気配を読んで気配り、専業主婦は水商売なんじゃなあい?(松岡昌宏)
「気」というのは便利な言葉で、すべてを説明できるし、何も説明しなかったりする。
「空気」を読むというのは要するに「気」の問題なのである。
天の気を読めば天気予報だし、毒気をぬけば人畜無害である。
で、「気」を制するものは世界を制するのだな。
「気が多い」というのはそれだけ「気を分散化する能力が高い」ということである。
コンビニの接客一つにしろ、恋愛対象になる異性以外にはまったく気がない人は気が効かない人と言える。
そういう意味で若い時に気が多いのは実にすばらしいことなのである。
しかし、気は散るもので・・・ひとつのことに集中できない・・・根気の続かない人もだめなのである。
結局、気はたくさん、長く、太く、強く、美しく持つべきものなのだな。
もちろん、そういう気を得るためには修練を積むしかないのだ。
しかし、人間には個性があるので・・・そこそこ気の内容にも差異がある。
自己の気の使い方を見つめ、得意とする気・・・つまり本気を確かめることも大切なのだ。
あなたの気は何でしょう。呑気? 強気? 元気? 狂気?・・・それとも空気?
で、『13歳のハローワーク・第6回』(20120217PM1115~テレビ朝日)原作・村上龍、脚本・内平未央、演出・梶山貴弘を見た。第10回テレビ朝日新人シナリオ大賞(2010年)で惜しいところまで行った人らしい。つまり、これはデビュー作なのであろう。まあ、初々しいよね。前回はちょっと楽屋落ち要素が鼻についたが・・・帝国一色のバラエティー・ショーで罰ゲームの炭酸ガスを浴びて「オレのトサカがどうにかなったらどうすんだ」と若干意味不明なリアクションをとっていた松岡くんの持ちネタ「夜王」がらみなのに・・・一生懸命ネタを集めましたという健気さが伝わってきた。もちろん・・・情報としてはやや浅めだけどこのドラマのテイストとしては充分なのだろう。
さて、今回は少しだけこのドラマの要素を分析しておく。
分析にはいろいろなやり方があるが・・・フィールド形式でやってみたい。つまり「場」である。
もちろん、様々な場があるわけだが・・・。
基本になるのは①「2012年の警視庁芝浦署」である。ここには「正面玄関」とか、「生活安全課」とか「階段」とか「トイレ」とかがあるわけだが・・・これを含め、さらに各回の時間の扉のある場所も「2012年のフィールド」と呼称しておく。ただし、「怪しいハローワーク」だけは別のフィールドと考えておく。とにかく、2012年のフィールドでは高野(古田新太)は警視庁捜査一課の管理官となっている。小暮(松岡昌宏)は生活安全課の刑事である。そして、今のところ・・・真野翔子(桐谷美玲)は所在も生死も不明である。このドラマの究極の謎と言える。ここには今回、登場しなかった不良少女の仁科佳奈(沢木ルカ)も所属しているのだ。
次に②として「1990年の翔子のアパート」がある。ここでは高野(横山裕)は東大卒の就職浪人である。過去にタイム・スリップした小暮とともに成り行きで真野翔子の部屋の押し入れに同居しているわけだ。まあ、ものすごい設定である。もちろん、若い男女が一つ屋根の下で暮らしているわけで・・・何もないわけはないのであるが・・・ここでは翔子が高野を好きになってしまい、高野もなんとなく察しているという展開になっている。徹底的に三枚目として設定されている小暮はやや翔子の気持ちを誤解したりするが・・・これは過去から現代を貫く小暮の「認識の甘さ・・・配慮不足・・・空気が読めない男」を象徴しているわけである。
さらに③として「1990年の東進学塾」がある。ここには「教室」や経営者の唄子(風吹ジュン)や秘書のような酒井(光石研)のいる「社長室」、アルバイトで講師をしている翔子も使う職員室がある。「教室」には小暮の過去の存在である鉄平(田中偉登)がいる。もちろん、「学校」もこのフィールドに含まれるが人数を絞り込むために「塾設定」を大いに利用しているわけである。生徒たちがいたりいなかったりしても塾だからで済むわけだ。ここでは、未来から来た小暮と過去の鉄平が共に翔子に関わっている。つまり・・・高野色の薄いフィールドなのである。同時に実は小暮が未来でなすべきこと・・・青少年の安全を守り、改善を指導する立場を知らず知らずに実践しているのである。青少年に与える自分の一言がいかに大切かを小暮が学んでいるのだが・・・本人が全く気が付いていないところがポイントである。
そして、④として「1990年の職場」がある。ここでは高野と小暮が毎回、様々な仕事を短期間、体験するわけである。そこには過去の鉄平がからむことはあるが、翔子色は薄められている。ただし、翔子と鉄平には教室や職員室という濃いコミュニケーションのフィールドがあるのに対し、高野と鉄平はやや疎遠になっている。この辺りは・・・未来の高野が小暮を鉄平の未来形としてあまり認識しない設定であり、あるいは今後、なにか高野に対して決定的なことを鉄平がする可能性を含んでいる。基本的に・・・過去の改変によって鉄平から続く小暮の認識も改変されているわけだが、このドラマではその点はあまり深く考えていないようだ。同様に鉄平と翔子が深くかかわっているのに未来に翔子が登場しないこともこのドラマの核心の一つであるわけだ。
最後に⑤として「怪しいハローワーク」とドラマの「オチ」になっている「改変されたかもしれない2012年」がある。しかし、今回の例でもわかるように本当に改変されたのかどうかは不明だ。確かに登場人物たちは過去で小暮の言った言葉を口にするのだが・・・改変前が描かれない以上・・・本来そうだったという見方もできるのである。
ただし、「消えた漫画家」のように改変前には存在した漫画家が消えていた例もある。しかし、その場合は改変後の鉄平の記憶を改編後の小暮が受け継いでいないという根本的な矛盾が生じることは言うまでもない。この辺りの時間改変もののねばっこいところは・・・まあ、スルーするのだろう。
まあ、フィールドとしての分析は以上である。
今回は③と④が分離しているシナリオだったが・・・「商売の基本は気配り」であるといセオリーを小暮がつなぐことでなんとか成立しているわけである。
また・・・ホストたちが風のように消えてしまうというのも女流ならではの冷たさと言えるだろう。また・・・容赦のないホスト業の美化は帝国的配慮と言わざるを得ない。
さて・・・ドラマ「鈴木先生」のやりまくり中学生・彩香を演じた13歳の小野花梨がまたもや独特の雰囲気でメガネでぽっちゃりの里奈を怪演である。一体、どんな女優に育つのか見ものだな・・・。
なにしろ、そのオーラによって・・・翔子の恋心に火がついてしまうのだ。それを演じるのはなかなかに只者ではない気がする。
まあ、もやもやする翔子とお坊っちゃまなチンピラ・高野の恋の行方はなかなかにときめきます。
高野に食べさせたかったチョコレートを小暮に食べられてしまった翔子の憤怒の顔はキュートでしたな。
さらには一応、美少女枠の真帆(山本舞香)は里奈に感化されて・・・社会に出ない女性になってしまうのである。
まあ・・・今でも専業主婦の幻影に惑う女性は多いわけである。
バリバリのキャリア・ウーマンはバリバリのハウス・キーパーでもある。これは鉄則ですからな。まあ・・・要するにそんなスーパーウーマンは滅多にいないということです。
国家の陰謀で共働きが常識となった時代・・・優しい専業主婦のお母さんにあこがれた女の子たちの魂は虚空をさまようしかないのですねえ。
だから・・・エリートな専業主婦となった真帆(吉田洋)の空虚な言動よりも銀座の高級クラブのママになった里奈(安藤玉恵)の言動の方が同じ不気味さでもリアルな感じがするわけです。
もちろん・・・今回のオチをハッピーエンドではなく・・・ブラック・ユーモアが漂っていると見た場合ですけれど。
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