戦死者が死んでいる(松本潤)
元ネタはエド・マクベインの87分署シリーズ・第14作「クレアが死んでいる」(1961年)である。
探偵ではなく警察小説であるが・・・第1作の「警官嫌い」が1956年であるから・・・第56作の「最後の旋律」(2005年)までおよそ・・・半世紀続いていたことになる。・・・エド・マクベインは2005年に逝去している。
しかし、今回の話のポイントとなる太平洋戦争終結は昭和20年(1945年)でそれより昔なのだ。なんといっても今年は戦後67年なのである。
ちなみに依頼者の老婦人を演じる水野久美は実年齢75歳で終戦の時には7歳でした。
まあ・・・若く見える老婦人ということにしてだ。遺影の相手と将来を誓うとなるとやはり16歳が最低限であると考えてマリアナ沖海戦が1944年なので前年に最後の別れをしたとして終戦時に18歳。現在85歳の老婦人となる。まあ、いろいろな意味でギリギリだな。
単純に「幽霊譚」なら・・・どうせジュブナイルと考えて、キャロリン・キーンの『少女探偵ナンシー』シリーズから老婦人がらみの「幽霊屋敷の謎」でもよかったが・・・「幽霊屋敷の謎はどうなっちゃったのでしょう?」とかね。
しかし・・・まあ、大泉洋回だったし、結局、シリアスだったわけだから・・・「おなじみの登場人物が突然死ぬ」の元祖である「クレアが死んでいる」に落ち着きました。クレアというのは87分署の刑事の一人、クリングの愛しい恋人で・・・銃乱射事件の被害者なのである。
まあ・・・ドラマの方はキワモノクラスのメルヘンで・・・お若い方にはまさにちんぷんかんぷんなんじゃ・・・。
で、『ラッキーセブン・第7回』(フジテレビ20120227PM9~)脚本・宇田学、演出・成田岳を見た。脚本・演出は「TOKYO コントロール」(2011年フジテレビNEXT)と同じである。これは東京航空交通管制部を舞台にしたサスペンスだった。空港の遺失物取扱所(Lost and found)に美人(中越典子)捜索官がいるという発想は素晴らしいと思う。しかし、ふってわいたお見合いの件といい、違和感ありまくりでしたな。中越典子は「必殺仕事人」と「サラリーマンNEO」以外にはろくでもないキャスティングで意味不明のことが多いのだが、今回もギリギリでしたな。
まあ、所轄の北品川署の刑事である桐原警部補(吹石一恵)が要人警護のために空港の下見にくるというのは・・・完全に意味不明である。
まったくふりむいてくれない相手(吹石)より、食事に付き合ってくれる相手(中越)を選ぶべき・・・という「月9」的アドバイスかよ・・・腐っても探偵ミステリーじゃないのかよっ。
ラッキー探偵社に老婦人(水野久美)が現れ、夜な夜な訪れる恋人の幽霊についての捜索が依頼される。相手が超常現象の場合は心霊探偵に頼んでもらいたい・・・と依頼を拒絶するラッキー探偵社。
相変わらずほとんど、業務をしていないように見える探偵たちである。とりあえず、着手金の相談ぐらいしろよ・・・とテレビに向かって灰皿を投げ付けそうになりますな。
そして・・・旭(大泉洋)はお見合いに出発。興味津々で尾行する駿太郎(松本潤)と飛鳥(仲里依紗)である。
相手は遺失物取扱所にお勤めの自称探偵(中越)である。
「忘れ物を捜すって素晴らしいことだと思うんです」と自分の職業を誇らしげに語る彼女に対し、旭は「弁護士です」などと身分詐称をするのである。立派な犯罪である。
そこで、駿太郎はちゃちゃをいれて、お見合いデートをぶちこわす。
「そんなにウソから入ったらダメだろう・・・相手にピンときたら・・・真心こめてアタックしなきや・・・」恋愛については百戦錬磨の駿太郎は旭を教え諭すのだった。
前回の非礼をわび、再び・・・彼女とデートした旭は「忘れ物は・・・単なるもの・・・じゃないと思うんです・・・どうしても失いたくない思いそのものだと思うんですよ。私はその思いに答えるのが自分の仕事だと思います。人間は大切なものでもうっかり忘れる生き物ですからね」
彼女のロマンあふれる職業意識に刺激され・・・旭は切り捨てた老婦人の依頼を拾いに行くのであった。
一人暮らしの老婦人は身の上を語る。
「将来を誓い合った人がいたんです・・・しかし、その人は大東亜戦争でお国のために戦死したと知らせが届きました。でも・・・あの頃は戦死したはずの人が九死に一生を得たり、敵国の捕虜になっていたりして・・・ひょっこり帰ってくるなんてこともあったんですよ。私はどうしてもあの人が死んだと信じられなくて・・・気がついたら67年たっていたんです」
「ロマンチストだなあ・・・」
その夜、寝ずの番をしていた旭の前に戦死した「彼」が現れる。
「彼女は・・・もしも、私をあきらめて他のものに嫁ぎ・・・私がひょっこり帰ってきたらどうしようとそればかりを考えて・・・戦後ずっと操を守り続けてきたんです。こんなことなら・・・別れの日に・・・やることをやっておけばよかった・・・」
「じゃあ・・・おばあちゃんは・・・処女なの」
「ロマンチストでしょう・・・」
旭はこのロマンにオチをつけなければならない自分を幽かに哀しく思う。
一方、暖かい家族に恵まれた駿太郎は急に老婦人のことが気になりだして・・・旭の次に老婦人の家庭訪問を行う。そして・・・処方された薬から病院を割り出すと、院内に潜入。守秘義務の壁を乗り越えて、老婦人が悪性腫瘍に犯されていることを知るのである。
旭と駿太郎はお互いの情報を交換する。
「おばあちゃん・・・死ぬ気なんだぜ」
「まあ、それも運命かもしれないが・・・このままじゃ、寝ざめが悪いよな」
「なんか・・・証拠が欲しいんじゃないのかな・・・許嫁が死んだ証拠が・・・」
「そんなもん・・・あるのかな」
「それを捜すのが探偵の仕事でしょう」
「いや・・・それはかなり違うと思うぞ・・・でも俺が依頼人代理になって・・・一応捜してみるか・・・なんていうか、ボランティア精神だな」
「もうまったくビジネスじゃないですよね」
しかし・・・とにかく暇なのである。ラッキー探偵社は全力をあげて・・・老婦人の許嫁の消息捜査を開始するのであつた。
ミッドウェイ海戦の大敗北以来、苦境に陥った帝国海軍は防衛線を縮小しつつ、起死回生の祈りを捧げ、マリアナ沖海戦に挑む。
空母部隊を集結させ、敵の空母を撃滅する作戦である。
時に1944年6月19日。しかし、すでに日本軍の暗号解読に成功していた米国海軍は待ち伏せ作戦を決行。後にマリアナの七面鳥打ちと呼ばれるほど帝国海軍の空母航空隊に壊滅的打撃を与えるのである。
やがて、航空機を失って無力化した帝国海軍の空母に米国海軍が襲いかかる。
最初に米潜水艦の雷撃により空母「翔鶴」が沈没。続いて、雷撃によって損傷した艦内に気化した航空燃料が充満した空母「大鳳」が大爆発、炎上、沈没する。
敗北を悟り退避を開始した帝国海軍だが、米国海軍は追撃の手を緩めず翌日の6月20日に空母「飛鷹」が敵艦載機の猛襲を受け炎上。乗組員は退艦し「飛鷹」もまた太平洋の藻屑と消えたのだった。
探偵たちはデータベースを探り、生存者による戦友会を訪ね・・・やがて・・・老婦人の許嫁の遺族が和歌山県に生存していることをつきとめる。
探偵たちが手にしたのは・・・戦死者に授与される旭日章(今更ですが妄想のために再現性は低く設定されています)であった。
事情を聴いた許嫁の甥は・・・形見の品を贈与してくれたのだった。
探偵は老婦人を呼び出した。
「優しくしてくれたお礼に・・・」と老婦人は多額の入金がある預金通帳を渡す。
老婦人はどうやら資産家だったらしい。
「こんなものもらえない」といいつつ、旭は一度はポケットに通帳をしまうのだった。
「あなたが・・・恋人がもう・・・この世にいないことを信じられる証拠になるかどうかは・・・わからないが・・・事情を話したら彼の身内の方が・・・これをあなたに・・・って」
旭は旭日章を渡す。
勲八等白色桐葉章
内藤一喜一等機関兵
老婦人は勲章に記されたその名に・・・ようやく・・・彼が去ったことを受け入れる気になるのだった。
駿太郎は「彼からもらった浅草寺のお守り・・・空襲でもえちゃったんだってね・・・これ、あげるから・・・機嫌なおしてよ」と新しいお守りをプレゼントするのだった。
旭は通帳を渡す。「これで遺された人生を有意義に送ってみたらどうだろう・・・すごくいい、老人ホームに入るとか・・・素敵な出会いが待っているかもしれませんぜ」
駿太郎「そうそう・・・おばあちゃんは・・・美人だもん・・・なんてったって和製フランソワーズ・アルヌール(フランスの美人女優)・・・怪獣大戦争のX星人に萌えた人もたくさんいるんだよお」
二人の若い男に囲まれて・・・老婦人は微笑んだ。
そして、はるか、太平洋の海底では白骨化したご遺体から最後の吐息のように水泡が漏れたのだった。
こうして二人の恋は終わったのである。
今も昔も、帰らぬ人々を待つ人々はいるだろう。・・・黙祷。
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