庁刑事部参事官の峰永(近江谷太郎)である。彼は単なる被害者ではなく・・・何らかの汚職をしていた可能性がある。

しかし・・・峰永の自宅から機密情報を持ちだしたという疑いで・・・探偵事務所は家宅捜査され、事実上の営業停止、峰永・・・ルル「じゃないですよ」キッド「これは失礼申し上げました」・・・新田は指名手配されてしまう。

それほどの犯罪なら組織ぐるみの犯行を疑われ・・・一同全員、厳しい取り調べを受けるのではないかと・・・そういう疑問はさておき・・・突然、ヒマになった探偵たちは・・・「新田は犯罪なんかしない」だの「信じている」だの「ちっとも連絡がとれない」だの探偵としてはどうかという振る舞いである。

だが・・・このドラマの鉄則である主人公は自動的に棒にあたるシステムで・・・駿太郎は新田を発見する。

「おい・・・俺はともかくみんなを裏切るなんて・・・ひどいじゃないか・・・謝罪しろ」

「ふっ・・・」

何事かを隠しているらしい新田は・・・駿太郎から眼をそらす。

なにしろ・・・駿太郎は目を見るだけで何かを悟ってしまう・・・色事師としての特殊能力を持っているのだ。・・・まあ・・・まさか、新田がひそかに駿太郎を愛しているというオチではないと思うが・・・ないとも言い切れないのだな・・・なにしろ・・・ここは「月9の世界」なんだから。

今回の白眉である新田の華麗な逃亡シーンが挿入され・・・つづくである。

今回の教訓・探偵は出かける時には玄関マットに電流を流すこと。

関連するキッドのブログ→『第3話のレビュー

よもや新田(瑛太)退場かと来週まで不安で仕方ない方はコチラへ→まこ様のレビュー

松潤と瑛太をこよなく愛する皆様はコチラへ→くう様のレビュー

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2012年2月 6日 (月)

わがままは御曹司の罪、それを許さないのは御家人の罪(松山ケンイチ)

基本的なことだが、血族的集合体が力を持つためには一致団結が不可欠である。

そのために絶対的なリーダーが求められる。

治世ではそのリーダーの実力は問われない。しかし、乱世では実力だけが問われるのである。

しかし、治世と乱世の境界線はいつの時代もそれほど明瞭ではない。

だから・・・リーダーに求めるものに個人差が生じるのである。

リーダー絶対主義の場合、後継者を決めるのは基本的にリーダーである。

しかし、血縁絶対主義の場合は氏素性が問われるのは言うまでもない。

そこで問題となるのが本家と分家の力関係なのである。

一般的に農耕民族は長子相続、遊牧民族は末子相続が是とされるが、それはあくまで後継者指名に問題があった場合である。

血縁絶対主義であっても絶対的リーダーが指名したものを構成員が拒絶すればそれは即ち反逆なのである。

それを丸く収めるのが本家と分家のシステムである。

平氏は桓武平氏と称される時点で要するに大王家の分家なのである。

分家は続き、平氏にも坂東平氏もあれば伊勢平氏もあることになる。

そうなれば分家同士が本家争いをすることにもなる。

しかし、伊勢平氏に限れば、たとえば本家・平正盛の子である忠盛と忠正は兄弟であるが・・・忠盛が本家の後継者となった時点で・・・忠正はその臣下となるのである。つまり、分家だ。そして・・・清盛が本家の後継者となれば・・・忠正は分家として清盛の命を受ける立場となるのである。

忠正はそのために鬱屈しているようにも見えるが・・・後のリーダーである清盛に上に立つ者としての教育的指導を行っている側面があることも充分に理解できる。

なぜなら・・・清盛は・・・超本家(父が大王)の血筋なのだ。血族的には分家の分際で口をはさむのはかなり覚悟のいることなのである。

このあたり、忠盛と忠正の間には阿吽の呼吸があるのである。

今年の大河ドラマの素晴らしさは・・・そのあたりが充分に感じられるのである。

視聴者によっては「えらい言われよう」で清盛が傷心したように見えるかもしれないが・・・実はあの伯父の言葉が清盛の心に沁み入っているのである。

「上に立つものは下の心を知らねばならない」

伯父は心を尽くして・・・兄が認めた後継者に言葉を与えているのである。

だから・・・後にたとえ伯父の命を奪うことになろうとも・・・清盛は憎しみではなく・・・リーダーとして苦しみながらそれをするであろうことが充分に予感できるのだな。

ちなみにあたかもただの漁民に見える鱸丸も実は平家の一門なのである。超分家すぎて本家筋の人からは身分の差を問われるのだが・・・そこには「後継者の直属だからっていい気になるな」という注意が与えられているのだな。

まして・・・この頃は・・・戦は吉凶でするもの・・・勢ぞろいの場で不吉を口にするのは斬首されても文句が言えないところなのである。

それを忠正は苦言を呈することで救っているわけだ。

このように・・・隅々まで神経の通った脚本は・・・実に恐ろしいほどである。

大王家、藤原家、平氏、源氏・・・それぞれの分家関係とこの時代の主要登場人物・・・およそ百人ほどを人間関係的に把握している節があります。おタクだな・・・平安おタクのなせるワザだな。なにしろ、親を考えるとそれはあっという間に三百人になる世界なのである。まして、子孫ともなれば・・・。

で、『平清盛・第5回』(NHK総合20120122PM8~)脚本・藤本有紀、演出・柴田岳志を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は天真爛漫な正妻に翻弄される王家純情鳥羽院の書き下ろしイラストに加え、伊勢平氏の末端に名を連ね、もうすぐ鱸丸から平盛国に出世するので見おさめになるかもしれない汚い衣装の書き下ろしイラストがついてくるのでお得でございます。

Tairakiyomori03平忠盛の西海海賊追討は1135年であるが・・またも改元が立ちはだかる。長承4年は飢饉、疫病などを理由に夏に保延元年に改元となる。忠盛は春に出征し、秋に凱旋するのだが・・・行く時は長承4年、帰ってきた時は保延元年になっているのである。まあ・・・任務完了が秋と考えれば・・・保延元年の海賊征伐と言ってもさしつかえないな・・・。

さて・・・西海とは狭義には九州周辺の海を指すのだが、この場合は・・・京都から西にある海は基本的に西海ということである。だから・・・安芸国(広島県)の海賊を西海の海賊と呼んでも問題ないのである。日本が島国であるにも関わらず騎馬武者のイメージが強いためか・・・一般の人々は合戦と言えば陸戦を想像しがちだと考えるが、六世紀には朝鮮半島遠征をしている大和朝廷である。水上戦闘のための戦船(いくさぶね)はすでに相当な水準に達していたことは言うまでもない。この時代から100年後の蒙古襲来では元・高麗連合軍という大陸と半島の巨大海軍を二度に渡って撃退しているほどなのである。神風などという迷信を信じてはいけないのだよ。ヤマトの諸君。

さて、この頃の西海の水軍力はおよそ、九州の松浦水軍、瀬戸内海の河野水軍、須磨の村上水軍に分割されている。各水軍はすでに独立勢力として王家にまつろわぬ民としての性格を持ちだしていた。これを追討するのも王家の伝統なのである。

平氏に動員令が下るのは・・・伊勢平氏もまた水軍を持っていたからである。忠盛の代には後に九鬼氏を生む志摩の水軍、熊野別当氏が統べる熊野水軍などを傘下におさめている。そのまとめ役を務めるのは伊勢平氏の一族、平忠康である。鱸丸はその長男である。

しかし、戦舟の主力となるのは須磨の村上水軍である。村上水軍は河内源氏の一族であるが、朝廷の命という前提の渡り(交渉)によって・・・平氏一族にレンタルされることになったのである。海には海の交際があるのだ。

平氏の主力部隊は忠盛が率いて熊野水軍によって水上輸送され、海戦の主力となる村上水軍には清盛が名代として乗り込んでいる。

先行した村上水軍の戦舟で潮を読んでいた清盛に「若大将・・・」と声をかけたのは・・・目付としてついている忠康である。

「なんじゃ・・・」

「いま、小舟にて知らせがまいり・・・熊野衆が須磨に到着したそうでございます」

「鱸丸か・・・」

「いえ・・・わが一の姫の波音(はね)と申すものが知らせてまいりました」

「知っているぞ・・・鱸丸の姉姫じゃな・・・えらいぺっぴんはんと名高いであろう」

「ほっほっ・・・これは・・・したり」

「安芸に着くまでには間があるので一手、お手合わせ願いたいの」

「くのいちでございますが・・・よろしゅうございますかな」

「望むところよ・・・」

「これ・・・波音よ・・・若大将が・・・」

ゆらりと船が揺れた。その刹那、初夏の日差しで出来た清盛の影がこそりと動く。

清盛がはっと気がついた時には清盛は女人の手で握られていたのである。

「おう・・・これは・・・手早いことよ・・・さすがは志摩の女海賊・・・う・・・」

「しかるべく」

清盛はあまりの面白さにあっと言う間に有頂天になったのだった。

関連するキッドのブログ→第4話のレビュー

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2012年2月 5日 (日)

ノイローゼ(死語)の母親(鈴木京香)とそのヒステリック(死語)な息子(山田涼介)

かって、ノイローゼとヒステリーは軽い機知外の人を婉曲に示すのに便利な言葉だったわけだが、精神医学界の人々は素人に病気のことを判断されると商売・・・治療に支障が出ると考え、この言葉たちを狩りました。

タイトル的には・・・母親・鈴木海は軽度のパニック障害(些細なことで我を忘れる)や強迫性障害(些細なことが気になって仕方がない)のであり・・・昔なら確実にノイローゼ(神経症)である。一方、息子・鈴木大地は興奮すると自分がコアラだと感じる解離性障害をかかえてあり、突然、発作的にパンチをくりだすヒステリー(神経症)なのである。

つまり・・・鈴木親子はあきらかに神経症親子と言えるのだな。

もちろん・・・現代ではノイローゼもヒステリーも正統的な精神医学用語ではなく、神経症そのものも死語なので公式には何を言っているか意味不明ということになるのだが・・・ご理解いただける方にはご理解いただけると考えます。

ノイローゼもヒステリーもキッドは好きな言葉なんだな・・・細々とでいいから使用させてくれ・・・ということである。

で、『理想の息子・第4話』(日本テレビ20120204PM9~)脚本・野島伸司、演出・佐久間紀佳を見た。まあ・・・ノイローゼの母親ほど・・・息子にとってやっかいな存在はないよな。まあ、認知症の母親も困るけどな。

たとえば夕食にカレーライスを作ったとする。

「辛いから食べられない」と言う。

そこで翌日に甘口のカレーライスを作る。

「こんなに辛くしなくてもいいのに」と言う。

そこで翌日にハヤシライスを作る。

「お母さんはハヤシよりカレーが好きなのに・・・わすれちゃったの?」と言う。

もう・・・さめざめと泣くしかないのでございます。

そういう意味で・・・「ズリネタがないからホモだ」とか「優しいからいつかキレる」とかあらぬ嫌疑をかけられ母親に翻弄される息子・・・大変だなあと思うのである。

今回は・・・「貧乏な母親からは貧乏な息子しか生まれない」というノイローゼにかかった鈴木海・・・もはや神に頼るしかないと・・・息子を怪しい宗教の信者へと導くのである。

こういう人を機知外と呼ばすにカレーライスが食えるか・・・意味不明・・・である。

だが、現代においては・・・たとえ、キッドが鈴木大地のクラスメートだったとしても「君の母上はちょっとノイローゼ気味だね・・・同情するよ」と慰めてもあげられないのだった。

ま、それはそれとして・・・「かえるの子はかえる」理論に傾斜した母親は「将来、息子が家を買ってくれないかもしれない恐怖」に怯え、高い壺は買うは、滝に打たれるは、風邪引いて寝込むは・・・の大騒ぎである。

一方、海王工業高校では新たなるモンスターが出現・・・生徒たちはパニック(死・・・いやこれはまだ死語ではないか)に陥るのだった。

今回はズバリ、エレファントマン・・・いや割舌が悪いことを必死に隠す象林先輩(諸見里大介)なのだった。その張り手パワーは象の鼻より凄いらしい。

2羽のセキセイインコ、ブルーチルチルとイエローミチルと仲好くひきこもっていた象林先輩はチルチルを失い・・・食べられちゃったと思いこんで・・・すべての鳥肉を食べる人を撲滅しようと決意したのだった。もはや・・・同人誌コミックや深夜アニメのレベルも越えた展開だな。

しかし・・・鈴木海から贈られた怪しいネックレスを粉砕され・・・激昂して心の制御を失った鈴木大地のヒステリーに敵はないのである。

やがて・・・幸運の青い鳥として鈴木海に捕獲されていたチルチルと再会した象林先輩も鈴木大地のヒステリー軍団の一員となるのだった。

大地は母親のノイローゼ緩和のために「模試全国一位」という・・・「はじめてのウソ」をついて・・・母親を「鳶が鷹を生む」モードに切り替えることに成功する。

しかし・・・母親を愛する鈴木大地にとって母親のノイローゼから解放される日はまだ遠い。

抑圧された鈴木大地は今後、ますますヒステリックにならざるをえないのだ。

そんな・・・鈴木大地にとって丹波兄妹(脇知弘・三吉彩花)と過ごす昼下がりの女装タイムは唯一の憩いの場と言えるだろう。今週のチア・ガールはもう一つインパクトにかけたので来週に期待したい。

関連するキッドのブログ→第三話のレビュー

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2012年2月 4日 (土)

自分のためにだけ表現することとたまたま大衆の求めることが一致する喜び(桐谷美玲)

小暮鉄平(松岡昌宏)関連のタイトルにしたかったのだが・・・松岡くんがあまりにも真摯に「ダメ男」を演じていて、評価が難しいところなんだなぁ。

なにしろ・・・自分では一切・・・現状を変える努力をしないで・・・昔の自分頼みなのだ。

その中で・・・自己主張を貫いて・・・他人の人生を変えてしまうなんて・・・本当はとても恐ろしいことなんだよな。

今回の到達点なんて・・・何が悲惨なのか・・・不明だしなぁ。

1990年に162㎝だった岡島正人(高杉真宙)は2012年には172㎝のうっちー(岡田義徳)になっていて順調に成長しているし・・・。

で、『13歳のハローワーク・第4回』(20120203PM1115~テレビ朝日)原作・村上龍、脚本・大石哲也、演出・高橋伸之を見た。人間が他の生物と違うのは職種を持っていることだ・・・という考え方がある。それはある意味で役割分担の肥大化という結果をもたらしている。生物としては捕食行動と生殖行動という生きるために必要なことはそれほど差がないのに・・・職種の分化は恐ろしいまでに多種多様なのである。

しかし、結果として恐ろしいほどに人類が優位な地位を占めているという考え方もある。

つまり、職種こそが・・・人類の証なのだな。

宇宙飛行士から・・・専業主婦まで・・・その職種の全貌を把握しているものはいないのではないかと考える。

しかし・・・このドラマおよび原作では・・・それをある程度類型化して・・・分類しているわけである。

それが・・・子供たちの職業選択の糧になれば・・・喜ばしいことだと言えるだろう。

だが・・・ここまではある意味・・・かなり・・・偏った職種に限定されていると思うのだった。

メイン・ストーリーで言うと・・・投資家、部品工場経営者、アイドルショップ経営者、旅行代理店社員・・・そして漫画家である。まあ、その他の職種も多々登場する。たとえばCIAのスパイ(デーブ・スペクター)とかハイレグ・バブル岡本夏生である。・・・まあ、他にも警察官とか看護婦とかスチュワーデスとかキャビン・アテンダントとか塾経営者とか塾講師とかグラビア・アイドルとか弁当屋とか地上げ屋とか・・・まあ・・・ほんの一部を書いただけでも職種というものの果てしなさはそこはかとなく漂うのである。

できれば・・・このドラマは職種が尽きるまでやればいいのに・・・と思うのだな。

なにしろ・・・お仕事図鑑なのである。まあ・・・忍者とか、売春婦とかは・・・やらないかもしれませんがーっ。

さて・・・子供たちの夢の世界はともかく・・・現実的な就職という点では・・・刑事になることがわかっている高野(横山裕)と未来が謎に包まれている翔子(桐谷)が・・・重要なキャラクターであることは明らかである。

高野については・・・チンピラのままがいいと思うが・・・翔子が一体、どんな職業に就くことになるのかは・・・非常に興味深い。キッドに関して言えば・・・そこにしか関心がないと言ってもいいな。

母子家庭で育ち、努力家で・・・それなりに包容力もある。何しろ・・・見ず知らずの男二人を同居させているのである。キャスト的にも女優としての過去の出演作の中でもっとも魅力的なキャラクターになっているとキッドには思えるのだな。

岩田さゆりが叶小夜子を演じた「吉祥天女」(2006年)で麻井由似子役だった頃から美少女ぶりは凄かったわけだが・・・主役ではないためにキッドのブログにはまだ登場しない。

その後は「怪談新耳袋」だの「東京少女」だの「恋する日曜日ニュータイプ」だのBS街道まっしぐらである。

そして『花ざかりの君たちへ イケメン♂パラダイス』(2007年)でキッドのブログ初登場である。変な許嫁カンナとして・・・頭角をあらわしたのだ。まあ、その他大勢のとりまきポジションで他には岩佐真悠子とか平愛梨がいたりしてかなりのサバイバルなわけだが。このドラマでは出番もそこそこあって・・・かなり美少女であることがさらに認識されました。

2008年は『同級生』『体育館ベイビー』というある意味マイナーな映画でヒロインに抜擢されているが・・・テレビ的には主に単発ゲスト出演である。

そしてついに・・・『オトメン(乙男)』(2009年)でヒロイン夏帆とミスやまとなでしこの座をかけて対決するライバル小針田役までのぼりつめたのだな。いや、まだまだだろう。

気をとりなおして・・・今度こそついに『女帝・薫子 』(2010年)である。ヒロインなのである。「オレ、負けねえ」なのだな。まあ・・・ホステス役ですけれもーーーーっ。美少女なのにだーーーーつ。

さらに2010年は『夏の恋は虹色に輝く』があるが・・・竹内結子の恋敵役なのだった。

さあ・・・ようやく『荒川アンダー ザ ブリッジ』(2011年)である。絶世の美少女ニノ役なのである。しかし・・・キッドのブログ休眠中なのだった。頂点に立ったときにレビューできないとは・・・。

まあ・・・とにかく、あれだ・・・桐谷美玲ほどの美少女であっても・・・キッドのブログのタイトルに名前を連ねるのは難しい・・・違うだろう・・・女優として頂点を極めるのは難しいのである。

女優志望の皆さんは覚悟を決めてもらいたい・・・。

関連するキッドのブログ『第3話のレビュー

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2012年2月 3日 (金)

縁起が悪いと言われたら、悲しい白い冬(山下智久)

一転、どシリアスである。

しかも、相変わらず周辺のディティールは「細かいことにはこだわらないで」モードなので・・・吐く息も長く白いのだな。

冷たい北風が吹いているのに・・・もう少し、ストレートに心を温めてほしいものだなあ。

保険金殺人、保険金目当ての自殺、負の遺産相続、不正入札、死因究明、静岡や軽井沢で二人に何があったのか・・・様々な疑惑を残しながら・・・兄弟仁義で泣けと言われて素直に泣けるほど・・・お茶の間が優しいことを祈るほかないのですなーーーーっ。

9時(ご遺体)、10時(生存中)に連続出演の織本順吉様には長生きしてもらいたいですよーーーーっ。

まあ、とにかく・・・家出中の兄の病状、足の不自由な妹の恋の顛末、担任教師と不倫中の妹の行く末、女と金に目がくらんだ弟の暴走・・・主人公を包囲するご愁傷様な未来のフリだけはもう充分に出来ていますな。

のほほんキャラに育ちつつある・・・真人(山下智久)・・・ドラマ後半の怒涛の家族問題にいかにして対処するのか・・・遺言ならまだしも台本が白紙だったらこわいよね。恐怖だよねーーーーっ。

で、『最高の人生の終り方〜エンディングプランナー〜・第4回』(TBSテレビ20120202PM9~)脚本・渡辺千穂、演出・山室大輔を見た。今回は・・・花屋の夕子とともに噂話で状況を説明しまくる弥生(橋本真実)が登場する。高円寺ラッキー商店街の仕出し弁当屋である。葬儀には仕出し弁当もつきものだからだ。ま・・・ドラマだけだと・・・この人、何者なのかしら・・・という戸惑いを感じる方も多いかもしれない。

さて・・・今回は上荻川が登場するわけだが・・・もちろんフィクションである。ついでに前回、神田川と紹介したが・・・この周辺を流れる上流は善福寺川と呼称されるのだった。

Zenpukuji恥ずかしながら、訂正しておきます。ついでに言っておくが坂巻刑事(榮倉奈々)の勤務する警視庁高円寺署も実在しない。高円寺を仕切るのは第4方面杉並署である。ちなみに杉並区には他に荻窪署と高井戸署があるのだな。で、荻窪署の管轄地域に上荻1~4丁目がある。上荻川とはドラマの中ではこのあたりをチョロチョロと流れているのかもしれない。

全国各地の田舎から出てきて・・・このあたりに住む人は多いので・・・なんだか、とっても甘酸っぱい感じがする人もいるかもしれない。キッドもそういう知り合いを何人か知っているので別の意味で甘酸っぱい思い出があります。

さて、今回も謎多い「最高の人生の終り方」だが・・・ご遺体の無念を晴らす・・・この一点に関してはようやく焦点が定まってきたようだ。主人公の言動は生きている人々にも影響をもたらすのだが・・・それは結果論であり・・・真人はあくまで「死者の一番言いたかったこと」を代弁するメッセンジャーなのである。

なぜなら、死者は無口だからです。

さてさて・・・今回の遺族ゲストは・・・「クロサギ」の神志名刑事でおなじみの哀川翔である。

そうなると・・・もはや・・・山下VS哀川にするしかなく・・・実際にそうなっています。

前回、兄の健人(反町隆史)からかかってきた電話は一方的に切れてしまい・・・結局、父親(蟹江敬三)の死は健人に伝わらずじまい。やきもきさせますな。

・・・しっかりものの妹・晴香(前田敦子)の提案で「誰にでもわかるお葬式の説明会」を開催することになった「葬儀の井原屋」・・・。俺はその宣伝チラシを配りにご近所を回るのである。いやあ・・・「心をこめてお見送りすること」を伝えるって言ったって・・・「ご冥福をお待ちしております」ってことだからな・・・かなり無理があるのじゃないか。

まあ・・・「お墓のご用意はいかがでしょうか?」って電話営業している企業もあるわけだから・・・ありっていえばありなのかもね。ひょっとしたら・・・「ぜひ、私の葬儀は御社にお願いしたい」と言ってくれる人もいるかもしれないし。そういう「希望があれば充分さ」ってことかもよ。

妹は・・・営業活動中にライバル企業の大手葬儀社「セレモニーホール太陽」のポスターをはっている一之瀬さん(駿河太郎)に出会うのだが・・・彼が心の恋人であるとは気付かずに・・・ポスターの「説明会参加者にもれなく豪華お弁当」に目を奪われてしまう。うちは「もれなくお茶菓子」だから・・・ぎゃふんとなってしまったのだな。

一方、俺は商店街のとある飲食店「食堂・三宝」で・・・客同士の会話をふと耳にしてしまうのだ。

俺の耳は「死の匂いに敏感」になっているらしい。

娘(飯島直子)を「梶浦」に殺害された過去を持つ父親によく似た年配者(織本順吉)・・・だれが「沙粧妙子-最後の事件-」(1995年フジテレビ)の話をしろとっ・・・とアニキと呼びたくなるような男(哀川翔)はこんな話をしていたんだ。

「どうしてわかってくれないんだ」

「手放せばすむことじゃないか」

「それだけはしたくない」

「じゃ、俺の保険金をあてにしていいぞ」

「そんなこと言うなよ」

「とにかく・・・お前の好きにはさせないぞ・・・遺言状にちゃんと書いておいたからな・・・葬式だけはしてくれよ」

なにやら・・・物騒な話だ。

高齢者が先に店を出てしまい・・・俺は男と目があってしまった。

「なんだ・・・葬式の説明会って・・・縁起が悪いだろ・・・」

俺の心は少し凹んだが・・・すぐに立ち直る。なにしろ、俺は覚悟を持って葬儀社を継いだんだから。きっと・・・この男も・・・鬱屈することがあって・・・俺に八つ当たりするしかなかったんだと思う。そういういらだちをかかえている男も・・・もしも死んでしまったら・・・うちのお得意さんになるしかないんだ。そう・・・生きとし生ける人間すべてが・・・お客さんなんだ。そう思うと愛想笑いが浮かんでしまう。おやじ・・・俺も葬儀屋としての第一歩を踏み出しているよ。

しかし・・・「ご遺体」になったのは・・・年配者の方だった。

すっかり、俺のことを「まさぴょん」と呼んでなついてしまった坂巻刑事・・・やはり、静岡とか、軽井沢でいろいろなことをしたからかな・・・例によって民間人相手に捜査内容をペラペラとしゃべるのだった。

「ご遺体は建設会社『岡部組』の社長・啓介氏。上荻川で釣りをしていて川に転落した模様。検視官によれば死因は心筋梗塞で・・・不審な目撃情報はなし・・・今のところ、事件性はないけど・・・一応、死体を搬送して様子を見るつもりなの」

岡部組か・・・社長って・・・結局、組長だもんな。すると・・・あの男は若頭かなんかか・・・?

ま、心筋梗塞って言うのだから・・・暴力団同士の抗争ってことはないよな。葬儀の途中に殴りこみとかかけられたらこわいからな。

などと・・・余計な心配をしていると・・・死体を引き取りに現れたのはあの男だった。

岡部氏の長男で秀喜さんだと坂巻刑事が教えてくれる。俺としては仕方なく営業活動を始めたのだけれど・・・・

「まだ、お宅と取引すると決めたわけではない」と冷たくあしらわれてしまう。

まだまだ未熟な俺は言葉を失ってしまうのだが・・・そこへさらに岡部氏の次男である剛志さん(小市小市慢太郎)が現れる。しかも、なんと「セレモニーホール太陽」の一之瀬を連れて来た。

どうやら・・・一之瀬と岡部組とは因縁浅からぬ仲らしい。

まあ・・・ここで俺はサラリーマン時代を思い出し・・・どうやら・・・岡部兄弟には経営方針の対立があるらしいことにピンとくる。兄はビジネスライクで合理的な経営を目指し、弟は人情厚い良心的な経営を目指している・・・そういう差はきっと隠された二人の関係に原因があるのだろうな。

弟の剛志さんは一之瀬に葬儀をまかせようとするが、兄の秀喜さんは「見積もりを出してもらい・・・経済的な方に決める」と言いだすのだった。ありがたいことだ。まあ、親の葬式の費用をケチるなんてと眉をひそめる人もいるかもしれないが・・・入札競争に参加できることは弱小葬儀社にとって少なくともチャンスだもんね。

俺は・・・秀喜さんに少し好意を持ちました。

妹の晴香がギリギリの算出をして・・・岡部組社長の葬儀は見事に葬儀の井原屋が落札に成功する。

「ウチの方が経験豊富なのに・・・」と一之瀬は歯ぎしりをして悔しがっていた。なんだか申し訳ありません。しかし、妹思いの兄としては複雑な気持ちがあって、ちょっと嬉しくもあるのだった。

ところが・・・従業員の田中さん(大友康平)を連れて葬儀の打ち合わせをするうちに・・・秀喜さんは意外なことを言いだすのである。

「葬儀委員長は弟にしてほしい・・・遺言状はないけれど・・・きっと父はそう望んでいると思うから・・・」

おやおや・・・一体、この兄弟はどうなっているんだ。

そこで・・・商店街の情報屋である花屋の夕子さんと弁当屋の弥生さんの出番である。

長男の秀喜さんは・・・母親の連れ子であり、実子ではないのだった。つまり、次男の剛志さんとは異父兄弟なのである。

俺と兄貴の健人とは異母兄弟で・・・事情はちがうけれど・・・ふつうの兄弟にはない・・・複雑な気持ちが・・・岡部兄弟にあることは充分に想像がついた。

その頃、坂巻刑事は手柄を求める気持ちが強かったのか・・・岡部氏の高額な保険金にひっかかっていた。総額一億円・・・事件性はないと判断していたくせに・・・どうやら・・・誰かが岡部氏を川に突き落としたのではないかと疑いだしたみたい。

それよりも・・・資金繰りに困っていた岡部社長が覚悟の上の入水自殺をした可能性の方が高いと俺は思うけれどね。

だってあの時・・・岡部氏は「俺の保険金をあてにしてもいい」と言ってたものな。

ところが・・・秀喜さんは「あの日は風邪気味で自宅で寝ていた」と言い、アリバイ(不在証明)が成立しないのである。

さらに・・・秀喜さんが遺言状の存在を隠していたことも問題になってしまった。

疑惑の眼が秀喜さんに注がれる中、開封される遺言状・・・しかし、それは白紙だったのだ。

俺は弟の剛志さんに話を聞いてみた。なにしろ、俺も弟だからな。

「確かに半分しか・・・血を分けてませんけど・・・兄は私に優しかったと思います。父と兄とは血縁がないわけですが・・・父は私が生まれた時に庭に二本の木を植えて・・・兄弟の木だとか・・・言って・・・私と同じように兄を可愛がっていた気がします・・・まあ、実の子供である私が言うのもなんなのですが・・・実の子供以上に愛さなければならない・・・と思っていたのかもしれません・・・子供の頃、父と兄は文通していましてね・・・それをタイムカプセルに入れて兄弟の木の根元に埋めたなんてことを子供の頃に聞いたことかあって・・・ちょっとうらやましく感じたものです」

俺の中で死者の無念がむくりと頭をもちあげたようだった。

ご遺体に事件性の疑惑がもちあがり、葬儀の日程も定まらない夜。

ついに弟の隼人(知念侑李)についていた嘘「隠し財産の一件」がただならぬ恋をしているためかいつも機嫌の悪い妹の桃子(大野いと)によってばらされてしまった。

「だましたな」

「お前だって店の金持ち出したりして」

「うるさい・・・金が必要なんだからしょうがないだろ」

「なんだと・・・」

で、今回は俺と隼人がとっくみあいをして晴香に水をぶっかけられることに・・・。

やはり水もしたたるサービスは俺がした方がいいという判断なのか。

で、いかにも幽界からおでましの岩田さん(山崎努)が登場だ。

「そろそろ・・・首をつっこんじゃえば」

「惜しまず・・・ですか」

「惜しまず・・・だよ」

・・・というわけで・・・俺は秀喜さんと対峙した。

「お父様、言ってましたよね・・・葬式は出してくれって・・・」

「それがどうした・・・何にも知らないくせに・・・」

「最近・・・岡部組は・・・大きな仕事を受注してますよね・・・」

「何?」

「葬儀屋の耳は地獄耳なんですよ・・・」

「・・・」

「お父様とは・・・岡部組の経営方針をめぐって口論になってましたよね。いざとなったら・・・家を手放してもいいっておっしゃってました」

「いや・・・だから」

「それに対してあなたは反対だった・・・」

「それは・・・」

「お父様や、弟さん・・・それにお母様・・・家族の思い出のつまった家にこだわりがあったんでしょう・・・」

「一体、あんたは何が言いたいんだ・・・」

「それは・・・遺言状が白紙だったことの意味ですよ・・・」

「意味だって?」

「お父様は生前に・・・あなたのやり方に反対だった・・・きっと何か強引なことをなさったんでしょう・・・会社のためにちょっとした取引先との裏取引とか・・・だから・・・お父様は遺言状にあなたのやりたいようにはさせないと書いたと言った・・・」

「しかし」

「そうです・・・遺言状は白紙でした・・・つまり・・・それでも大切なことがあなたに伝わると信じたわけです・・・」

「白紙でかよっ」

「もっと言えば・・・あなたにすべてをまかせるってことでしょう」

「そうか・・・ふはは・・・そういうことか・・・おやじ・・・おやじーっ・・・・」

俺は号泣する秀喜さんを残して葬儀の準備にとりかかった。

そして、秀喜さんは関係者を集めて罪の告白をしたのだった。

「血のつながらない親子だったけど・・・父には優しくしてもらった。幼い俺に父は真っ白い便箋をくれて・・・文通しようって言ったんだ。俺は父に手紙を書いた・・・父は俺に返事をくれた。何通も何通も・・・俺たちは文通親子だったんだ。遺言状が白紙だった時・・・俺はすべてがゼロになったような気がしたけど・・・父はきっと・・・また一から始めようって言いたかったんだな・・・と葬儀屋さんに言われて気がついた・・・だから、俺は自首します。あの夜・・・俺は不正入札のために・・・役人を接待して・・・裏金を渡していたのです」

お茶の間を含めて一同、驚愕である。

「兄さん・・・それは告白しなくてもよかったのでは・・・」

「ウチの事案じゃないけれど・・・事情聴取するしかないなあ・・・入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律違反かしら・・・いや、単に贈賄罪か・・・立件するの大変そう・・・収賄側は絶対否定するし・・・」

やがて・・・事情聴取の間を縫って・・・父親の葬儀にやってきた秀喜さんを剛志さんや岡部組の組員一同は温かく迎えるのだった。

「兄貴・・・やはり・・・組は兄貴がいないともたないよ・・・兄貴、俺、兄貴が戻ってくる日をずっと待ってるよ」

「お勤め御苦労さまです」

「組長」

「組長ーーーっ」

「お、お前たち・・・」

と、とにかく・・・岡部氏の遺言の真意は・・・秀喜さんになんとか伝わったようで・・・俺としてもホッとしたんだ。

血がつながっていようといまいと・・・兄弟の契りは固いんじゃないのかな。

兄貴・・・俺も兄貴に逢いたいよ。

そして・・・血まみれになって帰宅する弟とか・・・とんでもない恋愛をしている妹とか・・・どっちか担当してもらいたい。

悲しい白い冬には兄貴の温もりが恋しい俺でした。

関連するキッドのブログ→『第三話のレビュー

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2012年2月 2日 (木)

ドリアンで(桜庭ななみ)リディアンで(倉科カナ)フリジアンで(野波麻帆)エオリアンで(杉本有美)

谷間の風がモーダル・ハーモニーを奏でるのである。

1994年の芥川賞作家の作品の初ドラマ化である。

教養あふれる辺境のミステリーという趣で・・・芥川賞の彷徨いを感じることのできるテレビ・ドラマなんだな。

しかし・・・キッド的には桜庭ななみ(19)、倉科カナ(24)、竹富聖花(16)、河北麻友子(20)、藤村聖子(20)、杉本有美(22)、さらにはゲストに野波麻帆(31)を加えて・・・これが女子高の話なら「なんちゃって高校生大集合」的な展開に持ち込めるのに・・・女子大生だから・・・普通だ・・・と思うしかないわけだ。

だが・・・「熟女中心」に展開する・・・今季の女優選択の波に寄せ集められちゃったヒロイン候補生たちの粒よりさに・・・思わずニヤニヤ~ゴクリなのである。

いい、すごくいい・・・このメンバーのいる大学なら・・・もう一度、再入学してもいい・・と妄想できるのである。

しかし・・・女子大だからそれは不可能なのだ。いや・・・女装という手もあるぞ・・・もういいか。

ま、ドラマのタイトルがタイトルだから・・・「妄想」という伝家の宝刀も使いにくいわけだが・・・。

で、『妄想捜査〜桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活・第2回』(テレビ朝日20120129PM2315~)脚本・山岡真介、演出・及川拓郎を見た。視聴率が*5.7%→*5.7%と驚愕の固定層をつかんでいるわけだが・・・真夜中過ぎの「家族八景」の*2.0%↘*1.5%に比べたらかなり高視聴率と言えるだろう。まあ、普通のお茶の間に背を向ける番組の方がどうしても愛おしいよね。

主人公のクワコーこと桑潟幸一(佐藤隆太)はたらちね国際女子大学文学部の准教授である。その存在感は希薄で・・・本人としては再就職した機会に自分自身をスタイリッシュなキャラクターへと再構築したいと妄想しているのである。

そのファースト・ステップが・・・大学のミステリー研究会の顧問に就任することだったのだ。

さて・・・そのサークルの部長が・・・木村都与(エリートヤンキー三郎だろうが、ウェルかめだろうが、Motherだろうが、名前をなくした女神だろうが、それでも生きていくだろうが・・・何でも来いの倉科カナである・・・後10年くらい女子大生ができそうだな)で・・・彼女はクワコーこそが世界で一番の名探偵であると確信しているのである。しかも根拠はないのだ。女子大生にはありがちなことだな。

しかし・・・名探偵につきものの助手を演じるのは部員のジンジンこと神野仁美(栞と紙魚子でデビューしてから赤い糸だのふたつのスピカだの恋して悪魔だのななめ右下をさまよう美少女・桜庭ななみである・・・まだ女子高生で通用するのに)で・・・なぜか大学構内でホームレス生活を送る彼女こそが・・・本当は名探偵であるという仕掛けになっている。

つまり・・・クワコーは妄想し、ジンジンに導かれるままに、事件の核心に迫っていくのだった。このコンビネーションがかなりいいのである。この局はかって・・・山田上田のトリック・コンビやタニショー・北川というモップガールな名コンビを生んでいるのだが・・・その後、三匹目の泥鰌を狙ってもう一つだった過去があり・・・そろそろ・・・来るのかもしれない。

まあ・・・事件そのものは・・・暗示的といえば暗示的だが・・・しょうもないといえばしょうもない腐敗した日常の延長線の出来事である。

クワコーがモテキで復活した謎の美女(野波麻帆)から爆弾入りのぬいぐるみを預けられた時から・・・たらちね女子大学では怪事件が続発する。

その事件の裏には謎の怪盗がいて・・・被害者たちはマインド・コントロールを受けて「盗まれたものがどうしても思い出せない」という奇妙な事態なのである。

事件を追ったクワコーとジンジンはまあまあ複雑な大学構内の人間関係と・・・そこそこ恥ずかしい関係者の秘密を暴いていく。

(例)ラクロス部の部長は昔、パンクバンドをやっていた。演じるのはアニメ「空中ブランコ」(2009年)の実写パートでセクシーナース・マユミをやっていた杉本有美である。

(例)ミステリー研究会の部員の押川千恵(藤村聖子)は実は伊賀のくのいちで・・・ポールダンスで脚光をあびたいと願い、真夜中に練習に励んでいる。

(例)ミステリー研究会の部員の早田梨花(竹富聖花)は魔法の国から来た魔法使いで・・・。

ま・・・基本的に深夜アニメが・・・現代の教養を語る上で欠かせないという趣向なので妄想の余地がありません。

そしてついに・・・すべての事件が単なる悪意の連鎖に過ぎないことを主にジンジンが直感力と行動力でつきとめていくのである。

つまり・・・このドラマはななみかわいいよ・・・ななみに尽きるということです。

関連するキッドのブログ→スーパー・ナチュラル・ホラーをあなたに(桜庭ななみ

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2012年2月 1日 (水)

自己防衛のために疲弊した彼の自我を崩壊させる水蜜桃(木南晴夏)

原作的には・・・「澱の呪縛」、「青春賛歌」をとばしての「水蜜桃」である。

深夜にも関わらず・・・七瀬が人類に敵対する萌芽を見せる・・・それは全く、やむを得ずではあるが・・・ある種の人間にとっては七瀬が人類にとっての脅威であると認識せざるを得ない「水蜜桃」を先出ししてくるのは・・・お茶の間へのインパクトにこだわりすぎている気がする。まあ・・・現代の作り手の性であり、基本的には王道なのでとやかく言う気はありません。

また・・・原作では重要な要素となる・・・桐生勝美(田山涼成)が「・・・総合雑誌の、老人問題を特集した記事の中に、年をとる恐怖を歌ったものとして挿入されていた、あるアメリカの詩人が作った詩・・・」から「水蜜桃」を強く連想していく本編の骨子がまたもや脱落している。

これはおそらく・・・原作に対する敬意と・・・現代のお茶の間にはこの「詩」に対する一連の教養が欠落しているだろうという、原作者に殉じた視聴者蔑視の精神の表現だろう。

ちなみに原作では具体的な引用について言及されないが・・・。

おれは年をとって、ふけてきた。

ズボンのすそをまっくてはこう

うしろで髪をわけようか。

桃を食ってみようか。

白いフランネルのズボンをはいて、海岸を歩いてみよう。

おれは人魚がたがいに歌いあうのを聞いた。

人魚たちは、おれに、歌いかけているのではあるまい。

・・・というのはT・S・エリオット『アルフレッド・プルーフロックの恋歌 』の一節である。

原作者はこの頃、30代半ばであり、日本語訳もどことなく中年の気配が漂っている。

しかし、エリオットがこの詩を書いたのは20歳そこそこである。

どちらかといえば次のようなニュアンスになるだろう。

俺は年をとりまくる 

ズボンの裾をめくりまくる

髪は後ろでわけまくる

ぴちぴちのピーチを齧る快感

白のフラノのズボンで歩く海岸

人魚の詩を感じる開眼

だけど人魚は俺をシカトしてんじゃん

ノーベル文学賞受賞詩人のエリオットがこの詩を書いたのはおよそ百年前の1910年である。百年後の今もそれなりにモダンな感じがするのは・・・その後から現代に至るまで改革されていない「意識の流れ」を意識した作風による。

原作はテレパスをヒロインに設定したことにより・・・この「意識の流れ」を強く意識せざるを得なかったわけであるが・・・ドラマ化における脚本・演出はややその点が無意識化してしまっていると考えられる。

だが・・・作品のAV化そのものは・・・原作のイメージより・・・かなり「黒ぐろとした頭髪に示されている若さ」を喪失しているキャストの熱演で充分に成功していると言えるだろう。

ちなみにエリオットの詩の「peach」の部分は橋本治の小説「桃尻娘(ピンク・ヒップ・ガール)」(1977)以後、「尻」と日本語訳されがちなことを補足しておきたい。

で、『家族八景 Nanase,Telepathy Girl's Ballad・第二話・水蜜桃』(TBSテレビ20120201AM0055~)原作・筒井康隆、脚本・佐藤二朗、演出・堤幸彦を見た。前述の通り、ドラマでは七瀬(木南晴夏)が訪れる第二の家庭は桐生家になっている。ちなみに原作では桐生家の長男・竜一(正名僕蔵)は造船会社の資材課長であり、これは「無風地帯」の尾形久国が造船会社の総務部長であることに対応している。七瀬はそうした社会的関係性を頼って家政婦として家を替えながら働いているのである。こういう細かい設定は荒唐無稽な物語にリアリティーを与えるためのテクニックである。ディティールの大切さというものを学ぶべきなのだな。

さて・・・今回の桐生家では「七瀬のテレパシー能力発動」は「心を読まれているものに花が咲くこと」で示される。「読まれた声」の音声は加工されており、それだけでも問題ないわけだが、視覚的な面白さを追求したい気持ちは充分に伝わってくる。もちろん、それが大成功しているかどうかはお茶の間のそれぞれの判断に委ねられるものだ。

原作では・・・桐生家の家長、勝美の年齢は57歳である。演じる田山涼成の実年齢は60歳なので許容範囲だが・・・現代の感覚から言えばやや・・・加齢が激しいと言えるだろう。ざっと1913年(大正2年)生まれである。太平洋戦争終結時に32歳であり・・・戦後の混乱期を牽引してきた世代だが・・・高度成長の終焉する1970年代には社会の変化に対する順応性に欠け・・・昭和ヒトケタ世代やその後に続く団塊の世代に追われる立場となった世代である。そのために・・・勝美は55歳定年制導入という・・・年功序列排除の第一の波によって職を失い・・・人格そのものを否定される憂き目にあっている。

もちろん・・・この年齢は現代でも極めてきわどい年齢と言えるだろう。老人として開き直ることもできず・・・一部のエリートを除いては社会的な地位をはく奪されかねない弱者となっている。

水は高きから低きに流れるという理にそってその圧力は桐生勝美に押し寄せるのである。

長男の竜一の場合・・・定年退職後の父親の姿を≪一日中ぶらぶらしやがって・・・管理職だったのに管理する対象を失ってなんてみじめな姿をさらすのだ・・・自分を管理することもできないのか・・・会社にしか居場所がなかったのか・・・しかし・・・俺もいつか・・・親父のように・・・親父のようにみじめな老後を・・・気が滅入ることだ・・・俺の気が滅入るのも親父がだらしないからだ・・・そんな親父が嫌いだ・・・親父が憎い≫と複雑な感情の果てに憎悪する。

長男竜一の嫁・綾子(佐藤寛子)は・・・≪老後の趣味の一つもなくて・・・なんの生きがいもない・・・だから・・・私をいやらしい目で見る・・・息子の嫁に欲情するしかない・・・敗残者・・・ああ、いやだ、いやだ、いやらしい≫と嫌悪する。

両親に影響された孫の章(池澤巧)は勝美の唯一の心の拠り所であるにもかかわらず「もっと真剣に新しい仕事を捜さなければだめだ」≪もっと真剣に新しい仕事を捜さなければだめだとパパが言ってた≫と汚れなき悪意をリレーする。

次男で高校生の忠二(須賀健太)は≪原作では僕はどっちかといえば俺様キャラなのにこれまでの芸歴から判断されたのか・・・俺様キャラを装うおタクというわけのわからない設定にされて・・・自分でもどう演じていいか判断に迷うよ・・・これが子役時代の終焉ってことなのか・・・いつまでも若く愚か者ではいられないってことなのか・・・いやだいやだ・・・親父のような失業者にはなりたくない≫と八つ当たりをするのである。

二つ年上の妻である照子(千葉雅子)は自分が夫より早く老化することに恐怖を感じていて・・・≪定年になったんだからあきらめればいいのに・・・まだまだ若いつもりでいる・・・私より若いことをこれみよがしにして・・・いい年をしてまだ夜の生活を続けようとして・・・死・・・けがらわしい・・・死がそこまで・・・おそろしい・・・それなのに夫はまだ生き続けるつもりだ・・・私より長く生きるつもりだ・・・ああ、いやだ・・・死・・・いやだ・・・夫より早く死ぬのはいやだ・・・自分で自分をいたわって・・・少しでも長生き・・・嫁にまで馬鹿にされて・・・私をまきこむな・・・死・・・夫は馬鹿にされてもいいが・・・私は馬鹿にされたくない・・・なにしろ私はこの家で一番の年長者・・・死≫と女性特有の「生」への固執から「男としての性欲」だけに偏向したように見える夫を身も心も全面的に拒絶していたのである。

家族からの理不尽な抑圧にさらされながら・・・勝美は常にかっての職場における自分の存在感の追想にひたるのだった。≪俺は・・・できる男だった・・・仕事をして家族を養った・・・まだまだできるのに・・・会社は俺を切り捨てた・・・俺は追い出された・・・俺は無用の存在なのか・・・俺は・・・生ける屍なのか・・・俺はできる・・・俺はしたいのだ・・・俺はあれもこれもまだできるし・・・したいのだ・・・それが悪いことなのか≫・・・しかし、現実は過酷であり・・・勝美は強制された無為の日々の囚人と化していた。それはまさに生き地獄であり・・・勝美の精神は破綻しかかっている。

七瀬が感じたのは一方的に迫害される弱者に対する憐憫であり・・・同情であった。

原作では単なる知的好奇心から抑圧された人間心理の実験台として勝美に興味を持つ七瀬だが・・・ここはより簡単に「弱者に対する保護欲」の発露としてドラマ化されていくのである。

原作のエリオットの詩の件を割愛する代わりに勝美の知的退行・・・現代で言えば一種の欝病的な記憶障害を示す「孫に聞かせる極めてダイジェストされた桃太郎朗読」のシーンの後で・・・七瀬は・・・勝美に水蜜桃を与える。

「家族の皆さんには内緒で旦那様と私でいただいてしまいましょう・・・」

その一言が・・・水蜜桃の「甘く水分の多い果肉を包んだ」イメージと重なり合う。

この瞬間、勝美の内部で七瀬は一個の水蜜桃と化したのである。

≪この若々しい家政婦にむしゃぶりついて・・・俺はなすべきことをする・・・俺がするべきこと・・・俺が喜び他の誰かも喜ぶこと・・・俺が桃を食べる喜び・・・桃が俺に食べられる喜び・・・そうか・・・仕事だ・・・これが俺の仕事だ・・・俺がするべき仕事だ≫

七瀬は虎の尾を踏んだのである。処女喪失の恐怖に七瀬は身ぶるいする。

同情すべき老人は一転して危険な強姦者に変化したのだった。

そして・・・その危機は・・・老夫婦を残して他の家族が旅行に出かけたことによって一挙に現実のものとなる。

ここで七瀬の入浴シーンが挿入される。ガラス戸に男の影はつげ義春的表現だが・・・「モテキ」の大野仁の演出の方がちょっと美的だったな。がんばれ、堤幸彦。

≪自分の身は自分で守らなければ・・・≫と七瀬は寝室のドアを板で固定するが・・・憂鬱の後に憤怒を色欲に返還させた勝美はただならぬパワーを発揮し、一撃でドアを破壊しパジャマ姿の七瀬に屹立した男根を開示するのであった。

≪水蜜桃だ・・・俺の水蜜桃・・・俺の甘い果実≫

咄嗟に七瀬は・・・彼の壊れかかった心を完全に破壊することを決断する。

それは非現実的な自分自身の能力で・・・勝美の現実認識と辛うじて残っている理性を粉砕するというもくろみだった。危険な賭けだったが・・・非力な乙女である七瀬に他の選択の余地はなかったのである。

「私はあなたの水蜜桃じゃないわ」

≪なんだと・・・俺の俺の心が読まれた・・・こいつはさとるの化け物か≫

七瀬は伝承として伝わる心を読む妖怪「さとる」が勝美の心の中で根源的な恐怖のコンプレックスを形成していることを瞬時で読み解く。

「そうよ・・・私はさとるの化け物よ」

≪ひゃあ、こわい、こわいよ、化け物だよ、おばあちゃん、化け物が出たよ・・・心が読まれてしまうよ・・・考えるな・・・考えちゃだめだ・・・何も考えるな≫

「無駄よ・・・何も考えないなんて人間にはできないのよ」

≪うわあ・・・すべてわかってしまうのか・・・では俺が嫁に対して思っている邪な心も≫

「もちろんよ、あなたが・・・若奥様を何度も何度も心の中で犯していることもお見通しよ」

≪ちがう、ちがうんだ、あれは照子が、アレをさせてくれないから≫

「ずるいことを言ってはだめよ・・・奥様のせいにしたりしても・・・あなたの罪は消えない・・・あなたは罰を受けるのょ。恐ろしい罰を受けるの」

≪いやだ・・・やめて・・・助けて・・・おばあちゃん・・・助けて≫

根源的な恐怖がついに勝美の自我を崩壊させた。

≪闇・・・光・・・地獄・・・あ・・・ドロだ・・・痛みだ・・・串刺しだ・・・ぎゅぅぅぅぅぅぅぅん≫

勝美は発狂した。勝美の意識はからっぽになっていた。心が空白になり、そこに無意識内の怪奇なガラクタが一気に噴出した

狂気が津波のように七瀬の心に押し寄せる寸前、七瀬は心の掛け金を下した。

「あははは・・・うふふふ・・・えへへへ」

勝美はすでに人間の残骸と化し・・・うつろな笑いを響かせていた。

そこへ・・・妻の照子が騒ぎを聞きつけやってくる。

「何・・・どうしたの・・・」

「あ・・・奥様・・・旦那様が・・・」

照子は一瞬にして状況を把握した。

≪まあ・・・呆けたんだわ・・・私より若いくせに痴呆に・・・あはは・・・痴呆になっちゃった≫

七瀬は照子の心に浮かぶ歓喜をいぶかしんだ。

そんな七瀬の戸惑いにはまったく気付かず・・・照子は年下の夫が先に痴呆化したことに優越感を感じ勝利の愉悦にひたるのだった。

こうして・・・予期せぬ成り行きにより、七瀬は初めて人類に敵対したのである。

暗い階段から暗い廊下へ、暗い部屋から暗い部屋へ、狂った勝美の笑いが暗い家の中へ浸透していった。

そして桃太郎は亀と一緒に竜宮城に行く途中溺れましたとさ。

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